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綾辻の直系
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「今後共宜しく、はいいんだけどコレってずっと続くのかな」
「いえ、欲求的なモノに起因するので年齢を重ねれば落ち着くだろう、と‥男性でも女性でもある程度の年齢になれば欲は衰えるので」
「なるほど‥」
「そこで元々私の家にもあるお薬を渡しておきますね」
そう中堂丸、丸薬でサイズは小さいし副作用も無いのでそういう兆候が万一外で出たら飲めばいい
「服薬ですから即効性がある訳でもないので少しでもマズイと思いましたら早めに飲んで頂く様に」
「了解」
「バイオリズムがあるという事なので事前に分ると思います、生理現象なので晴海様自身も制御は効きます」
「単に性欲だしね、精神訓練すればいい訳だしね」
「そういう事です、まぁ家とか私と二人だけの時は敢て我慢する必要も無いですけど遠慮なく私に」
「あ、ああ‥」
「何れにしろ、確定事項でもなく把握の為にも必要ですので」
「分った」
「それから事故的に他の女性に効いてしまった場合これも遠慮なく最後までしてあげてください」
「‥は?」
「私ですら全く逆らえない強力な力ですから、放置すると
まず普通の女性では発狂します、最後までして上げれば熱は冷める様なので、つまりしっかり種付けして頂くという」
「マジデ‥」
「はい、それから焦らしたりも不味いです、私の経験の例ですが我慢、耐えて抗う時間が長い程悪化します、ですからなるべく早く応じてあげる、です」
「わ、わかった」
という訳で丸薬の入った小瓶を貰う、丸薬と言っても小さいのでその場で直ぐ飲める、サイズも色も正露丸とかとあんまり変わらないし
それから新たな訓練項目として精神修養も加えられる、自重出来る場合も多い、コントロールも可能だと暫定的に示されたからだ
七月、最初の週の月曜の事である。事件には違い無い、晴海たちの学年には関係ないのだが学校で少々噂になった
「転校生」だそうだ、それ自体珍しくも無いだろうがこの学校は入れ替わりも結構ある。政府系には違いなく家柄とか成績とか教養とかスポーツとか優れていれば途中編入も可能だし評判と環境に優れた学園だから
強要でもなく厳しくも無いのだが、それだけにプレッシャーもある、合わない耐えられない子もそこそこ出るので入れ替わりは普通の高校よりはあるから
「そんなに噂に成るような人でも入ったんですか?」ともアヤネも言ったがそれは直ぐ明らかになる
二人が昼食を食堂で食べていた所、対面の席に配膳トレーが置かれ「此処いいかい?」とぶっきらぼうに声を掛けられた
そう「噂の人物」である
「え‥ああ、どうぞ」と返して座ったが
成る程の容姿
制服のワッペンで識別出来る様に成っているが上級生の二年
非常に背が高く既に172か3はあるし、スポーツ系のガッチリした女の子だった
それだけじゃない、眼は三角の三白眼で太めの怒り眉、少し日焼けした褐色の肌、ザンバラ、というか強いクセ毛で色も赤茶でこれを乱雑に纏めてポニテにしている、髪量が多いのもあるが昔の手入れしてない浪人の髷みたいにも見える
まあ、現代でストレートに言えば「ヤンキー娘」みたいな感じ、そりゃ噂になるだろうな、という見た目だった。何しろそういう学校だからお嬢様とかおぼっちゃまだらけな訳でこういうタイプの子はまず居ないし
「あの‥貴女は?」
「挨拶が遅れてすまない、二年に転入してきた綾辻 レイナだ」
「え?!じゃあ時人さんの?」
「おう、次女て事になってる、親父の命でこっちに住めて事になった」
「なるほど‥」
「お前が神宮寺の次男か、随分軟弱そうだな‥」
「すいません‥」
ただ、この物言いにアヤネが噛み付いたが。まあそりゃそうだろう、アヤネからすれば格の違う上の相手なんだから
「貴女ねぇ‥失礼でしょう。神宮寺の嫡子ですよ?」
