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第二次ペンタグラム開戦
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テスネアの孤立状態から各国の動き、これに便乗した形でグランセルナも策を打つ事になった。とはいえ、事ここに至っては今までの様な複雑な策が必要ではない
その為、連合各国の責任者を集めたバルクスト会議でも指示は単純だった
「こういう状況に成ると、やる事はそう多くない、別に複雑な策も必要ない」
とのフォレスから最初の言葉に連合各国の首脳も頷いた
「まず、ペンタグラム、教皇様から、既に動いている各国への告知をお願いする」
「うむ」
「これは、とりあえず、だろうな」
「と言うと?」
「連合の様に、統一した作戦行動をしろ、というのも流石に無理がある従えとも云えない」
「余もそう思う、連合で無い国々に「こちらに合わせろ」とは強要出来ない」
「ええ、なので、各国、既に動いている東と北から中央への攻めに、こちらが合わせて、包囲戦略の一角として動く、早い話便乗だな」
「わかった、つまり、自重を促す文面を出し時間とタイミングをずらさせばよいのか」
「そういう事ですね」
「うむ、こちらも通知文を用意しよう」
「お願いします」
「次に実際、こっちから攻める先だが」
「ペンタグラム本国、ですね?」
「そう、ここはテスネアの本国から最も遠く、尚且つ、こちらがロンディネス、ブライドレス、という二方向からの包囲戦が仕掛けられる、また、どちらも連合内であるし、連動策は打ちやすい」
「同感です」
「故に、この流れに合わせて「ペンタグラム奪還作戦」を行う、云うまでも無く、陣容はロンディネス、ブライドレスから、グランセルナから既に、ターニャとエミリアの軍合わせて三万と後方支援八千居る」
「テスネアも現状、ペンタグラム本国を専守するのは難しいですね」
「左様、四方から攻められる現状、援軍を出すのも難しい、ここを無理矢理防衛するメリットは薄いと考えるが、これは実際の所、読めない」
「テスネアの全体兵力からすれば、援軍を出す可能性はありますね‥」
「ゆえに一応、細かい策は展開する、と言っても既に包囲戦略は成っているので、奇抜な作戦はいらんが」
「やはり相手のやった同時攻めよね」
「そうだな、それから、やはり寝返り策だな」
「しかし、既に相手の連合は瓦解しておりますが‥?」
「向こうの領土、と言っても、事を急ぎ過ぎた」
「??」
「ええ、せんせーの云ってるのは、中央地の支配地や民、将、兵に至るまで、忠誠度の低さよ」
「特に、テスネア領と成すために、圧迫、脅迫で併合した国もある」
「南方のユルングでしたか」
「そう、ここも中央で孤立地域に近く、生き残りの為にやむなく臣従した傾向がある、おそらくヴァスタと同じ手でいける、ピスノーラの隣接北国だ、ここを牽制と同時にテスネアの領地から崩す」
「なるべく戦わない方が楽だしねぇ」
「だな、その為には何でも、打てる手は打つ」
「なるほど」
「では、「細かい部分」も含め、作戦を説明する」
作戦といっても、これまでの様な引っ掛けの類では無い、自身も述べた通り、既に包囲戦略は成されている。
戦略面で優位を取った、兵法の王道であるだけに普通の事をして普通に勝てる、そういう状況にある、故に、反対の類は出ない
「という感じだが、質問はあるか?」
「問題はテスネアがどこまで援軍を出すか、それとペンタグラム本国を奪取した後なんだけど」
「ペンタグラムに関しては、奪取後、首脳部を戻すのは待つ予定、安定期でないと、再び攻められる事もあるし」
「当面は前線基地の形に成りますか?」
「と、思う、元の住民を戻すにしても不安多い状況では難しい」
「そうですねぇ」
「ま、準備はそこそこ大変だし、行動タイミングもある、また、相手の在る事なので、実際は臨機応変な部分も必要その時々に指示をする」
「分りました」
「では、解散」
会議から動き出しの最初がペンタグラムからの告知、三日後。北、東で既に始まっているテスネアへの軍事行動への牽制と自重を促すものである
連合では無く、別々の国ではあり、確かに強要は出来ないが同じ攻めるにしても、タイミングは近い方が良い、この場合、東西南北、同時の攻めである方が守る側からすればやり難いということ
もう一つが、グランセルナ連合側からすれば、作戦は決まっているし難しい物では無いが、それなりの規模の軍を動かす為準備に時間が掛かる
先に連合外、各国が好き勝手に動くと反撃の隙を相手に与える事に成りかねない、つまり、グランセルナ側の動きに合う様にする為の通知であった
次にグランセルナ本国、バルクストからの派兵
首都防衛に過大な軍を置く必要も無く、八割の軍が中央、中立街道へ向かう
バルクストの軍は街道入り口に建築してある、ロドニの滞在施設で待機、グランセルナ本国軍はそのまま連合の一角と成った国の領土を通りブライドレスに向かう
