境界線の知識者

篠崎流

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人の範疇

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翌年

相変わらず、限定的な、連合の中での平和は安定して続いていた、ペンタグラムの防備も軍備も、人口も安定して、少しづつ強化され

本来の「裁定、統制」そして「争いの拡大の規制」という機能は完全に近く、運営されるまで力を取り戻す事に成る

この現状あってペンタグラムを無視した各国の争いも出来ようが無く、拡大のし様もない。何しろ、テスネアの終盤やった様に3重の兵糧攻めもされかねない上今や普通に軍事力もある

「世界」の争いも疲弊から収束に向かう事になる、そう「為政者以外、誰が好んで争いなど続けるものか」なのだ

民衆にとってはただの迷惑でしかなく、ペンタグラムや連合の姿勢を評価する世論が「下」から盛り上がりつつあった。こうなると、其々の国も一層動き難い

嘗てフォレスの云った通りの展開
其々の疲弊に寄る収束が成されつつあった

フォレスも相変わらずだった。毎日、妻らと会っては、楽しく過ごし、教師もしながら後身の指導

稀にある、連合内のトラブルも軽く片付け乱れらしい乱れも無かった

そんな春の、午前中
フォレスはグランセルナの森の管理視察とついでに魔石の原石や触媒をターニャらと遊びながら散策して探していた

もう、日課に近い、研究の材料調達と娘との交流、弟子らの現地説明会に近かった、何も変わらないの何時もの日常のハズ、だった

が、帰り掛け、森の奥から出て来る女が居た
それと遠目で対面して見つめ合った

「どうしたの?パパ」
「ん、ああ、ちょっとな」

そこで相手に、ターニャも気がついて軽く会釈する

「知り合い?」
「まぁな、大昔の、ちょっと話してくるわ、先帰っていいぞ」
「はーい」

と特に疑いも持たず、ターニャらは先に森を出る。フォレスはそのまま相手の前まで歩き、こう先に告げた

「久しいな‥生きてたのか」

彼女は顔を半分覆ったようなローブの黒い目と髪の美しい女性、だが、直ぐに判った、そう、人ならざる者だから、そして見知った相手なのだから

「我らが死ぬ訳は無かろう?知っているクセに」
「ま、神魔は基本、不死に近いし、死んだとしても転生するだけか」
「高種、は大抵、そうじゃな」
「で?何の用だ?オレに会いに来たか?それとも「本」を取り返しに来たか?ダンタリアン」
「伊達に所持者では無いな、調べたか」
「まーな、結構最初の頃にな」
「返せと云えば、返すのか?」
「ああ、オレにはもう、それ程必要ない」
「ほう‥」

と彼女は感心したような、酷く面白かったかの様な笑みを浮かべた

「何か可笑しかったか?」
「返せと云って、返すと云った奴は初めてじゃ、これが笑わずに居られるか」
「成る程な、つまり、こういう遊びは何度か経験済みてか、んでオレが初めての例、と」
「そう、流石じゃ。お前は全てに置いて、初めての事ばかり選ぶ、ワシを助け様とした事も、返すと云う事も、本を他人の為に使った奴も」
「楽しんで貰えて結構な事だ」

「そこまで察しのいい奴も初めてじゃな、お前は真なる者だったか」
「どうかな?単に、自分の為に使ってそれで終りじゃツマランてだけかもな」
「が、世界の支配、不老不死も望めば知る事も得る事も出来る、本にはそういう使い方もある」
「んー‥それもどうかなぁ、無駄に長生きしても先に良い事が待ってるとも限らんし、大体、妻や娘が先に死ぬのは悲しいだろ、それに退屈そうだ」
「ふ、ご名答‥、実際退屈さ」
「で、オレに本を渡して、どう使うか楽しんだ、と」
「それもある、理由も分っている訳だな」

「まーな、オレらが物語の本を読むのと同じ感覚、娯楽みたいなもんだろ?」
「それも、ご名答」
「よっぽど暇なんだな‥」
「終らない生涯だからな、ワシを嫌うか?」
「まさか‥、本のお陰でオレは過分な立場と力を得た、寧ろ礼を言いたいくらいさ、オレを主役にしてくれて有難う、てな」
「フッ‥」
「で?返すてどうすんだ、そっちで取り出してくれるのか?オレは取り出し方を知らん」
「いや、気が変わった、死ぬまで貸しておいてやる」
「お前が困るんじゃないのか?」
「残念ながら、本書は此処にある」

