混血の守護神

篠崎流

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引き金

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まだ日本が「日本」とすら呼ばれていなかった時代まで遡る歴史という「記録」すら余り残っていない頃から、この話は始まる

南の地方で生まれた彼女は地方豪族の子で、名を「円まどか」と云う、明確に残ったのはそれだけだ

見た目もまあ、長い黒髪と、当時にしてはパッチリした目に白い肌「外見上」の評価は幼い頃から良かった

まだ統一した国の概念や統治も明確で無い、ある意味割拠の様な状況にあった

とは云え飢餓とか不自由というのもそれ程無い、元々の国柄と言えるか農耕もあれば海もある、大昔から自然多く水の国、実り豊かで、温暖だったらしい

円は、当時としては変わった娘だった

12の頃に背は大きく大人に負けず見た目もまあ、美しかったろう、当時の常識の範囲では、そうでは無かったかもしれない、どちらかと云えば「今」の範疇だ、実際周囲の者からは「変わった娘」と噂されている

変わっているのは性格もだろうか、良く言えばおしとやかだが、悪く言えば消極的、置物の様で、口数も少ないが、好奇心は強いらしく自分のやってみたい事、には直ぐ動く

それでも、周囲の環境あって、そんな娘でも、生きる不自由はあまり無かった、まあ幸運で裕福な元に生まれ育ったと云えるだろうか、何しろ寝て過ごしても別に大して困らなかったのだから

一応、そういう立場だとしても、当人がどうであっても教育はした、字も書かせたり読ませたり、仕事も、裁縫、とはまだ言わぬが、女らしく服作りや、蔓でカゴ、自然の実りの収穫等は親はやらせた

自然の恵みを拾ってくるだけなら、娘にも出来るのでやらせたというだけだ、働かざるもの食うべからず、である

そもそも表面上でも動いてもらわぬと体面が悪い
両親がそれなりの立場だけに。

其の反動、という訳では無いが幸福から不幸に反転したのが、13才に成る手前の事である、とはいえ、それは見る者によってはそうではない、とも云う

ある、快晴の海岸で流れ着いた海産物を拾っていた朝、円は、船で魚を採っている若者を見て楽しそうだと思った、反面自分は一人で拾ってるだけ

そこで彼女は昼前に陸に戻った連中に、自分も乗ってみたいと云ってみた「午後はもう漁に出ないよ」と云われたが意味が分らなかった

それでも、その内一人の若者は乗るだけなら
と、三時頃、自分の用事を片付けてから船を出してくれた

無論、彼女が豪族の娘だからやってあげるのは、良い印象が残るというのもある

何が幸いして、何が災いするか人生は分らないモノだ、少し沖に出た所で、船が波に浚われ転覆する

特に悪天候でも高波でもないが、当時の船などイカダと変わらない、一本の木を彫って切り出した、今で言う大きめのカヌーの様なものだ

勿論、男は泳ぎは達者だし、別にそのまま死ぬ事も無いし船がひっくり返る等、事件でも何でもない、が、彼女はそうでないという事だ

ひっくり返った上下逆さまの船にへばりついて、どうにか溺れずに済んだが流されて行く、こりゃまずい、と彼も泳いで追うが速度が違う、一時間で、追った彼も手足が思うように動かなくなった、これ以上は自分も帰れなくなる、そういう判断で諦めた

船を出さない時間、この時期、この時間は波が引く、だから出さない、それを無理して出た事がそういう事態に成った

別に大げさ事態ではない
どこでも良くある海難事故、特にこの時代だ

そして救出も捜索も無い、海の向こうなんてどうなってるか分りはしない、特別な海難救助なんてある訳がないのである

この一連の報を受けた両親は勿論翌朝まで待ち、立場を使って、船を出させて捜索したが、既にこの時、娘はこの国の範囲には居なかった

尤も、それ程深刻な事ではない、両親の心情では無く元々「変わった子」、5人兄弟の末っ子、そして「当人が選んでこうなった」事、である

実際泣いたのは母親だけだった

それからこの時代、平均寿命もかなり低い、病気や事故も多く、ある日突然居なくなる事も珍しくない、現在と違って人命が重くない事もある

そもそも、事故や病気が起こったとしても対する対策が中世まで大抵無い、精精「神に祈る」くらいのものだろう。病にしろ、神隠しにしろ同じ対応しかないともいう

「円」はひっくり返った船にしがみつきながら只管耐えた、どうにか波の力も利用し、渾身の力で再び船を表に返して疲労困憊の中、体を船に乗せたそこで何とか、溺れず通常の船旅に戻る事と成る

が、記憶があったのはそこまでだった
仰向けにぶっ倒れて眠ると同時、意識を失った

寝るのも失神するのも、きっと大差ないだろう
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