晴海様の神通力

篠崎流

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京極本家に滞在して三日、つまり戻る当日夕刻の事だ。アヤネもとりあえず札術の書きを幾つか習い、「後は実践してみるしかない」とされた為戻る事に成った

一旦は高速列車に乗って戻ったのだがその半ば。モバイルに通知が入る。当然、新幹線で平然と通知されたので「緊急」
隣席の二人、両方に入ったので「予想予報」である

「こんな所で??」と晴海とアヤネも言って直ぐにスクリーンをチェックするが、そう遠い訳ではない。そして前回に近い予報が短時間表示された、広い赤円二つが表示され、点滅しながら移動

「次の静岡近辺‥でしょうか?いかがします?」
「無視は出来ないな。どうせ近くなら寄ろう」
「はい」

そうかわして確認している間に予報は消える、晴海には直ぐ分った「前回」と似た様な事例だ。七分で次の駅で降り、早速説明したが、本当に短い時間で予報は消えた

「もしかして先日の事例かも‥でも予報が消えちゃったな‥」

が、アヤネは羅針盤を出して追えている様だ

「いえ、反応は確かに無くなりましたが‥方向は指しているんですよね‥」
「え?どういう事?」
「おそらくですが、予報と探知機のメカニズムの違いかと、予報は電波線を使って妖怪の交信情報を三角測量で探しているとの事ですが、羅針盤は基本的に「気」を探しているので」

「成る程、つまり相手側の発信している何かを探して計測して居る事と相手其の物を探しているモノの本質的な違いか」
「だと思います、なので門も探せるので」
「追えているなら幸いだ、向おう」
「はい、駅から北東です」

として、両者移動しながら装備を整え、アヤネの指示に従って向った、おそらくアヤネが居なければ「事件」にすら発展していなかっただろう、幸運だったと言える

ただ結構遠いらしく、三十分歩いた所で中心街から離れて自然の幾らかある住宅地に出た。そこから人工森林に出てアヤネも止まる

「どこなんだろう‥」と晴海も思ったが
「あ、これ境界門かも‥」とアヤネが応える

「そうなの?」
「おそらく発生最初期かと‥歪みがあります。みてください」

言って羅針盤を示すが一定方向に細かく震える様に針が激しくぶれる

「この状態は外界からのなんらか混じりがあり周囲の霊力が極めて乱れている状態です」
「じゃあ‥」
「ええ、用意してください「コチラ側」ではないです」

そう、アチラ側と言った通り、予報から消えたのはこっちからあっちに移動したからだアヤネが居なければ関われなかった事件だが。現在事件性は無い 人的被害、失踪や通報がないから、本来「封鎖」をすれば良いのだが晴海は私的な行動を示した

「開ける事は出来る?」
「出来ますが‥どうするのですか?」
「先日の例と同じ様な感じなんだ‥行けるなら行って見たい」
「例の幼い妖怪の事ですか?」
「うん」
「正直危険なので、お勧めは出来ませんが是非ともあらば」
「頼む」

そう言われアヤネも封鎖ではなく、開く術を展開し自分等から侵入を図る

そうしたのもある種の覚悟を決めたのもある、単なるポジティブシンキングではなく進めば何れにしろ事実には近づく、という彼なりの経験測と、「ぼっちゃんの長所」とアスカにも指摘された事の両方だ


が踏み込んだ先は「何時もと違う風景」
大体、境界門が明確に有る場合は双方世界が繋がり、現実三次の模写に近くなるのだが今回に限っては、晴海側から強制介入したため出た先は鏡の世界ではないらしい

荒れている石や砂の荒野、少し全体が赤み掛かった様な視界で火星地表がこんな感じだろう。アヤネもこういうのは初なので流石に驚いた

「こちらから意図して行くとこうなるのですか‥」
「らしいね‥なんだか冷たい感じだ‥」
「もしかしたらコレが本来の向こうの世界の形に近いのかも知れませんね‥」
「確かに‥明確に別世界、て感じだね。問題ない?」
「あるにはあるのですが‥この際仕方無いでしょう」
「羅針盤に明確に反応があります‥来たからには何らかの成果は欲しいですし行きましょう」

言って晴海は前を、アヤネは方向を示して札を用意する、荒野と言っても見渡せる平地という訳でもない、かなり起伏が激しく、謎の枯れ木の様な不思議な草なんかもそれなりにある、南米の高地の様な感じで、アンデスの麓に近い印象だろう