「知るかよ、アタシには関係ないし」
「何しに来たんですか‥」
「そこのぼっちゃんの護衛と指導」
「プッ、貴女が?猿回しでも指導するんですか?」
「何だ?文句あんのか?!」
いきなり超険悪な事になったので流石に割って入ったが
「止めろ二人共」と一応それで両者引いたが終始黒オーラ空間で食事する事になった
どうも彼女は礼儀とか建前というのが無いらしい、晴海はあんまり気にしないのだがアヤネが受け付けない
それで更に問題なったのが放課後である、晴海らも部活とかは無く、二時半には帰れるので、さっさと自宅に戻ったのだが「例の」あの子も鞄下げて付いて来る
マンションの部屋前まで結局付いて来て
「ほー、いい部屋だなぁ」とか言った
「あのね‥なんですかレイナさんこんな所まで付いて来て」
「アタシも同衾する」
「‥冗談でしょ‥」
「それも命て事?」
「おう、ぼっちゃんは話しが早いな」
流石にアヤネも呆然である、とは言え、追い返す訳にも行かない為、家に上げてお茶をだした
「どういう事ですか?一緒に住むて」
「どうもこうも、一緒に住んでぼっちゃんを守れ、とさ、ついでに剣術の相手しろ、て事らしい」
「どういう人選なんでしょうねぇ‥まさかこんな山猿を送ってくるなんて‥」
「ああ?!」
「あれ?気にしてたんですか?自覚はあるんですね」
「ふざけんなよこの白狸!」
「し!白狸!?」
とまた喧嘩が始まる、晴海も呆れるくらいくだらない導火線である
「あのね、話し進まないんで止めてくれる?」
「す、すみません」
「チッ‥」
まあ、でもアヤネの言う事も尤もでもある兎に角気が強いし、あの時人さんが人選した、とも思えないような相手だ
だが、同時に嫌がらせの類とも思えない、少なくともそういう人ではないだろうし実の娘ではある
「で、時人さんは他に何か、どうしてレイナさんが?」
「アタシが姉妹の中で一番武芸が出来るからだ、それに前線にも出れるぞ?道具もあとで来る」
「じゃあ本気なんだな‥」
「親父は冗談かます様な人じゃねーよ」
「だよなぁ‥まあ、そういう事なら仕方無いけど何でこの家に‥」
「んー、まあ「社会勉強してこい」とは言ってたな」
「あれ、じゃあレイナさんはもしかして」
「ああ、ずっと家で育ったからな、あんま出た事もない」
「そう言う事か、僕と逆パターンと、それで勉強か」
「それは良いとして大丈夫なの?」
「何が?」
「アヤネと僕が住むマンションだけど仲良く出来る?」
「子供かアタシは‥」
「いやだって、共同生活だし、集合賃貸住宅だし暴れたり喧嘩されたり騒がれたりすると他の住民にも迷惑なんで‥」
「知らん、がそこのお嬢ちゃんが絡まなければこっちも喧嘩するつもりはないぞ」
「な!私が絡んだ訳じゃないでしょう!」
「だーかーらー」
「す、すみません」
「まあ、そういう訳だ、宜しくなぼっちゃん!」
とか言って晴海の頭をガシガシ撫でた
「はぁ‥」
そういう訳で強引にその日から彼女も住み始めたが実際アヤネが煽らなければ余計な争いには成らないらしい、彼女にはストレスでしかないが、まさか「要らん帰れ」という訳にもいかない
ただその後数日共同生活をしてみると時人が嫌がらせで送った訳ではないのもわかった、夜に下の公園等で実際晴海と手合わせ指導もするが、そこそこ出来る晴海でも剣では全く相手にならない
レイナは一切手出ししない受けだけなのだが、全然当たらない、アヤネも呆然である、事実は事実として受け入れるしかないだろう
「レイナさんは本当に強いんですね」
「まあね、ただ前線ではそうでもないはず」
「どう言う事?」
「綾辻は私達と違って特殊技能はあまり持ちませんので退魔という話しになると厳しいでしょう」
「そうだったね」
「一応、専用武器はあるんだが、残念ながらそれも扱える人間が少ない」
「それは?」
晴海がそう聞いた所でレイナも座を立ち部屋に戻って反物に包んだ棒を出して戻って見せた
