剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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終幕の攻防編

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皇帝の死、ベルフの敗戦の形で戦争は終結した。8年目の事であり「十年戦争」では無いが大陸全土を巻き込んだ戦争ではあり、特に「十年」の部分の名称は変えられず歴史に残る

「やる事が山積み」とジェイドが言った通り。すべき事が多い、勝った方も、負けた方も

エルメイア、マリアは戦闘を収拾して再編、負傷者の手当てを両軍に告知して行わせた。早ければ助かる者も居る、特に神聖術者も総出で当らせる

一方敗軍の将と成ったベルフ側も皇帝が直接討たれた事で素直に従った、もはや戦う意味も無い

だが一方でこちら側はどの様な処遇があるのかとも心配でもあった

だが、エルメイア、マリアが特に縄を打つ事も無く、動けるベルフ将らに両軍の中間地に陣を張って招いた。と言ってもカリスとアリオスしか残っていないが

「とりあえず「ベルフ」という国は残す」

というマリアの言にカリスが驚いた、当然だ、戦争の元凶である。全員処刑でもおかしくない

「何故‥」
「今回の一件は皇帝の暴走、の側面が多い、更に後継者や領土の問題じゃ」
「と、言うと?」
「地形的に連合側、どこが取っても揉める可能性が高い。それと皇帝の後継者たる、カリス殿、ロゼット殿は世間の評判も極めて良い、残った八将を抑える意味もある」
「そうか‥」

「貴君らの人格、資質はアリオス殿から聞いた、ならば責任を取るなら死ぬのでは無く、この様な事が二度とない様精励せよ」
「生きて責任を取るのが正しいという事か」
「うむ、それとエルメイアが、御主とロゼット殿に共感しておられる、盟主にそう言われては処刑とは言えん」
「しかし、それではそちら側の将兵が納得しまい?」

「故に、貴君らは降伏、和平という事で終わらせる。まあ、死んだ皇帝に罪を被せておけば別に問題ない覇王の象徴、が死んだのじゃ、一定の納得は得られる」
「分かった、従おう」
「兎に角兵力を一部放棄、近隣国に仕掛けられない程度まで開放して普段の生活に戻せ、その後の事はこちらの事だ」

「どちらが新王になるのが望みですか」
「どちらでも良いさ、それはそちらの問題」
「分かった、後継者問題、兵の解放、だな直ぐ行おう」
「まあ、賠償金もそれなりに要るじゃろう、戦争を起こせない程度には削らざる得ない」
「ああ、そうだね」

「ではとりあえず、その様に頼む、後、書面にしてそちらが選んだ新王と会談、署名という事になる。当面はこちらの軍が領土に滞在して統制、監視という形になる」
「ああ、では‥」

とカリスは下がった

「さて、次にアリオス殿だが」
「ええ、私は一定の収まりが着くまで残らせて貰います、ベルフという国が残った、私の親しい人、優秀な人が生きて全うできる事を確認するまでは、その後は処刑してもらっても構いません」
「そういう訳にもいかんがな‥」
「とは言え、私の様な知略、策略に長けた者がベルフに残るとそれだけで連合側には不安でしょう?居ない方がいいんですよ、私は」

「まあいい、直ぐどうこうと言う話でもない、落ち着いてから話そう、当面は貴公の知略も必要じゃ、それまで王子らを支えてやれ」
「有り難き事、色々配慮していただき、感謝に絶えません‥」

