京の刃

篠崎流

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扇魔党・Ⅱ

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京は外を確認して襖を閉め、小声で話した

「さて、今回は多分藍任せになるが」
「ええ、では、外に居ます」
「あの、どういう事ですか?」

終始意味不明だった千鶴がそう聞いた

「大声出すなよ?」
「え、ええ」

と京と藍は疑いの内容を千鶴にも話した。大声出すな、と言われたのに叫びそうになった千鶴の口を京は押さえて黙らせた

「むぐぐ‥」
「だから大声出すなと」
「す、すびばせん」

「し、しかしそんな無茶な事あるんですかね?」
「というか怪しすぎなんだよアレ」
「まあ、証拠はありませんし、だから私が外へなんですが」
「そもそも何で大枚払って雇ったのに控えなんだ?というのと、武芸がからっきし、と自ら言っておきながらやたら自身たっぷり狙いは金なのに隠さず蔵へ、ありえんだろ」

「で、私が調べた所、山城での扇魔党の襲撃盗みは7度、このうち撃退が3度、しかもその責任者や現場指揮は何れも真一郎殿です」
「それは‥明らかに」
「そういう事です」
「しかしどうするのです?」
「だからボロを出すように色々追い詰める、んで最後には証拠を掴む、という事だ」

「まあ、今回は私の出番が殆どです、任せて置いてください」
「う、うむ分かった、ではわたくし達は何もしない方がいいんですね」
「最後までテキトーでいい、精々能無しの振りしとけ」
「は、はい」

そう3人で示し合わせて静かにその時を待った


深夜0時、それが起きる。「笛」は吹かれず、刀を合わす打撃音と叫びでそれが起こった事を確認した京と千鶴は「示し合わせた通り」慌てず、騒がず、離れ小屋から出て蔵へ向かう

2人が現場に着いた時既に侍2人は倒され、真一郎殿が蔵の前に立ち、例の扇魔党8人と対峙していた

「真一郎殿!」京は叫び集団の中へ飛び込んだ
「おお!助かりましたぞ!」と返す真一郎

そして乱闘なるかと思いきや侵入者は舌打ちして「他にも人が居たか‥引くぞ!」と叫び一同駆けて京らの前から逃げていった

「早いな‥あれは追えぬか‥」
「うむ、だが蔵は守った、とりあえず撃退は出来た」

それでこの一件は終わる「ハズだった」

が、夜盗共が屋敷の塀を飛び越え、逃走した先に藍が待ち構えていた

ずっと外で張っていた藍に誰も気がつかなかったのだ

「悪いけど逃がしませんよ?」と立ちはだかる
「相手はガキ1人だ!構うな!」敵は叫んで跳ぶが

その逃げる8人のうち一人を藍が走る先に回りこみ、どてっ腹に蹴りを叩き込んで転がした

「んな?!」と連中も驚いて転がった仲間を救出しようと動いたが

藍は小太刀を抜いて構えつつ、転がった1人の喉に足を乗せて言った

「やるんですか?私相手に7人じゃ足りませんよ?」

こうなると連中も救出を諦めた、そのまま「クソ!」と捨て台詞を言って逃走。藍は残されたその1人に縄を打って屋敷内に引っ張った

「1人だけですが捕まえましたよ」

そう報告されて一番驚いたのは真一郎だった、だが直ぐにとりなおして

「そうか!これで奴らの詳細が分かるかもしれん!」と言った
「では奉行所へ、吐かせるのはそちらの仕事です」

藍もそのまま真一郎に引渡しこの一件を終えた

「いやいや、ホントに感謝する!京殿らも戻って休むといい」

その後他の店の警護に当った者達を呼び寄せ。奉行所にひっ捕らえて送り後始末をして、丸木屋の主人にも報告して感謝された

京らは早々に引き上げ、この一件には関わらなかった。が、藍はその場から消え、捕らえた男に張り付いて居た


そこから二日後
真一郎から報告を宿で受ける事となる

「逃げられた?」

牢にぶち込まれた例の扇魔党の男が牢から抜け出し逃亡したらしい

「拙者が事後処理で城に報告書を預けて番所を離れた間に例の扇魔党の仲間が現れ、捕まった味方を逃がしたらしい」
「驚いたな‥」

京もそう返したが別に驚きでも何でもない

「で、何か吐いたか?」
「残念ながら」
「そうか、まあ、しかたないな」
「しかしここまでやる気の無い連中とは、まさか逃げられるとはね」
「ま、撃退出来たのだからそれで良しとするしかないな」
「そうですな」
「残念ですがしかたありません」
「また、何かの際は宜しくお願いします」両者言って

