混血の守護神

篠崎流

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円が宮中に潜り込み一週間程した時期、事の前日である

「円、一番確定に近い、最初の道が判明した」と夜にヤオから伝心が届いて、そのまま伝えられた

「明日、太子一向が洛陽の新たな宮の視察と墓参りに出る」
「ええ、らしいわね。此処を狙う?」
「うむ、時間も場所も略正確に判った、お主もこれに同行してくれ、だが、潜入は必要ない、後を付けて監視するだけでいい」
「と言うと?」
「武后の側近、張と別に戦う必要もない彼は彼の意思で動く訳ではないし、仮に変更があっても小集団同士の争いだ、円はそうなった場合ちょっと加勢する程度でいい」

「ああ、成る程ね、操ってる奴を止めれば良い訳か‥」
「タイミング次第だが、大よそ、そういう事だ今回の本題はあくまで妲己、こちらはウチとフィルでどうにかなる」
「了解」

そうして翌日、朝には告知の通り事態が進む、太子一向は25名程の護衛、世話の者の集団で東に向かう、円はここで宮中から抜け出し、後を付ける形で目視出来る距離を保って集団斜め後方からの追走を行う

一向は本業の視察の前に道から外れ先代、先々代の皇帝の墓を見舞い、再び本道に戻る途中竹林の中で襲われる、ハズであった

円はヤオの告知を受けるまでも無く
帰りのルートに待ち伏せを行う一団に気づく

「ヤオ、近くに居る?、こいつ等が分岐で間違いない?」
「うむ、既に確定しているこれ以外の道は無い」
「了解」
「どうするんじゃ?」
「こいつ等を片付けてしまえば無用な集団戦にならない、旧宗の一族と接触する前に私が片付ける」
「ふむ‥」としばし考慮の後、ヤオも確定した

「良かろう、ここを潰せば一つ目の分岐も全て消えるやって構わん」
「そっちは?」
「おそらくインドでやりあった時と同じ形になる。円が刺客を先に止める間、妲己を探す、多分近くに潜んでいるだろう」
「そうね、結果を見届ける可能性は高いし」
「ただ、妲己の事に関しては予想予知ではイマイチハッキリせん」
「まあ、干渉に直接関わって、というか手を汚してではないからねぇ今までずっとそうだし‥」

「ウチにも関わっているのでそれなりに見えるのだが何とも」
「ああ、倭の時と同じ様な感じ?」
「うむ、対峙するところまでは分るが‥」
「まあ仕方無いわね、兎に角そっちは御願い」
「分った、円も気をつけ‥る程の相手ではないか‥」

円も一応応え、皇太子側が戻って来る前に、先に竹林に入り、相手集団、待ち伏せに奇襲を掛ける

竹林と言ってもかなり森に近い。十メートル先は目視で確認出来ない程密集して草木が生えているし

正午にも関わらず暗い、無風で無ければ自然が音を出し音すら誤魔化せる、待ち伏せにはもってこいだが、円が逆奇襲を掛けるには更に優位だ、そして円には「目」すら不要だ

「百二十二名」と察知し、一人目を背後から襲い、発勁で静かに延髄を叩き失神させる

相手に気づかれたのは五分後、二十四人地面に落して刺客側の集団の誰かが叫んでからだ、が、円の姿を捉えられた訳ではない

背の高い竹林の草原の中に味方の兵が転がされているのに気づいての事だ

「味方が‥」「て、敵襲!」と声が上がるが、何時何処で誰にやられたかも分らない状態だ、普通この人数がやられて相手が何者か判らないという事は無い、既に相手側は混乱の極みだった

この暗殺事件を指揮した武后の配下でもあり、男妾でもある、張兄弟の弟、張昌宗にも逆奇襲の報告は入ったのだが詳細不明、ただ「何時の間にか味方が」としか分らずどうしようもなかった

一旦「森内の敵を探すのだ」と命令を出したが。3分後には更に7人消える

やむなく張は残った味方兵を集め街道ではなく竹林内を真西に走り、其の後、南にある正規の道に向かった

どういう状況かの確認すら出来ない、情報すら無いのであれば対応のし様が無い

まして森で既に1割やられている、広い所、或いは見通しの利く場所取りをしないと相手を探す事すら出来ない

彼らが30分掛けて道に出た時には自身の回りにも三分の二しか残っていなかった、ここで彼はようやく夢から覚める、そう、操作が解けたのだ

そして現状を認識するので精一杯だった「オレは何をしている‥」と思わず口に出し、部下の兵らも意味不明のまま撤退するのだった

無論一部の兵は「昌宗様の命令ですが??」言ったが当人は「そんな命は出していない、戻るぞ」と返され、当然、部下も反論出来ずに引き揚げた。

こうして「干渉」の一つ目は終わったのである

一方、ヤオとフィルの方も「結果を見届ける可能性は高いし」の通りであった。円の干渉の本道修正の戦いと同時、もう一つの目的でもある妲己を探した

手口は略分っているし、そう遠くない場所に潜んでいるのも間違いないだろう、故に近隣に身を隠し、妖気を只管察知する

それが分ったのは円の方が片付いた直後、張の操作が解かれた瞬間だった、操作自体は一度掛けてしまえば継続して続くが、それを解く場合術を使う為、僅かに不確な妖気が発生する、ヤオは妲己が操作を解除したその瞬間を察知した