後継者の選抜、は別に揉めなかった、カリステアが男子であり皇帝の息子である。実績、人望も十分であり、八将も同意して収まる

とは言え、もう、六将であるし。軍力もかなり放棄されるだろう、形だけ、の事になると思われる

10日後には「和平会談」で調印

ベルフ側は賠償、軍力の大幅な放棄が成される。戦争その物の責任は一連の情報から宣言どおり「死んだ皇帝の独裁・暴走」とされベルフ国民には寛容な対処がされた

兵達にとってはそれも有り難いし民衆も「やっと終わった」という思いである、特に賠償で「徴税」という事もなく

兵も家に帰れる、どうなるかとベルフの一般人も不安だったが、酷い扱いらしきものは一切無かった

更に10日後にはレンフィスでの全国会談が行われる
街の領主の別荘を借り、一同に集まって行われる。街名そのままの「レンフィス平和会談」と記される

ベルフは元々の最初の領地をそのまま維持され、国名も残される。残りの領地、を連合側で分割、ともならなかった

そもそも隣接地で無い所を貰っても困るのである、かと言って戦争中奪取された地域、城も責任者が既に大半死亡している為それが一番の悩みである

その為クルベルを抑えていたエルメイアがそのままスエズ周辺を統治

兎角政治官の多いマリアがロンデル、トレバー、レバンを一時統治し、後、安定すれば、自治区に戻すという案が出される

しかしながら、そこまで偏りがあるのも困る為、戦争で功労が特にあった者で将を務めた者が「国」その物を統治してはどうか?とされ同意される

特に連合の主軍を勤めた各国の王らも、別に領土が欲しくて戦った訳でもなく

単に戦争が終われば良いという思い、攻められて反撃しただけの事である

更に、マリアもエルメイアもシューウォーザーもロランも。別に孤立領地等欲しい等思わず、あまり欲が無いのも困り物でもある

というより、元々豊かな国の王でそこに拘りが薄い、かといって欲深くても新たな乱を生みかねない

そこで、この戦争で活躍した将が統治者、となるのは悪くなかった。皆立派な者だし、皆、実力も人望もあるのでとりあえず案で妥結される

と言っても、新王、新領主、を勤められる者も多い訳では無い

候補として、実績人望からフリット 元々が名家で大宰相の息子でもあるカミュ。剣王として誰からも実力を認められ、人望もあるジェイド

獅子王ロランの妹である モニカ=エドワルド。更に政治、知略面から外せない部分もあり、アレクシア、マリーらも選ばれるが残念ながら、この選抜は殆ど「様々な事情」で立ち消えになる

何しろ、アレクシア、マリーはそもそも恐ろしく長寿な上そもそも人間じゃない。当人らが速攻断る

ずっと一線に居ては困るし目立ちすぎも困る、まあ、既に目立ちすぎだが

そして、カミュとジェイドは別の事情からそれも立ち消えになる、結局、モニカがロンデル~レバンの統治者

フリットも相当嫌がったがクロスランドを任されグレイらと責任者に

ここを、所謂、「どこの領地でもない」中立自治区とし派兵の自由も認める

背後のデルタをマリアが抑える形で落ち着き、トレバーをクリシュナが押さえ、エルメイアがクルベルとスエズをそのまま統治する事になった

更に東地域も3国あり、これも困ったのだが、元々の領主が存命な為そのまま、統治に充てて事なきを得た

それでもベルフ南地域、ルフレイスの城があるが、これにアリオスの勧めでシャーロット=バルテルスを復帰させ任せる事になった

意外と言えばそうだが、彼女も野心が無く、政治も智謀も抜きん出ている事

ベルフに置いては「皇帝の愚で外された元名士」と一般の人にも認知される、元々から敵からも賞賛される程の人であり

更に家も名家、配下も優れて、美女となれば、これ以上の人もそう居ないのである

シャーロットも始め驚いたが、そういう事ならば‥とそれを受けた。彼女自身「乱」が起こる事を嫌っており、ロゼットやカリスの為に出てきた様な物である

ただ、彼女に仕えた、特にジャスリン=ビショップは喜んだ

「シャルルの苦労が報われ、更に王なのである」


ベルフから払われた賠償金の類、所謂「財布を空にする」やりかたの金は協力のあった連合国に分配される、これで一定の形で収まり、戦後処理も一応終わる

その後、ベルフの将だが。

重症を負って療養に当って居たアルベルトはそのまま退役し元の裏世界に戻った。とは言え、退職金と自分の資産があり、体がその後も怪我の影響でやや不自由になった事もあり

隠居に近い形に、いきなり老け込んでしまった為、元の部下らも一般の生活に戻り、アグニも「つまらないな‥」とアルベルトと別れる

ただ、事もあろうにクロスランドに訪れ「あたしを雇わないかいフリット」と言い寄ってきた事でかなり参った事態にはなる

ガレスも高齢から引退してそのまま家に

ロベールは元々メイザース流、槍術の「師」であり、軍には残ったが、どちらかと言えば指導者になってカリスらを支えつつ、残る

ロゼットも普通の「姫」として兄と共にベルフを維持に

エリザベートも元々貴族の娘であるが、辞めてもやる事無い、として軍に残った。

ただ彼女も別段野心家でも無く正統武人、「戦えればいい」という人であり、ベルフの将という立場を外され、大陸重要要所でもあるクロスランドの遊撃軍として充てられフリットの下に

