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一行はまだ「ロベルタ」に留まっていた、正直、過ごし易いという面、先の事件から王国とつながりが出来てしまった点である
そして近衛隊の、クロス、シンシアも物の判った人物でフォレスらの事を追及もせず、秘密の類も気にしなかった
短い付き合いや関わりであるが。其の中から双方が良識ある人物だという認識もあった故である
そして商人隊のローラらもそのまま滞在した。豊かで温暖で平穏、規制も緩いと実にやりやすい国と地域であった為である
資質の調査からフォレスは、ターニャは何をやらせても伸びると知り、色々な事をやらせる様になった
エミリアも剣の手ほどき、フォレスは元から彼女が持っている「神術」の基本的な使い方、等である
「あの子には色々やらせた方がいい、後々、彼女が生きるのに役立つ」と思った
実際、剣も直ぐに基礎を覚え、術も「ヒーリングハンド」等あっさり使える様になった程である
「武器自体は「アレ」があるからねぇ」
「いや、別の物を何れ与える、アレは武器自体が勝手に突撃するし」
「え?」
「呼んで、英霊がソレを取って戦う、つまり召喚主そのものはフリーハンドになる」
「そういう事か」
「まあ、オレらの傍に居る以上、必要とも思えんが」
「それもそうだなぁ」
そして滞在中に一つ、大きな展開を見せるのである、一行の滞在する宿にシンシアが訪れそして告げる
「実は、女王陛下がお会いしたいと‥」
「はぁ!?」
な事態である。先の事件の詳細を聞いた王が、フォレスに会いたいと言い出した、本来ならフォレスも無視するのだが、相手が相手過ぎて断れなかった
「会うのはいいが‥オレは自分を変えるつもりは無いぞ?」
「ええ、陛下は寛大で穏健な方です、無礼どうこうというのは気にしなくていいと思います」
そうシンシアも云った為結局会う事にした、が、あくまで個人的な事で謁見の間等は使わず、女王の私室でとなった
「フォレストです」
「ロッゼ=ロベルタ=ブランシャールです」
特に傅く事も無く、応接セットでお互い座って普通に挨拶した
「先の事件では大変お世話になったそうで‥魔術士様」
「いえ、自分の知識程度が役に立つなら、という程度の事です、報酬もきちんと受け取っています、特に礼を言われる事ではありません」
女王ロッゼは22歳、が、年齢に釣りあわぬ落ち着きと大人の美貌を持っていた、まるで母の様な柔らかさと謙虚さを持った人物だった
「それで、何故自分を?」
「単なる好奇心です‥シンシアにせがんで色々と外の事を聞く内、貴方ともお話したいと」
「成るほど、オレ程度の話ならいくらでもお話しましょう、話せぬ事もありますが」
「素敵なお仲間と旅をしているそうですしね」
「偶然だが、こう成ってしまったので」
「この国は如何ですか」
「どういった意味で?」
「何でも、思った事を」
「そうだな。‥過ごし易い国、物、人、自然多く、如何な状況にあっても安定した治世ある国だと思います、周囲の環境もあるし、今の情勢あって安全、安心感は高い」
「情勢とはやはり争乱でしょうか」
「左様です」
「何故この様な事になったのかしら‥」
「理由は、大したものでは無いだろうか、どこかが動けば周りも連動して動く、そういう事かと 尤も、元の理由自体、オレには知るよしもないが‥」
「そう、なのですか」
「人間に限った事ではないが、大抵の歴史、戦の理由など呆れる程くだらない物が殆どだろう、女一人の為に行う事もあれば、確かな妄想の理想で始まる事もある、神ですら、な」
「なるほど、そういった事があった場合、今もそうですが落としどころの様なものはあるのでしょうか?」
「難しいな、始まる理由も大抵馬鹿らしい理由、ではあるが、終る時は明確な終りが無い場合も多い、統一や、同意、疲弊に寄る継続の不可、同盟など様々、だろうか」
「決まった方法というのは無いという事ですね」
「歴史的実例からすればそうなる、大抵の人間は目の前の事しか見えない、故に、どこまでが利益になるか成らないかでしか考えん、それが間違いという訳ではないが」
「正しい様には見えませんが?」
「国家、集団ならそうだろう、が、意思ある者はその意思に従って動くそれこそ人と云えなくもない」
「?」
「つまり、効率性や自然的正しさで云えば石ころや草木の方が遥かに生物的に優秀と云えなくも無い、が、人間は意志、決定、利益のあるなし、哲学によって動いている、草木の真似をしろというのは、それは人である必要もない、ともいえる」
「結果どうあれ、自らの意思、選択をせよ、という事でしょうか」
「それが意思ある者の生き方だ」
「なるほど‥しかし、それで誰かが不幸に成ったとしてもですか?」
「うむ、例えば暴君が出たとする、それによって国民は不幸に成る事もあるだろう、が、それを受けた側はそれに対抗して何かのリアクションを起こす、そうして「歴史」という物が作られる、時に反乱、分裂等、反撃を食らって暴君が滅ぶ事もあるし、そうならない事もある。それも、人であればこそ、であるのさ」
「それが争いの絶えない理由、でしょうか‥」
「そうだろうな、そこも人の解釈の違いとも言える、剣に対して、剣を出すのか、盾を出すのか、判断も見解も変わる、だが、だからこその意思ある者だ」
「わたくしは王としてどの様に生きればよいでしょう」
「それも貴女の判断次第さ、好きにすればいい」
「戦略的にはどう思いますか」
「単純に戦略的な話なら、明らかに兵は少ないな、どこの国も3~5万は保持しているだろう、ただ、ここは天然の要塞の様な自然環境にあるし、共和国という連動があるそれらと どう動くかでかなり結果は左右されるし、判断は難しい」
「そうですか‥」
「私的な見解で言えば共和制や連合というのは正しいので、ロベルタの歴代の政治も正しいともいう」
「それは?」
「人が人である為のもう一つの必須条件、集団であるという事、人間は本質的に自身で全ての生存を満たす事は出来ない、食も服も家も一人でという訳にはいかない、可能かもしれないがそうである程脆い」
「なるほど、確かに」
「それは政治体制でも同じだ、故に本質として正解しているともいう」
「なるほど、今後のロベルタをどうお考えですか」
「それはオレの云う事ではないな、軍には軍の考えがあるし国には国の考えがある、オレの様な、ただの冒険者が口を差し挟む事でもないさ」
「確かにそうですね、貴方を軍師にでも抜擢してお招きしないといけませんね」
「それはご勘弁を」
「ふふ‥」
「ですが、貴女の周りには優秀な者が多い様に見受けられる、貴女自身も、オレの様な人間に会うのも意見を求めるのも憚らない、それは貴重な資質であるし、人というのは集めて簡単に集まるモノではない、それは優れた条件にあると云えます」
「成る程、確かに皆優秀な者です、その通りだと思います」
「だからそれらの者と協議するほうが効率的である、と考えます、そして少なくとも、自分から見たらですが、シンシア殿やクロス殿の見解と判断は正しく自己の利益で動く者ではない、そういう人間が居るというのは幸せな事です」
「そうですね、色々本当に助かっています」
そこで時間を知らせる鐘が城内に小さく鳴り、会談は終了と成った「陛下、そろそろ」と促され退室する事となった
「公務がありますのでこれで‥また」
「ええ」
二人交して別れた
案内についたシンシア共歩きながら話した
「私も不安はありますね」
「乱の事か?」
「ええ」
「先程も言った事だが、ここは条件が特殊ではあるからな、それに具体的にどうこうの策は決めにくいだろう、そっちで軍備の事はどうなっているんだ」
「意見は割れていますね、フォレスさんの言う通り、ここは地域全体で同盟しているに等しい環境です、全体を合わせれば3万には届く兵力には成りますのでロベルタの軍力がそれ程必要かという意見もありますね」
「だろうな、が、同盟と言っても其々の国によって見解が異なる、バラバラではあまり意味がないし、分裂する事すらある、状況の変化によって、クルクル裏返るカードを抱えているとも云える」
「ですね‥」
「ここは豊かだし、人口も多い、増強しても財政的に問題は無さそうだがそれも周りがどう見るかという難しい問題だ」
「ご尤もです」
「まあ、北の他地域からは遠いし、西は壁の山と湖、川があるからなぁ、実際攻められる、というのは考えにくいが、大陸情勢の変化でどうなるか判ったものではないな」
