混血の守護神

篠崎流

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公私の幸不幸

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翌日の朝から既に扱いも変わり忙しく成った

朝食は女中が部屋に運び、食べるにも手伝いが付く、それが終れば一同下がって変わりに専属の護衛が部屋周りに、円に挨拶をして面通し

昼前には既に前日の参加者が訪問して話を、ただ、これは円が何時もの対応で、相手が聞き円が答えるというものだった

それでも昨夜の事があっただけに最初から悪い印象も無く、彼女のヘンに相手に寄って媚る、他の人間の様な部分が無く素であるだけに、それもマイナスは無かった

実際、まだ13だしどちらかと云えば内面は子供だ、だから「素」だとも「素直に対応して自分を出す」のでもある、裏も表も最初からない

王は直接呼んで話す様な事は無かった、主に代理で用件を聞き、伝える官が中心

ただ、別に彼女を低く見積もるとか、話したくないという事でもなく、酒宴で見せたあの音と美だけで十分だと云うだけの事である、したがって円を厚遇もしたし不自由はさせなかった

もう一つの目的も王は別に重視していなかった。倭と言っても、数十年に一度あるか無いかと言う程度で別に無理矢理意思疎通する必要も無い、つまりそこは特に求めていないのである

3つに、この時期は忙しい、その様な何年に一度あるか無いかの外国特使の類を重視していた訳でもなく国内が荒れている事が問題だった

これは自身が用意を始めた公共投資とまだ天下定まっていないせいだが、そちらの方が頭が痛い問題で「通訳」の面はどうでもよい程度の事だった

ただ、円は別に軽視されては居ない週に一度は出番があって、其のつど素晴らしい音を披露した、頭の痛い内治の状況だけにそういう彼女の音は癒しの場には非常に重宝、重用されたと云える、あくまで娯楽や場の芸術として区切って扱われる事となる

つまり結局「楽士」「麗しさ」の部分での出世であった


そこから暫く、また此処での生活になった、相変わらず不自由は無く、移動も誰か御付が居れば街に出て自由にして良いとされたし

普通の女中とか、色と違い移動の拘束や決まりも厳しくない、これを見ても「円」は厚遇されていたと言って良い

将軍、宦士も多く呼ばれ、話を詩をと求められる事も多く都の宮殿に居ても退屈は無かった

円を妻に、というのも無かった訳ではないが立場あってそれは少ない この時点で、城、宮の専属、お抱えである事からそれに横槍を入れてなどという者はかなり立場とか名前とか伺いが要るので、それは少なく強引な事も無かった

円が14歳になった時、大陸で大きな事が成った統一である皇帝が誕生し、大きな祝いが相次ぐ

そんな中、彼女の転機も来る、これは完全に偶然だった。都の官軍を預かる主将の酒宴に呼ばれ、何時もの様に、円は音を奏でた

それは将軍の近しい人での会食で、それなりに大きなもの、そこに参加した者も円の音と麗しさに感嘆の溜息を洩らした

其の日はそれで済んで何時もの様に、円も部屋に戻った後日、事が急速に動いた、そこで今まではとは異なる縁が生まれるのである

将軍の部下の一人に黄耀祁(コウヨウギ)という武者が居た、18の若手であるが、何れ国軍の主将にと期待された稀有な人物である

武芸に秀でて、穏健で知性もある、見た目も武者の割に優しいイメージで、武将としても太守としても、何れどちらもこなせるだろうという人だ、その彼の心を一発で掴んだ事である

先の事情あって、円に惚れ込んだとしても、宮中、皇帝のお抱えである為に、うかつに口説く等出来はしないのだが、耀祁はそれでも、どうしても円を妻に取りたいと願った

云われた上司でもある、将軍も困った事態だ、だが、将軍も耀祁の熱意と思いに負けて、口ぞえをした耀祁がそこまで欲しいというならかまわないだろうと皇も宦も認める事と成る

だが「構わないとした」というだけの事で
円次第であるとも云った

これには黄の立場がある、何れ国を背負て立つ人材だけにそういう希望があるなら叶えても良かろうと言う事だ

それは彼の上司である将軍にしても同じだ。所謂「秘蔵っ子」に近い、そうして縁と恩を強めて置けば、ずっと手元に置いておけるという勿論、打算もある

特にこれまで彼は、過大な恩賞の類も渋った人物で、義理人情に厚い、つまり物質で動かない人間なので、心の部分で報いて施そう、という事があった

この決定と通知を受けて耀祁も飛び上がって喜んだ、が、困った事でもある

何しろ彼も若いし「円次第」と云われるとお膳立ての類ではなく、自分で相手の心を掴まなければならない

だが、そうと決まれば逡巡している場合でもない、円は誰から見ても宝石に等しい、と彼は思ったのである

当日から許可もあり昼間、彼女の部屋を訪問し、ここで初めて自己紹介した、ただ、円はこの前後の事情を伝えられて居らずマヌケな事を返した

「耀祁様、始めまして、音をお望みですか?」と

彼もどうしていいのか分らずだったが「それも悪くない」とその場でのアドリブ曲と歌を聴いた

其れはやはり、心に来る音である、一通り演奏を受けて、彼も安らぎ、落ち着いた、そうして事情というか思いを伝えたのである

「先日の酒宴で、貴女の演奏を聴きました、初めて、ではありません」
「そうでしたか」
「私は貴女の全てに心を掴まれました、どうか私の妻に」

そこでようやく自分の思っている事を伝える事が出来たのである、これには唐突過ぎて、円も

「は?」としか出なかった

耀祁もそうしてキッカケを掴み、酒宴から今に至るまでの前後の事情を語った。そして兎に角、自分の円への思いを口に出して必死に説明する、円もその彼の説明一つ一つをきちんと聞いた