要は「有事の際は出撃して止める」という警察隊のような物である

しかも百人騎馬もそのまま残された為、居るだけでの効果が高いのだ

クロスランドで再会した際
「よ ろ し く な、フリット」と思いっきり肩を組まれ言われる

「何故俺がこんな目に‥」とフリットも二重災難である

尤も、実際に戦争、戦闘がある訳でも無く暇であるし、別にアグニと違って色目を向けられる訳ではないのでそこが救いではある

最終戦の後、エリザベート自体はジェイドにガチ惚れ状態になっており何かと単身で出かけては押しかけるという事にはなった、もちろん百人騎馬らはクリスに押し付けた

「そもそも相手は妻子持ちでしょうに‥」と思ったが

クリスは姉が楽しそうだったので寧ろ微笑ましく見ていた。戦争中は一度も見た事の無い表情である

ただ、姉の思いが達成されるとは夢にも思わず
そうなった時の報告を聞いた時にはクリスも驚いたが


一定の安定とベルフという国が残った事を確認。それがもう失われず、望みどおり、カリスが王と成った事を確認した後、肝心のアリオスは姿を消した

アリオスの「最後の策」と「交換条件」はこうである

ベルフ側に防衛焦土作戦を取らせる為に誘導し、皇帝に呑ませ、間にある地域から兵と物資を引き上げさせ、連合側に無被害で奪取させる

本国に戦力を結集し、連合側も本国まで来させる、直接皇帝を取らせ、戦争を最速且つ、最小被害で終わらせる

ベルフという国と名前を残し、後継者に国主に相応しい、カリス、ロゼットを継がせる。自分を除く八将を可能な限り生かし、非道な扱いをさせない

その後は自分は死ぬか消えるかする。卑怯者、裏切り者の自分が残っても人々の不満や不安は残るからである

これら最後の策を完遂し彼は満足だった

「全て成されました、私が居る理由もありませんし、裏切り者の私が居ても皆の不安を生むだけです」

それだけ残して去った。ただ、彼が救って来て、配下となった、キョウカ、姫百合、八重、「女人隊のメンバー」等はそのまま付いて来た

「皆さんも酔狂ですね‥」
「ここまで来たら、最後までご一緒します」
「どこへいかれますか?」
「んー、そうですね、もう大陸に居場所は無いですね。他所の大陸にでも行って見ますか」
「お供します」と一同はフリトフルから去り

大海原へ旅立った

ところで、ジェイド、カミュが候補から外れる理由だが。それは更に1ヶ月後の事。エルメイアがカミュに告白した事である

最早、エルメイアにとって、欠かせない人物でもあり。戦争も終わり、安定が訪れる、そこでやっと自分の決断と思いを優先したのである

カミュにとっても意外ではあったが二人で居る時間は好ましい物だった、そしてそれが長く続いた事で好意もあった、故にそれを受け、夫婦と成った

周囲の者も「まあ、そうだろうな」と納得だった。常に側に居て、常に守り、友人でもあり、お互い温厚で裏表がない上

美男美女カップルであり、双方名家の者。お似合いという言葉しか無い程である

フラウベルトの夫と妻が分かれて任地で統治等ありえないのとエルメイアが離さなかった事である。それが領主や君主としてカミュが外された理由である

一方のジェイドはマリーと共に銀の国、マリアに呼び出されて応接室の場でマリアにとんでもない申し出をされる

「今日はどのような?」
「うむ、ジェイドを半分くれ!」

といきなり言われて二人共紅茶を吹き出した

「何なんだそれは‥」
「わらわも昔からお前が好きだった!だからじゃ!」
「あの‥もう結婚してますし‥」
「だから半分でいいんじゃ、別れろとは言わん!」

マリアにとってもジェイドは離したく無い相手だった。そもそも、マリアは初見からの恋で更にまともに話してくれる数少ない相手

特に、暗殺未遂事件での一連の出来事は決定的であり、何があっても叶えたいという思いである。無茶を承知でそう言ったのだ それが分かるジェイドもマリーも悩んだが

「まぁ‥‥その思いは分かりますし、このままだとマリア様は一生相手がいなそうですし‥」
「お前な‥そういう訳にいくか‥」
「ならこの国をやる!王になれば何人女を作っても文句は言われん!」
「無茶苦茶言うな、そもそも俺たちには「アレ」があるしな」
「あー‥」
「なんじゃ??」

