混血の守護神

篠崎流

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開戦論

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呉へ辿り着いた二人はここでも近隣に滞在して様子を見たが「お役目」の部分で動く事は無かった。これはヤオが「分岐の類はあまり見えんの」と言った為である

「つまり向こうが出て来る事無し、ね」
「少なくともジャン?の様な強烈なモノは感じないな。一応ウチはこの辺りでブラブラしとる円も好きにしたらいいぞ」

そう言われて、円は思い切った行動と取った
先の長坂の関わりから再び劉備側に付いた事である

何れ曹操と孫権の決戦、とあらば近くで見ておきたい、そう思って単身潜ったが潜ると云っても容易くはない。

あくまで行くのは孫権側では無く劉備側であるが。曹、孫の決戦は劉備軍は直接呉へ来て参戦するという程ではない事

新たに「仙女」として呉に接触するのも1からやり直しに成るからだ

が、この時の幸運は知り合いを見つけられた事である、夏口から呉との共闘交渉に向かう諸葛亮を見つけたのが理由、移動の船に降りて接触を図った。孔明も驚いたが、これは寧ろ彼には嬉しくもある

「これは‥円殿、再び会えるとは思いませんでした」
「大きな戦があるんでしょ?見逃す手は無いと思ってね」

孔明はこの意図を即座に察したようだ

「では、私の護衛でもお願いしましょうか」
「助かるわ。」

護衛と言った通り、孔明は単身で行くに等しい環境で船も周りの兵も呉の者だ

「それにしても、一人で堂々としたものね」
「敵地に行く訳ではありませんから」
「でも、交渉はこれからでしょ?」
「ええ、ですがどうにかしてみせますよ」

呉へ辿り着き孔明は一日休みの後、翌日
呉の国主孫権と周囲高官との謁見、会談と成るがこれにも円は同行して出席する、あくまで護衛として

ただ呉側では既に方針が割れており、どちらかと云えば孔明にとっては不利だった。つまり「曹操と戦うか、従属するか」降伏したほうが良いとの意見が多い

これは当然の事だろう、何しろ戦力差は5,6倍、曹操南軍だけで30万以上全体兵力では更に開く

如何に防衛側だとしてもどうにかなる差ではない、無意味に戦うより、降伏して従属したほうが生き残りの確率は高い、単に「首脳部」が生きるだけなら

孔明はこの流れをひっくり返して交戦する側へ傾ける役目もあるが、あまりに無茶とも云える

会談は中央宮で多くの政治官、将らと合わせて行われるが
最初から否定が全般であった

「劉備殿との同盟での決戦と言っても、固定した領土も無ければ戦力も低い、それが加わった所で大勢に影響しないでしょう」
「むしろ、早期に降伏し、曹の一部として生き残りを図る方が被害は少のう御座います」

それら呉側の意見も尤もである
これを切り崩し、開戦論にもって行かねば成らない。ここで孔明も一つ一つ持論を持って切り崩す

「先の劉表殿の嫡子、劉琮殿や妻である蔡夫人がどうなったかご存知でしょう。降伏し従属したにも関わらず亡くなっております」
「‥だから我らもそうなると?」
「それは分りません。が、曹操は自らの陣営に招く者がこれまで多かった訳でもなく、極めて優位であるか優れた者だけでしょう」
「だからといって徹底抗戦論等馬鹿げた話しだ。戦力差が比較にならない、孔明殿は表面上の数の差を理解出来ぬか?」
「戦は兵の数で決まる訳ではありません」
「では、劉備軍の先の戦いは何だ?、ただ逃げただけだろう」
「一度ならず、撃退、撤退させています単なる数の問題でも、一戦目は10倍です防衛や篭城戦であればいくらでも策を展開できます」

「では、呉の勝機や策とやらをご教授願おう」
「曹軍は先の荊州の従属した劉一族、並びに夫人である蔡の一族も悉く排除していますがその一族でもある、蔡帽を自軍の水軍の将として召抱えました」
「それで?」
「曹操軍は船戦は得意ではない、この様な状況にあって一族排除した中で彼を登用するのは危険です、にも関わらず、水軍の責任者に据えています」
「それほど急を要する程、水軍の将が必要だった、つまり、元々の自軍はそこが出来る者が居ないということか」
「左様です、まして呉は巨大な川の地、必然的に戦いも船戦で、これを撃退出来ない限り本土も掌握出来ません、そこが勝機です」
「なるほど‥」