感覚的は十分歩いた程度での所で状況が変わる、アヤネは即、紙犬を呼び出し警戒を促した

「晴海様‥警戒を。向こうからこっちに来ます」

晴海も霊刀を小型に構築しつつ一応迎撃体勢を取ったが前方、数百メートル先にある、三階くらいのクレーターの丘の様な「向こう側」から生物が飛び出してくる

晴海にも直ぐ分った
「やはり!」と
そう、前回会った「アノ子」である

かなりの跳躍力があるらしく足も速い。丘を飛び越え手前に着地し、そのまま走る、と言っていいのか謎だが、地面スレスレに飛行しているような感じだろう自身の足で移動している様には見えない

前回と状況は同じだろう、誰かに追われて逃げているのだろうが前回と違うのは追ってる相手だ流石に晴海もアヤネも度肝を抜かれる

丘の向こう側から白い、デカイヘビが現れ「あの子」に食い掛かろうと飛んで来る

「デカイ‥」としか云い様が無い

多分目算で八メートルの羽の生えた白ヘビ、既存する知識で言えばケツアルカトルみたいな感じだろう

「晴海様‥これは‥助けるつもりですか?」

そうアヤネが言うのも当然だろう、自分等が相手出来る様な妖怪ではないだろう、少なくとも以前の一反木綿よりランクは上のハズ

「勝つ必要は無い‥防衛して下がる」
「仕方無いですね‥お付き合いします」

晴海は明確に目的がある、討伐は後回しでいい、アノ子をどうにかしたいだけだ、その為に来たのだから

その為の行動も明確だった、霊刀を発動させ白ヘビから逃げるアノ子に遠くから呼び一定の距離から接近し無い様にする

「君!こっちだ!」

そう、それは通じる。前回の交流で知性・意志はある事は確認している

アノ子も晴海を見つけて左右にジャンプするように避けながら移動して晴海側に向う

当然追っかけてくる白ヘビも向かって来るが足自体はアノ子のが速く、晴海の後ろに着地して転げた

迎撃する様に先制の一撃
霊刀を射撃して白いヘビに打ち込んだ

それは命中して爆砕するが切れはしないらしく爆発物を投げ込まれた様に、向こうも破裂で仰け反って前進が止まる

動きはあまり早くない、というよりデカ過ぎて機敏には動けない、実際の大蛇と同じでヌメヌメ接近してくる感覚があるが大分お怒りの様で目標を晴海に移す

「シャー!」と歯を向いて空を飛びながら上方から向かって来るが基本的に相手は遠距離打撃は無いらしく直接噛み付きに来る感じだろう

が、距離を詰められるとおそらく不利になる、その為、晴海も連続で射撃刀を作っては撃ち、を繰り返し相手に距離を詰めさせない

「このまま後退する!」

と言って、射撃しながら後ろ後退する
アヤネもアノ子を抱えて応じて下がった。そのまま境界門まで下がって離脱するのが妥当だが

ただ、晴海の射撃刀でも向こうはそこそこ回避出来るらしい、空に居るとそれなりに自由に動けるし、基本ヘビなので前後左右にグネグネ動き回って当りにくい

そもそも晴海の射撃刀はレイナの九十九針とは違って誘導して当るようなモノでもない、自身が振った勢いで飛んでいく形なので相手を追っかけて当るのとは違う、そこまで命中精度が有るわけではない

当っても防御力のせいか、デカイ故か、殴られて仰け反る感じで、基本的に怒らせているだけにも見えるが

幸いにして晴海の場合、この戦い方でも問題はない射撃刀を何発打とうとガス欠を起こすような事もないが、どこまで持つかは何とも言えない。これまでの戦い見て分る通りだが神宮寺の武具は其々威力が大きい、従って当然自身の霊力消費は大きい

およそ、十分近く、おそらく50発以上は霊刀を撃ったろう、流石に晴海も息切れしてくる、ただそれは相手も同じでまるでダメージ無しではなく、両方動きが鈍ってくるがこの際
鈍ってきて状況が悪くなるのは晴海の側だろう

連打して打って自分の一定範囲に相手を近づかせない、それが連打が辛く成って来ると回転が落ちる、つまり相手は近接しやすくなる、全部当ってるなら兎も角、実際は三割くらいなので尚更キツい

射撃している、と言っても刀を振って、その軌道通りに刃が飛んでいくので、単に霊力がキツイだけでもなく肉体的疲労も蓄積する、あまり長時間は無理だ

アヤネも不味いと分って声を掛けてアノ子を下ろし後ろ歩きしながら札と小刀を出す

「晴海様。少し堪えて下さい覚えた式紙を使ってみます!」
「?!」
「一分、いえ、三十秒でいいです、作業と集中する時間をください!」
「わかった!」

そうお互い言って、晴海は射撃刀を通常刀に構築し、前に走ってヘビを自身に引き付け、アヤネは後ろに大きく下がって、カッター程度の小刀で自身の右手中指の先を切る

それをそのまま血が滲んだ所で中指と人差し指でダイレクトに札に書き始める

晴海はその場に踏みとどまりつつ、火焔刀で相手が頭から突っ込んで来るのを、相手を中心に右に回りながら刀を伸ばしてミドルレンジから追い払う様に左右に切る、おそらくソッチの方が効果があるのだろう