真一郎は部屋を出て行った
それを確認した後、窓から入れ替わりに藍が入ってくる

「どうだった?」
「はい、やはり手引きは彼ですね、牢に鍵を投げ込み機会を待って、表から扇魔党の連中が火付け襲撃で、まんまと逃げおおせた、という結果です」
「それでねぐらは?」
「突き止めました、森の中に小屋を作って滞在ですね、というか元忍び、というのはチョット‥」
「そうでは無かった?」
「はぁ‥逃げた奴を追ったのですがこっちの尾行にまるで気がつきませんでした‥警戒すら碌に」
「素人かよ‥」

「いえ、それなりに術「らしきもの」は使う様ですけど、なんというか未熟過ぎというか‥」
「ま、暴いて見ればハッキリするだろう」
「ですね」
「とりあえず少し休んでくれ」
「いえ、大丈夫です、さっさと行きましょう。ねぐらを変えられても困りますし」
「分かった案内を」
「はい」

京らは藍の先導でその「ねぐら」とやらに向かった

町の北西はずれの森の中、3人が辿り着いたのは夕方前であった

森の中にぽつんと偽装した小屋があり、ハッキリ言って急造のボロボロである、広さだけは一軒家と変わらないが

京と藍はそっと近づき様子を伺った。丁度いい事に真一郎も来訪中だったようだ、言い争いの声が外にも洩れる

「全くあんな素人にやられおって‥」
「馬鹿言え!ありゃ素人じゃないぞ!気殺が使えるんだ同業者だ!しかも剣武も強い‥!」
「あんな小娘がねぇ‥お前と変わらんくらいのガキじゃねーか」
「兎に角!あのガキの相手は御免こうむる、ここでの仕事も終わりだ。別の土地にする!」
「分かった分かった‥しょうがない」
「ふざけんな!お前が楽な素人とか言ったんだろうが!どこが楽なんじゃ!」

(なんとまぁ‥)
(今凄く腹立ってますが‥ガキにガキと言われる覚えはありません)
(まあいい、さっさと片付けるか)
(同感です)

