剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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終幕の攻防編

自壊する国

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一連の事態を聞いた北軍から、アレクシア=猫が連絡をしてくる「いかが致します?マリア様」と

「将、軍はそのまま送ってくれ、もうベルフ北は一歩も動けん、ついでに色々追加してくれてもいいぞ?」
「ですよね」
「後で資料はそっちにも送る、そっちで不満の出ている地域にもばら撒いてやれ、んでローランス陛下を一度こちらへ、副盟主に北の王も加える」
「なるほど‥分かりました」

要らぬ説明をしなくても意図が通じるのは楽である

北から送る軍をアレクシアは停止、一旦そのまま待機させロランらと護衛官らも加えてから銀の国へ再出立させた

メンバーはロラン、妹、護衛官のベルニール姉妹、もはや北が出て来る事も無く、チカも、剣聖の弟子ら、ゴラート指揮で軍2000である

軍自体、既にワールトール手前に居た為銀の国への到着は十日後、即時王都に迎え、会談と意図を伝える

「始めましてマリア」
「うむ、宜しくロラン殿」
「アレクシア殿から聞いておるかの?」
「ああ、北の不公平感の解消での副盟主の件だね」
「うむ、さっそく署名と告知、発表をお願いする、共同宣誓じゃな」
「了解した」
「とは言え、明日か明後日になるじゃろ、一応公式宣言での場を用意する」
「了解、じゃあ、休ませて貰うよ」

と、両王は握手したが、マリアもロランもお互いをじっと見つめた

「人事の魔術士の慧眼に肖りたいものじゃ」
「僕は君の戦略の魔術を拝見したいよ」

お互い言って尊重しつつ離れた

副盟主2人目にロランを加えるにどういう意味が?というと、まず、一部北の地域や領民からは「何で西や南の為に兵を援助するんだ?自分らで守ればいいじゃないか」という声

これを北の王、を加える事で一体感と部外者ではないという意識付け、副盟主に置いた事でそれなりの権限や発言権はあるのだろうという見せ。兵を出して、領土奪還した所で支配地が増える訳ではない、それを何れ見返りが得られる立場、とする為

もう一つが、先の暗殺未遂事件に対する拡散、不測の事態があって、暗殺で無くても、盟主副盟主が倒れても、連合の維持は保てる

ましてロランは誰に変わっても維持出来る名君である、そして、暗殺対象として二人より三人に拡散したほうがいいのである

後日、大陸連合宣誓によって、北の獅子王の副盟主への就任の発表後、簡単な催し物、パーティー

その10日後には連合国会議の開催が行われる。とは言えエルメイアは今だ動けずであった為代理にアンジェラが、一回目と同じくクリシュナでの開催となる

「さて、メンツもほぼ揃っておるが、今後の戦略について話したい」
「と言ってもここまで来るとそれ程「手」が変わる訳ではありませんな」
「ええ、このまま各個撃破で押せるでしょう」

「うむ、ただ、向こうの兵の数が劇的に減ってる訳では無い、ま、そこで嫌がらせのついでに、レバンかデルタも奪取する」
「策がお有りで?」
「何、ここまで兵も将も士気も上がると、そのままいけるじゃろうというだけじゃ」
「同感です」
「まあ、一応それらしき小技は考えたが」
「拝聴しましょ」

そこでマリアはその小技を説明

「まあ、エルメイア殿待ちでもあるが‥」
「なるほど」と一同も納得する

「他に何かあるかの?」
「南が少し厳しくありますね」
「うむ、ショットに追加兵を送るか、現状なら陸路があるしな」
「クルベルの兵は?」
「はい、今一万を超えています」
「分かった、タイミングは、まあ、一手目が終わってからじゃの、成功前提での動きもまずい、最初の一手自体もまあ、一ヶ月くらい後での開始じゃ」
「了解です」

会議はすんなり終わった、最早力押しでもいける状態だけにそれほどもめる事でもないゆえである

マリアが銀の国に戻ると一種城前がお祭りに成っていた、銀の国の将と北の国の武芸者の間で試合が行われようとしていた
「ほほう、それは面白い」とマリアも容認

チカや剣聖がジェイドを見て一発で「強い」事を見抜き一手ご教授をと求めた事にある

じゃあ、せっかくだから、とバレンティアやグラム、北軍の武芸者やらで練習試合が大人数の展開になった

一種武芸大会の様になったがこの手の娯楽は民衆も喜ばしい事で人が集まるがマリアは「せっかくだから」と数日置いて広く告知、店も自由に商売せよ、とほんとにお祭りになった

