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制覇
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葉月、三年の夏後半
夏休みの真っ只中な事もあり再び溜り場メンバーは競技場へ足を運んだ、つまり葉月所属の鳳静ソフトの応援である
過去の地方大会決勝とは異なり、かなり大規模な会場。並びに大勢の観客も入っている
「流石全国大会決勝だなぁ」
「ソッスね~、うちらの生徒もめっちゃ来てますわ」
「だって初の全国制覇が掛かってますから!」
と、叶は部員でもないがかなり鼻息が荒い。この頃の鳳静ソフト部は葉月の活躍と知名度、また、学園の惜しまぬ投資のお陰で全国でも葉月抜きでもベスト18にはいけるかどうかという所までチーム力も上がっていた
これは勿論、葉月が現役女子高生プロレスラーで日本の至宝である為あちこちに引っ張りだこで、スケジュールの関係で必ずソフトボールの方にも出場出来るという訳でもない事だ
従って「居ない時勝てない」では困るからと、その事あってチームメイト、監督、後輩らも奮起して強くなった事情もあった
実際、この夏の大会のトーナメント決勝までの5試合中3試合は葉月の諸事情で出れず「無し」でも勝ちあがってきた
一年からチーム、学園のアチコチの部活を見ている叶からは感慨深いものがあった
双方円陣を組んで凄まじい歓声の中、鳳静VS城陽の試合開始
だが、しょっぱなから「あれ?」と成った
「え?葉月ちゃん温存?」と驚いて七海が云った事でも分る
そう、温存である、別に相手を甘く見ている訳ではない、それも理由は半々、葉月自身が「ここまで皆がボク抜きでやってきたし、なるべく任せたい」と監督に直訴した事
もう一つが葉月は今日は夜にプロレスの方の試合がある、しかも、同じ関東とは云え、地方遠征でかなり強行移動も含まれる従ってリリーフで、という形がとられた、これら諸事情を周囲も承認して温存の方針と成った
ただ、チームとしては寧ろ意気は上がっている
「よーし!葉月ちゃんの負担を下げる為に頑張るよ!」と音頭が掛かったくらいだ
実際、この試合は一進一退の攻防を4回まで続けて0スコアで凌いだ、崩れたのは5回表
相手チーム、城陽はノーアウトでシングルヒット一塁から、4番センターの石川がライトスタンドにツーランを叩き込む
これで2-0.動揺した鳳静先発が立て続けにフォアボールを出して更にノーアウト1,2塁と大ピンチを招いてしまう
監督も最初の方針と、既存メンバーで、という思いあって我慢したが、ピッチャー自身がタイムを掛けてサインを出し自ら交代の意思を伝えた、こうなるともう交代しかないだろう
「九重、いけるか?!」
「もち!」
と、待ってましたと元気に応えて直ぐにマウンドのチームメイトの所へ駆けた
自ら交代の意思を示した彼女の判断は妥当だった、手前まで行ってボールをバトンの様に葉月は受け取ったが先発の彼女の手が震えていた、そしてもう泣きそうだった
「大丈夫?」
「ご、ごめん‥私のせいで‥」
「なんのなんの、ボクが絶対抑えるから!二点くらい引っくり返すし!」
もちろん強がりではない、実際出来ると葉月は思っている
だが、彼女のその根拠の無い前向きさと明るさはむしろ崩れた彼女からはとても心強かった
「お願い‥!こんな終わり方したら私家に帰れないよ‥」
「まかせなさい!」
と交代してマウンドに立った。
そしてより一層盛り上がる観客である、それも当然だ、葉月を知らない人は居ない程の有名人だ、絶体絶命のピンチでも一分の負けムードも無い
勿論プロレスでも有名だが、専門家の関係者や相手チームからしてもソフト選手として知らない人は居ない、何しろ、半々部員であるし、公式試合出場も半々だが彼女が高校で残した成績である
公式41試合。防御率0,30 40勝1負 500奪三振、打者としては。打率五割五分、本塁打68、盗塁62、という、まさに怪物選手である
