混血の守護神

篠崎流

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crecer(育成者)

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彼女がとりあえずの目的の相手を見つけたのは更に一ヵ月後であった。今で言う上海の外れ、小さな港の粗末な飯屋に入ってそのテーブルに対座した

流石に相手も驚いたが、表面上は平静を保った、何しろ彼も彼女に会うのは数世紀ぶりだ

「探したぞジャン‥」
「‥何の用だ‥クレセール‥」

そう、彼女と彼はヤオと円の逆と同じ関係の間柄、が、最初から会話は成立していない

「何を食っている‥」
「人間の食い物に決まっている」
「不味そうだな‥ワシにも何か頼め」
「‥」

ジャンも大きく溜息をついて、適当に追加注文する。何皿か並べられて彼女が食い始めたのを見て対話する努力を続けた

「見た目は悪いが味覚には良い‥」
「お前、食う必要があるのか?」
「無い、が、好奇心を刺激するなら試す」
「で?何の用だ、仕事か?何で態々来た?20はどうした?」
「うむ、中々美味だな、久々に楽しい思いをした」
「‥俺の質問の応えがまだだが‥」

「ああ、そうだったな‥、イコを通さずに進める事案が発生したが、それ以外も色々興味深い物があるようでな」
「何の話だか‥」
「とりあえず、奴から何か用事を言われたら無視しろ、それと向こうの使徒らの情報をよこせ」
「今まで碌に活動して来なかったお前がどういう風の吹き回しだ」
「ワシとて、面倒くさくてたまらんが、これは更に別の所から命令が出ている」
「なに‥」
「イコの不細工役立たずぶりに他の者もお怒りだ、しかもあの雑魚、色々越権、姑息な真似をしているそうだな、看過出来ぬ」

「フッ‥だろうな」
「嬉しそうだな‥」
「俺も奴は嫌いだ、まあ、人間社会では珍しくないが奴の下で使われるのは苦痛でしかない」
「‥結果出していればある程度黙認はしてやってもいいのだがそれですら無いからね‥」
「ああ」

「という訳だ、知ってるだけ話せ」
「そりゃいいが、場所を変えるぞ、お前と一緒だと目立ってしょうがない」
「そうかの?」
「どう贔屓目に見ても高級娼婦かどこかの富豪の女にしか見えん」
「では、その件も含めて教えてもらおうか‥」

ジャンは代金を置いて女と共に店を出た
そのまま海岸を歩きつつ人目を避けながら話した

「つまり処分するという事か?」
「そういう事になるが、なるべくならワシは直接はやりたくない、暴走して無関係な者に被害を出すのも宜しくない、そもそも面倒くさい」
「では、どうする?」
「そうだな‥、いっその事、敵の敵は味方でいくか、向こうの使徒にも興味があるし‥上手くすればまとめて片付く」
「ま、確かに向こうからすれば願ったり適ったりではあるが」
「それにだ‥、あっさり処分も面白く無い、ミスの分、痛い目に合わせんとな‥という訳だ、ジャン、お前にも働いてもらう」
「いいだろう」

そうして計画を伝えられ、ジャンも即動いたが、条件も幾つかある、故に、単身で探しその機会を待った

円を見つけるのは今の彼には難しくない、お互い近い「技」があるからだ

三日待って円が単身山に訓練に入った所を狙って接触を図った。近い技、の通り、ここまで来ると態々声を掛ける必要も無い、円が察知出来る距離まで離れて自身の気を解放すればいい

その思惑、狙いは当たり彼女を呼び寄せ成都から百キロ程離れた山林でお互い対面した、無論、戦う為でもない

故に、第一声に「話がある」と自身の方から言って対峙姿勢を解いた。円も彼の事はよく知っている罠の類だとも考えなかった

「話し?」
「妲己の事だ、お前達の方でも懸念があるのではないか?」
「‥ええ、魔側と取引した、呑まざる得ない条件もあると言ったわ、何か弱みを握られての行動、とも考えて居る」
「正解だ、アレは子供を人質に取られている」
「え?!誰の!?」
「歴史に興が深いなら知っているだろう、一時皇帝の后だった事もある」
「‥成る程ね‥、けど、何故それを私に明かすの?」

「魔側、とは言え俺の主はそう言った事は好まんし俺も其の手の輩は好かん」
「‥どうもよく分らないわね‥」
「人間社会とそれ程変わらんよ、勢力が同じでも、筋を通す者も居るしそうでない下種も居る、俺も命令とは言え、そういう奴に従うのは御免だ」
「成る程」
「お前らとこれまで争ったのは俺の主の手下の方だ、イコシという魔側の下っ端の仕事だ」
「ギリシャ語かしら20?」
「そう、ナンバーはそのまま位の低さを表す、がこちらで活動するには便利な能力を様々持っている、俺の守護する、つまりお前で言う姚駿ヤオの存在は干渉の役目は担っていない」

