混血の守護神

篠崎流

文字の大きさ
上 下
41 / 53

第二適正

しおりを挟む
「どこ?」
「あの、聖堂ぽいところ」

確かに窓という窓が板を打ち付けてあり、日光は遮断されているし、一番デカイ建物だろう、事前情報の通り、と云えばそうだ

「兎に角、行ってみるか‥」と円らは建物に向かった

聖堂ぽい、と言ったが実際聖堂の類だろう、長椅子が左右4段並べられ正面奥にそれらしい祭壇も見受けられる

日の光は略入らず暗いが見えない程でもない

「きったないな」と思いつつも直ぐに周囲を確認、ここでようやく円も微かに何か居るのは掴んだ、が、正直小動物かと思う程「気」が小さい

「居るのは判っている、出て来い」と円も奥に向けて云った

五秒程静寂だった、正直自身の感じた気だと人かどうかも怪しんでいた故、半信半疑だった、だが、瞬間、祭壇奥から「何か」が天井に向けて飛んだ

「な、なに?!」

咄嗟に円は左に、ヤオは後ろに下がって視界を上に移すが目を向ける間にもう、そこには居ない

右、左と黒い影が飛び、最後に円に上から直進して飛び掛った、僅かに光を反射して姿を直視できた、そう

「人!?」である

円もかわしながら右に飛び、長いすが並べてある中央、通路に出て陣取り、トンファーを抜くと同時右手に構える

次撃は円の左後方からの一撃、殆ど見えてなかったが「察知」で来るのだけは分って体を折って避けたが左肩に痛みが走った、すれ違い様に斬られた感覚だ

「ぐ‥」と思わず声が出て、即座飛び退って出入り口側へ下がる
「こいつ早過ぎる‥、室内じゃ無理だ!」

とヤオにも声を掛けつつ転がり出る様に
建物の外に出て迎撃体勢を取った

10秒程して相手も外を伺う様に出て、ここで初めて地で対峙する、驚いて円もヤオも云うしかない

「な!?子供!?」と

そう、扉の陰から半分覗き込む相手、背丈は150cmあるかないかくらい。金髪、青い眼の女の子、と言っていい年齢だろう

「なんなの‥」

彼女は一度陰から空を見た後テクテク歩いて外にでて対面した、右手に果物ナイフ、くらいの刃刀を持って無表情だった

が、次の瞬間には再び飛ぶ今度は真正面からだ

「ちょっと!?」と云いつつ相手の繰り出すナイフの軌道に咄嗟に旋棍を割り込ませてどうにか防いだが威力も尋常じゃない

体が流され、受け流す為に左に回転して整え体を作るが反撃する前に、相手がまた右に飛び

周囲にある木や建物を足がかりに使って上下左右へ飛び反動を使いながら円に突撃する

円ですら捉えられないのだから、尋常なスピードではない。だが、戦い方自体は素人というか単純だ

地面なり、障害物なりを使って左右どちらかに飛ぶ、蹴った反動を使って目標物に襲い掛かり、すれ違い様にナイフで斬る、だけだ

相手は何度目かの左右跳躍から円の右から襲いかかる、これに円は左手で腰紐を掴んで右に回転

相手の直進に合わせて、流星鎚を投げ入れた、これは正確に相手の顔面に飛んで行ったが

少女は空いている左手で錘の部分をボールでもキャッチする様に掴んで払い飛ばした

円もこれを素早く離し、真後ろに跳躍、少女も一旦地に滑って着地し、一瞬睨み合いの硬直が訪れた

「なんて身体能力‥人間に見えるけど‥違うの??」

独り言に近い呟きだが、相手は応えずヤオが応える

「生物、には違い無い、が、明確に妲己の様な妖怪の類でもないな、化けてる訳でもない」
「どーすんのよこれ‥」
「大人しくなって貰わんと探査のしようもないな‥」

と云われたが、正直、円でもこれを取り押さえるのは非常に厳しい、たぶん、今までで一番難題だろうなと思った。