見た目は短めで黒鉄、長さは一メートル手前くらいの手持ちの六角錫杖、昔で云う僧侶とか僧兵とかが使ったモノだ
「鉄棒??」
「一応霊剣でもあるんだがこれに霊力を注入して使う普段はただの飾り物だな。打撃武器というか」
「基本的に僕の霊刀と同じ様なモノか‥刀身が有るか無いかの違いと」
「そうだな、だが、不幸な事にウチら一族は霊力はあまり持ってない神宮寺とは逆らしい、アタシも一応発動はさせられるが精精使えて、数分、使い切れば昏倒する、何しろ個々が持ってる燃料が少ないらしい」
「そういう一族か」
「そう、だから主にこっちが持ってる知識とか財力、人員、物理的な戦闘や護衛で貢献するしかない訳だな」
「まあ、そういう意味では心強いね‥」
「しかし何だな、ぼっちゃんが別に現場に出なくていいだろう死なれたら困るんじゃない?」
「僕は継承権で言えば二番だからね、兄が上に居るからそうでもないよ、大体、家の事とか対応は好きに成れない。面前の脅威に「勝手にやってろ」とも思わない」
「意気は良いがね、身軽な立場でもあるんだろうが、まあ、アタシがとやかく言う事でもないが」
それは実際レイナの言う通りではある表面上はだが。これは晴海の個人的な思いに近くはある、影響力が大きい訳でもない。が、それは最初期だから皆そう思っただけで結果論で言えば晴海の行動も考えも正しかったと証明されるのだが。
何でも最初というのはそういうモノだ
「そんな事して何になるの?」と馬鹿にされる事も多々ある
でもどんな大事業も切っ掛けはそうなのである
五日、共同生活をしたがアヤネもレイナの扱い方が分ったしく割りとトラブルも無く過ごせていた、同日には時人も言っていた通り「資料」も届く
綾辻の家の事や全体の分家を含めた歴史、また、既に簡易であるが把握しているだけの現在の状況などだ、これも当日から三人で読み、其々情報交換する
アヤネにしろレイナにしろ、自分の家の事は知ってるいるが
全体とか過去の成り立ちなんてのはそこまで詳しくない為、これはこれで勉強には成るが、既に口伝的に伝わっているお話の様なモノで実際は正確無比な資料ではないが
「これは物語としても聞いたモノがあるよね鬼とか狐とか」
「ええ、そう言ったモノの登場から公卿が命じて其々の専門家が集まり討伐の任に中った。そこが初めの様です」
「ま、脚色されてそうだが‥」
「それは仕方無いでしょうね」
「でも肝心な事は何にも分らないなぁコレ」
「ですね、魔とは何なのか、どこからどう来たのか、仮説はありますが確認も出来て居ないですし」
「そうだねぇ、説は色々あるし、生物的要素もあれば次元生物みたいな物だ、という解釈もあるし‥単に隣にある世界の別の住人であるとか」
「実際分析とか確認とか出来ないしな、そもそも交流出来ない」
「メカニズムが不明じゃねぇ‥」
晴海が知りたい、と思った所はそこである、何しろ正体不明な訳で生態も不明、判っているのは次元の狭間の様な場所に住む反面の者。多種多様なモノが存在し原点はどこなのか?どう生まれてくるのか何故人間が捕食対象なのか、という事が何も分らない、分らないでは根本的な対処にならないと、考えたからだ
それは晴海らが対するにしても政府が対するにしても同じだろう、もう一つは、大昔にはもっと大物が登場した事もあったという事、これも脚色されているだろうが、有名な殺生石とか鬼とかだ
「大物や、もっとランクの高い相手が現代に出たらどうなるんだろう?」という懸念の部分
「でもそれだけでなく一定の周期でデカイのも出たんだよな?」
「ええ、他所の国でもあったみたいですし」
「一般には物語りでしかないけど、ウチらは現実に戦ってきた訳だしな‥ぼっちゃんの考えもそこにある訳か」
「そう、でも僕らはEランクの相手でもそこそこ苦戦してるからそれ以上が出たら困るよね、今までは幸運だったけど、これからは分らない、そもそも現場で戦える人間が居ない」
「貰った資料でも各所の戦力等も出されていますね‥深刻に成らざる得ないのも分ります‥Eランクの相手でも戦えるのは