そして宣言通りノーアウト1,2塁
二者残塁で三者連続三振して「絶対抑えて」見せたのである
「っしゃー!」とガッツポーズでベンチに引き上げ、味方選手とハイタッチして音頭を取った
「おーし!逆転するよ!まだ三回あるよ!」
「オー!」
と一気にチームも盛り上がる
五回裏、だが、ここまでゼロ封されていただけに。相手を打ち崩すのも難しい、流石に全国決勝に出て来る相手だ、鳳静は二番からの好打順だったが先頭打者が空振り三振してムードも変わる
「あー‥」と誰もが思った
ここで三番も打ち気満々から打席に入るが
溜り場メンバーも思った
「力み過ぎじゃね?‥」
「ですねぇ‥」
と思わず口にも出る、が、バッター打ち気満々から三球目、長打狙いと思わせて、当てるだけのミートバッティングでサードの後ろにポテンと落ちるシングルヒットを放つ
「あ!?」と観客全員が虚を突かれた
これは作戦ではない、鳳静のチームメイト全員がこう思って
自主的に戦法を変えた、つまり
「葉月ちゃんが出たなら葉月ちゃんまで打順を回せばなんとかしてくれる!」と
「やるなー、オレらも完全に騙されたわ」
「まあ、このパターンも何度かあったしな」
「そうですね、負けてる時は葉月ちゃんのバットでどうにかしてきましたし兎に角後ろに繋ぐ!て意識が急に強くなるんですよねぇ」
「それだけ今まで期待に応えてきたしね」
「ただ、問題は‥」
「??」
「勝負してもらえるか?、だな」
「あー‥」
そして代わって四番に入った葉月まで回した、ワンナウト一塁、左打席バットでセンター側を指してから構えたが「勝負してもらえるか?」の通りの展開となった
露骨な敬遠ではないのだが、アウトコース低めのくさい所へのフォアボールで葉月は一度もバットを振る事もなく一塁に向かう事となった
「せっこー‥」
と悟も云ったがこれは仕方無いだろう、記録上、一試合に一本以上HRを打っているバッターだし全国決勝だ、勝負して気持ちよく負ける訳にもいかない
そして葉月の前にランナーを出すぞ!の方針も寧ろ足かせとなった、前にランナーが居るだけに盗塁、足で崩すも出来なくなった
結局盗塁でのバッターの援護も使えず、鳳静は後続、五番六番も、内野、外野へのフライでこちらも二者残塁、無得点と成った
6回表、相変わらずピッチングの方は無双だった
二者空振り三振と1内野ゴロで抑えて裏の攻撃へ、これには相手チーム監督も怒気を強めた
「どうした!?あのくらいのスピードボールなら居ない訳じゃないだろ?!」と
実際にバッターボックスに入って体感した選手には分る。勿論、全国ともなれば葉月の様な剛球投手は居るし経験もある、事前情報もある、だが、やってみないと分らない事もある
「そうなんですけど、ただのストレートとチェンジアップじゃないんですよ‥」
「なに?!」
「1球毎に微妙に違うんですよ‥」
「ええ、滅茶苦茶打ちにくい‥バット振った手前で曲がったり沈んだり」
「まさか‥」
「はい、プロ野球で言う所のツーシームみたいな手元で毎回違う変化を」
「チェンジアップもか?!」
「そうなんです、狙って打って引っ掛けました‥」
そう、これはメジャーでも多投される所謂ツーシーム、ボールの握りを通常の物と変えて敢えて綺麗な回転で無いボールをわざと投げる。所謂日本で言われる「汚い回転のボール」のストレートである
その為不規則で回るので、空気抵抗もいびつになり、ベース手前で僅かに変化する「狙って打って」引っ掛けるのはその為だ
これは既に葉月を評する言葉として浸透している「アホみたいに早いストレート」と「ハエが止まる程遅いチェンジアップ」の二種だけで打たれない訳ではない
そうなっているのも事情がある。
葉月は部活でも遊びでも誰からもちゃんとした指導を受けてない、つまり、遊びの延長から高校まで投げながらこうしたら打ちにくい、こうしたらちょっと曲がるとかを体で覚えて工夫して出来上がっている、自分で考えてこの形になったという事