別位置で待機していたフィルと円の頭に言葉を飛ばし、位置を伝えつつ目標地点に飛んだ、場所はそう遠くも無い、円の戦いの場の北西10キロの所だ

妲己の周囲、前後挟む様にフィルとヤオは動き、正面からヤオは対峙した

一瞬、妲己も眼を細めて不快感を表し、即座に下がる姿勢も見せたが、背後からフィルも現れ距離を取ったまま全員動けぬ形を作った

「今度は逃がさんぞ」
「‥成る程、初めから狙っていた訳か」
「左様、お主の目的も知っている、大人しく降伏してくれ」
「そういう訳にも行かないわね」

そう妲己も返して細剣を抜きジリジリ下がるがコチラ側にも事情がある

今回は歴史干渉の修正と彼女を抑える事、どちらも同じくらい重要だ

「では仕方無いな」妲己も言って略同時に前に駆けた

この状況と成れば、包囲を逃れる、最も確実性が高いのは正面のヤオを退ける事、武力に関して言えば一番低いからだ

ヤオも咄嗟に棒を構え迎撃体勢を取ったがそれよりも早く妲己は面前に飛び込んだ。

「もらった」と思ったが妲己の突き出した剣はヤオの体を通り抜け、飛び込んだ勢いのまま後ろに抜ける。手ごたえはゼロ、まるで霞を斬ったかのようにすり抜けた

「幻か!」と分ったが改めて振り返って二撃目を入れる必要も無い、囲いを抜けたのならそのまま前進して逃れればいいのだ

前に駆けた勢いのまま跳躍して離脱を図る、が、宙に翔けた途端、足をつかまれ、石に躓いた様に前から地面に落ちる

「くっ!」と小さく声を挙げて振り返る前に咄嗟に見もせずに足元を剣で払ったがこれも手ごたえ無し、だが足の拘束が解けたのだけは分った

立ち上がり構える
そうして対峙した相手はフィルだった

「半魔の小娘か!‥」
「逃げても無駄だよ、フィルのが早い」

そう返された通り。円の戦いでも明白だがフィルは身体能力で「生物」としては間違いなく現世で頂点に居る

今が正午の昼間で力が半減していても妲己より上だろう、単純にスピード競争してもまず逃げられない

無論、それで妲己も諦める訳ではない、即座に剣を持った逆手で何かを投擲する

フィルは前に飛び出しながらこれを右手でキャッチするように止め妲己が次撃体制を作る前に懐に入った、これを不十分な体勢ながら後ろに飛びつつデタラメに近いが飛んでくるフィルを条件反射で横に剣を払って斬るが、それすら当らない

直進を止めて面前で剣をかわし、自身もバックステップして離れ、再びお互い距離を取って対峙した

「なんて奴だ‥」しか妲己も口に出来ない
「こんなの当らないよ」とフィルは妲己が投擲してキャッチした鉛筆大の釘を足元に投げて返す

妲己は人間からすれば動きも早いし武力もあるだろう、だが現世で生まれた妖怪の様なもので、様々な術を使うが、肉体的に驚異的に優れて居るという程でもない

ヴァンパイアハーフのフィルと一対一で勝負すればこういう結果でも仕方が無い

が、今回の目的は倒す事ではない、所詮作戦の第一段階でしかない、其の為、ヤオはフィルに伝心で指示を出した

「フィル、妲己の目を引き付けて戦えるか?」
「出来る、と思う」
「アレを使って拘束する、動きを止めるか、ウチが背後を取れる位置取りを頼む」
「分った」

そうして対峙した状態からフィルも左手に暗器、寸鉄を構え、妲己を中心に横移動、回る様に位置取りしながら接近するタイミングを図った

5秒、其の間を作って今度はフィルの方が逆手
右手に隠し持った鉛球「指弾」を親指で弾いて投擲する

妲己にも殆ど見えてなかったが反射的に上半身を右に傾けカンだけで指弾を避けるが、左頬を掠めて被弾する

略同時だろう、フィルはその隙に飛び込み、互いが手の届く距離まで詰めた

妲己も即座に剣を払ったが振り切る前にフィルに手首を叩かれ武器を払い飛ばされ、逆手を掴まれ固められる

丁度お互いが正面から両手をつかみ合い組んだ状態になったが、こうなると腕力で振り解くのも不可能だろう、妲己も動けずだった所に「アレ」拘束用法具が投げ込まれる

「え?!」と気づいたときにはもう遅い、ヤオの放った3本の光状の鞭が体に巻きつき後ろに引き倒される。

苦し紛れに飛翔、魅了をデタラメに打つが全て効果を消され
身動きすら取れなかった

「おのれ‥」
「悪いのう、ウチの退魔術も封印も実体のある奴には利かんのでね物理的に拘束させてもらう」

こうして拘束されたまま、2分後、合流した円らと
妲己を抱えて戻る事に成った
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