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しおりを挟むいつもと変わらない歓声に夏樹は片手を少しあげると一瞬にして静まり返った。
勇人はこんなことができる夏樹に驚いた。
全ての視線を独占して堂々とした態度はまるでどこかの王様のようだ。
「始業式を始める前に、みんなに報告することがある。既に知っているとは思うが、弟が見つかった。ここにいる勇人がそうだ。」
前に向けていた視線をこちらに向けて何か言いたげだ。
まさかと思うが、それって何か言えってこと?
いやでも・・そんなの何も聞いてないし・・・
マイクを押しつけ頑張れよと耳元で言ってたけど、一体何を言えと・・・?
ここで、変なことを言えば幸村らしくないと言われかねない。
みんながみんな好意的ではないことは分かっているつもりだ。
『頑張れっ勇人』
口パクで夏樹がそう言っているのがはっきりわかる。
失敗したあの記者会見を思い出して息を呑んだ。
深呼吸して、マイクを口元に持って行く。
「・・えーっと、弟の幸村勇人です。本日付けで風紀委員から生徒会補佐に就任しました。よろしくお願いいたします」
戸惑う頭の中で色々考えたが一番無難な挨拶にしておいた。けなされることもなければ褒められることもないだろう。
うんうん・・無難が一番いい。
ホッとしたところで・・・
「「「「キャアアアアア―――っ!!!」」」」
さっきと変わらない歓声が轟いた。
「「「勇人さまあああ―――っ!!」」」
顔を赤くして叫ぶ姿が、どこかのアイドルのファンと重なって見えた。
まさか、あれってオレに向けているのか?
動揺している勇人を見て夏樹は笑いを堪えた。
勇人は成績の容姿もいい。それだけでも人目を引くのに幸村家の人間だと知られて益々注目されることになった。
それはいいことだけでなく、厄介ごとにも巻き込まれることを覚悟しなくてはいけない。
勇人を生徒会入りさせたのは夏樹の我儘とかではなく身の安全の確保が重要だった。
顔を赤くして照れている勇人からマイクを戻された時、キッと睨まれたがそれが可愛くてキュンとした。
「かわいい・・」
「・・・?」
幸い小さな声だったので勇人に気づかれることはなかったが、近くにいた早瀬はしっかりと見てしまい顔を引きつらせた。
まさか会長も勇人を?いや、弟だしそれはないですね・・うん、うん・・
早瀬のそんな葛藤にきづくことなく、夏樹そ視線は勇人にくぎ付けとなった。
晴広も重度のブラコンだが、夏樹もまたこの時勇人に魅せられブラコンと化した。
だからついつい、余計なことを口走る。
「いいか、オレの弟に手を出すなよ。もし、手を出したら・・言わなくてもわかっているな」
悪魔のような笑みを浮かべて警告する生徒会長にほんわかしていた生徒たちが声にない悲鳴をあげる。
あれって、手出しをしたら報復するってことだよな・・・
己の未来を予想した彼らは身震いして、全力で首を縦にふった。
誰だって我が身はかわいい。
だが、この行為は職権乱用ではないだろうか?
そう誰もが思ったが、決して口にすることはなかったらしい・・・・・・・
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