剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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竜騎士ジェイド編

二人の経過

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そこからはトントン拍子と言える。ジェイドはマリーの要求に答え、剣を教える師に、と同時に軍への客員剣士で兵長待遇でねじ込まれる

訝しんだ者も居たがマリーの推薦で「絶対だから!」と王に進言、王も受け入れ誰も逆らえなくなる

疑いを晴らす為に、ジェイドは嫌がったが城の近衛と10対1で対戦を、試合だが全力でやらせる

マリーは「あのくらいジェイドなら余裕なんだから!見てから文句言いなさい!」

と不満を言う連中に言い大勢客も集めさせた

更に城の兵でも「武」に自信のあるものが選抜されたが。ジェイドはかすり傷一つ受けず、練習剣で子供をあしらう様に軽く全員のした、当然の結果である。

前後が事情が明らかにされず、秘密であった為知る者は皆無だが竜と単身戦った男である。世が世なら英雄や勇者と呼ばれても不思議でもない人物だ。誰がまともに相手になるだろうか

さすがにこれは文句の出ようも無く。見学した王様も大層喜んだ

ただし、何者だ!?と驚きと尊敬を集め軍部の上から下まで彼が城に居る間中常に誰かに質問攻めにされることになり。それは一週間続いて「だから嫌だったんだ!」と後でマリーに言った

一ヶ月程して育成施設「学園」は古い聖堂を借り上げ修復、なかなかの規模になる。

授業料が払えない者には貧富差に応じて補助金が出され無料あるいは格安で学べる、本格的専門施設、しかも老若男女受け入れたので、子供でもない学びたい人も多く集まる

ジェイドは基礎の剣と各地の武、兵装にも詳しいのでそのあたりに専念

基礎的学や政治、読み書き計算は城の政治官が交代で暇を見て受けるが、その者には一回事に「給与と別に謝礼をだしてはどうか?」とまたもマリーが進言。こずかい稼ぎしたい官僚や政治官が嬉々として受ける

教師専念と言ってもマリーも、魔術、戦略戦術、歴史、地理、治世、等兼任、とても回らないし自身も自分の時間が無くなる為一般人から、商、農、漁、建等で実際に街で仕事をしている専門家に公募依頼でやはり「一回事に謝礼が出る」とされ

バイト感覚で集まり、又、普段やってる仕事のこんな知識が役に立つのかーと皆楽しんで教えた、そこから実際其々の仕事をしてみたいという生徒が出て、タダで仕事を手伝う人間がそこそこ出て皆喜んだ

意外だったのがこの件をクルストのおっさんが
「月1回くらいなら」と受けた事にある

鍛冶屋志望ってはそう多くないが「名工クルスト」の授業は名声から、関係ない国や遠方、一般人や剣士、貴族や豪族、美術家等からも「是非とも」集まって初回はとんでもない大混乱になった

2回目以降は様々な工夫によってどうにか授業の形で出来るようになっていたが基本的に毎度人が集まりすぎて大変なのは変わり無かった

ただ、「名工」の一言も聞き漏らすまい、と人数がやたら多い割りに全員異常に静かで迷惑にはならなかったが

困った事と言えばクルストのおっさんがラウトス流剣盾術を指導したいと言い出した事だ「免許皆伝ですから教えられますぞ」とか言ってたが

どうしたもんかとマリーとジェイドは相談して「有効な戦法には違いないから」と希望者がいればやっていいよ、という形にして募集を掛ける。

超重装備剣盾歩兵の類など大陸でもあるところは2国しかなく「意外に有効ですよ?」とマリーとジェイドが軍官僚や王にそれとなく進言、たしかにあれは強いですな、と比較的容易に予算を捻出。

