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扇魔党・Ⅰ
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秋の中ほど、三人組は山城の東、小さな町を訪れていた
これまでの事情あって、何故か浪人旅人なのに裕福という普通ありえない状況であったが、だからと言って贅沢等する訳でも無く、移動の合間も町々で物品を購入して他所で高く売る
東に行くついでに荷物運び、護衛等。町や集落に寄っては病人を診ると、日常商売に余念がなかった為、稼いだ路銀が減る事が無く寧ろ増えて行くという状況にはあった
「どうしますかこれ‥」思わず立ち寄った飯屋の夕食の場で藍が言った
「んー、別に溜めて置けばいいのではないか?」
「五十両近くあるんですが‥」
「アリエン‥」
「お2人は商売上手ですね‥」千鶴もこれに驚きだった
「ま、冬にはあまり移動はせんだろうから、構わんのではないか」
「成程、何れ貯金の使い道はある、という事ですね」
「左様、流石に12~1月は余り移動したくないな、いざという時に長期滞在できるし」
「どこか街に滞在する事になるのでしょうか」
「それまでにどこか大町に行ければな」
「尾張辺りまでは行けるでしょうし、宿と言わず、家でも借りましょうか」
「いいと思うぞ、そうなると固定した仕事も出来るだろうし護衛関係だと短期というのは少ないからな」
「楽しみですねぇ」
「そうかね?」
「わたくしは旅自体面白いですが、移動の間隔が早すぎるかな?とは思いますので」
「ま、たしかに」
「さて、そろそろ」と京は立って代金を払いに
「では私はてきとーな宿を探してきます」
「わたくしは少し体を動かしてきます」
とそれぞれ席を立って店を出る
一同が各々バラバラと離れ暫く歩いた所で藍が気がついた「つけられている?」道を横に折れて、後を追ってきている相手を待って鉢合わせして言った
「さっきからなんですか?」と先制する
「う」と尾行者も一瞬驚いて固まったが
「も、申し訳ござらん‥怪しい者ではございません」軽く頭を下げた
「ええ、分かってます、店でお見かけしました、何か御用で?」
相手の姿が言った通り見覚えがあった為である
相手は若い男、この様な町に不釣合いなそれなりに良い物を着た浪人では無く侍、帯刀しているが強そうには見えず、どこかのいいところのおぼっちゃんぽい優男だ
どう見ても悪意あっての尾行者では無いと感じた、だからそう返した
「は‥拙者、中谷、真一郎と申します、失礼とは思いましたが皆様のお話が耳に入りまして、お話をと‥」
「はぁ‥構いませんが‥まだ、宿を探している途中ですので」
「で、では、拙者がご案内します」
なんとも見た目通り、気の強くない男である
日が暮れてから、その彼の紹介した宿に案内され、一時はなれた3人も合流、本格的な話し合いの場と成った
「拙者城から派遣された武士、というより内務の人間ではありますが‥この町の奉行所に派遣されまして」
「え?!奉行様ですか?」
「いえ、ある事件からこちらに派遣された補佐という立場で」
「そんな方が私らに何の御用で?」
「は、皆様はこの辺りで起きている事件をご存知でしょうか?」
「いいえ、まだ来たばかりなので‥」
「左様ですか、最近この辺りでは「扇魔党」成る夜盗が出ましてな」
「まさかそれを撃退しろとか言うのではありませんよね?」
「いえ、拙者こちらに派遣されて「物事の解決に当れ」とされましたが。どうもこの町の奉行所は余り機能しておらず、人手も居らずでして、刀持ちの方に声を掛けておるのです」
「はぁ‥なんだか情けない話しですね」
「ご尤もです」
「しかし私らには捜査など出来ませんぞ?」
