八法の拳

篠崎流

文字の大きさ
上 下
12 / 37

支える者、背中を押す者

しおりを挟む
北条が八陣の門を叩き、その門弟になって更に一週間後

北条も、那珂高の3年でありまだ学生である。従って、陣ら、個人的にアドバイスを受けている悟等と実際は行動の時間は変わらないのである

その為、門弟となったと云っても、師範代でもあるみやびから積極的に教えを受ける環境に無い

まさか学校辞める訳にもいかないし、仮にやったとしたらみやびが許さないだろう

そこで北条は「自身が早く学びたい」という一念だけで、とんでもなく大胆な行動を取った

「そういう訳でよろしくお願いします!」だった

つまり彼も九重の家に入ると、決め、手荷物一つで乗り込んできたである、それを迎えて居間で話を聞いた一家もびっくりであった

だが、みやびは
「思い込んだら、ね、良いわよ好きになさい」だった

「いいのかねぇ‥」
「ご家族は?」
「了解は取った」
「ま、部屋余ってるしな」

そう言った通りである。実際、ある程度の流れが読めている為この家は「ここを譲ってもらった」「与えられた」のである

九重の長、雪斎の指示はある程度、先にあって、全て整えられた「こう成る事」を雪斎は予見があった

「じゃあここで」
「六畳間だよ?」
「自分はどこでも構わない。居候には違い無い。迷惑は掛けない」
「堅苦しい奴‥」

と一番狭い、和室を使った

その日から、さっそく指導は始まったのである。というより、当人が待てないというのがあった

道場では無く庭、境内のような場所でみやびに付いた、縁側で見学する他の3人である

「何故外?」
「ま、とりあえず自分で習得したモノそれが貴方にはあるわ、一拍子。あそこにあるでしょ?」

木に巻きつけられたクッションが面前にある

「やってみればいいんですね?」
「ええ、八陣は別に「何から学ばなければ成らない」という順序は無いわ、だから「一拍子」をある程度持っているならそこから肉付けしていくわ」
「成る程」
「パズルで一番分りやすい所から嵌めていくのと同じね」
「理にかなっているな」

そして北条は庭木に実際「一拍子」大会でもやった右上段を打ち込んだ

無論、威力の無い技である、ズドン等という気の利いた音はしない。打って構えなおして、みやびを見る

「んー‥やっぱ「一拍子」だけに見ても遅いわね、いえ、蹴りは早いけど」

そういわれたが、実際はそれは北条も分っていた

「自分もそう思います、陣のモノと比べて微かに遅い何かが違う、練習すればするほど実感がある」
「理論は理解しているわね?」
「ええ、本来の2~3のアクションを1でやっているんですね?」
「打っても気持ちよくないでしょう?」
「それは‥当てるだけのモノですから‥」
「そこね」
「と、云うと?」
「動作を消す意識が強すぎる、それと元々回し蹴りが得意、軌道が甘いわ」

「具体的には?」
「一つ、打った後、元の構えにも早く戻す意識は要らないわ、当った後はもう決まっている。二つ、当てるだけ、でも、ヒット直前は押し込んでいい。その蹴り込み反動で戻すのよ。三つ、もっと直線に蹴って良い。これは元々のクセ、だから直ぐは無理だけど、どうしても元の得意な回し蹴り風に軌道が成ってる、そこを直せば完璧」
「な、なるほど」

「打って、気持ち悪いのはちゃんと蹴ってないから。違和感が残るのは。構え、蹴り、戻すまで一緒くたにしてるから、戻す、はどうでもいいわよ。重要なのは「当てる」まで、その意識がバランスを崩してる一撃目から「次」を考えてはいけないわ」
「り、了解」
「じゃ、後は自由に、これでおしまい」
「え??早!?他の技とか‥」
「多少他にもありますが、第三拳「雷光」一拍子、突き蹴り、これが基礎で奥義ですから、後は違う業と云っても大してありません」
「しかし、陣の最後の蹴り、違うような‥」
「あれが複合技。八拳に入ってないけど特殊な技法があるわ「空察」それを一拍子と合せるとああなる、そゆこと。逆に言えば「雷光」は合せて究極と言えます」
「そうだったのか‥」

