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【18】婚約披露宴前夜。【R18】
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お待たせしました。
えちちは少しだけです。
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恋人と二人でゆっくり話さなければと思っていたが、自分が〈真祖の花嫁〉となった事を覚られずにどう話せばよいか・・いっそ披露宴の前に話してしまうか・・
いや、動揺させては訓練の邪魔になるし、当日までに支障が出てはいけない。
やはり婚約披露宴が済んでからにするべきだ。
では如何にして話せば良いかと躊躇っている内に、とうとう披露宴当日を明日に控えてしまった。
母や姉から苦言を呈されるかと思いきや、意外にもここ数日機嫌が良く、にこにことしていて少々不思議に思っていたところだ。
こちらから話題にして藪蛇になっても困るので、注意一つ飛んでこないのを良い事にそっと問題を棚上げにしていたらこのザマだ。完全に自業自得だな。
ゆっくり話し合うのはやはり諸々済んで時間を作ってからだと、自室で自分の不甲斐なさに少し落ち込んでいた時だった。
恋人が訊ねて来てくれたのは。
「今晩はエトラさん・・あの。少しお邪魔しても、いいですか?」
明日に備えてたっぷり睡眠を取るようにと侍女達に体を磨かれた後は早々に自室に押し込まれ、普段より大分早い就寝時間に寝付けずにいた所だったので丁度よかった。
ノックの後、扉越しに掛けられた声が躊躇いに揺れているのを察して、急ぎ扉を開ける。
「あ、エトラさん・・良かったんですか?」
「何を言うんだジル。君ならいつだって大歓迎だ。さ、遠慮せずに入るといい」
「・・お邪魔します」
恋人を自室に招き入れ、ソファへと座るよう促した後、飲み物を持ってきてもらおうと部屋に備え付けられた連絡機に向かった。
「スミスにお茶か何か頼もうと思うが、ジルは何か希望はあるか?」
「あ、いえ。すぐに戻りますから」
断りの言葉に「そうか」と普通に返事をしたつもりが、離れるのが寂しく・・残念な気持ちが溢れてしまい暗い声が出てしまった。
いかんな。久々に二人きりになって、欲が出てしまった。
明日以降は離れの部屋で一緒に寝起きするというのに・・
そうだ。既に聞いているかもしれないが、その話もしなくては。
「ジル、一つ確認したい事が・・うわっ!?」
ソファの方へ振り向きざま、声を掛けた途中で正面から抱き付かれ言葉が途切れる。
背中と腰に回された腕がぎゅうぎゅうと力を込めて来て、少し苦しい。
「・・ジル。どうした?」
「・・・ごめんなさい。俺、エトラさんに寂しい思いをさせたかった訳じゃないのに・・」
「・・あぁ」
「自分の事が信じきれなくて・・貴女を傷付けてしまいそうなのが、怖くて・・」
「あぁ」
「・・・避けてしまって、ごめんなさい」
そうか。そうだったのか。
良かった。
避けられている事は察していた。考えないようにはしていたが・・
ここ最近は何か、自分が嫌われる事でもやらかしたのかと考え始めていた所だったのだ・・
そうでないのなら、良かった。
自分からも、そっと恋人の背に手の平を当て、きゅうと抱き寄せるように力を込める。
自身の急な変化に戸惑って、互いに相手の事を想うあまりすれ違っていたのなら・・
これからまた言葉を交わし、寄り添う事で以前の様に気安く・・いや、もっと親しい仲になれるだろう。
明日、盛大に婚約を周知するのであるし・・
―それに・・婚約を発表する以上、結婚も視野に入れて考えねばならないしな—
「・・そう気に病まないでくれジル。私の方からも積極的に会おうとはしなかったからな・・お互い様だよ」
「でも・・ごめんない」
「もう十分謝罪は受け取ったから、これ以上謝るのは禁止だ。以降の「ごめんなさい」は受け取り拒否させてもらうぞ?」
少しおどけた言い方に、僅かに肩を揺らした恋人は「はい」と素直に返事をした。
抱き合った状態で、そのまま会話を続ける。
「大体だ。私はそんなにヤワなつもりはないぞ?具体的に何が怖かったのか、聞かせてはくれないか?」
「・・・あの、近くに寄るだけで・・その、衝動が抑えられるか、自信がなくて・・」
「具体的に、だ。ジル」
「・・・無理やり血を吸って、めちゃくちゃに犯してしまいそうで・・怖いんです」
「そうか・・今もそうしたいのか?」
「当たり前でしょう?・・これでも必死に我慢してるんです」
声と共に、震える息が首に触れる。
辛そうな彼には申し訳ないが・・・こうも激しく求められると、嬉しい気持ちと愛しさが込み上げて歓喜に心が震える。
ぐっと踏ん張り上体を少し離し、視線を合わせて言葉を交わした。
「無理な我慢は良くないぞ?最後まで致すのは明日に響きそうだから許す事は難しいが・・血を吸わせるくらいなら大丈夫だ」
「・・そうやって甘やかすと後悔しますよ?」
「大丈夫さ。ジルを信じてるからな・・というか、私だって本当は君と繋がりたいんだぞ?だが明日は大事な日だからな。仕方なく我慢してるんだ」
「そんな私の努力を、君は無駄にはしないだろ?」と、少々狡い言い方なのを承知で伝えれば、大きなため息の後、額に額をこつりと当てられた。
「・・そんなの・・俺、頑張って見せるしかないじゃないですか・・」
「ふふっ。そうさ、頑張ってくれ」
「・・・・了解です」
二人、口元に笑みを浮かべたまま見つめ合い、唇を重ねる。
ちゅっと小さいリップ音の後、ぐいと強く身体を引き寄せられた。
熱い舌が、ぬるりと首筋を這う。
久々の感覚にぞくりと背筋が震え、抱きしめられた腕の中で身を捩った。
頬に手の平が添え当てられ、親指が優しく肌を撫でる。
「いい、ですか?」
前髪越しに、紅く、揺れる瞳と目が合う。
