混血の守護神

篠崎流

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五日には大きな街に着いた、幸いトラブルらしいトラブルも無かったそこで一団と別れて歩く、辿り着いた街は自分が見てきた中でも特別異世界感が強い

街の周りは壁、家も石やきちんとした木造建築、見た目の豪華さと安心感は飛びぬけて高い完全に「おのぼりさん」状態だった

バンの父の屋敷を人伝いに聞いて、直ぐに向かうこれも労せず、辿り着きそのまま中に通され、面会したのが10分後

手紙を読んで父も頷いて直ぐに用意をしてくれた

「なるほど、学びと仕事という事になるか、とは云えウチはそれ程やる事もないな‥」

と言う部分もあったが、とりあえず息子の願いともあればと半分お客さんの扱いになった

屋敷の離れの小さな部屋を宛がわれて、所謂小間使いや世話人の先任者の女性に説明される

一応、半々、屋敷の中の掃除等しながら自由にして良いとされる

バンの父はこの時代にあって、この時代だからこそ、仁に厚い人物だった、だからこそ名士とされていたとも云う

「息子の友人を無碍に扱う訳にはいかぬ」

と口でも伝え、円を客として扱った

彼は大陸の地方の高い立場にある、場所的には今の杭州東辺りの役人という立場とは云え、彼の人徳あって扱いは悪くない、故に、自由が利く立場とも云える

事情を直接聞いて彼も唸って考え込んだ

「それにしても東の国とは‥」
「ご存知です?」
「話には聞いた事はある、倭、だったかな」

ただ、其の中で自分が思った事もきちんと話してみせた

「ここで生活してみて思ったのですが、悪くないと思いました、国に帰るのが無理難題とあらば、別にここに住むのも良いとも思います」
「ふむ‥、そう考えるか、判った兎に角、ワシも東国の事に詳しくない倅の言う通り、とりあえず師を紹介しよう、それからでも決断は良いだろう」
「有難う御座います、そうします」

として、円もそれを受けた

実際屋敷の内外の掃除や元々やっていた編み物などして過ごしたが、その「師」を紹介されたのが10日後

しかも態々自分の部屋に訪問しての挨拶である
「王衝と申します」と頭を下げて名乗りまどかも同じく礼を払った

「師」という割り、想像と違い、老人の類でなく比較的若いと云っていい年齢で云うと30前だろう、そしてもう一つが「強そう」とまどかが思った事にある

帯刀しているし、ガタイもいい立派な髭の精悍な男性である、それを察したのか彼は先に言った

「今の世の中、武も出来ませんと危ないですからな」と

二人はその場で座って話し、そして彼も驚いていた

「成る程、倭から‥」

暫く髭を上から下に撫でながら王衝も考え込んだ

「しかし、個人の範囲で「帰る」と成ると確かに無理が掛かる」
「やはり、ですか」
「船と言っても、それなりの物が必要でしょうし、距離もあると思われる、ただ円殿が無理ならば、と云うなら別に住んでも問題ない、既に港街で自分の枠を作って居られるし、その考えも妥当ではある」
「はい」
「ただ、アチラの‥円殿の故郷の方ですが、地方豪族の娘とあらば別な手段もあります」
「と言うと?」
「都に行き事情を話せば宮中で優遇されるかもしれません」
「?」

「倭国とは何度か皇の側と使者のやりとりがあったと聞きます。つまりアチラ側の人間、とあれば橋渡しとして重用される可能性もある特に両方の言葉、が使えるので非常に貴重です」