「ええ、ま、だからそれはまた別、というわけで練習なさい、それと納得するまで出来たら逆足でも同じく出来る様にね」
「分りました」

と北条もクソマジメにそれを続けたのである。
もっと何かあるのでは?と思ったが、実際はその「一拍子」だけを完璧にする、それだけでも本来はかなりの時間が掛かる

「たったそれだけ」ではないのだ。そもそも見よう見真似で形に出来る事が異常とも言える

だからとりあえず北条にはコレを与えておけば、当分かかるでしょ、と屋敷に戻って家事に勤しんで傍観したみやび姉はそのまま新しい教えはしなかった


だが翌日、日曜日、夕方に声を掛けられて庭。雑木林とも云えるが、呼びだされ、みやびも言葉が無かった

「とりあえず、一応、納得出来る形になったので見てください」だった

そして一拍子を木に放って見せた
指摘した点は略修正されていた

だが、驚きはそこではない、彼の姿はボロボロ食事を取った記憶も無いし、昨日から話しかけられたのは初で「今」である

「それ、ずっとやってたの?」
「え、少し寝ましたが」
「大阿呆者!誰が体壊しかねない程練習しろと言うた!」

そのままみやびは北条の襟首を掴んで家に引っ張った。居間に入って即興で飯を作って出して。マッサージ兼触診を念入りにやった

蓄積疲労はあるが、怪我も病気も無い。そこでどうにか収まった

「アンタが練習で怪我やら病気出したら私の責任じゃろ!?」
「すいません‥」
「自己管理も出来ないとは思わなかったわ」
「つい、集中しすぎて‥」
「たく!‥新しいおもちゃ貰った子供かアンタは!」

そうまくし立てられて北条も謝るしかなかった

「もうなんもするな明日まで寝てろ」と云われて着ているモノを剥ぎ取られ新品を着せられて、部屋に押し込まれた

そうなっては従って寝るしかなかったのである

「何だ何だ?」と夜帰って来た葉月と陣に説明した

「ええ??アレずっとやってたの?!」
「朝やってるのは見たが‥」
「なんて手間の掛かるいかいな子供だ!18にも成って!」
(やべぇ)
(めっちゃ怒ってる)

大体方言の出るみやびはブチキレ状態である、知ってるのは関係者だけである

「すまん姉貴、俺も見とけば‥」
「ボクもまさか自己報告くらいするだろうと‥」

と何故か陣と葉月が平謝りであった

だがそれだけに。以降、この様な事件は起こらなかったのである。北条自身がまさかあんなに怒るとは、と反省し、自重

みやびも常に、北条を見て置くように成った事である、というかスゲー怖い

だが月曜には何時もの「みやび」だった
朝6時には北条だけ先に起こされた

「学校でしょ、先に起きてお風呂入りなさい」
「え?早いですよ」
「ダメですもう沸かしてあります」
「別にこのままでも」
「丸二日も練習してズタボロでしょ汚いし、においますよ?」
「はぁ」
「それも礼儀、です」
「そういうものですか」
「相手を不快にしない、大事な礼節です、身なりはキチンとしなさい」

怒らせると怖いので素直に従ったのである。そして云う事も道理であるとも思った。

そもそも北条は「武芸」の事以外が無頓着過ぎる、そういう考え方自体無いのである

7時前には全員起きて、居間で朝食を取る
みやびが何時ものみやびなので陣らも安堵した

「そういえば空手はどうするの?」
「あえて続ける事もない、自分は八陣をやると決めた」
「いいえ、続けなさい、なんらかの形で」
「?」
「前にも言いましたが、八陣は良い物は否定しません、空手が門外流派だと云って捨てる必要はありません」

「ああ、成る程。技も増える、でしたね?」
「ええ、貴方にとって、素晴らしいモノならそれは貴方の財産です」
「そうですね、それと一拍子をやって思いましたが、意外に似ている」
「雷光と不動、は実際拳法と、古流空手の源流ですから」
「そうなのか」
「ええ、合せて使って、強くなるならそれでいいんです。それで八陣にも利益になる、ならそのままで」
「分りました」

出掛けにやはり北条だけ玄関口でみやびに身だしなみを整えられた、襟を正され、適当すぎる髪もとかされた

「いい男なんだから、もっと気を使いなさい」
「これも礼節、ですか?」
「そうです、言葉も服装も相手と接する時は全てです」
「陣兄を見てみなよ?崩しても筋を外さない「粋」て奴だよ」
「そういわれると‥」