「いえ、数さえ集まれば良いのです、用心棒的な、捜査などはこちらがやります」
「なんだかなぁ」
「その扇魔党という連中、実にふざけた連中でして何通か予告して金持ちの屋敷に押し入り、金だけ奪って後ばら撒くという所謂「自称義賊」でして」
「なんだそりゃ‥」
「というか、予告してから行動なのにやられてるんですか‥」
「はい、こいつら少数なんですが腕が良い、殆ど姿も掴めず、乱闘でも強いという、で、本国から拙者が派遣されたのですが」
「御主はそういう実績があるのか?」
「ええ、何度か拙者が指揮を取り撃退に成功を」
「それで派遣された訳か」
「左様です」
「規模は?」
「10人以下かと」
「それにやられるって情けなすぎるだろ」
「で、私らにどうしろと?」
「予告が有った場合皆様にお伝えします、それの加勢だけお願い出来ないかと‥」
「はぁ、‥どうします?京さん‥」
「微妙な依頼だな‥まあ、用心棒や護衛も生業にはしているが‥」
「こういうのは初めてだな、面白そうだぞ京殿!」
何故か千鶴は乗り気だった
「‥あのなぁ‥」
「千鶴さん‥」京も藍も微妙な感じだった
「しかし、奉行所の頼みで夜盗の撃退とは正道な仕事ではありませんか?」
「分からなくありませんが」
そこで真一郎殿は後押しする言を挟む
「金子は受けてくれれば一人10両出します」
「成功の云々に関わらず?」
「ならいんじゃないですか?」
といきなり態度が変わる2人
「しかし、どこからそんな金が‥」
「拙者武芸はさっぱりですが家は名家でしてな」
「自腹かよ‥」
「二割奉行所から、という事ですがね、どうでしょうか?」
「まあ、良かろう、成功は保障の限りではないが、受けよう」
「は、有り難う御座います」
一同それを受け、真一郎は喜び勇んで宿を出た。しかも金を前払いで置いていった
「ようするにアレですね」
「解決して本家に戻ると名が挙がる、という事か」
「不純ですね」
「金額で態度が変わるお2人がそれ言いますか」
「と、言ってもなぁ‥」
「成功の云々に関わらず、ですしねぇ」
「しかし、話しが上手すぎませんか?」
「ま、多分だが、成功失敗は余り考えてないのだろう」
「と言うと?」
「彼にとっては実績作り、捕縛出来なくても追い返せば、或いは向こうが金品の強奪出来なければ良い、そして、彼の手腕で剣士が多く集まる、というのを見せたいのでは」
「成程」
「仮にも義賊ですから、むしろ捕縛しても庶民は怒るのでは?」
「そういう事か‥」
「意外と曲者ですねぇ」
「とりあえず、情報収集してみよう、いまひとつ臭いのも事実だし」
「分かりました」
翌日早速一同は情報の収集に当った。丸一日掛けての結果大方の情報が集まる、と言っても、半分噂、深い部分の話しは藍の独壇場ではあるが
夜半、酒屋に集まって其々話した。尤も3人共酒は呑まぬのだが、開いてる店が無い
「まず、扇魔党ですが」そう前置きして藍が話した
「どうも固定で現れる連中では無い様です、東西南北町から町へという集団です、人数も目撃情報を擦りあわせると10人以下というのは正解の模様、ただ、手口から見て多分私と同じ系統かと‥」
「忍なのか?‥」
「それの崩れですね、確かとは言えませんけど、火や煙幕も使うようなので‥」
「ここに現れるとは言えないのでは?」
「そう思いますが、ただ一応義賊の様な者なので、金の匂い、あくどく儲けてる者が居れば‥ある程度は判ります」
「ま、それはいいだろう‥どうせ予告ありなんだし」
「そうですね」
「で、ここの奉行所ですが、たしかに規模も人数も悲惨と言えます、まずやる気がありません」
「そんなん分かるのか?」
「真昼間なのに侵入が容易でした、それと下っ端に金をやって酒を奢ったら、聞きもし無い事も全部教えてくれましたよ」
「それは酷いな」