一方他の連合で動くのはピスノーラとロンドギア
先の、ブライドレス防衛戦の際、マルギットが行った別軍牽制と形は同じだが、今回に限っては、状況に応じての攻めが許可される
「攻め落とせるなら攻め落としていいよ」という事だ
この方面の後詰に、カルディアの滞在軍や更に後ろに
ドネツク、ロドニの軍も充てられる、グランセルナ連合の南の殆どの戦力を集める事になる大作戦となる
ここから更に5日後
ブライドレスのエミリア、ターニャ滞在軍に追加派兵軍が届きグランセルナ本国軍だけで六万を揃える、ここに後発人事として騎士団の三人が充てられ、フォレス、インファルも転移陣から単身来援し、最前線全体指揮に乗り出す
先の会議の内容と策もブライドレスで披露され
一同、軍官に同意をとった
「一旦西回りからヴァスタマーカへ、ここから時計回りにペンタグラム本国を西から突くのはクローゼらに任せる、丁度エミリア、クローゼ、ターニャと三者指揮官が居るので二万づつ、三軍だな、陣容は主軍南からエミリアにインファルを付ける」
「という事は私達は?」
「ターニャらは二陣、クローゼらは横突き、ヴァスタ地方も一万出してくれる、それとブライドレスから二万、これはフェリオス少将の希望でターニャと共同」
「全体策を聞く限り、大事なのは二陣と、マルギット殿、かな」
「ここは五分五分だなぁ、テスネアがどう動くかワカラン、向こうが援軍を追加してペンタグラムを守るなら迎撃、来ないなら、ペンタグラム本国への継続攻撃」
「なるほど」
「王様も出て来てますが本国は宜しいので?」
「バルクスト、グランセルナ共に、オルガ、プルーメに任せてあると言っても、オレが実際戦の矢面に出る訳じゃないし」
「と言うと?」
「向こうの調査だな、アノミアらと敵地を探る」
「危険ではありませんか?」
「そうでもないさ、潜入する訳ではない、こっちの攻めの進軍に合わせて紛れる感じ」
「まぁ、フォレスなら大丈夫だろう、前から一人で動きまくるし」
「一応、幻術も使えるし、やばきゃ転移するさ」
「それにしても、そうなさるのに何か重大な懸念が?」
「んー‥、テスネア内部の事をもう少し知りたいのと、災害の件が片付いていない、これを軽視するのもどうかと思ってね」
「つまり過去、懸念されていた意図的な災害の可能性、これの調査そしてそれは王様のサーチが必要、ですね?」
「そうだ、折角中央を取り返しに掛かるなら全体の調査も取り返したのに合わせて出来るからな」
グランセルナの面々からすれば、それは「成る程」の理由ではある、中央の均衡が崩れたのも、南に乱が波及したのも、元を正せば不可解な、タイミングの良すぎる災害や君主の死去これをフォレスは「偶然」とはまだ考えて居なかった
「まあ、あれだ、作戦自体と連動してやる、大まかに作戦は決まっているし、細かい変更、指示も現地からやるが問題ないだろう」
「分りました、ですが、くれぐれもお気をつけて‥」
「ああ」
翌日、クローゼ、テラ、トリスの軍二万がブライドレスから移動、一旦西地域に出て待機し、主軍のエミリアらのペンタグラムの進軍と、中央街道、アトロスらの北進、ピスノーラのマルギットの動きを合わせる、4方向同時攻め、という事になる、ペンタグラム奪還の配置的には単純で以下になる
クローゼ➘ ペンタグラム本国 ←エミリア
ロンディネス↗ ターニャ→ 遊撃
ブライドレス↗
アトロス↑
ただ、連合以外の各国の中央への攻めともタイミングが近ければ近いほど良く実際、これが始まったのは更に5日後
先行の斥候隊からの情報、伝心が合図と成り
フォレスから、各指揮官へ通知される
「北地域から、中央への進軍を確認、初めていい」である
ペンタグラム滞在防衛軍は六万、テスネアの全体兵力の七分の一を割いているが
この時点で、グランセルナ連合が今回の作戦で投入する戦力で既に上回る
ましてテスネアは現時点で北地域から圧迫を受けている上に、五国保持している、これの防衛もある為動かせる兵力に限度がある
「何?、グランセルナ連合が?」
テスネア本国で一連の情報を受けたアデルに驚きはあるが予想の範囲内でもある、その第一弾はピスノーラからの再度の北伐
「ピスノーラからの北伐軍、七万!領土境界線で牽制の動きですロンドギアとの共同軍の模様!」
「南はユルングと互角近いな‥防衛軍の追加派兵二万でいい」
「はっ、指揮官は?」
「現地の将、旧首脳部に任せる、北、東からの侵攻、あるいは連合が動く事が予想される、今、ヘタに首都の将は動かせん」
「はっ」
続けて、グランセルナ連合の第二弾、中央中立街道からのバルクスト軍三万での北進、が、アデルはやはり来たか、としか思わなかった
多方面からの圧迫とあらば、当然、二、三手連続しての攻勢がある、これの対処にベステックに八万預け、自由遊撃を任せた