こうして一同は登校したのである

ただ、別に「北条だけ」という訳ではない。陣も葉月もこうされて育ってきたのだ。彼女が姉であり母なのである

だが同時に
「なんか母か妻の様だな‥」と北条は思い
「なんか新しい弟か子供みたいねぇ‥」とみやびは思った

一方、那珂で北条の報告を聞いた峰岸と坂田は、ここで始めて八陣の者と成った事を知り驚いた。だが同時に歓迎もしていた

「うーん、北条がねぇ‥だが確かに、アッチの技術はスゲーしなぁ」
「ああ、それに俺的には向こうに尋ねやすい、てのもある」
「それも不順ですね」
「そうじゃねーよ。俺は北条は元々「空手」に収まる奴じゃねぇとも思ってたし、あの「八陣」てのは埋もれさせていいのか?てのはある、両方だ」
「成る程、そこは自分も同感ですね。」

「そいや、空手、どうする?」
「続けるよ、そうしろ、て云われた。自分を作ったベースなら俺の財産でもあるし八陣にも利益に成る、と云われた」
「ああ、こないだ話した「良い物は構わず取り入れる」だっけか?」
「確かにもったいないしな、折角今の立場、社会人大会でも勝ってんだし」
「ええ、それで、どちらもやっていこうと思います」
「そうだな、出来るならやったほうがいい」
「まあ、向こうに居候してるんで、ソッチへ。ま、連絡は元々携帯ですから連絡先は変わりませんけど」
「ああ、今後もよろしくな」
「はい」

ただ、北条の空手はどこかの道場に通って、というのは小学生六年に始め道場に通ったのは。中1までの一年間だけである、以降は「部活」の中で活動してきた。無論顧問の先生は居るが初段の先生だけで。名士ではない

一拍子の件を見ても分るように、北条は自己追求に余念が無く。見て、感じて、解して、使う事が出来るのである、それが天才と云われるゆえんでもある

そして「変化」がじょじょに見えてくる「形」として、それは早いのだった

当日、早速峰岸は九重の道場を訪れた。無論記事の事である

応対した家に一人、みやびと応接間でお茶を出して会談である

「失礼なモノ云いに成りますが、実は「面白そうだ」という事で雑誌の紙面にはすでにGOサインが出てまして。この様な形になりますが‥」

とお伺いを立てた

「拝見します」みやびも原稿を読んだ

内容は先日、雑談取材と同じ、なるべく大げさにならず事実のみを羅列。会話のやり取りと峰岸の私見が最後に挟まれている

そして「みやび以外名も顔も出さない」という条件も守られている、紳士で真剣なそれでいて間違いの無い内容である

「原稿は問題ありません、ただ、一応祖父にも相談したいのですが」
「分りました、何日か抑えておきます」
「いえ、電話を掛けるだけですので数分で済みます、失礼」

携帯片手にみやびは一時はなれた

実際それは本当に数分だった。会話は分らないが居間の外で5,6言やり取りしただけのようだ、ただみやびは驚いた様な顔を見せていた

スッと席に戻り

「私の判断で良い、との事です、結構です」
「分りました、では早速、それと実際の発行は十日後のスペースを取っています」
「構いません」
「こちらからの依頼、には違い無いですから、謝礼の類もソコソコ出ます」
「構いませんよ、いくらでも、たいした問題ではありませんから」

とメモにササッと走り書きして峰岸に渡した

「振込みで結構です、連絡はこちらの携帯へ」
「達筆ですな‥」
「字が上手いのも飯の種、等と云われ習わされました」
「昔の人は云いますね。良い事だと思いますよ」
「ええ」

「それと、写真等は宜しいでしょうか?」
「ええ、勿論です」
「あ、普通にしてていいですよ」

そこで小さな手荷物から小さいカメラを出してパッと数枚撮る

「なんか簡単なんですね?」
「今はデジタルですからねぇ。パソコンで色々修正も出来ますしちょいと知識があれば…ああ、みやびさんはその必要はありませんね、素でも美しい」
「あら、ありがと」

その後軽く雑談、取材、というより、峰岸自身「興味」と言ったとおり、知りたかったというのもあった、ただ、その中でみやびの峰岸評は少し変化があった

「しかし記事に成るとはね」
「まあ、俺自身、興味深いというのが一番ですが。こういった素晴らしいモノがひっそりと、静かに、しかし知られずそのままにされている、というのが勿体無く思いまして」
「なるほど、それも一理あります」
「この業界、長いというのもありますし、そこそこ発言力はありますので、それを活かして、自分の目から見て「本物」を出来るだけ皆に知ってもらおうと独断で勝手にやる事も多々あります」
「人によっては有り難いことですね」

