八法の拳

篠崎流

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練磨

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時期は夏の終わりから立秋
鳳静各部の大会も大よそ終えて直後の事だ

国内プロレスで全女一強に成った事の影響から嘗て言った「新人、別ジャンルから集まりやすい」の事情、興行に参加する事となった有望新人の参戦の話しから波乱が始まる

入門テストを受けて、という事でもなく、スカウトの類でもなく当人が自ら、参戦希望しての事だ

全女の事務所でレイカが与に報告したが
レイカ自身は困った部分もある

「おっはー、社長」
「どうも与さん」
「今日はどったの?」
「実は‥」と資料と共に事態を報告した

与も受け取って読んだが、これは彼女も知っている選手だ
というより元々知名度がそれなりにある

「宇喜多睦、あー‥、確か柔道家よね?」
「ああ、一昨年の世界大会70キロ級、三位ウチに参戦したいってさ」
「ふーん‥経歴も体格もあるし、それなりに実績もあるし、なんでプロレス??」
「今年頭に引退したんだけど、指導者には成らなかった、ま、使う所が無かったとも言うが」

「あれ、確かに若いわね、まだ25か、て事は」
「どうも問題行動が多い、らしい」
「最初の頃のロニーちゃんみたいな?」
「そう。」
「それは確かに困るわね‥」
「正直アタシも悩んでるんだよね、大体柔道とプロレスはあんまり相性良くないし」

「そうねぇ‥、男子の方でもどこに参戦しても大体強いわよね、総合とかプロレスに参戦する例もあるし」
「この子の場合、実績ある、て云っても話題性は無いしな、強いんだろうけど、どこの大会でも優勝は略ないし」
「んーー‥、正直今のウチの事を考えるとそれ程必要じゃないかも若くて強い日本人選手は美味しいけど人足りない訳でもないし、どこも使わない子を取って来てもあんまりねぇ」

「ただまあ、国内プロがもう二個しかないしね、ここで簡単に切るのもどうかと思ってね」
「それはあるかなぁ、そうなると行く所無いわけだし」
「まあ、アタシも彼女の事情に詳しい訳でもないし‥」
「そうねぇとりあえず保留しときましょ、んで、その間調査入れるわ、それ次第でまた考えるわ」
「OK」

とその場では決定は保留される
が、「調査」の進展を待っての間も無く事態は動く。与自身も「どうせ鳴り物入りっていう程の知名度ないし、分ってからでいいや」と後回しにしていたのだが

なんと、調査結果が出る前に当人が乗り込んできたのである、しかも団体事務所の類でもなく興行、試合中に

レイカのメインイベントが終った直後自ら観客席からリングに乱入してアピールした、しかも内容が

「オイ、私の参戦意志はどうなった?!何時まで待たせるつもりだ風見!」だった

この手の演出はよくあるのだが、彼女の場合事前協議や演出でもない、一方的に乗り込んできて同意も取ってないのだ、一応レイカも

「はあ!?、お前みたいな中途半端な結果しか出せない奴の相手なんかアタシがするかボケ!!」

とキャラを崩さない様に対応したのだが、どうも相手はそれも分ってないらしくリング上で取っ組み合いになった。

周囲のセコンド、スタッフ等が引き剥がして止めて終らせたが、こうなると無視という訳にもいかないしこのまま演出にするしかない

「次週の興行に出て来い宇喜多!テメーの程度に合った相手を用意してやる!」

と無理矢理、次の流れを作って納めた
風見にとってはまたも頭を抱える事態ではあるが、こうなるとやらせない訳にもいかない、直ぐに翌週に枠を開けて与にも報告した

「という訳でこんな感じに‥」
「アッチの子も狙ってやって、では無いみたいね‥」
「まーね、アタシの返しにマジになって掴みかかって来たしな」
「まー、そういうの知らなそうだしね‥、しかしまためんどくさい子ねぇ」
「何れにしろ、話しの流れは作ったから、やらせてみるかねぇ、けど継続は無理そうだけど‥」
「そーね、それでいいんじゃない?、ただ交渉は入れるわ、まさか殴りこみの流れでそのまま戦わせるのもアレだし」

