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暗躍3
しおりを挟む暗闇の中影が走る。それは一つ二つと段々と増えていく。
「・・解除」
正門から外れた柵に小さな結界の穴を空けるとその中に吸い込まれるように消えていく。
黒い衣装に身をまとい手には杖を持つ者や剣を握る者が屋敷の一部屋に視線を集中させていた。
『あそこか‥』
リーダーらしい者は目で合図を送るとその者は頷いて魔法をかけた。
「消音・・」
小さな声が暗闇に響く。
『声が大きいぞ』
『すみません、ですがこれ以上小さくは出来ません』
『・・まあ、いい。行くぞ』
『はいっ!』
一人を見張り残して標的の部屋のバルコニーに飛び移った。
『ガシャン!』
本来なら派手に鳴る音が消音魔法の効果で砕けたガラスが床に音もなく落ちていく。
先に踏み入れたのはリーダーの男だ。ガタイがよく手に握る剣も大きくて切れ味がよさそうだ。
『暗視・・』
暗闇でも見ることが出来る暗視魔法でゆっくりと標的のベッドに近づいていくと、幼い王子の顔を確認してから手下を呼び寄せる。
『いたぞ!』
気づかれないようにベッドに近寄り王子の顔を拝見する。
『ふ~ん、これが王子ですか?』
『おおっ、かわいい』
『お頭、こいつ殺すんですか?』
『いや、捕まえて連れてこいっていう依頼だ』
『・・監禁でもするんですかね』
『さあ、どうだろうな・・』
『すげえ、美人ですぜ。オレなら囲って玩具にするけどなあ~』
『オレなら、毎晩抱いて飽きたら売るかな』
王子の顔に魅せられた連中は、自分の物のように王子のあれこれについて話し合い始めた。
『お頭ならどうしやす?』
『・・・』
『お頭・・・?』
『あれ、お頭は・・?』
『さっきまで、そこにいたのに・・?』
リーダーが消えたことで暗視魔法が解除され暗闇となる。
「おい、どうなってんだ?」
「痛って・・」
かたまっていたことで身動きしづらく折り重なるように床に倒れこんだ。
「どわっ!」
「おい、早く退けっ!」
「うるせー、気づかれるだろ・・う?おい、消音魔法が切れてるぞ。早くかけ直せ」
一人が消音魔法が解除されていることに気付いて命令するが杖を持った仲間の声がしない。
「おい、早く消音魔法をっ!」
「・・・・」
「お頭、どこにいるんですか?」
「・・・・・」
リーダーの声も杖を持った仲間の声もしなくなって男たちが焦り始める。
そこに運よく割れた窓から月明かりが差し込み周りを確認することができた。
「二人ともどこに行ったんだよ?」
「知らねえよっ!でもこれってヤバいだろ」
「・・逃げた方がいいんじゃねえのか」
「でも、お頭がいねえと・・」
「だけどよう、依頼を失敗するとオレたちの命も危ういぞ!」
お互いの顔を見合わせ、覚悟を決めたのか腹をくくったようだ
「仕方ねえ、オレたちだけで王子を連れて行くぞ」
立ち上がり王子を抱き上げると窓から飛び出していった。
男たちが王子を連れ出してしばらくして―――・・
「探知・・・」
「いたか・・?」
「ああ、思ったとおり真直ぐ国境に向かっている」
「幻影はどれくらいもつんだ?」
「そうだな、二日ってとこかな?」
「ほう・・それくらいもてば十分だ・・」
「行くぞ!」
「ああ――奴にお仕置きしねえとなあ・・」
男たちの後を追い二人の姿も闇に消えていった。
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