そう言って自分の頭を人差し指で二回、軽く突いた

「ん?つまり、オレが持ってるのは偽者?」
「いや、単なる扉と鍵だ、図書館のな」
「なるほどねぇ、つまりそっちの本書とリンクしてる訳か、んで、こっちは自由にそっちの図書館に出入り出来ると」
「フフ‥そう」
「んなら態々来なくてもいいだろうに」
「そうだなぁ、ただ、お前と話すのは面白いだろうと思った、それと、どういう反応するか見たかった」
「ホントに暇なやっちゃ」
「そういうな」
「ま、暇ついでに、泊まってくか?それなりの持て成しはするぞ一応、オレもそこそこの立場だしな」
「知ってる、が、それは止めておこう、一応悪魔だ」
「つってもオレらとあんま変わらんだろ」
「そうか?」
「立場がそうなってる、あるいは生まれただけの事、だろ?」
「全く、驚くとか恐れるとか無いのかお主は」

「性分だな、で?、ホントに会いに来ただけか?」
「そうだなぁ、別にどうでもいい事だが、本題はそれに違い無いもう一つは誘いだな」
「誘い?何の?」
「お主、コッチに来ないか?」
「魔界に?」
「そう」
「何で」
「お前と居ると退屈しなそうだ」
「またえらく、酷いラブコールだな」
「そうか?」
「が、それは後でいい、まだ現世にそれほど失望しちゃいない」
「そうか、なら、いい」

そこまで云って、彼女も特に残念そうにもせず受け入れた

「気が向いたら、呼べばいい、連れて行ってやる」
「そうだな、そん時は連絡するよ」
「ああ、今後も期待してるよ、フォレスぼうや」
「もう面白い事なんかねーと思うがなぁ‥どうせ大きな乱も無いだろうし、が、期待は受けるよ」
「ふむ」

「あ、そうだ」
「?」
「オレを「読んで居た」なら知っているとは思うがソロモンの輪について何か知ってるか?」
「‥あの、健気な女の事か?」
「そう、トーラ」
「残念ながらワシは関知しておらぬな、が、ソロモンの輪は誰でも手にする可能性はある」
「やはりどこかの遺跡から、とか商売上で、という事か」
「だろうな、これも残念ながら、ワシらは興味関心の無い事を把握しておくほど他者に積極的では無い、どう使うかも、関知する所ではない」
「ふむ?では、「健気な」とは?」
「お主の道と重なったから知っている、それだけの事だ。それと、お主の「想像」も当たりだ、あの女はあの暴君の為なら死ねる」
「‥そっか」

「珍しい事ではない、人間は情愛の為に命を捨てる事を厭わぬ事も多いそれは時に子、親、他人、そういう事だ」
「そうだな、全く同感だ」
「理解に苦しむ事もあるが、そうでなくては「面白く無い」」
「ついでに、もう一つ聞きたいが、まあ、興味本位だが」
「構わんよ」
「ソロモンの輪で一々呼び出されて人間に扱われるのは不愉快ではないのかね?」
「それは其々、そいつに寄る、が、ワシらは基本暇だ、呼ばれるにしろ、扱われるにしろ、駄賃を貰って暇つぶしが出来るなら悪くない」
「フ‥、成る程」
「それとお主らが相手にしたキマリスは、暴れるのが好きじゃろう、時に別界に呼び出されて異界の相手と戦うのも面白いと考えるかもな、ついでに言うと、召喚者の命令を必ず聞かねば成らない、という事でもない」

「成る程、それが召喚器の類が放置されている理由か、確かに普通の召喚儀式で術士を裏切って破滅させる例もあるしな」
「左様、が、理由、という大層なモンでもない、普段関わりの無い異界の生物と気楽に交流出来る糸電話の様な物だ、それは我々には悪い道具ではない、という事だ」
「よく分った、ありがとう」
「もういいのか?」
「ああ」
「そうか、ではな」

彼女は小さく笑って、消える様に姿を消した
森から出た所で待っていたターニャらと合流して城に戻った

「キレイな人だったね、どういう知り合い?」
「ん?んー‥何だろう?、オレの先生?」
「へー、ちゃんと挨拶しとけばよかった」
「そうだね、次があれば紹介するよ」
「うん」

(ま、図書館の主だし、間違ってはいないよなぁ)とノー天気に考えながら皆で昼飯を求めて城に帰った、再び元の生活に戻ったのである

人にとっては長き、人ならざる者には瞬きの如き「人間の普通の生活」に

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