だが「生物」「戦い自体は素人」の部分で閃きはあった。棍を仕舞って、というより投げて放棄し、今度は素手で構える

少女は円の体勢を見てジリジリ右に動きながらまた、一瞬で消える速さで飛んだ

円は微動だにせず、その場で待った、そして大きく呼吸し「察知」を使う

「どうせ追っかけても追いつけない、眼で追っても捉えられない、だが、狙いも戦い方も非常に単純だ」

数度駆けた後、またも左から円に飛び掛る少女
そこで「ここだ」と見切った

「横に飛ぶ線はどうすることも出来ないし当らない、だが、こちらに向かってくる点ならそこに合せる事は出来る」だ

要するに、相手、少女が横移動から直進に転換して来る所に、丁度お互いが向かい合う様にお互いが前に出た

そう、流星錘を放った際、正確に正面を捉えた、唯一捉えられるとすればここだろうという目算

そして相手の行動、攻撃は全て同じパターンしかない後は円が移動先に立ちはだかればいい

相手の接近しながらの斬り、これを硬気功を展開しながら進路に左手を割り込ませて逸らしつつ、右手でデタラメに近いが掌を出した

別に相手を正確に捉えて打つ必要も無い何しろ相手は「突っ込んでくる」のだ、そして武器は粗末な小刀、斬られても円の硬気功を通りはしないのだ

この狙いは略思い通りになった、ただ、戦いというちゃんとしたやりとりではない、進行する進路上に円が体ごと飛び出して塞いだに過ぎない

少女の放った斬りは円の左手首を掠め斬ったが、同時円の放った右掌が相手の左肩付近にラリアットに近い形だが入って少女は突っ込んだ勢いのまま、後にひっくり返って地面におっこちて仰向けで滑って止まった

円は即座に相手の上から馬乗りに近い格好に固めて軽く掌打と気を入れて失神させる、正直それすら通じるのかどうか謎だったが上手く行って少女はぐったりとした

円も後ろに尻餅をついて呼吸を整える

「疲れた‥」
「お疲れさん」

とヤオと間抜けな遣り取りをした後。再び少女を聖堂、屋内に運んでヤオが探査を始める事になった。見た感じだと、熱を測って額に手を乗せているだけにしか見えないが

「うーん、それにしても美少女ね‥」
「見た目はそうじゃな」
「で、一体なんなの?‥」
「んー‥‥、こりゃ混ざりモンだな」
「‥はい?」
「ハーフじゃよ、人と魔とかの」

「そんなん居るの?いや、不思議でもないのか、どっちも侵入してきてる訳だし」
「そうじゃな、人との間に子供作る例もあるんじゃろな」
「種別とか分るの?」
「んーー‥、ウチの探査じゃ限定範囲しか分らんな、ただ特徴から、ある程度は選別できる」
「ふむ」
「というかお主の仙術、気でも分る様に生命体としての力強さは薄いな、体の熱も少ない、多分元は不死系の何かじゃな」
「確かに、気をあんまり感じない、最初小動物かと思ったし」
「妖気の類も略無いな、異常な身体能力、地元伝承それとホレ犬歯がある」

とヤオは寝ている少女の上唇を持ち上げて見せた
確かに「牙」の様な歯がある

「うわ‥」
「確定、とは言えぬがワーウルフか多分吸血鬼の混ざりかなんかじゃろ」
「何それ?血を吸う?蚊?」
「血吸って生きる魔族、かなり大物だな倒すのが非常に難しい」

所謂現代で認知されるヴァンパイアである。円が素っ頓狂な事を言ったのも当然で、まだ、そう認知されていないし種類分けもされていない為、余人は略知らないというだけの事だ

ヴァンパイアとかドラキュラという名称自体ブラムストーカーの小説で多く広まったが、それ以前の古代でも似た物はある、古代ギリシャやバビロニア。生死の間に居る者とか、単純に死から生き返った者等、基準は曖昧で、ヨーロッパ各地に伝承として残っている

