剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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竜騎士ジェイド編

戦いの準備

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それから、五日ほど経って、クルストは剣を完成させ、マリーの屋敷に納品される

要求どおり、剣の柄と剣身のつなぎ目に1つ ミネと前身の合わさる所根元に2つの穴が開いていた。再加工が必要と言うのはその穴の加工自体が特殊だからだ、本体の穴に渦巻状のレールが付けてあり、円錐成型した石をそれに嵌るようにミゾを付ける必要がある

つまり、本体の穴のミゾが差込口、石がネジといった感じに回しながら奥に挿入する加工がされたからだ

なるほどこれなら、外から宝石として石が左右どちらからでも見えるし、見た目も損なわない上

外れにくく、逆回しすれば容易に嵌めた石は外れるので。取替えは楽だ、本来そのミゾに合わせて石を掘る作業は精密で大変だが

納品と同時に同じ形の石の擬似模型見本も用意されていてそれに合わせて掘ればいいだけだった、見事としか言いようが無い仕事だった

マリーはその為の魔石を手持ちの物から予め選定してある石を球体もしくは原石等から削りだし或いは成型し直し 指定の大きさの円錐形に加工、用意した。それに一日
それぞれ魔術処理にもう1日かけて行う

と言っても特別な事でも無く、極めて、中立性の高い石に彼女が直接付与したい魔法をゆっくり注入し中立で無い方向の付与をする

その掛けた術の効果が石の自然浄化力や魔力の自然充填などからくる時間経過等で「石の資質の戻る作用」が、起こり、中立化して効果が消失しないように「封」をするだけだ

説明すると単純だが現世でその手段は失伝しており、その知識方法を持っているのは恐らくマリーとこの技術を彼女に伝承した人物だけだろう

古代にはあった業らしく、時折出土品から魔法具は見つかるが、彼女の出現まで「新品」の魔具は供給されなかった

マリーはその業を生涯で、分別があり、本当に信頼できる近しい人、数人にしか伝えなかった

「業」を独占したかった訳では無く
むやみやたらに広めて悪用の物が多数生み出される事を嫌った事

呪いを掛けようと思えば出来るわけでそれは非常に強力にも出来、世界その物に影響を与えかねない為、極めて公正で悪意の無い人物でなくてはならない

高度且つ、長時間魔術を注入し続けられる程潜在的に魔力許容量が多い才の者、そして当然魔術士にしか出来ない処理であるので魔術士に限定されること

そもそも失伝している技術、知識を何故マリーが持っていたのかを彼女が説明出来、尚且つ受け入れてくれる者、あるいは謎を決して他人に漏らさない人間である必要もあった

その様な人間が一体何人居るのか?という事を考えればごく僅かの人にしか伝えられなかったのは自然な事だったのかもしれない

そして、マリーのあの時の「直情的な感情の閃き」で始めた計画はこの時点で、ほぼ完遂した

更に翌日、完全完成したジェイドの大剣、もとい、大刀を渡す為に何時もの一日亭にクルスト、マリー、ジェイドは集まってテーブルに置かれた大刀を囲んで話す

「会心の出来ですよ、要求も完遂しました、どうぞお納めください」

と完全完成品を改めて見てうるっとしている

次にマリーは「対ブレス魔法防御、石の守護による破壊防御、風の恵みの魔法による重量の緩和、の3点、ジェイドの本来の剣技を阻害しない系統の付与を付けたわ」

ジェイドは余りの過大な出来に

「ほんとに俺なんかが使っていいのかねぇ‥」と気圧されていて、触れるのも戸惑う感じだった

「他に単身で竜に挑む者が居りますか?その為の物ですよ?」
「要らないならあたしの物にするわよ?あたしでも振れるくらい軽くなってんだし」

と立て続けに言われる。そういわれては受け取るしかなかった。よし!とそれを掴み水平にして眺める

剣より、刀という形の片刃の大刀。

後ろ半分が深い闇のように真っ黒で前半分が銀色、軟鉄と鋼鉄を幾重にも重ねて打って加工したため、今で言う日本刀のような波紋と色のコントラストのある刃と可能な限り、性能と使い勝手を損なわない程度にスリムに削あるいは精錬圧縮された全身

