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竜騎士ジェイド編
切っ掛け
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それから3日後の事。マリーはメルトの城下街に叉も珍しく昼前に訪れていた。といっても、自分の意思で積極的にきたわけではない
メルトの王城前まで来て門番の兵に声を掛ける
「陛下に書状を頂、訪問しました。マルガレーテです、面会の取次ぎをお願いします」と書状を差し出す
兵士はそれを受け取り目を通し、それをマリーに返す
「承っております、私の後に付いて来てください」と歩き出し、城奥に誘導する
途中何度か他の通行監視の衛兵に話を通したが、何かをかんぐられる事も無くすんなり謁見の間に通された
マリーが昼間、王城を訪れたのは賢王フロウズに「呼ばれた」からである
皆の父とも言われる平和な時代の名君ではある、しかし今の時勢と成っては名君とは言えないのかもしれない
謁見の間にマリーが入ると王は既に王座に座って待っていた、マリーの姿を確認すると先に声を掛けた
「足が丈夫で無いのでね、座ったままで失礼するよ。マルガレーテ殿」と
「マルガレーテです陛下。」
「私を御呼びに成られたのはどのようなご用件でしょうか」
と、彼女には大体予想は付いていたがあえて聞く
「本来、ワシ自ら尋ねるのが礼儀だが老病でね、歩き回るのが辛い」
「存じております陛下、しかしながら私にはそういった病を治す術の持ち合わせはありませんが‥」
「マルガレーテ殿は術者としては長けているが神聖術の様な癒しの術はからっきしというのは聞いている」
「では‥」
「うむ、ワシは老齢だ、10年も生きないだろう。そこで貴方に頼みなのだが‥」
「時勢を考えれば。軍略、或いは後任の人材ですね?」
と先読し問う、更に「まだ若い4世の事でしょうか?」と答えも出す
王は流石に驚いたのを表情に出したが、すぐに冷静に取り繕いおどけたように言う
「話す手間が少なくて助かる、心を読めるようだね」と
「では、この後の手間も省かせて戴きますが」と、付け加え
「陛下のご子息は28歳、陛下によく似て優しく、穏健な方です、平和の名君と成られるでしょう。ですが今の時勢にあって少し頼りない、叉、陛下には治世の臣下を多くとも軍事、軍略に長けた者が少なく存じます。その辺りを心配されての事でしょうか」
「全くその通りだ、息子、の事は今からどうこうというのは難しいが、せめてアレを補佐する人材を欲しい」
「貴女は自分の時間を大切にする人だと聞いている、だから貴女自身にそれを頼むのは忍びない。貴女から見て、優秀、兵を統率出来る者を紹介・叉は育成して欲しい。無論城に住め、とは言わぬ‥どうだろうか」
「陛下は人の心を掴むのがお上手ですね。そういう事なら出来る範囲の事はお手伝いしましょう」と答える
「ですが、それにはいくつか要求があります」
「なにか?」
では、と一礼して王の顔を見据える
「1、多数の人間に同時に何かを教えるにはやはり「授業」のようにする場所が必要です、その場所の提供」
「2に、能力やヤル気を優先するなら、どこどこの家の者だから、とかの区別はいけません。皆同じ環境と条件で進める為にある程度の無償教育が必要です、そのために補助金の提供」
「3つに、その中から取立てて頂く人間に不分別や色眼鏡での登用があっては本末転倒になります、事、城に上げる人材の人事に関しては私に、もしくは私が選んだ人事官に一任されますよう」
「4つ、私は世間の評判はそれほど宜しくない。
故に指示、命令に従わない者も当初は、多少出るでしょう。なので、それに従わざる得ない程度の地位もしくは立場を表面上与えてくださりますよう」
「この4つです」
王はウンウンと頷き、「問題無い」といい、側に控えている側近に「今の条件で資金面は問題ないか?」と問う
