剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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竜騎士ジェイド編

空気の蓋作戦

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学園を起こしてから2年の間に成すべき事を達成した二人は、いよいよ旅の準備も出来るかなぁと思っていて。その下準部も少しづつ始めていたがそうは成らなかった

ここで事態が急転するのである

メルト国の南の自治領主の国街トルテアにベルフ軍が侵攻、自治防衛軍は二日で敗退して占拠された「これは!」とメルトの国が大わらわで戦闘準備を整えるべく会議が始まるのである

本来、大陸のメルト周辺側、つまり東側は境涯で森、山、丘、海、川、砂、岩、の地域が多くそれを嫌っていたため放置され続けていた

これまで侵攻は重視されていなかった、実際ベルフは東地域に、そういった立場の将は派遣しなかった

が、ここ10日で急に帝国五大将のうちの二人の将。ガレス、エリザベートが東方面を任され彼らの軍が動いた

その人事を知ったメルト、またその北西山岳の自治区「岩代」の軍が驚愕と共に畏怖したが。メルトは即時岩代の領主を招き対応の会談を持った

ベルフが大陸の中央から割って北半分への進行は考えていたがそのルートは3つあり、一つは中央のヘブンズゲートと山脈と山岳を真っ直ぐ北に人の手でどうにか開き山道として開かれた中央街道しかしこれは元々旅路であり。軍が進むには狭すぎ、険しく、天候も変わり易く危険で、北に抜けるだけで一ヶ月はゆうにかかるため「最後の手段」として使わなかった

2つ最西の「銀の国」の右真横に南北に繋がる平地でなだらかな、広いどこの国の領土でも無い街道が存在し、当初それを使う事を考えていたが

「銀の国」の氷の女王マリアが「空気の蓋」作戦というのを敢行して使えなくなってしまった

となれば3つ目の東回りのこのルートしかないわけで、それは当然の帰結であった。このような様々な地形の場所は非常に攻め難くかなり躊躇したが他になければそうせざる得なかった

ちなみに女王マリアの行った街道封鎖作戦は以下である

西方面担当だったベルフ軍の五大将の一人アルベルトは自らの軍「イナゴ部隊」「草刈り軍」を率いて
その「どこの国の物でも無い」街道を北に進軍した

しかしある程度進んで「北側」に足を踏み入れた途端。

マリアの直属軍が西自国と繋がる道から街道に侵入、草刈り軍の背後を制するような動きを取ったので反転して道を戻る、それを見たマリアの軍は自国方面に後退して自国境界線で待機

次に日を改めて再び北に進行しようと街道中ほどに来ると、またも、マリアの軍が今度は真横に鉢合わせするような形で進入、一触即発の空気になるがここも両者自国へ撤退

3度目、今度はマリアの軍は進行する草刈り軍の前に立ちはだかり、いきなり自軍の演習を始める

流石に三度ともなるとアルベルトも怒り、道の真ん中に陣を張って悠然と演習を紅茶をすすって、見学するマリアの元に乗り込む

「一体なんの真似だ女王!」と
「新兵の演習じゃ、問題あるのか?」と平然と言った

「何が新兵の演習か!貴様の直属軍だろうが!さっさとどかせ!」
「ここは「誰の物でもない街道」じゃ、演習くらい構わんだろう?」
「ふざけるな!我等の進行の邪魔だ!。どかぬなら押し通るぞ!」と脅すが
「あー分かった分かった、どけばいいのじゃろう」

とその場は納めてマリアの軍は道を譲った

草刈り軍はそのまま北に進軍しようとしたが、今度はマリアの軍はそのまま草刈り軍の後に付いてくる、時々気勢を挙げて「ワー!!」と攻めてくるような勢いを見せると向こうの進行も止まり反転、対処の構えを見せるが彼女はまた「演習じゃ」と言ってのけた

当然そのまま北に侵攻する訳にもいかず、またも自国に一時撤退

次に、アルベルトは仕切りなおし。「銀の国」境界に陣を敷くマリアの元に会談を持ちかけ面会した

「我々の北伐任務を邪魔されては困る、陛下の軍には自重されたし!」

と努めて普通に願う
ところがマリアは書状を出してヒラヒラとアルベルトに見せ

「すまぬのうアルベルト殿、今朝、北の隣国ワールトールの国と共闘同盟を結んでのう‥」と言う

アルベルトの軍が北伐で真っ先に戦うであろう国である

「な!?」
もちろん「今朝」な訳がない、この会談自体早朝だ
「どういうことだ!!」とテーブルを叩く

「うーむ「今朝」の同盟会談の席で「街道のベルフ帝国の侵攻があった場合「背後を制し」「西へ折れて銀の国に向かうなら我が国は、北から軍を出して挟み撃ちにしましょう」と持ちかけられてなぁ。いい話だと思って受けたんじゃ」