「しょうがないなぁ‥絶対秘密にしてくれます?それなら話しますけど」
「おう、勿論じゃ」

とそこでマリーが竜である事、そのパートナーになったジェイドはそもそも寿命が延び、年齢劣化が極端に少ない事

表舞台、人々の記憶に長く残るような事は出来ない事。そうなった場合何れこの大陸から出る。或いは、誰の目にも触れない様に生きる事になる、それらを話して聞かせた

「なんと‥、そうじゃったか‥」
「ええ、なので、マリア様の夫というのは」
「分かった、では通い妻になろう、二番でもいいぞ!」
「なんで、決定事項なんだよ‥」
「お前以外誰がわらわと釣り合うのじゃ!お前は銀の国が後継者無しで潰れてもいいのか!」

もはや無茶苦茶の完全な逆ギレである

「で?ジェイドはマリアをどう思ってる?」
「うーん、可愛いとは思うが、妹みたいなもんだしなぁ」
「ならそこはそういうプレイだと思って受け入れろ」

と言われひっくり返るが要は「何があっても諦めない」つもりらしい

「まあ、いいわ‥別に重婚がダメな法律なんか無いし‥」
「そうだっけ?‥というか、なんでお前まで決定してるんだ」
「んー、マリアの気持ちもよく分かるのよねぇ‥あたしもあの時「もう一生会えない相手」だったし結構無茶苦茶な事したし‥可哀想じゃん」
「そう言われて断ると、俺すげー悪者なんだけど」
「まあ、いんじゃない?マリアも絶世の美少女なんだしラッキーじゃん?」

「ハァ‥分かった、そこまで言うなら一緒になってやる」
「オイ、何で嫌々なんじゃ!貴様は世界一の美女が妻では不服なのか!」
「いやー‥そうじゃなくてだな‥」
「調整が難しいんですが‥」

と、言ったとおり、結婚するのは良いが王になるのは難しい、その上、住処が違いすぎる、おおっぴらになっても困る、どっちかが独占するのも困る

「ふむ‥なら、国主はそのままわらわ、式も身内だけ、お前たちはこっちに住むか、ジェイドが定期的に来る、夫だが、銀の国の者としての立場はメルトと大差ない武芸者、それでどうじゃろな」
「出来なくはない、か?」

「んー、まあ、それもいんじゃない?あんまり後の事だけ考えるのもアレだし、そもそもあたしが竜である事がばれなきゃいいんだし、なんかあってどうにも成らなくなったら、名前変えて移住でもすればいいし」
「そうだなぁ‥」
「じゃあ!結婚してくれるのか!」
「あ、ああ、そうだな」
「ひゃっほー」と飛び上がって抱きつくマリア

思いっきり泣き笑いだった

こうしてマリアはジェイドの二番目の妻となるがあくまで本妻はマリー。メルトと銀の国、立場と重要地の関係でどちらかと言えばジェイドは銀の国に居るのが主流となる

ただ、マリアが二番目である事で銀の国の関係者から不満が出るかとも思ったが皆考えている事は同じらしく、むしろ歓迎された

「マリア様」に対等に話し掛けれらて、意見も言える、更に子供扱い、小荷物扱いする男がジェイド以外誰が居るのか?

それだけにマリアを口説こう等と思う男が居るハズも無く権力目的で近寄る男など、一瞬で見抜いて叩き出す程明敏な女性である

「絶対行き遅れる」と心配すらされており

更に、ジェイドは一連の「暗殺未遂事件」での恩人、マリアが伏せっている間の対応、大陸戦争での功労者でもあり、「武」でも大陸最強レベル。半分夫、でも不満らしい不満は出なかった側面がある