「問題ありません、国庫も税収も安定しておりますし、不測の事態に対応出来るよう予備費も付けてありますこれを削れば」
「では速やかに用意をせよ」
「ハッ」
と即座に側近はその場を離れる
王は満足そうに白髭を撫でていたが、目の前の彼女の見識をもう少し聞いてみたかった
「ワシは少し心配し過ぎかな?。戦火と言っても、中央の事だしここを攻めても落とす労と益が釣り合わんかもしれぬし」
「もし、陛下のような数年先を見越して準備をする者が中央の国の王に幾人か居れば。皇帝を自称するベルフに立て続けに6国も奪われはしなかったでしょう」
「このメルトは東に海、西に山岳、北に森 南に川を置く天然の要塞です。たしかに労は掛かりましょうがそれ以上に富があります叉、私が皇帝ベルフなら、将も軍師も名の知れた者がおらず、徴兵制を敷いていない国と成れば、御しやすかろうと思います、遅かれ早かれ。戦火は及びるのではないかと、不安は尽きません」
その答えは王と同じだった
マリーは王のそれを見抜いていた
「備えあれば憂いなしとも言います、心配が杞憂だったとしても、人を育てるという行為は国を個人をより豊かにします」
実は今の王は彼女と同じ考えだったしかしそれに気が付いたのは自分が老齢で体の自由が利かなくなって、あれこれ考え始めた近年の事だった
「まだ若いのに大したものだ‥」と言うつもりも無かったが自然に言葉に出てしまった
「恐縮です」と一言だけ返す
そうこうしている内に先ほどの側近が戻り一礼し
「御意は伝え、直ぐに準備取り掛からせましたが‥その、マルガレーテ様の職責は如何いたしましょう?」
「ふむ、どのような立場を望まれるか?賢者殿」
と王はストレートにマリーに聞く
「そうですね‥」と少し困ったという感じで考えるが
「戦略、戦術も学問も多少教えられますし、剣武も。ですが魔術の知識が一番ですし、人の師という立場も必要ですがあまり高すぎる地位も、行動を縛られてしまいますし他の者の不興を買いますので‥」
「ワシとしては軍にも席を置いて貰いたい所だが、これは難しいな」
側近はそこで
「では、教育関係は新設に成りますので事務方の雑事に適当な長を置き、マルガレーテ様は次長辺りで育成に専念。軍の過大な立場は不自由と仰られるなら陛下の直属の軍師では無く戦略担当官が宜しいのでは?。実質陛下の直軍は近衛に成っておりますし、直接戦争はほぼありません。周囲の不興を買う物でもありませんし‥それにもしもの事態に成って辞職の事がありましても立場上影響は少ないでしょう」
王とマリーは「妥当だ」とその意見に同意する
こうしてマリーは メルト国教育長、次官 国王陛下直属軍戦略担当官 という立場を得、退室するまでに辞令を受け取る事になる
城の外に出た時まだ昼過ぎ、1時過ぎくらいだろうか
せっかく早起きしたのだから、と、結局一日亭にずっと宿を取る事に成っていたジェイドを尋ねてみた。 だが既にジェイドは出かけていた、おかみさんに行き先を尋ねると
「兄さんなら大抵暇があれば自然広場に行ってるんじゃないかい?」と聞きそちらへ足を伸ばしてみる
城下街の中にありながら石畳でなく土と草と木を植えた公園で誰も使える面積の広い所謂公園の様な場所である、半分子供の遊び場となっているがマリーがジェイドを見つけたときはそういった光景ではなかった
ジェイドは練習用の刃引きしてある模擬剣を横に置き、方ひざで芝生に座り、同じく練習剣を持った小さな子供から青年と言っていい若者達が剣を振っているのを眺めていた、時々立ち上がり
「動作が大きいと相手にバレバレだぞ」とか声を掛けたり手本を見せたりしている、12,3人程集まっているだろうか
「いいか?そんなに思いっきり頭上から振ったら今から打ちますってバレバレだろ?。中段に構えて突くように斬るんだ」
と正中の構えから直突きで僅かに切っ先を持ち上げる様に振り下ろす
「えー、でもさー、それじゃ切れないじゃん」とちっちゃい少年がブーブー言う
「やってみりゃ分かるだろ、ほれ、どこを俺が狙ってるか分かるかー?」と頭上に剣を上げて上段袈裟斬りの構えを見せる