「そうですねぇ」
「其の辺りの状況はどうなっている、中央付近の話だが」
「こちらもあまり情報はありませんね、収集してないとも云えますが、ただ、動いてないとも噂はあります、ペンタグラムも動いてませんから」
「実際遠いからなぁ」
「ええ、こればかりは近くに行って見ないとしかとは判りません」
「ま、シンシアらが気にする事でもないさ、役割が違うからな」
「ご尤もであります」
軍部の一つではあるがシンシアらは「近衛」である、首都の警察組織に近いものがあり、実際軍部にそこまで口出しはしないという問題もある
「ところで、フォレス様はどのくらいここに?」
「うーん、そう長くは無いだろうなぁ、まあ、商人隊次第というのもある、俺らは護衛と同行者でもあるからな」
「成る程、それは残念です」
「いい土地、ではあるが、もう少し見て回りたいというのもあるしな」
「そうですか」
「まあ、また戻ってくる事もあるかもしれんさ」
「ええ」
実際問題、今後はアリオローラ次第でもある
その為帰る足でそのまま商人隊に合流して話した
「そうじゃな‥いい環境ではあるが、私もここに落ち着くというのはまだ早い、色々見てみたいしな、その意味ではフォレス殿と同じ見解じゃ」
「判った、では、近いうちに出るか」
「うむ、2,3日だろうか」
「了解」
と決定される、小隊の出立には近衛の連中も見送りに、シンシアとクロスとも握手を交した
「また、来てください」
「お世話になりました」
ロベルタから一旦南西へ、そこから大河に出てそれに沿って南東へ、この地方は山に囲まれ南にそのまま進むことは出来ない為、反時計周りで山を避けて移動する必要がある
ここからは街道も明確なモノで無くなってくる、所謂地元民が使う為に整備された、普通の道だ、木や雑草を軽く取り除き、その上を通って往復するうちに「道」となった様な物で、石畳の街道とは異なる
あまり人の手が入っておらず、地図に記された物、所謂、街やら国やらも明確には記されていない、早い話未開の地である
とは云え、交流の類はある
川と山に沿ってそのまま4,5日進むと地方民族の国がある、国と言っても部族に等しく、中央からかなり遠い為情報が殆ど無い、一応「狼の部族」というらしい、そして地形条件である
「なんか急に熱くなってきたな‥」
「うむ、山岳が多く、更に東に直進すると砂漠等に出る、その山と荒地の間に国があるらしい」
「らしい、か」
「情報があまり無いからの」
そして丘道を抜け3日程で目的地に到着する
山、丘、川、森も少しある、そこから東を見ると遠くに岩地、おそらくその向こうに荒野だろう、その丁度中間点に「ラッセル」という都市がある
今で言う中東に近い環境だが、それよりは自然もあり不自由な地域という感じはない、気温は高いが南国に近く温暖だろうか、ただ、季節によって結構上下は激しいらしい
「おお‥」
「結構広いな」
そうして商人隊は馬車ごと入国、と言っても審査の類がある訳ではなくふつーに入れる
人が多く、皆薄着だ、建物も石を積んだ物が殆どで頑強、アチコチ露店が出ており、皆適当に飲み食いしながら商売している感じだ
早速、一同は宿を取って入り、情報収集に当たった
「とりあえず、オレは買い物ついでに、だ」
「パパ!私も!」とターニャが背中に飛びついた
「私は疲れたな休ませてもらう」
「ならこっちは護衛任務をしておこう」と
ティアはそのまま宿にエミリアは商人隊に合流して一応仕事にとなった
例によってターニャを肩車しながら街を回る、正直広さが尋常でない、というのも、集落、村、町、国が一つになっている場所である、そして街の外は石と砂に雑草だ、纏まっている方が楽なのだ
故に、店の類も多く、施設も大抵ある、離れている、のは山岳鉱山くらいだろう、何しろ回りに山と丘が多いそして遺跡の類もある
「やはり鉱石や天然物が多いな」
「パパ!あれなに?」
と露店の物を指してターニャが聞いた
「ああ、あれはべっ甲だな、それと琥珀の類だな」
「何で中に虫とかはいってるの?」
「樹液の類の結晶だ、其の中に虫なんかが封じ込まれている、虫が入っている方が価値が高い」
「へー」
「どれ、一つ貰おう」
「まいどあり!」
そしてまた遠くを指して聞いた
「パパ!あっち大きい家あるよ!」
「家じゃないな」
そこで露店のおっさんが説明した
「家、には違い無い、ここの国の領主、まあ、王様でもあるが、カハルレストの宮殿さ」
「つまり個人邸宅の類なのか?」
「そうだ、まあ、統制してるので「王」には違い無い」
「ほう‥」
「軍も一応保持している、カハルさんの個人部隊に近いがな」
「それでこの状況、という事は優秀な人の様だな」
「よくお分かりで、個人軍だが治安維持兼警察隊、他国からの介入あれば戦いもする」
「だろうな」
そう聞いて納得したのは当然だ、軍を個人で保持し、街は栄えて、潤っているし、皆明るい、となれば、武力に寄る押えでなくそれを強引に行使もしないのだろう「人の心理」を読めねばこの様な状況は作り上げられない
「しかし、他国からの、というのは?周囲に敵の類があるのか?」
「ああ、この辺りは色んな部族が近隣に居るねぇ、まあ、殆ど不可侵だが、南から来る連中は稀に出てきて荒らしたりする」
「ほう」
「つっても数は多くない、山賊に近いし、結構遠くから出てくる」
「よーわからん連中だなぁ」
「一応、「エアリー」という連中だ。強い事は強い、騎馬を扱わせたら一番だ」
「まあ、これだけ潤ってると強奪しよう、て奴も居るんだろうなぁ」
「そうだな、ま、カハルさんが居る限り滅多な事にはならんだろうが」
「結構な事だ」
そのままついでにカハルとやらの個人宅、宮殿に行ってみる、衛兵の類も居なければ、出入り制限すらない
そして中央にある人工湖が観光スポットか公園と化し住人らが居て宴会などやっている
「自由すぎだろ」
宮殿にも行って見るが、そこの入り口にはさすがに見張りは居る、ただ、警備員に等しく、基本的に住民なんかは入っているようだ、そこでフォレスも話しかけて入ってみる
「ここは解放しているのか?」
「ええ、一階の広間、ホールまでは、一種の美術館の様に成っています」
「オレは他所から来た旅人だが問題ないのか?」
「ええ、観光スポットになってますよ?」
という事だった
実際一階ホールの周りには美術品の類が並べてある、皆回りながら見ている、手を触れる事は出来ず、柵の類はしてあるが、それ以外は自由だ
監視員も数人居るだけだ、ただ、美術品なのだが、珍品が多い
「なにこれー?ヘンなのー」とターニャが云って笑った事でも判る
「これは大昔に使った剣だなぁ、円月刀ていう刀だ」
「これはー?」
「儀式なんかに使った香炉だな」
「あれは?」
「大昔に一部、お祭りに使った象徴だな‥エロイ事にもつかったry」
とターニャが面白がって聞く為、フォレスが一つ一つ教えて回る事態になった、フォレスがあまりに詳しい為、他の見学者も集まって付いてくるため、一種ガイドの役割を果した
「あれは?」
「普通の絵画だな、が、今の様に絵具が無い時代のモンだ、見た目は普通の絵画だが絵の具の類は使ってない、殆ど点絵に等しい」
「どゆこと?」
「んー近づいて見てみろ」
「!」
「紙や板に穴を開けたり石や砂を組み合わせて、遠くから見ると絵に見える、という代物だ」
「お~すごい!」
そして他の見学客も後ろで「お~」と言った
それが一通り終って一同解散、んじゃ帰るかと、フォレスも思った所で声を掛けられた「随分詳しいね兄さん」と
出入り口で声を掛けてきたのは背の高い女性
褐色で露出多い衣装で男性ぽい女性だった
思わずターニャも「おおきい、パパと同じくらい」と言った、フォレスもデカイのだが彼女はそれと同じくらいの背丈、そしてガタイもいい
「アタシはカルディア=シディロワ=カハル」
「なに?‥お前が王、なのか?」
ニヘと笑って彼女もそうだと無言で返した
「それにカルディアだと?」
「ほう、意味を知ってるのか?」
「古代言語だな、鉄、心、騎馬」
「さっきの解説といい、とんだ知識の持ち主だなぁ」
「一応魔術士なんでね」
「マジデ?」
「ああ」
そこまで聞いてカルディアも大笑いした
「どう見ても剣士か闘士にしか見えんぞ?」
「お前こそ王に見えんぞ」
「違い無い」
バンバンフォレスの背中を叩いた、そしてどうやらフォレスは気に入られた様だ、そのまま奥に招かれて茶をお呼ばれした
