混血の守護神

篠崎流

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一対三万

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「数時間後」と言った通り、ヤオらが南進してくる軍の先行部隊に接触したのは直ぐだった。即座に二人共身を隠して遠目から、まずヤオが探査するのだが、ここでは不穏当な気配も力も感じなかった。

その為、更に後から来る本体にも向かう、そうして同じ様に遠目から探査を掛けるが、そこでも不明確だった

「確かに僅かに何かを感じるのだが‥」
「予知は?」
「変わりない‥コレは困ったのう」
「干渉して動かした、なら、やっぱり指揮官じゃないの?」
「むう、だとは思うのだが、魔の気配、予知に出てこない何なんだこれは‥」
「此処にも居ない??」

そうフィルにも云われてヤオも混乱というか迷った、ここまで直前まで、相手に近い所に居て不確定、且つ誰に取り付いているのか分らないというのも初だ

本来なら自身の特殊能力のみを信じて動けば良いのだが自身にも、その能力自体に懐疑的に成らざる得ない

「何か別の要素があるのか?妨害でもされているのか?」
「ウチの頭がポンコツにでもなったのか?」

そういう疑念や迷いだ

そして不確定、且つどこに、誰に魔が干渉して動かしているのか、それが明確でもないのに、デタラメに追い出しを掛ける事も出来ない

目の前を軍隊が通り過ぎていく、その隊列の最後尾を見送りながら、必死に集中して探す、そして僅かな「力」の気配を掴んだ

「む!?」と反射的に声が出て正面、遠くを見た
「分ったの??」
「ああ!こっちだ!」と即、ヤオは北西に向かって飛んだ

ヤオ、フィルは飛翔しながら離れている分身を通し、円にも説明する、ただ、フィルには半分しか分らなかったが

何しろ、過去にあった、フィルが使徒に成る前の事件の繋がりだから

「分らんハズじゃ、干渉ではあるが、やってるのは「向こう側」じゃない直接でもない」
「乗り移ってどうこうじゃない、歴史分岐に出て、相手が分らん、それが可能なのは限定される「奴」じゃ」
「妲己、か」
「じゃろうな」
「けど大丈夫なの?」

そう、円の云った通り、妲己の力はまだ不確定な部分が多い、その上、肝心の円は持ち場を離れる事が出来ない、既に分担してしまっている

そして過去に云った事「交渉の余地あり」も今回に限っては無理だろう、更にフィルが相手出来る相手なのか、という事

「む~、仕方無い、円、そっちの分身を消すウチも臨戦態勢で挑む必要がある、力が減ったままでは不味い、一旦戻すぞ」
「ええ」
「こっちが片付いたら直ぐ言葉を飛ばして合図するギリギリまで相手軍と事を構えるな」
「分った、そっちも気をつけて」

そうして会話出来る環境を切って、そのままフィルにも説明する

「今回の相手は魔側ではない、単純な武力勝負でない事もある、かく乱戦法に注意しろ」
「わ、わかった」

としたが、正直フィルに兵法やかく乱戦法の具体例、対処法を伝えようが無い、注意しろ、としか云い様が無い

円とは違い、戦い、場数が多くなく臨機応変な対応は出来ない

そこから五分くらいだろうか、ヤオは丘の上、岩と草の荒地の高台にソレを発見して降り立った、略同時、棒を出して構える

予想通り、相手は女「妲己」だったが、相手も少々驚いていた様だ

「へぇ‥呼んだつもりも無いのだけれど‥よく気がついたわね?ヤオだったかしら?」と
「左様。無駄だと思うが一応聞く、北方民族を操って歴史干渉を起こしたのは貴様だな、直ぐこんな事は止めよ」
「フ‥、止めてもあまり意味は無いわよ、もうこの流れは止まらない、そもそも私が動かしたのはもっと上だもの、あの軍は操られているのではない、人、もっと上からの命令で動いている」
「‥やはりか。だが、何れにしろお主にはお灸が必要だな」
「クク‥知っているわよ。貴女武力はそこいらの兵士レベルでしょ?どう私とやり合うの?」

