上 下
81 / 87

暗躍3

しおりを挟む




暗闇の中影が走る。それは一つ二つと段々と増えていく。

「・・解除」

正門から外れた柵に小さな結界の穴を空けるとその中に吸い込まれるように消えていく。
黒い衣装に身をまとい手には杖を持つ者や剣を握る者が屋敷の一部屋に視線を集中させていた。

『あそこか‥』

リーダーらしい者は目で合図を送るとその者は頷いて魔法をかけた。

「消音・・」

小さな声が暗闇に響く。

『声が大きいぞ』
『すみません、ですがこれ以上小さくは出来ません』
『・・まあ、いい。行くぞ』
『はいっ!』

一人を見張り残して標的の部屋のバルコニーに飛び移った。


『ガシャン!』

本来なら派手に鳴る音が消音魔法の効果で砕けたガラスが床に音もなく落ちていく。

先に踏み入れたのはリーダーの男だ。ガタイがよく手に握る剣も大きくて切れ味がよさそうだ。

『暗視・・』

暗闇でも見ることが出来る暗視魔法でゆっくりと標的のベッドに近づいていくと、幼い王子の顔を確認してから手下を呼び寄せる。

『いたぞ!』

気づかれないようにベッドに近寄り王子の顔を拝見する。

『ふ~ん、これが王子ですか?』
『おおっ、かわいい』
『お頭、こいつ殺すんですか?』
『いや、捕まえて連れてこいっていう依頼だ』
『・・監禁でもするんですかね』
『さあ、どうだろうな・・』
『すげえ、美人ですぜ。オレなら囲って玩具にするけどなあ~』
『オレなら、毎晩抱いて飽きたら売るかな』

王子の顔に魅せられた連中は、自分の物のように王子のあれこれについて話し合い始めた。

『お頭ならどうしやす?』
『・・・』
『お頭・・・?』
『あれ、お頭は・・?』
『さっきまで、そこにいたのに・・?』

リーダーが消えたことで暗視魔法が解除され暗闇となる。

「おい、どうなってんだ?」
「痛って・・」

かたまっていたことで身動きしづらく折り重なるように床に倒れこんだ。

「どわっ!」
「おい、早く退けっ!」
「うるせー、気づかれるだろ・・う?おい、消音魔法が切れてるぞ。早くかけ直せ」

一人が消音魔法が解除されていることに気付いて命令するが杖を持った仲間の声がしない。

「おい、早く消音魔法をっ!」
「・・・・」
「お頭、どこにいるんですか?」
「・・・・・」

リーダーの声も杖を持った仲間の声もしなくなって男たちが焦り始める。
そこに運よく割れた窓から月明かりが差し込み周りを確認することができた。

「二人ともどこに行ったんだよ?」
「知らねえよっ!でもこれってヤバいだろ」
「・・逃げた方がいいんじゃねえのか」
「でも、お頭がいねえと・・」
「だけどよう、依頼を失敗するとオレたちの命も危ういぞ!」

お互いの顔を見合わせ、覚悟を決めたのか腹をくくったようだ

「仕方ねえ、オレたちだけで王子を連れて行くぞ」

立ち上がり王子を抱き上げると窓から飛び出していった。



男たちが王子を連れ出してしばらくして―――・・

「探知・・・」
「いたか・・?」
「ああ、思ったとおり真直ぐ国境に向かっている」
「幻影はどれくらいもつんだ?」
「そうだな、二日ってとこかな?」
「ほう・・それくらいもてば十分だ・・」

「行くぞ!」
「ああ――奴にお仕置きしねえとなあ・・」

男たちの後を追い二人の姿も闇に消えていった。


しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

公爵令息は悪女に誑かされた王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

聖賢者は悪女に誑かされた婚約者の王太子に婚約を破棄され追放されました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

転生聖賢者は、悪女に迷った婚約者の王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 全五話です。

処理中です...