長めで握りやすく再調整されたグリップに、柄とミネの根元に填め込まれた美しい宝石。そして玉の中心でゆらゆらとまるでロウソクの火が燃えている様に様々な色で輝く付与された魔法石

彼は説明されるまで知らなかったがエンチャンター魔具の宝玉は封じ込まれた魔法の効果や種類で様々な色で。中で燃えてるように輝くらしい、市場に出されたマリーの魔具がクルストの目に留まったのはこの自己主張の激しい宝玉によるものであると同時に「美術品」扱いにされるのもこの宝玉のゆらめき、輝き続ける稀な美しさにもある

「やべえ、これは伝説の武器レベルだわ‥」と感嘆する
「でしょうねある意味現世の最高の技術と魔術の結晶体だし。そういっても差し支えないレベルだわ」
「外に出て振ってみてください。慣れが必要なハズです」

と、薦められ3人は店を出て手近な広場に出る

「気をつけてね、軽く「感じる」だけで巨大な剣の重さはそのまま存在してるから。軽いからって思いっきり打ったりしたら相手が粉々になるわよ?」

「こえーよ‥それ‥」と言いつつ片手で軽く振ってみる。

「まじでロングソード並みの重さに‥「感じる」だっけか」
「手加減は難しいわよ。人間相手に使うわけじゃないからいいんだろうけど‥とりあえず壊れはしないから加減が必要かは、わからないけど」
「それと前よりナマクラではありませんので一応「刃」の方だけをカバーする鞘も用意しております、切れると言う程ではありませんが流石に剥き出しはまずかろうと思いまして、一日亭に届く予定ですが‥」

「大体感じは分かったし‥それなら一日亭に戻っておくか」
「そうね」
「わかりました」

3人は其々お茶を啜って待つがそれほど待たずに「鞘」は届く「鞘」というよりは分厚い皮製の刃だけ隠すカバーに背中に担げるようにベルトバンドが付いたような物だが

三人はしばし無言だった、其々が其々の考えを整理していた。最初に口を開いたのはクルストだ

「ところで‥。準備は出来ましたが、肝心の相手はどう探すのでしょうか‥」

当然の疑問だ、ジェイドは7年探しているがまだ会えていない

マリーは「居るとしたら「あそこ」でしょうね‥」とアテがあるかの耀に言った

なっ!と驚いてジェイドとクルストは立ち掛ける

「落ち着いて2人共、あくまで居るとしたら‥とあたしが考えているだけの単なる推理よ。なんの確証も証拠もないわ」
「‥それは?」
マリーは大きく深呼吸して一間作ってから、彼女の見解を披露する

「あくまで、まだ、絶滅していない前提ジェイドが各国、聞いて歩いて、目撃情報が残っているので居るという前提、その竜がまだこの大陸に居るという前提、の話で考えたので、それを念頭に置いて聞いてね」

「まず、竜は人間に狩られる事により元々少ない数を更に減らした。彼らはそこいらの獣では無く、人間と同等以上の知能を持っている、しかし、空や雲の中海の中に住む事が出来る訳でもない。」

「あくまで地上のどこかに巣なり家なりを持ち住む生物、そして恐らく人を嫌うか恐れるか関わらない様に生きている、となれば地上のどこかで。人間の目に触れず。人間が来れない場所をあたしが竜の立場ならその条件の満たす場所を選び生きるわ」
「たしかに‥その条件ならあっしも一つしか思いつきませんなぁ、しかし‥」
「俺もだ、だが人類未踏の地だろしかも広い‥」

「どうやら皆答えは同じね。そう、中央のヘブンズゲート山脈。そしてその名前の由来でもある一番高く険しい、いまだ煙を吹いていて活動していると思われる火山。人には険しすぎる山だけど、ジェイドの見た竜は飛竜、彼には容易にいける場所で人間が誰も入ってない格好の場所と言えるわね」

「しかし、これは無謀ですな」
「ああ、こっちから行くのは無理ではないか、下ならともかく頂上方面では、宝くじの大当たりを一枚で引くようなもんだ」
「まあ、それも居ればの話だし、奇跡的な幸運で、登って上まで行けてもハズレでしたという可能性もあるわ」