相手選手の発言のツーシーム等という気の利いた分別した技術ではない、1球ごとに握りを変えたり、力を入れる指を全部変えたり、ボールの縫い目も順目だったり、逆目に引っくり返して握ったりして投げている、チェンジアップも本来は人差し指、小指で挟んで親指で固定して抜くのだが、葉月はこれも1球ごとに小指と薬指で持ったり、親指と小指だけで持ったりして投げる、同じボールが来なくて当然なのだ
これを「全く同じ全力投球の腕の振り」で繰り出される為、実際にバッターボックスに立つと事前ビデオの類があっても全く違うと分る、これが分っていても球種狙いでも研究されても打てない理由である
ただ、結局試合は7回裏まで鳳静が得点を奪えず
最後の攻撃と成った
一番からの好打順ではあるが、仮に4番葉月に回しても、まともに勝負して貰えない、それを崩す活路があるだろうか
ここで監督が始めて口を挟んだ、明らかにチームの不安と落ち込みが見て取れたからだ
「方針は変わらない、今まで何度もあった劣勢時も九重に繋いで覆した繋ぐ意識を捨てるな」
「でも、勝負して貰えないんじゃ‥」
「なら塁を全部埋めてしまえ」
「!?」
「あ、確かにそれなら‥」
「そこまでいかなくても、走者多ければ多い程敬遠はし難い、最後まで捨てるな、まして九重も高校で全国優勝を飾れるのはこの夏と冬しかないんだ」
「そ、そうだね‥やろう!」と
そしてこの方針を受けてチームメイトはそれに応えた。先頭打者の一番がなんと徹底したカット打法を敢行、相手に22球も投げさせてフォアボールで出塁
二番がセーフティー気味のバントと、作戦ではないが一塁走者がエンドラン、焦った相手内野がミスして一塁の送球が逸れ、まさかのノーアウト1,2塁とした
これには球場全体が大歓声になった。ここで先ほどポテンヒットを打っている三番、これも徹底した繋ぐ打法、だが不運にもライナーがサードに飛び進塁無しでアウトとなった
そして4番葉月
無論、また勝負してもらえないのでは?の空気があった、実際ベースは三塁が空いている
満塁策を取っても葉月と勝負するよりマシな状況はまだ残る、だが今回この意気に一番燃えていたのは他ならぬ葉月である
「ここまでしてもらったんだから死んでも打つ!!」
そして目算もあった
そう。完全な敬遠ではないという事、そこで葉月は何時もの、左打席で無く右打席に入った
「あれ?何で打席変えたんだ?」
「ていうか葉月ちゃん元々右利きだよね?」
「つまり右投げ左打ちか、野球じゃよくあるけど、まあ、女子で左投げあんま居ないから有効ではあるな」
「いや、葉月に聞いたけど、そういう意味じゃないらしい」
「じゃあ、どういう理由ッスか?陣さん」
「葉月曰く「イチローだって右投げ左打ちじゃん!」だそうだ」
「モノマネ打法かよ‥」
「あ、だからなんか似てるんだ‥」
「そんなテキトーな理由であれだけ打てるのもどうなのか‥」
「じゃあ、右に入った理由は??」
「んー‥多分アレ打つ気だろ」
「え??敬遠のボールを?!」
「つっても露骨な敬遠じゃないけど、アウトコース二、三個外されてるしょ、振って当ってもバットの先だと思うんッスけど‥」
「オレと考えが同じならそれでも打つだろうな」
「??」
「ま、直ぐ分かるよ」
そう、陣が〆て見守ったが其の通りだった
葉月は2ボールからの三球目、ボックス外に踏み込んで打ったアウトコース3個外の敬遠気味のボールを
体をギリギリに下に傾けつつ、体を開いて右手を投げ出すようにして、本来振って当ってもバットの先のコースを
「えええええ?!」と一斉に声が挙がった
そしてこのボールはかなりスライスの掛かったボールで飛距離は十分だが右に切れるかどうかだったが、ギリギリの所でライトポールに当たりホームラン認定された
最終回の逆転サヨナラ3ランであった
「やっぱな‥」
「右手一本でもってった‥なんちゅうパワーだ‥」
「けど、なんで届いてちゃんと打てたんだろ?」