「ああ‥つまり、こっちで歴史干渉の類をやってるのは、その20て奴で、貴女の直接の守護人はもっと上て事、ついでに一々こっちの干渉なんてしてないという事ね」
「例えて言うなら、俺の直属の上は王族で、イコは小間使いの兵、そいつが我が主の命に無い事を自身の権限の範疇を越えて勝手にやっている、という事」
「で?私に話すという事は、妲己の件をどうにかしたいと」
「それもある」
「なんか想像してたイメージと違うわね‥」

「俺の主、まあ、一応クレセールと言うが、そもそもどちらかと云えば怠惰で中立だ、人界でセコセコ工作をするような事をつまらんと思っている、自身の力に確証を持っているし、役割が違う、で、妲己の事が耳に入り、看過出来ぬと考えて居る」
「ふむ‥一応分ったわ。名前からして役割も分ったわ」
「ほう」
「スペイン語かしら、育てる者、つまり使徒の教育、あるいは、登用、そして貴方の主という事」
「そう、流石だな」

「けど妲己を解放?するのかしら、そっちにメリットがあるの?」
「別に無いが、あの女は解放する、人質もだ、これが長くなれば余計な干渉を起こす。つまりメリットは無い、このまま放置するとデメリットが増える」
「つまり、この状態が続いても害があってもメリットは無いと」
「アレは解放すれば表舞台でハデな事をする事も今後無い、俺にはよく分らんが、そう言っていた。自然に併合し、何れ寿命で死ぬし、子供も社会に交わり乱れが出る事もない」
「フィルが使徒に成らなかった場合と同じになるのか‥」
「放置してどっちの側にも付かないならそれで良い、が、人質を取られた状態が続けば、寧ろ俺達の側の敵となる」
「なるほどね」

「お前も聞いた事があるだろう。無理矢理従わせてもそれは敵になるだけだ「人」とはそういう者だと」
「‥けど何故それを私に話す?どうも不可解なんだけど?」
「フッ‥、さっきも言ったがクレセールは怠惰だ、くだらん手下の処分如きに自ら動きたくないというのもある、もう一つは、お前らに引き取らせた方が、手間が無く当人も無限に苦しむ」
「そうなのかしら?」
「球に封じられる、というのは俺達で言えば身動き出来ない牢屋に永遠に拘束される事、らしい、処分されるより当人には苦痛と絶望が強いそうだ」
「ハハ‥」

「そういう事だ乗るか?」
「まあ、私は構わないけど、ヤオが乗るかしら」
「断る理由もなかろう、ついでに言えばだが俺は交渉している訳ではない、こちらはこういう方針で、指示を伝えているだけだ、お前の側がやらんなら俺がやる事になる」
「成る程ね、私達を動かして、そのイコって奴の処分と妲己の解放を全部やらせたい訳ね」
「ハッキリ言えばそうだ」

「怠惰‥らしいか、良いわ、私も伝える、通るかどうかは保障しないけど」
「それで結構、それから策も伝える」
「わかった」

そして円はジャンを通して「向こう側」の策と意図を察した。別れた後、円は自身の側、ヤオとフィルにもそのまま伝えるが確かに断る理由もない

「罠?」ともフィルは思って言ったが可能性は低い

「其の可能性は完全に排除は出来ないがおそらく向こうの言った事は事実だ」
「でしょうね、そもそもこれを疑うとこれまで妲己の行動、発言も嘘という事になる」
「そうなの?」
「妲己にそのイコて奴に従う理由も無い、メリットゼロだし」
「うむ、ウチらと多く語った訳ではないが、彼女の意思はチラチラ見えている、それを引っ掛ける為に態々言った事にもなる、そこまで裏があるとは考え難い」
「けど、全部信じていいのかなぁ」
「そーね、けどこれも確認する方法はある」
「そうだね、円おねえちゃんに相手が示した事、その通り進めば、信頼性はあるね」
「ええ、という訳で私は「正しい」前提で乗ってみるつもり、第一段階が向こうの言う通り進んだら確証も取れるし」