それが何だか、とても面白かった、唐突で、どっちも右往左往する中、どうにかしようとする二人が

「と、兎に角、私もいきなり云われても困ります、落ち着いて1から始めましょう」

そう返して円も彼を宥めた、これが二人の最初の一つ、お付き合いの初めだった、それで暫く二人は「交流」から始めた

勿論、両者とも立場があり、忙しくはあるが可能な限り、其々の屋敷に出向き、時間の許す限り一緒に居て、食事を楽しんだりお茶したり会話を交して交流を深める

そんな中、円も悪い感情は無く、少しづつ、良好な関係を築くまず感情の面

次世代を担う人物だけに、優れて能力があり礼儀、礼節を弁えた人だし、頭も良い

そして、彼は少なくとも、個人的な付き合いの範囲ならとても明るい人物だった「明るい」とは一般的な部分で無く「包み隠さず」という部分

円もそうだが、思った事をストレートに云う、国家のそれなりの立場で生き残ってくるなら、裏の部分が強い、謀や計算の部分、これが円との交流では微塵も無い

最初のキッカケからそうだったろう、一目惚れした円に個人的な交流を持ちたいと望み、周囲にも上官にも皇帝にも見せる、実際会った円にもそれを伝え感情を重視して大事にし、それに向かって進む、だから円との交流も腹を見せる

そしてそれは円もだった、彼程積極的ではないが、彼女も思った事を言うし裏表が無い、ある意味同種な人間だったろう、だから好感を得た

無論それは二人に関してだけではない。彼が若くして、名士たり得たのも、上から可愛がられるのも懐に飛び込んで行く所にある

ある意味、子供の部分でもあるがこういう人間は年長からすれば分りやすく可愛いものなのだ「率直」という得難い資質でもある

この二人の関係は、後もあまり変わりが無かったどちらかと云えばプラトニックなまま。

これはどちらも「子供」な所に起因する、早い話、未成年の恋に近いものだったからだ、耀にはようやく見つけた宝物。円には好ましい男の子

そもそも14と18だし普通と云えばそうだが、そういう感情が前にあってまだ、情愛の部分が無かった

それでも、どちらも幸せには違い無い、可能な限り一緒に居て過ごす、そういうのが別に苦にならず不思議な事とも思わなかった

が、彼女の人生はある意味「転機」の連続だった、この幸せも長くは続かない

それは二人がどうこうと言う部分でない、ずっと仲が良かったし、この関係が壊れる事も無かったが結果的に婚姻は成らなかった

それは同年、統一から皇帝の誕生、国号を秦とした事から内政での形が変わった事にある

一つが、都を中心とした、地方の群の制定並び、統治を直接、首都の宦史や将等を各国に送り統治、管理させる決まり

これで耀も東の県治安維持、の一部を任され派遣された事にある、つまり、円と離れる事と成る

無論これを断る事は出来ない。そもそも辞令だし出世には違い無い、別に嫌がらせの人事でもなく耀は優れて居るからそういう人事で勲功を高めようとの配慮だった。これが二人の婚姻が成らない理由である

円はまだそういう心まで無く、無論耀に対して好ましい感情はあったが彼が遠くに行くから、急に婚姻を交そうとは思えなかった

その派遣、任地での任務がずっと、と成るとも思わなかった、それは両者ともそう思った。故に別れの場でも

「必ず戻るよ、そうしたら先を決めよう」と耀は云い
「分った、待っている」と、円も返して

別れでなく、行ってらっしゃい、で離れる事と成った

2つ、これは直接直ぐに、二人の関係に影響するものではないが統一の国の起こりから皇帝は、通貨と文字の統一化を図った

これは尤もな政策でもあるが、民の中では不満もでる急にこれまでの地域に寄って違うシステムを全部同じにすると言う事だから当然だが「尤もな」という様に、至極まっとうだ、政府側からすれば場所とか地域とかでイチイチ決まりが違うと優位な所に人が流れ、そうでない所が人が減るからだ

問題はこれで「円」も文の部分で使われた事にある、それ自体は、寧ろ得意分野だし国内の文書や、書物に触れられるのでむしろ悪い気はしなかった

元々読み書きが出来る者が多くない為、必要から、そちら方面での手伝いも始める

一見すると統一によって、円も耀も好転し、忙しくなったかの様に見えるが、実際はこの統一は安定は齎さない

それは円の度々繰り返される「転機」の部分もそうだった、ここから、彼女の不幸の転機の始まりの最初でもあった

この「改革」を次々行い、それが結局、国内の疲弊にしか成らなくなる、とは云え記録上中国の皇帝は大体そうだ

自身の理想や思想から、民を省みず、暴走とも云える決まりを作って国内から崩れる事が多い、この秦国も例外に漏れず暴走して行く事になった
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