承諾の返事をしようとした時、はたと思い出した。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「—え・・?」
「すまんが先に回復薬を飲んでおきたい。良いか?」
「あ、はい。勿論です」
「すまん。すぐ戻る」
虚を突かれ、置き去りにされた子犬のようなその様子に申し訳なさが募ったが、こればかりは耐えてもらうしかない。
—危うく〈真祖の花嫁〉の話をする前に異常な回復力を知られるところだった!—
迂闊である。しかし、ぎりぎり間に合ったので良しと言えよう。
寝室に足を運び、事前に準備してあった回復薬の瓶をサイドチェストから取り出す。
中身がトプンと揺れるのを確認して、そのまま元の位置へ戻した。
実のところ、これの中身は回復薬に良く似た色を付けた、ただの水だったりする。
中々恋人に打ち明けられない中、何があっても良いようにと準備して置いた小道具なのだ。
—自然に治るというのに、回復薬を飲んでしまっては何がどう影響するか分からないからな・・—
自分の体については未検証な部分が多い。
恋人に変化した事を打ち明けた後、じっくり調べるまでは大事を取っておいた方が良いだろう。
「悪い。待たせたな」
「いえ。ちょっと気分も落ち着ける事が出来たので、逆に良かったかもです」
「・・すまない」
「ふふ。気にしないでください。では早速、こちらに来てもらってもいいですか?」
座っていたソファの隣をぽんぽんと叩いて見せる恋人の言葉に従い、寄り添うような形で隣に座った。
すると「よいしょっと」という掛け声と共に持ち上げられ、恋人の膝の上へと移動させられる。
座った状態で横向きに抱えられて、咄嗟に彼の首へ腕を回して体を支えた。
「急に持ち上げるな!驚くだろう!」
「ごめんなさい、少しでもエトラさんを近くで感じたくて・・」
潤む瞳に見つめられ「んぐっ」と喉奥で変な音が鳴る。
「・・仕方ないから許す・・・血。飲むのだろ?さあ、どうぞ?」
「えへ・・・頂きます」
唇を寄せやすいように服を寛げて首筋を晒し、照れと恥ずかしさから視線を逸らした。
その直ぐ後にぺろりと舌が肌に触れ、次いで硬い犬歯が当てられる。
犬歯が沈みブツリと肌が破られたが、驚いた事に全く痛みを感じなかった。それどころか—
「んあっ?!」
予想外に訪れた快感に驚いて、嬌声に似た声を上げてしまう。
皮膚に食い込む、犬歯の圧が心地よい。
身体の内側に彼の一部が存在するだけで、途轍もない充足感が満ち溢れて来る・・
「あっ、あっ、あぁっ!!」
傷口を舌が這い、唇が押し当てられて血が吸い上げられた。
その一つ一つの感触が、びりびりとした刺激となって甘く全身を駆け巡る。
必死に恋人の胸元に縋りつき、強すぎる快感に流されないよう服を強く握りしめた。
—何だ、これは。以前はこのような感覚では・・これも〈真祖の花嫁〉〈半身〉へと変じたことによる身体の変化が原因—
思考の片隅でこの状況を把握するべく意識を集中しようとしたが、ほんの僅かしか持たずにあっという間に快感の波に押し流されてしまった。
じゅる、じゅると血と共に魔力が吸い上げられる。
べろりべろりと肌を撫でる舌は、吸い取った分を補うように魔力を送り込んできた。
そんな互いが混ざり合うような魔力の流れが、性交時にも似た快感をもたらし、下腹部が疼いてきゅきゅうと収縮する。
甘い痺れにふるりと震え、逃げ場の無い感覚を誤魔化そうと両腿をすり合わせた。
身体の奥の方から体液が溢れ出る感触に、僅かに焦る。
でも、抱きしめる腕がぎゅうと力を込めてきて、指先が肌に食い込み、肺から空気が押し出され・・
更に深く、喰われるように犬歯が・・牙が身体を穿ち、脳天が痺れるような快感が身体を貫いて、全てがどうでもよくなった。
甘さを伴ったゾクゾクとした感覚が腰から背中を駆け上がり、喰いつかれた首筋から指の先へジンジンとした痺れが走る。
胎の底から波打つような快感が汲み上げられ、下腹部がぎゅんぎゅんと切なく収縮した。
あ。うそ。そんな、血を吸われただけ、なのに—もぅ、いっ!!
「―くっ!っつあ、あ゛ーっ!あ゛ーっ!」
涎を垂らし、あられもない嬌声を上げながら襲い来る悦楽の波に翻弄され、意識と肉体が解き放たれる。
涙でぼやけた視界がチカチカと明滅して、痺れた脳髄に新たな刺激を追加した。
弓の様に反ろうとする背中を、力強い腕ががっちりと抑え込み、ビクっビクっと絶頂に震える身体を大事そうに抱きしめる。
暫く自身の荒い呼吸音だけが部屋に響き、身体の震えが治まったころ・・
ようやく首筋から牙が引き抜かれた。
その感触に、またびくんと身体が跳ねる。
久方ぶりに絶頂を迎えた体は酷く重く感じられ、恍惚とした余韻に微睡みそうだ・・
しかし、それは叶わなかった。
ひゅっと息を呑む音がした後に強く体が揺さぶられ、幸福な時間は断ち切られる。
「エトラさんっ!エトラさんっ!」
ぱしぱしと瞬きをして何とか明瞭な視界を取り戻すと、目の前に恋人の顔が迫っていて驚く。
「んなっ!んだジル!どうした?!」
「意識はありますね?!良かった。ごめんなさい、やり過ぎました!」
焦る恋人の口元は真っ赤な血にまみれていて、自分が少々まずい状況だという事を自覚させられた。
「本当にごめんなさいっ!傷が深いので、直ぐに追加の回復薬を—・・え?・・」
こちらが言葉を発する前に、伸びた髪を振り乱し狼狽していた恋人が、何かに気付いて動きを止める。
—あ、迂闊っ!!—
首筋の傷を覆い隠すように手を動かしたが、途中でぱしりと腕を捕まれ止められた。
力を込めるが、びくともしない。
傷口を凝視する、恋人の表情がどんどん強張っていく。
直接見てはいないが、感覚で分かった。
深い噛み傷が、在り得ない速さで回復しているのだろう。
「・・再生?いや、魔力の動きが・・違う」
「ジル・・」
「これ、は・・俺と同じ?・・あ?・・あれ?え?あれ?」
「ジルっ!!」
動揺して、カタカタと震え出した恋人に声を掛けるが、反応が無い。