ジェイド、チカ、ベルニール姉妹、グラム、バレンティア、ウィグハルト、ソフィア

が出されて、全員が全員「誰々とやってみたい」と、かってな主張をした為、総当り戦を二日かけて行われた

殆ど全員、達人、名人であり「お祭り」でありながらもとんでもない頂上決戦大会になった、ただ、このレベルになると打ち合いも長く隙も無い

ほんの僅かな差の戦いで異常なハイレベルで固唾を呑んで見守る大会になった、ハッキリ言ってみている客のが疲れる、緊張しすぎて実際倒れる者が相次いだ

どうにか終わった時には、やはり群を抜いて強いのはジェイド

以下、グラム、チカ、ウィグハルト、バレンティア、ソフィア、ジュリエッタ、カトリーヌ

という順位になって終えた。ベルニール姉妹はorzの事態だったが正直相手が悪すぎるので気にする程ではないのだが

ただ、マリアも剣聖もえらく喜んだのと、参加した武芸者らも「良い勉強になった」と清清しい顔を見せてお互い称え合った事

自分でも予想外に二位だったグラムは自信を持った「まだまだいけますな!」と馬鹿笑いしたが翌日寝込んだ

50過ぎなんだから自重して欲しい、とクルツもバレンティアも世話しながら思った

「その一ヵ月後」の間にベルフが自壊し始める

致命的なミスがやはり聖女とマリアの暗殺未遂事件からだ、ギリギリの展開から逆転を図る物で、理解は出来る手であるが余りにも味方と敵の立ち位置を理解してない

ベルフにしても「覇者」の戦略だからこその一定の支持だったのだ、アリオスやシャーロットの策を用いていればまだ、逆転は可能であったがそれら進言も中途半端なまま実現し

具申その物も大方無視した、これで「接戦に持ち込め」等ありえないだろう

更に、このミスでの著しい味方将の士気の低下、もはや進言や具申も意味を成さないと成れば、だれもそれすら行わなく成る

もう一つは評判の著しい低下による、志願兵、徴兵が上手く行かなくなった事である

「悪」悪でも別に構わない、だが、姑息な者となればそれの下に着こうとは思わないのである

シャーロットもカリスも「自分の国」でありそれでも奮闘するのだが深刻なのはアリオスだった

過去に言った通り、アリオスはまさに「国士」である それだけに自滅して崩れる国、それを自ら行う皇帝への反発は増大する

ハッキリ言ってもはや何も動かなくなっていた、故に彼は新たな「戦略」を練る事にした。言わば「ベルフ」の後に来る世界まで読んでの「策」で戦略家であるアリオスらしい先読みである

ただ、この時はそこまで考えていなかった、実際にそれを決断したのは更に「その一ヵ月後」のマリアの戦略後、起こった大事件での事である

マリアは丁度一ヵ月後、先に行っていたデルタ、レバンへの派兵を行う、また、嫌がらせ戦法か、とベルフ側も思って対応にデルタ、エリザベート レバン、シャーロットが向かった実際、連合側も兵は両方2000ずつ

デルタ、北軍ロランら
南、キャシーらに任せたので同じ戦法かと思った

実際開戦すると、両戦遠距離武器の打ち合いに終始して三日嫌がらせした後後退したが、やれやれとベルフ側が撤退しようとした所に北

デルタに後詰と思われ、北軍の背後、中立街道に展開していた銀の国の軍、グラムを主将とした一万の兵が北軍の撤退と入れ替わりにデルタへ進軍

虚を突かれたが、エリザベートは軍を返して、反転対処するが数が5倍、一旦足止めするが、どうにも成らずデルタ砦へ篭城する

これに援軍に向かったアルベルト、カリスの軍が同数を揃えて来援し、再び野戦展開して戦端を開くが数は互角で相手はグラム、どうにか防ぎ止めて接戦になる

が、本隊は南、スエズ西のレバン、キャシーらは撤退から反転して進軍、こちらも後詰に街道に置いた、銀の国の軍がマリア直接指揮の下レバンに進軍、数はこちらも一万で更に、
ロンデルからもニコライ、ハンナの軍が出て合流、総兵力1万5千である

