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進歩
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8月の手前
朝もそれなりに暑い日九重の道場兼自宅にお客さんが訪れた
「御免ください」と
「はい?」とみやびが玄関に出て応対した
「貴女は‥」
「はい、お久しぶりです。有馬 萌めぐみです」
「ほんとに‥おじい様の所に居たハズでは‥あ‥」
「はい、こちらでお手伝いするようにと仰せつかりました」
「成る程「考えておこう」とはこういう事なのね」
「左様で御座います」
「とりあえず上がって」
「はい」
と、居間に通された。やたら丁寧、且つ時代掛かった口調の少女、萌である。八陣とは昔から深い関わりのある家の娘で陣らの祖父「雪斎」に預けられ、学びと世話をしていた
「と、いう訳で皆さんのお手伝いを致します、宜しくお願いします」
「つまりここに住むの?」
葉月は茶碗片手に返した
「そう言われて来ました」
「ほんと久しいな、あんまり変わってないな」
「3年くらいでそんなに変わりませんよ陣様」
「言い方も変わって無いな、様はよせって」
「んー、でもまあありがたいわね。私もやる事が多すぎて‥」
「しかし、年が年だがどうするんだ?コッチの学校に通うのか?」
「はい、既に手はずは整っております。葉月さんと同じクラスになるかと」
「ええ?!ちょ!早くない?!」
「じーさんらしいな‥」
「まあ、でもここに住むならそうなるわよね‥」
「家事の面ではお役に立てるかと」
「しかし、おじーちゃんはどうするの?」
「父も姉も居りますから」
「そっか、まあ、いいや宜しくね萌ちゃん」
「はいこちらこそ、御代わりよそりましょうか?」
「さんきゅー」と葉月は萌に空いた茶碗を渡した
「とりあえず部屋はかなり余ってるわ、好きな所使って」
「はい」
みやびに案内されて玄関口に近い8畳間に入ってさっそく荷を解いた
「もう制服もあるのね」
「ええ、全ての準備を整えてから来てますから」
そうして30分後。陣、葉月らと登校したのであった
ただ、陣はあまり気乗りしない
一通りの流れ、登校、クラスでの紹介、授業、放課後の溜り場メンバーとの集まりの後、陣は足早に離れた「バイト行くわ」と言って
「という訳で有馬萌ちゃんですヨロシク」
何時もの様に葉月に紹介される
「宜しくお願いします皆さん」
「うむ」
「‥また美少女が増えたな」
「しかし陣さんどーしたんすか?」
「んー。萌ちゃんと居ずらいのかもね」
「なんで?」
「わたくし所謂許婚でしたから」
そう萌本人に返され悟がポカリを噴出した
「汚な!」
「ブハッ!し、しゃーねーだろ!」
悟は一通り整えてから
「マジ、びっくりするわ‥どこの異世界の話だよ」
「いや現世ですが‥」
「しかしなんだな、でしたからというからには今は違うのか?」
「そういう訳ではありませんが、一度お断りされているので」
「マジデ?」
「そそ、あれまた「自分の本当に好きな相手とすればいいさ」とか云っちゃってさぁ」
「いやぁでもまあ、陣の云う事も尤もじゃね?」
「ですよねぇ、今時親同士がそんなの勝手に決めるというのも‥」
「なんかさー、叶ちゃんにはそういうの居そうだけどね」
「流石にウチでもありませんよ‥そんなの」
「しかしまぁ、理由は分ったな」
「ちょっとやり難いだろーな」
「てかさ?当人はどう思ってるの?」
「わたくしも時代錯誤だと思いますが、陣様は素敵な方ですし、わたくしも八陣を学んでおります。その一門に入るのは良い事だと思っております」
「そういうもんなのかね‥」
「ほう、と云う事は萌ちゃんも強いのか」
「さあ?どうでしょう?」
「日常で戦う事なんか無いしね」
「ま、そりゃそうか」
「ただ、皆様が思っている許婚とは少し違いますけど」
「と言うと?」
「あくまで、誰を妻とするかは陣様が選ぶ事です、わたくしは候補の一人という事です」