「ただ、本来の吸血鬼で上位者ならウチらでも相手するのが難しいがこれはそうでもないな」
「人間の特徴も引き継いでいる、て事ね」
「しかし、コレどうしたもんか‥」
「どう、て?」
「こっちで生まれたモンじゃし、特別害は無さそうなんじゃよね」
「ああ‥前云ってた「人間界の範囲」て事ね」

「そうじゃな、それに今までの情報だと誰か殺している訳でもなさそうだし処分の類は出来ぬなコレ」
「と、とりあえず話しを聞いてみましょう」
「そうじゃな‥」

そうして武器だけ取り上げ寝かせたまま暫く待ったが起きなかった、円らもそのまま保存の豆とかヤオには干し肉の類をあげて適当に座って食ったが。少女が起きたのはその直後である

「う‥」と声を上げてゆっくりと上半身を起こしてこちらをみたが、先ほどのまでの戦闘が嘘の様に静かだった、そしてじっと何かを見たままだ

「食い物を見てるのか??」と思い

円も保存食を出して少女の面前に出して問うた

「食べるの?言葉分る」と
「うん」とだけ云って豆煮のペーストと干し肉をガツガツ食った

あるだけ平らげた後改めて対座して話した

「貴女お名前は?」相手が見た目子供なので自然とそう言葉になった
「フィーラー」
「性は」
「しらない」
「フィーラー‥か‥」

円はそれだけで大方の予想がついた。円は自身がここまで来た経緯、地元民からの情報、神隠し、そして原因は貴女なのか?という所まで率直問うた

「そう、かも知れない」
「なんでまた」
「血、偶に欲しくなる、無くても困らないけど。そういうとき、少しだけ貰う」
「衝動という事?」
「うん」
「無くても困らないとは?」
「皆が食べてるものだけで足りる、別に困らない」

「どうして一人なの?こんな所で」
「昔は人と住んでた、でも血を吸うから追い出された」
「それ以前は?」
「覚えてない、気づいたらどっかの家の子だった」
「そうか‥」
「貴女達、会いに来たと云ったどうして?」
「うーん、それが私達の道に関わりがあったから、かな」
「なんだかわからない」

「そうね私達もよ、でも安心して、貴女が暴れないなら。こっちも何もしないから」
「わかった」

そうして少女を寝かせて円とヤオは今後を話した

「つまり、元々人間と暮らしてたが特殊な行動だった為追い出されたと。人の世には関われないから、一人でひっそり偶に血だけ貰いに来る、で、神隠し。でも血を少し貰うだけだから負傷も何もなし。神隠しの人間は直ぐ戻ると」
「そういう事じゃろな‥」
「多分実の親も捨てたか去ったか、かしら」
「何で分る?」
「名前よ、おそらくドイツ語ね、Fehler「間違い」だろう」
「ひっどい話しじゃな」

「ええ、けど困ったのは今後ね」
「このままでも世に影響はないが。なんか大量殺人する訳でもなし、基本あんま害はない。このままひっそり生きて何れ寿命で死ぬ、それだけじゃな」
「けど干渉もあるのよね、しかも私達に」
「またなんとか成らないかなぁ、とか思ってるのか?」
「正直言うとそう」

「ふむ、実はウチも懸念というか考える事はある」
「それは?」
「多分コレ使徒に出来る」
「は?!」
「お主やその前のを見つけた時の予想予知の見え方が同じじゃ。分岐無し、道無し、だが、ウチにも関わるし見える物も。先の妲己と違い「絵」がハッキリしている」