そもそも兵としてだけもなく、高級仕官や貴族、王族の近衛、施設防衛、としても「守る」面で非常に有効なので、政治官や官僚からも反対は出なかった

しかし大規模だと資金面で負担が大きすぎるのでここぞと言うときのジョーカー的部隊で100人規模ならいいよって事になった

あんな剣法習いたい奴いるんか?と二人は思いつつも待ったが予想外に初回から80人は集まった

「学はからっきしだけど体力には自信があります!俺もこの国を守りたいです!」て若者がかなり多かった

志と自分にはこれが向いてるという分かりやすさから、初めから適正がハッキリした人間が多かったゆえ

マリー曰く「拷問訓練」も脱落者がほぼ出なかった
少々暑苦しかったが‥

ジェイドはマリーの屋敷に住むようになった
「宿代とか官舎とか無駄、うちの屋敷部屋余ってる、来なさい」と半ば強引に住まわされた

彼女の目的の半分は「家事お願いね?」だったが
「まあ、宿泊費タダだしな」と一応やった

猫が2匹増えて3匹になった、元から居た黒猫が産んだわけではなく、いつの間にかどこからか進入して居座っていた

ただ、猫は全部ジェイドに懐いた。
マリーは「裏切り者ー!」と言ったが

いつご飯をくれるか分からないご主人様より毎日ご飯をくれる新しいご主人様のが良いに決まってる。

家事といっても非常に困ったのが掃除だ、広すぎて一人でやってられない、プラス庭まである、かと言ってマリーと二人でも労働力に大差無い、金はあるのだから、と「人を入れたらどうか?」言った。

何がレアなのかさっぱり分からないが
「非常に貴重なアイテムも沢山あるし捕られたりしたら困る」
と言って拒否された。彼女が金持ちなくせにメイドを雇わないのはそういう事かと納得した

定期的且つ、信頼できる、人数もそれなりに必要なメイドなり掃除婦とかお手伝いさんとなるとだいぶ難しい、一日亭でおかみさんに相談したがさすがに無理だった

王や軍のお偉いさんに気に入られていたジェイドは時々部屋に呼ばれる、足が丈夫で無く自分が遠出出来ない王は旅の話と武勇伝が非常に好きでよく呼ばれて話を聞きたがった。

そこで「掃除」の一件をつい何かの弾みでグチってこぼしてしまったら、それを聞いた王様や軍のお偉いさんは笑い死ぬんじゃないかというほど爆笑して。身辺や城のメイドや庭師を定期派遣する手筈を整えてくれた。

「廃墟にならない程度でいいですよ」とジェイドが言うと
王様とお偉いさんは紅茶を吹き出した後
「なら月初め1回でいいな」と言った。

ネタやギャグで言ってる訳でもなく真剣に悩んでいたのだが二人にはそれが爆笑ネタだったらしい、だがたしかに、陛下や将軍のお付きメイドの類なら怪しげな者は居ないだろうし手癖が悪いという事もなく、普段から広い場所を手入れするだけに安心でもあった。

マリーに報告したら終始嫌そうだったが。
とりあえずよほど貴重な物は鍵部屋か自分の部屋に移動しろとやらせた

そんなすったもんだの忙しい日々が一年程続き、生徒から教師も出て。城に上げる優秀な兵士、騎士も出るようになった。また、士農工商に学院から、進む者も出て、基本的にあらゆる方面で成功したと言える

だが、基本的にある程度育てたら、後は後任に任せられるし以降は楽になるだろう。と思っていた指導もマリーとジェイドは離れる事が出来なかった

まず、マリーの場合神聖術以外の、あらゆる面で並ぶ者が無いほど広く深い知識があり「先生だから」と偉ぶる所が皆無

地頭も良く、話術も巧み、どのような質問や疑問もに平然と答えられるので。変わりに成る者が居なかったのと、人柄も良く、皆から友達の様に好かれた為、生徒の方が離さなかった。

実際一時、自分がずっと一線なのは後身が迷惑と授業の数を減らしたが「先生をやめないでください」という投書が相次ぎマリーの屋敷に押しかけ、懇願する者まで出た為に離れる事が出来なくなった


ジェイドも似たような物だが。単に強い剣士で、教えが上手い、偉ぶらない、というだけで無く

大陸中殆どの剣術を体験、もしくは習得済みであったため、実際指導も、○○の剣術ならこういう攻めをしてくると。かなり具体的且つ細やかな対処法等も熟知説明出来るの為、代わりの居ない先生であった