妲己は薄ら笑いで腰の物に手を掛けた、略同時だろう、後ろに居たフィルが瞬間移動でもしたかの様な速度で妲己とヤオの間に立った。それで妲己とフィルが対峙して明らかに不快な顔を見せた

「話しには少し聞いたが、ソイツが新たな使徒か‥」
「云っとくがフィルは強いぞ」
「グ‥」

おそらく妲己も相手の力を知る術はあるのか、動物的感なのか、それが嘘でない事は即座に察した、だから歯噛みして唸った

「何者だ‥、聖でも魔でもない実体があるくせに異常な力だ、かと云って単純に人間の選抜された使徒でもない‥」
「魔族と人間のハーフらしいよ」
「かなりの高級種とのな」

妲己はそこで、平静を取り繕い武器から手を離した

「フン‥まあいい、今回の私の役目はもう、終っている貴女達と戦う意味も無いわ」
「何?‥」
「云ったでしょ、操ったのは上だって。軍隊が此処まで来た以上もう今更命令撤回しても間に合わないし止まらない、既に操作も解いている、転がり始めた巨石は途中で止まらない」

だが、それは円の予想、懸念と略同じ、干渉を止めても止まらない可能性は既に示唆されている

従ってこういう分担をしたのだから、今更驚く事ではない、だからヤオは続けて問う

「が、お主はそれで何の得がある?、アッチに味方しても全く意味がない」
「前に云わなかったかしら?」
「取引、とは言った、が。その内容に見合うものなのか?」
「見合う訳ではないわ、けど、こちらも飲まざる得ない条件もある」
「ほう‥」
「ま、何れにしろ、貴女達に話しても仕方無い、貴女達には何も出来はしないのだから」

そうして妲己はジリジリ下がって距離を取る
勿論、少なくともフィルはこの状況で逃がすつもりもない、何時でも飛び掛れる体勢だ

そしてヤオはこの短い遣り取りで分った事も多くあった、故に「お灸を据える」部分の優先度は下げフィルに明確に動く指示は避けた

もう一つが、現在の状況に置いて1番は反れた歴史と円の事だ
、この際、妲己の事は後、仕切りなおして次の機会でも良い、その為フィルに伝心しながら、こう説明した

「妲己がこちらに仕掛けて来ないなら逃がしてよい」と
「え?でも敵だよね」
「うむ、だが今優先すべきは既に確定しつつある歴史の道を戻す事、それに円を失う訳にもいかない、既に妲己は干渉を止めている、そして彼女と相対する事は二度と無い訳ではない」
「そうだね‥おねぇちゃんのが心配だ」
「そうだ、出来れば妲己も捕らえたいが、あまりここで手間取るのも不味いし、今はそうする意味も薄い」
「わかった」

そういう頭の中での遣り取りあって、フィルも構えたまま、妲己が下がるのに合わせて自身も下がった

それは相手にも分ったのだろう、薄っすら笑って、正面をこちらに向けながらバックジャンプしつつ、飛び離れた

そうしてヤオらもそのまま見送った、口惜しくもあるが、妲己に拘っても全体利益は殆ど無い「今は」これで良い

ヤオは直ぐに轡を返し、妲己とは逆方に飛ぶ、それに続くフィル、距離の関係もあるが一方的に言葉を飛ばして円にも一連の事態を伝える

が、タイミング的には略ギリギリだった、妲己を捨てて、円の側を優先したのは正しい、彼女の側は面前を軍が通過する所だった

ヤオは飛びながらフィルに伝える

「フィル、ウチは先に円の所に跳躍する」
「う、うん、お願い」

略同時、ヤオは懐から指輪の様な物取り出し、人差し指に嵌めて唱えた

「該人的地方,飛行情況」と、それでフィルの面前から「フッ」と消える

次の瞬間に現れたのは円の右隣だった「間に合ったか!」と、丁度円も仮面を付けた所だった

「なんとかね」
「相手は妲己じゃった、だがウチが対峙した時には干渉は解いている、軍の中にも魔の類の気配無しじゃ!」
「つまり、もう私が止めるしか流れを阻む方法は無い、という事ね」
「あるかも知れんが何れにしろもう時間が無い」
「そうね‥まあ、行って来るわ‥」
「ウチも援護はする」