「しかし魔術士を見るのも珍しい」
「まあ、こんな所に来ないだろう普通」
「そりゃそうだな、んで、あんたは何で?」
まあいいか、とフォレスはこれまでの事情と大まかないきさつを話した、それ自体彼女には興味の対象だったらしい
「定住地、ねぇ‥そんなもんあるんかね?、まあ、ここも割りと争いは少ないが」
「部族間抗争はあるのだろ?」
「あるちゃあるがどこも大規模じゃないねぇ、ここだけ人口が多いし」
「なんか情報持ってないか?正直この辺りから南もだが、殆ど中央地に情報が無い」
「んー、広すぎるからなぁ、この世界、アタシもそんなに広範囲は知らないしな」
「ここの生まれ、育ちか」
「そうだ、残念ながらあまり遠出もした事ないね。強いて言えばだが、東ならだーれもいないけどね」
「天魔戦争の地だからな住む馬鹿は居ないだろう」
「後は、ここから南西方面二つ先辺りは大陸地図にも載ってないよ、別世界、て事になるのかな一応、陸続きだからいけるだろうけど、まあ、そこでも戦争してないかどうかは謎だが」
「行った事が?」
「いや、あっちから流れて来た人間がいくらか居る、又聞きだな」
「ふむ、それは盲点だったな‥、たしかに移住者もそれなりに居るだろうし‥」
「つっても数は少ないな、期間もバラバラだ、「今現在の外世界」がどうなのかは結局行かないと判らないだろうね」
「そうだな、基本的に地図に沿っての移動だ、どうせ商人隊と同行だし、無理して知らんところに行く理由もないか」
「折角立ち寄ったんだ、ゆっくりしてきな」
「ああ、そうさせてもらおう」
「泊まってくか?、正直暇だしね、家もデカ過ぎる」
「ほう、それは有り難いな、仲間もいいか?」
「おう、いいぞ」
不思議と気が合い、そうした流れになる
正直フォレスもカルディアもこういう全く気を使わない相手が楽だったというのもある
そういった経緯でカハル宮殿に集まった一行はそのまま滞在する事になった
「さてここからだが、南に行っても「世界」から外れる事になるが」
「このまま南行ってもこれと言って何かある訳でもない、と云うことか」
一同夕食の場でフォレスとローラの言である
「判らぬ所に行っても迷うからな」
「個人的なオレの興味で云えば行っても良いんだが不確定な要素で旅は宜しくないな」
「カハルさんはその辺りの情報はあるんですよね?」
「いや、単なる噂レベルだな、確認する意味もないし、このまま大河を渡って西に行った方が安全と云えば安全だが、まあ、安全の意味も違うが」
「というと?」
「西も暫く行くとまた軍事国家が多くなるしなぁ‥小競り合いの類に巻き込まれるとも云える、ほんで国も多いし、道があるのと地図があるので移動に困りはしないだろうが」
「なるほど」
「道を求めて、争いの地に行くのか、不確定だが南に出てみるのか?だな、どっちが良いとも悪いとも云えんね」
「ローラはどうする?実質商人隊次第という事になるが」
「そうじゃな、やはり中央からあまり逸脱するのも問題ではあるな、ウチとしてはとりえず西へ行って情報があれば南を見ても良かろう」
「わかった、それで問題ない」
そこから5日程の滞在を行った、商人隊としては商売的には悪くない土地だった、何しろ皆豊かであるし、珍しい物が多い、反面、どちらかと云えば実質的な物は少ない
鉱石や宝石、装飾品などは多いが他の実り、つまり、食料や衣料品は余裕があるとは云いがたかった、地勢を考えれば当然だが、大河や森もある為、魚や実は取れるのだが平地が少なく雨も余り無い為、穀物が少ない、そしてすぐ隣は荒地や石地である
「割と偏りがあるんだよね」
そう隣地の視察をしていたカルディアも言うしかない
「今の所金はあるんだから、輸入で問題ないのでは?」
「そうなんだが、結局自国生産出来ないと足元見られるしな、そもそも戦となりゃ食い物握られてる事にも成りかねない、国家としてはそれは宜しくない」
「大河があるんだから水を引いて水田でもやってみたらどうだ?」
「水田??」
「大昔にやってた一部稲なんかにやった農業生産だよ、いや、知らんのか」
「魔術士様は時々わからん事を言うからな」
「まあいい、折角だから手法だけ教えよう」
「おう、ありがたい」
カハルでの生活も特にトラブルらしい物も無く、安定した流れだったその為一行も「そろそろ動こうか」と思っていた
そんなある日
午前10時ごろ宮殿に兵士が駆け込んでくる
「落盤事故だと?!」
「ハ!北東採掘場で事故発生です!ですが‥」
「何だ??」
「そ、それが魔物の類が‥」
「な!?魔物だと!?」
「詳細は判りません、事故と平行して地下から沸いて出たとか‥」
「ぬうう、兎に角兵を集めろ!工夫もだ!」
「ハハ!」
と散会してそれぞれの準備に取り掛かるが、聞いていたフォレスらも思い当たるフシがある、先の「ロベルタ」での霊騒ぎだ、その為即応して動こうとしていたカルディアを止めた
「まて、カルディア、先ずは内容が判ってからだ」
「む?しかし緊急事態ではある」
「オレらはロベルタでも同じ様な、規模は小さいが事例に合ったばかりだ、色々おかし過ぎる」
「どういう意味だ?」
「おそらく、何かを掘り当てたに違い無い、地下から魔物が湧き出る等現代ではありえんだろ」
「むう、確かにそうだが、今は兎に角、救出が優先、怪我人も出ているハズだ」
「其の判断は正しい、ならオレも同行させてもらう」
「いいのか?」
「ああ、それにおそらく人間に対処出来るもので無い可能性もある」
「判った、街の東口へ、アタシは兵を組織して準備する」
そこでローラも自分の商人隊を動かす
「ふむ、なら輸送隊を勤めよう、ウチの馬車隊ならかなりの人と物を積める」
「頼めるか?」
「うむ、一宿一飯の恩義というやつじゃな、協力させてもらう」
「すまぬ!」
そうして一行は緊急事態とあって先に街から採掘場へ、最速で出立する
北東の山岳麓の採掘場に辿り着いたのは昼近く、既にそこには多くの人が手前の集落での救出作業と手当てにあたっていた
街から人が出ている訳でなく、工夫の村という形で滞在しながら其々作業に従事している
その為、どのような事態になってもある程度対応は出来るのだが、今回に限っては事情が違う、余りに死傷者が多く、滞在医師程度ではどうしょうもない、既に野戦病院の状態だ
フォレスは即座に乗り込み、医師と相談しつつ、負傷の重い者から治癒術を掛ける、が、14人治癒を掛けた所で彼自身も行動不能に陥る
「あかん、これは多すぎる‥」
無論肩代りの石も使ったが、負傷が重い程魔力を使う、故にそうなる、特にフォレスは魔力許容量が多いという訳では無い
「うーむ困ったな、ココにはワシと看護師の二人なんじゃが」
滞在する医師もお手上げに等しい、反面怪我人が200近く居る
「薬の類は馬車隊である程度は持ってきたんじゃが」
「と、とりあえずボス!動かせる人はこちらで運びましょう!、街のが手当ては出来るかと‥」
「そうじゃな、よし、馬車を分離して交互に運べ!」
「おう!」
商人隊も分散して対応に当たる、その一時間後には本国からカルディアの軍1000が到着、即、坑道の周囲の二次災害の防止で支柱等を外から運んで補強しつつ、内部負傷者の救出である
「所で魔物というのは?」
「それが‥霊の類で、戦うとか止めるというレベルでは‥」
「どこだ?」
「一番奥です、ですが、それ以外にもガスの様な物が‥」
「なに?!」
「毒気の様な物に充てられて失神する者が多数出て、救出どころでは」
これはと流石のカルディアも迷った
落盤が止まっても奥に「何か」が居てしかも霊と言う
「カルディア」
「なんだ?フォレス殿」
「おそらく先の事例からして、闇世界の者だ、魔法か特殊武器が無いと止めるのは無理だ」
「だが、どうする‥」
「コッチはオレと魔法で対処出来る者が3人居る、ある程度行って可能な限り救出したら、離れた方がいい」
「それしかないか‥」
「兎に角相手を確認しないと対処の方法も判らん」
「判った」
カルディアは振りかえって告知した後、自身と護衛兵5人でフォレスに、残りの者は、入り口から奥までの間の坑道の補修、被害者が居れば救出、集落からの移送
手当てなどの割り当て、その即座に整え、フォレスの元に来た、そしてフォレスはティアとターニャを選ぶ
「このメンツで大丈夫か?」
「ああ、だがターニャはそちらで守ってくれ、もしもの場合真っ先に逃がす」
「情報からすると二次落盤の可能性は低いそうだ、とりあえず奥には進める、補修と補強をやりながら前進する」
