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水魚の交わり
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幸か不幸か、七日目にその機会が訪れる。ただ、夜だったのでレオは思いきり寝てたが、アルに優しくない起こされ方をして現場対応に出る事になる
「にーちゃん!!出たよ!南!!」と云いながら襟首掴んでガクガク揺さぶってた
「レオさんて意外とのん気ですね‥」
「にーちゃんは眠りが深いからね、あのくらいしないと、まあ、寝てる隙に襲い易いけど‥」
「お前らな‥」
そんな緊張感の欠片も無く向ったが現場は大惨事だった。一応事前命令が徹底されていたので衛兵の類も盾と槍を構えて防御主体、距離を保ち足止めに終始して時間を稼いでいた
お陰で、死者は出てないが、住民なんかも窓から見ててかなり騒がしい、それもその筈で出たのは結構な大物だろう、でかいムカデ
「デカ!」とかアルも驚いたが実際そうなんだから仕方無い、軽く三メートルはあるだろうが、これはこの世界の中ではギリギリ中型だろう
侵入してきたというより迷い込んだ感じで街の南門から不幸にも、道に沿って北上しただけだが、集まって来た兵らに囲まれて反撃に近い状況だ
レオは周囲の兵を下がらせて早速一対一で対峙する「強敵」な理由は、現代のムカデとあんま変わらん、雑食だし、考えてないし、メチャ頑丈、踏んでみれば分るが、あいつ等平気なくらい圧と打撃に強い
当初の方針通り「試して」みた、自身に継続回復魔法だけ掛けて剣での勝負を挑む
これも幸いだが、ムカデはあんまり早くないし攻撃の為の武器が口、顎くらいなので実際タイマンだとレオなら余裕で避けられる、この相手でもまだ「見て避けられる」範囲だった
「おっしゃ!」とか思って立ち上がる様な姿勢から上から噛み付きに来るムカデの攻撃を横に飛びながらかわし、移動と回避と同時に横に剣を打ち付けた
が、全然切れない、一応、殻のある背中側を避けて、横に無数に生えてる足、横側を切ったのだがそれでも通らない
「硬え!」とか思わず驚いて言ったが実際問題、虫種が強いのはコレがあるからだ、まず、甲虫だと通常の武器だとあんまりちゃんと切れない、ただ、それも予想の範囲内だ
「アル!」「あいよ!」と二人は言ってアルゼンタは予備の武器を下からトスする様に投擲、これをレオは左手で受け取りムカデの突進を避けながら、鞘から抜いて同じ様に横に切った。そしてこれが通って、ムカデの足を二本斬り腹にも届いた
「おお!!」と自身で言いながら同じく野次馬からの歓声が挙がる
そう、予備武器、エルフ集落の一件で報酬として授かった精霊武具である。勿論ドワーフ産の名剣ではあるが風精霊の力も付与されている、見た目こそミドルサイズの片刃の細剣だが頑丈さと切断力が半端ではない
ムカデは被弾でムカついたのか、窮鼠と化したのか分らないが全力前進から噛み付きを敢行
だが、レオから見ればそれでも「ノロい」くらいだ、自身の体を左二十度に傾けながら、右手の精霊武器でムカデの顎に突き返した
その一撃はムカデの牙と顎を容易く折り脳天までスコンとあっさり突き抜けた
ムカデは剣が刺さったままくねる様に暴れまわるが巻き込まれては堪らないと、レオは相手を蹴り飛ばして反動で剣を引き抜き、後退して見送った
一分は暴れてただろう
その後、ピクリとも動かなくなり絶命した
(意外に余裕じゃん)とは思ったが
それも(この武器のお陰だな)と自ら自分を戒めた
ムカデが絶命したのにあわせて周囲から絶叫に近い歓声が挙がった、そう、街の中、多くの住民の居る住宅地の真っ只中、滅多に見れない虫の襲来、そしてタイマンでの強敵、巨大虫を倒した。深夜零時の大事件なのであった