各家に多くて10~て‥」
「公人組織、政府とか警察とかもようやく最近専門家を作ったくらいだしね‥」
「まあ、大昔から近代はそういう目立った事件は無いちゃ無いけど平和ボケなんかねぇ」
「そういう側面もあるでしょうけど、どうしても我々の技術というのは才能に依存するので戦力を増やし難くはありますね」
「才能に依存か‥これは難しい問題だね」
「確かに、アタシも霊力が大きければ現場でバリバリやってみたいんだけどね‥」
「私にしてもそうですからね‥紙犬とかだと子鬼相手が精精ですから‥」
まあ、つまり晴海らが前線部隊なり、集団を独自に作るというのは実際難しい訳である、鍛えれば強くなるという話しでもなし、新しい技術を作る事が出来る訳でもない
自分等がランクアップするにも相当な修練も要るし、それも当人の才覚に依存する、平和ボケだからやらないとかではなく、元々そういう人間が生まれる確率が極めて少ない、という所が全てのネックになる訳だ
仮に、極稀に英雄的な退魔師が生まれた、ランクAとかが出たとしても晴海の戦力に加えろ、とも成らないし、そういうランクの人物であれば、どこの家に生まれたとしても数十年に一人の天才であり安易に前線に出したりしないだろう
「そういえばレイナさんランクは?」
「ああ、Eだ」
「強いのになぁ‥」
「そうぼっちゃんに言われるとテレ臭いが、対魔基準ではそうなっちまうんだよね‥」
「ですよね‥」
「まあ、無い物強請りしてもしょうがない、やれる事をやるしかないなぁ」
「そうですね、私も術を増やしてみましょう」
「出来るの?」
「ええ、教本がちゃんとありますので多少は‥」
「僕らも鍛えるしかないなぁ‥霊力の要素が大きいならそっちも伸ばす手法があればいいんだけど‥」
「アタシの所には無いな」
「京極には少しあるんですが‥」
「そっか、まあ仕方無い」
としてとりあえず割り切るしかなかった
「霊力が重要」というのは実際その通りであるレイナは剣術とか武力とか肉体的才能という意味では飛びぬけて高いのだがランクはEである
それは退魔の基準だからそうなるだけで晴海にしろ、レイナにしろ、アヤネにしろ道具か術に依存する、元とか現在の霊力が高いなら結果自体大きく変わるので、ランクは曖昧な基準でしか無い訳だ
心技体という分別しかなく重要度も。心>技>体という並びになる、だから晴海は戦闘に優れていなくてもCランクでありそれが問題を深刻にしている
ただ、資料を色々読む内に判明したこともある、あくまでこれは、時人の解釈ではあるらしいのだが、増やす事が不可能な訳ではないらしい、何故そういう事まで調べているのかと云えば、綾辻は「霊力が低い故、活躍出来ない」という負債があるから
活路は綾辻でも色々調べているが、今の所それ程有効な手法なりは見つかっていない
例えば、中国の気功なんてのは呼び方が違うだけで我々が言っている霊力と似たモノ、という解釈もあり、修行法も一応あるが、膨大な時間と修練が必要で、それも元々個々人が持っている量に多少上積み出来る、という程度で有効ではない
いわゆる、仙術にも属するがこれは何十年も掛かるという事らしい、だから継続して訓練している人間は各家にも居るが「有効ではない」とも断じている
七月の二週目からはレイナも馴染んで普通に生活するようになりまた、表面上の平和な学生生活も続く
実際、レイナも短時間なら魔狩りは可能という事もあり警察からのE案件の連絡が入る様に設定してもらう、彼女自身も希望あって、現場に出る、というのは嬉しいらしい。まあ、どう見ても最前線向きではある、ゲームで言えばどう見ても戦士だし
ただ、それはそれで問題もあるのだが、綾辻の令嬢には違い無いし強いのだが、対魔では危険度が上がるから、晴海も道具、アヤネも紙術で防御は補っているがレイナには無いので実際は前を張らせるのは無謀というか危険ではあるし