幅が異常に広く、どんなタイプの性格、才能、体格の生徒でも微妙に異なるそれに合わせた指導が出来る為非常に好評だった

とかく○○流剣術、その流派の技を皆に同時に教える事になるがジェイドの場合、君ならこの技が向いているから、と技に人を合わせるのでは無く、人に技を合わせる育成が出来るため。習う当人が「自分に合わない」という不満がでないうえに、微妙に一人一人違う個性と戦法の剣士が輩出される事となる

二人とも、城でも学院でもそれなりの立場であり、また評判、噂も良い人物であった

特にマリーの場合、以前の様に、ど派手な衣装は着なくなった、馬には相変わらず乗るので太腿をみせて歩いていたが白を基調にした露出の少ない物を着るようになった。

装飾品はジャラジャラ付けていたが、色を揃えている、ジェイドにド派手と言われてたのを気にしてか、公人としての立場を気にしてかは分からないが

マリーのそのジャラジャラした石は全部エンチャンターの石であり、魔術授業を通してその知識を知った者は、彼女の付けている石だけの合計金額を概算すると金千は軽く超える事に気がついた幾人かの生徒が卒倒しそうになっていた

ジェイドも国から支給された衣装を着た、単純に「郷に入れば」の精神とやはり公人としての立場に気を使ったからだが、依然、大刀は担いでいた

二人は目立つ人物でもあり、特にマリーは大人っぽい美女で男性から人気があったがそれが「美人過ぎる」故と彼女の周りに常に老若男女が人の輪を作る為。色恋沙汰は無いがラブレターともファンレターともつかない手紙の類はかなり届いた

一方ジェイドは美男子、という程でもないのだが。とかく城や生徒の女性剣士や騎士。また軍のお偉いさんの縁者の女性に人気があった

ぶっきらぼうで怖そうに見えるが、やさしく、甘いマスクでは無いが男らしく頼りがいがある。幼少の頃から苦労の故か

他人や弱者、幼い者には非常に親切で優しく、誰に対しても寛大で。その年輪は見姿にも表れ。20台前半にしてダンディとすら感じる者が多かった

ジェイドの場合マリーと違い。割と直接的なアプローチを受ける事が多かった

「ぜひ、私の娘を妻に」と願われる事も多いが
「いずれ、旅の続きに戻るかもしれないから」とやんわりと断っていた

余談だが。

一見するとそうは見えないが。ジェイドはその手の女性の扱いは意外に上手い。過去、旅の途中に立ち寄った、西の氷の女王の「銀の国」である事件があり。

今以上に高貴な、あるいは王国騎士の女性に滞在中、終始囲まれる経験があった為、意外にその面は如才ない対応が出来た

この頃から「浮いた話を聞かない」二人の関係に変化が生じていた

ジェイドが寝室に入ると猫達が着いて来る、当初ドアを閉めて入れないようにしていたが「ニャーニャー」と3匹で合唱して爪で扉をカリカリするので常に少し開けておくようになった

彼に選択権はなかった。遅い早いの違いはあるが、確実に毎度進入してベットに潜り込んでくるが

別に寝床を用意しても勝手にいつのまにか戻ってくるので、なすがままにされていた

ある日、猫が自分の部屋に来るのがご無沙汰になったマリーが寂しかったのか、妬いたのか。猫と一緒にジェイドのベットに潜り込んで来て寝るようになっていた。それが寂しさ人恋しさなのか分からなかったがジェイドは拒否しなかった

二人は寝るまでの僅かな時間を、互いの一日の出来事の報告、思った事、また以前言ったように

どんな小さな事でも、何の関係もないと思われるような事も何でも「相談する」事をした

彼があの日「何でも相談しろ」と言うのを守っていた

忙しい二人は、街や城に居る間は常に誰かに囲まれていた、この今の二人の時間は貴重な物だった

その「夜の寝室会議」は毎日続いた
それが更に3ヶ月続いたある日。マリーは呟くように包み隠さず直球で言った

「あたし、ジェイドのお嫁さんになりたい」と

彼女のその子供っぽい行動や発言、甘えるような部分「好き」といった時のアクセント、それは兄や父に甘えるような物だと感じていた、だからそういわれた今彼は一瞬戸惑った

「お前、まだ成体じゃないんだろ?」
「みたいだけど、実際の歳わかんないし、記憶が間ないし。竜の歳で何歳が人間の何歳なのかわかんない」
「人間の時のお前は俺といくつも違わんように見えるんだがなぁ‥」とジェイドは悩んだ
「人によって「見える」のって結構差がない?」ごもっともである