「やってみりゃ分るよ、右ボックスなら両手じゃなくて右手一本で振った方が外まで届く、それで無理矢理先っぽから芯に近い所に当てた」
そう陣に説明されて女子組みはやってみるが其の通りだった
「成る程‥」
「でもこれ、野球の打ち方じゃないよな」
「そうですねぇ、テニス?」
「あー、そんな感じ」
「けど、この打ち方だと左ボックスじゃ左手で打つ事になる、それで持ってくのは難しい、外に届かせて一発で決めるにはこれしかないしな」
「成る程なぁ‥それでスイッチか」
「何にしても相手のミスだな」
「そっスね、外すならちゃんと敬遠するべきだった。こういう場面で露骨な事はやり難いてのはあったんだろうけど」
「そういう事だな、勝ちに拘るのは悪い事じゃない、批判されても半端な事はすべきじゃない」
「でも兎に角良かった‥最後の年に勝てて」
そう鳳静ソフト部創設初の全国制覇である、叶にはそれが一番だった、そして葉月らにとっても「最後の夏」なのである
葉月は悠然と一周してホームベースを軽くジャンプして踏んだ。これまで、人生で一番大きな笑顔とガッツポーズと「おっしゃー!」をして
瞬間、葉月はホームで迎えた部の全員に飛びつかれて押し倒された
「やったー!葉月ちゃん!!」
「優勝だよ!初優勝!!」
「最高!!」
下敷きになった下で葉月は猫がしっぽを踏まれた時の様な声を挙げた
「ミギャー!!しぬー!!どけー!」と
こうして、超劇的な初優勝を飾ったソフト部は丸一日大騒ぎだった
夏休みの真っ只中な事もあり再び溜り場メンバーは競技場へ足を運んだ、つまり葉月所属の鳳静ソフトの応援である
過去の地方大会決勝とは異なり、かなり大規模な会場。並びに大勢の観客も入っている
「流石全国大会決勝だなぁ」
「ソッスね~、うちらの生徒もめっちゃ来てますわ」
「だって初の全国制覇が掛かってますから!」
と、叶は部員でもないがかなり鼻息が荒い。この頃の鳳静ソフト部は葉月の活躍と知名度、また、学園の惜しまぬ投資のお陰で全国でも葉月抜きでもベスト18にはいけるかどうかという所までチーム力も上がっていた
これは勿論、葉月が現役女子高生プロレスラーで日本の至宝である為あちこちに引っ張りだこで、スケジュールの関係で必ずソフトボールの方にも出場出来るという訳でもない事だ
従って「居ない時勝てない」では困るからと、その事あってチームメイト、監督、後輩らも奮起して強くなった事情もあった
実際、この夏の大会のトーナメント決勝までの5試合中3試合は葉月の諸事情で出れず「無し」でも勝ちあがってきた
一年からチーム、学園のアチコチの部活を見ている叶からは感慨深いものがあった
双方円陣を組んで凄まじい歓声の中、鳳静VS城陽の試合開始
だが、しょっぱなから「あれ?」と成った
「え?葉月ちゃん温存?」と驚いて七海が云った事でも分る
そう、温存である、別に相手を甘く見ている訳ではない、それも理由は半々、葉月自身が「ここまで皆がボク抜きでやってきたし、なるべく任せたい」と監督に直訴した事
もう一つが葉月は今日は夜にプロレスの方の試合がある、しかも、同じ関東とは云え、地方遠征でかなり強行移動も含まれる従ってリリーフで、という形がとられた、これら諸事情を周囲も承認して温存の方針と成った
ただ、チームとしては寧ろ意気は上がっている
「よーし!葉月ちゃんの負担を下げる為に頑張るよ!」と音頭が掛かったくらいだ
実際、この試合は一進一退の攻防を4回まで続けて0スコアで凌いだ、崩れたのは5回表
相手チーム、城陽はノーアウトでシングルヒット一塁から、4番センターの石川がライトスタンドにツーランを叩き込む
これで2-0.動揺した鳳静先発が立て続けにフォアボールを出して更にノーアウト1,2塁と大ピンチを招いてしまう
監督も最初の方針と、既存メンバーで、という思いあって我慢したが、ピッチャー自身がタイムを掛けてサインを出し自ら交代の意思を伝えた、こうなるともう交代しかないだろう
「九重、いけるか?!」
