混血の守護神

篠崎流

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元の借り宿に戻った後フィルは夕食をガツガツ頬張った

「めっちゃ食うのね‥」
「燃費悪いからの」

当人は非常に満足そうだった、所謂痩せの大食いの典型だが
「どこにあんなに入るのよ‥」と思ったくらいだ

翌日の夕方前に一同で森に入って「直に見ないと分らん」の部分も調査、円の旋棍を渡して木を殴ってもらう

「全力で?」
「うん、どのくらい力があるのか、と、どのくらい燃費が悪いのか知りたいんだって」
「わかった」

とフィルは特に身構えもせず腕だけ軽く振った感じで
ヒュッと目の前の木を殴った。ズドーンといい音がしたが円は目が点だった

直径一メートルくらいの木の2割近くまで棍がめり込んだ

「ちょ!?」
「どういうパワーなんじゃい‥」

続けて繰り返して10発くらい打って木が倒れるが、同時フィルも「疲れた」と言って棍を返した

「壊れた‥」
「!?」

旋昆の中間から直角にぐにゃりと折れ曲がっていた

「一応鉄製なんだけど‥」
「ごめん‥」
「いや、謝る事じゃないけど‥びっくりしたわ」
「全力で、だったので」
「うーん‥手加減とかは出来る、よね?」
「うん」
「基本的にお役目では「誰か」に乗り移った魔を追い出す、それでヤオが本体を封印、という流れだからぶっ飛ばして人を殺すのも不味いのよ」

「多分だいじょうぶ‥、私も人はなるべく殺したくない」
「それなら問題無いわね、理由も分ってるみたいね」
「うん‥私が殺人者に成ると、いっぱいで追いかけられる事になる」
「そういう事ね、それとまだ動ける?お腹減る?」
「んー‥ちょっと、でも全然だいじょうぶ」
「力を使う分には問題ないようじゃな」

「うん、ケガとかした時の方が減ると思う」
「成る程」
「後はちょっと体術を教えれば問題ない感じかなぁ」
「そじゃな、基本的に素手でも強いよなこの子、ウチの霊抑対を持っとけば左程問題ない気がするの」
「結局殴るのね‥」
「なんか借りてきてもいいがどっちにしろ大差ないのう」

「フィルはナイフ使ってたけど、何か習ったの?剣法とか?」
「ううん、持ってると便利だから‥」

ここでまた一同は宿に戻った後、もう一つの懸念の関係で動く事になる、ヤオが暫くして

「他の道も見えてきた」と言った為だ
「道、というからにはお役目?」
「の、ようだ、もう直ぐ始まる欧州戦争の後だが分岐も見えてきた、まだ半年以上ありそうだ」
「移動する?」
「うむ、ローマ側に行った方がいいな。それと、後の事を考えて色々物資も要りそうだ、と、いうわけで一旦上に行ってくる」
「OK、じゃあ私達は旅をかねて移動するわね」

として円とフィル、ヤオで別れて動く事になった。まだ、時間自体はあるので通常の旅移動、それと円も云った様に「何か体術も教えよう」とした事、旅しながらやる分には丁度良かった

一旦ロシア方面から南に抜けてそこから西へ、現状でもアチコチ小競り合いはあるしなるべく黒海南側を移動しつつ、観光しながら、宿等泊まり歩いて、チマチマ、フィルに武芸の基礎を教えた