寧ろ「マリア様と我々の間に入ってくれると胃痛の種が減る」と政治官、軍官らも期待していた

これらの人物もまず最大国家の重臣であり。類稀な人物達である、その彼らですらびびらせる程の君主である

既にジェイドのあたりの柔らかさや親しみ易さは一同も周知されており、その面で期待された

後の話だが「マリアへの伺い」の前に一同が「ジェイドにまず聞く」というまぬけな事態になったのは言うまでもない

実際彼に先に聞いてからマリアに進言しても、まず、思考面、正しさからジェイドの判断が間違う事は無く

マリアに「なんじゃと?」と睨まれても、ジェイドがフォローするという緩和剤になった為政治官一同からすればジェイドは神の様な存在となる

その上子供も出来れば次も安泰である。どう見てもこの二人から愚君たる後継者が生まれる訳は無いと思われていた

式は希望あって極めて簡素、城内だけで行われた事
ジェイドは半分は城には居ないという事にはなった、グラムも大変喜んだ

「まさかジェイド殿が夫に成ってくれるとは‥あの姫が結婚出来るとは‥生きて花嫁姿を見る事になるとは‥」

本心を言ってガチ泣きしていた、どうやらグラムも絶対行き遅れると思っていたらしい


この一連の事態により、更に困った事が起こる、ジェイドにガチ惚れだったエリザベートが乗り込んできて「二番目がいいなら三番目に!」と成った事である

マリーやマリアらと喧嘩に成ったが、ここまで来るとジェイドも「もう勝手にしてくれ‥」としか言えなかった

けどまあ、何だかんだでエリザも受け入れる事になる
「結局ジェイドって女の押しに弱いよね」三人に同時に言われた

ジェイドの弱点はまさにそれである。裏表の無い感情をぶつけられ、懇願されると断れない事である。まあ、三人共幸せになるならそれでもいいだろう。断って泣かせるよりずっといい。ジェイドはそう思った


名士一同については
北はロランが安定治世で乱れなく、アレクシアは妹との統治国を行ったりきたり、軍もロルトらが主将として抑えてなんら問題無く

ベルニール姉妹も陛下の側に居れれば満足だった、ただ、武芸大会の結果もあって無茶苦茶武芸の訓練には励んだ

エリは斥候隊に生きがいを見出し武芸も習ってそこそこの剣士にもなる、そもそも元々親なしであるし身軽なものだしロランに恩義もあった為である

一方、近衛、軍長のニコライはモニカの統治国に配属され、そのまま軍の統制に付いた

モニカの統治国は二国ある割り、人材が少ないのでロランやアレクシアらも交互に行ったりきたりで政治の安定と人材の選抜を行う

ただ、チカは最早ロベール、皇帝を倒した者であり護衛官ではなくなった。当人の希望あって一軍を与えられ、同じくクロスランドに滞在、中央から事の起こりに備えての自由遊撃軍の将となる

よくロベールの下に行っては技を習っていた

既に武芸者としては腕はチカが上だったかもしれないが、実際対面して槍を交わしたチカには、それ以上にロベールの武芸者としての素晴らしさ。誠実さ、潔さ、優しさ、に憧れと恋心の混ざったような感情があり何かと彼の所に通って交流するというふうになった

チカ自体、あまり積極的ではなく、直接的なアプローチはしなかったが、ロベール自身はそれを何時からか悟り、かなり後の話だが、自然に好敵手から友人、恋人と自然になっていった

ただ、チカはいくつになっても見た目が余り変わらず知らない人が見たら親子か兄と妹にしか見えないカップルになったが、まあ、実際10歳差であるから当然でもあるが

更にクロスランド自治軍は大陸の名士、武芸者が集まっており練習相手、武芸の相手に事欠かずチカは充実した日々を送った

グラムは最早マリアを親の様な立場で見て、マリアの子供を楽しみにしつつ、バレンティアやクルツにも只管結婚相手を紹介するという事が続いた。どうやら、おせっかいじじいの立場になった模様