冒険者や狩人の専門家、パーティや術士に寄る攻撃魔法での止め、毒付き武器なんかでも狩れる例は多々あるが、剣士が物理的に個人で、というのは殆ど例がない。それを現実に今、大勢が見たのであるから当然の反応ではある
翌日からもこの事件の話題で首都はもちきりだった、当人にそのつもりも無かったのだが、また「凄い剣士が現れた」とか「天才だ、名人だ」とか噂され
レオらの滞在する駐在所なんかにも住民が見に来て
握手を強請ったり、賞賛されたりと大変だった
「やれやれ‥また、大事になったな‥」
「んー、でもいいんじゃない?事実でしかないし」
そうアルも気楽に言ったが、それで済むとも思えなかった
「ただ、俺が凄い訳じゃない、多分武器があればアルでも狩れる」
「え?そう!?」
「基本的にこっちが被弾しないなら通る武器とかあればなんとかなるな、アルはその第一条件をクリアしてるから。まあ、長老様に何となくそれでいいよ、で授かった剣のお陰が殆どだしな」
「無かったら無理?」
「多分大丈夫だろう、俺はエンチャントウェポン持ってるし。武器に火と聖属性魔法を付与出来るから、精霊剣程ではないが殺傷力は上げられる」
「そっかー」
「でも、騒ぎになるのはしょうがないかも‥私も一人で大型虫を狩るのを見たのは始めてですし‥」
「エルフ族も森に住んでるからな、はぐれ虫には会いやすいだろう」
「そうかも、プリムちゃんはどうしてるの?」
「いえ、我々は魔法がありますので、それと一応集落には御香とかお守りが置いてありますので向こうから避けますねそれでも入ってくる場合も有りますが、脅かせば逃げる事が多いですし、イザ戦闘になっても、高種精霊召喚が使える術士等に任せます」
「魔法も便利だね」
「そーだな、有ると無いとじゃ大違いでもある」
「僕も覚えた方がいいのかなぁ‥」
「それは何とも言えん、魔術はかなり才能に依存する、無ければ茨の道だぞ?」
「そうなの?」
「ええ‥エルフは種族的に霊族に近いのであっさり使える事が多いですが人間で精霊術を使うのは万に一人くらいの才能が必要ですね。魔術なら百に一人、神聖術なら数十に一人くらいです、よしんば使えても、攻魔力、属性への親和性、学問、努力と」
「ええ~‥」
「まあ、それにソロで何でもやるてんじゃないならそんなに要らないかもな‥、俺も聖騎士とかの部類に入るけど実際は半端だし」
「半端??」
「術は準備とか道具とか詠唱とか居る、これをやりながら戦うてのは実際半端者になる、どっちか片方、順番にしか出来ないからなぁ」
「あー」
「ま、好奇心を持つ、てのは悪い事じゃない、向上の源泉だからな」
そう言った流れで、レオはブランドンに頼み、アルとプリムを王国の学術施設に入れてもらう、と言っても本格的に学ばさせるとかでもない
昼間の空いた時間に書籍の閲覧程度だ、プリムは知学者としては優秀だし、実際精霊術士でもある、アルゼンタと一緒にしといて手解きしてもらえばいい、適当に興味のある事をやらせて置けばいいだろうくらいのモノだ
依頼、と言ってもどうせ暇だし、公的施設を使える環境もそう無いだろう、経験というやつだ
結果から言えば、だがアルはその点、術の才能は普通だった、普通というのも悪いではなく偏りが無く何でもそこそこいけるという意味で
魔力(MP)もそれなりあるし、攻魔力(威力値)も普通、五大元素(火とか水の属性)に対してもどれが得意とか無い、集中力も制御力もあるし
何より、好奇心が旺盛で、努力家でもある、これは最初にアルを拾ってレオが基礎学問や剣術を指導し三ヶ月でそれなりになっているのを見ても明らかだ
一ヶ月で初歩魔術(古代語魔法)のクイックネスとかライト、テレパシーとか使えるようになった。
まあ、これもプリムが保持してる術と習得した理由と同じで「あったら便利そう」とかいう好みで選んだ訳だが。実際問題、攻撃魔法とかはレオの言った通りあっても使わないし殴った方が早いからだ