「了解、与さんところがやってくれるなら楽だわ」
「演出だって説明すりゃ分るでそ、多分‥」
「‥」

勿論、反対した選手も多いがこうなるとやらずに済ます訳にも行かない。断った所でまた来るだろうしリング上での即興抗争の流れに持っていったのだから

そこで急な事ではあるが与の本社スタッフが宇喜多に直接説明と交渉し翌週の頭に急遽マッチメイクされる。ただ、契約の類はせず、一試合毎のマージンで給与を出す事にした

ハッキリ言ってここまでの流れ見て分るが正規の選手として雇うのは余りに使い難く「プロレス」を理解してない、大手格闘技団体、というのもそもそも少ない故の事だろうが事前に用意する事もあれば相手も居るし、単に乗り込んできて喧嘩を売れば適うという、モノでもない、会場、撮影、スタッフ、相手選手、契約もある「興行、商売である」という部分を相手はまるで理解していない

肝心の対戦相手だが、ここも急ではあるがレイカは中村に任せた、若手のホープであるし団体内では6番手くらいの格だし

身長、体重も似た様なモノだし妥当だとも思った、千里はこの頃175センチ、体重も64キロで

相手は173センチ、70キロ、後は団体内で同じくらいの体格となると、レイカと本郷、ヴェロニカくらいしかいないし、この三者だと実力、格ともに高く成りすぎる故だ

そして5日後の夕方の興行、セミファイナルで中村千里VS宇喜多睦のシングルマッチが行われた

勿論柔道の方の実力は分るが、リングに上がって、という部分では全く分らない、その為、図る意味でも兎角タフで受けられる千里ならどう転んでも悪い試合には成らないと考えた

試合開始から序盤は千里が長い手足を活かし
また、相手が対応出来ない打撃で押したが、6分過ぎると宇喜多は千里を捕まえる

ここから略一方的な流れになる、千里は大外刈り、払い腰、小内等で連続して投げられダウンさせられては脇固め、腕十字、締め各種を受ける

其の中から反撃を試みるも、まず、相手に掴みかかった時点で逆に投げ飛ばされる

別に千里が弱い訳でもない、これは「プロレス」と「柔道」の方向性が逆な所にある、プロレスは敢えて受けて派手な受身で見せる事が主題だし別に投げられてもそれで終る訳ではない

柔道は逆に投げられたらポイントか即敗戦になる、その為、プロレスとやると大抵こういう試合になる

要は「受ける」事を前提にした格闘技と「受けない」事を前提にした格闘技の差だ、ルールから鍛え方から練習まで、全然違うのである

リングサイドで観戦して居た葉月らもアレコレ声を掛けるがどうしょうもない

「千里ちゃん!組んじゃダメだって!」

と言っても、千里には対応手段が少ない、組んでも寝ても柔道家には勝てない

特に千里は更に相性が悪い、彼女のファイトスタイルそのものが「受け切って相手が鈍ってからの勝負」だからだ、これはプロレスとしては最も盛り上がるスタイルだが相手が悪い

6分から10分まで只管致命的ダメージを避けながら耐えたが、そこから体力、蓄積ダメージの多さから碌に受身も取れなくなって、意識も朦朧としてくるが絶対にギブアップしないのが千里だ