「判ったいくぞ」
と最小限の事だけ交換して坑道内に侵入した
入り口はかなり広い、上下3メートル左右10メートルちかい穴、既に事故からの6時間で周囲補強は略済んでいる
そこから8人でフォレスを前に移動 その先行隊から更に7,8メートル離れて、10人分けの小部隊が救出、補強を兎に角行う
「ティアは護衛を頼む、相手によるが調査が必要かもしれん、それと魔法で頼む、スピリット系なら物理は厳しい」
「判った、風くらいしか使えんが」
「この現状なら問題ないターニャが居るしな」
「ターニャ」
「はい」
「敵はスピリット系云々に関わらず、魔物が出たら「英霊の魂」を呼べ、それは「聖」武器を使える、相手が何であろうと戦えるし、基本無敵に近い」
「う、うん、出しておく?」
「そうだな、ティアの前に、操るのは簡単だ、ターニャの意思で動く「思え」ばいい」
「う、うん」
ターニャはその場に一旦止まって全員前進を停止、初召喚してみる、剣を抜いて前に軽く構える
「英霊の魂よ」と言ってみる
すると彼女が構えた手から彼女の代わりに剣を持つように手が透明なまま出てきて、剣が適度な高さまで上がる。握った手から透明だった魂が発光しながら物質化して剣闘士の姿を作り出す
「おおおお?!」と出したターニャも驚いた
それは後ろに居たカルディア達もだった
「な?!なんだこれ?」
「ロベルタであった同じ様な事例の結果」
「召喚か‥」
「が、こいつは「聖」だ、基本ターニャの言うことに服従だ安心しろ」
「こりゃ頼もしい‥」
そして英霊の魂を先頭に進む
「距離は?」
「後150くらいだ」
とは云え、かなりくねった道で先がわからない、そのうち先に情報のあった「ガス」の様な靄が見えてくる、その奥に人がまばらに倒れている
「止まれ!」とフォレスは云って、直ぐに眼鏡を掛ける
「な、なにこれ‥緑の霧?」
「むう、これは瘴気だな、精神にダメージを与える、それほど強烈じゃない、吸い続けなければ、ぶったおれはしない」
云いながらフォレスは空間浄化を掛ける
するとパッと周囲の霧が晴れる
「救出するのはこれで全部か、カルディア」
「おう!今のうちだ、倒れて居る連中の回収!」
そして後ろから小部隊があつまり残りの人間を抱えて入り口に戻る
「落盤を受けた連中は無理だろう、が、一応敵を確認したい、進むぞオレらだけでいい」
「いや、そういう訳にはいかん、アタシも行く」
「王にもしもの事があると困るんだが‥」
「なら進むの自体許可しないぞ」
「全く‥しゃーねーな」
とそのまま進んだ、ここで行き止まり、広い空間に出るがあちこちに岩の落下があり既に収まっている様だ
が、ここの負傷者は4,5人、でそれはもう死んでいる、岩に潰されたであろう遺体が確認出来る、そしてその一番奥に下穴が見える
「あそこか、多分どっかの遺跡かなんかを掘り当てちまったんだろう」
フォレスは魔法石を一つ取り出し握って魔力を込める、それを穴の方に投げつけた、それは落ちずに宙を舞い下穴にフラフラと入っていく
「何の魔法だ?」
「遠隔の目だな、アレに映る物がオレにも見える」
「で?」
「下はまた部屋に成ってるな、やはり何か古代遺跡を掘り当てたらしい、いや、崩れて繋がったというべきか、中は‥石室、綺麗に整備されたものだ、10メートル四方の部屋、殺風景で大したモンはねぇな、いや‥」
「?」
「まじいな、これは、多分だが封印部屋だ、台座の様な物に小物が納められている、周囲にも結界石が見える、それも崩れた際、ぶっ壊れた」
「どうするんだ?」
「あの小物が多分召喚器かなんかだろ‥、呪いの逸品か‥近くにいかねーと、調べるのも無理だな」
「行ってみるか?」
「そうだな‥4人だし、いざとなったら飛べばいいか」
縦穴は結構大きく2メートルは垂直に抜けている、その為入るのに苦労はしない、出るのも飛行すればいいだろう、と思った
その為3人を上に残し、フォレスだけ下に下りて探査開始となった、が、その途端「上」から声が挙がった
「な、なんだ?!」
振り返って見ると上の3人の周りに何かが飛び交う透明の黒い風
「ナイトシェイドか!?」
咄嗟にフォレスは下から上の3人に空気の盾を張って防ぐ、それは有効らしく、飛び回る影は壁に弾かれ拡散する
同時にその飛び回る影を「ソウルオブリメンバー」の剣闘士が手当たり次第に叩き伏せる、自動迎撃というやつだ、主に危険を及ぼす奴を自動で倒すらしい
「おおお!?」
「つよ!」
ティアもターニャも云うしかない、あっという間に10匹からの闇を切り倒して直立に戻った「はぁ~」と一行もため息をついて落ち着いた
更に3分後、フォレスは調査を見切って台座のおそらく腕輪だろう、リングを取って上に戻った、そのまま床に置いて離れる
「判ったのか?」
「ああ、こりゃいらねーな、ぶっ壊した方がいい」
「なんなんだ?」
「エミリアの付けてるモンと同じだよ、人間が作ったもんだな‥一定間隔で闇召喚をランダムに起こすやつだ」
「じゃあ今のも?」
「そうだ‥すげー不安定でハタ迷惑なブツだな、多分こっちの物質だから壊せば壊れる」
「というか処理しておいて欲しいものだな‥製作者は‥」
「いや、エンチャンターの石はヘタに破壊すると暴発しかねないし、それなりの破壊道具じゃないと、壊せない、作ったは良いが、処遇に困って封印したんだろう‥腕が未熟か知識が薄いままやってみた、そういう事だろうな‥」
「で?どうする?」
「ああ、ターニャ」
「?」
「英霊の剣でコイツを破壊してくれ、宝玉をな」
「う、うん」
「聖剣なら魔力自体拡散させて壊せるから、それでいいはず」
「ハズ?!」
結局そのまま聖剣でリングを破壊、事なきを得た
「それと、調査も要るだろう、おそらく別部屋かなんかある、術士か、製作者か、もう居れば死んでるだろうが、あるいは放置してどこかに移ったか」
「ここの遺跡自体棲家、て事だな、判った、別の入り口の類があるかもしれんしな」
「そうだ、後補強が終ったらオレも同行する、何があるか判ったもんじゃないし」
「そうだなぁ頼む」
そこから丸一日掛けて坑道の補強と負傷者の手当て、更に翌日には調査隊を組織して坑道の奥の縦穴から侵入捜査が行われた
棲家、と言ったとおりそれほど広いものでもなく、山の反対側に偽装した入り口等も発見される
そこを偶々発見して裏からつながり、落盤から封印部屋を破壊してこの様な事態に至ったらしい
ただ、「何があるかわかったもんじゃないし」と言った通り、術士であろう人物の作った物が大量にあった、幸いにして危険な物は略無く、どちらかと云えばゴミに等しいものばかりだったが
そして最初に下りた部屋から二つ先の部屋に個人邸宅の様な部屋があり、そこに遺骸も存在した
かなり昔、少なくとも30年は経っていると判明して一応埋葬される
「どうやら、半端にエンチャンター技術を習得して独学で実験しながら勉強をしていたようだな」
「使えるもんはあるのか?」
「ないな‥、道具も古いし、まあ、魔法原石や触媒は結構あるな、今回の報酬で貰っていいか?」
「ああ、アタシらが貰ってもしょうがないし」
「しかし、なんで闇をエンチャントするかなぁ‥」
「込めるのは楽‥だが、闇術自体は人間世界には普及してないんだがな」
「じゃあ、ここの術士はどうして‥?」
「それも研究してたんだろう、だから効果が半端なんだ、ランダム召喚なのもその為だな‥」
「ホント術士、て奴は‥」
「ある意味探求者でもある、そこは責められんな、ちゃんとした「師」に付けば、この術士も幸せだったろうに」
「フォレス殿みたいな?」
「そうかもな」
そして落盤の規模がたいした事が無い割りに被害者の多さは
その「召喚」に寄る物だとも判った
「何呼ぶか判ったもんじゃないし、大物が出る可能性もある逸品だからなぁ‥」
「幸い死人はそれ程出てない」
「大物、て何?」
「デスとか‥だったら村ごと全滅する程のだろうな‥」
「怖!」
「まあ、一応大元は破壊したし、もう無いだろ、少なくともあそこにはもう無い」
「そっか」
そうして大きな細事を片付けた一行は再び旅に出るのである
、件から五日後、川沿いから南西へ
そこで緩やかになった大河に掛かる石の橋に出る、そこから西側、向こう側へ渡った
「向こう側はすぐ草原か」
「ウム、暫く行くとまた混乱の地、じゃろうな」
「小国やら軍事国家やらが多いらしいからな」
「まあ、私らは問題ない、どうせ商人隊じゃし」