長い詠唱と準備で一発大した事無い攻撃魔法撃つより。飛び込んでぶん殴った方が楽、だから魔法剣士とかはレオみたいに回復とか防御アップとか一回発動させれば継続して続く魔法を保持する事が多い
反面、レオの方はその一ヶ月は大変だった。常時誰かに面会を求められ、街の見回りなんかも野次馬、果ては兵まで「ご教授を!」とか言ってくるし気の休まる暇もない
そして、直属の雇い主以外からも面会とか勧誘も受けるが、驚いたのは王子事「アルバート=シュバイク」にもそれを受けた事だ
「君が「あの」天才剣士レオンか!」と街中の巡回中に現れレオと握手して聴衆の前で手を持ち上げる
「皆!彼と僕が居ればこの国は安心だ!共に未来を歩もう!」とか超無責任な宣伝した
普通は「ハァ‥」とか「面識も無いのに何だ?」とか思う行動だろうがレオはそう思わなかった
「コイツは危険だ」と本能に近い印象を持ったのである
そこで「どうせ直接会わんだろう」と後回しにしていたが「王族」の事をブランドンと面会し聞き、自身でも情報を集約した
他国の事ではあるのだが王子事「アルバート=シュバイク」の代理時の政策と議事の中身で危機感すら覚えた
まずそこそこ王子は美男子で若い二十五歳、現王の体調が優れない時や長期療養時には代理決定をする、代理決定と言っても普通は最終的な「良い」「ダメ」だけだが
基本的に専門家とか閣僚とかの意見を適える事が少ない、王は出てこれ無い事を良い事に、内政そっちのけで早々に政治宣伝を始める
具体的には、支持に消極的な貴族、豪族、領主等への配慮、閣僚への事前の約束、要するに甘言とワイロだ、そこで周囲に従う者を集める、ワイロと言っても直接ではない、領主や閣僚に交付税や立場の認定、言う事聞く奴に高い立場を与えたり、その立場に合わせて給与や賞与を与えたりというやつ
国民には一時金とか減税なんかを放言し軍備を整え、より強い国を作る、魔物との争いも収束されると宣伝。現王の後は私がシュバイクを大きな国にする、現在の王国の苦境は外的要因である、と平然と断言した
典型的なポピュリズム政治という奴だ。だから放言であってまず適える事はない、これはよくある歴史だ、口で自信たっぷりに民衆に約束し出来もしない確約をする、権力を握ったら一転して全部反故て奴
だが、そんなのでも上手くいく事は歴史が証明している、殆どの人間は自信たっぷりに若い強い希望のある人が言えば、その言葉を信じるのだから
レオにはそれが容易に分った、僅かに見た印象と大まかな行動把握で十分である、だから危機感を持った、というより
「こんなのが王様になったら滅びるぞ‥」という同情の様なモノがあった、王家がどうこうと言うより国民が死ぬだろうと
反面、姫と面会が適って話した、受けた印象である、対等な交流でもなく、今回の虫襲撃の一件での功績から謝意を述べ、軽く話しただけだが。少なくとも「優しく、聡明」というブランドンの評価は妥当だ
彼女は十七歳だが、大人びたクールな印象だ、実年齢より遥かに上に見えるだろう、青の髪と眼のキッとした目元の美人であるがどこか儚げでもある
「レオン殿には感謝を」
「いえ、仕事ですから」
「何か褒美を出さねばなりませんね、わたくしが雇った、事になっていますし公人ではありませんから。‥いえ、報酬はどうでもいいでしたね?」
「左様です。旅の仲間、依頼に対しての環境整備こちらの三つの条件への配慮、既に十分受けています」
「そうですね‥それにしてもレオン殿は冒険者や旅人、闘士には見えませんね」
「どうしてそう思います?」
「見た目もありますが、礼、言葉使い、マナー、それなりの教育を受けた者の振る舞いに見えます」
「左様です。ですがそれは「元」です今は旅人なのは確かです」
「本名を伺っても?」
「レオーネ=ベルグと申します」
「‥そう‥、レオーネ‥。確か、クルーデ国の子爵家に同じ名前の人が居ましたね」
「その様な細事をよく覚えてますね」
「いえ、細事ではありません。魔軍の指揮官と戦った勇者でしょう?貴方が同姓同名の別人でなければ、ですが」