「ええ、ただ知名度があるかどうか?で物の優劣は決められるべきではないんです。それが素晴らしい、才溢れる物なら、多くに知ってもらいたい、本来メディア、というのはそういう物だとも思ってます」
「もしかして‥北条君の事も?」
「ええ、あいつを中学1年から見てきました、無名の頃から、自分も空手やってた、というのもありますが。ほんとに凄いやつだと思います、だから何かと早い時期から、まあ、オレは記事にする事でしかあいつの背中押せないんで、そうしてきました」
「素晴らしい事ですね」
「実際、10年に一人の天才、と書いても誰も文句は言わないくらい結果だしましたからね。そこはあいつの凄さです」

「元々そういう考えだったんですか」
「いえ、俺らのじーさんの時代は、何も無かった、でも素晴らしいものを素晴らしいという「心」はあった、だが今の時代は偽者を持ち上げそれで金儲けするしか皆、頭に無い。特に世間を見てそう思うように成ったんです。つい‥10年前くらいの事です」
「よくわかりました、貴方は誠実な方なんですね」
「いやぁ‥」

と頭をかいて少し彼もテレた

「ところで、北条はどうですか?馴染みそうですか」

そこでみやびは初日の「事件」を軽く説明する

「ハハ‥あいつらしい」
「ただまあ、元が空手ですし、才能も抜群、努力も惜しまない、間違いなく私が見た武術家の中でも1,2です、きっと結果は出ます。ま‥やりすぎですけど武芸以外の所が妙に抜けてて」
「すいませんね、割と、周りが見えなくなる事がありまして、みやびさんもよく見ておいてください」
「ええ、そうします、私も油断してました」

「しかし、1,2とは?弟さんや妹さんは?」
「ああ、よく勘違いされますが。まあ、北条君もそう思ってるでしょうけど陣と北条君の実力と才能に現在差はありません」
「そうなんですか??」
「はい、陣は万能型、何でもよく出来るし、八陣には向いている、故技の多い八陣であるから無双しているとも云います」
「対して、北条君は一つ一つの技を極めていく、どちらかと言えば尖った才能の子です。故に、本来の空手、の理想「一撃必殺」の形がよく嵌ります」
「なるほど」

「簡単に言ってしまえば、戦場で使える手持ちの武器の差で実践で戦ったら「差が付いている」ように見えるだけです。なにしろ、今現在北条君は相手の出す手に対応する手段がありませんが、逆に陣は相手の持ち手の苦手なところを武器を変える事で常に弱い所を突けるのです」
「技、経験、知識、の差??」
「ハッキリ云えばそうです。北条君が刀を持ち出したら、陣は離れて弓を出す。その展開になった場合、北条君は手つまりに成ります、故、八陣の戦いの中では圧倒的な差になる、というだけです」

「ふむ‥、しかし元々才能の質が違うなら、その差は縮まらないのでは?」
「いいえ、八陣は結局、知識です。刀を使って弓への対応手段が分ればその差は縮まります、そして斬れる所へ近づけばいいだけです」
「なるほど」

「今は、確かに「八陣」の何でもあり、で試合しても10回に1回も勝てないでしょう。ですが、相手の出す手に返す手が有れば、五分に持ち込めます。実際こないだの大会、まあ、判定はアレですが、陣が上回ったのは手つまりで出す手の多さで差が出ただけです」
「つまり、同じ条件を揃えた場合、五分五分なんですか?」

「おそらく、まあ、実際試す訳にはいきませんが、わたしはそう考えています、実際、こないだの大会「ルールの縛り」でこちらの出す武器が制限されていました、ありましたよね?あの硬直」
「確かに‥北条自身、手が無いと云いました、あれはそういう事なんですね」
「ええ」
「ふむ‥いや、確かに、知らない物には対処出来ない、それはありますね」
「八陣は技の多さ、知識の豊富さ、技術で「如何に優位」を作るかがあります。戦いに100戦100勝はありません、ですが、やってみないと分からないでは意味がありません。故に、10回のうち5回の勝率をその「持ち手の多さ」で6,7に傾けていく事にあります。ですから「必勝」という言葉もありません」
「ふむー‥」