「えーと、上から僕の頭から肩?」
「そうだ、けどな中段の構えから真っ直ぐで少し上からならどうだ?」とやって見せる
「全然わかんない」
「そうだ、それにな剣は棍棒じゃないんだ、何の為に刃が付いてんだ、スッと流すようにすれば切れるんだ。包丁だっておまえのかーちゃんは上から力任せに叩きつけたりして料理すんのか?」
「しなーい」
遠撒きに見ていた保護者の、そのかーちゃん達が噴出す
その中にまじっている10歳~7歳の女の子数人が今度は「せんせー、おんなじ技ばっかりでつまんなーい、なんか違うのおしえてー」という
「んじゃ同じ形から下から上、あるいは横に打ってみろ、つまんねーかもしれないけど基礎は疎かにするな、繰り返す事で体がそれ用に慣れて強くなるんだ」
「へー」
「繰り返す程慣れて強く早くなる、ちょっと見てろ」
とジェイドは近くの木の一番下の枝を剣で払う。軽く払った様に見えた一撃だがあまりに早く目にも留まらぬ速さだった。それだけでなく、刃の無い練習用の剣で4センチ程の枝を綺麗にスパッと切断していた。
「ッ!?」と一同から声にならない声が挙がる
15~18の年長組からは無言
女の子達からはまるで魔法でも見たかのような「ふぁ~」という感嘆小さい男の子達は「うわずげー!」と声が挙がる
「お前らに今教えてるのがそうだよ。お前らに教えてる技も極めればこのくらいの事は出来るようになるっていうお手本だ。続けろ。さぼらず毎日やればお前らも絶対出来る様になるぞ」
「うおーマジかよー」と一同また剣を振り始める
ジェイドは再び離れ芝生に座って見学に戻る。一段落したのを確認してマリーは座っているジェイドに近づき、斜め後ろに立ち
「子供にモテるんだねジェイド」と声を掛ける
ジェイドはニンマリしてマリーを見て「みたいだな」と返す
「教えるのも上手だし、まさか子供に剣の指導をしてるとはね、意外」
「俺も意外だ、そんなつもりも無かったんだがなぁ」
「どういういきさつで、こんな事に?」
「暇あれば俺はどこでも訓練するんだが、おかみさんに自然広場なら誰でも入れるし広いよ、て聞いてな、ここでやってる内に見てたガキ共が集まってきてなぁ‥。こんな大惨事に‥」
「大惨事ね‥」
「とりあえず、俺の剣は我流に色んな国や名士の技が混じってるしどうしたもんかと思ったが、一番正道で才能に関係なく実戦向き且つ、一定の成果が出るであろう技の基礎をとりあえず教えてるが」
「いいんじゃない,其々成長して差が出てくればそれに合わせた戦い方になるんだし?」
「だな」「しかし」
「うん?」
「人に物を教えるってのは案外面白いもんだ。皆少しづつ違ってて、やり方も色々だ、せんせーて言われるのも悪くない」
「そうね、とっても似合ってたし」
「それと気づいたんだが、ここは「ちゃんと教える」奴が居ないんだな。道場とかないし 勉強も出来る奴が教える感じ、先生ってのが主婦やおっさんの片手間みたいのが多い」
「それにあのガキ共の方が、戦時っていう現実を直視してる」
「そうなの?」
「あいつらさ。俺が剣士や戦士になって、皇帝からこの国を守るんだ~!つってさ、自発的にやり方もしらないのに剣振ってたんだよ」
「頼もしいわね」
「大人は駄目だよなぁ~都合の悪い事から目を逸らして現実逃避して誤魔化して…」
「うーん、全部が全部そうって訳でもないけどねぇ」
「ほう?」
「実はさ‥」
とマリーはここで王城に呼ばれ、自分が後身の育成を願われたこと、教育機関の重役、王直下の官僚に任命された経緯をジェイドに説明した
「マジかよ、いきなり大出世だな。おめでとう」と素直に驚き祝福する
「正直、荷が重いけどね‥」
「昼間に弱いし酔っ払いだしな」
「あのね‥」
「今の見て思ったんだけどさジェイドも一枚噛んでみない?」
「は?何に」
「あたし、学問や魔術はともかく、剣武はね、ここ軍はアレだし‥あたしの剣は完全我流だし‥」