と二人同時に立って平地に飛び出した、つまり軍の前に

何時もの様に交渉等しない、既に道は明らかであるし、相手は更に上から命令を受けてやっているだけの事だ、引けと言って引く訳ではない

円は軽く三度深呼吸して気を充填させた後
問答無用で相手、先頭集団に駆けた

無論相手軍も「な?なんだ!?」としか云い様が無い、いきなり面前に飛び出してきた人間、おそらく女が走って突撃してくる奇襲とすら思わないだろう

円は先頭集団の列、三段目と四段目の間に飛び降りた。同時、爆裂気功で発気して回りの集団30人吹き飛ばした。

そしてその場で一回くるりと横回転しながら、流星錘も両手で引き抜き、前進しながら手前の相手の足を叩いてその場の崩れさせる

「て、敵襲!」と誰かが叫んで、其々個別に槍や弓を構えるが相手が余りにも少数、一人である為全体に状況確認が出来ない、既に混乱の極みだった

それでも其々が槍を構え、逐次的に、条件反射的に、命令どうこうに関係なく円を突きに行くが射程に入る前に手足を叩かれ、次々転がる

数えた訳ではないが相手は軽く三万は居るだろう、が、数が多いだけに、一度混乱すると収拾がつかない

前線のこの戦いの状況が指揮官に伝わったのが円の突撃から7分も後だ

報告を受けた彼も「馬鹿を言うな!」としか云い様が無い、だが、その瞬間正面遠くに「今起こっている事」を確認出来た

円は四方から突き出される槍をかわし、上空へ飛んで逆立ち状態のまま紐を操って地面に居る兵を殴り倒した所だ

降りる手前に軽身功を展開して落下速度を調整しながら更に空で流星錘を前後左右に打って最期にこれを放棄

もう見なくても分る、感触だけで壊れたと判断して素手に切り替える

降りた途端、そのまま低く跳躍し空中で右に高速回転、竜巻の様な旋風脚を叩き込んで相手の騎馬も5人落馬させる

着地と同時、クロスブロックの構えで集気法で回りから気を集める、ここで動きが止まり円は捕まる。周囲一斉に6本の槍と無数の矢を同時に突き立てられた

「やった!?」と言うより「当った!」だろう

だが、その喜びすら次の瞬間には恐怖に変わる。兵らの持っていた槍が突き立てたまま折れたのだ

そして矢も円の体に通らず、枯れ木枝の様にバラバラと落ちる、そう、硬気功、たかが槍等早々通らない

これで周囲兵は円を中心に後ずさりガチガチ震えて顔面蒼白、個別に逃げ出したのだ

一部始終を見た、見てしまった指揮官も思わず叫んだ

「後退!、撤退!」と、指揮がどうこうではない、まず自分が逃げたかったのだ

円は軍が方々に逃げていくのを確認し、呆然とするヤオの所に歩いて戻って仮面を外した

「あっきれた奴じゃの‥」としかヤオも云い様が無い、援護する所かやる事もなかった

「どうかな、短時間で引いてくれたし、手持ち武器も壊れた、続けてたら危なかったと思う」
「そじゃな」

実際相手の数に比して円が倒した、戦闘不能にした数は少ない、二百名弱、戦闘時間も十四分、それで撤退「してくれた」のだ無論死者ゼロで

「兎に角、一旦離れましょう」
「うむ」と二人は戦場を離脱

更に5分後、インド側に引いて周囲自然に隠れて待機した円らにフィルが合流する

「‥終っちゃった?」
「だね」

その後一向も同じ場所で野営しつつ、再侵攻の類も監視したが「次」は起こらなかった

ヤオも「うむ、略本道に戻った」と云った事でこの地を離れたのである



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