つまり今で言う「通訳」である
これは数百年後の時代も続く、中国と倭の関係だが、当時も先も、言葉が通じず苦戦した記録もある

漢字がある為、筆談で会談を持った、という記録もあり、この時点で、両方の言葉が使えるというのはこれ以上無く貴重だ

「ただ、現在はまだ争いが多い、行くにしても簡単ではないし此処は帝と交流が無い、早い話、あまり関係が宜しくないですからな」
「そうなんですか」
「残念ながら」

これで円も考え込まざる得ない。が、無理して帰る必要も無いかと、そのまま思っている事を伝える

「うーん、では情勢が落ち着くか、個人の範囲で船を出せる様になるまでこちらで生活したいと思います」
「そうですか、それもまた宜しいでしょう」と成ったが

「後、迷惑でなければですが、私にも教えを、お願いしていいですか?」
「はは、構いませんよ」

結局円は、そのまま屋敷の小間使いの様な形のまま生活を続ける事と成った

王衝は「師」としては他と比べて極めて優れている、という訳ではない、学、書、読み書き、それだけでも出来る人はそういない為

師の立場でやっていけている、というのもあった。この時代はそれが出来る人も少なく、学校の様な物など当然全く無い

そんな酔狂な事をやる人間も少なく大抵金のある所や生活以外の所に金を使える「家」が教師として雇う事が大半である

それでも、この土地の知識も常識も、まだ薄いし完全に言葉も出来るという程でない円からすれば十分素晴らしい師であった

そこから暫くは苦学生の様な生活と成った
主に国の状況や常識、簡単な読み書き等を教わり屋敷に戻っては、掃除、炊事の手伝い、お使い等の繰り返しで、日数を消費していく

其の中でも「個人的な範囲で」の部分も少ないが配慮される、給金も少ないが払われる事になる

まあ、小遣い程度ではあるが、衣食住の部分を自分で払っていないので給金にあるなしはあまり関係ない、自身で金を稼いで、帰る準備なり独立する準備なりしなさいよ、という事だ

そこで3ヶ月程、学びながら簡単な仕事をこなして続けた、彼女は最初の港街と同じで馴染むのは早かった、もう既に他所者だと誰も思わなかったくらいだ

特に師を務めた王衝も、彼女の学の適正の高さを感じた。元々基礎部分があったので、1からではない文字は書けるし読めるし、生活の糧を得る手法もいくばかある

そしてやはり学に置ける最大の才能「拘り」の無さである、好き嫌いが無く、必要であれば直ぐ取り組み、学び得る、どんどん吸収していくし、こういう才能は指導する側からすればやり易い。

飄々としている、という最初の部分の性格、これも内面的冷静さを示しているのは明白である「このまま行けば学でも食えるかもしれない」 と思った程である

とはいえ、別に、円が極めて才溢れる訳ではない、全体的に見ても良くて中の上だろう、あくまでこの時代という基準であればだ

そこで王衝も方向性の違う物も与える
それの始まりは「楽器」である弦楽や詩などもやらせてみるが、これも、得手、不得手が無く簡単に基礎曲を弾けるようになる程だった

そうした理由は非常に単純で、当時の考え方としては妥当な物であるつまり

「見た目も立派なモノだし、美しい、大人しく逆らう事もないし教養が高ければ女性としては理想的である、何れ、高い身分の者や将に嫁げるかもしれない」と言う事である

この時代は実際、血筋が優れた者や、器量よしなら地位職責、身分の高い男性に、紹介され、娶られる事が多い

それが彼女にとって、残るにしろ、帰るにしろ広い道を作る事だと考えた

時代、国の常識からすれば、これは円の事を思っての事である、歴史上の君主や将が妻を得る場合「自分から取りに行く」か「誰かの紹介」の二つ、略五分五分の比率に分かれる

これを考えれば、そういう指導をするのは至極まっとうな判断だったと云える

もう一つ「一応剣もやらせてみるか」と王衝は円に剣を握らせてみるが残念ながらそこは普通の女性だった、あまり才があるとは云い難い

力がある訳でも、素早い訳でもない、物覚えは悪くないが物の数に入る部類に育てるには相当時間が掛かるだろう

故に、そこは捨てて簡単な基礎、突き、払いだけ教えて「自習しなさい」に留めた、王衝でなくても同じ判断だろう、どうみても「知」側の才能の子だと思った

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