と京は後ろで待つ千鶴も手で呼び寄せ「踏み込む、出てきた奴を頼む」手話で伝えた

千鶴も頷き刀に手を掛けた、5秒指でカウントして京と藍は正面扉を蹴破って踏み込んだ

「!?」中に居た連中は全員揃って驚いた。そして人数も10人全員だろう

「な、な、な!?」真一郎だけは京らを見て後ろにひっくり返った

「話しは聞かせて貰ったぞ?」
「随分舐めた真似してくれましたね」京も藍も刀を抜いた

入り口は一つ、右手奥に雨戸が掛かった居間一つしかない、逃げ場は少ない

「今日は手加減できそうにありませんね‥」とおっそろしい目で藍が言う
「ままま待て!うちは雇われてやっただけだ!首謀者はそこの侍じゃ!」と

子供が言った、多分女の子、出で立ちから確かに忍の類なんだろう

だが藍をガキという割りこいつのが小さい。この子が先ほど真一郎と言い争っていた相手で実行犯の親玉である

「誰がどうとかいう問題じゃありませんよ?全員覚悟しなさい」

藍にそう言われるともはやこれまで、と相手も全員刀を抜いた、前に居た連中から京らに飛び掛った

だが、刀を振る前に京に腕を刀で叩かれ跳びかかった勢いのまま前に倒れた

「いってええええええ!」と叫び転げまわる敵
どうも剣の腕も微妙な上、心も弱い模様

藍も小太刀で相手の上段斬りを受け止め同時に。相手の股間を蹴り上げた。泡吹いて固まって前に倒れた「あれ?‥」と思わず言いそうになるほど微妙な腕前だった

たった2人やられただけなのに連中は右奥の居間から雨戸を開けて外に逃げ出す。無論そこに待っているのは千鶴である

首筋、小手、膝にリズム良く打撃刀を叩き込まれ更に3人転がった

「何なんですかね‥こいつら‥」
「なんかいじめみたいなんですが‥」

藍と千鶴も言わざる得なかった。しょうがないな‥と京は大声で言った

「全員武器を捨てろ!これ以上痛い目に合いたいか!」そう脅して終わらせた。全員服従して武器をその場に置いて下がった

藍と京は分担して連中全員に縄を打ち、外に転がしたが、首謀者と実行犯はそうはいかない

藍は子供を簀巻きにして逆さづり、京は真一郎を縛り上げ、あわわわする彼を平手打ちして大人しくさせた

「さて、話してもらおうか?」
「は、はいぃ」

真一郎は全部ペラペラしゃべった、吐かせる手間が無くていい

話しは割りと単純である、元忍びの小娘「琥珀」というらしい、を真一郎が仕事にあぶれていたのを雇い、その技術を生かして同じく職にあぶれた町人を集め、教育

扇魔党を作り、金持ちの家を襲わせる、その金で給金を分けつつ庶民に一部ばら撒き「義賊」とし知名度を上げさせる

そこへ真一郎が立場を生かして「撃退」も偶に行う。彼の名前が上がって出世、金も稼ぎ放題で両得、という流れである

そもそも襲う家も、奉行所や番所も真一郎が手引きし放題であり、そこまで腕の立つ連中が必要という訳では無い。捕まえる側が捕まえられる側と裏で組んでいた訳であり。やりたい放題なのである

無論京らを雇った理由も「ガキと女と優男」で、撃退の際自分が引き立つとでも思った、一種演出と観客のつもりだった

正直呆れて物も言えない程の小物である

ただ、真一郎が名家の御曹司というのは事実らしく、彼にとっては金はさほど興味無く、能力が無いだけに「出世と名声」が何より欲しかったのでありこの様な方法を思いついたのだ、という事だった、しかも実行犯の頭領の「琥珀」も忍でもまだ子供である

「番所に突き出すのもなぁ‥」
「まあ、突き出しても殺されはしないでしょうが」
「精々牢屋暮らしか流刑、百叩きだろう」
「ま、ま待ってくれ!?そんな事になったら家ごと潰される、拙者は生きて居れん!!」
「ウチは頼まれてやっただけだ!首謀者はそいつじゃぞ!?」

真一郎と琥珀の間で責任の擦り付け合いが始まる。京も藍もこめかみを押さえて唸った

「とりあえず、金はどうした?」
「使い道が無いから殆どそこの千両箱に‥後は手下にくばったり貧乏人に撒いたり‥」

そう琥珀が言った為「まあ、いいだろう‥」と京も言ってその箱を開けた。たしかに一杯の小判があった

「どうするつもりです?」千鶴も藍も同時に聞いた

「んー、元々は職にあぶれた町人だしなぁ、そこの逆さづりのも同じだし、子供。真一郎も金に手を付けておらんし。ま、金返せばいいだろう‥」
「まあ、正直アホ過ぎて怒る気にもなりませんしね‥」
「しかし、一応泥棒ではあるが?」
「ま、誰か死んだ訳でもないし、いんじゃないか?」

そう言われ真一郎も琥珀も「見逃してくれるのか!?」と喜んだ

「が、罰は受けてもらうぞ?」
「へ??」
「真一郎はこいつらに自腹で給金払え、手下は町人に戻す、仕事の面倒も見てやれ、連中は最後にそこの千両箱の中身を盗んだ先に返して党は解散」
「そ、それだけで?」
「この一件の首謀者はお前だと自ら証文を書け、私らがそれを貰う。お前は家に帰れ、大人しくしてろ。」
「は、はいぃ」