白ヘビは噛み付きを止めて牽制するように頭を出して無闇に仕掛けて来なくなる

生物は大体「火」とか「高熱」とかは嫌いだ、人間が熱いモノを近づけられると反射的に引く様に蛇も嫌がって頭を引く

アヤネは札に血で大円を描き、重ねる様に上に五芒星を入れ
中央に「天」、図形の真下に「朱」と入れる

自身の霊力を可能な限り充填し。そのまま叫ぶと同時に晴海とヘビの方向に札を投げた

「四神・天正・南の朱雀」と

札はアヤネの血の色そのまま広がり、一枚の赤紙の様に変化し空中で大きな形を作る

そう真っ赤に燃える鳳。いわゆる十二神将の一つ朱雀を模したモノだ空で鳳凰と成って、威嚇する様に咆哮し、白ヘビに立ち向かった

「出来た!?」
「アヤネ!?」

呼び出された朱雀はそのまま飛び掛って白ヘビに体当たりと同時両足の鉤爪で白ヘビを切り裂き、白ヘビも晴海から朱雀に目標を移す、というより、そっちのが強敵と思ったのだろう

何しろ、その一撃で白ヘビの右の羽を一メートル近く切り裂かれた朱雀を迎撃しないとそのまま落とされかねない

「晴海様!今の内です」

晴海も従って、アヤネの方にダッシュして引きアヤネの召喚に任せる、知識、としては知ってる、あまりにも有名な四聖獣、所謂陰陽道で言う十二天将の一つである

「ぶっつけ本番ですけど‥成功したみたいです‥」
「あれが新しく習った術か‥。強い‥」

新しく習ったには違いないが以前説明した通りで京極の中ではきちんと形が残っていて一門一派なら比較的制限なく伝授を受けられる、四聖獣の朱雀を模した召喚ではある。

普段使っている白虎と事情は異なり、使い手の霊力を入れる具合で強さや滞在時間が変化するタイプでゲームで言えば、白虎は消費するMPは固定だが強さが使い手の内面の強さが反映されるので自分で白虎の強さをコントロールは出来ないが、消耗はどこまで行っても少ない、逆に朱雀と青龍は入れたMPに応じて強さが変わる、犬なら30固定、鳥なら最低100という感じなので、場面によって使い道が違うと同時、後者は手法は存在しても、使い手は略いなくなる理由である

朱雀は大きさでは相手の半分くらいなのだがもの凄く強い、高速で相手の周りを駆け。すれ違い様に鉤爪でヘビを連続で切り裂いていく

速度で四・五倍くらい差があるのだろう、殆ど一方的に、まるで相手の周りに竜巻が起きている様な感じで、高速でスライスしていく

白ヘビが噛み付き返してもそれを螺旋状に回避しつつ、逆に首を八回切りつけて裂傷を付ける程だ

この戦闘は三分で勝敗は決した、白ヘビも「これは堪らん‥」と逃亡したからだが鳳は容赦がない

うねりながら空を逃げていく蛇をその場で停滞し羽ばたくと赤い羽根の射撃物を後ろから打ち込んで追撃する、それでヘビもヘロヘロのまま、北方向に逃げていった

それが勝利の雄たけびの如く、甲高い声で朱雀は鳴いてバサバサ羽ばたき戻って、アヤネの斜め後方に降りてハトみたいにグルグル鳴いて首を下げた

アヤネも何時も通り、犬にやるのと同じくデカイ鳳凰を撫でてあげて解除して札に戻した

が、その途端、アヤネも膝を付いて地に伏した、安心した、気が緩んだとかでもない、霊力をかなり消費したからだ、咄嗟に晴海もアヤネを抱き止めた

「だ、大丈夫?!」
「ええ‥霊力の使いすぎなだけです‥」
「そっか‥よかった。アヤネが居なければどうなっていたか‥」
「いえ、それが私の役目です」

晴海はアヤネを抱いて寝かせ、霊力を渡す、こんな状態でも晴海の霊力は余力があるので充電器には成れる

五分程、手を握って自身の霊力の移譲を続け半分くらいまで回復したところで、「あの子」も連れ、入った門へ向い
出てから、三次側から封鎖した
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