目の焦点はブレて安定せず、顔色もどんどん悪くなっていった。
ズォるリ゛
唐突に、座っているソファの足元から真っ黒な影が伸び、触手のように四方に広がって床や壁を覆い始めた。
黒く染まった箇所からは粘着的な糸を引いて蝙蝠の翼、狼の口、何かの生物の一部が浮いては沈み、大小幾つもの眼がぎょろぎょろと辺りを見回している。
—まずい!—
恋人の能力が一部暴走していると判断。
彼の制御下に戻すべく、声を張り上げた。
「ジルっ!!ジルっ!!――っソルシオ二等っ!!」
嘗ての呼び名に、ビクンっ!と体が跳ねると、恋人の目の焦点が定まった。
両頬に手を当ててぐいと引き寄せ、鼻先が触れ合う距離で視線を合わせる。
「落ち着け、二等」
「ぐん・・そう・・」
「大丈夫。大丈夫だ。何も心配は無い」
「・・でも、軍曹・・俺の・・俺、は。俺が・・俺がっ!!」
悲嘆に濡れた慟哭を、無理やり唇で塞いだ。
虚を突かれて揺れる瞳を見つめたまま、舌を差し入れる。
ぎこちなく歯列をなぞり、出来るだけ奥まで伸ばして入り込み深く、深く触れようとした。
そんな一方的だった行為に、反応が返された。
触れて来た恋人の舌が、こちらの舌をなぞって、捏ねるように口内を蹂躙し始める。
天井の凹凸を数えるように一つ一つ撫で、自分では触れない奥の方まで暴かれた。
舌の下側に入り込んで絡みつき、溢れる唾液を啜りながら舌を引き出され、最後にちゅぽりと音を立ててやや長い口付けを終える。
はぁふぅと熱が籠った息を吐き出し、心地よさに閉じていた目を開く。
幾分マシになった顔色を確認して、内心で安堵の溜息を吐いた。
「・・落ち着いたか?」
「はい、大分・・」
「そうか。それは良かった」
言いながらソファに身を起こし、周りを見回す。
室内の壁を覆いつくさんばかりだった影は、もうどこにも見当たらない。
どうやら能力は制御下に戻ったようだ。
「あ、腕輪が・・」
「うん?」
恋人の小さな呟きに視線を向けると、手首に巻き付いていた腕輪の石がボロリと崩れる所だった。
「どうしたんだ、それ」
「・・溢れた魔力を隠蔽する為に着けてたんですけど・・発動して、壊れたみたいです」
「え?それは、良かったのか?」
「リアムさんが使い捨てだと言ってましたから・・気にしないでください」
「・・そうか、分かった」
会話が途切れたのを機に恋人の膝の上から降り、連絡機に向かった。
使用人の待機室へと繋ぎスミスを呼び出す。
「すまないが、お茶を二人分用意してくれ。それと片づけを頼みたい」
≪・・かしこまりました。すぐに参ります≫
返事までの間に『またですか?』と呆れの感情が含まれていたのを感じ取って、もう何度目かの居たたまれなさに、思わず遠くに視線を向けた。
「あの・・」
「・・話の前に、身形を整えよう。このままでは、ちょっとな」
「・・そうですね・・あ。俺は、自分で・・」
そう言った恋人は、服を含めて一度塵になると再び形を作り、普段過ごしている目元を隠した形態へと変化した。
どういった原理なのか口元を染めていた血は消え、服も綺麗な状態に戻っている。
便利な能力だなと、これから語ることになる話に緊張しているからか、少々場の空気とズレた感想を思い浮かべた。
互いに無言のまま待つこと暫し、扉がノックされスミスがティーセットを乗せたカートを押して来た。
部屋に入ると微妙な空気を感じ取ったのか、執事は珍しく無言でテキパキと自分と汚れた家具に【洗浄】を掛け、お茶の支度を済ませるとさっさと退出していった。
執事の気遣いに感謝しつつ、恋人の隣に腰掛ける。
すると、僅かに距離を取られた。
仕出かした事に対する申し訳なさからなのだろうが・・・
そんな事、関係ないとばかりにぴったりと寄り添って、膝の上で握られた手にそっと手を伸ばす。
触れた指が拒絶されなかった事に、ほっと胸を撫で下ろした。
「・・・エトラさんは、自分がどんな状態か・・知っていたんです・・よね」
「・・あぁ。本当は、婚約披露宴を終えてから話すつもりで居たんだが・・」
「・・・・今、聞きます。聞かせてください」
「・・わかった・・」
そうして・・寄り添い、片側で互いの熱を感じながら〈真祖の花嫁〉の事を、自分がどのような存在になったのかを、静かに打ち明けた。
△ ▽ △ ▽
もうずっと、触れていなかった。
一度自覚した渇きは、常にジリジリと意識の底を炙り、血に飢えたケダモノを解き放とうとする。
駐屯地で恋人の血を口にして以降、血を取り込んでいない。
普通の飲食では癒すことの出来ない飢えが身体の奥で燻り続け、いよいよ我慢が難しくなってきて・・
自分から接触を控えていたくせに、煩悩にまみれた欲に抗えず、のこのこと恋人の自室に訪れた。
就寝前だったのに、快く招き入れてくれた恋人がいつもより輝いて見えて、胸が高鳴る。
あぁ、そうか。明日に備えて使用人達が精を出したんだなと納得して、内心で頷きながら愛しさに目を細めた。
傍に寄る事で血への渇望が増すかと思ったが、騒めいていた欲望が熱を吸い取られたかのように落ち着き、二人きりなのに平常心で居られた。
近くで恋人の魔力に触れ、寂しい気持ちが癒されたからのように思う。
でも、恋人の方はそうではなかったらしい。
当然だ。自分は真祖へと覚醒した事により魔力感知能力が格段に上昇、強化されたのだ。
ただ魔力に触れただけで、その人の体調や感情を読み取ったりなど、普通は出来ない。
気持ちが落ち着いた事だし、長居するのも悪いので飲み物を頼むからと希望を聞かれたが、すぐに退室するからと断った。
途端、恋人の魔力から『寂しい』気持ちが伝わって来る。
他の人より格段に相性の良い恋人の魔力は、この身に馴染んでとても読みやすい。
喜びに煌めいていた気持ちが一転、悲しみに沈んだのを感じて咄嗟に腕を伸ばす。
正面から抱きしめ、腕の中に温もりを収めると、欲望の熱が盛ってまた勢いを増す。
『そんな場合か!』と無理やり荒ぶる願望を押さえつけ、言葉を紡いで謝罪する。