「マジかよ‥」
「ちなみに萌ちゃんのおねーさんも対象だったよね?」
「左様です」
「色々別世界過ぎてぶっとぶわ」
というのが一同の共通認識であった
そのまま萌と葉月は溜り場から出て教室へ戻った
「じゃ、ボクもここで、部活あるから」
「わたくしは家に戻ります、色々と家事関係でみやびさんと話す事もありますし」
「そっかー、どっか部活も無理ぽい?」
「そういう訳ではありませんが。時間が無くなってしまいますので」
「だよね」
「ええ。それでは」と萌は先にそそくさと教室を出た
夜の遅目の夕食の場で一家は何時もと違う夕食をとった
「あれ?これ萌ちゃんが?」
「ええ、わたくしも学校ですし、結局の所分担すると云ってもそれ程みやびさんの負担軽減には成りませんから、せめてわたくしが居る時間は、と」
「ふーん、ま、みやび姉しか昼間は居ないしねぇ」
「そうなのよね。午前中パート、午後から戻って家番。まあ、道場はあって無い様な物だからいいけど」
「どうせ門下生が居る訳でもないしね」
「それと葉月さんの勉強はわたくしが観ますので」
「ぐっは‥」
「けどまあ、萌ちゃんが夕食用意と家庭教師してくれるだけでも大分違うわね」
「そうだな。それでも2,3時間は余裕が出来るだろう」
「そういう訳です、夕食が終りましたらお部屋に伺います」
「はい‥」
「ところでさ、もう直ぐ夏休みだけど皆予定は?」
学校のお昼、学食の場での七海の一言である
「授業無いってだけでオレらはあんま変わらんよな?」
「んだね。陣兄もボクも七海ちゃんも部活あるし」
「オレもボクシング部あるッスね」
「と云う事は大会もあるんかな」
「あるよーボクの方は8月後半だけど。ソフトの地方戦」
「オレは無いッス、一応出ろって云われてるッスけどね」
「あたしもだね」
「そりゃま、一年だしな無理に出るもんでもないし」
「陣兄は?」
「俺の方はまだ先だな、一応個人戦出ろって云われてるな」
「ふーん」「ま、普通に遊ぶッスけどね」
「なんか‥GW前にも聞いた様な‥」
「と云う事は、叶ちゃんと長行君は‥」
「残念ながら寝てる、は無いぞ。田舎帰るし」
「へー」
「わたしも前半は海外です」
「やっぱ皆バラバラだな」
「ああ、んじゃオレ、陣さんとこ行っていいすか?」
「んん?」
「みやびさんに習いたいんで、色々」
「あ、それならあたしも」
「あー、社会人に夏休みはあんま無いけど多分午後は居るから大丈夫じゃない?」
「了解ッス」
「まあ、でもせっかくだから成るべく一緒の機会はあったほうがいいよね」
「それはある」
とは云ったが実際の所、叶と長行はほぼ居ない。このメンバーで何かとなればかなり先の事ではある
ただ、夏休みの初日から九重の道場に宣言どおり。悟と七海が来るようになったしかも朝っぱらから
「みやび姉は居ないって云ってるやん」
居間で皆でテーブル囲んでの応対、葉月がせんべい食いながら云った
「だって暇だし」
「ウチを溜り場にしようというのか」
「出来なくは無い。なんか広いしなここ」
「そうそう部屋多いし、合宿所みたいじゃね?」
「そういう事か」
「けどさー、七海ちゃんは叶ちゃんちみたいにどっか行こうと思えばいけるんじゃ?」
「オヤジ忙しいし滅多に家にいないわ。ママも殆ど奥様連中と会合してるし」
「なるほど」
「そういう陣さんも葉月も暇そうじゃないッスか?」
「確かに、オレもバイト午後だし」
「ボクも今日はなんもない」
「みやびさんも居ないし、んじゃ陣さん相手してくれねーすか?」
「別に構わんが」
「午後からだって言ってんのに‥」
「おっし」と悟と陣は練習用グローブをはめて道場で対峙した
「つーか、ボクシング形式でいいのか?」
「オレの欠点の修正、結構やってたんで」
「つまり俺がみやび姉の代わりに見て指摘すりゃいいんだな」
「お願いします!」
と二人のパンチのみでのスパーリングが始まった。6分、2ラウンド軽く流して行った後其々汗を拭った
