混血の守護神

篠崎流

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流された先

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どのくらい、寝るか、意識不明だったか分らなかった、仰向けで眼が覚めた時は昼頃だったろう、太陽がモロに真上で暑くてまぶしい

「ここどこ‥」と云って上半身だけ起こして周りを見たが、まだ海のど真ん中だった。そこで急に不安と恐れが出る、今更だが当然ではある

そう切り替わったのは多重ストレス
「お腹減った」と「喉が渇いた」と「ここどこ」の連続である

普段から飄々としている彼女でも途端不安になる、成らない方がおかしいが

が、幸運な、とも現状を考えれば云えないが、一時間程波任せでボーとした所で遠くの方に「陸」が見える

思わず明るい表情に変わって、オールすら無いので手で水をかいて船を進ませる、それが達成されて、海岸から陸に足を着いたのは更に二時間後

既に結構疲れてたが、そのまま兎に角歩いた。緑を探して、更に二時間歩いた後、念願の緑を見つけて森に入る、そこでようやく実りを見つけて木から果物をもいでガツガツ頬張った。

これは慣れた物で食える食えないの判断はつく
普段やっているだけに

これで「喉乾いた」と「お腹減った」はどうにか解決して、その場に座り込んだ、まだ解決してない「ここどこ」は残ったがとりあえず、もう歩き回るのは沢山だ

入った森の外側に枝と葉を集めて日陰と、シェルターらしき物を作って横になった。眠るのに5分と掛からなかった

幸いにして獣に襲われる様な事も無く翌朝まで泥の様に睡眠を取る事が出来た、ただ、変わりにスズメか何かに、頬に蹴りを入れられて起こされた

問題はそこからだろう、とりあえず、水と食物の両方の面からまだある実を数個持ったまま海を右に見ながら沿って進む、つまり北に進む事となる

これも幸いにして、丸一日後には漁街の様な場所に辿り着く、一体どこなのか?と、とりあえず聞こうと思い人を探し、街の出入り口付近の若い男性に話しかけた

が、何を云ってるのか分らない、しかもお互い

外見上、違いは無いが言葉だけ分らない、そう、もうここは日本ではなかった

彼も困り果てて周囲の者も呼んで話したがやはり言葉が通じる事もない、そこで彼女が身振り手振りと地面に文を書いて、これが向こうも半分理解して、とりあえず自分の家に案内した

彼の奥さんも夫の判断を良しとし受け入れた、円の書いた文も簡単だ、それを夫は妻に説明した

「海、流れて、という事「らしい」んだが‥」
「漂流、て事?」

一応、そう理解した

そこで暫く過ごす事に成った。余りにも現地の人と違う服だったので奥さんが服をくれた着替えて整えてから親切にも、半分手振りのコミュニュケーションで此処の事を教えてくれた

元々やっていた実りの収穫の類や稲植え等手伝って半分居候のまま、暫くやっかいになった

ただ、会話がまるで通じないのは最初の10日、ある程度交流可能になったのは一か月後。彼女自身が困ってしょうがないので物を一つ一つ指して奥さんが答える、を繰り返して簡単な単語を覚えカタコトだが一応相互理解出来る程度まで会話が出来る様に成った

そこで夕食時に事情を話す事となった
「オレは伊成、妻は蓮」
「円‥」
それぞれ、たどたどしい手つきで名前を木の板に字で書いてみるが、それは通じる、発音が全然違うというだけで

彼はバン、妻はリインと発音するらしい
本来、この時代、書の読み、書き出来る者も多くないが幸運な事にどちらも多少「学」があった

彼の妻は地元商人の4女で元々それなりの学びを受けている夫も有力者の末子

要は三人共、それなりの身分家の子供という事だ、そして年齢もあまり変わらない

「海の向こうから?!」
「うん‥、船で流されて」
「そういえば聞いた事はあるわ、東の向こうに別の国があるって」
「しかし帰ると云ってもな‥場所すら分らんし」
「そうなの‥」
「東の海の向こうと云うと、前に家で父に聞いた事はある神仙とか呂?」
「倭じゃない?バン」

ただ、船、はこちらの方がきちんとしている、絶対「無理」という訳ではない、位置が分れば

「何れにしろ、直ぐ、どうこうと言う事でもないな」
「そうですね」
「当面、ウチの手伝いとかしながら住めばいいよ」
「あ、ありがとう」

結局、お互いの事が分っても、彼女が元の土地に戻るのは難しいその為、そのまま円は居ついた、ただそれも、長期とはならない

相手は夫婦だし、そこに居座るのも邪魔にしかならないだろうと思った

2月の頃には円は馴染んだ、まあ、見た目も宜しいし、状況が状況あって周囲も同情もあった、街の人間と話も通じるようになれば孤立する様な事もない

そうなった一つが、まどかの方から漁場に通った事がある、理由は単純だが、それだけでもない「こっちの船は立派だな」と思った

どんなボロでも「帆」があり、サイズもそれなり
これなら来た時と逆に帰りやすいかもしれないという事

もう一つが、積極的に漁場の手伝いのついでに泳ぎを習う事、水に近づくのにカナヅチはお話にならない、当然帰るのも船になるだろうから

漁場の若者も自分らの仕事を教えて手伝わせる事を、好ましく思って拒否しなかった

まあ、女の仕事でもなく、関わるのも珍しい子だなぁ、というのもあった

泳ぎに関しては「海で」という訳にもいかず川の類で一応「溺れない」程度に習った

環境や生活、常識に馴染んで見た目も、地元の人間と変わらず、あっという間に同じ街の人間として溶け込む

元々同じアジア系だし、髪も眼も黒、変な行動と言動が無ければそれ程おかしくはない

漁を手伝う内に実際船にも乗せてもらって釣りなんかも教えて貰った

最初の印象「あっちのが面白そうだ」の通り、それはとても面白かった、しかも食える

ただ釣った物は「必ず火を通せ」だったので調理も漁師料理を覚えたもう普通に、あまり帰る必要すら無かった

彼女は元々の家の立場もあるし、少なからず学びはある。変人なだけで、馬鹿ではない、それも「その時代にしては」という部分で現代なら普通の範囲だ

彼女の優れた部分は最初の印象通り、あまり物事への拘りが無いのと、精神的には逞しい事、環境への適応力が高く、苦労を苦労と思わない部分にある

早い話「こっちのが生き易いならそれでいいや」とすら平気で思える部分

だから言葉、生き方、生活手法、地域ごとに違う環境へのなじみ習得が極端に早い

この生活から3ヶ月、13になった時、転機が訪れる

バンとリインの薦めでもっと大きな街に出てはどうかと云われる、というのも

「オレらじゃそこまで学に詳しくないマドカの国の事を知ってる師に付いてはどうか?学と書に優れた人なら分るかもしれない」と薦められる

特に円も拒否しなかった

「帰る手段が分るかも知れないならやってみる」としか思わず実際そう口にも出して受けいれた

「よし、じゃあ手紙を書こう、オレの父は群の官僚だ、たぶん使用人とかに入れるはずだ」

そこからの動きは早い、円は手紙、と言っても木簡だが、を貰い世話に成った漁師らにも挨拶周りした後街を出る事に

皆に餞別としていくばかの金子と大町に出る為に商人の荷車に同乗する配慮までしてもらい移動した

別に凄く遠いという訳でもなく、五日程で着くのだがこの時代、この土地の一人旅等危険だ、夜盗や盗賊、獣が普通に居るし、しかも戦争もあるからだ

その意味、護衛付き商人に同乗出来るのは悪く無かった

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