「本国、城から遠いのもあるし、小町ですし、まあ、いい加減なものですね」
「規模は?」
「数だけは30人は居ますけどね、ハッキリ言って物の役に立ちませんね、そもそもお調べの類も殆どありませんが」
「なんだそりゃ‥」
「元々平和な場所らしいです」
「で、真一郎殿ですが、やはり疑って掛かった方が良いかと」
「理由は?」
「本家から派遣される人間な割り、武士、官僚としての実績が今回の「扇魔党」以外無いですし金の出所がそもそも不明なんですよね」
「名家、とか言ってなかったか?」
「これは実際現地に行かないと分からないのですが、まあ、そこは間違いでは無いかと。人の噂では一応「ああ、そんな家あったな」という記憶らしいですので。ただ、そこまで有名な金持ちでもなさそうかと」
京は腕を組んで「うーん」と考え込んだ
「何だか妙な話だな‥」
「とは言え、私が調査で離れるのも時間が掛かり過ぎますし」
「3人分前払いで貰ってあるしなぁ、藍が欠けても困るな。それに相手も忍崩れとなると藍はかかせん」
「あの~」
「なんだ千鶴」
「忍崩れとは?そんなに居るものなんですか?」
「ええ、わざわざ言わないだけで結構居ますよ?戦国の世の終わりから雇う大名自体減りましたから。里ごと廃れて消滅する事もありますし。鍛冶、武器売り、情報屋、普通の町人として生きる人は居ます、ただ、それが夜盗になるというのは余り聞きませんが‥」
「そんな事するより金持ちに雇われた方が楽だからな」
「ええ、忍の技術は有用ですから「元」でも結構再雇用先はあったりするのでしょう」
「ん?」
「どうしました?京さん」
「ああ、もうひと調べ頼めるか?」
「はい何を?」
「その扇魔党とか言う連中のこれまでの仕事と結果、その際の役人側の責任者等だ」
「少し金が掛かるかと」
「分かった出そう」
と、藍は翌朝から更に調査の後、夕方には宿に戻り京に報告した
「どの地域でも大抵成功してますが」
「他の地域での奉行所、番所などとは乱闘の類があったのか?」
「ええ、ですが、山城付近では半々ですね」
「半々?」
「盗難、成功率が」
「もしかして‥」
「成程、私にもなんとなく、分かりました‥」
2人には分かったが千鶴には意味不明だった
「何ですか?」
「いや、確証は無いんでね‥」
「ええ、まだ何とも‥」
更に翌日夕方、宿に奉行所からの使いが現れ報告、予告が届きどこか襲われるという事であった
早速一同は奉行所前に行くと既に真一郎は待っており、3人を迎えた
「詳細は?」
「は、今夜金蔵を頂く、だけですね」
と書面を見せた
「候補は上がっているのか?」
「ええ、庄屋、問屋、等で儲けが多いのはこの五軒ですね」
と地図を広げてそれを示す
「多いな」
「ええ、そこで拙者らと京殿らは丸木屋という店を、ここは広さが他と比べて大きく無いので小数でも守れますので、ですが儲けはかなり有ります」
「分かった」
「人数が分散されるのは痛いですが、どこに来るか分からないとなればこうした手段しかありませんので」
「そうだな、ま、なんとかなるだろう」
「さっそく向かいますが宜しいですか?」
「問題ない」
「では」
と、真一郎、侍2人、京、藍、千鶴らが向かった
丸木屋の主人は頭を下げて迎えた
「金は蔵に言われたとおり下げました、宜しくお願いします‥」
と何度もペコペコしていた「うむ、任せておけ」と真一郎殿は自信ありげだ
「しかし良いのか?」
「金蔵を頂くと言うのなら寧ろそこを守って捕らえた方が良かろう。大丈夫だ拙者は何度か奴らを撃退した経験がある」
「そうか分かった、私達は何を?」
「うむ、何時というのは分からんし、京殿らは専門家では無い、離れで控えておいてくれ、奴らが現れたら「笛」を鳴らす」
「楽でいいが大丈夫か?」
「ハハハ、町人に無理はさせられんよ、大変な部分は我々に任せてくれ」