投げられても、締められてもブレイク、カウント10内で立ち上がる

不味い、と葉月も分って、サイドからセコンドの選手にダッシュしてタオルを奪って、投げ込んだ

これで宇喜多の止めの一撃

12発目の、浴びせ倒し気味の大外をレフェリーストップで避けたが千里はその場で崩れ落ちた

即、誰よりも早くリング内に飛び込み仰向けの千里に寄って、声を荒げた、診るまでもない「タンカ!急いで!」と

そのまま対処を指示しながら一緒に付き添って千里は退場して敗戦と成った

葉月がこのタイミングで止めて、入った判断は妥当だった、千里はその時点で意識無く、救急車で運ばれて、入院先でも意識が暫く戻らなかったくらいだ

そして検査結果を他のメンバーと聞いたが、幸い、致命的な負傷の手前で済んだ

「脳震盪ですね、後一歩遅ければ、脳挫傷の可能性があった」
「最低二週間は安静です。このまま入院をお勧めします」とされ、そのまま入院する事になった

千里を預けて戻った葉月らだが、今度は収まりが付かないのが葉月自身だ、即、事務所に出向いてレイカに問うた

「レイカさん!何なんですかアイツ!!」と

そこで一連の事情を他の選手と聞きやむなき事情も明かされた、レイカや与の判断も妥当と云えば妥当だ

「そういう訳で、勝っちまったからねぇ」
「それは仕方無いとしても、アレはダメだと思う。確かに千里ちゃんもダメだと思ってもギブアップしないのも問題だけど」
「だね。やっぱアタシがやって終らせるか、このまま向こうの勝ちにして終わりかのどっちかだろう、ハッキリ言ってプロレスの興行では使えないし試合させる事自体、リスクがデカイ」

「ほんとに何を勘違いしてるのやら‥」
「ワタシが言う事でもないが、アレはレイカ社長がやってもダメじゃないか?」
「だろうね、勝ち負けは兎も角、面白くもないだろうしお客さんだって呼べないだろう」
「ソウダナ、あまりにも経験値が低いし試合の意味を分ってない、勝つ事とツブス事は別だ」
「うん」

「ただねぇ、試合で終らせる、しか無いしなぁ」
「別にシャチョウがやる必要も無いワタシがやってもいいぞ」
「ロニちゃん、もしかして怒ってる?」
「多少ナ、ハヅキだってそうだろ?」
「まーね」
「いや、それも分るが、今回に限っては一戦毎の契約がある、このまま解除して使わない、でいいんじゃないか」
「うーん」
「ムコウがそれで収まればいいが?」

そうして一応の事として代理人を立て宇喜多と話しを通すが、案の定相手はこれを入れなかった

「勝ったら次とやらせる話だった、それを反故にするなら、また乗り込むだけだ」だった

結果を受けた一同も流石に黙ってられない、レイカも「ダメだこりゃ‥」としか云い様が無い

「いいじゃん、やらせようよ、ボクがやる、異種格闘技のつもりなら、そのつもりで相手してあげる」
「それならワタシでもやれるぞ」

と葉月もロニーも譲らない構えだった

「そりゃまあ、いいんだが、大丈夫なのかい?」
「プロレスでないなら大丈夫しょ」
「ソウダナ、本来のスタイルでやっていいならそんなに苦労する相手じゃナイ」

こうなるとレイカもダメ、とは言えない

「あー‥、分った分った、次はロニーか葉月ちゃんとマッチメイクする」
「マカセロ」「うん」

「で~、どっち先いく?」
「次なんてナイだろ、ハヅキでもワタシでも負けるアイテじゃない」
「うぐ」
「まあ落ち着け」

とレイカもその場でデスクの引き出しからトランプを出して切った「おし」と裏に並べて指示した

「好きなの取りな、数字多い方が勝ちで」
「むむ」「ムム」と両者共ガン見して固まった

両者「これだ!」取って表に返したが勝ったのはロニーだった

「何でこんな時に1‥」
「ヨシ、クイーンだ」

こうして同週の日曜に雪辱戦のマッチメイクされる事となった

そして当日
メインでは無くセミファイナルの前、話しの流れとしては盛り上がるシチュエーションなのだが試合自体はあんまり面白くなさそうという事が大きい為だ

団体外からの挑戦、レイカを名指しして挑み、まずは下位選手から当たる、そこで千里が敗れて全女側は雪辱、という書いた様な内容なのだが兎角押し引きのない試合内容だったし、千里も負傷して欠場

こういうのはハッキリ言ってプロレスファンは喜ばないが、雪辱戦の意味ではお客さんの入りは非常にいい、しかも対戦相手はヴェロニカで元々ガチスタイル選手なだけに固定ファンも