己を信じ切れずに避けていた自分が悪いのに、恋人はそれすらも受け入れ許してしまった。
彼女の魔力が優しく自分を包み込み迎え入れて、申し訳なさに嘆く気持ちをあっという間に癒してしまう。
狡い。言葉と魔力で謝罪を取り上げてしまうなんて。
もっと、しっかり反省の気持ちを伝えたかった・・
でも分かっている。自身の言葉でどんどん悪い方へと沈みがちな自分を気遣っての事だって。
「お互い様だ」なんて優しい言葉で、あっという間に自分の心を救い上げた恋人には本当、頭が上がらない。
次いで避けていた理由を問われ、半ば自棄になって本当は隠していたい嗜虐的な衝動を吐露した。
心の何処かでそれすら許されるだろう確信が、きっとあったのだと思う。
自身の欲望を言葉にした事で、衝動を抑える理性に罅が入る。
そんな状況の中、恋人の甘い対応に乗じて久方ぶりに甘露を口にする機会を得た。
「頑張る」と宣言したものの、いよいよ歯止めが利かなくなってきて・・
抱きしめた恋人の体温が、肌から立ち上る甘い香りが、ガリガリと容赦なく自制心を削って来る。
触れ合った唇に思考が蕩け、甘い肌に酔いしれた。
最後の理性を総動員して、許可の言葉を得ようとしたら・・肩透かしを食らった。
正直「そりゃないよ」という気持ちで一杯だったが、おあずけを頂いた事で少し冷静になれたのは良かった。
久しぶりの逢瀬だ。
過程の一つ一つを大切にして、ゆっくり堪能したい。
気を取り直して触れ合いを再開する。
膝に抱え上げたら叱られたけど、照れて恥ずかしそうに目を逸らす様はとても可愛らしくて、思わず頬が緩んだ。
服を寛げ、晒された首筋に視線が釘付けになる。
すぐさま犬歯を突き立て、血を啜りたい衝動をぎりぎりで自制して、ゆっくりと肌に舌を這わせた。
甘い肌を味わい、出来る限り優しく犬歯を沈める。
—あぁ、美味しい—
舌に広がる甘美な刺激が、全身を震わせる。
それを追いかけるように恋人の嬌声が鼓膜を揺らすと、意識にしがみ付いていた僅かな理性が剥がれ落ち、あっけなく流された。
開けた傷口から溢れる血と魔力を夢中で啜り、一滴たりとも零すまいと舌を這わせて味わう。
耳元で奏でられる心地よい声をもっと聴きたくて、自身の快感を乗せて魔力を送り込んだ。
途端、舌で踊る血の味が格段に良くなって、貪欲な衝動が溢れ出す。
—もっと、もっと!!―
夢中になって肉に歯を食い込ませ、溢れ出る血潮をゴクリと嚥下した。
魂ごと飲み干すような行為を繰り返す度、身体に充填される魔力の充足感に恍惚と酔いしれる。
貪欲な衝動に任せて深く歯を沈めた瞬間、耳元で一段と大きな嬌声が上がり—・・
心も、魂も。己の全てを満たす命の源が舌の上に広がって、その衝撃に引きずられるように達した。
強く、強く噛みながら、ビクビクと震える腕の中の温もりをきゅうと抱きしめる。
上昇した体温で強く香る髪と肌の匂いに、甘美な血の匂いが混ざって鼻孔を満たし、訪れた素晴らしい余韻をじっくりと楽しんだ。
途轍もなく満足して、目を閉じたまま唇を離す。
上体を起こして顎を逸らすと、充足感に満ちた深い息を吐いた。
強すぎた快感に、少しぼぅっとしながら腕の中に視線を落とし、凍り付く。
視界に広がったのは首筋に深い傷を負い、今も血を流しながらぐったりとしている愛しい人の姿。
瞬間、ざっと血の気が引く。
ひゅっと息を呑み、咄嗟に抱えた体を揺さぶった。
「エトラさんっ!エトラさんっ!」
叫ぶようにして必死に呼びかけると、直ぐに反応があった。
「んなっ!んだジル!どうした?!」
「意識はありますね?!良かった。ごめんなさい、やり過ぎました!」
傷が深い、出血が多すぎる!
すぐに治療しないと命に係わるかもしれない。
—くそっ!こんなんだから俺は自分がっ!!—
ぐちゃぐちゃな感情が思考を乱す。
けど、今は恋人を救うことに意識を集中させなければ!
「本当にごめんなさいっ!傷が深いので、直ぐに追加の回復薬を—・・え?・・」
先程彼女が使用した回復薬がどこにあるのか訊ねようとして、ソレに気付いた。
視線を遮ろうと動いた腕を咄嗟に掴んで止め、食い入るように傷口へ視線を落とす。
溢れ、零れていた血はいつの間にか止まり、深い噛み傷は、内側から肉が盛り上がるようにして治っていく。
回復薬の効能は、こんなに強力だっただろうか?
酷い、本当に酷い傷だったのに・・最上級の回復薬を使用した?
そして覚える違和感。
「・・再生?いや、魔力の動きが・・違う」
恋人の魔力の動きが、普通ではない。
通常、回復薬により治癒される時は傷に魔力が集束、回復薬の効果を助ける働きをする。
だが恋人の場合は、傷つき失われた物が直接魔力から変換され補われていように視えた。
その動きは、最近とても馴染み深いもので・・
—俺の、治り方と—
「これ、は・・俺と同じ?・・あ?・・あれ?え?あれ?」
―あぁ。あぁ、、まさか、そんな・・―
思い至った可能性を、感情が拒絶する。
駄目だ。それは絶対に駄目だ。決して許されない罪だ。
—考えないように、願わないようにしていたのにっ!!—
この身が変じて、確定した未来から目を逸らし続けていた。
自分は〈吸血鬼〉の〈真祖〉となった。
肉体は強靭になり、寿命は人の一生を何度も見届けられる程、終わりが見えなくなったのを直感的に理解していた。
いつか、必ず訪れる愛しい人との別れに。
離れ離れになった後の長い孤独に、絶望しないよう見て見ぬふりをしていた。
覚醒で得た〈使い魔契約〉を行えば、あるいは共に長い時を過ごせるかもしれない。
だが、それは自分の我が儘だ。
利己的な感情に任せて、行ってはいけないものだ。
どころか、提案するのすら憚られる。
―なのにっ!―
目の前の現象に、自分の身勝手さを突き付けられて空虚な絶望が溢れる。
無意識の願望が作用したのか?
愛しい人を、大切にすると決めた唯一の人を温かな日向から、汚泥にまみれた闇へと引きずり込んだのか?