止む無くシャーロットも出るがレバンと合わせて7千 数で二倍差である

地形的にも平地、城、背後に湖であり、数で負けると途端に厳しく、なんらかの策を持って当るのも不可能、しかも相手はマリアである

「捨てる‥しか、ないか‥」

シャーロットもそれしか言えなかった、一旦当ったがマリアは数で勝っているからと言って力押しせず、遠距離武装、キャシーらの騎馬隊投石等縦列に交互に誣いて只管火力と距離を活かしシャーロットに「戦術の発揮為所」すら与えなかった

一旦突撃し、前を崩して縦列陣を崩そうともしたが、キャシーの騎馬隊と重装備兵と押し立てられ失敗

そのまま前線にどうにか噛み付いて個人武を活かそうともしたがゴールド親子をぶつけられ膠着

その硬直の楔を付けられた所を中段、左右から遠距離を当てられ、味方が崩れた為後退、一旦下がって再編するが

ここで、どうにもならず、城兵と合わせて撤退指示をだしてレバンを譲る決断をした

デルタで味方も足止め
援軍の来手が無い、篭城という選択も不可能であった

そもそもスエズも空には出来ない上、残っているのはロゼットである、粘りに粘って三日が限度であった


どうにか、それでも、マリア軍の追撃戦、弓での背中削りを向こうが前に進むタイミングと換装の僅かな隙を拾い、反撃して一撃を当て、手痛い一撃を返し一矢報いて、敵前線を崩し混乱させ

その隙に反転離脱して被害も防いだ、そこが彼女に出来る最大の反撃だった。被害自体シャーロットの軍のが向こうより5百ほど多かった

即座、スエズに戻ったシャーロットは北、デルタに援軍に向かうがここは連合側がレバンを奪取、占領した事によりグラムが撤退して終えた為そのまま一同も引いた

既に、最初の戦略から嫌がらせ、削りの連続、多方面からの交互侵攻作戦で全体兵力も逆転し広がり、プレッシャーから皇帝もミスを誘発し連合側を利する出来事の連続

「圧力をかけて削り、相手のミスを更に誘発する」という連合戦略会議の思惑に完全に嵌った

マリアらもそこまで上手く行くとは思って居なかったが「流れ」がもう連合側に来てしまっていた

そして「起こった大事件」とはこの敗戦とレバンを失った事である。クルベル、トレバー、ロンデル、レバンと失い皇帝も不愉快であった、そして事もあろうにその責任を取らせて前線を任せたシャーロットを外したのである

元々、新将である事、実績の薄い事、信頼度が低い事、西の実質的司令官であったにも関わらず、立て続けに領土を奪われ守れなかった事

そもそも、その割に独断が目立ち、意見だけは多い、これで外したのである

西司令官はロゼットではあるが、別段戦争に出ている訳ではなく、その下で前線司令を担当したシャーロットを云わば「スケープゴート」にしただけである

皇帝自身もうんざりであったのである
辛うじて、八将の立場は維持されたが

「お前はもういい、家に帰って謹慎していろ」と告知されたのである

これには、他の将も、彼女の配下も唖然である

「正気か‥シャーロット無しで西は維持すら出来なくなるぞ‥」
「兵はどうなる」
「一応、ロゼットにそのまま移譲、だ、そうだけど」

流石にエリザ、アルベルト、カリスも失望した、だが、最も腹立たしいのは常に隣で戦い困難な状況から何とか支え、逆転を狙っていたシャーロットの苦闘を常に見ていた弟子で部下のジャスリンである

「ふざけるな!シャルルの判断は一つも間違っていないぞ!!」と怒鳴って

スエズ軍会議でテーブルの上の物を払い飛ばした

「分かって居ます、が、これが「国」でもあります」

シャーロットはそう言ってジャスリンを制して押さえた

「兎角私は戻ります、貴女は武人としての責務を全うなさい、それは何れ貴女を立てる事になります」
「私でも分かる!ここから反撃等ありえん!!どう立てるというのだ!」
「だからと言って、この決定は覆りません、我々は「軍人」なのです、だから貴女は戦いなさい、それは必ず誰かが見ている、せめて「次」に活かしなさい」
「ぐ‥次など‥私は、私はシャルルと共に戦えれば良かった‥」
「分かっているわ、それでも進みなさい、貴女は若い」
「なんて‥なんて厳しい先生だ‥」