「約束を守り、言った事をちゃんと完遂しろ、つまらん欲や、せこい逆らいをするなよ?証文を幕府に届けて家ごと潰すぞ?」
「わ、わかりました!」
「じゃ、頼む」

と京は真一郎の縄を解き、その場で書かせて受け取って。千両箱を持たせて開放、手下共も解放された、何故か全員土下座して感謝して去った

「この子は?」千鶴はまだ逆さづりの琥珀を指した
「どうするかね?」京は藍に流した

「はぁ‥始末しましょうか?生かしとく意味がありません」
「そそそそんな!?うちだけ殺すのですか?!」

琥珀だけ残されそう言われ半べそだった

「冗談です」藍は釣っていた縄を小太刀で一閃、切った。そのまま琥珀は落下して床板に落ちた

「ぐべ!」と蛙みたいな声を挙げた後「ひどひ‥」泣きながら言う
「で?どうするんだ?藍」
「私の手下にしましょう、元忍なら何かの役に立つでしょう。迷惑かけた分働いて貰います」
「いいのかねぇ‥」
「というかお目付けが居ないと何するか分かりませんからね」

藍はそう言いつつ琥珀の縄を解いた

「そういう訳ですから宜しく、琥珀殿、逃げよう等と思ってはいけませんよ?」

怖い笑みを向けられ「は、はひ‥」と琥珀は涙目のまま返事を返し服従することになる

夜、宿に戻った後。小さな宴会に成った

「えらく豪勢だな」
「一応事件解決ですからね、金もありますし」
「そうだな、偶に贅沢してもいいだろ」
「しかし、しょーもない事件でしたね‥」
「んー、まあ、金は30も貰ったし、日数も一週間掛からない、美味しいと言えるかもしれんしなぁ」

「問題は、真一郎殿が約束を守りますか?ですが」
「皆さんに逆らう程根性のある奴じゃないですよ、あったら自力で成功、出世してます」

銀シャリの飯と鯛を高速で頬張りながら琥珀が言った
もうこの環境に馴染んでいた(こいつ結構図太いな)と一同思った

「いやー、白飯と高級魚を食べるのなんてウン年ぶりか‥」と嬉しそうに卵もかじった

「あんた普段どんな生活してたのよ‥」
「は、山と森で魚や木の実を、儲かった時でも精々定食でしょうか」
「琥珀はいくつなんだ?」
「ハ!13であります御屋形様!」京が聞くとそう応えた

どうやらこの一団で一番偉いのは京だと見抜いた様だ。この歳でこの生活と如才なさ、色々経験したんだろうなぁと少しかわいそうになった

「まあいい、これから宜しく頼むぞ、さ、どんどん食え」
「ハハ!有り難う御座います!」
「問題はどのくらいの腕なのか、という事ですが‥」
「ハ!藍殿!忍び足、変装、侵入、飛び道具、跳躍、爆薬、剣も少々習いました!」

とハキハキ言った

「あの‥普通にしててくれません?わたくしたちは普通の旅人なので‥そのしゃべり方だと目立ってしかた無いのですが」
「あ、そうですか?じゃあ町人の子らしくしときますわ」

ものすごい変わり身の速さである
(なんか変なの拾ったなぁ‥)またも一同思った

尤も、小屋での一件の様にビクビクされたり自身の環境を嘆いてくよくよしているより、マシではある

こうして餌付け?に成功し、旅の仲間が1人増えたのであった

ただ、あの元町人の微妙な手下を率いて尚、結果を出し「義賊」を成功させていたのだから、それだけの力はあるのだろうという思いはあった。多分このメンツでは一番たくましいだろう

ちなみに、後日の話しだが、真一郎は約束を守って盗んだ金を手下を使ってこっそり返却

その後「扇魔党」は解散、手下も町人に戻ったが一部の者は家に戻った真一郎の使用人に。きちんと約束を守ったようである

尤も「証文」が京らの元にあり、ヘタに逆らうと家ごと潰され今の生活すら出来なくなるという思いもあり、そうせざる得なかった。一応丸く収まってこの事件を終えた

翌日には旅を再開した
朝外に出ると肌寒い時期である

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