「だな」
こうして、別の土地へ入ったのである
そして近衛隊の、クロス、シンシアも物の判った人物でフォレスらの事を追及もせず、秘密の類も気にしなかった
短い付き合いや関わりであるが。其の中から双方が良識ある人物だという認識もあった故である
そして商人隊のローラらもそのまま滞在した。豊かで温暖で平穏、規制も緩いと実にやりやすい国と地域であった為である
資質の調査からフォレスは、ターニャは何をやらせても伸びると知り、色々な事をやらせる様になった
エミリアも剣の手ほどき、フォレスは元から彼女が持っている「神術」の基本的な使い方、等である
「あの子には色々やらせた方がいい、後々、彼女が生きるのに役立つ」と思った
実際、剣も直ぐに基礎を覚え、術も「ヒーリングハンド」等あっさり使える様になった程である
「武器自体は「アレ」があるからねぇ」
「いや、別の物を何れ与える、アレは武器自体が勝手に突撃するし」
「え?」
「呼んで、英霊がソレを取って戦う、つまり召喚主そのものはフリーハンドになる」
「そういう事か」
「まあ、オレらの傍に居る以上、必要とも思えんが」
「それもそうだなぁ」
そして滞在中に一つ、大きな展開を見せるのである、一行の滞在する宿にシンシアが訪れそして告げる
「実は、女王陛下がお会いしたいと‥」
「はぁ!?」
な事態である。先の事件の詳細を聞いた王が、フォレスに会いたいと言い出した、本来ならフォレスも無視するのだが、相手が相手過ぎて断れなかった
「会うのはいいが‥オレは自分を変えるつもりは無いぞ?」
「ええ、陛下は寛大で穏健な方です、無礼どうこうというのは気にしなくていいと思います」
そうシンシアも云った為結局会う事にした、が、あくまで個人的な事で謁見の間等は使わず、女王の私室でとなった
「フォレストです」
「ロッゼ=ロベルタ=ブランシャールです」
特に傅く事も無く、応接セットでお互い座って普通に挨拶した
「先の事件では大変お世話になったそうで‥魔術士様」
「いえ、自分の知識程度が役に立つなら、という程度の事です、報酬もきちんと受け取っています、特に礼を言われる事ではありません」
女王ロッゼは22歳、が、年齢に釣りあわぬ落ち着きと大人の美貌を持っていた、まるで母の様な柔らかさと謙虚さを持った人物だった
「それで、何故自分を?」
「単なる好奇心です‥シンシアにせがんで色々と外の事を聞く内、貴方ともお話したいと」
「成るほど、オレ程度の話ならいくらでもお話しましょう、話せぬ事もありますが」
「素敵なお仲間と旅をしているそうですしね」
「偶然だが、こう成ってしまったので」
「この国は如何ですか」
「どういった意味で?」
「何でも、思った事を」
「そうだな。‥過ごし易い国、物、人、自然多く、如何な状況にあっても安定した治世ある国だと思います、周囲の環境もあるし、今の情勢あって安全、安心感は高い」
「情勢とはやはり争乱でしょうか」
「左様です」
「何故この様な事になったのかしら‥」
「理由は、大したものでは無いだろうか、どこかが動けば周りも連動して動く、そういう事かと 尤も、元の理由自体、オレには知るよしもないが‥」
「そう、なのですか」
「人間に限った事ではないが、大抵の歴史、戦の理由など呆れる程くだらない物が殆どだろう、女一人の為に行う事もあれば、確かな妄想の理想で始まる事もある、神ですら、な」
「なるほど、そういった事があった場合、今もそうですが落としどころの様なものはあるのでしょうか?」
「難しいな、始まる理由も大抵馬鹿らしい理由、ではあるが、終る時は明確な終りが無い場合も多い、統一や、同意、疲弊に寄る継続の不可、同盟など様々、だろうか」
「決まった方法というのは無いという事ですね」
「歴史的実例からすればそうなる、大抵の人間は目の前の事しか見えない、故に、どこまでが利益になるか成らないかでしか考えん、それが間違いという訳ではないが」
「正しい様には見えませんが?」
「国家、集団ならそうだろう、が、意思ある者はその意思に従って動くそれこそ人と云えなくもない」
「?」
「つまり、効率性や自然的正しさで云えば石ころや草木の方が遥かに生物的に優秀と云えなくも無い、が、人間は意志、決定、利益のあるなし、哲学によって動いている、草木の真似をしろというのは、それは人である必要もない、ともいえる」
「結果どうあれ、自らの意思、選択をせよ、という事でしょうか」
「それが意思ある者の生き方だ」
「なるほど‥しかし、それで誰かが不幸に成ったとしてもですか?」
「うむ、例えば暴君が出たとする、それによって国民は不幸に成る事もあるだろう、が、それを受けた側はそれに対抗して何かのリアクションを起こす、そうして「歴史」という物が作られる、時に反乱、分裂等、反撃を食らって暴君が滅ぶ事もあるし、そうならない事もある。それも、人であればこそ、であるのさ」
「それが争いの絶えない理由、でしょうか‥」
「そうだろうな、そこも人の解釈の違いとも言える、剣に対して、剣を出すのか、盾を出すのか、判断も見解も変わる、だが、だからこその意思ある者だ」
「わたくしは王としてどの様に生きればよいでしょう」
「それも貴女の判断次第さ、好きにすればいい」
「戦略的にはどう思いますか」
「単純に戦略的な話なら、明らかに兵は少ないな、どこの国も3~5万は保持しているだろう、ただ、ここは天然の要塞の様な自然環境にあるし、共和国という連動があるそれらと どう動くかでかなり結果は左右されるし、判断は難しい」
「そうですか‥」
「私的な見解で言えば共和制や連合というのは正しいので、ロベルタの歴代の政治も正しいともいう」
「それは?」
「人が人である為のもう一つの必須条件、集団であるという事、人間は本質的に自身で全ての生存を満たす事は出来ない、食も服も家も一人でという訳にはいかない、可能かもしれないがそうである程脆い」
「なるほど、確かに」
「それは政治体制でも同じだ、故に本質として正解しているともいう」
「なるほど、今後のロベルタをどうお考えですか」
「それはオレの云う事ではないな、軍には軍の考えがあるし国には国の考えがある、オレの様な、ただの冒険者が口を差し挟む事でもないさ」
「確かにそうですね、貴方を軍師にでも抜擢してお招きしないといけませんね」
「それはご勘弁を」
「ふふ‥」
「ですが、貴女の周りには優秀な者が多い様に見受けられる、貴女自身も、オレの様な人間に会うのも意見を求めるのも憚らない、それは貴重な資質であるし、人というのは集めて簡単に集まるモノではない、それは優れた条件にあると云えます」
「成る程、確かに皆優秀な者です、その通りだと思います」
「だからそれらの者と協議するほうが効率的である、と考えます、そして少なくとも、自分から見たらですが、シンシア殿やクロス殿の見解と判断は正しく自己の利益で動く者ではない、そういう人間が居るというのは幸せな事です」
「そうですね、色々本当に助かっています」
そこで時間を知らせる鐘が城内に小さく鳴り、会談は終了と成った「陛下、そろそろ」と促され退室する事となった
「公務がありますのでこれで‥また」
「ええ」
二人交して別れた
案内についたシンシア共歩きながら話した
「私も不安はありますね」
「乱の事か?」
「ええ」
「先程も言った事だが、ここは条件が特殊ではあるからな、それに具体的にどうこうの策は決めにくいだろう、そっちで軍備の事はどうなっているんだ」
「意見は割れていますね、フォレスさんの言う通り、ここは地域全体で同盟しているに等しい環境です、全体を合わせれば3万には届く兵力には成りますのでロベルタの軍力がそれ程必要かという意見もありますね」
「だろうな、が、同盟と言っても其々の国によって見解が異なる、バラバラではあまり意味がないし、分裂する事すらある、状況の変化によって、クルクル裏返るカードを抱えているとも云える」
「ですね‥」
「ここは豊かだし、人口も多い、増強しても財政的に問題は無さそうだがそれも周りがどう見るかという難しい問題だ」
「ご尤もです」
「まあ、北の他地域からは遠いし、西は壁の山と湖、川があるからなぁ、実際攻められる、というのは考えにくいが、大陸情勢の変化でどうなるか判ったものではないな」
「そうですねぇ」
「其の辺りの状況はどうなっている、中央付近の話だが」