「私は呉は表面上の条件程、不利とは思いません」

ここで呉側の反戦論も空気が変わる、それでも孔明個人に対する者は居る。

それは、その論や意見が正しいかどうかではない孔明個人をやり込めようと言う個人的自尊心の問題である、が、それが通じるほど孔明も甘くない

「だが、民衆の為であればいたずらに交戦論を説くのは間違いだ、我々、国家の重臣は不戦して民に被害を出させない事が重要と考える」
「では、曹操と外交なされば良い、ですが現状に置いてどのような条件が出されるかは、先に述べた通りです」
「む‥」
「一方的な臣従が宜しければ私としては、止める理由もありません」
「そうは云っておらぬ、現に、劉備軍は民衆を率いて撤退戦を行った、民衆を守るのが義務だと云っている」
「劉備殿は慕って付いて来た民衆を守りました、確かにそうです、ですが、劉備殿を慕っている民衆と同じく呉の民が孫権殿を慕って国を治めて欲しい、そう考えるとどうして思えないのですか?」
「それは‥」
「呉の民は曹操に臣従してその下で国を治める孫権殿を望んでいるのですか?」
「それと戦う事は別だ、実害が少ないなら‥」

ここで論戦を仕掛けた側も言葉に詰まった
害の多いとか少ないとかの問題ではない事に気が付いた

「そうです、戦わず済むならそれが良いでしょう。ですが相手は既に、支配する形で動いています劉表殿の一族もどうなっているか、既に結果は出ていますし臣従した後も容易に読めます。そして問題なのは、唯々諾々として従うだけの者は結局次も無いという事です」
「むう‥」
「それに私は、別に無謀な戦いとも思っていません、先にも述べましたが、相手にも欠点が多く兵軍多ければ勝つというのは軍事上必須の条件ではありません」
「確かに」
「ですが皆さんの仰っている事も一理ありますし常識的な見解ですが、それはあくまで条件が近く、対等であればの話しです、現在の状況に置いて融和政策は上手くいきません」

「うむ‥、曹操が狙うは覇権ではあるな」
「左様です呉が不利な状況で、例えば同盟とした場合でも、かなり不利な条件や要求が成されるでしょう、やるにしても相手にこちらを認めさせなければ、この差は縮まりません」
「分った、貴官の意見は尤もだ、一時閉会とし後日改めて協議する」

そう最後に述べて会議を切ったのが呉の君主、孫権である、これで劉、孫家の会談は後日へと成った

というのも、呉主、孫権には最も意見を聞くべき相手が居る、前王、兄、孫策の義兄弟で現在の呉の都督で軍師でもある、知将、周瑜である

呉で最も知に優れた人物で戦略戦術の天才として名高く、孫権も彼の意見を中心に動く程である

別の任務あって彼はこの会議に参加しておらず、まず、決定を先送りしたのは彼の帰還を待ってから、という判断である

円、孔明は一時客室、というより屋敷を宛がわれそこに滞在する事と成った

「中々、上手くは運ばないみたいね」
「円殿はどう見ましたか?」
「そうねぇ‥今の所孔明先生の示した方向、意見に説得力があるし半々には持っていった感じかしら」
「そこは支持してもらえるのですね」
「孔明先生を否定した事なんか無いわよ、それに、意見も指針も至極真っ当だし、開戦に誘導した、とも思わないわ」
「それは?」

「曹操に従属して生き残りを図る、これは国を預かる者の思考じゃないわ。そして先の劉表殿の息子、一族もどうなっているか現実に見れば和睦してもかなり悪い条件、一方的な臣従に近くなる、これを孫権の側の臣民として助言は王を尊重しているとは云えない。仮に生き残ったとしてもね、第一、この戦況で従属した場合植民地に近いモノのなるでしょう」
「ご尤もです」

「これも孔明先生の見識と同じになるけど、兵力差が多いと云っても戦は兵の数で決まるというモノではないわ、曹操軍はどちらかと云えば北方軍で地には強いけど船戦は略無い、一方で孫権側は水上戦がメインであるし、曹操側はこれを避ける選択が無い、どこから攻めても巨大な川が領土にある」
「円殿ならどう戦いますか?」
「私に聞かれても困るけど、あえて言うなら、戦場以外の所、でしょうね後は決断は早い程いいと思う」
「どうしてです?」
「曹操は先の荊州を手中に収め、一族を悉く排除した、にも関わらず母堂、劉琮の母側の親族蔡瑁を水軍の将として任せて登用した、それほど水軍の準備が整っていないという事ねその準備が整うまで待ってやる必要も無い」
「その通りです」

