混血の守護神

篠崎流

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止まれない故に

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円はその旨を自ら教師を務めた漁師一家に関わりのある所から一応の形で訪問し「キナ臭く成ってきたから私も旅に戻るよ」と別れを伝えた、その時はそれで済んだが、それでは済まなかった

円が後日、自身の荷造りをして終え「次はどこへ行こうか」と情報を整理していたところだった

まだ0世紀付近の時代でそこまで詳しい地図は無く「世界」も別な地域に行けば分りはしないそれだけに移動の度一定量の新鮮さもあったが。こうなると特に目的も無く徘徊するのも困る事もある

「進むのは良いとして、次の目的も情報も薄いのも不確定ではある」

という点だが、その時は考える必要は無い事態が発生する。円の自宅に夜、先の漁師一家の娘クロエが訪問した事にある

「パパが兵隊に取られる!」と

そう、そもそも「志願」ではない「徴兵」だ、彼もまだ30前だし足りなければそうなる

「馬鹿げた話しだ。民は民の生活、生産をしなければ国が疲弊するだろうに」

円もそうとしか思わなかった。これは当然の事で、戦に民を大量徴収すれば、それら民が行っていた部分、例えばクロエの父なら、漁師が一人減る。

其の分、今で言う一次産業の担い手、つまり魚介類を取って売る人間が減るという事だ、それは国内生産を自ら削っている様なもの

短期で生きて帰るならいいが、それも可能性で云えば多くは無い、まして戦争である、ついでに言えば、死、イコール人的資源の浪費とも云える

何しろ、口も減るし、家族の一角がそのまま消失する訳だ、円はあらゆる現存する学の知識の収束から既に、その所に気が付いて居た、資本システムの基礎に

円も今更関わるつもりも無かったがクロエに泣いて懇願されると「どうにかしてやりたい」と思った

「分った、私も国を出るつもりだ、一緒に行こう」
「先生!」とクロエも喜んだ

円がそうしたもの意外でもある。これまで拘らず様々な物事を「知らぬ事」として通過してきた

だが、ここに来て、少ない短い間だが個人的交流を持った、それが結果、この決断をしたとも云える

もう一つ、それを軽く決めたのもこれまでの自分の積み重ねがあったからだ

「どうせ東側に戻れば前の住家もあるし、金も隠してある、捨てるよりクロエらの家族に譲って、使ってもらえばいいだろう」と思った事

これが「戻る」キッカケだった

其の日の内に一家に会い、伝えたが両親もそれを歓迎していた、どうせ夫を取られれば糧が難しい、妻と娘しか居ない、そもそも戦だ。生きて帰る保障など無いし、単純に確率で云えば五分になる、この家族には其々が其々「誰かが欠ける」という選択は無かった

時期と周囲を見つつ過ごし自身らの荷物も必要なモノを少しづつ、移動商人に預けて東へ送る

最終的には自身らが「船」を使って東へ抜けるというものだ、イタリアから東海は今で言うクロアチアや再びルーマニアに行ける為、船が一番楽と考えた、陸路では結構掛かるがショートカットできるという訳だ

その「船」での離脱を図ったのは翌週、徴兵と言っても随分先の話しという訳でもなく、それなりに早い方が良いという事

夫は自身が使っている舟を使い、そのまま海へ東に逃れるこれに一応円も同乗した

何しろ「逃亡劇」は円は初めてでは無い、過去の宜しくない記憶もまだ新しい、だから安全が確認出来るまで付き添う事に決めた

ただ、これは過剰な心配と言って良いだろう、耀の時とは違い「たかが一民」である

仮に発覚したとしても、態々追いかけては来ない、軍もそこまで暇ではないし、裏切りは許さぬという以前の様な、アホな法律がある訳ではない

「見捨てられる様な、馬鹿な治世をしなければ良い」としか円も思わない

結果20日程掛かったが大きなトラブルも無く円が欧州に来てから最初に住んだ、あまり宜しくない家へ辿り着く、ただ、それでもまだ問題はある

故に、そのまま半年程彼らと同居しつつ自身は「先」の整えを行った

まず、クロエを中心に語学を簡単に教え、とりあえずここで生きるのに困らない日常会話可能程度までもっていく

自身がアチコチ隠し置いた資産「金」を山に入って回収これも一家に預けて任せた、これだけで半年掛かったが、円には別に問題ない

彼女にとっては「時間は有限」ではないから。こうして最後に全て譲って一家とも別れる事になった

「金は基本どこでも価値がある、次の仕事を探すまで食いつなげればいい」として
「しかし、いいんですか?ここまでしてもらって」
「頼って置いて今更そんな事は気にしなくていいさ、そもそも私もここの使い道が無いし、誰かの役に立つなら家も喜ぶ」
「有難う‥ほんとに」
「先生、行っちゃうの?」
「ああ、私は‥」と円もそこで言葉に詰まった、それは「明かせない事情」故だ

「私はまだ、旅の途中だ」
「そう‥一緒に住んでくれると思った」
「家族ではないさ、でも私を思うなら残したモノを活かせ」
「家の事?」
「学びだ、それは人の世では何より有益で自分を立てる武器になる、貴女ならそれを活かしどこでも生きていける」
「わかった」

そうして円はクロエと別れた、再び会う事も無く。いや、会えないのだ。ただ通り過ぎるだけ、これまで通りではある

が、この一件からだろうか、彼女の指向性に変化を齎したのはそれは「余裕」とも云える「誰かの為に何かをするのは悪くない」という事に

彼女には「正義」という概念は無い
正しさ、なんて立ち位置でそもそも変わる
「どちらから見たら」という程度のモノでしかない

「馬鹿げた」と度々思う政についても。自分が政府の立場ならきっと逆の感想や思いになっただろう、その事にも早期に気が付いて居た

その上で「個々の正しさ」の範疇も知り得、滞りなく行う、それを強く得た最初のキッカケもこの一件にあった
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