これも理由は単純で中央街道は中央地域の中間、南北直線に続く、北進して来る敵の抑えと同時に、続けて起こるであろう三手目の対処も臨機応変に任せるためである
三手目が動いたのがベステックが自軍を率いて街道中間点に着いたと同時、ペンタグラム山岳都市への西からの侵攻とブライドレス側、南西からの侵攻、略同時に、中央街道南からのバルクスト軍三万の北伐
ベステックはこれら情報を受けた後、街道手前に陣立てを行い、自軍を半数に割って、南と西の同時対応の方針を取った
翌日朝にはペンタグラム本国への挟み撃ちの侵攻戦、西地域からのクローゼ、ロンディネスの軍らは直接的攻撃を行わず、遠距離からの攻めを行う
丁度ペンタグラム都市の裏側にあたり、道はあるが、大軍が登って打ち合う様な場所も広さも無い、故に、開幕からグランセルナ独自武装、自走バリスタ二機と「弩」を用いた遠距離戦を展開
一方の南西、一陣のエミリア側はペンタグラムの「正面」からの攻め、こちらは遠距離武器を展開したものの、駄撃ちはせず、山岳都市正面の入り口を封鎖する様に動いた
更に翌日
展開を知ったベステックが自ら半数に割った自軍四万で、ペンタグラムへの援軍に向かうが、これの前に立ちはだかって壁となったのが、グランセルナ二陣、ターニャ、フェリオスの合同軍である、丁度展開した双方の軍が直線に並んでこの様な形になる
△→●←△ △→▲
クローゼ、ペンタグラム駐留軍、エミリア、ターニャ、ベステック主軍
三度、ベステックとターニャが合せる事と成るが
これら、一連の人事、配置を見ても、フォレスの作戦は全て規定路線予想通りであった。
エミリアとクローゼがペンタグラム本国を挟撃、これへの援軍をテスネアが出した場合、ターニャらで迎撃して防ぐ、来なければ、それで良し
ベステックはリバースクロスを前に突形陣
前に立ちはだかるターニャら連合二陣を最速突破を図る。
ペンタグラム本国が孤立包囲戦の展開であり、これを行っている連合に穴を開け、援護なり、撤退ルートなり作らなければ成らない
が、連合二陣はターニャとフェリオス、二軍合同
数も互角で易々と突破できる相手ではない
逆にターニャの側からすれば、無理に倒す必要も無く、相手に突破させなければ良い、要は、ペンタグラムの山岳都市側に行かせなければいい
従って開幕から、テスネア側は攻め、グランセルナ側は守るの方針で、当日から膠着した戦況と成った
翌、早朝から「このままでは相手の思う壺」とベステックも理解し分割して後ろに置いた自軍を動かそうと考えたが「考えた」で終る事に成る
中央街道を北進したバルクストの軍、三万が中央地に踏み込み、南から侵攻、これへの対処で、分割した軍を相手の侵攻先にぶつけ頭を抑えるしか無かった
「これは不味い‥全方位楔を打ち込まれているに等しい」
「如何致しますか?」
「ペンタグラムの防衛軍も出撃させろ、連合側の正面は二万半数に割って、出撃させて攻撃させる、中から包囲を崩し、相手を崩せ、陛下にも伝令、再考を仰げ」
「はっ!」
そう、命令を出したが、表面上妥当であるが、最終的には誤りと成った
「第二次ペンタグラム開戦」二日目
ベステックの前線指示から、ペンタグラム滞在軍が山岳都市正面から三万出撃、正面出入口に居る、連合一陣のエミリアの主軍に突撃して包囲を崩す事を狙ったが一手目からあっさり叩き返される
二万対三万の構成であるが
司令官エミリアの武力の問題である
彼女は戦略や戦術に秀でた将ではない、過去の敗戦からも分る通り武力に秀でた、前線将である、そしてそれは自身が一番よく分っている
故に、司令としてでなく、敢て前線遊撃軍の将として前に出て戦った、特に今回、自軍の全体指揮にインファルを充ててある、インファルも、その判断を否定しなかった
「好きにしたら?」でエミリアの判断を良しとした
そして戦場での状況もある、ペンタグラム山岳都市、正面の「道」と言っても山道で狭い、中央街道と違い軍を展開するには狭すぎる
故に、エミリアからすれば、過去の王城防衛戦やアドニアの川橋での単身迎撃に代表される戦いと同じく、兵力差が出難い状況であれば、幾らでも叩き返せる
二日目の朝から夕までの前線遊撃で、単身だけで三百近くの
兵、武芸者、前線将の首を取る、という凄まじい戦果を上げる
これには敵味方共に唖然だった
中から包囲の一角を崩す、どころか、逆に一歩も相手を後退させられず叩き返される事になる
この第二次ペンタグラム開戦は一方的な展開で二日目も終る
ペンタグラムの駐留軍は突破どころか、エミリアの主軍に正面から打ち返され後退、中央街道側から正面に立ちはだかるターニャらの軍の突破もならず、北進してくるバルクストの軍の頭の押さえも兵力差に関わらず互角の状況
「楔を打ち込まれた」というベステックの言の通り、全方位進退窮まる状況の展開で進む
二日目の終り後、テスネア側でも簡易軍儀が開かれるが、正直手が無い、戦場での優位な部分が無く、本国から援軍を持って来て数で上回るしかない
