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貧しい衛兵の話
【4】
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「行きましたなー」
久しぶりの人の客だったと、店主は振り返る。
「んー・・5年だったか10年だったか・・」
言いながら、手元の萎れた花にふーっと息を吹きかける。すると、花も葉もピンと伸び、みるみる元気になってしまった。
「これは樹のやつにあげますかなー。町の話が聞けるかも・・にしても。あ奴の子孫ですかねー?随分と薄まっていましたがー」
「いやー。懐かしいですなー」と言葉を零しながら、波紋一つ立っていない水面を眺める。
「随分と顔を見ていないと思いましたがー・・やっぱり土に還ってしまったんですなー」
昔々に別れた友の血脈に会い、懐かしさと寂寥感からつい色々とお節介を焼いてしまった。
自らの魔石を与えるとは・・余程伴侶を愛し、その子孫を守りたかったのだろうなと想像する。
「あの魔石。大事にされてて良かったんですなー・・あ奴もきっと喜んでるんですなー」
対価にと差し出されてしまったが、やはり子孫の手元にある方が良かろうと返して正解だったと、改めて思う。
実は渡す前にちょいと手直ししておいた。あと一度くらいは使えるだろうから。
使わないに越したことはないのだが、念のために。
「さて、では部屋でくっきー食べるんですなー!やー。もう長い事人里に出てないですからなー。いつの間にか、こんなに美味しいものが作られるようになってたんですなー!人ってすごいっ!」
「お願いしたら、手に入りますかなー?無理ですかなー?」と、自問自答しながら店主は店に戻って行った。
誰も居なくなった池の畔に柔らかな風が吹いて、さわさわと草木を優しく揺らしていった。
跳んだ一瞬後に、何か薄い膜のような物を突き抜けた感覚があり、夜明け直前のような薄闇の中をフワリふわりとゆっくり下降していく男。
水の中を落ちていくような感じだが、呼吸は出来る。なんとも不思議な感じだ・・これも魔法だろうかと考えながら足元を見やる。
すると、ぽつりと淡く光る何かが見えた。じっと目を凝らしていると、だんだんと大きくなったそれは円形に切り取られた石畳だった。
ゆっくりと降りていく男は、とうとう石畳に足を付けた。途端に浮遊感は消え、重くなる体にたたらを踏む。
しっかりと地に足を着け、足元に向けていた視線を周りにやれば、そこは元居た路地だった。
頭上を仰ぎ見れば月が輝いており、店に行った時間からさほど経っていないように感じる。
全ては夢だったのだろうか?と思いながらズボンのポケットを上から押さえれば、確かに指輪の存在を感じた。
手元には赤い花々もあり、夢ではなかったことに心底安堵した。
「このまま、彼女に会いに行こう・・」
少しばかりふわふわとした足取りで、男は恋人の下へと向かう。
そして赤い花々と、白いハンカチの上に置いた指輪を跪いて掲げ、婚姻を願う。
頷き、幸せの涙を零す彼女の薬指に指輪を通すと、聞かれるのだ。
この指輪はどうしたのかと。
「聞いてくれるか?とあるお伽噺があって・・・」
久しぶりの人の客だったと、店主は振り返る。
「んー・・5年だったか10年だったか・・」
言いながら、手元の萎れた花にふーっと息を吹きかける。すると、花も葉もピンと伸び、みるみる元気になってしまった。
「これは樹のやつにあげますかなー。町の話が聞けるかも・・にしても。あ奴の子孫ですかねー?随分と薄まっていましたがー」
「いやー。懐かしいですなー」と言葉を零しながら、波紋一つ立っていない水面を眺める。
「随分と顔を見ていないと思いましたがー・・やっぱり土に還ってしまったんですなー」
昔々に別れた友の血脈に会い、懐かしさと寂寥感からつい色々とお節介を焼いてしまった。
自らの魔石を与えるとは・・余程伴侶を愛し、その子孫を守りたかったのだろうなと想像する。
「あの魔石。大事にされてて良かったんですなー・・あ奴もきっと喜んでるんですなー」
対価にと差し出されてしまったが、やはり子孫の手元にある方が良かろうと返して正解だったと、改めて思う。
実は渡す前にちょいと手直ししておいた。あと一度くらいは使えるだろうから。
使わないに越したことはないのだが、念のために。
「さて、では部屋でくっきー食べるんですなー!やー。もう長い事人里に出てないですからなー。いつの間にか、こんなに美味しいものが作られるようになってたんですなー!人ってすごいっ!」
「お願いしたら、手に入りますかなー?無理ですかなー?」と、自問自答しながら店主は店に戻って行った。
誰も居なくなった池の畔に柔らかな風が吹いて、さわさわと草木を優しく揺らしていった。
跳んだ一瞬後に、何か薄い膜のような物を突き抜けた感覚があり、夜明け直前のような薄闇の中をフワリふわりとゆっくり下降していく男。
水の中を落ちていくような感じだが、呼吸は出来る。なんとも不思議な感じだ・・これも魔法だろうかと考えながら足元を見やる。
すると、ぽつりと淡く光る何かが見えた。じっと目を凝らしていると、だんだんと大きくなったそれは円形に切り取られた石畳だった。
ゆっくりと降りていく男は、とうとう石畳に足を付けた。途端に浮遊感は消え、重くなる体にたたらを踏む。
しっかりと地に足を着け、足元に向けていた視線を周りにやれば、そこは元居た路地だった。
頭上を仰ぎ見れば月が輝いており、店に行った時間からさほど経っていないように感じる。
全ては夢だったのだろうか?と思いながらズボンのポケットを上から押さえれば、確かに指輪の存在を感じた。
手元には赤い花々もあり、夢ではなかったことに心底安堵した。
「このまま、彼女に会いに行こう・・」
少しばかりふわふわとした足取りで、男は恋人の下へと向かう。
そして赤い花々と、白いハンカチの上に置いた指輪を跪いて掲げ、婚姻を願う。
頷き、幸せの涙を零す彼女の薬指に指輪を通すと、聞かれるのだ。
この指輪はどうしたのかと。
「聞いてくれるか?とあるお伽噺があって・・・」
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