晴海様の神通力

篠崎流

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疾風

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比較的事件らしい事件もなく安定した時間を過ごして居たが
起こったのが十五日の事である

それは偶然でもあり必然でもあった事例で切っ掛けの一つでもあった

ECMにも籍を置く事に成ったアスカが綾辻からの依頼に応えて鳳の武具の作成を日常的に行っていたのだが、前日、十四日に消耗品の不足から一時、実家のある日光市に里帰りし十五日の夜、通常路線で戻る中途の事である

当人にとってはただの実家との往復の旅で大した事ではない、其れ故に緊張感もなく、疲れもあって座席でぐーぐー寝てたが専用モバイルに通知があった

気づいたのは二度目の通知が入った所、そう「専用モバイル」つまりE案件の予報である

「なんですか、もう~」とか云いながら目をこすって確認して驚いた《警戒レベル中》だったのだから、しかも大雑把な推計距離だがワリと近く30キロ前後

本来ならあまり関係ないのだが、この時はMAPの予報円が自身から離れず、付いてくる様な相関だったため

「ええ?!」と流石にアスカも驚いて飛び起き、直ぐにECM専用装備、サーモグラスとインカムを付けて荷物を抱えて下車する

「この電車が対象?いえ、どっちにしろ一旦離れないと‥」と反射的に考え

幸い、日光線から春日部駅まで丁度三分の所だったので即降りて駅から出て、折りたたみの電動スクーター移動に切り替え、本部に連絡を入れた

アスカの懸念は当っており、背負い荷物にスクーターで列車とは直角、南に対して南西に移動したが、予報円が進路を変えてアスカに付いて来る

「わ、私が対象なのかしら‥、どうしよう」と指示を仰いだ

この連絡を移動車両本部待機の凛が受けて全員に一斉通知を出しつつ、最も近い距離に居る名雪に一番に指示を出した

この判断も極めて妥当で、公人組織に対して権限と仕組みを半々持っている名雪ならではの逡巡の無い「命令」を付近のブロックの警察組織に一斉通達した

「E案件・予報から警戒レベル《中》が発生。特級捜査権限を睦名雪名で発令する。現場対応の為、春日部武蔵野線ルートの車両規制を要請する、位置情報からレッドゾーンを三キロに設定し警察官も規制する。事後対応のみに限定する」

通知を出し、自身のバイクのパトランプも作動し移動しながらアスカとも話した

「今、アスカ殿が乗ってきた路線ルート周辺の道路に交通規制を出した、私もソチラに向い合流するが、時間が多少掛かる。」
「多少て何分ですか~!?」
「十五~二十分くらいだろう」
「わ、私のスクーター三十キロくらいしか出ませんよ~、相手のが早いです~」
「マップ見た限りその様だな、すまんがそれ以上は物理的にどうしょうもない、なんとか路線南に沿って逃げてくれ」
「ひ~。が、がんばります~」
「今からソチラのスクリーンに移動路MAPを送る」
「はい~!」

この時代の交通規制というのは人員が出て物理的に誘導等もあるが、もっと便利な方法もある。一般車両と国道に装備されている表示板や車その物に搭載されている緊急操作誘導装置等に一斉発信してルートを変える、あるいは緊急車両の通り道を開ける等のシステムが存在する

故に、名雪が通知を出した2分後には指定国道の地面に赤と青の縦のランプが付き、一般車両等も其れに従い、左右に別れて徐行し、堂々とド真ん中のグリーンラインを通れる

「良し!」と名雪も呟き、高燃焼燃料装置を起動、端的に云ってしまえば「ニトロ」であるが、一気に倍加速して現場に向った

が、一方で即行動が出来ない状態にあったのがECMの本部である、何しろ今回の一件は其々の人員と現場の距離があり過ぎる故だ

「略他県に近い所ですから、直ぐにと言っても‥」とアヤネも云うしかない

元々警戒パトロールしているのが名雪と交代で都内近郊を回っているのがレイナ、其れ以外は移動本部を預かっている凛と今回は誠で、そもそも西側中心に回っている為、更にアスカから遠い。今から出動してもかなり時間が掛かる為、常識の範囲で言えばまず間に合わないだろう