「了解した」
そう交わして、京らは本屋敷の離れの小屋に下がった
これまでの事情あって、何故か浪人旅人なのに裕福という普通ありえない状況であったが、だからと言って贅沢等する訳でも無く、移動の合間も町々で物品を購入して他所で高く売る
東に行くついでに荷物運び、護衛等。町や集落に寄っては病人を診ると、日常商売に余念がなかった為、稼いだ路銀が減る事が無く寧ろ増えて行くという状況にはあった
「どうしますかこれ‥」思わず立ち寄った飯屋の夕食の場で藍が言った
「んー、別に溜めて置けばいいのではないか?」
「五十両近くあるんですが‥」
「アリエン‥」
「お2人は商売上手ですね‥」千鶴もこれに驚きだった
「ま、冬にはあまり移動はせんだろうから、構わんのではないか」
「成程、何れ貯金の使い道はある、という事ですね」
「左様、流石に12~1月は余り移動したくないな、いざという時に長期滞在できるし」
「どこか街に滞在する事になるのでしょうか」
「それまでにどこか大町に行ければな」
「尾張辺りまでは行けるでしょうし、宿と言わず、家でも借りましょうか」
「いいと思うぞ、そうなると固定した仕事も出来るだろうし護衛関係だと短期というのは少ないからな」
「楽しみですねぇ」
「そうかね?」
「わたくしは旅自体面白いですが、移動の間隔が早すぎるかな?とは思いますので」
「ま、たしかに」
「さて、そろそろ」と京は立って代金を払いに
「では私はてきとーな宿を探してきます」
「わたくしは少し体を動かしてきます」
とそれぞれ席を立って店を出る
一同が各々バラバラと離れ暫く歩いた所で藍が気がついた「つけられている?」道を横に折れて、後を追ってきている相手を待って鉢合わせして言った
「さっきからなんですか?」と先制する
「う」と尾行者も一瞬驚いて固まったが
「も、申し訳ござらん‥怪しい者ではございません」軽く頭を下げた
「ええ、分かってます、店でお見かけしました、何か御用で?」
相手の姿が言った通り見覚えがあった為である
相手は若い男、この様な町に不釣合いなそれなりに良い物を着た浪人では無く侍、帯刀しているが強そうには見えず、どこかのいいところのおぼっちゃんぽい優男だ
どう見ても悪意あっての尾行者では無いと感じた、だからそう返した
「は‥拙者、中谷、真一郎と申します、失礼とは思いましたが皆様のお話が耳に入りまして、お話をと‥」
「はぁ‥構いませんが‥まだ、宿を探している途中ですので」
「で、では、拙者がご案内します」
なんとも見た目通り、気の強くない男である
日が暮れてから、その彼の紹介した宿に案内され、一時はなれた3人も合流、本格的な話し合いの場と成った
「拙者城から派遣された武士、というより内務の人間ではありますが‥この町の奉行所に派遣されまして」
「え?!奉行様ですか?」
「いえ、ある事件からこちらに派遣された補佐という立場で」
「そんな方が私らに何の御用で?」
「は、皆様はこの辺りで起きている事件をご存知でしょうか?」
「いいえ、まだ来たばかりなので‥」
「左様ですか、最近この辺りでは「扇魔党」成る夜盗が出ましてな」
「まさかそれを撃退しろとか言うのではありませんよね?」
「いえ、拙者こちらに派遣されて「物事の解決に当れ」とされましたが。どうもこの町の奉行所は余り機能しておらず、人手も居らずでして、刀持ちの方に声を掛けておるのです」
「はぁ‥なんだか情けない話しですね」
「ご尤もです」
「しかし私らには捜査など出来ませんぞ?」
「いえ、数さえ集まれば良いのです、用心棒的な、捜査などはこちらがやります」
「なんだかなぁ」
「その扇魔党という連中、実にふざけた連中でして何通か予告して金持ちの屋敷に押し入り、金だけ奪って後ばら撒くという所謂「自称義賊」でして」