「ん、まあ、たしかになぁ、ここって名士と知られる剣士居ないし、軍も名の通った将も居ないしなぁ」
「既に所得の低い家の子にはそれに応じて国が補助金を出すのは通してあるし年齢、性別による制限も無し、国の兵、もしくは政治、学、農、商に関わる事が条件で無償教育もさせるつもりなんだけど。」
「タダでも、教えが受けられる、てなるとえらい人が集まりそうだなぁ」
「容易に想像が出来るんだけど、それに比して。さっき貴方が言ったように「ちゃんと教える、られる人」ていうのが殆ど居ないのよね‥」
「一世紀の平和ボケは深刻だな」
「そうなのよ」
「なるほど、それで「武」は俺にやらないか?って話か」
「うん、貴方の目的には沿わないかもしれないけど‥」
「ずっとここに居る訳じゃないしなぁ‥‥それに、そろそろ北に行こうと思ってたんだが‥」
「そうなの」
「一通り竜の話を聞いて回ったがゼロ収穫だったしな」
「みたいね」
「こりゃぁ、お前も一緒に行くか?て訳にもいかなくなってしまったなぁ‥」
「そう‥だね、王様の誘いは断れないし」
「俺もマリーと居るのは悪くないと思うが、当初の目的の大陸を見て回るのと竜は見つかりませんでしたと、投げるのもなぁ」
二人は思わず黙り込んでしまう、ジェイドは良い話を持ってきてくれたマリーに良い返事が出来ない申し訳なさ
マリーはジェイドと別れが迫っている事、あくまで旅と竜が優先な事を見せられた疎外感
それと「彼なら自分に答えて残ってくれるのではないか?」という勝手な期待をしていた自分への失望
「あー‥その少し考えさせてくれないか?」とすまなそうに言う
「そうだね、ちょっと急過ぎたかもね」と返すが
彼がその判断を覆す事は無いだろうと、半ば確信していた
この時マリーはそれならば。と彼女らしからぬ、直情的な思いで、人生を変える決断をした
そしてその計画を脳をフル稼働して整理し始めていた、それが状況を好転させる最善の方法かは分からなかったが、それ以外の事が思いつかなかった
メルトの王城前まで来て門番の兵に声を掛ける
「陛下に書状を頂、訪問しました。マルガレーテです、面会の取次ぎをお願いします」と書状を差し出す
兵士はそれを受け取り目を通し、それをマリーに返す
「承っております、私の後に付いて来てください」と歩き出し、城奥に誘導する
途中何度か他の通行監視の衛兵に話を通したが、何かをかんぐられる事も無くすんなり謁見の間に通された
マリーが昼間、王城を訪れたのは賢王フロウズに「呼ばれた」からである
皆の父とも言われる平和な時代の名君ではある、しかし今の時勢と成っては名君とは言えないのかもしれない
謁見の間にマリーが入ると王は既に王座に座って待っていた、マリーの姿を確認すると先に声を掛けた
「足が丈夫で無いのでね、座ったままで失礼するよ。マルガレーテ殿」と
「マルガレーテです陛下。」
「私を御呼びに成られたのはどのようなご用件でしょうか」
と、彼女には大体予想は付いていたがあえて聞く
「本来、ワシ自ら尋ねるのが礼儀だが老病でね、歩き回るのが辛い」
「存じております陛下、しかしながら私にはそういった病を治す術の持ち合わせはありませんが‥」
「マルガレーテ殿は術者としては長けているが神聖術の様な癒しの術はからっきしというのは聞いている」
「では‥」
「うむ、ワシは老齢だ、10年も生きないだろう。そこで貴方に頼みなのだが‥」
「時勢を考えれば。軍略、或いは後任の人材ですね?」
と先読し問う、更に「まだ若い4世の事でしょうか?」と答えも出す
王は流石に驚いたのを表情に出したが、すぐに冷静に取り繕いおどけたように言う
「話す手間が少なくて助かる、心を読めるようだね」と
「では、この後の手間も省かせて戴きますが」と、付け加え
「陛下のご子息は28歳、陛下によく似て優しく、穏健な方です、平和の名君と成られるでしょう。ですが今の時勢にあって少し頼りない、叉、陛下には治世の臣下を多くとも軍事、軍略に長けた者が少なく存じます。その辺りを心配されての事でしょうか」