「自分で分ってる事を聞くのは良くないわよ?」
「いえ、すみません、試すつもりも無いですが‥私としては仙女様がどの様な策を打つか興味が強いモノで」
「基礎で云えば、戦略、戦う前の有利をどれだけ作るかで、戦争は略決まるわ、仙人としての話しなら、私単騎で曹操を開戦前か直後に討ち取るわ司令官無き軍等、羊の集団と変わらないからね、理由は単純。それが実質的に一番こちらの兵の損耗が少なく、敵を引き込んで相手に大打撃を与える事になる」

「成る程、ですが、後者は少々無理がありますな、円殿ならではの解決法ですね」
「そうね「人間」の範囲であれば、としても多く策はあるわ、内部崩壊策、私が単騎で行くを除いても近い物、例えば工作員とかね」
「確かに」
「まあ、私に見解を聞くのも余り意味は無いわよ。戦争なんていう馬鹿げた人命の無駄使い等、愚の骨頂だと考えているもの」
「同感です、ですが、覇権を狙う者は居る。それを甘んじて受け入れる訳には参りません」

「ええ、だから人は戦うのよ、剣を突き出されたら防がなくてはならない。そして言葉が通じなければ相手から進む力を奪わなくては成らないそれが争いを作る原因よ」
「ご尤もです、やはり馬鹿げた事と思われるでしょう」
「そうね、互いに妥協点や折半案を出せれば良い、けど話して分りあえる、とは限らない。人間は愚かだもの、曹操にしても基本的には愚か者だし」
「仙女様から見ればそうかも知れません」

「統治者、としてもおそらく優秀ではないわ、何故なら、自国の民を積極的に死なせている訳だし、本来、豊かで大きな、安定した国を作るなら、これは論外よそれを怠っている、とも云える」
「成る程、そういう考え方もあるのですね」
「ええ、だからどちらかと云えば、劉備殿の方が優れた統治者でしょう自国の民を軽視しないから」
「人との繋がり、でしょうか?」

「いいえ、国の強さや拡大とは何?、それは民衆の生産、消費、拡大、生み、育てる事よ、それをやっているのはあくまで「大多数の民」なの。これを奪う統治者は私から見れば全て無能だし拡大の土台をどう理由を付けても、損なっている事に変わらないわ」
「ふむ‥今肉を食したいから鶏を殺す、に近い物ですね」
「そういう事、長い目で見ればそれを維持し卵を孵したり、卵を食べたほうがいい、永続的に安定して続けられるから、最終的な得とは何?とすれば自然そうなる、統治も同じと考えるわ」
「なるほど、ご尤もです」

「一人若者を徴兵すれば、彼は死ぬかもしれない、彼がやっていた畑の農作物は?、将来得られる野菜は?彼が得た富は?それによって拡大するかもしれない事業は?何時か結婚して作るかもしれない子供は?私から見れば、これらの全てを損なう、つまり国とっての「拡大」を奪っているに過ぎない、守る戦いなら仕方無いが、逆に自ら起こす戦とはそういうもの」
「確かに」
「でも、まあ、そういう哲学議論は今は不毛ね」
「いえ、とんでもない、実に分りやすく良い答えだと思います利益、というモノに対しての価値観が変わります」
「そう考えられるなら、役にたったのかしらね」

「ですが、一つ疑問があります」
「ん?」
「だとすれば、我々の大儀に寄る戦いも不毛なんでしょうか?」
「そうねぇ、臣従するならするで人命の無駄使いは無いでしょうね、けど、それは相手に寄るわ、孔明先生の開戦論は否定しないわ」
「確かに曹操の天下と成った場合、臣民が安定するという事には成らないかもしれませんね」
「可能性で云えば寧ろ悪くするかもしれないし大陸を治めたら、治めたで内治に励むかと云えば、それも何ともいえないわね、更に外の世界、例えば異民族なんかにも外征するかもしれない、実際、北東の烏丸を得て、騎馬軍に徴用しているし」
「だからこそ、防がなければならない、でしょうか」

「信用度、の問題かしら、これまでの行動から見て、次を任せられる者とも云い難いわね、先の見解の通り、私は民を軽視する者や争いを産む要素は嫌いだし、迷惑でしかないわ。だから国の楚は民である、を体言してきた劉備殿の方が好きではあるわ」
「同感です、円殿の見識をお借りすればですが、大多数の民を中心にした場合しなかった場合より、多く、安定、発展を齎す、ですね」