泣き出すジャスリンをシャーロットは抱きかかえて落ち着かせた、10分は泣いていただろうか、それが落ち着いた後、何度も言い聞かせて、彼女を留まらせた

当日夕方には準備を整えてシャーロットは、家の者、ローザを伴ってスエズを出た

ジャスリン以上にこの決定が腹立たしかったのはアリオスである最早一言も無かった

配下の者も声を掛けられず、近づく事すら出来ない空気を放っていた、普段が温厚だけに怒ると途轍もなく恐ろしい

(最早これまでか‥)そう心で呟いて自室の部屋に篭った勿論、ただ引き篭もった訳ではない

半日の思考と準備の後、部屋を出て、補佐の者を呼び指示、その後自らもロベールの下へ行き会談

その場で、自分の軍を置いていく事、ロベールに指揮を移譲する事を伝える、普通の将なら怒るだろうがロベールは黙って頷いた

「どうするつもりだ?‥離脱でもするのか?」
「もう、北は動きません、シャーロットさんが外されたなら私が中央へ行きます」
「お前も外されるぞ?」
「構いません、もはや、そんな事を恐れて行動しないのは、国の崩壊を見過ごす事です」
「分かった、ここは任せろ‥」

と、だけ言って以降何も言わなかった

ロベールもアリオスの「質」を知っていた事もある、意図は分からないが、それは結果マイナスになるような事はしまいとも思っての事である

だが、皇帝の意に逆らうのであれば、何れ外される事は当然だ、そもそも自分らは軍将であり、命令を無視するのであれば「軍」としての統制も何もあったものではない

しかし、ロベールも今の状態がまともとは思えず「アリオスが勝手にやるというなら」というのもあった「本質的に‥熱い奴なんだよな‥」と言って黙認する

とは言え、アリオスの個人行動はタイミング的に遅いとも居える、中央に戻るだけでも一ヶ月は掛かる

その為、軍そのものはロベールに任せ、周囲の補佐官や「女人隊」一部騎馬や輸送だけで中央街道を戻った

幸運だったのは、連合側がエルメイアの復帰を待った為「時間」の余裕が出来た事である

アリオスは中央街道を南進しつつ、先に戻って離脱させた、キョウカ、イリア、姫百合にも指示を出しつつ到着と同時に行動できるように計らった

その為、姫百合は一時、西から離れ、中央付近に戻る。元々アリオスの軍であるし、預けられたシャーロットも外され宙に浮いていた

一同はクロスランドとベルフ本土の中間にある巨大な街、レンフィスに移動して次を待った

アリオスの手持ち軍は800だったか、少ないだけに移動は早い、かなりの強行軍でもあり大幅に移動期間を短縮して二週で中央に辿り着く

ほぼ近い人間以外誰にも言わず、通知もせず行っていた為、知る者は部下とロベールだけであるがロベールも一切言わず黙殺した

一方でそれらを逆に知ったのは「特別な潜入」が可能であるアレクシアである、そこから情報を受けたマリアは考え込んだ

「まさか、アリオスが単独で行動とは‥一体なにを考えている」
「追い込みすぎた、とも言えますね、シャーロットを外した事でアリオスもかなり怒った様子、というか、彼には戦略の立て続けのミスが許せないようですね」
「まあ、気持ちは分かる、そもそも戦略でボロ負けしたら如何な知将と言えど、いや、むしろ知将で有る程、腹が立つじゃろう」
「同感です」

「しかし、そこまでやると、シャーロットと同じ目に合うぞ」
「承知の上の様で‥」
「ふむ‥これは寧ろ動かん方がいいのかのう‥」
「一理あります、私もどちらでも良いと思います」
「が、アリオス程の者と成れば、何か考えあっての事じゃろう」
「ええ、様子見、したほうが良いかも共思います」
「そうじゃな‥うーむ、悩む‥」

悩む、のは当然でもある、当初の方針「向こうのミスと瓦解」が今、目の前で起こっている、同時に、アリオスが自由にしているという事は何らかの策の可能性もある、その準備に精励する機会を与えず、逆に速攻を掛けてもいい