「なんだそりゃ‥」
「というか、予告してから行動なのにやられてるんですか‥」
「はい、こいつら少数なんですが腕が良い、殆ど姿も掴めず、乱闘でも強いという、で、本国から拙者が派遣されたのですが」
「御主はそういう実績があるのか?」
「ええ、何度か拙者が指揮を取り撃退に成功を」
「それで派遣された訳か」
「左様です」
「規模は?」
「10人以下かと」
「それにやられるって情けなすぎるだろ」
「で、私らにどうしろと?」
「予告が有った場合皆様にお伝えします、それの加勢だけお願い出来ないかと‥」
「はぁ、‥どうします?京さん‥」
「微妙な依頼だな‥まあ、用心棒や護衛も生業にはしているが‥」
「こういうのは初めてだな、面白そうだぞ京殿!」
何故か千鶴は乗り気だった
「‥あのなぁ‥」
「千鶴さん‥」京も藍も微妙な感じだった
「しかし、奉行所の頼みで夜盗の撃退とは正道な仕事ではありませんか?」
「分からなくありませんが」
そこで真一郎殿は後押しする言を挟む
「金子は受けてくれれば一人10両出します」
「成功の云々に関わらず?」
「ならいんじゃないですか?」
といきなり態度が変わる2人
「しかし、どこからそんな金が‥」
「拙者武芸はさっぱりですが家は名家でしてな」
「自腹かよ‥」
「二割奉行所から、という事ですがね、どうでしょうか?」
「まあ、良かろう、成功は保障の限りではないが、受けよう」
「は、有り難う御座います」
一同それを受け、真一郎は喜び勇んで宿を出た。しかも金を前払いで置いていった
「ようするにアレですね」
「解決して本家に戻ると名が挙がる、という事か」
「不純ですね」
「金額で態度が変わるお2人がそれ言いますか」
「と、言ってもなぁ‥」
「成功の云々に関わらず、ですしねぇ」
「しかし、話しが上手すぎませんか?」
「ま、多分だが、成功失敗は余り考えてないのだろう」
「と言うと?」
「彼にとっては実績作り、捕縛出来なくても追い返せば、或いは向こうが金品の強奪出来なければ良い、そして、彼の手腕で剣士が多く集まる、というのを見せたいのでは」
「成程」
「仮にも義賊ですから、むしろ捕縛しても庶民は怒るのでは?」
「そういう事か‥」
「意外と曲者ですねぇ」
「とりあえず、情報収集してみよう、いまひとつ臭いのも事実だし」
「分かりました」
翌日早速一同は情報の収集に当った。丸一日掛けての結果大方の情報が集まる、と言っても、半分噂、深い部分の話しは藍の独壇場ではあるが
夜半、酒屋に集まって其々話した。尤も3人共酒は呑まぬのだが、開いてる店が無い
「まず、扇魔党ですが」そう前置きして藍が話した
「どうも固定で現れる連中では無い様です、東西南北町から町へという集団です、人数も目撃情報を擦りあわせると10人以下というのは正解の模様、ただ、手口から見て多分私と同じ系統かと‥」
「忍なのか?‥」
「それの崩れですね、確かとは言えませんけど、火や煙幕も使うようなので‥」
「ここに現れるとは言えないのでは?」
「そう思いますが、ただ一応義賊の様な者なので、金の匂い、あくどく儲けてる者が居れば‥ある程度は判ります」
「ま、それはいいだろう‥どうせ予告ありなんだし」
「そうですね」
「で、ここの奉行所ですが、たしかに規模も人数も悲惨と言えます、まずやる気がありません」
「そんなん分かるのか?」
「真昼間なのに侵入が容易でした、それと下っ端に金をやって酒を奢ったら、聞きもし無い事も全部教えてくれましたよ」
「それは酷いな」
「本国、城から遠いのもあるし、小町ですし、まあ、いい加減なものですね」
「規模は?」
「数だけは30人は居ますけどね、ハッキリ言って物の役に立ちませんね、そもそもお調べの類も殆どありませんが」
「なんだそりゃ‥」