「大分良くなったな。右の修正は略出来ている。ただ、まだ真っ正直過ぎるかな」
「具体的には?」
「うーん、細かい所だけど、ワンツーを混ぜる時に1の左で明らかに右の準備してるのが分るな、左打った瞬間、右肩が拳一つ分後ろに下がる」
「うげげ、マジッスか‥全然気がつかなかった‥」
「慣れると分る、て程度だからそれほど気にする所じゃないがな、ただ」
「ただ?」
「どうも悟は右打ちを「仕留める」意識が強いな、かなり力が入る、それがバランスを崩す原因だ」
「なるほど~」
「そんなに全力で打つ必要は無いぞ、当たりが良ければ大抵倒せる訳だし」
「そういうモンなんですかね?」
「八陣にもそういう技術がある、第3拳 雷光、一拍子て技を見せたろ?」
「あの、無茶苦茶早い蹴りッスか?」
「そうだ、相手の認知を超えれば棒立ちの相手を倒すのに等しい。だから兎に角狙って決める、早い事、裏をかく事、とする技術もある」
「うーーーん、よく分んないッス‥」
「そうだなじゃあ見せてやろう」と陣は云った後
悟の肩の後ろに視線を向けて「あ?」と言った、つられて悟も「え?」と言って少しそちらを見た
そこでいきなり陣は悟の胸を「トン」と軽く押して後ろにひっくり返した
「おわ!?」とステーンと転ぶ
「こういう事だ」
「!??」
「相手を転ばすのに力なんか大していらん。当るのが急所ならなおの事だ」
それで悟も意味が分った様だ
「なるほど‥後ろから殴り倒すようなモンですね」
「極端に言えばな」
「精確性、速さ、予備動作の少なさ、意外性、これか」
「意識をそう持って練習しな。分っていれば自然とそうなっていく」
「オッス!分りました!」
「まあ「速さ」に関しては略、極まってるからな。其の点は問題ない」
「了解ッス」
「しかし色々あるんだなぁ‥」と七海も関心して呟いた
「そうだな要は「認知」をずらせばいい、当てるならな」
「ふむふむ」
「例えば葉月の「蹴り」も大振りだが当る。それは相手が認識出来ない所から飛んでくるからだ」
「確かに‥」
「早いという事、見えないという事、予測もしてない事、向こうが見てないという事。突き詰めれば「攻撃」において「当てる」とはそれをズラす事にもある」
「?見てないってのは何すカ?」
と悟が言ったのでそれもやってみせる
「じゃ、右打って当ててみろ」
「お、オス」
と右フックを陣に繰り出す、陣はそれを右手で右に払うと同時に左足を左前方に運足しながら悟の右後ろに回った、瞬間背後から悟の後頭部を軽く手刀でコツンと突いた
「見えてなければ防げない、こういう状況を意図して作る事、さ」
「おお‥」
「クロスカウンターや頭が付くくらいの近接からのボディ打ちなんかもそうだな、みえなきゃ大体当る、攻撃を出す瞬間は大抵見えてないからな」
「なるほど、パンチの「種類」とはそういう事ッスね」
「それもあるが打つ手が多い方がいいのもある。武器が一つしかなきゃ自ずと事前行動も分る、喧嘩なら大体一発で終るだろうがリングではそうはいかないからな」
「ふむー、為になるなぁ」
結局「軽く」のつもりで始めたスパーリングと指導もその後二時間も続いた。一通り終わってそこで一同に声が掛かった
「皆様、お昼の用意が出来ております」と
「いやー悪いッスね、飯まで」
「いえ」
「ま、ついでだからね、いんじゃない」
「ところでみやびさん、てどこバイトなんすか?」
「午前中だけ。多分薬屋」
「ふーん」
「薬剤師だしね」
「マジ?」
「マジですよ」
「半端な学力じゃ無理やね」
「まあ、飛び級で学校出てるくらいだしなぁ」
「‥おお‥」
こんな一日の流れが何故かその後も2,3日に一度のペースで続いた。七海と悟が自発的に来る様に成った為である
自分達の欠点が分っている点、暇、且つ居心地がいいのであった
そして八陣の道場での指導は、悟に葉月が、七海に萌が固定で付いての指導になった
ボクシングが主力である悟に。八陣の「空旋」の使い手で蹴りメインでステップワークを使う葉月
空手メインで直蹴りの七海に、八陣拳 二拳「舞」を使う萌がと成った
