契約妃は隠れた魔法使い

雨足怜

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「――妃でありながら魔法を使った、魔法使いである……ですよね」

 フィナンの顔には、言葉には、もう、疑問は無かった。確信だけがあった。

 わたしが、魔法使いであると。

 魔法使いであること自体は、実のところ大きな問題ではない。重要なのはルクセント王国の王族の女性は魔法の使用を禁止されているということ。
 そして、曲がりなりにも王族の一員になったわたしが、その決まりを破って魔法を使ってしまったという事実。

「……隠しているつもりだったんですか? ……隠しているつもりだったんですね」

 本気かと疑う視線が痛くてそっと目をそらせば、視界に映るのは闇ばかり。吹き抜ける風が心の中に入り込み、隙間風を吹かせているような寒さと心細さがこみあげる。

「全く言い直せてないけれど?」

 つい唇を尖らせてジト目で告げる。口調がとげとげしくなって、フィナンに嫌われたらどうしようだとか、今更にもほどがある感情が心の中で存在感を増していく。

 足元がぐらついているような不安は、フィナンの小さなため息を聞いたところで最高潮に達した。

「いえ、こう、途中から面倒になってきているのかな、と思っていたんですが」

 倒れそうなほどには不安だったのに、フィナンはあっさりとわたしの思いを吹き飛ばす。
 張り詰めていた緊張の糸が切れる音が、頭の中で響いた気がした。

 何をいまさら、と鼻で笑ったのはいただけないけれど、それでも、うれしいのは事実で。

 こみ上げるものを必死に抑えるべく、軽く唇を噛んで空を見上げる。
 ちょうど精霊の宿り木の真下に来ていたせいで、頭上は明るく、空の光はすべてその明かりにかき消されてしまっていた。

「ちなみに、いつから気づいていたの?」
「ええと、最初の怪しいと思ったのはやっぱりハンナ様の……ん?」

 おそらくはハンナの家にわたしだけが気づいた時とか、ハンナが意味ありげに視線をわたしに送っていた時とか、そのあたりだろう。
 予想はけれど正解にも外れにも行きつかず、フィナンは何かの引っかかりに手を伸ばすように、ふらふらと危うげな足取りで歩を進める。まるで、他のことを一瞬でも考えてしまえば、手掛かりが指の間から滑り落ちて行ってしまうとでもいうように、心ここに在らずの様子。

 転びやしないかとひやひやしつつ構えていれば、数歩進んだところでフィナンは大きく目を見張る。

「どうかした?」
「ハンナ様って、あのハンナ様なんですかね!?」

 要領を得ないにもほどがあるし、ハンナへの敬意の強さが異常だった。

「どのハンナ様よ」

 というか、声が大きい。
 さっきわたしの口を手で押されたのはどこの誰だったのか、自分で忘れてしまったのだろうか。

「あのハンナ様と言えばあのハンナ様ですよ!」
「だからどのハンナ?」
「『ハンナのメイド碌』の凄腕使用人のハンナ様です!」
「……ええと?」

 先ほどまで存在していたシリアスな空気の一切合切を吹き飛ばしてしまうような単語。
 空耳かと疑い、フィナンのキラキラと輝く大きく見開かれた目を前にすれば、幻聴などではなかったと実感する。

 ――で、なんだって?

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