「もどかしいけど‥今回は名雪さんに任せるしか無いのかなぁ」
「手段がありませんからねぇ、とりあえず開発部でも車両が出るので行きましょう」
「そいえばアヤネの術は?」
「いえ、飛んで行っても名雪さんより早いて事はないです鳥とそんなに速度は変わらないので‥」
「そうか、兎に角、僕らも出よう」

そう二人で交わした所で制したのは雹である、何時もの様に、晴海の陣羽織の袖を引っ張ってカタコトながら強く言った

「ハルミ!ハルミ!」
「うん?」

そうして雹は自分を指してこう言った

「アスカ!雹行く!オンジン」
「へ?行くてどうやって??」

ただそれ以上は理解不能で雹も表現出来ない

「雹行ける!雹行ける!」と必死に言ってたので
訳が分らないながらも晴海も良を出した

「アスカさんがエネミーに追いかけられてるらしいんだけど分る?」
「うんうん」
「雹はアスカさんの所に行ける?」
「うんうん」
「守ってくれる?」
「うんうん」
「‥分った、じゃあ雹に任せる、良い?」
「うんうん!」

そう強く彼女も頷いて、その場で直立に方向転換、室内の何も無い空間、北方向に手を伸ばした

何をするのかさっぱりだったが雹の伸ばした手が空間を侵食する、水の中に手を突っ込んだ様に波紋が発生し其の中にスルスル入っていく

「ええ?!」と見てた二人も仰天である
そのまま雹はちゅぽん、と水の中に姿を消したのだ

「な!?」
「‥あんな事が出来るなんて‥」

そう、あまりに普通のちっちゃい子な容姿なので忘れがちだが、雹はあくまで妖怪、向こうの生物な訳で境界線を自身で移動出来るのである

暫く呆然としてたが晴海も、とりあえず名雪とアスカに通信で伝える

「は?‥雹が行くてなんだ?」
「カタコトだから説明がよく分らないけどアスカさんの所に先に行くらしい、今、目の前で空間を飛び越えた‥」
「なんですかそれは‥」

という至極真っ当な言が返って来たが、晴海もそうとしか云い様が無いし

「まあいい、雹がアスカ殿の所に先に援護に行くんだな。この際詳細はどうでもいい。アスカ殿、そのまま国道を南下して一キロ先を右折しろ、災害退避用の人工公園がある、そっちを封鎖させて二次被害と人目を避ける」
「は、はい~」

云った途端、アスカのゴーグルにMAP指示が入り、アスカも其れに従って右折し、人工林がある道をかっ飛ばした

五分後くらいだろう、アスカも指定の広い公園内に入り指示されたポイント、だだっ広い中央の広場に辿り着いて、スクーターを降りた

周囲は指定規制ゾーンであり、誰も居ない、頼りない外灯が灯っているだけだ

「援護て何時よ~、雹ちゃん~」

と言った所で宣言通り、空間から波紋が広がりアスカの右横から雹がヌッと現れた

「アスカ!アスカ!」とか明るく云って飛んで抱きついた
「ほ、ほんとにきた~!」アスカも返して抱きとめる

この際、名雪が言った通り細かい事はどうでもよかった、今の状態で一人で居る方が心細いし

「えーと~、雹ちゃん?」
「うんうん」
「私妖怪に追っかけられてるみたいなんですけど~、分ります?」
「うんうん」
「私も《一応》退魔士ですけど、直接戦うのは苦手なんですよ~」
「雹やる!敵来る!」
「ほんとに?」
「うんうん」

と、まあこんな感じで緊迫感もへったくれもない会話だ、分ってるのか分ってないのかさっぱりだが彼女のコミュ力では現状はこれが精一杯ではある

「と、とりあえず用意しなきゃ‥」と
アスカもその場で荷物を下ろして触媒を用意する

自身は戦えないが道具は作れる「自分の身くらい守れないと困るよね」と防御用に盾は作ってはある。ただ彼女の場合は攻撃の為の手段も術も元々持っていないので、道具というか防具も其れに準じたモノになっただけだが

コレはレイナに与えた籠手防具と手法は同じ防具だが、サイズは片手に装備する程度の小型でブレスレットに近く、此処から短時間だが霊力のフィールドを発生させて前方円形に物理的攻撃を防ぐモノだ