無論、その程度の事は当人も時人も分っているだろうし覚悟はあるだろうがそれでもハイそうですか、とやらせて死なせるのも問題あるだろう
「いえ、欲求的なモノに起因するので年齢を重ねれば落ち着くだろう、と‥男性でも女性でもある程度の年齢になれば欲は衰えるので」
「なるほど‥」
「そこで元々私の家にもあるお薬を渡しておきますね」
そう中堂丸、丸薬でサイズは小さいし副作用も無いのでそういう兆候が万一外で出たら飲めばいい
「服薬ですから即効性がある訳でもないので少しでもマズイと思いましたら早めに飲んで頂く様に」
「了解」
「バイオリズムがあるという事なので事前に分ると思います、生理現象なので晴海様自身も制御は効きます」
「単に性欲だしね、精神訓練すればいい訳だしね」
「そういう事です、まぁ家とか私と二人だけの時は敢て我慢する必要も無いですけど遠慮なく私に」
「あ、ああ‥」
「何れにしろ、確定事項でもなく把握の為にも必要ですので」
「分った」
「それから事故的に他の女性に効いてしまった場合これも遠慮なく最後までしてあげてください」
「‥は?」
「私ですら全く逆らえない強力な力ですから、放置すると
まず普通の女性では発狂します、最後までして上げれば熱は冷める様なので、つまりしっかり種付けして頂くという」
「マジデ‥」
「はい、それから焦らしたりも不味いです、私の経験の例ですが我慢、耐えて抗う時間が長い程悪化します、ですからなるべく早く応じてあげる、です」
「わ、わかった」
という訳で丸薬の入った小瓶を貰う、丸薬と言っても小さいのでその場で直ぐ飲める、サイズも色も正露丸とかとあんまり変わらないし
それから新たな訓練項目として精神修養も加えられる、自重出来る場合も多い、コントロールも可能だと暫定的に示されたからだ
七月、最初の週の月曜の事である。事件には違い無い、晴海たちの学年には関係ないのだが学校で少々噂になった
「転校生」だそうだ、それ自体珍しくも無いだろうがこの学校は入れ替わりも結構ある。政府系には違いなく家柄とか成績とか教養とかスポーツとか優れていれば途中編入も可能だし評判と環境に優れた学園だから
強要でもなく厳しくも無いのだが、それだけにプレッシャーもある、合わない耐えられない子もそこそこ出るので入れ替わりは普通の高校よりはあるから
「そんなに噂に成るような人でも入ったんですか?」ともアヤネも言ったがそれは直ぐ明らかになる
二人が昼食を食堂で食べていた所、対面の席に配膳トレーが置かれ「此処いいかい?」とぶっきらぼうに声を掛けられた
そう「噂の人物」である
「え‥ああ、どうぞ」と返して座ったが
成る程の容姿
制服のワッペンで識別出来る様に成っているが上級生の二年
非常に背が高く既に172か3はあるし、スポーツ系のガッチリした女の子だった
それだけじゃない、眼は三角の三白眼で太めの怒り眉、少し日焼けした褐色の肌、ザンバラ、というか強いクセ毛で色も赤茶でこれを乱雑に纏めてポニテにしている、髪量が多いのもあるが昔の手入れしてない浪人の髷みたいにも見える
まあ、現代でストレートに言えば「ヤンキー娘」みたいな感じ、そりゃ噂になるだろうな、という見た目だった。何しろそういう学校だからお嬢様とかおぼっちゃまだらけな訳でこういうタイプの子はまず居ないし
「あの‥貴女は?」
「挨拶が遅れてすまない、二年に転入してきた綾辻 レイナだ」
「え?!じゃあ時人さんの?」
「おう、次女て事になってる、親父の命でこっちに住めて事になった」
「なるほど‥」
「お前が神宮寺の次男か、随分軟弱そうだな‥」
「すいません‥」
ただ、この物言いにアヤネが噛み付いたが。まあそりゃそうだろう、アヤネからすれば格の違う上の相手なんだから
「貴女ねぇ‥失礼でしょう。神宮寺の嫡子ですよ?」
「知るかよ、アタシには関係ないし」
「何しに来たんですか‥」
「そこのぼっちゃんの護衛と指導」
「プッ、貴女が?猿回しでも指導するんですか?」
「何だ?文句あんのか?!」