同盟書状は本物だが向こうからの提案は大嘘である

「な、な!」
「すまんのうアルベルト殿。大人しく帰ってくれんか?それとも二正面作戦でも取ってみるかえ?」
「ぐ‥」と声を挙げて黙り込んだアルベルトは

「分かった‥陛下はベルフの五大将の一人、アルベルトと事を構えるを望むか」
「それは宣戦布告かえ?」
「どうとってもらっても結構」
短く言って彼女の陣を出る

そこからの行動は早い。マリアは即日その場を引き払い王都に引く、アルベルトは即軍備を整え戦の準備を。

強気な態度だったアルベルトはマリアの軍の規模が多くないのを知っているからだ。およそ「銀の国」の総兵力の5倍の兵を10日かけて用意した

彼女の軍は大兵力でもない、またこれまでの散々なめ腐った態度に腸が煮えくり返ったのも事実、どちらかといえば少数精鋭という彼女の軍なら数を揃えれば倒せると考え、北に侵攻するにしても彼女に横や背後をイチイチ伺われては危険過ぎる「ならばいっそ先に」と考えた

また、銀の国は大陸国家で最も裕福な国であり、金銀、宝石が出土する為押さえて損も無かった

これまでのやり取りを見ても、女王は齢はこのときまだ、16歳だったが既に政治、戦略の駿才として大陸中に知れ渡っており、事を構えるのを誰もが躊躇する程の人だが、それを落とせば自己の評価はあがり、更にここから北は当分無人の野のレベルの国ばかりで早めに落とすのもよかろうと考えた

「二正面作戦」を取るつもりならばと

アルベルトは街道に北から西の分かれ道のところに2割の兵を置いて北のけん制に配備、自らは残り8割の軍をもって西街道から銀の国に侵攻した

南大回りの別の進軍ルートもあるがそちらは狭く、海、丘、森林、草原が多くあり、彼女の「策」を挟む余地が多い

実際第二次10年戦争開始当初、ベルフ軍の他の将が南ルートから戦争を2度しかけたが、マリアの地形を利用した「策」に散々叩きのめされた経験があり、それを嫌った為と「二正面作戦」をちらつかされた為、片方をけん制する必要もあった

ここから王都、銀の都まではかなりの距離だが、西にひたすら進むだけだ。

途中2つの街がありそれをカバーするほど相手の兵力は無い、また兵力分散は愚作と考えるだろう

確実に王都での決戦になるだろうと考えて進軍したが。そうはならなかった

草刈り軍が国の街道を西に進むと領土境界線直ぐの所で敵の弓騎馬が現れ一撃離脱戦闘を掛けて来たのだ

彼女の軍の特徴の一つでもある特殊弓騎馬、特に足の速い馬を揃え、手で弓を引くのではなく多重装填式のクロスボウの射的をする

ベルフの軍はその象徴でもある重装突破兵でありそれを前に出して防ぐ、正直ダメーシはほぼないが

弓騎馬は走りながら遠めから全弾撃ちつくした後即時撤退、そこで軍のように引くのでは無く四方八方に散会して逃げる

追撃と言ってもどこにしたらいいのか分からず、また足の差は大きく、無被害で弓騎馬軍は逃げて行った

アルベルトの軍は、馬や馬車はあるが殆ど運搬用、徒歩、の歩兵で構成された集団で、それは割り合い有名だ、それを知ってのこのやり方である

最初の街に着くまでこの「いやがらせ攻撃は」20回ほど続いてかなりアルベルトはイラついていた

彼らが「草刈り軍」と呼ばれる由来は物資の現地調達である。この時もそれは多かれ少なかれ出来るだろうと考えていて1つ目の街に侵入したが、徴収するものが何も無かった

それどころか、人も居らず、金品もコイン一枚無く米粒一つも持ち去られていた、さながらゴーストタウンの様相であった

やむなく、休憩だけして次の街に向かう

その際も何度か当初の様な弓騎馬によるいやがらせはあったが基本同じことの繰り返しでしかない足を止められる事はあるが当初の8割軍という数は維持していた

2つ目の街も、何も無かった、この辺りで兵糧がきつくなる。

何かあるだろうと森林の類や畑を探したが収穫前の物まで全て刈り取られて持ち去られていた

兵糧は勿論大目に用意したが、人数を揃え過ぎた事と現地調達、買うにしても、人も物もない、そして「いやがらせの連続」思ったよりの既に2倍20日は経っていた

だが、王都まで空という事はなかろうし、一度決戦に持ち込めば圧倒的多数相手の4倍で優位、と我慢して進む、しかし、決戦前に空腹ではまずい、飢えた軍が勝つ例は無いからだ