「もち!」
と、待ってましたと元気に応えて直ぐにマウンドのチームメイトの所へ駆けた
自ら交代の意思を示した彼女の判断は妥当だった、手前まで行ってボールをバトンの様に葉月は受け取ったが先発の彼女の手が震えていた、そしてもう泣きそうだった
「大丈夫?」
「ご、ごめん‥私のせいで‥」
「なんのなんの、ボクが絶対抑えるから!二点くらい引っくり返すし!」
もちろん強がりではない、実際出来ると葉月は思っている
だが、彼女のその根拠の無い前向きさと明るさはむしろ崩れた彼女からはとても心強かった
「お願い‥!こんな終わり方したら私家に帰れないよ‥」
「まかせなさい!」
と交代してマウンドに立った。
そしてより一層盛り上がる観客である、それも当然だ、葉月を知らない人は居ない程の有名人だ、絶体絶命のピンチでも一分の負けムードも無い
勿論プロレスでも有名だが、専門家の関係者や相手チームからしてもソフト選手として知らない人は居ない、何しろ、半々部員であるし、公式試合出場も半々だが彼女が高校で残した成績である
公式41試合。防御率0,30 40勝1負 500奪三振、打者としては。打率五割五分、本塁打68、盗塁62、という、まさに怪物選手である
そして宣言通りノーアウト1,2塁
二者残塁で三者連続三振して「絶対抑えて」見せたのである
「っしゃー!」とガッツポーズでベンチに引き上げ、味方選手とハイタッチして音頭を取った
「おーし!逆転するよ!まだ三回あるよ!」
「オー!」
と一気にチームも盛り上がる
五回裏、だが、ここまでゼロ封されていただけに。相手を打ち崩すのも難しい、流石に全国決勝に出て来る相手だ、鳳静は二番からの好打順だったが先頭打者が空振り三振してムードも変わる
「あー‥」と誰もが思った
ここで三番も打ち気満々から打席に入るが
溜り場メンバーも思った
「力み過ぎじゃね?‥」
「ですねぇ‥」
と思わず口にも出る、が、バッター打ち気満々から三球目、長打狙いと思わせて、当てるだけのミートバッティングでサードの後ろにポテンと落ちるシングルヒットを放つ
「あ!?」と観客全員が虚を突かれた
これは作戦ではない、鳳静のチームメイト全員がこう思って
自主的に戦法を変えた、つまり
「葉月ちゃんが出たなら葉月ちゃんまで打順を回せばなんとかしてくれる!」と
「やるなー、オレらも完全に騙されたわ」
「まあ、このパターンも何度かあったしな」
「そうですね、負けてる時は葉月ちゃんのバットでどうにかしてきましたし兎に角後ろに繋ぐ!て意識が急に強くなるんですよねぇ」
「それだけ今まで期待に応えてきたしね」
「ただ、問題は‥」
「??」
「勝負してもらえるか?、だな」
「あー‥」
そして代わって四番に入った葉月まで回した、ワンナウト一塁、左打席バットでセンター側を指してから構えたが「勝負してもらえるか?」の通りの展開となった
露骨な敬遠ではないのだが、アウトコース低めのくさい所へのフォアボールで葉月は一度もバットを振る事もなく一塁に向かう事となった
「せっこー‥」
と悟も云ったがこれは仕方無いだろう、記録上、一試合に一本以上HRを打っているバッターだし全国決勝だ、勝負して気持ちよく負ける訳にもいかない
そして葉月の前にランナーを出すぞ!の方針も寧ろ足かせとなった、前にランナーが居るだけに盗塁、足で崩すも出来なくなった
結局盗塁でのバッターの援護も使えず、鳳静は後続、五番六番も、内野、外野へのフライでこちらも二者残塁、無得点と成った
6回表、相変わらずピッチングの方は無双だった
二者空振り三振と1内野ゴロで抑えて裏の攻撃へ、これには相手チーム監督も怒気を強めた
「どうした!?あのくらいのスピードボールなら居ない訳じゃないだろ?!」と
実際にバッターボックスに入って体感した選手には分る。勿論、全国ともなれば葉月の様な剛球投手は居るし経験もある、事前情報もある、だが、やってみないと分らない事もある