いきなり超険悪な事になったので流石に割って入ったが
「止めろ二人共」と一応それで両者引いたが終始黒オーラ空間で食事する事になった
どうも彼女は礼儀とか建前というのが無いらしい、晴海はあんまり気にしないのだがアヤネが受け付けない
それで更に問題なったのが放課後である、晴海らも部活とかは無く、二時半には帰れるので、さっさと自宅に戻ったのだが「例の」あの子も鞄下げて付いて来る
マンションの部屋前まで結局付いて来て
「ほー、いい部屋だなぁ」とか言った
「あのね‥なんですかレイナさんこんな所まで付いて来て」
「アタシも同衾する」
「‥冗談でしょ‥」
「それも命て事?」
「おう、ぼっちゃんは話しが早いな」
流石にアヤネも呆然である、とは言え、追い返す訳にも行かない為、家に上げてお茶をだした
「どういう事ですか?一緒に住むて」
「どうもこうも、一緒に住んでぼっちゃんを守れ、とさ、ついでに剣術の相手しろ、て事らしい」
「どういう人選なんでしょうねぇ‥まさかこんな山猿を送ってくるなんて‥」
「ああ?!」
「あれ?気にしてたんですか?自覚はあるんですね」
「ふざけんなよこの白狸!」
「し!白狸!?」
とまた喧嘩が始まる、晴海も呆れるくらいくだらない導火線である
「あのね、話し進まないんで止めてくれる?」
「す、すみません」
「チッ‥」
まあ、でもアヤネの言う事も尤もでもある兎に角気が強いし、あの時人さんが人選した、とも思えないような相手だ
だが、同時に嫌がらせの類とも思えない、少なくともそういう人ではないだろうし実の娘ではある
「で、時人さんは他に何か、どうしてレイナさんが?」
「アタシが姉妹の中で一番武芸が出来るからだ、それに前線にも出れるぞ?道具もあとで来る」
「じゃあ本気なんだな‥」
「親父は冗談かます様な人じゃねーよ」
「だよなぁ‥まあ、そういう事なら仕方無いけど何でこの家に‥」
「んー、まあ「社会勉強してこい」とは言ってたな」
「あれ、じゃあレイナさんはもしかして」
「ああ、ずっと家で育ったからな、あんま出た事もない」
「そう言う事か、僕と逆パターンと、それで勉強か」
「それは良いとして大丈夫なの?」
「何が?」
「アヤネと僕が住むマンションだけど仲良く出来る?」
「子供かアタシは‥」
「いやだって、共同生活だし、集合賃貸住宅だし暴れたり喧嘩されたり騒がれたりすると他の住民にも迷惑なんで‥」
「知らん、がそこのお嬢ちゃんが絡まなければこっちも喧嘩するつもりはないぞ」
「な!私が絡んだ訳じゃないでしょう!」
「だーかーらー」
「す、すみません」
「まあ、そういう訳だ、宜しくなぼっちゃん!」
とか言って晴海の頭をガシガシ撫でた
「はぁ‥」
そういう訳で強引にその日から彼女も住み始めたが実際アヤネが煽らなければ余計な争いには成らないらしい、彼女にはストレスでしかないが、まさか「要らん帰れ」という訳にもいかない
ただその後数日共同生活をしてみると時人が嫌がらせで送った訳ではないのもわかった、夜に下の公園等で実際晴海と手合わせ指導もするが、そこそこ出来る晴海でも剣では全く相手にならない
レイナは一切手出ししない受けだけなのだが、全然当たらない、アヤネも呆然である、事実は事実として受け入れるしかないだろう
「レイナさんは本当に強いんですね」
「まあね、ただ前線ではそうでもないはず」
「どう言う事?」
「綾辻は私達と違って特殊技能はあまり持ちませんので退魔という話しになると厳しいでしょう」
「そうだったね」
「一応、専用武器はあるんだが、残念ながらそれも扱える人間が少ない」
「それは?」
晴海がそう聞いた所でレイナも座を立ち部屋に戻って反物に包んだ棒を出して戻って見せた
見た目は短めで黒鉄、長さは一メートル手前くらいの手持ちの六角錫杖、昔で云う僧侶とか僧兵とかが使ったモノだ
「鉄棒??」
「一応霊剣でもあるんだがこれに霊力を注入して使う普段はただの飾り物だな。打撃武器というか」
