晴海様の神通力

篠崎流

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明澄

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あまりゆっくりもしていられないのは京極にも行くからだ、とは言え、距離で言えば遠くは無いのでこれも直ぐタクシーを拾って移動する

着いたのは夕方前、時計は四時を指していた。事前に「行く」という連絡だけは入れてあるので京極の屋敷の門に出迎えた和装の男性らに案内されて一番大きい和室に案内される

そこは既にアヤネの祖父、善幸も待っており彼も平伏して迎えた

「お初にお目にかかります善です」と
「こちらこそ、晴海です」と倣って晴海も頭を深く下げた

そうしてテーブルを囲んで三人だけで会談を持った。内容は先に慶に話した事と同じであるが、これも包み隠さず自身の思っている事、懸念も説明した。一通り聞いた善も腕を組んで目を閉じて答えた

「成る程‥神宮寺の御大はそう仰いましたか」
「アヤネとも話したのですが、まだまだ謎が多い、何か知っている事はありませんか?」
「あるにはあるのですが‥コレもやはり憶測に近いですからな‥それに今まで晴海様が得た情報・知識以上の事はあまりありません」

「しかし、其れ以外と言う事に成ると妖怪とは何なのか?という部分では幾らかあります」
「何でもいいんです、御願いします」
「わかりました‥では」

善幸が説明したのは「自身の経験からの知識」である。妖怪とは言っても、我々の認知している三次元、世界と本質的には違いはないらしい、其々バラバラの生物であるが、向こうは向こうで自然淘汰や食物連鎖。つまり、自然界の様な活動で成り立っている、との見解である

大物が小物を食い、小物はまた下の者も食う。基本的にそういうバランスだろうとした、その最下層に位置するのが人間ではないか?とも考えて居るそう

「何故そう思うのです?」
「ワシは現役の頃、最前線の士であった事はご存知ですか?」
「はい、聞きました」
「実は、長い現役の生活の中で晴海様の事例にも中った事があります」
「じゃあやっぱりそうなんだ‥」
「ええ、妖怪同士で争いお互い捕食する場面も見た事があります、つまり、餌は何も人間に限定されない、ですが人間は優先的であります」

「やはり弱いから?」
「だと思いますが、其れ以外の理由も考えられますが断定は出来ません」
「ですよね‥」
「そこでもう一つの経験測ですが、奴らとは幾度も戦いましたが必ずしも弱い相手を狙っている訳でもない様に思います」
「そうなんですか?」

「何度かありましたが、周囲に一般人が居るにも関わらず
ワシが集中的に狙われた事もあります、もし捕食対象として見ているなら単なる餌なら敢て強敵を狙う理由がありません」
「それは‥善幸さんが強いからでは?先に危険な相手を排除する」
「いえ、戦闘に直接関わっていない場面でもあります、一度、警官隊に要請されて現場に向かい、援護に入った事があります《まだ戦闘に参加していないのに》ワシに飛び掛ってきました、前に居る相手を無視してです」

「それは確かに不可解ですね‥戦術場面で態々攻撃していない相手を狙うなんて」
「ですから、他の理由も考えられます、ではそれが何か?までは分りませんが」
「うーん‥」

「それから多種多様な、というのも正解でしょう、遭遇した中には「無害」な相手も確かに居ました」
「やはりですか」
「はい、こちらから攻撃しなければ無視して去る者も少ないながら居りますな、尤も、それも理由は不明ですが」

「成る程、アヤネの言った通り、また初代神宮寺の様に《交流可能な相手》も居ない訳ではない、という事になりますね」
「ただ、それは戦う以上に難しい。ワシも現役三十年で実際戦わずに済んだ例というのは数例しかありませんから。無論コチラ側の問題もあります」
「見たら妖怪だ!、と成る事ですね‥」
「おそらく相当少ないのでしょう、中立的な妖怪、というのは」
「そうですね‥僕もそういうタイプの相手に殆ど遭遇してないですから」

「それは一先ず置いて、今日の訪問は京極にある術の事が主体なんですが‥」
「手法。術は確かに多数ありますが、ちゃんと確立されていない先代以前のモノが多いですな。ですが既に有るモノを教授するのは問題ない、移動手段でしたな?」
「はい」
「とは言え、既にちゃんとした手法自体は失われているモノも多い、ので何れにしろアヤネ次第という事になるでしょうが‥」
「が、がんばります」