そして、反対側、グランセルナ連合側はこの「硬直」が、そもそもの目的で、それは三日目の開戦で「形」として見えてくる
ペンタグラム本国への西から遠めからの、バリスタ、弩での石と矢を遠距離から放り込むクローゼら
反対側、出入り口山道に広く展開し、出てくる敵を叩く、を徹底するエミリアの主軍
そう、ペンタグラム本国の駐留軍を「外に出さない」作戦である
「クッソ‥そういう事か‥」
ベステックも歯を噛締めて云ったが彼、単体の力と軍力ではどうにもし様が無い
北地域からの侵攻、或いは南からのピスノーラの侵攻、どちらかを叩き返し、大規模な援軍がペンタグラム側に来ない事には、この硬直を崩すのは難しい
大胆な策が打てない訳ではないが、それはペンタグラムを捨てる判断が要る、彼、個人の範疇では無く、如何ともし難かった
「再考を仰ぐ」としてベステックが本国への伝令を飛ばして返答が来たのが三日目正午、そして、その内容は彼の期待を裏切るモノであった、つまり「本国から援軍を三万出した」である
アデルも現状出しうる精一杯の援軍派兵であるが、これは過小と言える「兵力の逐次投入」という愚策に近い
やむなくベステックも一時、前線を離れアデルとの直接伝心での会談を持ったがそれも、中途半端な内容であった
「陛下、敵の狙いはペンタグラム本国を包囲して蓋をし、疲弊を待ち、実戦闘での被害を少なくし、最小被害で奪取する云わば、兵糧攻めに近い策です。これを突破して味方を救出しなければ、相手の思い通りに成ります」
「分っている、が、敵は遠征軍だ、封鎖して閉じ込めての兵糧攻めは相手のが先にへたるハズだ」
「ペンタグラム山岳都市には食料の生産施設も実りもありません、保持兵糧も六万の兵を補う程備蓄していません、現地の実りの殆どが、麓や周囲の河川、森からのモノです、通常防衛戦とは違います、出入り口を封鎖されている以上、それも叶いません」
「だから援軍を送っている」
「三万では少のう御座います」
「‥では、どうしろと云うのだ?」
「ペンタグラムを維持するのか、捨てるかの判断を願いたい」
そしてアデルはこの判断に窮した
「‥ギリギリまで粘れ、北か南を片付けて大規模援軍を出す」
そういう判断だった。これ自体、完全に誤りである、味方の篭城兵力は貴重だ、なるべくなら、一斉出撃とベステックの全力突撃で、間に立ちはだかるグランセルナ連合軍を崩して退かし、退路を確保すべきであった
領土は何れ取り返せば良いが、兵は取り戻せない、特にペンタグラム本国等、基地としては優秀ではあるが、住民も居なければ、商業的、生産的意味合いは極めて薄い、他の領土と違って、捨てて被害が大きい訳ではない
が、アデルはペンタグラム本国を捨てるのを渋った、要は、中央での大きな犠牲と共に得た、少ない「戦果」であるペンタグラムが「惜しかった」のだ
そういう判断をされた以上、ベステックも反論はしなかった
「分りました」と短く云って再び、前線に出たのである
三日目の終りから四日目の朝
次の援軍を待ちつつ、の継続した戦いになるが、正午には続かなくなる。
二正面作戦で分散戦闘を行っていた、対南の自軍が劣勢から崩れ、後退の流れに成った
バルクストのアトロスらの軍を阻んでいた別働隊が押されて街道をズルズル下がらされる、開始、四万対三万だった兵力差が、三万二千対二万八千に
元々の武力、将、武装が大きくグランセルナ連合側は相手が下がったのにあわせて、アドニス、ヴァイオレットの両前線将が前線遊撃を徹底して突き崩しかかる、これに対応する人材が防ぐ側に無い
五日目、正午の維持戦まで耐えたが、ここで更に、追い込まれる情報が届く
「ピ、ピスノーラと対峙していたユルングが既に篭城戦に入ったと‥」
「どういう事だ」
「はっ‥、当初、互角に展開していましたが、グランセルナ側が五万の援軍を追加、反転攻勢から三日目には崩れ、後退したと」
「どこから沸いて出た‥いや‥向こうは後ろから持って来れるか」
ピスノーラ側は対峙したユルングは相手と数の上で互角だったが、事前策通り、内部崩壊策と後ろの準備が整った所で、大規模追加援軍策を掛けた
やった事は単純だ、防衛側ユルングに伝聞を送った後、当初から用意していた、カルディアの後詰二万、南方からドネツク一万、ロドニからの二万、これを一斉に投入して全力反転攻勢に出た
伝聞の中身も「グランセルナ連合側に付くのであれば、ユルングの領土と旧王族の安全を保障する、テスネアの一部で生き残りは不可能」である
そして、この国は、第一次ペンタグラム開戦後からゼントラム連合の宣言の間に、テスネアに脅迫併合を受けた国、当然、テスネアの領土地とも云い難く、脆く、旧首脳部もそのまま残っている
むしろ「テスネアから離脱でき、グランセルナ連合の庇護が得られるなら悪くない」と考えるのが普通だろう、そもそも、テスネアに恨みはあっても、縁も恩も無いのだ
この条件を受けて、まともに防衛戦を行う判断は無く
首都まで下がって篭っただけの事である