「基本的に僕の霊刀と同じ様なモノか‥刀身が有るか無いかの違いと」
「そうだな、だが、不幸な事にウチら一族は霊力はあまり持ってない神宮寺とは逆らしい、アタシも一応発動はさせられるが精精使えて、数分、使い切れば昏倒する、何しろ個々が持ってる燃料が少ないらしい」
「そういう一族か」
「そう、だから主にこっちが持ってる知識とか財力、人員、物理的な戦闘や護衛で貢献するしかない訳だな」
「まあ、そういう意味では心強いね‥」
「しかし何だな、ぼっちゃんが別に現場に出なくていいだろう死なれたら困るんじゃない?」
「僕は継承権で言えば二番だからね、兄が上に居るからそうでもないよ、大体、家の事とか対応は好きに成れない。面前の脅威に「勝手にやってろ」とも思わない」
「意気は良いがね、身軽な立場でもあるんだろうが、まあ、アタシがとやかく言う事でもないが」
それは実際レイナの言う通りではある表面上はだが。これは晴海の個人的な思いに近くはある、影響力が大きい訳でもない。が、それは最初期だから皆そう思っただけで結果論で言えば晴海の行動も考えも正しかったと証明されるのだが。
何でも最初というのはそういうモノだ
「そんな事して何になるの?」と馬鹿にされる事も多々ある
でもどんな大事業も切っ掛けはそうなのである
五日、共同生活をしたがアヤネもレイナの扱い方が分ったしく割りとトラブルも無く過ごせていた、同日には時人も言っていた通り「資料」も届く
綾辻の家の事や全体の分家を含めた歴史、また、既に簡易であるが把握しているだけの現在の状況などだ、これも当日から三人で読み、其々情報交換する
アヤネにしろレイナにしろ、自分の家の事は知ってるいるが
全体とか過去の成り立ちなんてのはそこまで詳しくない為、これはこれで勉強には成るが、既に口伝的に伝わっているお話の様なモノで実際は正確無比な資料ではないが
「これは物語としても聞いたモノがあるよね鬼とか狐とか」
「ええ、そう言ったモノの登場から公卿が命じて其々の専門家が集まり討伐の任に中った。そこが初めの様です」
「ま、脚色されてそうだが‥」
「それは仕方無いでしょうね」
「でも肝心な事は何にも分らないなぁコレ」
「ですね、魔とは何なのか、どこからどう来たのか、仮説はありますが確認も出来て居ないですし」
「そうだねぇ、説は色々あるし、生物的要素もあれば次元生物みたいな物だ、という解釈もあるし‥単に隣にある世界の別の住人であるとか」
「実際分析とか確認とか出来ないしな、そもそも交流出来ない」
「メカニズムが不明じゃねぇ‥」
晴海が知りたい、と思った所はそこである、何しろ正体不明な訳で生態も不明、判っているのは次元の狭間の様な場所に住む反面の者。多種多様なモノが存在し原点はどこなのか?どう生まれてくるのか何故人間が捕食対象なのか、という事が何も分らない、分らないでは根本的な対処にならないと、考えたからだ
それは晴海らが対するにしても政府が対するにしても同じだろう、もう一つは、大昔にはもっと大物が登場した事もあったという事、これも脚色されているだろうが、有名な殺生石とか鬼とかだ
「大物や、もっとランクの高い相手が現代に出たらどうなるんだろう?」という懸念の部分
「でもそれだけでなく一定の周期でデカイのも出たんだよな?」
「ええ、他所の国でもあったみたいですし」
「一般には物語りでしかないけど、ウチらは現実に戦ってきた訳だしな‥ぼっちゃんの考えもそこにある訳か」
「そう、でも僕らはEランクの相手でもそこそこ苦戦してるからそれ以上が出たら困るよね、今までは幸運だったけど、これからは分らない、そもそも現場で戦える人間が居ない」
「貰った資料でも各所の戦力等も出されていますね‥深刻に成らざる得ないのも分ります‥Eランクの相手でも戦えるのは
各家に多くて10~て‥」
「公人組織、政府とか警察とかもようやく最近専門家を作ったくらいだしね‥」
「まあ、大昔から近代はそういう目立った事件は無いちゃ無いけど平和ボケなんかねぇ」