最悪だ。あってはならない事だ。それなのに・・
ずっと一緒に居られる可能性に・・
一瞬でも歓喜した自分に、深く絶望した。
「――ソルシオ二等っ!!」
呼ばれて、身体が跳ねる。
ぐちゃどろな感情に飲み込まれ、周りが見えなくなっていた自分を引き戻したのは、体と心に刻み込まれていた条件反射だった。
開いていても、何も映していなかった目の焦点が合って、あやふやだった感覚が全部戻って来る。
周囲の状況も認識出来るようになり、目の前の恋人に視線を合わせた。
ぱちりと一つ瞬きをしたところで、両頬を摑まれ引き寄せられる。
「落ち着け、二等」
「ぐん・・そう・・」
「大丈夫。大丈夫だ。何も心配は無い」
淡く微笑み、安心させるように言う恋人に、たどたどしく反論しようとした。
「・・でも、軍曹・・俺の・・俺、は。俺が・・俺がっ!!」
感情ばかりが先走って、意味をなさない言葉を紡ぐ唇を乱暴に塞がれる。
驚き、目を見開いて固まっていると、口内に舌が侵入してきた。
拙くも、どうにかして刺激を与えようと、短い舌が動く。
一生懸命に奥の方へと触れようとしてくる熱が、嬉しくて、切なくて・・愛しくて。
気が付けば自分から舌を絡めていた。
ざらつく舌の表面をなぞり、気持ちが良いであろう箇所を一つ一つ、丁寧に撫でる。
伝わって来る恋人の感情が華やいだのを感じ取って、乱れていた自分の感情も共鳴するように落ち着きを取り戻した。
それから僅かの間、貪るように夢中で口付ける。
やがて熱を分け合うような行為を、後ろ髪を引かれながらもなんとか終えて、閉じていた目を開いた。
「・・落ち着いたか?」と問われ「はい」と素直に答える。
うん。もう、大丈夫。大丈夫だ。
その後で腕輪が壊れたのに気付いたけど、今は気にしている余裕もないので後で義父に知らせる事にした。
変身で自分の身形を整えたら直ぐにスミスさんがやって来て、血に濡れた恋人と部屋を手早く【洗浄】して、お茶の支度を整えてくれた。
いつも後始末をさせてしまうのが本当に申し訳なく、退出の際に合わせて頭を下げて礼を伝える。
また二人きりになって、恋人が隣に座ってきたけれど・・
こんな自分が触れると、彼女に何か良くないモノが侵食していくような気がして、少し身を引いた。
けれど、その隙間は直後にぴったりと寄り添われ、埋められてしまう。
伝わる熱が心地よくて、離れ難くて・・
結局、触れて来た手を振り払うことも出来ずにされるがままにした。
「・・・エトラさんは、知っていたんです・・よね」
「・・あぁ。本当は、婚約披露宴を終えてから話すつもりで居たんだが・・」
「・・・・今、聞きます。聞かせてください」
「・・わかった・・」
そうして、恋人の身に何が起こったのか、詳しい話に耳を傾けた。
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最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次話まで、また少し間が開くかと思います。
えちちは少しだけです。
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恋人と二人でゆっくり話さなければと思っていたが、自分が〈真祖の花嫁〉となった事を覚られずにどう話せばよいか・・いっそ披露宴の前に話してしまうか・・
いや、動揺させては訓練の邪魔になるし、当日までに支障が出てはいけない。
やはり婚約披露宴が済んでからにするべきだ。
では如何にして話せば良いかと躊躇っている内に、とうとう披露宴当日を明日に控えてしまった。
母や姉から苦言を呈されるかと思いきや、意外にもここ数日機嫌が良く、にこにことしていて少々不思議に思っていたところだ。
こちらから話題にして藪蛇になっても困るので、注意一つ飛んでこないのを良い事にそっと問題を棚上げにしていたらこのザマだ。完全に自業自得だな。
ゆっくり話し合うのはやはり諸々済んで時間を作ってからだと、自室で自分の不甲斐なさに少し落ち込んでいた時だった。
恋人が訊ねて来てくれたのは。
「今晩はエトラさん・・あの。少しお邪魔しても、いいですか?」
明日に備えてたっぷり睡眠を取るようにと侍女達に体を磨かれた後は早々に自室に押し込まれ、普段より大分早い就寝時間に寝付けずにいた所だったので丁度よかった。
ノックの後、扉越しに掛けられた声が躊躇いに揺れているのを察して、急ぎ扉を開ける。
「あ、エトラさん・・良かったんですか?」
「何を言うんだジル。君ならいつだって大歓迎だ。さ、遠慮せずに入るといい」
「・・お邪魔します」
恋人を自室に招き入れ、ソファへと座るよう促した後、飲み物を持ってきてもらおうと部屋に備え付けられた連絡機に向かった。
「スミスにお茶か何か頼もうと思うが、ジルは何か希望はあるか?」
「あ、いえ。すぐに戻りますから」
断りの言葉に「そうか」と普通に返事をしたつもりが、離れるのが寂しく・・残念な気持ちが溢れてしまい暗い声が出てしまった。
いかんな。久々に二人きりになって、欲が出てしまった。
明日以降は離れの部屋で一緒に寝起きするというのに・・
そうだ。既に聞いているかもしれないが、その話もしなくては。
「ジル、一つ確認したい事が・・うわっ!?」
ソファの方へ振り向きざま、声を掛けた途中で正面から抱き付かれ言葉が途切れる。
背中と腰に回された腕がぎゅうぎゅうと力を込めて来て、少し苦しい。
「・・ジル。どうした?」
「・・・ごめんなさい。俺、エトラさんに寂しい思いをさせたかった訳じゃないのに・・」
「・・あぁ」
「自分の事が信じきれなくて・・貴女を傷付けてしまいそうなのが、怖くて・・」
「あぁ」
「・・・避けてしまって、ごめんなさい」
そうか。そうだったのか。
良かった。
避けられている事は察していた。考えないようにはしていたが・・
ここ最近は何か、自分が嫌われる事でもやらかしたのかと考え始めていた所だったのだ・・
そうでないのなら、良かった。
自分からも、そっと恋人の背に手の平を当て、きゅうと抱き寄せるように力を込める。
自身の急な変化に戸惑って、互いに相手の事を想うあまりすれ違っていたのなら・・
これからまた言葉を交わし、寄り添う事で以前の様に気安く・・いや、もっと親しい仲になれるだろう。
明日、盛大に婚約を周知するのであるし・・