「同姓同名の別人ですよ」
「そうですね‥、今後ですがレオン殿には色々と要請が入っていますので」
「姫様の方にですか?」
「ええ‥わたくしが雇った、と成っているので介して何かさせようと言うのでしょう。特に兄がご迷惑を掛けた様で申し訳ありません」
「構いませんよ、ただ不敬ながら、彼の命や願いは受けませんが」
「自由な立場、でしたか?」
「それもありますが、彼は嫌いなんでね」
「ふ‥そうですか。何れにしろ、要請の内容は後で通知します、都合の良いモノがあればこなしてください」
「はい、では」
と短い会談を切り上げた。それで十分である。「凄まじい頭のキレだな」としか感想がないから
一つに、彼女と会うのは始めてであるが彼女の側近でもある、大佐に出した条件をちゃんと把握し覚えていた事「報酬はどうでもいい、ですね?」
二つに、レオの出で立ち、姫様に会うのだからと最低限の身嗜みを整えては居たが、服装は正に旅人にしてある、にも関わらず、立ち振る舞いだけで「旅人ではない」と言った
三つに、レオーネという名前を知っていた事、確かにレオーネ=ベルグは魔軍と戦って討伐したとされているし、まだあれから二年になってないが、その事件は別の国しかも大陸の西と東である
そして、その遠方の大国のたかが地方領主の子の名前まで憶えて居る、明確に「子爵家の」とまで言った、並大抵の記憶力じゃないだろう
四つに、「貴方が西の勇者でしょ?」と聞いて「別人ですよ」と返した、そこでそれ以上追求し無かった事。
偽名を名乗って旅人をしているのだから彼なりの事情がある、本名をあまり知られたくないのだろう、と彼女は先読みして配慮した事
五つに、レオが王子を嫌いだと言った時、僅かに「ふ‥」と、安心した笑みを見せた、つまりレオと彼女の王子に対する見解は同じだという事、安っぽいポピュリストである事を、どっちも見抜いている
レオの人生で最も聡明な女性との出会いが彼女だった、だから此処に長く居る事になった
「にーちゃん!!出たよ!南!!」と云いながら襟首掴んでガクガク揺さぶってた
「レオさんて意外とのん気ですね‥」
「にーちゃんは眠りが深いからね、あのくらいしないと、まあ、寝てる隙に襲い易いけど‥」
「お前らな‥」
そんな緊張感の欠片も無く向ったが現場は大惨事だった。一応事前命令が徹底されていたので衛兵の類も盾と槍を構えて防御主体、距離を保ち足止めに終始して時間を稼いでいた
お陰で、死者は出てないが、住民なんかも窓から見ててかなり騒がしい、それもその筈で出たのは結構な大物だろう、でかいムカデ
「デカ!」とかアルも驚いたが実際そうなんだから仕方無い、軽く三メートルはあるだろうが、これはこの世界の中ではギリギリ中型だろう
侵入してきたというより迷い込んだ感じで街の南門から不幸にも、道に沿って北上しただけだが、集まって来た兵らに囲まれて反撃に近い状況だ
レオは周囲の兵を下がらせて早速一対一で対峙する「強敵」な理由は、現代のムカデとあんま変わらん、雑食だし、考えてないし、メチャ頑丈、踏んでみれば分るが、あいつ等平気なくらい圧と打撃に強い
当初の方針通り「試して」みた、自身に継続回復魔法だけ掛けて剣での勝負を挑む
これも幸いだが、ムカデはあんまり早くないし攻撃の為の武器が口、顎くらいなので実際タイマンだとレオなら余裕で避けられる、この相手でもまだ「見て避けられる」範囲だった
「おっしゃ!」とか思って立ち上がる様な姿勢から上から噛み付きに来るムカデの攻撃を横に飛びながらかわし、移動と回避と同時に横に剣を打ち付けた
が、全然切れない、一応、殻のある背中側を避けて、横に無数に生えてる足、横側を切ったのだがそれでも通らない
「硬え!」とか思わず驚いて言ったが実際問題、虫種が強いのはコレがあるからだ、まず、甲虫だと通常の武器だとあんまりちゃんと切れない、ただ、それも予想の範囲内だ