あの「グラップラー」としてのロニーを久々に見れるのではとここぞとばかりに集まって盛況だった

そして何時もの解説席でゲストに葉月が入った

「さあ、いよいよ対外戦の二戦目です、女子では珍しい流れですが」
「そうですね、ですがそれだけにやはり中村選手には難しかったですねぇ」
「はい、本日解説に九重葉月選手をお招きしています、宜しく願いします」
「よろしくおねがいしますー」

「今日はヴェロニカ選手が受けましたがこの辺り如何ですか?先の試合を見た限り、プロレスとの相性の問題もありますが」
「対外戦とか異種格闘技ぽいものなら寧ろロニーちゃんは適任だと思います元々レスリング、サンボだし、プロレスに来る前も色んなジャンルの相手と手を合わせてますし」
「そうですねぇ、戦績だけ見ればプロ化してから様々な格闘技のトップと戦っていますし、負けなしでした。初めて土を着けたのが葉月選手ですからね」
「その意味では今回は「プロレス」する必要が無い相手なんで本来のスタイルで望めばイケると思います」
「成る程、楽しみですね」
「さあ、ゴングです」

レフェリーチェックの後、ルール確認だが、基本プロレスルールなので問題ない、ダウン10カウント、フォール3カウント、ギブアップ等だ

そして対峙しながら宇喜多はボソっと言って
ロニーを煽った、幾つか交して双方コーナーに分かれてゴンクが鳴らされる

構えてジリジリ近づく

体格差、という意味ではこの試合も先の千里戦と同じくそれ程ない、ロニーも千里とそんなに変わらない、173センチ63キロだ

今回、葉月と出場を競ったが
本来は千里が一方的に敗れた程の相手だし柔道は基本体格、体力、技的に強く、誰もやりたがらないだろう

それを望んで受けたのはロニーも元々「対外」を前提にした選手である事

プロレスに入る前はオリンピックメダリストでもあったし、プロ化してフリーで活躍してからも様々な相手と戦い無敗だ

「元々ワタシの土俵」という面があったのが一つ

二つに、ロニーも八陣の門下生であるし、技も様々習っているが「プロレス」ではそれを使う機会が余りない

その為、この相手なら使っても構わないだろうというのがあった、勿論、相手の宇喜多の態度に腹が立ったというのもあるし身内が負傷欠場させられたのだ

両者接近して手の届く範囲での組み手争いに近い攻防が行われた、この面では相手、宇喜多が一枚上手で

手の取り合いから宇喜多はロニーの左手首を取り即、飛び込んで投げようとした、が、出足の一歩目で足元に蹴りを入れられガクッと前に崩れた

「この距離で蹴り!?」と相手も思ったが、途端、顔面に掌打をくらってダウンさせられる

そう「この距離」上半身をお互い低めに保って、手の取り合いの距離で足技なんて出ない「普通は」

これはロニーが八陣に来てから新たに習得した技の一つ、一拳、影の石潰しという技

現代格闘技の「キック」は背筋を伸ばした状態でしか出せないミドルでもハイでもローでもそうだ

前屈みの状態だと足を振り上げる事が出来ない様になっている、だからキックの選手は姿勢が高い

ロニーが打って主導権を取ったこの技は古流武術にも近いモノがある、拳法の「斧刃脚」等だ

密着した状態から膝を少しだけ上げる、そのまま相手の足の甲を踏み潰す様に斜め下に踏みつけるように蹴る、足払いとの中間でこれを脛に入れる

どんな近接でも打てるし、横向き構えですら出せるし自分の体重がかなり乗せる事も出来るので、ご覧の通り、威力も普通にある

宇喜多が後ろにダウンする背中が付く前に自分もそれに合わせる様に飛んで左足を取ってもう次の攻め技に入った、飛びつきアキレス腱固め、とでも言おうか

流石に実況、解説も驚いた

「ええ!?打撃ダウンと同時アキレス腱固め!?」
「早い!!あれは避けようがありませんよ被弾と同時ですから」
「ロニちゃんはあのコンビネーションは結構練習してたね」
「成る程確かに、あれ程次の繋ぎが早いと言う事は即興では出来ませんからねぇ‥」
「そうだね、ロニちゃんの最大の長所でもあるし」
「それは?」
「練習、修練、だね」