「全くその通りだ、息子、の事は今からどうこうというのは難しいが、せめてアレを補佐する人材を欲しい」
「貴女は自分の時間を大切にする人だと聞いている、だから貴女自身にそれを頼むのは忍びない。貴女から見て、優秀、兵を統率出来る者を紹介・叉は育成して欲しい。無論城に住め、とは言わぬ‥どうだろうか」
「陛下は人の心を掴むのがお上手ですね。そういう事なら出来る範囲の事はお手伝いしましょう」と答える
「ですが、それにはいくつか要求があります」
「なにか?」
では、と一礼して王の顔を見据える
「1、多数の人間に同時に何かを教えるにはやはり「授業」のようにする場所が必要です、その場所の提供」
「2に、能力やヤル気を優先するなら、どこどこの家の者だから、とかの区別はいけません。皆同じ環境と条件で進める為にある程度の無償教育が必要です、そのために補助金の提供」
「3つに、その中から取立てて頂く人間に不分別や色眼鏡での登用があっては本末転倒になります、事、城に上げる人材の人事に関しては私に、もしくは私が選んだ人事官に一任されますよう」
「4つ、私は世間の評判はそれほど宜しくない。
故に指示、命令に従わない者も当初は、多少出るでしょう。なので、それに従わざる得ない程度の地位もしくは立場を表面上与えてくださりますよう」
「この4つです」
王はウンウンと頷き、「問題無い」といい、側に控えている側近に「今の条件で資金面は問題ないか?」と問う
「問題ありません、国庫も税収も安定しておりますし、不測の事態に対応出来るよう予備費も付けてありますこれを削れば」
「では速やかに用意をせよ」
「ハッ」
と即座に側近はその場を離れる
王は満足そうに白髭を撫でていたが、目の前の彼女の見識をもう少し聞いてみたかった
「ワシは少し心配し過ぎかな?。戦火と言っても、中央の事だしここを攻めても落とす労と益が釣り合わんかもしれぬし」
「もし、陛下のような数年先を見越して準備をする者が中央の国の王に幾人か居れば。皇帝を自称するベルフに立て続けに6国も奪われはしなかったでしょう」
「このメルトは東に海、西に山岳、北に森 南に川を置く天然の要塞です。たしかに労は掛かりましょうがそれ以上に富があります叉、私が皇帝ベルフなら、将も軍師も名の知れた者がおらず、徴兵制を敷いていない国と成れば、御しやすかろうと思います、遅かれ早かれ。戦火は及びるのではないかと、不安は尽きません」
その答えは王と同じだった
マリーは王のそれを見抜いていた
「備えあれば憂いなしとも言います、心配が杞憂だったとしても、人を育てるという行為は国を個人をより豊かにします」
実は今の王は彼女と同じ考えだったしかしそれに気が付いたのは自分が老齢で体の自由が利かなくなって、あれこれ考え始めた近年の事だった
「まだ若いのに大したものだ‥」と言うつもりも無かったが自然に言葉に出てしまった
「恐縮です」と一言だけ返す
そうこうしている内に先ほどの側近が戻り一礼し
「御意は伝え、直ぐに準備取り掛からせましたが‥その、マルガレーテ様の職責は如何いたしましょう?」
「ふむ、どのような立場を望まれるか?賢者殿」
と王はストレートにマリーに聞く
「そうですね‥」と少し困ったという感じで考えるが
「戦略、戦術も学問も多少教えられますし、剣武も。ですが魔術の知識が一番ですし、人の師という立場も必要ですがあまり高すぎる地位も、行動を縛られてしまいますし他の者の不興を買いますので‥」
「ワシとしては軍にも席を置いて貰いたい所だが、これは難しいな」
側近はそこで
「では、教育関係は新設に成りますので事務方の雑事に適当な長を置き、マルガレーテ様は次長辺りで育成に専念。軍の過大な立場は不自由と仰られるなら陛下の直属の軍師では無く戦略担当官が宜しいのでは?。実質陛下の直軍は近衛に成っておりますし、直接戦争はほぼありません。周囲の不興を買う物でもありませんし‥それにもしもの事態に成って辞職の事がありましても立場上影響は少ないでしょう」