―それに・・婚約を発表する以上、結婚も視野に入れて考えねばならないしな—
「・・そう気に病まないでくれジル。私の方からも積極的に会おうとはしなかったからな・・お互い様だよ」
「でも・・ごめんない」
「もう十分謝罪は受け取ったから、これ以上謝るのは禁止だ。以降の「ごめんなさい」は受け取り拒否させてもらうぞ?」
少しおどけた言い方に、僅かに肩を揺らした恋人は「はい」と素直に返事をした。
抱き合った状態で、そのまま会話を続ける。
「大体だ。私はそんなにヤワなつもりはないぞ?具体的に何が怖かったのか、聞かせてはくれないか?」
「・・・あの、近くに寄るだけで・・その、衝動が抑えられるか、自信がなくて・・」
「具体的に、だ。ジル」
「・・・無理やり血を吸って、めちゃくちゃに犯してしまいそうで・・怖いんです」
「そうか・・今もそうしたいのか?」
「当たり前でしょう?・・これでも必死に我慢してるんです」
声と共に、震える息が首に触れる。
辛そうな彼には申し訳ないが・・・こうも激しく求められると、嬉しい気持ちと愛しさが込み上げて歓喜に心が震える。
ぐっと踏ん張り上体を少し離し、視線を合わせて言葉を交わした。
「無理な我慢は良くないぞ?最後まで致すのは明日に響きそうだから許す事は難しいが・・血を吸わせるくらいなら大丈夫だ」
「・・そうやって甘やかすと後悔しますよ?」
「大丈夫さ。ジルを信じてるからな・・というか、私だって本当は君と繋がりたいんだぞ?だが明日は大事な日だからな。仕方なく我慢してるんだ」
「そんな私の努力を、君は無駄にはしないだろ?」と、少々狡い言い方なのを承知で伝えれば、大きなため息の後、額に額をこつりと当てられた。
「・・そんなの・・俺、頑張って見せるしかないじゃないですか・・」
「ふふっ。そうさ、頑張ってくれ」
「・・・・了解です」
二人、口元に笑みを浮かべたまま見つめ合い、唇を重ねる。
ちゅっと小さいリップ音の後、ぐいと強く身体を引き寄せられた。
熱い舌が、ぬるりと首筋を這う。
久々の感覚にぞくりと背筋が震え、抱きしめられた腕の中で身を捩った。
頬に手の平が添え当てられ、親指が優しく肌を撫でる。
「いい、ですか?」
前髪越しに、紅く、揺れる瞳と目が合う。
承諾の返事をしようとした時、はたと思い出した。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「—え・・?」
「すまんが先に回復薬を飲んでおきたい。良いか?」
「あ、はい。勿論です」
「すまん。すぐ戻る」
虚を突かれ、置き去りにされた子犬のようなその様子に申し訳なさが募ったが、こればかりは耐えてもらうしかない。
—危うく〈真祖の花嫁〉の話をする前に異常な回復力を知られるところだった!—
迂闊である。しかし、ぎりぎり間に合ったので良しと言えよう。
寝室に足を運び、事前に準備してあった回復薬の瓶をサイドチェストから取り出す。
中身がトプンと揺れるのを確認して、そのまま元の位置へ戻した。
実のところ、これの中身は回復薬に良く似た色を付けた、ただの水だったりする。
中々恋人に打ち明けられない中、何があっても良いようにと準備して置いた小道具なのだ。
—自然に治るというのに、回復薬を飲んでしまっては何がどう影響するか分からないからな・・—
自分の体については未検証な部分が多い。
恋人に変化した事を打ち明けた後、じっくり調べるまでは大事を取っておいた方が良いだろう。
「悪い。待たせたな」
「いえ。ちょっと気分も落ち着ける事が出来たので、逆に良かったかもです」
「・・すまない」
「ふふ。気にしないでください。では早速、こちらに来てもらってもいいですか?」
座っていたソファの隣をぽんぽんと叩いて見せる恋人の言葉に従い、寄り添うような形で隣に座った。
すると「よいしょっと」という掛け声と共に持ち上げられ、恋人の膝の上へと移動させられる。
座った状態で横向きに抱えられて、咄嗟に彼の首へ腕を回して体を支えた。
「急に持ち上げるな!驚くだろう!」
「ごめんなさい、少しでもエトラさんを近くで感じたくて・・」
潤む瞳に見つめられ「んぐっ」と喉奥で変な音が鳴る。
「・・仕方ないから許す・・・血。飲むのだろ?さあ、どうぞ?」
「えへ・・・頂きます」
唇を寄せやすいように服を寛げて首筋を晒し、照れと恥ずかしさから視線を逸らした。
その直ぐ後にぺろりと舌が肌に触れ、次いで硬い犬歯が当てられる。
犬歯が沈みブツリと肌が破られたが、驚いた事に全く痛みを感じなかった。それどころか—
「んあっ?!」
予想外に訪れた快感に驚いて、嬌声に似た声を上げてしまう。
皮膚に食い込む、犬歯の圧が心地よい。
身体の内側に彼の一部が存在するだけで、途轍もない充足感が満ち溢れて来る・・
「あっ、あっ、あぁっ!!」
傷口を舌が這い、唇が押し当てられて血が吸い上げられた。
その一つ一つの感触が、びりびりとした刺激となって甘く全身を駆け巡る。
必死に恋人の胸元に縋りつき、強すぎる快感に流されないよう服を強く握りしめた。
—何だ、これは。以前はこのような感覚では・・これも〈真祖の花嫁〉〈半身〉へと変じたことによる身体の変化が原因—
思考の片隅でこの状況を把握するべく意識を集中しようとしたが、ほんの僅かしか持たずにあっという間に快感の波に押し流されてしまった。
じゅる、じゅると血と共に魔力が吸い上げられる。
べろりべろりと肌を撫でる舌は、吸い取った分を補うように魔力を送り込んできた。
そんな互いが混ざり合うような魔力の流れが、性交時にも似た快感をもたらし、下腹部が疼いてきゅきゅうと収縮する。
甘い痺れにふるりと震え、逃げ場の無い感覚を誤魔化そうと両腿をすり合わせた。
身体の奥の方から体液が溢れ出る感触に、僅かに焦る。
でも、抱きしめる腕がぎゅうと力を込めてきて、指先が肌に食い込み、肺から空気が押し出され・・
更に深く、喰われるように犬歯が・・牙が身体を穿ち、脳天が痺れるような快感が身体を貫いて、全てがどうでもよくなった。
甘さを伴ったゾクゾクとした感覚が腰から背中を駆け上がり、喰いつかれた首筋から指の先へジンジンとした痺れが走る。
胎の底から波打つような快感が汲み上げられ、下腹部がぎゅんぎゅんと切なく収縮した。
あ。うそ。そんな、血を吸われただけ、なのに—もぅ、いっ!!