一見関係ないようにも見えるが共通したものがある「足捌き」である
近代格闘技はどこまでいってもステップワークがメインであるし、古武術系はすり足がメインである事だからだ
どちらのも欠点、つまり、普段の動きや移動から「避ける」をやらせる為である
ただ、練習方法は端から見てると単なる「ダンス練習」にしか見えなかったが
「ただ、跳ねればいいってモンじゃないよ、ランダムに左右に、上下に」
「ぐぐ‥めんどくせぇ」
「前に出てる側の足を斜め前、外側に。そうそう、あ、頭を上下させないで」
「これ‥意味あるんか?」
とそれぞれ教わる側は苦戦した「攻撃が一切無い練習」というのも二人、悟と七海にとっては余り無いのと、どっちも先制攻撃型だからでもある
ただ「避ける避けないは兎も角、これは攻撃にも結びつく練習よ」
とみやび姉に言われると素直に従った
「足捌き」というのは、有ると無いでは雲泥の差がある、武術にもよるが「奥義」であるものすら存在する、それほど重要な「システム」である
まず、フットワークは体の中心線、これが常に上下左右に動いている事
的の移動、前後上下左右への小さな移動からの体の連動により、的を絞らせない効果と移動の下半身と上半身の連動で攻撃の際の移動力が乗る。かわしながら打つの動作が身につく事、打撃との相性が良い
一方運足はつねにすり足である為、つねに足が地面にある。その為下がるにしても横移動するにも、早く見えないが早いという特徴がある
そして移動の途中、どこからでも打てる事である、何しろ、常に両足が地面にある為「跳んでいない」、故に「前に、横に移動しながら途中で方向転換すら出来る事」だ
ステップワークは踵が浮いている、従ってハイキックや飛び込みの突き等打ちやすい、すり足は移動の最中、どんな行動とも連動出来る
その練習が其々数日行われた後、其々入れ替えて逆の練習をやらせる。好きなほうを使え、そしてどっちの特徴も知っておけ、という事である
ただ、一通り終って選んだのはどちらも「ステップワーク」ではあった
「あたし蹴りだから、こっちのが出しやすいかも」
「だな、こっちのが打撃しやすい」
と両者言った事でも分かる
「では、最後にわたくしとお手合わせです」
「え?」
「は?」
萌にそう言われて悟も七海も素っ頓狂な声を挙げた
そして其々、きっちり8回、投げ飛ばされた
「な、なんで」
「あたらねえ‥」
畳に転げて二人共返した
「運足ってのは見切りが上手いやつが使うとこうなる。特に投げと相性がいい」
「攻防動が同時に出来ますから、掴んだまま、極めたまま、捌きながら、大きく動けますし」
「うむむ」
「ま、悟と七海がステップを選択したのは間違いではない。元々打撃と相性はいい、ただこういう方向性もある、と知っておいて貰いたかったのと、フットワークやステップはどこまで行っても1には成らないという事」
「と、云うと?」
「ステップはどう早く動いても、トントンという2アクション。打てなくは無いが跳んでいる事には変わりは無いし打っても手打ちになる。地に足が着いている訳ではないので途中の変化はやり難い、そして、かわして、打つ、という2アクションには違い無い」
「ステップは突進力は乗る、縦の変化と応用は利くが横には効かない、運足すり足は前後左右で移動しながら使える、逆に「下の動作」蹴り技には向かない常に両足が地にあるからだ」
「成る程ねぇ」
「知ってると知らないとじゃ、全然違うからな」
「そういう事だ」
「しかし‥」
「ああ、萌ちゃんの投げはどう投げられたのかさっぱりだな」
「しかも一回掴まれると抵抗できない」
「まあな、今で言う合気道に近い技だしな」
「ええ、みやびさん程名人ではありませんが。八陣拳、第二拳「舞」と第五「芙蓉」をやっております」
「運足、捌き、投げ、固め、特化型だな」
「ほほー」
そこで葉月は手を叩いて云った
「よっし!。二人が華麗に投げ飛ばされたのも見た事だし。ご飯にしよー!」
「お前な‥」