何歳なのかは知らないが、彼女のこれまで見て分るが割り合い控え目で素直だった、此処に至る経過を想像するにかなり苦境もあっただろう

親に去られるか捨てられ、人に拾われ、奇行から追い出され、誰かに仕返しする訳でもなくひっそりと人目に触れず一人で生きて、血を貰うときだけケガさせずこなした

それがある程度想像出来た円も、同情もあったし、愛おしく感じたのである、実際、見た目も行動も可愛くはあるのだが

実年齢は兎も角外見上は
円は18くらい、フィルは12,3歳だろう

そして二ヶ月くらい一緒に行動すると案の定、フィルは円に懐いた、どこに行くにもくっついて歩き

寝るときも勝手に円のベットにもぐりこんで来るなど割り合い懐っこい

ただ、それも当然ではある、魔とのハーフと云っても今までの生活も生活圏も「人間側」だ、まして人の温かみを知らないし親すら覚えてない

付けた名前からして迫害、あるいは冷たくされたのも想像するに易かった

寄り添っても構わない再び追い出される事も迫害されることもない、そういう相手を得たのだ、初めて

円は元々さっぱりした性格であるし割り切りは早いが、フィルは依存性がある「人」としては当然であるしこの世界に生きている以上、その輪から外れる事は出来ない

ゆえに、フィルはそういう行動と選択したとも云える、そしてそれは幸運だった、略誰にも知られていない、討伐が出される様な事も無い、ゼロからスタートに何の制限もないということ

肝心の「技」の方だが、特に柔法を中心に教える、所謂、防御系と捕縛、固め等だ、兎角打撃力が有り過ぎるし、人間に使う事もあるので腕力の類に頼らない方法を敢えて習得させる

中国の八卦掌、太極拳に代表される円運動の化勁、これは動きが殆どの武器術にも転用出来るのと、万が一の事故の防止

加減を間違っても頭や体で無ければ命を奪う事もないし、彼女自身もそこを分っている事だ

そして才能も相当ある
元々の肉体スペックもあるが動体視力も高い、円との戦いで流星錘を掴み払ったのを見ても人間の動き程度なら略全て「見て」避けれる

「これは面白いわね」と円も楽しかったくらいだ、何しろベースが全て最初から飛びぬけて高い物を持っているし非常に素直でドンドン覚えていく「教師」的には非常に楽で面白いのである

再びトルコからギリシャへ到着し宿をとったがここでヤオとも合流する

いきなり「ジャジャーン」と言って持ってきた眼鏡をかけた

「なにそれ‥」
「これで詳しい特殊能力も分る、ついでに言うと今は使えないけど開眼するものも分る」
「へー」
「ふむ‥」とベットに腰掛けたフィルを見たが

「どうなん?」
「やはり魔界側に居る吸血鬼の上位の子だろうな特殊能力で当て嵌まる」
「ほう」
「光や特定金属に弱いのも引き継いでいるな、長所も幾つかもっとる」
「それは?」
「まず、回復力だが想像を絶して高い、倭でお主が被弾したろ」
「ええ」
「あの程度なら一分内くらいで治る」
「‥マジデ」
「たぶんマジデ。ただ先にも云ったが治す変わりに無茶苦茶備蓄エネルギーを使うなぁ、それと痛覚も鈍い。多分被弾してもあんまり感じないだろう」
「割りと便利ね」

「それと短距離なら飛べるはずだな、もう一つは魅了も使える」
「魅了??こないだの妲己みたいな?」
「うむ、操るというよりは相手の感情を操作する感じか、それほど強力ではないな」
「飛べるもいらないんじゃ‥自力跳躍で軽く10メートルくらい跳んでたわよね?」
「そう云われるとそうじゃな‥まあ役に立つ立たないは其れほど問題ではないか、あまり気にするほどではないな」

そして倭の時の疑問も解消する為続けて円も調べた

「‥」
「なにその沈黙」
「あーいや、結構引き継いでいるのだが、凄く半端だな」
「どういう事よ」
「対象に掛ける治癒、道照らし、遠くの相手に言葉を飛ばすもできる「ハズ」なんじゃが」
「使えないわよ‥」
「まあ、意識して訓練すれば遅かれ早かれ開眼するじゃろ」

「で~、半端てのはどういう事??」
「治癒はそもそも仙術があるしいらんだろ、道照らしは多分かなり近くないと利かない遠くまでは見えん、相手の頭に直接伝心するのも限定的だ、例えばウチとかフィルとか近い人間だけだろ」
「ほんとに半端ねぇ‥、ま、別にいいけどそんなに戦闘に使え無そうだし」
「ふむ、まあ、暇じゃろうし練習してみたらどうだ?」
「それもそうね」
「で~次にじゃが、フィルに土産じゃ」