「アル!」「あいよ!」と二人は言ってアルゼンタは予備の武器を下からトスする様に投擲、これをレオは左手で受け取りムカデの突進を避けながら、鞘から抜いて同じ様に横に切った。そしてこれが通って、ムカデの足を二本斬り腹にも届いた
「おお!!」と自身で言いながら同じく野次馬からの歓声が挙がる
そう、予備武器、エルフ集落の一件で報酬として授かった精霊武具である。勿論ドワーフ産の名剣ではあるが風精霊の力も付与されている、見た目こそミドルサイズの片刃の細剣だが頑丈さと切断力が半端ではない
ムカデは被弾でムカついたのか、窮鼠と化したのか分らないが全力前進から噛み付きを敢行
だが、レオから見ればそれでも「ノロい」くらいだ、自身の体を左二十度に傾けながら、右手の精霊武器でムカデの顎に突き返した
その一撃はムカデの牙と顎を容易く折り脳天までスコンとあっさり突き抜けた
ムカデは剣が刺さったままくねる様に暴れまわるが巻き込まれては堪らないと、レオは相手を蹴り飛ばして反動で剣を引き抜き、後退して見送った
一分は暴れてただろう
その後、ピクリとも動かなくなり絶命した
(意外に余裕じゃん)とは思ったが
それも(この武器のお陰だな)と自ら自分を戒めた
ムカデが絶命したのにあわせて周囲から絶叫に近い歓声が挙がった、そう、街の中、多くの住民の居る住宅地の真っ只中、滅多に見れない虫の襲来、そしてタイマンでの強敵、巨大虫を倒した。深夜零時の大事件なのであった
冒険者や狩人の専門家、パーティや術士に寄る攻撃魔法での止め、毒付き武器なんかでも狩れる例は多々あるが、剣士が物理的に個人で、というのは殆ど例がない。それを現実に今、大勢が見たのであるから当然の反応ではある
翌日からもこの事件の話題で首都はもちきりだった、当人にそのつもりも無かったのだが、また「凄い剣士が現れた」とか「天才だ、名人だ」とか噂され
レオらの滞在する駐在所なんかにも住民が見に来て
握手を強請ったり、賞賛されたりと大変だった
「やれやれ‥また、大事になったな‥」
「んー、でもいいんじゃない?事実でしかないし」
そうアルも気楽に言ったが、それで済むとも思えなかった
「ただ、俺が凄い訳じゃない、多分武器があればアルでも狩れる」
「え?そう!?」
「基本的にこっちが被弾しないなら通る武器とかあればなんとかなるな、アルはその第一条件をクリアしてるから。まあ、長老様に何となくそれでいいよ、で授かった剣のお陰が殆どだしな」
「無かったら無理?」
「多分大丈夫だろう、俺はエンチャントウェポン持ってるし。武器に火と聖属性魔法を付与出来るから、精霊剣程ではないが殺傷力は上げられる」
「そっかー」
「でも、騒ぎになるのはしょうがないかも‥私も一人で大型虫を狩るのを見たのは始めてですし‥」
「エルフ族も森に住んでるからな、はぐれ虫には会いやすいだろう」
「そうかも、プリムちゃんはどうしてるの?」
「いえ、我々は魔法がありますので、それと一応集落には御香とかお守りが置いてありますので向こうから避けますねそれでも入ってくる場合も有りますが、脅かせば逃げる事が多いですし、イザ戦闘になっても、高種精霊召喚が使える術士等に任せます」
「魔法も便利だね」
「そーだな、有ると無いとじゃ大違いでもある」
「僕も覚えた方がいいのかなぁ‥」
「それは何とも言えん、魔術はかなり才能に依存する、無ければ茨の道だぞ?」
「そうなの?」
「ええ‥エルフは種族的に霊族に近いのであっさり使える事が多いですが人間で精霊術を使うのは万に一人くらいの才能が必要ですね。魔術なら百に一人、神聖術なら数十に一人くらいです、よしんば使えても、攻魔力、属性への親和性、学問、努力と」
「ええ~‥」
「まあ、それにソロで何でもやるてんじゃないならそんなに要らないかもな‥、俺も聖騎士とかの部類に入るけど実際は半端だし」
「半端??」