短時間な理由は当然、道具に詰めた霊力の消費が激しい為だ
何しろ前方前後左右百三十センチ程展開されるのでそのままだとあっという間にガス欠に陥る

一応、工夫はされおり、是は自身の霊力を注入して稼動時間は伸ばせるが、それもどこまで持つかは不明だったりするが

「何れにしても援軍待ちですね‥、雹ちゃん、無理は承知で宜しく」
「雹戦う!」

とノリノリのまま雹も云ったがもの凄く不安だ。戦うと言っても雹に出来る要素が見当たらないし

そこから一分掛からず、ワールドビューMAPの表示から赤円が公園内に入ったのを確認、姿は確認出来ないが来たのは分ったが、そこで表示は消える

「き、きた~‥でも、どこ?」とアスカが云ってサーモグラスで見渡すが、彼女の斜め前から熱源が接近してくるのは見えた、しかも凄い速度で

反射的に「ひぃ!」とアスカも後ろにスッ転ぶ様に飛び退いたがその両者の直線上に雹が横っ飛びして割り込んだ、おそらく雹には裸眼でも見えているのだろう

「ドカ!」と衝突音が響き、突風が巻き起こり、雹が仰け反って踏鞴を踏んだが、相手もぶつかった反動で後ろに引く様に飛ばされ姿を現す

双方一定の距離が出来て対峙し睨みあいの体勢から確認出来た

あまり大きく見えないが全長は四メートル、かわうそとウナギを足した様な容姿で、両手、というか前足を四本持って、その手足に大きな刃を持った空中を浮遊する相手

「か、カマイタチ?」とアスカも呟いたが其の通りで
ワリと知名度のある妖怪だが、見た目も略架空設定に近い

カマイタチという通りで見た目は毛皮纏った、手を持つひょろ長いイタチで、見た目はワリと愛らしく書かれるが、この現実のカマイタチはあんまり可愛く無い、滅茶苦茶デカイし、凄い怒った様な顔だし、今にも噛み付いてきそうだ

一般的、知識上は「突風に乗って現れ、鋭く切り裂く、斬られても出血もしない」とは書かれるが多分そんな事はないだろう。あんなクソデカイ鎌で切られたらタダでは済まない

アスカも尻餅体勢から「うんしょ」と起きて腕輪を構えるが
相手は飛び掛ってはこない、というのも雹が中腰の体勢前屈みに猫みたいに「シャー!」とか云って威嚇するとカマイタチも牙を向いて威嚇して同じ様に頭を突き出して左右にグルグル回って怒るだけだ

雹はその姿勢から左手、人間で言う親指、人差し指と中指を立てて其の先から青白い長い爪を六十センチ程、三本出して構えて牽制する

と言っても、実際爪を伸ばしている訳ではなく、爪先二センチ程離れた場所に晴海の霊圧刀みたいなエネルギー剣を出しているに近く、実体物ではない

「そっか‥最初に雹ちゃんと会った時、鬼と戦ってた‥単身でも戦えるんだ」

そう、雹は単体でも戦える。鬼との一戦は多勢に無勢《偶々》敗者になっただけで、一対一で物理的になら簡単にやられる事はない、その証明が今されたのだ。

何故ならこの相手は《警戒レベル中》それなりのランクであり、その相手が雹を恐れて無闇に攻めて来られない、おそらく雹もカマイタチと同程度の力があるか、簡単に倒せない、と認知してるから

これは野生動物と同じで、大抵持ってる能力、相手が強いかどうかある程度戦う前に分るからだ

そうして一分近い睨み合いから先に動いたのはカマイタチ
消える様な速度で五・六メートル後退し、右前足の鎌を外から内に振るように一撃、当然両者の距離があるが、突風が巻き起こり、空気の刃が飛ぶ

カマイタチのポピュラーの業で《風刃》という奴で、要するに遠距離から相手に切り裂きを与える業だが「飛んでくる」というよりは、カマイタチが振った手から、小さい竜巻が前方に発生し、其の中から刃が飛んでくるので非常に避け難い

のだが雹は「そんなの分ってる」と云わんばかりに左手を強く払って風刃を跳ね返しつつ風自体を両断した

そうして此れを切っ掛けに、双方が凄まじい速度でジグザグに高速移動しながら本格的な撃ち合いに発展するが、基本的にカマイタチは下がりながらの風刃を左右に振って打ち、雹が一定距離で追っかけて爪で切り払って落す、という攻防となった