「ついでに言うと人類未踏の地、は正確ではないわね。過去に調査隊が出ては居る。もちろん誰も帰らなかったらしいけどね」

ジェイドとクルストは黙りこくってしまった

時々「うーん」と唸って考えてはいるようだが、答えが出るハズも打開策が出るハズもなく時間だけが過ぎていく
流石にこれはと諦めたらしくクルストが立ち上がる

「最後まで関わりたかったんですが。あっしにもいい知恵は出ませんなぁ‥あっしの目的は達成しておりますから自身は満足ですし工房に戻らせてもらいます」と
「ああ、いや、解決できない様な難問につき合わせてしまって、申し訳ない‥」
「ごめんね、クルストさんー何か進展があったら報告するわ、ありがとう」
「分かりました、良い進展と報告をお待ちしておりますよ」

とクルストはここで一足先に店を出た
二人になったが、ジェイドだけは再び考慮に戻る、時々

「後は向こうが引っ越すのを待つとか、そんくらいか?‥」とボツボツ言ったりする

それをしばらく見ていたマリーはある程度の時間が経過したことを計って声を掛ける

「ジェイド」
「ん?」と彼はマリーを見る、彼女は涼しげな笑顔を向けていた、このような時に何故マリーがそんな笑顔を見せていたのか

ジェイドには意図が分からなかった、マリーは次に更によくわからないことをいう

「ねぇ、海を見に行かない?」と

流石にジェイドも「はぁ??」と言いたくなるが、彼女の意味不明に見える発言は重要な意味を持った

突飛な発言である事を既に彼は感覚的、経験測的に理解していた。故に努めて冷静にいつもどおりに

「それは、今じゃないとダメなのか?」と
「うん、大事な事。あたし二人きりになりたいの」と笑顔のまま言った

マリーと一緒に居る期間が長いわけではないが、彼女といくらかのやり取りの蓄積の中で彼女の合間、合間に見せる、突飛な発言、行動は大別すると2つに分かれる事を感覚的に理解していた

子供の遊びやいたずらの様な。それでいて相手や周りの人を笑わせたり、吹き出させたり、あるいは呆れさせたりするような、遊びの延長のような言葉と行動

もう一つが、今の様に他人から見たら何なんだいきなり?と全く理解出来ない意図が読めない行動や発言、だが本人は至って真剣で、必ず誰かにとっても自分にとっても当人が言った通り「大事な事」である場合

そしてこの、海に行こう、と、大事な事、は後者であり、あの時誰かを殺しかねない顔で「勝負しない?剣で」と言ったのと同じ物であるよう思った

そしてそれはもう何度も彼は体験していたし、理解していた。 だから馬鹿にせず、茶化さず、紳士に対応した

「分かったいいよ、どこの海にだ?」と
「うん、北門から屋敷に行く途中の海、まだ、日は高いから城下街の港はダメ、人が大勢居る」

二人は、いつものようにスタディーに二人乗りで屋敷への道を進んだ

「あ、ここいいかも」と止めるように促しいち早く馬から飛び降り、海の見える海岸に歩いていく

「ん」と馬を止めジェイドも降りて、マリーの歩き出すのについて行く

真昼間の開けた海岸。マリーは砂浜の中心まで行って、くるりと回る遊んでいるかとも思ったが

「うん、全然誰も居ない、あたしたちだけ」という、どうやら、周りをついでに確認したらしい

「で?、大事な事って?」
「うん、あのね、10日の約束守って付き合ってくれてありがとう」
「まだ、今日と明日があるぜ、たしか」
「そう、でも結構ギリギリで間に合った」
「そうか、そりゃよかった」
「ジェイド」
「ん」

「今日は、あの刀ちゃんと訓練に使って体にちゃんと馴染ませておいて。ちゃんと直ぐ使えるように。んで今日は早くいっぱい休んで。明日は万全にしておいてね」
「ふむ、何だか分からんが分かったよ」
「さっき3人で話した時さ」
「ああ‥」
「2人の事騙しちゃった」 「クルストさんはいい人だけど。竜の事までは教えられなかったから‥」