「でも魔の血が入ってるんでしょ?、しかも血吸いだし」
「んー、ある程度抑制は出来るかも知れん。薬で緩和出来るだろう、本来の吸血鬼とはかなり逸れた種、ハーフだし、まあ、調整は要るだろうが」
「それならそれで私としては嬉しいけど‥才能としてはどうなの?」
「力の面では問題ないな、それに精神的にもかなり強い」
「だろうねぇ、どのくらい生きているのかにも寄るけど。多分相当生きてるよね?最初から心が壊れる懸念は薄いし」
「だろうな」

「けどいいのかなぁ」
「前にも言ったがどっちの側というのは問題にならん。勢力を変えるやつは天でも魔でもあるし。そもそも選ぶ、自体ウチに全権委任されている。それと天魔も元は一つの神から生まれている」
「え?!それって、最初の親とか元は同じって事?」
「天には始めの書という歴史書がある、それによると元は一人の神から生まれ、天と魔に別れた」
「そうなのか」
「と、一応されている、ゆえにどっちの側と混ざっているからどうこうというのは多分問題にならない」

「なら任せるわ」
「うむ、後は‥」

そうして円とヤオは話し合った結果と調整を決め、実際の話しの部分は円が少女と交渉した

そして少女は元々「人」としても生活していただけに言葉も通じるし、常識も通じる

「と、云う訳で私は使徒と言う事になっている」
「それって神の使い??」
「そう、でこっちの子は地域神みたいな」
「じゃあ私に会いに来たのは」
「そういう事になるね、一人で生きていくのもいいけど、私の感情とか考えだけで云えば、私達と一緒もいいと思う」
「そう‥だね」
「条件としてはお役目がある、それをこなす事になる、もし、途中で嫌とかこなせないとかなら元に戻すという事になる」
「今まで通り、ていう事?」
「そうね」

「でも私、血吸いだけど‥人とも違うし」
「それはある程度なんとか成るらしい」
「ホント?」
「ええ」
「うん、やってみる、このままよりずっとマシ」

とそれを受けたのである。こうして円と同じ様に、丸薬を飲まされ安定するまで寝てるだけではあるが

ヤオは彼女が寝て起きるまで、再び体中に手をかざして探査していた、それと同時、単なる探査では無い事も告げた

「大丈夫そうだな、後は調整する」
「どゆこと?」
「彼女の言ってる事は事実らしい、別に血が生命維持に必要な訳ではない」
「ほほう」
「元、どっちかの親の側の名残りみたいなもんで、一個の生命体として、人としての部分で維持は可能だ」
「つまり通常の食によるエネルギーの調達で問題ないのか?」
「そういう事だ、だから単なる欲求で血吸いは抑えられるし、それ程難しくは無い、これを調整する」

「そんな事出来るの?」
「血吸いが生命維持に必須なら難しいが、無くても別に維持出来るならそれは単なる欲求、「欲しくなる」の部分だけ封じてしまえばいい、何か特殊能力を封じるより遥かに楽だ」
「おお‥」
「ただ、細かく調べたが欠点もそこそこある」
「ふむ?」

「恐ろしく肉体スペックは高いし回復力も尋常ではないが、その分燃費が悪い、それから使徒としての役目をこなす上で戦う場合、なにか与えないと厳しいな、そんでたぶんお主の様に仙術は無理じゃろ」
「確かに、異常に気力が少ないもんね、使えなくないだろうけど、一発毎に補給する事になりそう‥、上限もどこまで上がるのか‥」
「ま、先の話しになるが、その意味補給剤は必須だな」
「後は追々かなぁ」
「そだな、実際どの程度かは直に見ないと分らん」