バレンティア、クルツ自体は銀の国にあって後身の育成等も続けたが意外な事に「行き遅れた」のは二人の方であった

クルツはモテるのだが、しれっと流すタイプであまり本気にならない。バレンティアに至っては同姓ファンが多すぎて男が近寄れない

しかも、銀の国でバレンティアに誰も勝てず、まず男性が向こうから自信喪失して離れるのである

ショットは気楽だったのでやはり連合の遊撃将として観光ついでにあちこち見て回った。意外な事に年少者に好かれて、そこそこ偉い立場になっても

ガキみたいな言動である為、壁を作らず、人が寄ってくる。傭兵団の頃の「年少組み」のような部隊になり名士の類を輩出する事になる

ライナはスエズの軍将に充てられ、司令官としての経験を積む日々、彼女程の「武」のある人もそう居らず、後の事を考えてそのような立場になった

おそらく、ジェイド、チカと比較されるレベルの個人「武」で一武芸者として置くにはあまりに惜しいからだ、カミュを育てた指導力もあり、名声も十分である

思惑通り、ライナは多くの名剣士を育てる事となる。その後、エルメイアは隣接地で無い事もありスエズ統治を譲り、そのままライナが初代「剣の女王」となる

彼女の育て作った軍は「Cut caused whirlwind」カマイタチの軍と後に呼ばれる、少数でありながら先制打撃の強力さと、疾風の如き素早さで並ぶ者の無い強軍となる、実際、後年、エリザの百人騎馬と演習模擬戦があったが百人騎馬がボロ負けするというトンでもない結果を出して一同を驚かせた

イリアはライナと同じくスエズに教師兼武芸指導に、暇があればクロスランドへ行き遠縁のフリットらと交流する日々である

アリオスとも行きたかったが、流石にそれは断られた、そのほうが平和で彼女の幸せになると思ったのだろう、ライナが王と成った後も彼女と共に生き支える事となる

ロックはフラウベルトに戻り南方の遊撃軍指揮官に、その傍ら、求めに応じて戦術、戦略の教師もする事に、これは実際に対峙して「やっかい」と言わしめたシャーロットの推薦である

アンジェもヒルデブラントも相変わらずで、軍、戦略戦術担当官として忙しい日々である。ただ、ヒルデは教師も続けており、その中でアンジェ以来の「天才」を見出し指導に当り、名士として育てるが後の話である

シャーロットの弟子、部下らもそのままシャーロット女王の下に、彼ら、彼女らにとってはコレほど幸せな事も無く君主の万能さや高いカリスマ性もあって。民からの評判も極めて良い名君伝に名前を並べられる程の治世を行った


カリス、ロゼットも二度と戦争などしたくない思いがあり、ベルフ自体は残ったが質の違う、堅守防衛型の軍に作り直し、平和への条約政治等作り上げる事に大きく貢献することになった

また、ロゼットもアリオス、シャーロットの弟子であり、政治、治世に置いて兄に劣らぬ結果を出す。その為後年、空位になった南東地域の一国を与えられ統治者となる

最後まで行方が知れなかったクイックだが。やはり居所が掴めなかった、恐らく彼もアリオスのような道を取ったのかも知れない

罪人島は解放、それぞれ再調査の後囚人は普通の囚人として、冤罪の士は解放となる

既に50勝していたがあのアルバトロスは居座っていたがそれも放免される「つっても、やる事ないんだが‥」と言ったが、じゃあと言う事でライナの下に登用され付けられた

一定の安定、治世が成された頃
連合国会議が開催、大陸連合の解散が宣言される

嘗ての、大陸条約の様な「軍備を戒める条約」も一部案としてだされたがマリアが却下

「事の起こりの際、どこの国も軍力が無いでは第二次大陸戦争の二の舞じゃ、ある程度の軍備を持ち、有事に備え、互い同士の国家が牽制し合う方が何かがあった際の拡大を防げる」

いわば「相互監視」の方針を示して通した、特にクロスランドには将と兵も集め、大陸治安維持軍を置き、どこの国にも派兵できるというシステムを構築しており「乱」などへの対処も出来る現状がある故である

こうして形が整えられ、其々の国家が其々の判断をするという方針になったが

マリアは連合の代わりに「定期的に話合う場は必要じゃ」として、定期会談と「何か」があった場合それに対応、援助する、今で言う国際連合の様な物が作られ結成される

「大陸会議」そのまま「ユニオン」とされここでも
マリア、エルメイア、カリス、ロラン、フリットの五者が選抜され、高い発言権と決定権が与えられる。後、その仕事ぶり、誠実さから