「それにジェイドは初見30前に見えなくもないよ?」と
「よく言われるな、見た目で分からんか実際の歳なんて」
「ジェイドは「大人」ならいいの?」
「幼女を妻にする趣味は、たぶん‥ない?」

「でもさ、あたしが「大人」じゃなかったとして、「大人」になるのを待ってたらジェイドもうおじいちゃんじゃない?」
「‥つか、死んでるかも‥」
「あ!!」とマリーが声をあげて言った

「ど、どうした?」
「うん、あした出かけてくる!お城とがっこう、休むって言っといて!」
「え?なに?」とさっぱりわからないふうに返した

「おじいさんとこ行く!‥きっと分かるはず」
「例の老竜か、なるほど」
「いや、今から行って来る」

とベットを降りて、部屋を飛び出す
止める間も無くすっとんでいった  「オイオイ‥」

翌日の夜、ジェイドは一階ホールの応接セットの付近の床に山盛りの餌を盛った銀の器を置く

猫3匹が顔を突っ込んで食べる

ジェイドも応接セットの椅子に座ってお茶を啜った
その瞬間ドアをブチ破る勢いでマリーが帰ってくる
「ジェイドー!」と

思わず啜った紅茶を噴出して、咳き込んだ後

「な、何事だよ‥」と言う
「あたし子供生めるって!」
盛大にドアは開けっ放しで言った

「玄関口で何言ってんだおまえは!そこを閉めろ!んで落ち着け!」と思わず怒鳴る

二人は応接セットで対面して座って落ち着いた後、しばらくして報告会が始まる、ちなみに猫はマリーの勢いに驚いて逃げた

老竜、おじいさんに言われたことをそのままジェイドに報告した

「たぶん‥人間で言うと、16~17歳くらいじゃろう‥、成年とは僅かに言えんが、人間の出産適齢期は16~30くらいかと‥だから結婚出産しても問題ないハズじゃが」

「どっちに似るかで、子供の特徴はかなり差異はあるハズじゃこればかりは成長してみんと分からん。過去、ワシの思い出せるくらいまで遡っても、人間と竜がパートナーに成る例は多くは無いが少なくもない。」

「竜同士がパートナーなのは理想ではあるが。竜のオスが仮にまだ幾人か居たとしても、君がその相手を気に入るかは分からない、君が今パートナーに成りたいという相手が出来たのなら、それが最善だろう」と

マリーは待ったジェイドの言葉をそして真剣に聴いた
ジェイドは昨日の晩言われた事を整理する時間があったので、迷いは無かった

「なあ、マリー」
「うん」
「俺各地を転戦してる中、結構いろんな所で「結婚してください」は言われてきたんだ」
「知ってる、ここでもお城やなんやで言われてたよね」
「けどそのどれもが、まあ、嬉しいんだけど、そこまでじゃなかったんだ」
「うん」

「でも、昨日のお前の「お嫁さんになりたい」てのが一番嬉しかった」
「うん!」
「だから、受けるよ、結婚しよう」と

マリーは、やったー!と飛び上がって喜んだそのまま抱きついてずっと笑ってた。まるで生涯最高の宝物を手にしたように。やっぱり子供ぽいなぁとも思ったが彼にとっても今はそれが可愛らしかった

その後、王城で二人は結婚報告を重役や王にした
それは学園の生徒にもあっという間に広まった

残念に思う人も居たようだが「やっぱりね~」と言う人も多く、皆から見れば二人の結婚は意外でもなんでもなかった

常に公私共に側に居、同じ屋敷に住んで「そういう関係じゃない」と当人達は否定したが、それは「まだ」の範囲、予想の範囲内だったのだろう

「式は可能な限り質素に」

と二人は言ったが立場上そうもいかず、王城で一般の人は入れない場所という制限をかけて式を行ったが、それでもかなりの人数が集まって祝福を受けた
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