実際その通りだろう、組に行った途端の脛蹴り、顔面への掌打、相手が後ろに崩れ倒れる直前に左足に飛びついての関節だ、まず回避し様が無い

しかも極まったのがほぼ、リング中央、凄まじい痛みに耐えながら、宇喜多も対応する、身体を左右に寝返り打つ様に捻り相手の締めをズラしながら上半身を起こして後ろ手に這う様にロープに逃れる、と、云っても、ブレイクに逃れるまで二分近く締められた

ブレイクして双方レフェリーに引き剥がされるが既に宇喜多は左足をまともに地に着けない程痛みがあった、が、それを顔に出さず、ファイトと同時に前に飛び込む

兎に角、柔道家の投げならレスラーに限らず殆どの相手は堪えられない、避けられない、なんとか密着して打撃を避けると同時投げに持ち込むしかないと思った

この狙いは半々成功した、前に踏み出した途端、カウンター気味にまたも掌打を受けたが、全力前進だっただけに、ミートポイントがかなりズレて打撃のダメージは微少だった

宇喜多は前ダッシュの勢いのままロニーに掴み掛かり必殺のSTO気味の大外刈りを繰り出した。並みの相手ならこれで終わりかねない程の会心の一撃だったろう

何しろ、前に走りながらロニーの首を抱える様に後ろに倒して、自分も圧し掛かって後頭部を強打させる技だ、まともに入ると相当なダメージがある、が

「並みの相手なら」の話しだ

宇喜多も会心の大外だと体重を浴びせて投げが入って同体でロニーを倒したが次の瞬間には何故か宇喜多が脇固めの体勢で締められていた

「え?!な!?」と口に出た次の瞬間リングに磔にされて右腕が曲がらない方向、背中側に捻られ絶叫した

そう、ロニーは後ろに投げられながらその勢いに逆らわず、後方回転しながら宇喜多の右腕を取って、脇固めで返した

これは葉月スペシャルαの受け方と同じだ、相手の腕を支点にして逆上がりの要領で自分から回って回避と同時、反撃業を入れる

これもリング中央に近い所で入った。宇喜多は極められた状態で暴れスペースを作って、前転して脱出したが、そこまでにかなり締められた

「クッソ‥」と言ってどうにかブレイクまで逃れたが既に満身創痍に近かった、再び立って構えるが、もう打つ手が残ってない

ロニーは軽く構え相手と距離を詰める、そして、射程距離に入った途端右掌打を放った

が、これを待っていたのは寧ろ宇喜多の方だった、投げが入らない、返される、どの距離でも打撃が出て来るとなれば「相手が出して来た手を取って投げる」カウンターしかなかったとも言う

そして組み手争い、つまり掴み合いならやや自分に分がある、故の最後の手段だった。ロニーの出した手の右手首を掴んだ、タイミングも完璧だった、が‥

掴んだまま弾かれたのある「!?」と思った瞬間宇喜多の左頬にロニーの掌打がめり込んで膝から右に体勢が崩れた

そう八陣、八拳、螺旋の螺旋掌である、所謂、現代で言う「コークスクリューブロー」取りに行った手が回転して直進している為掴めず弾かれ切られて、そのまま打撃を食らっただけだ

理屈上は単純だドリルに手を突っ込んだ様なもんだ、余程の腕力が無い限り、ストップさせることは出来ない、そして螺旋の特徴は二つある

スクリュー打ちでの威力とディフェンスブロックの破壊だ、これがそのまま結果として出たに過ぎない

体勢を崩された宇喜多はそのままダウンさせてもらえない、ロニーは仰け反った相手の胸にも左手で打撃を入れると同時逆手で相手の足を取って押すと同時足を引いて後ろに転がす