シャーロット、カミュ、ライナ、ロゼット、モニカらも加えられる、また、マリアは

「如何に名士と言えど、本質が「悪」であれば争いと不正、腐敗の会議になる」故、「ユニオン」での人事選抜は「全員での満場一致が必要」とした

マリアは様々な経験、例から能力が「ただ高い」だけでは組織自体が腐ると知っており、そのような制限を厳しく、細かく定め、これの安定に努めた

現代でも、政治組織、官僚組織が大抵、それだけの経歴の物が多い割り、かえって国を損なう事態のが多い事を考えれば当然と言える

平然と嘘をつき、民を苦しめ、自ら欲求のみ追い求める、そうした者のなんと多い事か

その意味でのこの五者はそれだけの行動を生きた証として見せ続け和平への道のりを作ってきた者でありほぼ完璧と言えるだろう

間違いは間違いと主張し、自らに問題があれば自らそれを正す者である、たったそれだけの事すら、出来る者は多くないのだ

それらの会議の後、一定の時間を作ったマリーはアレクシアを招いて、「エンチャント技術」伝授を行った

その後、自分とジェイドの子供にも合わせた。大陸の戦争、二人も駆り出され、その上この子自身人目に触れさせたくない事情があり

「フォルトナ」は例の老竜のおじいさんの所に預けられていた、最北の大陸まで跳び山の地下で面会して挨拶した

ただ、老竜のおじいさんに会ったアレクシアは相当驚いていたがおじいさんも驚いていた

「ここまでデカイ竜とは‥」
「内面資質が善の人魔とは‥」

と呟いた通りの理由である

「もう知るべき事も無い、と思っていたが、生きてると何時も驚きというのはあるんじゃな‥」

思わず老竜はそう言った

フォルトナは見た目はまだ子供だが年齢の割りに大きい、実年齢×3くらいの速度で成長している模様

おじいさんに預けられているだけに珍しい魔法具、昔話、貴重な本等も調べまわって楽しそうだった、自然、知識と魔術もジリジリ習得する事となり

すでにこの時初級魔法を全系統習得するというマリーに劣らず魔法適正を見せる

おじいさんも優秀すぎる弟子、孫のような存在に、楽しくてしかたなく、面白がって伝授しまくってこの様な事態になった

ただ、ここまで何でもホイホイ習得するとは思わず驚きではあった

この際唯一の不安の種だった
「皇帝の魔剣」の調査をおじいさんに手伝って貰ったが

出所等は分かるハズも無く、判明した事は「割と近年作られた物」という所だった、そうなると出土品では無く、また、エンチャンターが別に居ると考えられる

「遊びか、陰謀か‥」
「遊びなら悪質、陰謀なら大陸の乱を狙ってなのかな」
「そうね、献上品にしろ、売り出された物にしろ、これを手にする者が他の国の王ならこうは成らなかった」
「狙って‥というのを疑わざる得ないわね」
「ムカツクわね‥」

「うむ、じゃが対処方法はある」
「それは?」
「サーチの伝授を広めて、鑑定士を増やせばよい」
「なるほど、まず、効果が判れば怪しげな物を「エンチャント武器だから」と取引される事もないわね」

「左様じゃ、それに例の大陸会合でも内面資質をある程度見れるから工作員の様な者を選抜するに役立つ」
「さすがおじいさん」
「まあ、あれじゃ、ただ、過剰にやりすぎても困るが」
「そうねぇ‥何かする前に「お前はダメだ」というのも健全とは言えないわね」
「その辺の調整が難しいわね、一連の人事でも判ったけど、ベルフだからと言ってその重臣も「悪」とは言えない人物ばかりだったし」
「うーん‥」
「あくまで参考、一部の人間だけの注意喚起、じゃろうな」
「そうですね、サーチ自体、伝える人物も選ばないと‥」
「まあ、予防にはなるかな」
「うむ」

「兎に角、陰謀だと考えてこっちは防止、予防手段を考えましょう」
「だね、もう、あんなのはこりごりだし」
「転ばぬ先の杖ってやつじゃな」

マリーが生涯、エンチャント技術の伝授に慎重だった理由がまさにコレである。遊び半分や悪戯、陰謀によってこの様な物が作られては国や人を滅ぼしかねないのである、だからこそ「人を選ぶ」のである

近年作られた物、という事以外分からない以上、それ以上の事も出来なかった。大陸の乱はまだ終わらないのだろうか

それが成されるのかそうでないのかは、一同に掛かっているのだ

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天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

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時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

2回目の人生は異世界で

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増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

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クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

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 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

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チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

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ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

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