ここでも「どっちに付いたら得か」の判断を相手に投げかけ、結果、ユルングは首都決戦を行う事無く白旗を揚げ、中立化と成った
双方大きな被害を出さず、の決着である
その為、連合各国の責任者を集めたバルクスト会議でも指示は単純だった
「こういう状況に成ると、やる事はそう多くない、別に複雑な策も必要ない」
とのフォレスから最初の言葉に連合各国の首脳も頷いた
「まず、ペンタグラム、教皇様から、既に動いている各国への告知をお願いする」
「うむ」
「これは、とりあえず、だろうな」
「と言うと?」
「連合の様に、統一した作戦行動をしろ、というのも流石に無理がある従えとも云えない」
「余もそう思う、連合で無い国々に「こちらに合わせろ」とは強要出来ない」
「ええ、なので、各国、既に動いている東と北から中央への攻めに、こちらが合わせて、包囲戦略の一角として動く、早い話便乗だな」
「わかった、つまり、自重を促す文面を出し時間とタイミングをずらさせばよいのか」
「そういう事ですね」
「うむ、こちらも通知文を用意しよう」
「お願いします」
「次に実際、こっちから攻める先だが」
「ペンタグラム本国、ですね?」
「そう、ここはテスネアの本国から最も遠く、尚且つ、こちらがロンディネス、ブライドレス、という二方向からの包囲戦が仕掛けられる、また、どちらも連合内であるし、連動策は打ちやすい」
「同感です」
「故に、この流れに合わせて「ペンタグラム奪還作戦」を行う、云うまでも無く、陣容はロンディネス、ブライドレスから、グランセルナから既に、ターニャとエミリアの軍合わせて三万と後方支援八千居る」
「テスネアも現状、ペンタグラム本国を専守するのは難しいですね」
「左様、四方から攻められる現状、援軍を出すのも難しい、ここを無理矢理防衛するメリットは薄いと考えるが、これは実際の所、読めない」
「テスネアの全体兵力からすれば、援軍を出す可能性はありますね‥」
「ゆえに一応、細かい策は展開する、と言っても既に包囲戦略は成っているので、奇抜な作戦はいらんが」
「やはり相手のやった同時攻めよね」
「そうだな、それから、やはり寝返り策だな」
「しかし、既に相手の連合は瓦解しておりますが‥?」
「向こうの領土、と言っても、事を急ぎ過ぎた」
「??」
「ええ、せんせーの云ってるのは、中央地の支配地や民、将、兵に至るまで、忠誠度の低さよ」
「特に、テスネア領と成すために、圧迫、脅迫で併合した国もある」
「南方のユルングでしたか」
「そう、ここも中央で孤立地域に近く、生き残りの為にやむなく臣従した傾向がある、おそらくヴァスタと同じ手でいける、ピスノーラの隣接北国だ、ここを牽制と同時にテスネアの領地から崩す」
「なるべく戦わない方が楽だしねぇ」
「だな、その為には何でも、打てる手は打つ」
「なるほど」
「では、「細かい部分」も含め、作戦を説明する」
作戦といっても、これまでの様な引っ掛けの類では無い、自身も述べた通り、既に包囲戦略は成されている。
戦略面で優位を取った、兵法の王道であるだけに普通の事をして普通に勝てる、そういう状況にある、故に、反対の類は出ない
「という感じだが、質問はあるか?」
「問題はテスネアがどこまで援軍を出すか、それとペンタグラム本国を奪取した後なんだけど」
「ペンタグラムに関しては、奪取後、首脳部を戻すのは待つ予定、安定期でないと、再び攻められる事もあるし」
「当面は前線基地の形に成りますか?」
「と、思う、元の住民を戻すにしても不安多い状況では難しい」
「そうですねぇ」
「ま、準備はそこそこ大変だし、行動タイミングもある、また、相手の在る事なので、実際は臨機応変な部分も必要その時々に指示をする」
「分りました」
「では、解散」
会議から動き出しの最初がペンタグラムからの告知、三日後。北、東で既に始まっているテスネアへの軍事行動への牽制と自重を促すものである
連合では無く、別々の国ではあり、確かに強要は出来ないが同じ攻めるにしても、タイミングは近い方が良い、この場合、東西南北、同時の攻めである方が守る側からすればやり難いということ
もう一つが、グランセルナ連合側からすれば、作戦は決まっているし難しい物では無いが、それなりの規模の軍を動かす為準備に時間が掛かる
先に連合外、各国が好き勝手に動くと反撃の隙を相手に与える事に成りかねない、つまり、グランセルナ側の動きに合う様にする為の通知であった
次にグランセルナ本国、バルクストからの派兵
首都防衛に過大な軍を置く必要も無く、八割の軍が中央、中立街道へ向かう
バルクストの軍は街道入り口に建築してある、ロドニの滞在施設で待機、グランセルナ本国軍はそのまま連合の一角と成った国の領土を通りブライドレスに向かう
一方他の連合で動くのはピスノーラとロンドギア
先の、ブライドレス防衛戦の際、マルギットが行った別軍牽制と形は同じだが、今回に限っては、状況に応じての攻めが許可される