「元々平和な場所らしいです」
「で、真一郎殿ですが、やはり疑って掛かった方が良いかと」
「理由は?」
「本家から派遣される人間な割り、武士、官僚としての実績が今回の「扇魔党」以外無いですし金の出所がそもそも不明なんですよね」
「名家、とか言ってなかったか?」
「これは実際現地に行かないと分からないのですが、まあ、そこは間違いでは無いかと。人の噂では一応「ああ、そんな家あったな」という記憶らしいですので。ただ、そこまで有名な金持ちでもなさそうかと」
京は腕を組んで「うーん」と考え込んだ
「何だか妙な話だな‥」
「とは言え、私が調査で離れるのも時間が掛かり過ぎますし」
「3人分前払いで貰ってあるしなぁ、藍が欠けても困るな。それに相手も忍崩れとなると藍はかかせん」
「あの~」
「なんだ千鶴」
「忍崩れとは?そんなに居るものなんですか?」
「ええ、わざわざ言わないだけで結構居ますよ?戦国の世の終わりから雇う大名自体減りましたから。里ごと廃れて消滅する事もありますし。鍛冶、武器売り、情報屋、普通の町人として生きる人は居ます、ただ、それが夜盗になるというのは余り聞きませんが‥」
「そんな事するより金持ちに雇われた方が楽だからな」
「ええ、忍の技術は有用ですから「元」でも結構再雇用先はあったりするのでしょう」
「ん?」
「どうしました?京さん」
「ああ、もうひと調べ頼めるか?」
「はい何を?」
「その扇魔党とか言う連中のこれまでの仕事と結果、その際の役人側の責任者等だ」
「少し金が掛かるかと」
「分かった出そう」
と、藍は翌朝から更に調査の後、夕方には宿に戻り京に報告した
「どの地域でも大抵成功してますが」
「他の地域での奉行所、番所などとは乱闘の類があったのか?」
「ええ、ですが、山城付近では半々ですね」
「半々?」
「盗難、成功率が」
「もしかして‥」
「成程、私にもなんとなく、分かりました‥」
2人には分かったが千鶴には意味不明だった
「何ですか?」
「いや、確証は無いんでね‥」
「ええ、まだ何とも‥」
更に翌日夕方、宿に奉行所からの使いが現れ報告、予告が届きどこか襲われるという事であった
早速一同は奉行所前に行くと既に真一郎は待っており、3人を迎えた
「詳細は?」
「は、今夜金蔵を頂く、だけですね」
と書面を見せた
「候補は上がっているのか?」
「ええ、庄屋、問屋、等で儲けが多いのはこの五軒ですね」
と地図を広げてそれを示す
「多いな」
「ええ、そこで拙者らと京殿らは丸木屋という店を、ここは広さが他と比べて大きく無いので小数でも守れますので、ですが儲けはかなり有ります」
「分かった」
「人数が分散されるのは痛いですが、どこに来るか分からないとなればこうした手段しかありませんので」
「そうだな、ま、なんとかなるだろう」
「さっそく向かいますが宜しいですか?」
「問題ない」
「では」
と、真一郎、侍2人、京、藍、千鶴らが向かった
丸木屋の主人は頭を下げて迎えた
「金は蔵に言われたとおり下げました、宜しくお願いします‥」
と何度もペコペコしていた「うむ、任せておけ」と真一郎殿は自信ありげだ
「しかし良いのか?」
「金蔵を頂くと言うのなら寧ろそこを守って捕らえた方が良かろう。大丈夫だ拙者は何度か奴らを撃退した経験がある」
「そうか分かった、私達は何を?」
「うむ、何時というのは分からんし、京殿らは専門家では無い、離れで控えておいてくれ、奴らが現れたら「笛」を鳴らす」
「楽でいいが大丈夫か?」
「ハハハ、町人に無理はさせられんよ、大変な部分は我々に任せてくれ」
「了解した」
そう交わして、京らは本屋敷の離れの小屋に下がった
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