「ひでぇ」
そうして一同は順調に夏休みを消化したのであった
朝もそれなりに暑い日九重の道場兼自宅にお客さんが訪れた
「御免ください」と
「はい?」とみやびが玄関に出て応対した
「貴女は‥」
「はい、お久しぶりです。有馬 萌めぐみです」
「ほんとに‥おじい様の所に居たハズでは‥あ‥」
「はい、こちらでお手伝いするようにと仰せつかりました」
「成る程「考えておこう」とはこういう事なのね」
「左様で御座います」
「とりあえず上がって」
「はい」
と、居間に通された。やたら丁寧、且つ時代掛かった口調の少女、萌である。八陣とは昔から深い関わりのある家の娘で陣らの祖父「雪斎」に預けられ、学びと世話をしていた
「と、いう訳で皆さんのお手伝いを致します、宜しくお願いします」
「つまりここに住むの?」
葉月は茶碗片手に返した
「そう言われて来ました」
「ほんと久しいな、あんまり変わってないな」
「3年くらいでそんなに変わりませんよ陣様」
「言い方も変わって無いな、様はよせって」
「んー、でもまあありがたいわね。私もやる事が多すぎて‥」
「しかし、年が年だがどうするんだ?コッチの学校に通うのか?」
「はい、既に手はずは整っております。葉月さんと同じクラスになるかと」
「ええ?!ちょ!早くない?!」
「じーさんらしいな‥」
「まあ、でもここに住むならそうなるわよね‥」
「家事の面ではお役に立てるかと」
「しかし、おじーちゃんはどうするの?」
「父も姉も居りますから」
「そっか、まあ、いいや宜しくね萌ちゃん」
「はいこちらこそ、御代わりよそりましょうか?」
「さんきゅー」と葉月は萌に空いた茶碗を渡した
「とりあえず部屋はかなり余ってるわ、好きな所使って」
「はい」
みやびに案内されて玄関口に近い8畳間に入ってさっそく荷を解いた
「もう制服もあるのね」
「ええ、全ての準備を整えてから来てますから」
そうして30分後。陣、葉月らと登校したのであった
ただ、陣はあまり気乗りしない
一通りの流れ、登校、クラスでの紹介、授業、放課後の溜り場メンバーとの集まりの後、陣は足早に離れた「バイト行くわ」と言って
「という訳で有馬萌ちゃんですヨロシク」
何時もの様に葉月に紹介される
「宜しくお願いします皆さん」
「うむ」
「‥また美少女が増えたな」
「しかし陣さんどーしたんすか?」
「んー。萌ちゃんと居ずらいのかもね」
「なんで?」
「わたくし所謂許婚でしたから」
そう萌本人に返され悟がポカリを噴出した
「汚な!」
「ブハッ!し、しゃーねーだろ!」
悟は一通り整えてから
「マジ、びっくりするわ‥どこの異世界の話だよ」
「いや現世ですが‥」
「しかしなんだな、でしたからというからには今は違うのか?」
「そういう訳ではありませんが、一度お断りされているので」
「マジデ?」
「そそ、あれまた「自分の本当に好きな相手とすればいいさ」とか云っちゃってさぁ」
「いやぁでもまあ、陣の云う事も尤もじゃね?」
「ですよねぇ、今時親同士がそんなの勝手に決めるというのも‥」
「なんかさー、叶ちゃんにはそういうの居そうだけどね」
「流石にウチでもありませんよ‥そんなの」
「しかしまぁ、理由は分ったな」
「ちょっとやり難いだろーな」
「てかさ?当人はどう思ってるの?」
「わたくしも時代錯誤だと思いますが、陣様は素敵な方ですし、わたくしも八陣を学んでおります。その一門に入るのは良い事だと思っております」
「そういうもんなのかね‥」
「ほう、と云う事は萌ちゃんも強いのか」
「さあ?どうでしょう?」
「日常で戦う事なんか無いしね」
「ま、そりゃそうか」
「ただ、皆様が思っている許婚とは少し違いますけど」
「と言うと?」
「あくまで、誰を妻とするかは陣様が選ぶ事です、わたくしは候補の一人という事です」
「マジかよ‥」
「ちなみに萌ちゃんのおねーさんも対象だったよね?」
「左様です」
「色々別世界過ぎてぶっとぶわ」
というのが一同の共通認識であった