「そうなんですけど、ただのストレートとチェンジアップじゃないんですよ‥」
「なに?!」
「1球毎に微妙に違うんですよ‥」
「ええ、滅茶苦茶打ちにくい‥バット振った手前で曲がったり沈んだり」
「まさか‥」
「はい、プロ野球で言う所のツーシームみたいな手元で毎回違う変化を」
「チェンジアップもか?!」
「そうなんです、狙って打って引っ掛けました‥」
そう、これはメジャーでも多投される所謂ツーシーム、ボールの握りを通常の物と変えて敢えて綺麗な回転で無いボールをわざと投げる。所謂日本で言われる「汚い回転のボール」のストレートである
その為不規則で回るので、空気抵抗もいびつになり、ベース手前で僅かに変化する「狙って打って」引っ掛けるのはその為だ
これは既に葉月を評する言葉として浸透している「アホみたいに早いストレート」と「ハエが止まる程遅いチェンジアップ」の二種だけで打たれない訳ではない
そうなっているのも事情がある。
葉月は部活でも遊びでも誰からもちゃんとした指導を受けてない、つまり、遊びの延長から高校まで投げながらこうしたら打ちにくい、こうしたらちょっと曲がるとかを体で覚えて工夫して出来上がっている、自分で考えてこの形になったという事
相手選手の発言のツーシーム等という気の利いた分別した技術ではない、1球ごとに握りを変えたり、力を入れる指を全部変えたり、ボールの縫い目も順目だったり、逆目に引っくり返して握ったりして投げている、チェンジアップも本来は人差し指、小指で挟んで親指で固定して抜くのだが、葉月はこれも1球ごとに小指と薬指で持ったり、親指と小指だけで持ったりして投げる、同じボールが来なくて当然なのだ
これを「全く同じ全力投球の腕の振り」で繰り出される為、実際にバッターボックスに立つと事前ビデオの類があっても全く違うと分る、これが分っていても球種狙いでも研究されても打てない理由である
ただ、結局試合は7回裏まで鳳静が得点を奪えず
最後の攻撃と成った
一番からの好打順ではあるが、仮に4番葉月に回しても、まともに勝負して貰えない、それを崩す活路があるだろうか
ここで監督が始めて口を挟んだ、明らかにチームの不安と落ち込みが見て取れたからだ
「方針は変わらない、今まで何度もあった劣勢時も九重に繋いで覆した繋ぐ意識を捨てるな」
「でも、勝負して貰えないんじゃ‥」
「なら塁を全部埋めてしまえ」
「!?」
「あ、確かにそれなら‥」
「そこまでいかなくても、走者多ければ多い程敬遠はし難い、最後まで捨てるな、まして九重も高校で全国優勝を飾れるのはこの夏と冬しかないんだ」
「そ、そうだね‥やろう!」と
そしてこの方針を受けてチームメイトはそれに応えた。先頭打者の一番がなんと徹底したカット打法を敢行、相手に22球も投げさせてフォアボールで出塁
二番がセーフティー気味のバントと、作戦ではないが一塁走者がエンドラン、焦った相手内野がミスして一塁の送球が逸れ、まさかのノーアウト1,2塁とした
これには球場全体が大歓声になった。ここで先ほどポテンヒットを打っている三番、これも徹底した繋ぐ打法、だが不運にもライナーがサードに飛び進塁無しでアウトとなった
そして4番葉月
無論、また勝負してもらえないのでは?の空気があった、実際ベースは三塁が空いている
満塁策を取っても葉月と勝負するよりマシな状況はまだ残る、だが今回この意気に一番燃えていたのは他ならぬ葉月である
「ここまでしてもらったんだから死んでも打つ!!」
そして目算もあった
そう。完全な敬遠ではないという事、そこで葉月は何時もの、左打席で無く右打席に入った
「あれ?何で打席変えたんだ?」
「ていうか葉月ちゃん元々右利きだよね?」
「つまり右投げ左打ちか、野球じゃよくあるけど、まあ、女子で左投げあんま居ないから有効ではあるな」
「いや、葉月に聞いたけど、そういう意味じゃないらしい」
「じゃあ、どういう理由ッスか?陣さん」
「葉月曰く「イチローだって右投げ左打ちじゃん!」だそうだ」