「術は準備とか道具とか詠唱とか居る、これをやりながら戦うてのは実際半端者になる、どっちか片方、順番にしか出来ないからなぁ」
「あー」
「ま、好奇心を持つ、てのは悪い事じゃない、向上の源泉だからな」
そう言った流れで、レオはブランドンに頼み、アルとプリムを王国の学術施設に入れてもらう、と言っても本格的に学ばさせるとかでもない
昼間の空いた時間に書籍の閲覧程度だ、プリムは知学者としては優秀だし、実際精霊術士でもある、アルゼンタと一緒にしといて手解きしてもらえばいい、適当に興味のある事をやらせて置けばいいだろうくらいのモノだ
依頼、と言ってもどうせ暇だし、公的施設を使える環境もそう無いだろう、経験というやつだ
結果から言えば、だがアルはその点、術の才能は普通だった、普通というのも悪いではなく偏りが無く何でもそこそこいけるという意味で
魔力(MP)もそれなりあるし、攻魔力(威力値)も普通、五大元素(火とか水の属性)に対してもどれが得意とか無い、集中力も制御力もあるし
何より、好奇心が旺盛で、努力家でもある、これは最初にアルを拾ってレオが基礎学問や剣術を指導し三ヶ月でそれなりになっているのを見ても明らかだ
一ヶ月で初歩魔術(古代語魔法)のクイックネスとかライト、テレパシーとか使えるようになった。
まあ、これもプリムが保持してる術と習得した理由と同じで「あったら便利そう」とかいう好みで選んだ訳だが。実際問題、攻撃魔法とかはレオの言った通りあっても使わないし殴った方が早いからだ
長い詠唱と準備で一発大した事無い攻撃魔法撃つより。飛び込んでぶん殴った方が楽、だから魔法剣士とかはレオみたいに回復とか防御アップとか一回発動させれば継続して続く魔法を保持する事が多い
反面、レオの方はその一ヶ月は大変だった。常時誰かに面会を求められ、街の見回りなんかも野次馬、果ては兵まで「ご教授を!」とか言ってくるし気の休まる暇もない
そして、直属の雇い主以外からも面会とか勧誘も受けるが、驚いたのは王子事「アルバート=シュバイク」にもそれを受けた事だ
「君が「あの」天才剣士レオンか!」と街中の巡回中に現れレオと握手して聴衆の前で手を持ち上げる
「皆!彼と僕が居ればこの国は安心だ!共に未来を歩もう!」とか超無責任な宣伝した
普通は「ハァ‥」とか「面識も無いのに何だ?」とか思う行動だろうがレオはそう思わなかった
「コイツは危険だ」と本能に近い印象を持ったのである
そこで「どうせ直接会わんだろう」と後回しにしていたが「王族」の事をブランドンと面会し聞き、自身でも情報を集約した
他国の事ではあるのだが王子事「アルバート=シュバイク」の代理時の政策と議事の中身で危機感すら覚えた
まずそこそこ王子は美男子で若い二十五歳、現王の体調が優れない時や長期療養時には代理決定をする、代理決定と言っても普通は最終的な「良い」「ダメ」だけだが
基本的に専門家とか閣僚とかの意見を適える事が少ない、王は出てこれ無い事を良い事に、内政そっちのけで早々に政治宣伝を始める
具体的には、支持に消極的な貴族、豪族、領主等への配慮、閣僚への事前の約束、要するに甘言とワイロだ、そこで周囲に従う者を集める、ワイロと言っても直接ではない、領主や閣僚に交付税や立場の認定、言う事聞く奴に高い立場を与えたり、その立場に合わせて給与や賞与を与えたりというやつ
国民には一時金とか減税なんかを放言し軍備を整え、より強い国を作る、魔物との争いも収束されると宣伝。現王の後は私がシュバイクを大きな国にする、現在の王国の苦境は外的要因である、と平然と断言した
典型的なポピュリズム政治という奴だ。だから放言であってまず適える事はない、これはよくある歴史だ、口で自信たっぷりに民衆に約束し出来もしない確約をする、権力を握ったら一転して全部反故て奴
だが、そんなのでも上手くいく事は歴史が証明している、殆どの人間は自信たっぷりに若い強い希望のある人が言えば、その言葉を信じるのだから