そして自分は立ったままの体制で足首を締め上げる「スタンディングのアンクルホールド」に極める

ここで実況も叫んだ

「ああ!この体勢は!?」と、そう、ロニーの必殺技「ソードデモンズアンクル」への布石

宇喜多は咄嗟に逃れようと即、身体を横に捻るがそれ自体罠だ。

ロニーは相手が横に転がろうとした勢いを利用してうつ伏せに引っくり返し、足を極めたまま背中に座るハーフボストンクラブに移行する

宇喜多は絶叫しながら前に這う様に逃れるが、瞬間ロニーは相手の足を自分の足で挟んでロックし背中の上で横回転して圧し掛かり

左腕と顔面を取って後ろに引っ張りながら、変形のチキンウイングフェイスロックプラスSTFに移行し全力でねじ上げた

宇喜多の自由になるのは右手だけ、というどうしょうもない状態にされて一分半締められた。そのまま暴れたが一歩もそこから動けずタップしてギブアップと成った

試合時間8分という短期、且つ一方的勝利だったが観客は大いに盛り上がった「これが見たかった」ファンの期待通りの試合だから

ロニーは勝ち名乗りを受けて花道を去り、軽く片手ガッツポーズしてファンに応えて退場

そして、相手、宇喜多はうつ伏せのまま立つ事も出来ずタンカで去って行った

「いやはや、流石にヴェロニカ選手、格の違いを見せ付けましたね~」
「ですね、殆ど相手に何もさせずの本来の彼女らしい勝利です」
「その辺りはどうですか?葉月さん」
「そうだね、ウチで習った技も、自分で練習してたコンビネーションも如何なく発揮しての完璧な勝ちだったと思います、千里ちゃんの事もあったから、やっぱりちょっと嬉しいというか」
「成る程~」

「しかし、ここまで完璧に敗れたと成ると宇喜多選手ですが」
「んー、プロレスとして、ならボクらもそれなりの対処するけど外敵として、という事なら何度来ても同じだと思う。ガチ、と成ればロニちゃんの足元にも及ばない、同じ結果になるだけだね」
「なるほど」

そして当の宇喜多はタンカ退場のまま入院となった、脳震盪と歯が一本折れ、左足靭帯損傷で三ヶ月は戻れないだろう

だがこれは仕方無い結果だろう、そういう形を望んで挑んできたのだからどう打ち返されても文句は言えないのだ

試合翌日にはロニーと葉月は千里の見舞いに行った

「VTR見ましたよ!流石ロニーさん」
「ソウデモない、千里でも勝てるアイテだ」
「そ、そうですか?思いっきり病院送りにされてますが‥」
「千里がプロレスを貫いたからああなっただけだそんな差はナイヨ」

「そっかー。それにしても派手にやりましたね」
「ホンキを見せろ、と云われたからミセタだけだ」
「へ?そうなん?」
「ああ、レフェリーチェックの時ウキタはワタシにこう言った」
「なんだ、また格下か」と」
「ええ!?」

「で、「ナニを勘違いしているのかシラナイが千里は別に弱くないぞ」
「はぁ?」
「千里は「プロレス」をやったからマケタだけだ、本気なら負けてない」
「ほう、なら見せてくれよ「アンタの本気」て奴」

「こんな感じの遣り取りだった」
「うわー‥」
「だから思いっきりやったんだ」
「まあな」
(やっぱロニーちゃんは怒らすと怖いなー)と葉月と千里は同時に思った

「あ、そうだ、お見舞いね」と箱を渡した
「有難う御座います葉月さん!」
「なんだソレ?」
「こし餡の大福だよ」
「ダイフクってなんだ?」
「お菓子だよ、初見?」
「ウン」

と三人でその場で箱開けて食った、初体験のロニーの反応も悪くなかった

「中々ウマイ」
「でしょ?」
「これカラダに悪い?」
「小豆と餅だから悪くないよね」
「そうか、もっとくれ」結局半分ロニーが消化したが
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