「こちらもあまり情報はありませんね、収集してないとも云えますが、ただ、動いてないとも噂はあります、ペンタグラムも動いてませんから」
「実際遠いからなぁ」
「ええ、こればかりは近くに行って見ないとしかとは判りません」
「ま、シンシアらが気にする事でもないさ、役割が違うからな」
「ご尤もであります」
軍部の一つではあるがシンシアらは「近衛」である、首都の警察組織に近いものがあり、実際軍部にそこまで口出しはしないという問題もある
「ところで、フォレス様はどのくらいここに?」
「うーん、そう長くは無いだろうなぁ、まあ、商人隊次第というのもある、俺らは護衛と同行者でもあるからな」
「成る程、それは残念です」
「いい土地、ではあるが、もう少し見て回りたいというのもあるしな」
「そうですか」
「まあ、また戻ってくる事もあるかもしれんさ」
「ええ」
実際問題、今後はアリオローラ次第でもある
その為帰る足でそのまま商人隊に合流して話した
「そうじゃな‥いい環境ではあるが、私もここに落ち着くというのはまだ早い、色々見てみたいしな、その意味ではフォレス殿と同じ見解じゃ」
「判った、では、近いうちに出るか」
「うむ、2,3日だろうか」
「了解」
と決定される、小隊の出立には近衛の連中も見送りに、シンシアとクロスとも握手を交した
「また、来てください」
「お世話になりました」
ロベルタから一旦南西へ、そこから大河に出てそれに沿って南東へ、この地方は山に囲まれ南にそのまま進むことは出来ない為、反時計周りで山を避けて移動する必要がある
ここからは街道も明確なモノで無くなってくる、所謂地元民が使う為に整備された、普通の道だ、木や雑草を軽く取り除き、その上を通って往復するうちに「道」となった様な物で、石畳の街道とは異なる
あまり人の手が入っておらず、地図に記された物、所謂、街やら国やらも明確には記されていない、早い話未開の地である
とは云え、交流の類はある
川と山に沿ってそのまま4,5日進むと地方民族の国がある、国と言っても部族に等しく、中央からかなり遠い為情報が殆ど無い、一応「狼の部族」というらしい、そして地形条件である
「なんか急に熱くなってきたな‥」
「うむ、山岳が多く、更に東に直進すると砂漠等に出る、その山と荒地の間に国があるらしい」
「らしい、か」
「情報があまり無いからの」
そして丘道を抜け3日程で目的地に到着する
山、丘、川、森も少しある、そこから東を見ると遠くに岩地、おそらくその向こうに荒野だろう、その丁度中間点に「ラッセル」という都市がある
今で言う中東に近い環境だが、それよりは自然もあり不自由な地域という感じはない、気温は高いが南国に近く温暖だろうか、ただ、季節によって結構上下は激しいらしい
「おお‥」
「結構広いな」
そうして商人隊は馬車ごと入国、と言っても審査の類がある訳ではなくふつーに入れる
人が多く、皆薄着だ、建物も石を積んだ物が殆どで頑強、アチコチ露店が出ており、皆適当に飲み食いしながら商売している感じだ
早速、一同は宿を取って入り、情報収集に当たった
「とりあえず、オレは買い物ついでに、だ」
「パパ!私も!」とターニャが背中に飛びついた
「私は疲れたな休ませてもらう」
「ならこっちは護衛任務をしておこう」と
ティアはそのまま宿にエミリアは商人隊に合流して一応仕事にとなった
例によってターニャを肩車しながら街を回る、正直広さが尋常でない、というのも、集落、村、町、国が一つになっている場所である、そして街の外は石と砂に雑草だ、纏まっている方が楽なのだ
故に、店の類も多く、施設も大抵ある、離れている、のは山岳鉱山くらいだろう、何しろ回りに山と丘が多いそして遺跡の類もある
「やはり鉱石や天然物が多いな」
「パパ!あれなに?」
と露店の物を指してターニャが聞いた
「ああ、あれはべっ甲だな、それと琥珀の類だな」
「何で中に虫とかはいってるの?」
「樹液の類の結晶だ、其の中に虫なんかが封じ込まれている、虫が入っている方が価値が高い」
「へー」
「どれ、一つ貰おう」
「まいどあり!」
そしてまた遠くを指して聞いた
「パパ!あっち大きい家あるよ!」
「家じゃないな」
そこで露店のおっさんが説明した
「家、には違い無い、ここの国の領主、まあ、王様でもあるが、カハルレストの宮殿さ」
「つまり個人邸宅の類なのか?」
「そうだ、まあ、統制してるので「王」には違い無い」
「ほう‥」
「軍も一応保持している、カハルさんの個人部隊に近いがな」
「それでこの状況、という事は優秀な人の様だな」
「よくお分かりで、個人軍だが治安維持兼警察隊、他国からの介入あれば戦いもする」
「だろうな」
そう聞いて納得したのは当然だ、軍を個人で保持し、街は栄えて、潤っているし、皆明るい、となれば、武力に寄る押えでなくそれを強引に行使もしないのだろう「人の心理」を読めねばこの様な状況は作り上げられない
「しかし、他国からの、というのは?周囲に敵の類があるのか?」
「ああ、この辺りは色んな部族が近隣に居るねぇ、まあ、殆ど不可侵だが、南から来る連中は稀に出てきて荒らしたりする」
「ほう」
「つっても数は多くない、山賊に近いし、結構遠くから出てくる」
「よーわからん連中だなぁ」
「一応、「エアリー」という連中だ。強い事は強い、騎馬を扱わせたら一番だ」
「まあ、これだけ潤ってると強奪しよう、て奴も居るんだろうなぁ」
「そうだな、ま、カハルさんが居る限り滅多な事にはならんだろうが」
「結構な事だ」
そのままついでにカハルとやらの個人宅、宮殿に行ってみる、衛兵の類も居なければ、出入り制限すらない
そして中央にある人工湖が観光スポットか公園と化し住人らが居て宴会などやっている
「自由すぎだろ」
宮殿にも行って見るが、そこの入り口にはさすがに見張りは居る、ただ、警備員に等しく、基本的に住民なんかは入っているようだ、そこでフォレスも話しかけて入ってみる
「ここは解放しているのか?」
「ええ、一階の広間、ホールまでは、一種の美術館の様に成っています」
「オレは他所から来た旅人だが問題ないのか?」
「ええ、観光スポットになってますよ?」
という事だった
実際一階ホールの周りには美術品の類が並べてある、皆回りながら見ている、手を触れる事は出来ず、柵の類はしてあるが、それ以外は自由だ
監視員も数人居るだけだ、ただ、美術品なのだが、珍品が多い
「なにこれー?ヘンなのー」とターニャが云って笑った事でも判る
「これは大昔に使った剣だなぁ、円月刀ていう刀だ」
「これはー?」
「儀式なんかに使った香炉だな」
「あれは?」
「大昔に一部、お祭りに使った象徴だな‥エロイ事にもつかったry」
とターニャが面白がって聞く為、フォレスが一つ一つ教えて回る事態になった、フォレスがあまりに詳しい為、他の見学者も集まって付いてくるため、一種ガイドの役割を果した
「あれは?」
「普通の絵画だな、が、今の様に絵具が無い時代のモンだ、見た目は普通の絵画だが絵の具の類は使ってない、殆ど点絵に等しい」
「どゆこと?」
「んー近づいて見てみろ」
「!」
「紙や板に穴を開けたり石や砂を組み合わせて、遠くから見ると絵に見える、という代物だ」
「お~すごい!」
そして他の見学客も後ろで「お~」と言った
それが一通り終って一同解散、んじゃ帰るかと、フォレスも思った所で声を掛けられた「随分詳しいね兄さん」と
出入り口で声を掛けてきたのは背の高い女性
褐色で露出多い衣装で男性ぽい女性だった
思わずターニャも「おおきい、パパと同じくらい」と言った、フォレスもデカイのだが彼女はそれと同じくらいの背丈、そしてガタイもいい
「アタシはカルディア=シディロワ=カハル」
「なに?‥お前が王、なのか?」
ニヘと笑って彼女もそうだと無言で返した
「それにカルディアだと?」
「ほう、意味を知ってるのか?」
「古代言語だな、鉄、心、騎馬」
「さっきの解説といい、とんだ知識の持ち主だなぁ」
「一応魔術士なんでね」
「マジデ?」
「ああ」
そこまで聞いてカルディアも大笑いした
「どう見ても剣士か闘士にしか見えんぞ?」
「お前こそ王に見えんぞ」
「違い無い」
バンバンフォレスの背中を叩いた、そしてどうやらフォレスは気に入られた様だ、そのまま奥に招かれて茶をお呼ばれした
「しかし魔術士を見るのも珍しい」
「まあ、こんな所に来ないだろう普通」
「そりゃそうだな、んで、あんたは何で?」