「そういう側面もあるでしょうけど、どうしても我々の技術というのは才能に依存するので戦力を増やし難くはありますね」
「才能に依存か‥これは難しい問題だね」
「確かに、アタシも霊力が大きければ現場でバリバリやってみたいんだけどね‥」
「私にしてもそうですからね‥紙犬とかだと子鬼相手が精精ですから‥」
まあ、つまり晴海らが前線部隊なり、集団を独自に作るというのは実際難しい訳である、鍛えれば強くなるという話しでもなし、新しい技術を作る事が出来る訳でもない
自分等がランクアップするにも相当な修練も要るし、それも当人の才覚に依存する、平和ボケだからやらないとかではなく、元々そういう人間が生まれる確率が極めて少ない、という所が全てのネックになる訳だ
仮に、極稀に英雄的な退魔師が生まれた、ランクAとかが出たとしても晴海の戦力に加えろ、とも成らないし、そういうランクの人物であれば、どこの家に生まれたとしても数十年に一人の天才であり安易に前線に出したりしないだろう
「そういえばレイナさんランクは?」
「ああ、Eだ」
「強いのになぁ‥」
「そうぼっちゃんに言われるとテレ臭いが、対魔基準ではそうなっちまうんだよね‥」
「ですよね‥」
「まあ、無い物強請りしてもしょうがない、やれる事をやるしかないなぁ」
「そうですね、私も術を増やしてみましょう」
「出来るの?」
「ええ、教本がちゃんとありますので多少は‥」
「僕らも鍛えるしかないなぁ‥霊力の要素が大きいならそっちも伸ばす手法があればいいんだけど‥」
「アタシの所には無いな」
「京極には少しあるんですが‥」
「そっか、まあ仕方無い」
としてとりあえず割り切るしかなかった
「霊力が重要」というのは実際その通りであるレイナは剣術とか武力とか肉体的才能という意味では飛びぬけて高いのだがランクはEである
それは退魔の基準だからそうなるだけで晴海にしろ、レイナにしろ、アヤネにしろ道具か術に依存する、元とか現在の霊力が高いなら結果自体大きく変わるので、ランクは曖昧な基準でしか無い訳だ
心技体という分別しかなく重要度も。心>技>体という並びになる、だから晴海は戦闘に優れていなくてもCランクでありそれが問題を深刻にしている
ただ、資料を色々読む内に判明したこともある、あくまでこれは、時人の解釈ではあるらしいのだが、増やす事が不可能な訳ではないらしい、何故そういう事まで調べているのかと云えば、綾辻は「霊力が低い故、活躍出来ない」という負債があるから
活路は綾辻でも色々調べているが、今の所それ程有効な手法なりは見つかっていない
例えば、中国の気功なんてのは呼び方が違うだけで我々が言っている霊力と似たモノ、という解釈もあり、修行法も一応あるが、膨大な時間と修練が必要で、それも元々個々人が持っている量に多少上積み出来る、という程度で有効ではない
いわゆる、仙術にも属するがこれは何十年も掛かるという事らしい、だから継続して訓練している人間は各家にも居るが「有効ではない」とも断じている
七月の二週目からはレイナも馴染んで普通に生活するようになりまた、表面上の平和な学生生活も続く
実際、レイナも短時間なら魔狩りは可能という事もあり警察からのE案件の連絡が入る様に設定してもらう、彼女自身も希望あって、現場に出る、というのは嬉しいらしい。まあ、どう見ても最前線向きではある、ゲームで言えばどう見ても戦士だし
ただ、それはそれで問題もあるのだが、綾辻の令嬢には違い無いし強いのだが、対魔では危険度が上がるから、晴海も道具、アヤネも紙術で防御は補っているがレイナには無いので実際は前を張らせるのは無謀というか危険ではあるし
無論、その程度の事は当人も時人も分っているだろうし覚悟はあるだろうがそれでもハイそうですか、とやらせて死なせるのも問題あるだろう
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