「攻め落とせるなら攻め落としていいよ」という事だ
この方面の後詰に、カルディアの滞在軍や更に後ろに
ドネツク、ロドニの軍も充てられる、グランセルナ連合の南の殆どの戦力を集める事になる大作戦となる
ここから更に5日後
ブライドレスのエミリア、ターニャ滞在軍に追加派兵軍が届きグランセルナ本国軍だけで六万を揃える、ここに後発人事として騎士団の三人が充てられ、フォレス、インファルも転移陣から単身来援し、最前線全体指揮に乗り出す
先の会議の内容と策もブライドレスで披露され
一同、軍官に同意をとった
「一旦西回りからヴァスタマーカへ、ここから時計回りにペンタグラム本国を西から突くのはクローゼらに任せる、丁度エミリア、クローゼ、ターニャと三者指揮官が居るので二万づつ、三軍だな、陣容は主軍南からエミリアにインファルを付ける」
「という事は私達は?」
「ターニャらは二陣、クローゼらは横突き、ヴァスタ地方も一万出してくれる、それとブライドレスから二万、これはフェリオス少将の希望でターニャと共同」
「全体策を聞く限り、大事なのは二陣と、マルギット殿、かな」
「ここは五分五分だなぁ、テスネアがどう動くかワカラン、向こうが援軍を追加してペンタグラムを守るなら迎撃、来ないなら、ペンタグラム本国への継続攻撃」
「なるほど」
「王様も出て来てますが本国は宜しいので?」
「バルクスト、グランセルナ共に、オルガ、プルーメに任せてあると言っても、オレが実際戦の矢面に出る訳じゃないし」
「と言うと?」
「向こうの調査だな、アノミアらと敵地を探る」
「危険ではありませんか?」
「そうでもないさ、潜入する訳ではない、こっちの攻めの進軍に合わせて紛れる感じ」
「まぁ、フォレスなら大丈夫だろう、前から一人で動きまくるし」
「一応、幻術も使えるし、やばきゃ転移するさ」
「それにしても、そうなさるのに何か重大な懸念が?」
「んー‥、テスネア内部の事をもう少し知りたいのと、災害の件が片付いていない、これを軽視するのもどうかと思ってね」
「つまり過去、懸念されていた意図的な災害の可能性、これの調査そしてそれは王様のサーチが必要、ですね?」
「そうだ、折角中央を取り返しに掛かるなら全体の調査も取り返したのに合わせて出来るからな」
グランセルナの面々からすれば、それは「成る程」の理由ではある、中央の均衡が崩れたのも、南に乱が波及したのも、元を正せば不可解な、タイミングの良すぎる災害や君主の死去これをフォレスは「偶然」とはまだ考えて居なかった
「まあ、あれだ、作戦自体と連動してやる、大まかに作戦は決まっているし、細かい変更、指示も現地からやるが問題ないだろう」
「分りました、ですが、くれぐれもお気をつけて‥」
「ああ」
翌日、クローゼ、テラ、トリスの軍二万がブライドレスから移動、一旦西地域に出て待機し、主軍のエミリアらのペンタグラムの進軍と、中央街道、アトロスらの北進、ピスノーラのマルギットの動きを合わせる、4方向同時攻め、という事になる、ペンタグラム奪還の配置的には単純で以下になる
クローゼ➘ ペンタグラム本国 ←エミリア
ロンディネス↗ ターニャ→ 遊撃
ブライドレス↗
アトロス↑
ただ、連合以外の各国の中央への攻めともタイミングが近ければ近いほど良く実際、これが始まったのは更に5日後
先行の斥候隊からの情報、伝心が合図と成り
フォレスから、各指揮官へ通知される
「北地域から、中央への進軍を確認、初めていい」である
ペンタグラム滞在防衛軍は六万、テスネアの全体兵力の七分の一を割いているが
この時点で、グランセルナ連合が今回の作戦で投入する戦力で既に上回る
ましてテスネアは現時点で北地域から圧迫を受けている上に、五国保持している、これの防衛もある為動かせる兵力に限度がある
「何?、グランセルナ連合が?」
テスネア本国で一連の情報を受けたアデルに驚きはあるが予想の範囲内でもある、その第一弾はピスノーラからの再度の北伐
「ピスノーラからの北伐軍、七万!領土境界線で牽制の動きですロンドギアとの共同軍の模様!」
「南はユルングと互角近いな‥防衛軍の追加派兵二万でいい」
「はっ、指揮官は?」
「現地の将、旧首脳部に任せる、北、東からの侵攻、あるいは連合が動く事が予想される、今、ヘタに首都の将は動かせん」
「はっ」
続けて、グランセルナ連合の第二弾、中央中立街道からのバルクスト軍三万での北進、が、アデルはやはり来たか、としか思わなかった
多方面からの圧迫とあらば、当然、二、三手連続しての攻勢がある、これの対処にベステックに八万預け、自由遊撃を任せた
これも理由は単純で中央街道は中央地域の中間、南北直線に続く、北進して来る敵の抑えと同時に、続けて起こるであろう三手目の対処も臨機応変に任せるためである
三手目が動いたのがベステックが自軍を率いて街道中間点に着いたと同時、ペンタグラム山岳都市への西からの侵攻とブライドレス側、南西からの侵攻、略同時に、中央街道南からのバルクスト軍三万の北伐