まあいいか、とフォレスはこれまでの事情と大まかないきさつを話した、それ自体彼女には興味の対象だったらしい
「定住地、ねぇ‥そんなもんあるんかね?、まあ、ここも割りと争いは少ないが」
「部族間抗争はあるのだろ?」
「あるちゃあるがどこも大規模じゃないねぇ、ここだけ人口が多いし」
「なんか情報持ってないか?正直この辺りから南もだが、殆ど中央地に情報が無い」
「んー、広すぎるからなぁ、この世界、アタシもそんなに広範囲は知らないしな」
「ここの生まれ、育ちか」
「そうだ、残念ながらあまり遠出もした事ないね。強いて言えばだが、東ならだーれもいないけどね」
「天魔戦争の地だからな住む馬鹿は居ないだろう」
「後は、ここから南西方面二つ先辺りは大陸地図にも載ってないよ、別世界、て事になるのかな一応、陸続きだからいけるだろうけど、まあ、そこでも戦争してないかどうかは謎だが」
「行った事が?」
「いや、あっちから流れて来た人間がいくらか居る、又聞きだな」
「ふむ、それは盲点だったな‥、たしかに移住者もそれなりに居るだろうし‥」
「つっても数は少ないな、期間もバラバラだ、「今現在の外世界」がどうなのかは結局行かないと判らないだろうね」
「そうだな、基本的に地図に沿っての移動だ、どうせ商人隊と同行だし、無理して知らんところに行く理由もないか」
「折角立ち寄ったんだ、ゆっくりしてきな」
「ああ、そうさせてもらおう」
「泊まってくか?、正直暇だしね、家もデカ過ぎる」
「ほう、それは有り難いな、仲間もいいか?」
「おう、いいぞ」
不思議と気が合い、そうした流れになる
正直フォレスもカルディアもこういう全く気を使わない相手が楽だったというのもある
そういった経緯でカハル宮殿に集まった一行はそのまま滞在する事になった
「さてここからだが、南に行っても「世界」から外れる事になるが」
「このまま南行ってもこれと言って何かある訳でもない、と云うことか」
一同夕食の場でフォレスとローラの言である
「判らぬ所に行っても迷うからな」
「個人的なオレの興味で云えば行っても良いんだが不確定な要素で旅は宜しくないな」
「カハルさんはその辺りの情報はあるんですよね?」
「いや、単なる噂レベルだな、確認する意味もないし、このまま大河を渡って西に行った方が安全と云えば安全だが、まあ、安全の意味も違うが」
「というと?」
「西も暫く行くとまた軍事国家が多くなるしなぁ‥小競り合いの類に巻き込まれるとも云える、ほんで国も多いし、道があるのと地図があるので移動に困りはしないだろうが」
「なるほど」
「道を求めて、争いの地に行くのか、不確定だが南に出てみるのか?だな、どっちが良いとも悪いとも云えんね」
「ローラはどうする?実質商人隊次第という事になるが」
「そうじゃな、やはり中央からあまり逸脱するのも問題ではあるな、ウチとしてはとりえず西へ行って情報があれば南を見ても良かろう」
「わかった、それで問題ない」
そこから5日程の滞在を行った、商人隊としては商売的には悪くない土地だった、何しろ皆豊かであるし、珍しい物が多い、反面、どちらかと云えば実質的な物は少ない
鉱石や宝石、装飾品などは多いが他の実り、つまり、食料や衣料品は余裕があるとは云いがたかった、地勢を考えれば当然だが、大河や森もある為、魚や実は取れるのだが平地が少なく雨も余り無い為、穀物が少ない、そしてすぐ隣は荒地や石地である
「割と偏りがあるんだよね」
そう隣地の視察をしていたカルディアも言うしかない
「今の所金はあるんだから、輸入で問題ないのでは?」
「そうなんだが、結局自国生産出来ないと足元見られるしな、そもそも戦となりゃ食い物握られてる事にも成りかねない、国家としてはそれは宜しくない」
「大河があるんだから水を引いて水田でもやってみたらどうだ?」
「水田??」
「大昔にやってた一部稲なんかにやった農業生産だよ、いや、知らんのか」
「魔術士様は時々わからん事を言うからな」
「まあいい、折角だから手法だけ教えよう」
「おう、ありがたい」
カハルでの生活も特にトラブルらしい物も無く、安定した流れだったその為一行も「そろそろ動こうか」と思っていた
そんなある日
午前10時ごろ宮殿に兵士が駆け込んでくる
「落盤事故だと?!」
「ハ!北東採掘場で事故発生です!ですが‥」
「何だ??」
「そ、それが魔物の類が‥」
「な!?魔物だと!?」
「詳細は判りません、事故と平行して地下から沸いて出たとか‥」
「ぬうう、兎に角兵を集めろ!工夫もだ!」
「ハハ!」
と散会してそれぞれの準備に取り掛かるが、聞いていたフォレスらも思い当たるフシがある、先の「ロベルタ」での霊騒ぎだ、その為即応して動こうとしていたカルディアを止めた
「まて、カルディア、先ずは内容が判ってからだ」
「む?しかし緊急事態ではある」
「オレらはロベルタでも同じ様な、規模は小さいが事例に合ったばかりだ、色々おかし過ぎる」
「どういう意味だ?」
「おそらく、何かを掘り当てたに違い無い、地下から魔物が湧き出る等現代ではありえんだろ」
「むう、確かにそうだが、今は兎に角、救出が優先、怪我人も出ているハズだ」
「其の判断は正しい、ならオレも同行させてもらう」
「いいのか?」
「ああ、それにおそらく人間に対処出来るもので無い可能性もある」
「判った、街の東口へ、アタシは兵を組織して準備する」
そこでローラも自分の商人隊を動かす
「ふむ、なら輸送隊を勤めよう、ウチの馬車隊ならかなりの人と物を積める」
「頼めるか?」
「うむ、一宿一飯の恩義というやつじゃな、協力させてもらう」
「すまぬ!」
そうして一行は緊急事態とあって先に街から採掘場へ、最速で出立する
北東の山岳麓の採掘場に辿り着いたのは昼近く、既にそこには多くの人が手前の集落での救出作業と手当てにあたっていた
街から人が出ている訳でなく、工夫の村という形で滞在しながら其々作業に従事している
その為、どのような事態になってもある程度対応は出来るのだが、今回に限っては事情が違う、余りに死傷者が多く、滞在医師程度ではどうしょうもない、既に野戦病院の状態だ
フォレスは即座に乗り込み、医師と相談しつつ、負傷の重い者から治癒術を掛ける、が、14人治癒を掛けた所で彼自身も行動不能に陥る
「あかん、これは多すぎる‥」
無論肩代りの石も使ったが、負傷が重い程魔力を使う、故にそうなる、特にフォレスは魔力許容量が多いという訳では無い
「うーむ困ったな、ココにはワシと看護師の二人なんじゃが」
滞在する医師もお手上げに等しい、反面怪我人が200近く居る
「薬の類は馬車隊である程度は持ってきたんじゃが」
「と、とりあえずボス!動かせる人はこちらで運びましょう!、街のが手当ては出来るかと‥」
「そうじゃな、よし、馬車を分離して交互に運べ!」
「おう!」
商人隊も分散して対応に当たる、その一時間後には本国からカルディアの軍1000が到着、即、坑道の周囲の二次災害の防止で支柱等を外から運んで補強しつつ、内部負傷者の救出である
「所で魔物というのは?」
「それが‥霊の類で、戦うとか止めるというレベルでは‥」
「どこだ?」
「一番奥です、ですが、それ以外にもガスの様な物が‥」
「なに?!」
「毒気の様な物に充てられて失神する者が多数出て、救出どころでは」
これはと流石のカルディアも迷った
落盤が止まっても奥に「何か」が居てしかも霊と言う
「カルディア」
「なんだ?フォレス殿」
「おそらく先の事例からして、闇世界の者だ、魔法か特殊武器が無いと止めるのは無理だ」
「だが、どうする‥」
「コッチはオレと魔法で対処出来る者が3人居る、ある程度行って可能な限り救出したら、離れた方がいい」
「それしかないか‥」
「兎に角相手を確認しないと対処の方法も判らん」
「判った」
カルディアは振りかえって告知した後、自身と護衛兵5人でフォレスに、残りの者は、入り口から奥までの間の坑道の補修、被害者が居れば救出、集落からの移送
手当てなどの割り当て、その即座に整え、フォレスの元に来た、そしてフォレスはティアとターニャを選ぶ
「このメンツで大丈夫か?」
「ああ、だがターニャはそちらで守ってくれ、もしもの場合真っ先に逃がす」
「情報からすると二次落盤の可能性は低いそうだ、とりあえず奥には進める、補修と補強をやりながら前進する」
「判ったいくぞ」
と最小限の事だけ交換して坑道内に侵入した
入り口はかなり広い、上下3メートル左右10メートルちかい穴、既に事故からの6時間で周囲補強は略済んでいる