そこでまた嫌がらせの攻撃を受ける。
この時は向こうも疲労からなのか。鈍く落馬した相手兵を数人捕らえた、彼らは懇願し「何でもしゃべるから」と泣いていたので 食料、なんでもいいから食える物、買える所でもいいと聞き、王都手前の南に港町があり、海産物ならあるだろうと聞く

またマリアはこの攻撃を最後に全軍を王都に集結正面決戦の用意をすると情報を引き出す

決戦前に陣を敷き、何かあの女ならやってくるだろうと考え自らその港町に半数の兵と共に食料の調達を図る、まさか泳いでいる魚まで持って逃げれまいと考えた。

そこには普通に住民が居て海産物をあるだけ買おうと言い軍資金の大半を出して購入する。ここで略奪しては、向こうの軍を呼んでしまうからだ、今それは避けたかった

当然何かあるのではと疑い、見たことの無い赤い魚だったので怪しんで。この魚は食えるのか?と聞いた

「はぁタイの仲間です、うちの特産ですよ?鍋にすると美味ですな」と

同じ物食っている現地人を見た上で、自分も切り身を一口食うが問題無いと、安心する

更に「この果実酒も美味くはありませんが沢山ありますよ」と言われ

それも現地人が普通に飲んでいるので

「酒を振舞うのも悪くないな」とあるだけ購入、相手はホクホク顔で大層喜んだ

明らかにマリアが狙っているのは兵糧攻めであったが、ここに来てベルフ軍が食料調達に成功したため、それはギリギリで崩れたなとアルベルトはほくそ笑んだ。


最終戦の前に早速それを消化し、士気を挙げ
昼過ぎ、王都前でマリアの軍と対峙

この状態なら正面突破で楽に勝てると踏んだがいざ開戦となるとマリア軍は街を背にして一歩も動かず防御体制を取った、何か罠があるのかと怪しんだが

ここは街道の平地で策を挟む余地は無い重装突破兵での力押しに出る

正面に立ちはだかる軍は前王から仕える宿将グラムバトル。
名将と名高い彼はひたすら後方の王都とマリアを守る様に、突撃してくる敵を防ぎ倒していくが、圧殺するほどの多数、個々の剣技でどうにか成るものではない

が それはポツポツと起こり始める前線で戦うベルフの兵が次次倒れ始める
「なんだ?」と思いつつも様子を見ていると自分の隣に居た近衛もバタバタと倒れる

何が起きたか分からないアルベルトは
「腹と口を押さえて蹲る」近衛を見て確信した

「毒!?まさか??現地人はなんでもなかったのに??それに毒見したぞ!?」と

「いよいよか!」とマリアの軍は一斉反撃、戦うどころではないベルフの兵は防戦、しかし大丈夫な兵も居たり、自分にも何も起こらない、わけがわからなかった

実はあの魚と酒はその「食べ合わせ」で強力な体調不良を起こす組み合わせだった、死ぬような物ではないがその吐き気や腹痛はなかなか強力なモノだ

本来あの赤い魚、は捕ったらリリースするか破棄して肥料か、絶対に「食べ合わせ」しないようにしていた

しかしこの計画のためマリアはこれを大量水揚げ。
更に港町の住人を2割を城の人間と入れ替え大芝居と町その物を舞台にした。更に万が一の事故も起こらぬ様

「魚を食べる役者」と「酒を飲む役者」で完全に分け。まんまと騙す事に成功

アルベルトや残り半数の兵が無事なのは、どちらかしか口にしなかったため起こらなかった、つまるところ「兵糧攻めに見せ掛けた」毒皿でしかなかった

戦える兵、はまだベルフ軍のが多かったが、突然周りの味方が倒れ始める状態で大混乱に陥る。陣形もバラバラに

そこへ敵陣左右から高機動弓騎兵が包囲走り抜けながら弓を浴びせかけられ、命令無視して逃げ出す者も出る

もはやベルフ軍は「軍」の体裁を保っているのは数だけでありやられるままになっていた

アルベルトは動けぬ味方を回収しつつ後退を指示。

どうにかそれは果たされ、軍を収集して後退するが、マリア軍はヘタな追撃戦はかけず、一定の距離を取りつつ、背中をつつくように槍、弓、で手前の相手から確実安全に倒していく