そのまま萌と葉月は溜り場から出て教室へ戻った
「じゃ、ボクもここで、部活あるから」
「わたくしは家に戻ります、色々と家事関係でみやびさんと話す事もありますし」
「そっかー、どっか部活も無理ぽい?」
「そういう訳ではありませんが。時間が無くなってしまいますので」
「だよね」
「ええ。それでは」と萌は先にそそくさと教室を出た
夜の遅目の夕食の場で一家は何時もと違う夕食をとった
「あれ?これ萌ちゃんが?」
「ええ、わたくしも学校ですし、結局の所分担すると云ってもそれ程みやびさんの負担軽減には成りませんから、せめてわたくしが居る時間は、と」
「ふーん、ま、みやび姉しか昼間は居ないしねぇ」
「そうなのよね。午前中パート、午後から戻って家番。まあ、道場はあって無い様な物だからいいけど」
「どうせ門下生が居る訳でもないしね」
「それと葉月さんの勉強はわたくしが観ますので」
「ぐっは‥」
「けどまあ、萌ちゃんが夕食用意と家庭教師してくれるだけでも大分違うわね」
「そうだな。それでも2,3時間は余裕が出来るだろう」
「そういう訳です、夕食が終りましたらお部屋に伺います」
「はい‥」
「ところでさ、もう直ぐ夏休みだけど皆予定は?」
学校のお昼、学食の場での七海の一言である
「授業無いってだけでオレらはあんま変わらんよな?」
「んだね。陣兄もボクも七海ちゃんも部活あるし」
「オレもボクシング部あるッスね」
「と云う事は大会もあるんかな」
「あるよーボクの方は8月後半だけど。ソフトの地方戦」
「オレは無いッス、一応出ろって云われてるッスけどね」
「あたしもだね」
「そりゃま、一年だしな無理に出るもんでもないし」
「陣兄は?」
「俺の方はまだ先だな、一応個人戦出ろって云われてるな」
「ふーん」「ま、普通に遊ぶッスけどね」
「なんか‥GW前にも聞いた様な‥」
「と云う事は、叶ちゃんと長行君は‥」
「残念ながら寝てる、は無いぞ。田舎帰るし」
「へー」
「わたしも前半は海外です」
「やっぱ皆バラバラだな」
「ああ、んじゃオレ、陣さんとこ行っていいすか?」
「んん?」
「みやびさんに習いたいんで、色々」
「あ、それならあたしも」
「あー、社会人に夏休みはあんま無いけど多分午後は居るから大丈夫じゃない?」
「了解ッス」
「まあ、でもせっかくだから成るべく一緒の機会はあったほうがいいよね」
「それはある」
とは云ったが実際の所、叶と長行はほぼ居ない。このメンバーで何かとなればかなり先の事ではある
ただ、夏休みの初日から九重の道場に宣言どおり。悟と七海が来るようになったしかも朝っぱらから
「みやび姉は居ないって云ってるやん」
居間で皆でテーブル囲んでの応対、葉月がせんべい食いながら云った
「だって暇だし」
「ウチを溜り場にしようというのか」
「出来なくは無い。なんか広いしなここ」
「そうそう部屋多いし、合宿所みたいじゃね?」
「そういう事か」
「けどさー、七海ちゃんは叶ちゃんちみたいにどっか行こうと思えばいけるんじゃ?」
「オヤジ忙しいし滅多に家にいないわ。ママも殆ど奥様連中と会合してるし」
「なるほど」
「そういう陣さんも葉月も暇そうじゃないッスか?」
「確かに、オレもバイト午後だし」
「ボクも今日はなんもない」
「みやびさんも居ないし、んじゃ陣さん相手してくれねーすか?」
「別に構わんが」
「午後からだって言ってんのに‥」
「おっし」と悟と陣は練習用グローブをはめて道場で対峙した
「つーか、ボクシング形式でいいのか?」
「オレの欠点の修正、結構やってたんで」
「つまり俺がみやび姉の代わりに見て指摘すりゃいいんだな」
「お願いします!」
と二人のパンチのみでのスパーリングが始まった。6分、2ラウンド軽く流して行った後其々汗を拭った
「大分良くなったな。右の修正は略出来ている。ただ、まだ真っ正直過ぎるかな」
「具体的には?」
「うーん、細かい所だけど、ワンツーを混ぜる時に1の左で明らかに右の準備してるのが分るな、左打った瞬間、右肩が拳一つ分後ろに下がる」