と言ってヤオは円錐の小さい小瓶、ビーカーというか
試験管の様な瓶を3個渡した

「なにこれ、綺麗」

フィルもそう言った通り、瓶の中に液体これが薄ピンクで振るとキラキラ光る

「上から適当に甘露の実をもいで果汁絞ってそこに入れた、お主の場合何をするにも強烈に体内エネルギーを消費する、それを補う物だ、腹減って動けないほど消費したらそれ飲め、おそらく急速充電が可能だ」
「へー、分った」
「そんなの勝手に持って来ていいの?」
「どうせそこいらじゅうにアホみたいに生る。無くなったらまた取って来る、ただ行き来が面倒じゃ無闇に使うな」
「具体的にどのくらい効果あるのかしら?」
「人間で言うと餓死直前から健康状態まで回復した例がある、ついでに言うと結構美味らしいぞ」
「美味しいんだ、飲んでいい?」
「ダメです」
「云うと思って味見用に一切れづつ持ってきた」

どれどれと円とフィルは口に放り込む
反応は其々な様だった

「あまーい!」
「私はちょっと‥」

所謂、糖度が激高い果物に近いのでフィル以外にはイマイチだった、ちなみにヤオも辛党なのであんまり食べない

「でもこれどう補助になってるのか実感がないのだが?」
「そりゃ空腹でも無いのに実感ないだろ。ただ、生物の生命維持に必要なモンは大抵入ってるそうだ、しかも即エネルギー変換される」
「そーなんだ」

「で~今後だけど」
「うむ、また暫くここでいい」

実際にフン族からの戦火は三年程まえから継続しているのだが西暦450年、西側での連合に近い形になり、所謂「シャロンの戦い」とか「カタラウムヌの戦い」とか呼ばれるフン族と欧州連合での防衛戦に近くなる

小競り合いの拡大、各地地域戦の後451年、西と東で戦力を結集して現在のフランス北での決戦が行われる事になる

「この戦争はあまり関係ない、戦術的に一応西側が勝つし干渉は無い」
「では?」
「うむ、その後東フン族と西側で一時撤兵交渉が成されるこれを妨害する道がある、まあ、細かい話をすると、ローマ教皇が平和的解決に望みそれを成す訳だが」
「なるほど、分った、その教皇への妨害があるのね?」
「うむ、それが達成されるとかなり後々まで響く、規模の割りには大きな影響とも云える」
「それは中々重大ね」

「そじゃな、典型的な「一部で全体に大きな干渉」を起こせる、相手からすれば効率的な事件にあたるな」
「ところでローマ教皇、て?皇帝制度じゃなかった?」
「カトリックが復興して信仰は寧ろ拡大している、教会は教会、皇帝は皇帝で政治じゃよ現在は」
「ちょっと前まで弾圧してたのに‥」
「ちょっとて程でもないがなネロの時から何年たっとる」

翌日には再び三人で街を出てローマに直接向かう事と成る、ここで旅ながら円は自身が持っている懸念もヤオと話した

「それ程不安、という程でもないけどさ」
「うん?」
「フィル、現時点でもめちゃ強いけど色々教えていいのかなぁ‥」
「ああ、後で裏切りの類か?そうなると確かにかなりの強敵にはなるな」
「そそ、元々強いのに更に鍛えていいものかどうかね」
「ウチが見た所、あの子は見た目に反してかなり情が深いな、多分お主にくっついてくるだろう」
「そーなんだけどさ」
「まあ、仮に敵に回ったとしてもウチらと敵対する事は出来ない、それと、使徒が神を殺す事も出来ない」
「それは心理?」
「それもあるし、制限が掛かる、ウチの使徒と成った時点でウチを殺す事は不可能だし、その行為によって使徒でも無くなる」
「具体的にどうなるの?」

「本来神仏は大体死なん、転生するだけだし、これを「死」とは言わぬ、特殊な武具の類とかで消滅させること、これが存在の消滅だが、そもそもお主らはその手段を持たない」
「成る程、活動出来ないくらいヤオを傷つけても、それは「死」ではない、そしてその状態に追い込んでも私達は使徒としての力を失う」
「そういう事になる、死から復活の「間」がウチらにはあるが、その「間」血が絶えるのでウチの血を貰って使徒に成った者もその力も効力も失う、まあ、尤もそれを成した者も居らぬのでそう決まっている、としか言いようが無い」
「そっかー」