王とマリーは「妥当だ」とその意見に同意する
こうしてマリーは メルト国教育長、次官 国王陛下直属軍戦略担当官 という立場を得、退室するまでに辞令を受け取る事になる
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せっかく早起きしたのだから、と、結局一日亭にずっと宿を取る事に成っていたジェイドを尋ねてみた。 だが既にジェイドは出かけていた、おかみさんに行き先を尋ねると
「兄さんなら大抵暇があれば自然広場に行ってるんじゃないかい?」と聞きそちらへ足を伸ばしてみる
城下街の中にありながら石畳でなく土と草と木を植えた公園で誰も使える面積の広い所謂公園の様な場所である、半分子供の遊び場となっているがマリーがジェイドを見つけたときはそういった光景ではなかった
ジェイドは練習用の刃引きしてある模擬剣を横に置き、方ひざで芝生に座り、同じく練習剣を持った小さな子供から青年と言っていい若者達が剣を振っているのを眺めていた、時々立ち上がり
「動作が大きいと相手にバレバレだぞ」とか声を掛けたり手本を見せたりしている、12,3人程集まっているだろうか
「いいか?そんなに思いっきり頭上から振ったら今から打ちますってバレバレだろ?。中段に構えて突くように斬るんだ」
と正中の構えから直突きで僅かに切っ先を持ち上げる様に振り下ろす
「えー、でもさー、それじゃ切れないじゃん」とちっちゃい少年がブーブー言う
「やってみりゃ分かるだろ、ほれ、どこを俺が狙ってるか分かるかー?」と頭上に剣を上げて上段袈裟斬りの構えを見せる
「えーと、上から僕の頭から肩?」
「そうだ、けどな中段の構えから真っ直ぐで少し上からならどうだ?」とやって見せる
「全然わかんない」
「そうだ、それにな剣は棍棒じゃないんだ、何の為に刃が付いてんだ、スッと流すようにすれば切れるんだ。包丁だっておまえのかーちゃんは上から力任せに叩きつけたりして料理すんのか?」
「しなーい」
遠撒きに見ていた保護者の、そのかーちゃん達が噴出す
その中にまじっている10歳~7歳の女の子数人が今度は「せんせー、おんなじ技ばっかりでつまんなーい、なんか違うのおしえてー」という
「んじゃ同じ形から下から上、あるいは横に打ってみろ、つまんねーかもしれないけど基礎は疎かにするな、繰り返す事で体がそれ用に慣れて強くなるんだ」
「へー」
「繰り返す程慣れて強く早くなる、ちょっと見てろ」
とジェイドは近くの木の一番下の枝を剣で払う。軽く払った様に見えた一撃だがあまりに早く目にも留まらぬ速さだった。それだけでなく、刃の無い練習用の剣で4センチ程の枝を綺麗にスパッと切断していた。
「ッ!?」と一同から声にならない声が挙がる
15~18の年長組からは無言
女の子達からはまるで魔法でも見たかのような「ふぁ~」という感嘆小さい男の子達は「うわずげー!」と声が挙がる
「お前らに今教えてるのがそうだよ。お前らに教えてる技も極めればこのくらいの事は出来るようになるっていうお手本だ。続けろ。さぼらず毎日やればお前らも絶対出来る様になるぞ」
「うおーマジかよー」と一同また剣を振り始める
ジェイドは再び離れ芝生に座って見学に戻る。一段落したのを確認してマリーは座っているジェイドに近づき、斜め後ろに立ち
「子供にモテるんだねジェイド」と声を掛ける
ジェイドはニンマリしてマリーを見て「みたいだな」と返す
「教えるのも上手だし、まさか子供に剣の指導をしてるとはね、意外」
「俺も意外だ、そんなつもりも無かったんだがなぁ」
「どういういきさつで、こんな事に?」
「暇あれば俺はどこでも訓練するんだが、おかみさんに自然広場なら誰でも入れるし広いよ、て聞いてな、ここでやってる内に見てたガキ共が集まってきてなぁ‥。こんな大惨事に‥」
「大惨事ね‥」