どうやらカマイタチもアスカを無視して雹を先に倒す相手と認知したらしく、二人の激しい戦いになるが、アスカも安全、という訳でもない

何しろ、二人の空斬の打ち合いで両者の斬撃は破壊されているのだが、両断された破片と化した細かい風刃がフツーに周囲に飛んでくる

アスカも呆然と見てるしか出来なかった、普通の人間が目で追える速度の攻防じゃないし、が、その面前、透明の破片の刃で前髪がスパッと切れた。「ひぃ!」と引っくり返って尻餅ついた

切れてから驚いても遅いのだが、幸い被弾はそれだけだが
「危ない~!」と尻餅体勢のまま、離れる。普通に余波で被弾しかねない

この攻防は七分、一進一退で続いたのだが先に被弾したのは雹、正確にはどこかを切られた訳でなく、着ている服とかニット帽が斬られる

雹は強いのだが、残念ながら相性の問題がある、速度は同じ様なモノで、カマイタチは逃げ撃ちに近いので、雹は追いついて爪で攻撃を当てる、が基本的に出来ない、強弱の問題でなく、主力武器のレンジの差だ

「このままだとジリ貧だわ‥」とはアスカも思ったのだが
この際、アスカには援護攻撃手段があまりない、癒す、福益する、浄化する、結界する、援護を呼ぶ、付与する、という系統で。それも全部使える訳ではないし、本来人間に使うモノだし

が、この時はアスカが何れも無理する必要無く、次の援護が間に合う

八分過ぎ、全速で現場に急行した名雪が到着、バイクでサイドスピンターンしながら停止し、アスカの横に飛び降りた

「おい‥なんだこの状況」
「ひ、雹ちゃんが来てフツーに相手してくれてます~」

一応、雹が援護に来てからの状況を聞いたが、名雪も「そうか」と簡単に返して納得したらしい。あまり物事を気にしないというか、問題が解決するなら何でも良いという思考をするのもあるが

即座にバイクバックシートに装填されているE専用のショットガン程度の長さの改造銃を取り出し指示を出した

「なら私が後衛を担当しよう、もっと下がっててくれ回復が使えたな?被弾の援護だけでいい、後は任せろ」
「雹!ソイツの足止めは任せる、遠距離支援する」

立て続けに云って、雹もカマイタチと殴り合いながらこっちも見ず「うんうん」と頷いた

ただ、人外に両者の速度が速いので、レイナVSトラの時と違い、名雪が射線を確保しての狙撃が難しい、かと云って余り接近すると風刃に巻き込まれるのだが、名雪に関してはそういう難しい事もやってのける

およそ十秒程観察した後、安全圏を見切って対象を中心の殺傷範囲を見切り、三十メートル程距離を取って、左右に移動調整しながら、雹に当らない様に通常弾を連続で撃つ

彼女の狙いは正確で激しく移動している雹にも誤爆させず
的確にカマイタチの頭に当てた

が、連射で撃ったのは三発だが、当ったのは一発、しかも横から弾が当ってもカマイタチは首を傾げる程度に仰け反っただけで、あんまり効いてないらしい

「チ‥奴の周りの突風が邪魔だな‥威力が半減される」

狙撃は正確だった、にも関わらず当ったのは一発の上、当っても相手が左程気にする事もないのはそういう事だ

もう一つは、この銃は通常の火薬弾とは違い空気銃に近い、E専用、と言った通りで開発部から提供されている以前披露されたモノで貫通・速度が通常銃と違い三分の一程度の時速、故にカマイタチの発生させている突風でかなり反れる