「その辺りも別に心配しとらんがな」
「どうして?」
「んじゃ、試しにウチを殴ってみたらどうだ?と云ったら出来るか?」
「‥少なくとも私は無理‥」
「じゃろ?」
「ん?という事はヤオが敵に倒されると非常に不味いのでは?」
「そうじゃよ、だから「守護者」なんじゃよ」
「あー‥分った、最善を尽くす」

「ま、そこもそんなに気にしなくていい、そもそもウチを殺せるのもそれなりに道具とか準備とか能力とか要る訳だし」
「それもそうね、けどまあ、相手がそこを突いてくる可能性も考慮しないとねぇ」
「そうじゃな、備えてあると無いとでは大違いじゃし、ただ、その武具とか術とかある相手も相当な相手だあまり心配せんでいい」
「まあ、神殺し、なんてありえないわよねぇ」
「無い訳ではないが、ウチらに関してはあまり気にせんでいい、人界での綱引きである分にはそこまで大物に会う可能性は高くない」
「わかった」

その後一行は再びローマに入り
食事を取りながらヤオは詳しい状況説明を行う

「この後東西で決戦があるが、それには西側、欧州連合が一応勝つ」
「ふむ」
「だが、これは無視してよい。問題の干渉が起こるのはその後、フン族がローマへ軍を進め、これに対してローマ教皇レオ一世という者が直接相手アッティラ大王に会い、平和的解決を行う」
「成る程「アチラ側」からすればそれが困るというわけね」
「まあ、そうなんだが‥」
「何??」
「この一件でローマ教皇の権威と名声が高く成りキリスト教の一層の強化が進むんじゃよなぁ‥」
「何か問題が?」
「それはまぁ、更に後の話しだからどうでもいいが」
「??」

「それは兎も角、今回のウチらの仕事もそう単純でもない」
「教皇の護衛?になるのよね、確かに楽でもないわね、また潜入とか接触とかが要るだろうし」
「んー‥どうなんだろうなぁ‥」とヤオは虚空を見つめて腕組みして唸った

その隙に料理が運ばれて来て
早速フィルが手を付けた

「食べていい?」
「どうぞ。ところで「血」の方はどう?」
「うん、なんともない」
「抑制は成功したみたいね」
「まだわかんないけど、今の所ないみたい」
「そか」

ヤオもどうやら道照らしの確認が終ったらしく
料理に唐辛子粉を盛大にかけはじめる

「教皇もそうなんだが、別働の類もあるぽいな、ただ、そっちの方はイマイチ本筋と逸れている為予想予知でも明確ではない」
「今の所、そっちの別働隊の類とかはどう動くか分らない、そんな感じ?」
「うむ、基本的に本筋の所と関係ない道は曖昧じゃ、だが、こっちも放置は出来ぬかな」
「そうねえ、おそらく本隊が失敗した場合の用意もしている、そんな所だと考えればいいわけね」
「そうじゃな、で、作戦の方だが、幸いこっちも二分割出来るし、本隊の方はフィルにやってもらおう」
「いいよー(モグモグ」
「なんで??」

「元々見た目西洋人だし子供、教皇周辺に近づくのは悪くないのと、この子は感情制御が出来る、堂々と正面から接触できるし」
「成る程、一理あるね」
「で、円はもう一つ方の警戒か潰すで良い」
「明確ではない、の理由もあるしね、多分あの二人のどっちか出て来る可能性ね」
「その可能性を考えると円は別働を担当したほうがよい」
「わかった」
「それとフィルに関しては事の前にある程度特殊能力を使える様にしてもらう、まあ、それほど難しい事ではないが」

「フィルは使った事あるの?」
「あるのも初めて知った‥」
「うむ、だからある程度練習してもらう」
「うん」

そこで一同はお役目前にフィルの特殊能力の特訓を始める、元々使える術なのでそれ程難しい事ではない。

先にヤオも見通した通り、魅了と言っても別に強力なモノでなく、暗示とか相手の感情をどっちかに操作出来る程度だが

こうした役目では寧ろ表を担当するに非常に有効だったと云える、練習は円やヤオ相手で無く、街に出て買い物のついでの会話に混ぜて、狙って相手の好感や信認を得るという簡単なモノだ

一週間続けて試した後、これは有効だと同行した二人も確信を得た

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