レオにはそれが容易に分った、僅かに見た印象と大まかな行動把握で十分である、だから危機感を持った、というより
「こんなのが王様になったら滅びるぞ‥」という同情の様なモノがあった、王家がどうこうと言うより国民が死ぬだろうと
反面、姫と面会が適って話した、受けた印象である、対等な交流でもなく、今回の虫襲撃の一件での功績から謝意を述べ、軽く話しただけだが。少なくとも「優しく、聡明」というブランドンの評価は妥当だ
彼女は十七歳だが、大人びたクールな印象だ、実年齢より遥かに上に見えるだろう、青の髪と眼のキッとした目元の美人であるがどこか儚げでもある
「レオン殿には感謝を」
「いえ、仕事ですから」
「何か褒美を出さねばなりませんね、わたくしが雇った、事になっていますし公人ではありませんから。‥いえ、報酬はどうでもいいでしたね?」
「左様です。旅の仲間、依頼に対しての環境整備こちらの三つの条件への配慮、既に十分受けています」
「そうですね‥それにしてもレオン殿は冒険者や旅人、闘士には見えませんね」
「どうしてそう思います?」
「見た目もありますが、礼、言葉使い、マナー、それなりの教育を受けた者の振る舞いに見えます」
「左様です。ですがそれは「元」です今は旅人なのは確かです」
「本名を伺っても?」
「レオーネ=ベルグと申します」
「‥そう‥、レオーネ‥。確か、クルーデ国の子爵家に同じ名前の人が居ましたね」
「その様な細事をよく覚えてますね」
「いえ、細事ではありません。魔軍の指揮官と戦った勇者でしょう?貴方が同姓同名の別人でなければ、ですが」
「同姓同名の別人ですよ」
「そうですね‥、今後ですがレオン殿には色々と要請が入っていますので」
「姫様の方にですか?」
「ええ‥わたくしが雇った、と成っているので介して何かさせようと言うのでしょう。特に兄がご迷惑を掛けた様で申し訳ありません」
「構いませんよ、ただ不敬ながら、彼の命や願いは受けませんが」
「自由な立場、でしたか?」
「それもありますが、彼は嫌いなんでね」
「ふ‥そうですか。何れにしろ、要請の内容は後で通知します、都合の良いモノがあればこなしてください」
「はい、では」
と短い会談を切り上げた。それで十分である。「凄まじい頭のキレだな」としか感想がないから
一つに、彼女と会うのは始めてであるが彼女の側近でもある、大佐に出した条件をちゃんと把握し覚えていた事「報酬はどうでもいい、ですね?」
二つに、レオの出で立ち、姫様に会うのだからと最低限の身嗜みを整えては居たが、服装は正に旅人にしてある、にも関わらず、立ち振る舞いだけで「旅人ではない」と言った
三つに、レオーネという名前を知っていた事、確かにレオーネ=ベルグは魔軍と戦って討伐したとされているし、まだあれから二年になってないが、その事件は別の国しかも大陸の西と東である
そして、その遠方の大国のたかが地方領主の子の名前まで憶えて居る、明確に「子爵家の」とまで言った、並大抵の記憶力じゃないだろう
四つに、「貴方が西の勇者でしょ?」と聞いて「別人ですよ」と返した、そこでそれ以上追求し無かった事。
偽名を名乗って旅人をしているのだから彼なりの事情がある、本名をあまり知られたくないのだろう、と彼女は先読みして配慮した事
五つに、レオが王子を嫌いだと言った時、僅かに「ふ‥」と、安心した笑みを見せた、つまりレオと彼女の王子に対する見解は同じだという事、安っぽいポピュリストである事を、どっちも見抜いている
レオの人生で最も聡明な女性との出会いが彼女だった、だから此処に長く居る事になった
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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