「とりあえず、俺の剣は我流に色んな国や名士の技が混じってるしどうしたもんかと思ったが、一番正道で才能に関係なく実戦向き且つ、一定の成果が出るであろう技の基礎をとりあえず教えてるが」
「いいんじゃない,其々成長して差が出てくればそれに合わせた戦い方になるんだし?」
「だな」「しかし」
「うん?」
「人に物を教えるってのは案外面白いもんだ。皆少しづつ違ってて、やり方も色々だ、せんせーて言われるのも悪くない」
「そうね、とっても似合ってたし」
「それと気づいたんだが、ここは「ちゃんと教える」奴が居ないんだな。道場とかないし 勉強も出来る奴が教える感じ、先生ってのが主婦やおっさんの片手間みたいのが多い」
「それにあのガキ共の方が、戦時っていう現実を直視してる」
「そうなの?」
「あいつらさ。俺が剣士や戦士になって、皇帝からこの国を守るんだ~!つってさ、自発的にやり方もしらないのに剣振ってたんだよ」
「頼もしいわね」
「大人は駄目だよなぁ~都合の悪い事から目を逸らして現実逃避して誤魔化して…」
「うーん、全部が全部そうって訳でもないけどねぇ」
「ほう?」
「実はさ‥」
とマリーはここで王城に呼ばれ、自分が後身の育成を願われたこと、教育機関の重役、王直下の官僚に任命された経緯をジェイドに説明した
「マジかよ、いきなり大出世だな。おめでとう」と素直に驚き祝福する
「正直、荷が重いけどね‥」
「昼間に弱いし酔っ払いだしな」
「あのね‥」
「今の見て思ったんだけどさジェイドも一枚噛んでみない?」
「は?何に」
「あたし、学問や魔術はともかく、剣武はね、ここ軍はアレだし‥あたしの剣は完全我流だし‥」
「ん、まあ、たしかになぁ、ここって名士と知られる剣士居ないし、軍も名の通った将も居ないしなぁ」
「既に所得の低い家の子にはそれに応じて国が補助金を出すのは通してあるし年齢、性別による制限も無し、国の兵、もしくは政治、学、農、商に関わる事が条件で無償教育もさせるつもりなんだけど。」
「タダでも、教えが受けられる、てなるとえらい人が集まりそうだなぁ」
「容易に想像が出来るんだけど、それに比して。さっき貴方が言ったように「ちゃんと教える、られる人」ていうのが殆ど居ないのよね‥」
「一世紀の平和ボケは深刻だな」
「そうなのよ」
「なるほど、それで「武」は俺にやらないか?って話か」
「うん、貴方の目的には沿わないかもしれないけど‥」
「ずっとここに居る訳じゃないしなぁ‥‥それに、そろそろ北に行こうと思ってたんだが‥」
「そうなの」
「一通り竜の話を聞いて回ったがゼロ収穫だったしな」
「みたいね」
「こりゃぁ、お前も一緒に行くか?て訳にもいかなくなってしまったなぁ‥」
「そう‥だね、王様の誘いは断れないし」
「俺もマリーと居るのは悪くないと思うが、当初の目的の大陸を見て回るのと竜は見つかりませんでしたと、投げるのもなぁ」
二人は思わず黙り込んでしまう、ジェイドは良い話を持ってきてくれたマリーに良い返事が出来ない申し訳なさ
マリーはジェイドと別れが迫っている事、あくまで旅と竜が優先な事を見せられた疎外感
それと「彼なら自分に答えて残ってくれるのではないか?」という勝手な期待をしていた自分への失望
「あー‥その少し考えさせてくれないか?」とすまなそうに言う
「そうだね、ちょっと急過ぎたかもね」と返すが
彼がその判断を覆す事は無いだろうと、半ば確信していた
この時マリーはそれならば。と彼女らしからぬ、直情的な思いで、人生を変える決断をした
そしてその計画を脳をフル稼働して整理し始めていた、それが状況を好転させる最善の方法かは分からなかったが、それ以外の事が思いつかなかった
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小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
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