「とりあえず、まだ、デルタがある事じゃし、突いておくか‥それに、削り作戦にはなる」
「特に反対はありません」

と、アレクシア=猫も同意した為、西で残っているデルタ砦への消極的侵攻は続ける方針を見せた

実際デルタには嫌がらせ攻撃を連続で行った、前で敵と近接で防御線を張る軍を四千、後ろから攻城投石を行う軍1千と完全分業二段構えで、それを二グループで敢行

1のグループが攻め、一通り打ちつくして終えた後下がり
2のグループが交代で前に出て同じ事を繰り返すという

所謂、タッグマッチのような攻城戦を間断なく、一月も続けた

無論ベルフ側も出撃してそれを制しようと試みるが前を担当する軍に、1にグラム2にマリアと、軍としても付け入る隙が無く、無意味に打ち合って

疲弊するだけになる、シャーロットが前線から居なくなった事により「叩く手へ噛み付き返す」事すら出来なくなっていた

それらのグループ攻めの1と2が終わった後、今度は更に1に北軍2に南西軍と混成で更に続けられ総当り交換戦法が継続され更に一ヶ月嫌がらせを行われる

デルタ防衛を行ったアルベルト、エリザベートらも後期にはやられるままになっていた

肝心のアリオスは中央に戻った後、何か仕掛ける、という事も無くこのデルタ戦を傍観、自軍と姫百合の軍を合わせて三千軍に再編。自分の近しい部下だけ集めて密室会談の後其々手元から離した

一方で皇帝はアリオスの行動を中央街道から戻った時点で知ったが放置してそのままであった

イチイチまた、面倒な事を言われても敵わん、というだけの事である

ここで、エルメイアも復帰して、まず、マリアに頭を下げた

「申し訳ありません、どうにか区切りをつけました‥」と鏡の間で報告
「何、構わんよ」そうマリアも返したが、あまり大丈夫、とも見えなかった

その会談ですら、アンジェやカミュらを側に置いての事である、ただ、以前とは面持ちが違う「区切り」とは、どの区切りなのか図りかねた

「一連の情報は聞いております、南は何をするべきでしょう」「ふむ、依然こちらの攻めが続いておるので、まあ、そちらと合わせて同時侵攻というのも考えてはいる、クルベル、レバンがある故、挟み撃ちで攻め、スエズ奪還じゃな、ま、向こうも大分戦力を失っておる、それほど大接戦にはなるまい」

「了解しました、フリット隊長らに伝心を渡してあります、兵力も、その時にはあちらへまず指示を」
「うむ、分かった」と短い会談を終えたが
「どうも表情が硬いですね」

と先にアレクシア=猫が言った

「そうにも見える、わらわにはイマイチ分からん」
「怒っている、のかも」
「うん?」
「ベルフの暗殺未遂に」
「そうなのかの?」
「マリア様の翌日の八つ当たりと似た様な感じでは」
「八つ当たりしたかの?」
「‥」
「ま、エルメイアは「聖女」だけに、卑劣な手段が許せんのかもしれんな」

「はい、本調子で無い割、ベルフに対しての反撃策に積極的でしたね」
「つまりあれか、区切り、とは決意の事か」
「と、思います、ただ、無理をしてはいます」
「ふむ‥、ま、当面はフリットらに任せて問題無いじゃろう」
「ええ、エルメイア様自身の事はアンジェラさんやカミュさんに任せましょうそれだけ近しい人ですし」

アレクシアの見解は当り、だった、エルメイアは「この様な手段」を平然と行うベルフが嫌いであった

全く対極に居る君主であるだけに、それが自分やマリアに向けられた事でより一層その感情が強くなった

ただ、立ち直り、はしていた、攻めに対して積極的なのも、以前からあった「早く成してしまおう」との意思の増大である

「時間を掛ける程、被害が増えます、それは悪い事です」
「そうですね、民衆も不安でしょうし」
「ええ、北の国も加わったのだし、当初の方針も達成されました、なるべく引き伸ばさずに終えたいです」
「ええ」

とアンジェと交わした事でも分かる、一方でエルメイアとカミュの距離が一連の事件から急速に縮まる

求めに応じて常に側に居て、常に慰めてくれる、常に守ってくれる彼に友人以上の物の感情があった、ただ、その感情を出す事は無かった

立場とまだ、何も片付いていない事、それが常に前にあっての事である
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