「というと、マリーは知ってるのか全部」
「うん、どこにいるかも、行き方も知ってて、あたしはジェイドを連れて行けるの。方法が無いとか嘘、ごめんね」
「まあ、絶対にこれだけは教えられない、という秘密もあるさ、仕方ない事もある。その意味、打ち明けられた俺は合格って事か」
「それもあるけど、ジェイドは子供の時見た竜をずっと追っかけて大陸中旅してきた。どこかで。ううん、それが果たされなければきっと死ぬまで続けて、大陸の外の国まで行っちゃって、そうなると思った」

「そうなるのをやめさせたかった?」
「かも知れないし、貴方の目的を知ってて、それが直ぐそこにあるのをあたし知ってて。だから、叶えてあげたかった、黙っていられなかったのも、あるかな」
「‥そうか」

「それとあたしは、ジェイドは竜に会っても秘密を教えても、誰かに言わないと思った、名誉とかお金じゃない、純粋に「戦ってみたい」という思いと、戦うに相応しい強さがあって、それと、あたしは竜が死ぬのを見たくないから」
「ああ、俺も見たくないな」
「うん、だからその、貴方になら会わせても大丈夫だって、本当に力比べで済む、て」

途中からマリーは「それで‥」「あの‥」と言いながら顔を両手でグシグシしながら泣き出していた。

マリーは自分と同じくらいの歳の外見で、女性にしては背も高く。涼しげな笑顔を持つ大人ぽい美女、頭が良く、学も高く技術も魔術も剣も大陸屈指のレベルで、一見すると隙が無いように見えるが

子供っぽくて、強引で、時々まぬけで、一般常識があるかと思えば変な所でまるで無かったりして。いたずらな事もする
それでいてびっくりするくらい素直な所もある

目の前で泣くを止めたくて、立ったままうつむいて、両手で顔を思いっきり服の袖で拭っている彼女を見ると、あの日、公園で剣を教えた少年少女達とあんまり変わらないんじゃないかと思うようになっていた

だからジェイドは彼女に近づいて、片手で彼女の肩をポンポンと叩いてゆっくりと胡坐をかいて砂浜の上に座る

「ほら」と座るように促す

それを理解したマリーもジェイドの対面に膝を突き合わせてちょこんと座る

「大丈夫だから‥言いたい事はちゃんと伝わってるから」と声をかける

マリーはそれを聞きながら無言で顔を両手で押さえながら、ウンウン頷いている

「落ち着けば大丈夫だ。ほら深呼吸して いくぞ、い~~~ち」

マリーはそれに続いてスーハーを繰り返す、それが7の所まで来て彼女はいつものマリーに戻っていた。泣いたせいなのか、恥ずかしかったのかマリーは赤くなっていた

「まだ今日の内に言って置きたい事は残ってないか?あるなら聞くぞ」

「ううん、大丈夫‥全部明日にする、あたし最後の用意があるから、全部、明日」と

「分かった明日だな」
「うん、あした、昼くらいにどっかでまた、二人だけの待ち合わせしたい」
「分かった、どこがいいかな」
「そこそこ広くて、物も人も来ない所、隔離された所とか、がいいかな」
「マリーの屋敷はまずいのかな」
「猫いるし、お客さんも偶に偶発的に来る、あそこはダメ、かな‥」

「そうだなぁ‥一日亭の宿、酒場の2階じゃなくて後ろの離れの方はどうだ?一軒家、てか半軒屋みたいなアレ。値は張るだろうが」
「おかみさんに取り次がない様にお願いしておけば大丈夫かな、鍵もかかるし、うん、じゃあそれで」
「OK」
「じゃあ、明日お昼に行くね、食事は軽くにしておいてね」
「ああ」

マリーは先に立ち上がりつつ、すそや膝についた綺麗な白い砂を掃うジェイドもそれに続いて同じような動作を行う

「じゃあ、あたし行くね、準備あるし。ジェイドも忘れないでね」
「万全の状態にしておけ。て方か、もちろんだ」
「あ、馬ごめん、」
「お前の馬だからいいんだよ。歩いて帰ってもたいした距離じゃない」

えへへ、と離れ際、はにかんだ笑顔を見せた
それは彼も同じ気持ちだった

お互い無駄な事を一切付けない言葉でも全ての意思が伝わるような会話がとても心地よく、楽しかったのだ

マリーは馬、ジェイドは徒歩で、其々の家に戻る

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