「利益、だけを見た場合でも、人多い方が生産も消費も多いわ、となれば、お金も多く動くし、それだけ豊かな国家、とも云える。実際、人口が多く、平均所得が多い程、国の税収は良くなるし強い国とも言える、個々が其々平均して豊かで有るほど緊急時の、例えば戦にしろ、災害にしろ、耐えられるわ」
「民、個々人が貧民であれば確かに何か有った場合、非常に脆いでしょうね、だからこそ先人は戦は最後の手段である、そう書に残したのでしょうか」
「ええ、そういう事、武力を否定する気も無いけどあくまでそれは、自己防衛の手段であるべきよ、戦その物が自国の「人」を損なう要素にしかならないもの」

「なるほど、利益という観点から見ても正しくありますな、兵は軍、国の大事、損なう手段は避けるべきである、行うのであれば、可能な限り少なくする、ですね」
「そう、でも、決定付けはしない方がいいわ、曹操が覇権を成して暴政かは分らないし、逆に劉備殿の悲願、漢王室復興も安定した物が成されるとも限らない、権力を握って翻る例も多いから」
「秦もそうですし、漢も半数の時期はそうですね」
「ええ、何が災いし、幸いとなるか、これは実際その時に成らないと分らないし治める者、あるいは失政の場合自己諌める法を作るかどうか、等その後の部分が多いから」

「なるほど、しかし円殿の見識は時々、基礎的部分を思い出させてくれます」
「基礎的部分?」
「戦う前の優位、如何に自国の兵の被害を防ぐか、です、避けられない戦いならば、自国の疲弊を避ける」
「兵法三十六法ね、実際今やってる外交交渉も借刀殺人だしね」
「左様です、もう一つは円殿と私は基本的に同じであるという事です、その見識が得られたのも今後の自信に繋がります」
「ええ、今後ね。呉王は必ず都督の意見を聞く、彼待ちで会談も持ち越した」
「はい」

「余程の近視眼で無い限り、この戦いを避けて、我が身、主の安泰を図れば良い等とは成らないと思うわ」
「やはり円殿ともそこは合致しますか」
「曹操と会談して交渉出来、尚且つ和という形で組めるならそれでもいいわ、でも、彼は自分の力と統治に寄る制覇を望む。第一、彼と戦った者は殆ど処分されている、やらないで済むなら良いけどそれは難しいと思う」
「左様です、仮に成されたとしても、友とは成らないでしょう」
「そうねぇ‥同盟と言っても条件もある、対等に近い物を作るなら相手から見て「戦うが不用」である必要が要る」
「その条件は?」
「同程度の戦力か、敵としては強い場合、君主同士の繋がり、あるいはどちらにとっても得がある事かしら?」
「同感です」
「けど、この条件は今は不要ね、劉備軍には呉が必要だもの」
「其の通りです」

そうして二人の話しに近い見解が示された所で一時離れていたヤオも合流する。屋敷を訪ねた、では無く、何時の間にか対座していた二人の隣席に座っていた、だったがこれには気づいた孔明も流石に驚いた

「難しい議論は終ったかの?」と声を掛けられてギョッとした程だが、彼女も円の同行者である以上「それも当然か」と直ぐに取り直した

「これは、ヤオ殿でしたな、お久しぶりです」
「うむ」
「そういえば‥新野で初めてお会いした時も長坂でも同行されていましたが円殿とはどういう関係で?」
「ん?、んー、なんじゃろ?同胞の士かの?」
「という事は貴女も仙術の?」
「多少な、円程武に寄っておらんが」
「それはまた興味を誘われますね、どの様な術を?」
「占いや、ウチも治病じゃな、この点は円より優れている」
「ほほう」

と、何時の間にか話しの主軸と興味がそっちに移った様だ。結局そのまま2者は孔明の勧めあって滞在、同行する事と成った

というのも孔明自身も円もヤオも「長く成るだろう」と同じ見解があり、幸いな部分もあったからだ

つまり、孔明と円は開戦論に持っていく為には簡単ではないとあり、ヤオの長く成るは二人とは違う意味であった為である

ヤオの理由は円と二人になったときボソっとこう云った事にある

「ふむ、このまま諸葛殿に張り付いていた方が良いな」
「そのつもりだけど?態々言うからには、何か懸念??」
「まだハッキリせんが彼に良くない光と道がある」
「まさか‥分岐??」
「分らん、まだかなり先のようだが身辺になるべく居た方がいい」
「分った」

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