「うげげ、マジッスか‥全然気がつかなかった‥」
「慣れると分る、て程度だからそれほど気にする所じゃないがな、ただ」
「ただ?」
「どうも悟は右打ちを「仕留める」意識が強いな、かなり力が入る、それがバランスを崩す原因だ」
「なるほど~」
「そんなに全力で打つ必要は無いぞ、当たりが良ければ大抵倒せる訳だし」
「そういうモンなんですかね?」
「八陣にもそういう技術がある、第3拳 雷光、一拍子て技を見せたろ?」
「あの、無茶苦茶早い蹴りッスか?」
「そうだ、相手の認知を超えれば棒立ちの相手を倒すのに等しい。だから兎に角狙って決める、早い事、裏をかく事、とする技術もある」
「うーーーん、よく分んないッス‥」
「そうだなじゃあ見せてやろう」と陣は云った後
悟の肩の後ろに視線を向けて「あ?」と言った、つられて悟も「え?」と言って少しそちらを見た
そこでいきなり陣は悟の胸を「トン」と軽く押して後ろにひっくり返した
「おわ!?」とステーンと転ぶ
「こういう事だ」
「!??」
「相手を転ばすのに力なんか大していらん。当るのが急所ならなおの事だ」
それで悟も意味が分った様だ
「なるほど‥後ろから殴り倒すようなモンですね」
「極端に言えばな」
「精確性、速さ、予備動作の少なさ、意外性、これか」
「意識をそう持って練習しな。分っていれば自然とそうなっていく」
「オッス!分りました!」
「まあ「速さ」に関しては略、極まってるからな。其の点は問題ない」
「了解ッス」
「しかし色々あるんだなぁ‥」と七海も関心して呟いた
「そうだな要は「認知」をずらせばいい、当てるならな」
「ふむふむ」
「例えば葉月の「蹴り」も大振りだが当る。それは相手が認識出来ない所から飛んでくるからだ」
「確かに‥」
「早いという事、見えないという事、予測もしてない事、向こうが見てないという事。突き詰めれば「攻撃」において「当てる」とはそれをズラす事にもある」
「?見てないってのは何すカ?」
と悟が言ったのでそれもやってみせる
「じゃ、右打って当ててみろ」
「お、オス」
と右フックを陣に繰り出す、陣はそれを右手で右に払うと同時に左足を左前方に運足しながら悟の右後ろに回った、瞬間背後から悟の後頭部を軽く手刀でコツンと突いた
「見えてなければ防げない、こういう状況を意図して作る事、さ」
「おお‥」
「クロスカウンターや頭が付くくらいの近接からのボディ打ちなんかもそうだな、みえなきゃ大体当る、攻撃を出す瞬間は大抵見えてないからな」
「なるほど、パンチの「種類」とはそういう事ッスね」
「それもあるが打つ手が多い方がいいのもある。武器が一つしかなきゃ自ずと事前行動も分る、喧嘩なら大体一発で終るだろうがリングではそうはいかないからな」
「ふむー、為になるなぁ」
結局「軽く」のつもりで始めたスパーリングと指導もその後二時間も続いた。一通り終わってそこで一同に声が掛かった
「皆様、お昼の用意が出来ております」と
「いやー悪いッスね、飯まで」
「いえ」
「ま、ついでだからね、いんじゃない」
「ところでみやびさん、てどこバイトなんすか?」
「午前中だけ。多分薬屋」
「ふーん」
「薬剤師だしね」
「マジ?」
「マジですよ」
「半端な学力じゃ無理やね」
「まあ、飛び級で学校出てるくらいだしなぁ」
「‥おお‥」
こんな一日の流れが何故かその後も2,3日に一度のペースで続いた。七海と悟が自発的に来る様に成った為である
自分達の欠点が分っている点、暇、且つ居心地がいいのであった
そして八陣の道場での指導は、悟に葉月が、七海に萌が固定で付いての指導になった
ボクシングが主力である悟に。八陣の「空旋」の使い手で蹴りメインでステップワークを使う葉月
空手メインで直蹴りの七海に、八陣拳 二拳「舞」を使う萌がと成った
一見関係ないようにも見えるが共通したものがある「足捌き」である
近代格闘技はどこまでいってもステップワークがメインであるし、古武術系はすり足がメインである事だからだ