ベステックはこれら情報を受けた後、街道手前に陣立てを行い、自軍を半数に割って、南と西の同時対応の方針を取った
翌日朝にはペンタグラム本国への挟み撃ちの侵攻戦、西地域からのクローゼ、ロンディネスの軍らは直接的攻撃を行わず、遠距離からの攻めを行う
丁度ペンタグラム都市の裏側にあたり、道はあるが、大軍が登って打ち合う様な場所も広さも無い、故に、開幕からグランセルナ独自武装、自走バリスタ二機と「弩」を用いた遠距離戦を展開
一方の南西、一陣のエミリア側はペンタグラムの「正面」からの攻め、こちらは遠距離武器を展開したものの、駄撃ちはせず、山岳都市正面の入り口を封鎖する様に動いた
更に翌日
展開を知ったベステックが自ら半数に割った自軍四万で、ペンタグラムへの援軍に向かうが、これの前に立ちはだかって壁となったのが、グランセルナ二陣、ターニャ、フェリオスの合同軍である、丁度展開した双方の軍が直線に並んでこの様な形になる
△→●←△ △→▲
クローゼ、ペンタグラム駐留軍、エミリア、ターニャ、ベステック主軍
三度、ベステックとターニャが合せる事と成るが
これら、一連の人事、配置を見ても、フォレスの作戦は全て規定路線予想通りであった。
エミリアとクローゼがペンタグラム本国を挟撃、これへの援軍をテスネアが出した場合、ターニャらで迎撃して防ぐ、来なければ、それで良し
ベステックはリバースクロスを前に突形陣
前に立ちはだかるターニャら連合二陣を最速突破を図る。
ペンタグラム本国が孤立包囲戦の展開であり、これを行っている連合に穴を開け、援護なり、撤退ルートなり作らなければ成らない
が、連合二陣はターニャとフェリオス、二軍合同
数も互角で易々と突破できる相手ではない
逆にターニャの側からすれば、無理に倒す必要も無く、相手に突破させなければ良い、要は、ペンタグラムの山岳都市側に行かせなければいい
従って開幕から、テスネア側は攻め、グランセルナ側は守るの方針で、当日から膠着した戦況と成った
翌、早朝から「このままでは相手の思う壺」とベステックも理解し分割して後ろに置いた自軍を動かそうと考えたが「考えた」で終る事に成る
中央街道を北進したバルクストの軍、三万が中央地に踏み込み、南から侵攻、これへの対処で、分割した軍を相手の侵攻先にぶつけ頭を抑えるしか無かった
「これは不味い‥全方位楔を打ち込まれているに等しい」
「如何致しますか?」
「ペンタグラムの防衛軍も出撃させろ、連合側の正面は二万半数に割って、出撃させて攻撃させる、中から包囲を崩し、相手を崩せ、陛下にも伝令、再考を仰げ」
「はっ!」
そう、命令を出したが、表面上妥当であるが、最終的には誤りと成った
「第二次ペンタグラム開戦」二日目
ベステックの前線指示から、ペンタグラム滞在軍が山岳都市正面から三万出撃、正面出入口に居る、連合一陣のエミリアの主軍に突撃して包囲を崩す事を狙ったが一手目からあっさり叩き返される
二万対三万の構成であるが
司令官エミリアの武力の問題である
彼女は戦略や戦術に秀でた将ではない、過去の敗戦からも分る通り武力に秀でた、前線将である、そしてそれは自身が一番よく分っている
故に、司令としてでなく、敢て前線遊撃軍の将として前に出て戦った、特に今回、自軍の全体指揮にインファルを充ててある、インファルも、その判断を否定しなかった
「好きにしたら?」でエミリアの判断を良しとした
そして戦場での状況もある、ペンタグラム山岳都市、正面の「道」と言っても山道で狭い、中央街道と違い軍を展開するには狭すぎる
故に、エミリアからすれば、過去の王城防衛戦やアドニアの川橋での単身迎撃に代表される戦いと同じく、兵力差が出難い状況であれば、幾らでも叩き返せる
二日目の朝から夕までの前線遊撃で、単身だけで三百近くの
兵、武芸者、前線将の首を取る、という凄まじい戦果を上げる
これには敵味方共に唖然だった
中から包囲の一角を崩す、どころか、逆に一歩も相手を後退させられず叩き返される事になる
この第二次ペンタグラム開戦は一方的な展開で二日目も終る
ペンタグラムの駐留軍は突破どころか、エミリアの主軍に正面から打ち返され後退、中央街道側から正面に立ちはだかるターニャらの軍の突破もならず、北進してくるバルクストの軍の頭の押さえも兵力差に関わらず互角の状況
「楔を打ち込まれた」というベステックの言の通り、全方位進退窮まる状況の展開で進む
二日目の終り後、テスネア側でも簡易軍儀が開かれるが、正直手が無い、戦場での優位な部分が無く、本国から援軍を持って来て数で上回るしかない
そして、反対側、グランセルナ連合側はこの「硬直」が、そもそもの目的で、それは三日目の開戦で「形」として見えてくる
ペンタグラム本国への西から遠めからの、バリスタ、弩での石と矢を遠距離から放り込むクローゼら
反対側、出入り口山道に広く展開し、出てくる敵を叩く、を徹底するエミリアの主軍