更に「降伏するものは助けてやるぞ」と声を掛け、またつつくように撃ってくる

どうにか1日近い撤退戦の後離脱に成功、残った兵は決戦前の半数だった

それでもマリア軍の2倍の数だがもはやここぞの時の為の非常食すらこの2日後に尽き、何も口にするものが帰りのルートにも一切無く、思い出した様に現れては遠めから降伏を呼びかける声の次にまた撃たれる、を繰り返しになる

精根尽き果て降伏するものが後を絶たず、過労や空腹で倒れる者が相次ぐ

アルベルトが10日かけて、軍を率いて銀の国の領土を出た時味方の数は、マリア軍の五分の一、侵攻した際の5%に満たない、この見せ掛け焦土作戦の概要はこうだ

マリアの「名前」を恐れて、大兵力を用意させ攻めをさせる
かつ、無礼千万な挑発を繰り返す

二正面作戦をちらつかせつつ戦力分断を計り「中立街道東側から侵攻させる」

ベルフ軍の進軍の足をおくらせる嫌がらせを開幕から掛ける
これで合わせて1月弱稼いだ

そのスキに間の2つの街の領民に
「金、食料を王都に持って来た者は倍にして返す」
と告知し金物人を引き上げる

更に「まだ、実っていない果実等も正規の値段で買い取る」
として周辺の麦、米、果実さえも刈り取らせる

散々に兵糧攻めを食らわせた後、敢えて奇襲部隊を敵に与え、ニンジンをぶら下げて誘導し、あの毒皿をしかけ戦術的圧倒的勝利を得た後、無駄に殺さない程度につつき、降伏を促し捕虜を増やし続けその数は2万を超える。

そこから自己の軍に希望者を登用して、加えたがその数は1万を超えマリア軍の総兵力が一気に2・5倍程になる

ベルフの兵、と言っても皇帝の為に死ぬ、という意気のものでもなくどこまでいっても兵は、兵、所詮元は一般人である

特にベルフの兵は徴兵と徴収で半ば無理に集めた兵が多く、それを看破してのことだ

この作戦に代表される様に女王マリアは

「味方に被害が少ないなら。敵がどうなろうとかまわない」
という極端な策を持ち要り

また「内には寛大で太っ腹、外には狡猾で獰猛」である事も知られているため「味方の側」に居る方が得と考える者が多かった

更にマリアは
「後顧の憂いの無い者を歓迎する。ある者で希望者は、家族も招くがよい、銀の国の領民としてまとめて面倒を見る」
と宣言したため。

半数の捕虜が即日彼女に忠誠を誓い加わり、以降数ヶ月の内にベルフの占領地から、親戚家族、便乗した無関係の自称遠縁者まで大挙して流れる、という事態になった

倍にして返すも本当に倍にして返した、備蓄食料を殆ど放出、国庫も空にした

既にこの策を何年も前から用意していた為、各地の領地の長に「銅1枚も無駄にするな」と、かねてより貯めさせておりそれも半数開放。守った領主に恩賞も出す

毒皿の策の際、相手に買わせて使わせた金を港町から1割税で回収

更に「一人金貨1枚で捕虜を帰してやる」として金貨1万をせしめ、敗戦賠償とばかりにふっかけてベルフ側から3万せしめる、備蓄食料をとりあえず足りる程度に。ワールトールから買う

不足した国庫はその余りで埋める「とりあえず1年持てば」いきなり2倍に潤った国民からの税収で倍は戻るので問題ない

彼女はこの年齢と時代、にして「民が潤えば国も潤う」を知っていた。それでも不測の事態があれば、自己の資産が国家予算一年分相当あるので用意はしたが、今回はその機会はなかった

2倍にして貰った国民、領民から「こんなにもらえないよ」と一部返納するものが半数程出た故だ

戦って勝つのが目的で無く、相手の物資、金、兵、心を大きく削り取る、ある意味、多重焦土作戦ではあった

云わば「手に噛み付いたら両手足を折られて餌まで奪われた」レベルの敗戦である

この一件により西軍司令官のアルベルトは
「貴様はしばらく防衛だけしていろ、西からは諦める」と勅命を皇帝から受け動けなくなる

「誰の物でも無い街道」の無人街道をベルフ軍は使う事が出来なくなった、銀の国のマリアは敵に回すなと諸国に認識させた

「この向こうに見えるけど進めない、この間に何もないけど動けない」という「空気の蓋作戦」は2つの「蓋」をして完遂

銀の国への侵攻、北への侵攻への2つの蓋をして

それがこのルートを諦めさせ東周りの侵攻に切り替わった経緯である
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