「そうじゃの‥向こうの主とやらにメリットが無いし」
「確かに、自分の部下が処分されるだけだしね、妲己諸共捨て石にしての策はちょっと考え難いわね‥」
「うむ」
「とりあえず、ヤオ」
「うむ、であれば予想予知にも現れるハズだ、二人共、準備だけはしておいてくれ」
「うん」「了解」

こうして円らもその時を待つ方針を見せた、幸いにしてヤオには「予想予知」がある。ジャンの側が示した策に裏が無いなら彼らの提示した通り、事件は起こるハズで、其の時点で、同時、証明にも成るという事

言った事が真実であれば、ジャンもクレセールという主もそこには現れない、それはそのまま、向こうの行動、発言に偽りの無い事にもなる

クレセールは魔側のかなり上の立場だろう、その下で人界で干渉を行う任がイコ、これが権限の範疇を越えて勝手な事をしている

妲己の弱みを握り従わせているが、それは寧ろ、強大な敵を生む行為でもある、故、イコを処分するが、自身では動かない

其の為、円らを動かす為に真意を明らかにした、これを策、あるいは裏があったとすれば、ジャンやクレセールが動き何らかの干渉か妨害が生まれる、そうなれば、ヤオの予想予知にも現れる可能性が高くその時点で罠かどうかはある程度分る

そしてその時期は提示の通り早かった、この一連の流れからヤオの道に現れたのが一月後、お役目としてだ

「来たぞ、事前提示の通りだ」
「という事はまず一つ目は確証は取れた訳ね」
「うむ、中央に行くぞ、西安だ」

一向は即座に中央、西安はずれに向かい手近な宿を取った、ヤオはそこで「道」の内容も示す

「所謂暗殺じゃな、ここに干渉がある、が、あまり宜しくない内容だ、しかも今回はかなりハッキリしている、が‥」
「なに?何か懸念が?」
「妲己と明確に分るのう、姿形をビジョンとして目視した」
「‥珍しい事もあるわね、今まで色々裏をかいてきてたのに」
「うーむ、だが「干渉」に、ではない」
「まあ、でもジャンの言う通りには成ってるんじゃない?場を用意する、とは言っていたし、相手の裏をかく情報も多く得たし」
「そじゃな」

「で?予想予知は」
「うむ、場を用意する、という割りに干渉としては大きいものだな‥かなりウチらの責任も重い‥」
「それは」
「簡単に言うとこの政権、則天武后の王朝は今後13,4年続く、その後歳をとって病床に入り、武后の権勢が衰え、先代、下ろされた高宗の子これが宮中クーデターを起こし武后から政権を取り戻し再び唐に戻るのだが‥」
「もしかして、戻らない?」
「左様。皇太子が暗殺され唐其の物の復帰が丸ごと無くなる、そうなると今後も続く唐の数百年の歴史も狂う」
「うわぁ‥」

「だがまあ、やる事は明確だ」
「そうね、皇太子を守ればいい、のよね?」
「うむ、これは魔側の直接干渉の道は略無い、則天武后の配下の将軍に張と言う人物が居るがこれが暴走し、太子並びに一族を殺す。たぶん」
「成る程、そこに干渉してくるのが妲己ね、私達はこれを止める、と。出来れば捕らえる」
「そういう事になるな、が、一応保険も掛けるまた急な変更があっても困るしな」
「そうね‥干渉としても大きな物だし」

そうして一向は考慮、相談の後、準備と計画を整えた、今回の一件は干渉としては大きい、決して間に合わせの物でもなく失敗も許されないがジャンから齎された情報から分った事もある

一つに、妲己とイコ、どちらもヤオの様に未来を知る、或いは、予想を特殊能力の類で知る力は無い。あくまで上からの命で動いているだけなので、その最初の命の部分が相手側の協力ありならば疑われる事もなく、こちらの仕掛けが発覚する事は略無く罠に掛けやすいという事

二つに、妲己は当人の意思で全て同意してやっている訳ではない、という事。これまでの経過見ても明らかだが、どこかに「気づいて欲しい」という意思が見え隠れしている、円らが接触して事情を明かせば戦わずに済む可能性すらある、そしてそれ自体が第一段階であるという事だ

今回の干渉部分は皇太子の暗殺である為何れにしろ潜入が要るが、これを円が担当する、言うまでも無いがフィルは東洋人から見た目が遠すぎる

宮中の下働きとして変装して潜るが、本来なるべく太子の近い所が良いのだが今回は関係を構築する時間的余裕が無いという事と新たに得た法具である程度見た目は操れる点と

干渉に関して言えば重大事であるが、今までの追いかける立場では無く、追う側に近く、予想予知でも比較的先がハッキリして居る為、計画自体、楽ではあった

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