そう、ペンタグラム本国の駐留軍を「外に出さない」作戦である
「クッソ‥そういう事か‥」
ベステックも歯を噛締めて云ったが彼、単体の力と軍力ではどうにもし様が無い
北地域からの侵攻、或いは南からのピスノーラの侵攻、どちらかを叩き返し、大規模な援軍がペンタグラム側に来ない事には、この硬直を崩すのは難しい
大胆な策が打てない訳ではないが、それはペンタグラムを捨てる判断が要る、彼、個人の範疇では無く、如何ともし難かった
「再考を仰ぐ」としてベステックが本国への伝令を飛ばして返答が来たのが三日目正午、そして、その内容は彼の期待を裏切るモノであった、つまり「本国から援軍を三万出した」である
アデルも現状出しうる精一杯の援軍派兵であるが、これは過小と言える「兵力の逐次投入」という愚策に近い
やむなくベステックも一時、前線を離れアデルとの直接伝心での会談を持ったがそれも、中途半端な内容であった
「陛下、敵の狙いはペンタグラム本国を包囲して蓋をし、疲弊を待ち、実戦闘での被害を少なくし、最小被害で奪取する云わば、兵糧攻めに近い策です。これを突破して味方を救出しなければ、相手の思い通りに成ります」
「分っている、が、敵は遠征軍だ、封鎖して閉じ込めての兵糧攻めは相手のが先にへたるハズだ」
「ペンタグラム山岳都市には食料の生産施設も実りもありません、保持兵糧も六万の兵を補う程備蓄していません、現地の実りの殆どが、麓や周囲の河川、森からのモノです、通常防衛戦とは違います、出入り口を封鎖されている以上、それも叶いません」
「だから援軍を送っている」
「三万では少のう御座います」
「‥では、どうしろと云うのだ?」
「ペンタグラムを維持するのか、捨てるかの判断を願いたい」
そしてアデルはこの判断に窮した
「‥ギリギリまで粘れ、北か南を片付けて大規模援軍を出す」
そういう判断だった。これ自体、完全に誤りである、味方の篭城兵力は貴重だ、なるべくなら、一斉出撃とベステックの全力突撃で、間に立ちはだかるグランセルナ連合軍を崩して退かし、退路を確保すべきであった
領土は何れ取り返せば良いが、兵は取り戻せない、特にペンタグラム本国等、基地としては優秀ではあるが、住民も居なければ、商業的、生産的意味合いは極めて薄い、他の領土と違って、捨てて被害が大きい訳ではない
が、アデルはペンタグラム本国を捨てるのを渋った、要は、中央での大きな犠牲と共に得た、少ない「戦果」であるペンタグラムが「惜しかった」のだ
そういう判断をされた以上、ベステックも反論はしなかった
「分りました」と短く云って再び、前線に出たのである
三日目の終りから四日目の朝
次の援軍を待ちつつ、の継続した戦いになるが、正午には続かなくなる。
二正面作戦で分散戦闘を行っていた、対南の自軍が劣勢から崩れ、後退の流れに成った
バルクストのアトロスらの軍を阻んでいた別働隊が押されて街道をズルズル下がらされる、開始、四万対三万だった兵力差が、三万二千対二万八千に
元々の武力、将、武装が大きくグランセルナ連合側は相手が下がったのにあわせて、アドニス、ヴァイオレットの両前線将が前線遊撃を徹底して突き崩しかかる、これに対応する人材が防ぐ側に無い
五日目、正午の維持戦まで耐えたが、ここで更に、追い込まれる情報が届く
「ピ、ピスノーラと対峙していたユルングが既に篭城戦に入ったと‥」
「どういう事だ」
「はっ‥、当初、互角に展開していましたが、グランセルナ側が五万の援軍を追加、反転攻勢から三日目には崩れ、後退したと」
「どこから沸いて出た‥いや‥向こうは後ろから持って来れるか」
ピスノーラ側は対峙したユルングは相手と数の上で互角だったが、事前策通り、内部崩壊策と後ろの準備が整った所で、大規模追加援軍策を掛けた
やった事は単純だ、防衛側ユルングに伝聞を送った後、当初から用意していた、カルディアの後詰二万、南方からドネツク一万、ロドニからの二万、これを一斉に投入して全力反転攻勢に出た
伝聞の中身も「グランセルナ連合側に付くのであれば、ユルングの領土と旧王族の安全を保障する、テスネアの一部で生き残りは不可能」である
そして、この国は、第一次ペンタグラム開戦後からゼントラム連合の宣言の間に、テスネアに脅迫併合を受けた国、当然、テスネアの領土地とも云い難く、脆く、旧首脳部もそのまま残っている
むしろ「テスネアから離脱でき、グランセルナ連合の庇護が得られるなら悪くない」と考えるのが普通だろう、そもそも、テスネアに恨みはあっても、縁も恩も無いのだ
この条件を受けて、まともに防衛戦を行う判断は無く
首都まで下がって篭っただけの事である
ここでも「どっちに付いたら得か」の判断を相手に投げかけ、結果、ユルングは首都決戦を行う事無く白旗を揚げ、中立化と成った
双方大きな被害を出さず、の決着である
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