としたため彼女が昼頃起きてから町側に戻った、これも同意を取って名前を変える事にした

「フィーラーて名前も良くないしフィルにしよう」と円が云った為だ

彼女も意味を知っていて、それでいいよとした、が、昼間の移動の際もう一つの欠点も発覚する

「熱い‥」
「へ?、寧ろ寒いくらいじゃ」

そう、基本吸血鬼は日光に弱い。フィルはハーフだけに、そこまで影響は無いが、明らかに疲れた風だった、実際ヤオも彼女を診て

「ふむ、吸血鬼は基本夜行性じゃしの明らかに弱体化しとる」
「どのくらい??」
「半分くらいまで力が落ちとる」

と診断した為直ぐに道から外れて森に入りシェルターを作って日陰に休ませた

「どう?」
「だいじょうぶ‥」
「ふむ、日光に当らなければ問題ないのか」
「うん、昼間苦手」と当人も言った程度らしい

「旅用のマントかフードがあれば平気かなぁ熱そうだけど‥」

滞在していた街の宿に戻ったのは結局二日後だった

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

空母鳳炎奮戦記

ypaaaaaaa
歴史・時代
1942年、世界初の装甲空母である鳳炎はトラック泊地に停泊していた。すでに戦時下であり、鳳炎は南洋艦隊の要とされていた。この物語はそんな鳳炎の4年に及ぶ奮戦記である。 というわけで、今回は山本双六さんの帝国の海に登場する装甲空母鳳炎の物語です!二次創作のようなものになると思うので原作と違うところも出てくると思います。(極力、なくしたいですが…。)ともかく、皆さまが楽しめたら幸いです!

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

吉宗のさくら ~八代将軍へと至る道~

裏耕記
歴史・時代
破天荒な将軍 吉宗。民を導く将軍となれるのか ――― 将軍?捨て子? 貴公子として生まれ、捨て子として道に捨てられた。 その暮らしは長く続かない。兄の不審死。 呼び戻された吉宗は陰謀に巻き込まれ将軍位争いの旗頭に担ぎ上げられていく。 次第に明らかになる不審死の謎。 運命に導かれるようになりあがる吉宗。 将軍となった吉宗が隅田川にさくらを植えたのはなぜだろうか。 ※※ 暴れん坊将軍として有名な徳川吉宗。 低迷していた徳川幕府に再び力を持たせた。 民の味方とも呼ばれ人気を博した将軍でもある。 徳川家の序列でいくと、徳川宗家、尾張家、紀州家と三番目の家柄で四男坊。 本来ならば将軍どころか実家の家督も継げないはずの人生。 数奇な運命に付きまとわれ将軍になってしまった吉宗は何を思う。 本人の意思とはかけ離れた人生、権力の頂点に立つのは幸運か不運なのか…… 突拍子もない政策や独創的な人事制度。かの有名なお庭番衆も彼が作った役職だ。 そして御三家を模倣した御三卿を作る。 決して旧来の物を破壊するだけではなかった。その効用を充分理解して変化させるのだ。 彼は前例主義に凝り固まった重臣や役人たちを相手取り、旧来の慣習を打ち破った。 そして独自の政策や改革を断行した。 いきなり有能な人間にはなれない。彼は失敗も多く完全無欠ではなかったのは歴史が証明している。 破天荒でありながら有能な将軍である徳川吉宗が、どうしてそのような将軍になったのか。 おそらく将軍に至るまでの若き日々の経験が彼を育てたのだろう。 その辺りを深堀して、将軍になる前の半生にスポットを当てたのがこの作品です。 本作品は、第9回歴史・時代小説大賞の参加作です。 投票やお気に入り追加をして頂けますと幸いです。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

東洲斎写楽の懊悩

橋本洋一
歴史・時代
時は寛政五年。長崎奉行に呼ばれ出島までやってきた江戸の版元、蔦屋重三郎は囚われの身の異国人、シャーロック・カーライルと出会う。奉行からシャーロックを江戸で世話をするように脅されて、渋々従う重三郎。その道中、シャーロックは非凡な絵の才能を明らかにしていく。そして江戸の手前、箱根の関所で詮議を受けることになった彼ら。シャーロックの名を訊ねられ、咄嗟に出たのは『写楽』という名だった――江戸を熱狂した写楽の絵。描かれた理由とは? そして金髪碧眼の写楽が江戸にやってきた目的とは?

処理中です...