「―くっ!っつあ、あ゛ーっ!あ゛ーっ!」
涎を垂らし、あられもない嬌声を上げながら襲い来る悦楽の波に翻弄され、意識と肉体が解き放たれる。
涙でぼやけた視界がチカチカと明滅して、痺れた脳髄に新たな刺激を追加した。
弓の様に反ろうとする背中を、力強い腕ががっちりと抑え込み、ビクっビクっと絶頂に震える身体を大事そうに抱きしめる。
暫く自身の荒い呼吸音だけが部屋に響き、身体の震えが治まったころ・・
ようやく首筋から牙が引き抜かれた。
その感触に、またびくんと身体が跳ねる。
久方ぶりに絶頂を迎えた体は酷く重く感じられ、恍惚とした余韻に微睡みそうだ・・
しかし、それは叶わなかった。
ひゅっと息を呑む音がした後に強く体が揺さぶられ、幸福な時間は断ち切られる。
「エトラさんっ!エトラさんっ!」
ぱしぱしと瞬きをして何とか明瞭な視界を取り戻すと、目の前に恋人の顔が迫っていて驚く。
「んなっ!んだジル!どうした?!」
「意識はありますね?!良かった。ごめんなさい、やり過ぎました!」
焦る恋人の口元は真っ赤な血にまみれていて、自分が少々まずい状況だという事を自覚させられた。
「本当にごめんなさいっ!傷が深いので、直ぐに追加の回復薬を—・・え?・・」
こちらが言葉を発する前に、伸びた髪を振り乱し狼狽していた恋人が、何かに気付いて動きを止める。
—あ、迂闊っ!!—
首筋の傷を覆い隠すように手を動かしたが、途中でぱしりと腕を捕まれ止められた。
力を込めるが、びくともしない。
傷口を凝視する、恋人の表情がどんどん強張っていく。
直接見てはいないが、感覚で分かった。
深い噛み傷が、在り得ない速さで回復しているのだろう。
「・・再生?いや、魔力の動きが・・違う」
「ジル・・」
「これ、は・・俺と同じ?・・あ?・・あれ?え?あれ?」
「ジルっ!!」
動揺して、カタカタと震え出した恋人に声を掛けるが、反応が無い。
目の焦点はブレて安定せず、顔色もどんどん悪くなっていった。
ズォるリ゛
唐突に、座っているソファの足元から真っ黒な影が伸び、触手のように四方に広がって床や壁を覆い始めた。
黒く染まった箇所からは粘着的な糸を引いて蝙蝠の翼、狼の口、何かの生物の一部が浮いては沈み、大小幾つもの眼がぎょろぎょろと辺りを見回している。
—まずい!—
恋人の能力が一部暴走していると判断。
彼の制御下に戻すべく、声を張り上げた。
「ジルっ!!ジルっ!!――っソルシオ二等っ!!」
嘗ての呼び名に、ビクンっ!と体が跳ねると、恋人の目の焦点が定まった。
両頬に手を当ててぐいと引き寄せ、鼻先が触れ合う距離で視線を合わせる。
「落ち着け、二等」
「ぐん・・そう・・」
「大丈夫。大丈夫だ。何も心配は無い」
「・・でも、軍曹・・俺の・・俺、は。俺が・・俺がっ!!」
悲嘆に濡れた慟哭を、無理やり唇で塞いだ。
虚を突かれて揺れる瞳を見つめたまま、舌を差し入れる。
ぎこちなく歯列をなぞり、出来るだけ奥まで伸ばして入り込み深く、深く触れようとした。
そんな一方的だった行為に、反応が返された。
触れて来た恋人の舌が、こちらの舌をなぞって、捏ねるように口内を蹂躙し始める。
天井の凹凸を数えるように一つ一つ撫で、自分では触れない奥の方まで暴かれた。
舌の下側に入り込んで絡みつき、溢れる唾液を啜りながら舌を引き出され、最後にちゅぽりと音を立ててやや長い口付けを終える。
はぁふぅと熱が籠った息を吐き出し、心地よさに閉じていた目を開く。
幾分マシになった顔色を確認して、内心で安堵の溜息を吐いた。
「・・落ち着いたか?」
「はい、大分・・」
「そうか。それは良かった」
言いながらソファに身を起こし、周りを見回す。
室内の壁を覆いつくさんばかりだった影は、もうどこにも見当たらない。
どうやら能力は制御下に戻ったようだ。
「あ、腕輪が・・」
「うん?」
恋人の小さな呟きに視線を向けると、手首に巻き付いていた腕輪の石がボロリと崩れる所だった。
「どうしたんだ、それ」
「・・溢れた魔力を隠蔽する為に着けてたんですけど・・発動して、壊れたみたいです」
「え?それは、良かったのか?」
「リアムさんが使い捨てだと言ってましたから・・気にしないでください」
「・・そうか、分かった」
会話が途切れたのを機に恋人の膝の上から降り、連絡機に向かった。
使用人の待機室へと繋ぎスミスを呼び出す。
「すまないが、お茶を二人分用意してくれ。それと片づけを頼みたい」
≪・・かしこまりました。すぐに参ります≫
返事までの間に『またですか?』と呆れの感情が含まれていたのを感じ取って、もう何度目かの居たたまれなさに、思わず遠くに視線を向けた。
「あの・・」
「・・話の前に、身形を整えよう。このままでは、ちょっとな」
「・・そうですね・・あ。俺は、自分で・・」
そう言った恋人は、服を含めて一度塵になると再び形を作り、普段過ごしている目元を隠した形態へと変化した。
どういった原理なのか口元を染めていた血は消え、服も綺麗な状態に戻っている。
便利な能力だなと、これから語ることになる話に緊張しているからか、少々場の空気とズレた感想を思い浮かべた。
互いに無言のまま待つこと暫し、扉がノックされスミスがティーセットを乗せたカートを押して来た。
部屋に入ると微妙な空気を感じ取ったのか、執事は珍しく無言でテキパキと自分と汚れた家具に【洗浄】を掛け、お茶の支度を済ませるとさっさと退出していった。
執事の気遣いに感謝しつつ、恋人の隣に腰掛ける。
すると、僅かに距離を取られた。
仕出かした事に対する申し訳なさからなのだろうが・・・
そんな事、関係ないとばかりにぴったりと寄り添って、膝の上で握られた手にそっと手を伸ばす。
触れた指が拒絶されなかった事に、ほっと胸を撫で下ろした。
「・・・エトラさんは、自分がどんな状態か・・知っていたんです・・よね」
「・・あぁ。本当は、婚約披露宴を終えてから話すつもりで居たんだが・・」
「・・・・今、聞きます。聞かせてください」
「・・わかった・・」
そうして・・寄り添い、片側で互いの熱を感じながら〈真祖の花嫁〉の事を、自分がどのような存在になったのかを、静かに打ち明けた。