「それに単純な部分、単に肉体的な才能、運動能力で云えば、ウチでは葉月がぶっちぎりで一番ですしね、でも戦ったら陣には10の内良くて3勝てる、という程度ですから」
「一つ疑問がありますが、では八陣同士の戦い、というのはどうなるのですか?何が優劣、試合での判断になりますか?」
「予備実戦ですね、柔道の乱取りと同じく、どちらかが納得するまで終わりは無い、判定とかありません、双方納得するまで手持ち武器を振るいます、そしてお互いが長所と短所を把握しそれを練習で修正します」
「では野試合では?」

「そういう例、私闘の類は同門では、略ありませんが、優劣がつくとすればおそらく、「アドリブ」の差でしょうか?」
「成る程、応用力ですね」
「多分そうなります。組み合わせが無限だけに、その組み合わせ方の上手さで差と成るでしょう」

「ただ、お分かりとは思いますがこの前提条件はまずありません」
「そうですね、手持ちをマズ揃える、というのがそもそも難しい」
「ええ、そもそも、同門の中で優劣は明確に決まりません。数百戦ってどちらが何勝多く取ったか?という程度の物でしかありません。そして八陣では複数の拳を所持、習得する者は何より貴重な「本」の様な物です。潰しあいという概念はありません」
「維持、が目的だから、ですね、よく分りました」

「そういう訳で、北条君はその意味、どのくらいというのも基本ありません、ただ個人だけの才覚の範囲で言えば、運よく、進めば、あらゆる多くの格闘家が成し得ない領域に行けるハズです、そこは間違いありません」
「運、か、確かにどこの世界でも「優」が頂点に立つ例は稀ですからね」
「ええ、怪我、病気は読めませんし、まともな指導者、見出す者の才覚にも左右されます、そして、峰岸さんが先ほど仰った通り、見る者の目が曇っていれば正しい評価も出世、立志もありません」

峰岸は俯いて笑った

「いや失礼、貴女の様な方と、八陣に出会ったのは幸運な事です、オレにも北条にも」
「それも時の運、時期もありますから、まだ分かりませんよ?私自身、今が早いのか、遅いのかすら明確ではありませんから」
「そうですな、兎に角、今後ともよろしく」

と、和やかに会談は終わり峰岸も帰った

峰岸が自然と笑みが毀れるは当然でもある、本来、武術、技術というのは「体感」「実践」に寄る継承が多い

それを理論的に明確に示せる事、理解させられる知性をもつ者はそう居ない

「文武」同じく秀でた、等歴史上極めて稀なのもその為だ

教えて通じない、というのは教える側が理屈として伝えられない要素もある、それが「出来る」みやびはある意味稀な指導者でもある「出会った幸運」は北条らには奇跡に等しくあるのだ

「オレも学生時代、ああいう先生に会ったらな‥」

そう思わず呟く峰岸である

ただ、幸運、というのは北条と峰岸の出会いもその一つでもある。唯一のみやびの心配事 それは北条の性格である

自己を極める努力は惜しまないが、それ以外の部分があまりに欠けている

おそらく、峰岸が取り上げなかったら、若くして名を馳せた事も無かっただろう、自己を極めて、それで満足した可能性も大いにあるのだ

その意味、みやびから見れば、北条にとっての峰岸も背中を押してくれる、貴重な人物であると評していたのであった

自分から前に出て行く性格の人間ばかりではない、そういう人間は「優」である事は寧ろ少ない

「オーディションやコンテスト」が、まず最たる例だろう

だから控え目な北条や陣の様な男には時に無理矢理でも背中を押す人物が必要な事もある、その出会いも「幸運、巡りあわせ」なのだ

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。

夜兎ましろ
青春
 高校入学から約半年が経ったある日。  俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

パラメーターゲーム

篠崎流
青春
父子家庭で育った俺、風間悠斗。全国を親父に付いて転勤引越し生活してたが、高校の途中で再び転勤の話が出た「インドだと!?冗談じゃない」という事で俺は拒否した 東京で遠い親戚に預けられる事に成ったが、とてもいい家族だった。暫く平凡なバイト三昧の高校生活を楽しんだが、ある日、変なガキと絡んだ事から、俺の人生が大反転した。「何だこれ?!俺のスマホギャルゲがいきなり仕様変更!?」 だが、それは「相手のパラメーターが見れる」という正に神ゲーだった

優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由

棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。 (2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。 女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。 彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。 高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。 「一人で走るのは寂しいな」 「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」 孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。 そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。 陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。 待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。 彼女達にもまた『駆ける理由』がある。 想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。 陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。 それなのに何故! どうして! 陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか! というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。 嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。 ということで、書き始めました。 陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。 表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

処理中です...