そうしてアヤネは祖父と共に私室に残り、とりあえず既存する手法が完全な形で残っている札術の「書き」を習う。どこまで使えるか?というのはあくまでアヤネ次第の面があるが、既にアヤネも全盛期の祖父に近い霊力を持つのでおそらく発動させられるだろう

尤も、それで終りではなく、完璧に覚えて、実際コントロール等の訓練も必要ではあるが、晴海は客間に案内されて、既に夕方である為に

「どうぞ寝所を用意しましたので泊まっていってください」という事になった

夜、九時にはアヤネも同室に入り、寝屋を晴海と共にする。と言っても同じ布団で寝るとかでも無く、別々だが

晴海とアヤネの立場、というのは専属側近に近いので、抱く抱かないの問題でもなく、そう配慮されただけだが

「どうだった?」
「まだ書きを習っただけですので何とも‥それも一部だそうで‥」
「随分時間が掛かったけどそんなに難しいの?」
「ええ‥札への書きは少しのミスも許されないので一つ完全に覚えるにもそれなりに掛かりますね‥。」
「それはお疲れ様、と言う事はまだ滞在の方がいいのかな‥」
「出来ればですが」
「わかった、そうしよう」
「それとですが‥」
「ん?」
「先に先日言いました《白翼の心》の書きを習っているのですが‥これはどうやら他人に使うのは難しい様で‥」
「そうなの?アヤネ専用?」
「出来なくは無いのですが‥紙の翼を構築しても操作は作り主がやるので‥」
「あ~、そういう事か、ラジコン飛行機みたいな?」
「ええ‥残念ですが‥。他にもあるのですがそっちは少し掛かりそうです」
「そっか、いや。構わないよ、アヤネの戦力の上積みには成るし」
「わかりました」

アヤネも少し疲れている様で小さく溜息をついたので晴海も休む様に勧めた。

「今日はこういう配慮を貰ったからアレだけど今日だけでいいよアヤネも自分の部屋のが落ち着くだろうし」
「宜しいのですか?」
「そこまで僕に尽くす事はないよ、子供じゃないし自分の事は自分で出来る」
「わ、わかりました、有難う御座います」

そうして当日を終える

翌日からアヤネと晴海は別行動を取る、アヤネは引き続き、予習・復習・実習なので晴海はこの邪魔をしないように客間で本家で貰った書籍に眼を通す

歴史の事は大まか事実なのは分ったし、自分に起こっている事の事情も判ったので、晴海も「術」の面に集中して読んだ

ただ父から貰ったモノは「初代~はこういう術を使った」というコレも単に事例が書いてあるだけのモノなので実際手法や修行法がある訳ではない、が、父、慶は自分なりにそれら一つ一つの術を分析し、解釈はしている

「神宮寺の道具は術の補助」という点、例えば、晴海の霊刀は刀と言っているが、刀身は自分の霊力で作るし、作った刀を射撃したり、盾にしたり出来る。

それは例えて言えば入れ物とか水鉄砲の様に本質的に霊力を打ち出す形を一定方向に誘導しているに過ぎない

水をタンクに入れて打ち出せば水鉄砲、水を四角い入れ物に入れて固めれば氷の壁になるという解釈らしい

というのも、神宮寺の初代~二代目は「媒体」を必要としていない、レイナの九十九針も媒体を使っているが、本質的にそれは補助道具に過ぎないらしい

つまり霊力其の物を概念的、エネルギー的に捉えず直に操って使う事は可能だとしている

「だから《基本的に無形》と言ったのか‥、でもそうなると霊力を直接手足の様に操る手段が要るなぁ‥」

が、そういう技術を最初から持っている人物も居る
そうメイである

妖怪の探知に道具を使っていないし、自身の跳躍にも道具を使っていない、つまり仙術の系統は元々媒体を必要としないのだ「己が肉体が媒体」だから

「これ‥もしかしたらイケルかも?」とそこで始めて認知した「修行すれば」とも言っていたので詳しく聞く必要があるだろう

アヤネの方はその後、五日~八日まで滞在する、思い立ったと言っても急を要するという程の事でもないし、基本的にコチラを待つ方針とした
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