どちらのも欠点、つまり、普段の動きや移動から「避ける」をやらせる為である
ただ、練習方法は端から見てると単なる「ダンス練習」にしか見えなかったが
「ただ、跳ねればいいってモンじゃないよ、ランダムに左右に、上下に」
「ぐぐ‥めんどくせぇ」
「前に出てる側の足を斜め前、外側に。そうそう、あ、頭を上下させないで」
「これ‥意味あるんか?」
とそれぞれ教わる側は苦戦した「攻撃が一切無い練習」というのも二人、悟と七海にとっては余り無いのと、どっちも先制攻撃型だからでもある
ただ「避ける避けないは兎も角、これは攻撃にも結びつく練習よ」
とみやび姉に言われると素直に従った
「足捌き」というのは、有ると無いでは雲泥の差がある、武術にもよるが「奥義」であるものすら存在する、それほど重要な「システム」である
まず、フットワークは体の中心線、これが常に上下左右に動いている事
的の移動、前後上下左右への小さな移動からの体の連動により、的を絞らせない効果と移動の下半身と上半身の連動で攻撃の際の移動力が乗る。かわしながら打つの動作が身につく事、打撃との相性が良い
一方運足はつねにすり足である為、つねに足が地面にある。その為下がるにしても横移動するにも、早く見えないが早いという特徴がある
そして移動の途中、どこからでも打てる事である、何しろ、常に両足が地面にある為「跳んでいない」、故に「前に、横に移動しながら途中で方向転換すら出来る事」だ
ステップワークは踵が浮いている、従ってハイキックや飛び込みの突き等打ちやすい、すり足は移動の最中、どんな行動とも連動出来る
その練習が其々数日行われた後、其々入れ替えて逆の練習をやらせる。好きなほうを使え、そしてどっちの特徴も知っておけ、という事である
ただ、一通り終って選んだのはどちらも「ステップワーク」ではあった
「あたし蹴りだから、こっちのが出しやすいかも」
「だな、こっちのが打撃しやすい」
と両者言った事でも分かる
「では、最後にわたくしとお手合わせです」
「え?」
「は?」
萌にそう言われて悟も七海も素っ頓狂な声を挙げた
そして其々、きっちり8回、投げ飛ばされた
「な、なんで」
「あたらねえ‥」
畳に転げて二人共返した
「運足ってのは見切りが上手いやつが使うとこうなる。特に投げと相性がいい」
「攻防動が同時に出来ますから、掴んだまま、極めたまま、捌きながら、大きく動けますし」
「うむむ」
「ま、悟と七海がステップを選択したのは間違いではない。元々打撃と相性はいい、ただこういう方向性もある、と知っておいて貰いたかったのと、フットワークやステップはどこまで行っても1には成らないという事」
「と、云うと?」
「ステップはどう早く動いても、トントンという2アクション。打てなくは無いが跳んでいる事には変わりは無いし打っても手打ちになる。地に足が着いている訳ではないので途中の変化はやり難い、そして、かわして、打つ、という2アクションには違い無い」
「ステップは突進力は乗る、縦の変化と応用は利くが横には効かない、運足すり足は前後左右で移動しながら使える、逆に「下の動作」蹴り技には向かない常に両足が地にあるからだ」
「成る程ねぇ」
「知ってると知らないとじゃ、全然違うからな」
「そういう事だ」
「しかし‥」
「ああ、萌ちゃんの投げはどう投げられたのかさっぱりだな」
「しかも一回掴まれると抵抗できない」
「まあな、今で言う合気道に近い技だしな」
「ええ、みやびさん程名人ではありませんが。八陣拳、第二拳「舞」と第五「芙蓉」をやっております」
「運足、捌き、投げ、固め、特化型だな」
「ほほー」
そこで葉月は手を叩いて云った
「よっし!。二人が華麗に投げ飛ばされたのも見た事だし。ご飯にしよー!」
「お前な‥」
「ひでぇ」
そうして一同は順調に夏休みを消化したのであった
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