「モノマネ打法かよ‥」
「あ、だからなんか似てるんだ‥」
「そんなテキトーな理由であれだけ打てるのもどうなのか‥」
「じゃあ、右に入った理由は??」
「んー‥多分アレ打つ気だろ」
「え??敬遠のボールを?!」
「つっても露骨な敬遠じゃないけど、アウトコース二、三個外されてるしょ、振って当ってもバットの先だと思うんッスけど‥」
「オレと考えが同じならそれでも打つだろうな」
「??」
「ま、直ぐ分かるよ」
そう、陣が〆て見守ったが其の通りだった
葉月は2ボールからの三球目、ボックス外に踏み込んで打ったアウトコース3個外の敬遠気味のボールを
体をギリギリに下に傾けつつ、体を開いて右手を投げ出すようにして、本来振って当ってもバットの先のコースを
「えええええ?!」と一斉に声が挙がった
そしてこのボールはかなりスライスの掛かったボールで飛距離は十分だが右に切れるかどうかだったが、ギリギリの所でライトポールに当たりホームラン認定された
最終回の逆転サヨナラ3ランであった
「やっぱな‥」
「右手一本でもってった‥なんちゅうパワーだ‥」
「けど、なんで届いてちゃんと打てたんだろ?」
「やってみりゃ分るよ、右ボックスなら両手じゃなくて右手一本で振った方が外まで届く、それで無理矢理先っぽから芯に近い所に当てた」
そう陣に説明されて女子組みはやってみるが其の通りだった
「成る程‥」
「でもこれ、野球の打ち方じゃないよな」
「そうですねぇ、テニス?」
「あー、そんな感じ」
「けど、この打ち方だと左ボックスじゃ左手で打つ事になる、それで持ってくのは難しい、外に届かせて一発で決めるにはこれしかないしな」
「成る程なぁ‥それでスイッチか」
「何にしても相手のミスだな」
「そっスね、外すならちゃんと敬遠するべきだった。こういう場面で露骨な事はやり難いてのはあったんだろうけど」
「そういう事だな、勝ちに拘るのは悪い事じゃない、批判されても半端な事はすべきじゃない」
「でも兎に角良かった‥最後の年に勝てて」
そう鳳静ソフト部創設初の全国制覇である、叶にはそれが一番だった、そして葉月らにとっても「最後の夏」なのである
葉月は悠然と一周してホームベースを軽くジャンプして踏んだ。これまで、人生で一番大きな笑顔とガッツポーズと「おっしゃー!」をして
瞬間、葉月はホームで迎えた部の全員に飛びつかれて押し倒された
「やったー!葉月ちゃん!!」
「優勝だよ!初優勝!!」
「最高!!」
下敷きになった下で葉月は猫がしっぽを踏まれた時の様な声を挙げた
「ミギャー!!しぬー!!どけー!」と
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だが、それは「相手のパラメーターが見れる」という正に神ゲーだった
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野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~
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そんな超能力と呼ばれる能力を、誰しも1つだけ授かった現代。その日本の片田舎に、主人公は転生しました。
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男の子として生まれた主人公も、授かった超能力は最低最弱と呼ばれる物でした。
しかし、彼は諦めません。最弱の能力と呼ばれようと、何とか使いこなそうと努力します。努力して工夫して、時に負けて、彼は己の能力をひたすら磨き続けます。
全ては、この世界の異常を直すため。
彼は己の限界すら突破して、この世界の壁を貫くため、今日も盾を回し続けます。
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