「まあいい、なら火薬銃を使うまでだ」

とあっさり見切って、長銃を左手にチェンジ、右でハンドガンを腰から抜き、即二撃目を入れる。おそらくそっちのが効果があるだろう

これも正確にカマイタチの胴体上部に当たり
「バン!」と音を立て
今度は妖怪も空中で大きく左に体勢を崩した

この時間があれば十分だ。雹が突っ込んで届く距離、すれ違いざま近接で一撃浴びせた

が、残念ながらこれはカマイタチが前足の鎌をクロスに出して防いで、再び距離を取られる、尤も、名雪はそんな事で消沈する様なメンタルの人間ではない

「ああ、そう」みたいな感じで眉一つ動かさず、雹から離れて空中で一時止まったカマイタチを斜め後方から、お構いなしにガンガン連射した

これも全弾命中しカマイタチも弾丸を受けた反動で空中で踊る、そこまでやられるとカマイタチも黙ってはいない、今度は名雪に突進する

その速度は一瞬。アスカも反射的に「危ない!」と叫んだが
名雪には慣れたモノだ

突進して鎌を横に振った一撃を後方にバック宙して避けて空中で更に三弾してヒラリと着地

カマイタチは近・中間距離からそこを狙って縦に風刃を飛ばしたが、名雪は着地と同時、自ら相手に背中を見せる様に180度回転し、長いロングコートの裾を飛んでくる風刃にぶつけて逸らす。およそ布服を撃ったとは思えない

「ガキンッ!」という金属がぶつかる高音を発して風が払われる

名雪の何時も着ているコートは単なる服でなく、高耐久防刃であり、内部に十センチ四方のB2クリスタルと呼ばれる状態にした、アルミニッケル合金プレートを背中側に複数枚配してある、プレートアーマーに近い服である、斬撃、圧にも強く軽くて安価な新素材で作られている、故に、この様な防御が可能だ

名雪は風刃をかわして回った反動そのまま更に180度、相手と正対する姿勢に戻した

何時の間にか右手に持ち替えていた長銃を「ランチャーモード」に切り替え、回った反動のまま打ち返した

流石にこれはカマイタチも避けられないし止まらない
至近な上に自身が攻撃態勢で止まったからだ

「ランチャーモード」と言った通り、撃ったのは通常弾丸ではない、撃って当った着弾点から進行方向に爆裂する、特殊炸裂弾である

此れが直撃して、爆風が巻き起こり、カマイタチも流石にぶっ飛んだ

機能美、というのだろうか。あまりに無駄の無い華麗な名雪の動きに後方観戦していたアスカも
「かっこいい‥」と口に出るくらいだ

問題なのは、それでもあまり相手が被弾してない事だろう
三十メートルは吹き飛ばして、向こうも体勢を立て直す

一応、カマイタチの体に硝煙の様な種火とコゲが付いたが
どうもそれで致命傷でもないらしく、即名雪に怒りの表情のまま「キシャー!」と吠えて再突撃の姿勢だった

が、名雪にはもう決着は付いて居た。
相手に照準を合わせて対峙したまま、こう捨て台詞した

「おい、イタチ。こっちに構ってていいのか?」と

瞬間、イタチの右側の二本の前足が消失、数間開けて、両断された腕が地面に落ちて、斬られたトカゲのしっぽの様に
地面で暴れまわった

カマイタチに思考があるのか分らない、が、確かに怒りの表情から、一瞬「?」と不思議そうな顔をして動きが止まった

そしてその「顔」も横に四枚に卸されて、今度は全身、制御を失って7メートル落下して地面で「ドシャ!」と潰れた

そう、この場で「最大の敵」は相手に致命傷を与えられない名雪ではない、三枚に卸せる切断力を持つ「雹」である、だから雹に攻撃する時間を与え、カマイタチを自分に引きつけた時点で勝敗は決していたのである


ただ、予想外なのはその後だ。

雹は上から勢いを付けて、地面でまだビチビチ激しく動いているカマイタチに踏みつける様に降りて蹴りを入れつつ、馬乗りになった後、左手の爪を展開したままの手の平で妖怪の頭をアイアンクローの様に掴みザクロの様に裂き潰した

その体勢のまま力を入れると、徐々にカマイタチの頭部分も雹の手の平の中に吸い取られる様に消失、というか干からびていく

「ハッ‥ハッ」と静かに興奮した様に呼吸して
十秒程でカマイタチの腕部分以外を残らず「吸った」

流石に名雪もアスカも目を丸くして固まったまま、この終始を見送った

「あ‥もしかして《捕食》て」
「らしいな‥食う手段が違うのか‥」

一通り、事が済んだ後。雹も立ち上がって離れて
また、何時も通りに戻ったが、どうも其れ自体が不満の様にも見えた

一瞬眉を顰めて口をへの字にした後

「勝った!勝った!」と喜んで名雪らの下に戻った

流石に名雪もアスカもドン引きだが、まあ助けて貰ったには違い無い

「あ、ありがとう雹ちゃん」と礼を言って彼女も「うんうん!」とまた強く頷き返した

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