そこから8人でフォレスを前に移動 その先行隊から更に7,8メートル離れて、10人分けの小部隊が救出、補強を兎に角行う
「ティアは護衛を頼む、相手によるが調査が必要かもしれん、それと魔法で頼む、スピリット系なら物理は厳しい」
「判った、風くらいしか使えんが」
「この現状なら問題ないターニャが居るしな」
「ターニャ」
「はい」
「敵はスピリット系云々に関わらず、魔物が出たら「英霊の魂」を呼べ、それは「聖」武器を使える、相手が何であろうと戦えるし、基本無敵に近い」
「う、うん、出しておく?」
「そうだな、ティアの前に、操るのは簡単だ、ターニャの意思で動く「思え」ばいい」
「う、うん」
ターニャはその場に一旦止まって全員前進を停止、初召喚してみる、剣を抜いて前に軽く構える
「英霊の魂よ」と言ってみる
すると彼女が構えた手から彼女の代わりに剣を持つように手が透明なまま出てきて、剣が適度な高さまで上がる。握った手から透明だった魂が発光しながら物質化して剣闘士の姿を作り出す
「おおおお?!」と出したターニャも驚いた
それは後ろに居たカルディア達もだった
「な?!なんだこれ?」
「ロベルタであった同じ様な事例の結果」
「召喚か‥」
「が、こいつは「聖」だ、基本ターニャの言うことに服従だ安心しろ」
「こりゃ頼もしい‥」
そして英霊の魂を先頭に進む
「距離は?」
「後150くらいだ」
とは云え、かなりくねった道で先がわからない、そのうち先に情報のあった「ガス」の様な靄が見えてくる、その奥に人がまばらに倒れている
「止まれ!」とフォレスは云って、直ぐに眼鏡を掛ける
「な、なにこれ‥緑の霧?」
「むう、これは瘴気だな、精神にダメージを与える、それほど強烈じゃない、吸い続けなければ、ぶったおれはしない」
云いながらフォレスは空間浄化を掛ける
するとパッと周囲の霧が晴れる
「救出するのはこれで全部か、カルディア」
「おう!今のうちだ、倒れて居る連中の回収!」
そして後ろから小部隊があつまり残りの人間を抱えて入り口に戻る
「落盤を受けた連中は無理だろう、が、一応敵を確認したい、進むぞオレらだけでいい」
「いや、そういう訳にはいかん、アタシも行く」
「王にもしもの事があると困るんだが‥」
「なら進むの自体許可しないぞ」
「全く‥しゃーねーな」
とそのまま進んだ、ここで行き止まり、広い空間に出るがあちこちに岩の落下があり既に収まっている様だ
が、ここの負傷者は4,5人、でそれはもう死んでいる、岩に潰されたであろう遺体が確認出来る、そしてその一番奥に下穴が見える
「あそこか、多分どっかの遺跡かなんかを掘り当てちまったんだろう」
フォレスは魔法石を一つ取り出し握って魔力を込める、それを穴の方に投げつけた、それは落ちずに宙を舞い下穴にフラフラと入っていく
「何の魔法だ?」
「遠隔の目だな、アレに映る物がオレにも見える」
「で?」
「下はまた部屋に成ってるな、やはり何か古代遺跡を掘り当てたらしい、いや、崩れて繋がったというべきか、中は‥石室、綺麗に整備されたものだ、10メートル四方の部屋、殺風景で大したモンはねぇな、いや‥」
「?」
「まじいな、これは、多分だが封印部屋だ、台座の様な物に小物が納められている、周囲にも結界石が見える、それも崩れた際、ぶっ壊れた」
「どうするんだ?」
「あの小物が多分召喚器かなんかだろ‥、呪いの逸品か‥近くにいかねーと、調べるのも無理だな」
「行ってみるか?」
「そうだな‥4人だし、いざとなったら飛べばいいか」
縦穴は結構大きく2メートルは垂直に抜けている、その為入るのに苦労はしない、出るのも飛行すればいいだろう、と思った
その為3人を上に残し、フォレスだけ下に下りて探査開始となった、が、その途端「上」から声が挙がった
「な、なんだ?!」
振り返って見ると上の3人の周りに何かが飛び交う透明の黒い風
「ナイトシェイドか!?」
咄嗟にフォレスは下から上の3人に空気の盾を張って防ぐ、それは有効らしく、飛び回る影は壁に弾かれ拡散する
同時にその飛び回る影を「ソウルオブリメンバー」の剣闘士が手当たり次第に叩き伏せる、自動迎撃というやつだ、主に危険を及ぼす奴を自動で倒すらしい
「おおお!?」
「つよ!」
ティアもターニャも云うしかない、あっという間に10匹からの闇を切り倒して直立に戻った「はぁ~」と一行もため息をついて落ち着いた
更に3分後、フォレスは調査を見切って台座のおそらく腕輪だろう、リングを取って上に戻った、そのまま床に置いて離れる
「判ったのか?」
「ああ、こりゃいらねーな、ぶっ壊した方がいい」
「なんなんだ?」
「エミリアの付けてるモンと同じだよ、人間が作ったもんだな‥一定間隔で闇召喚をランダムに起こすやつだ」
「じゃあ今のも?」
「そうだ‥すげー不安定でハタ迷惑なブツだな、多分こっちの物質だから壊せば壊れる」
「というか処理しておいて欲しいものだな‥製作者は‥」
「いや、エンチャンターの石はヘタに破壊すると暴発しかねないし、それなりの破壊道具じゃないと、壊せない、作ったは良いが、処遇に困って封印したんだろう‥腕が未熟か知識が薄いままやってみた、そういう事だろうな‥」
「で?どうする?」
「ああ、ターニャ」
「?」
「英霊の剣でコイツを破壊してくれ、宝玉をな」
「う、うん」
「聖剣なら魔力自体拡散させて壊せるから、それでいいはず」
「ハズ?!」
結局そのまま聖剣でリングを破壊、事なきを得た
「それと、調査も要るだろう、おそらく別部屋かなんかある、術士か、製作者か、もう居れば死んでるだろうが、あるいは放置してどこかに移ったか」
「ここの遺跡自体棲家、て事だな、判った、別の入り口の類があるかもしれんしな」
「そうだ、後補強が終ったらオレも同行する、何があるか判ったもんじゃないし」
「そうだなぁ頼む」
そこから丸一日掛けて坑道の補強と負傷者の手当て、更に翌日には調査隊を組織して坑道の奥の縦穴から侵入捜査が行われた
棲家、と言ったとおりそれほど広いものでもなく、山の反対側に偽装した入り口等も発見される
そこを偶々発見して裏からつながり、落盤から封印部屋を破壊してこの様な事態に至ったらしい
ただ、「何があるかわかったもんじゃないし」と言った通り、術士であろう人物の作った物が大量にあった、幸いにして危険な物は略無く、どちらかと云えばゴミに等しいものばかりだったが
そして最初に下りた部屋から二つ先の部屋に個人邸宅の様な部屋があり、そこに遺骸も存在した
かなり昔、少なくとも30年は経っていると判明して一応埋葬される
「どうやら、半端にエンチャンター技術を習得して独学で実験しながら勉強をしていたようだな」
「使えるもんはあるのか?」
「ないな‥、道具も古いし、まあ、魔法原石や触媒は結構あるな、今回の報酬で貰っていいか?」
「ああ、アタシらが貰ってもしょうがないし」
「しかし、なんで闇をエンチャントするかなぁ‥」
「込めるのは楽‥だが、闇術自体は人間世界には普及してないんだがな」
「じゃあ、ここの術士はどうして‥?」
「それも研究してたんだろう、だから効果が半端なんだ、ランダム召喚なのもその為だな‥」
「ホント術士、て奴は‥」
「ある意味探求者でもある、そこは責められんな、ちゃんとした「師」に付けば、この術士も幸せだったろうに」
「フォレス殿みたいな?」
「そうかもな」
そして落盤の規模がたいした事が無い割りに被害者の多さは
その「召喚」に寄る物だとも判った
「何呼ぶか判ったもんじゃないし、大物が出る可能性もある逸品だからなぁ‥」
「幸い死人はそれ程出てない」
「大物、て何?」
「デスとか‥だったら村ごと全滅する程のだろうな‥」
「怖!」
「まあ、一応大元は破壊したし、もう無いだろ、少なくともあそこにはもう無い」
「そっか」
そうして大きな細事を片付けた一行は再び旅に出るのである
、件から五日後、川沿いから南西へ
そこで緩やかになった大河に掛かる石の橋に出る、そこから西側、向こう側へ渡った
「向こう側はすぐ草原か」
「ウム、暫く行くとまた混乱の地、じゃろうな」
「小国やら軍事国家やらが多いらしいからな」
「まあ、私らは問題ない、どうせ商人隊じゃし」
「だな」
こうして、別の土地へ入ったのである
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