△ ▽ △ ▽
もうずっと、触れていなかった。
一度自覚した渇きは、常にジリジリと意識の底を炙り、血に飢えたケダモノを解き放とうとする。
駐屯地で恋人の血を口にして以降、血を取り込んでいない。
普通の飲食では癒すことの出来ない飢えが身体の奥で燻り続け、いよいよ我慢が難しくなってきて・・
自分から接触を控えていたくせに、煩悩にまみれた欲に抗えず、のこのこと恋人の自室に訪れた。
就寝前だったのに、快く招き入れてくれた恋人がいつもより輝いて見えて、胸が高鳴る。
あぁ、そうか。明日に備えて使用人達が精を出したんだなと納得して、内心で頷きながら愛しさに目を細めた。
傍に寄る事で血への渇望が増すかと思ったが、騒めいていた欲望が熱を吸い取られたかのように落ち着き、二人きりなのに平常心で居られた。
近くで恋人の魔力に触れ、寂しい気持ちが癒されたからのように思う。
でも、恋人の方はそうではなかったらしい。
当然だ。自分は真祖へと覚醒した事により魔力感知能力が格段に上昇、強化されたのだ。
ただ魔力に触れただけで、その人の体調や感情を読み取ったりなど、普通は出来ない。
気持ちが落ち着いた事だし、長居するのも悪いので飲み物を頼むからと希望を聞かれたが、すぐに退室するからと断った。
途端、恋人の魔力から『寂しい』気持ちが伝わって来る。
他の人より格段に相性の良い恋人の魔力は、この身に馴染んでとても読みやすい。
喜びに煌めいていた気持ちが一転、悲しみに沈んだのを感じて咄嗟に腕を伸ばす。
正面から抱きしめ、腕の中に温もりを収めると、欲望の熱が盛ってまた勢いを増す。
『そんな場合か!』と無理やり荒ぶる願望を押さえつけ、言葉を紡いで謝罪する。
己を信じ切れずに避けていた自分が悪いのに、恋人はそれすらも受け入れ許してしまった。
彼女の魔力が優しく自分を包み込み迎え入れて、申し訳なさに嘆く気持ちをあっという間に癒してしまう。
狡い。言葉と魔力で謝罪を取り上げてしまうなんて。
もっと、しっかり反省の気持ちを伝えたかった・・
でも分かっている。自身の言葉でどんどん悪い方へと沈みがちな自分を気遣っての事だって。
「お互い様だ」なんて優しい言葉で、あっという間に自分の心を救い上げた恋人には本当、頭が上がらない。
次いで避けていた理由を問われ、半ば自棄になって本当は隠していたい嗜虐的な衝動を吐露した。
心の何処かでそれすら許されるだろう確信が、きっとあったのだと思う。
自身の欲望を言葉にした事で、衝動を抑える理性に罅が入る。
そんな状況の中、恋人の甘い対応に乗じて久方ぶりに甘露を口にする機会を得た。
「頑張る」と宣言したものの、いよいよ歯止めが利かなくなってきて・・
抱きしめた恋人の体温が、肌から立ち上る甘い香りが、ガリガリと容赦なく自制心を削って来る。
触れ合った唇に思考が蕩け、甘い肌に酔いしれた。
最後の理性を総動員して、許可の言葉を得ようとしたら・・肩透かしを食らった。
正直「そりゃないよ」という気持ちで一杯だったが、おあずけを頂いた事で少し冷静になれたのは良かった。
久しぶりの逢瀬だ。
過程の一つ一つを大切にして、ゆっくり堪能したい。
気を取り直して触れ合いを再開する。
膝に抱え上げたら叱られたけど、照れて恥ずかしそうに目を逸らす様はとても可愛らしくて、思わず頬が緩んだ。
服を寛げ、晒された首筋に視線が釘付けになる。
すぐさま犬歯を突き立て、血を啜りたい衝動をぎりぎりで自制して、ゆっくりと肌に舌を這わせた。
甘い肌を味わい、出来る限り優しく犬歯を沈める。
—あぁ、美味しい—
舌に広がる甘美な刺激が、全身を震わせる。
それを追いかけるように恋人の嬌声が鼓膜を揺らすと、意識にしがみ付いていた僅かな理性が剥がれ落ち、あっけなく流された。
開けた傷口から溢れる血と魔力を夢中で啜り、一滴たりとも零すまいと舌を這わせて味わう。
耳元で奏でられる心地よい声をもっと聴きたくて、自身の快感を乗せて魔力を送り込んだ。
途端、舌で踊る血の味が格段に良くなって、貪欲な衝動が溢れ出す。
—もっと、もっと!!―
夢中になって肉に歯を食い込ませ、溢れ出る血潮をゴクリと嚥下した。
魂ごと飲み干すような行為を繰り返す度、身体に充填される魔力の充足感に恍惚と酔いしれる。
貪欲な衝動に任せて深く歯を沈めた瞬間、耳元で一段と大きな嬌声が上がり—・・
心も、魂も。己の全てを満たす命の源が舌の上に広がって、その衝撃に引きずられるように達した。
強く、強く噛みながら、ビクビクと震える腕の中の温もりをきゅうと抱きしめる。
上昇した体温で強く香る髪と肌の匂いに、甘美な血の匂いが混ざって鼻孔を満たし、訪れた素晴らしい余韻をじっくりと楽しんだ。
途轍もなく満足して、目を閉じたまま唇を離す。
上体を起こして顎を逸らすと、充足感に満ちた深い息を吐いた。
強すぎた快感に、少しぼぅっとしながら腕の中に視線を落とし、凍り付く。
視界に広がったのは首筋に深い傷を負い、今も血を流しながらぐったりとしている愛しい人の姿。
瞬間、ざっと血の気が引く。
ひゅっと息を呑み、咄嗟に抱えた体を揺さぶった。
「エトラさんっ!エトラさんっ!」
叫ぶようにして必死に呼びかけると、直ぐに反応があった。
「んなっ!んだジル!どうした?!」
「意識はありますね?!良かった。ごめんなさい、やり過ぎました!」
傷が深い、出血が多すぎる!
すぐに治療しないと命に係わるかもしれない。
—くそっ!こんなんだから俺は自分がっ!!—
ぐちゃぐちゃな感情が思考を乱す。
けど、今は恋人を救うことに意識を集中させなければ!
「本当にごめんなさいっ!傷が深いので、直ぐに追加の回復薬を—・・え?・・」
先程彼女が使用した回復薬がどこにあるのか訊ねようとして、ソレに気付いた。
視線を遮ろうと動いた腕を咄嗟に掴んで止め、食い入るように傷口へ視線を落とす。
溢れ、零れていた血はいつの間にか止まり、深い噛み傷は、内側から肉が盛り上がるようにして治っていく。
回復薬の効能は、こんなに強力だっただろうか?
酷い、本当に酷い傷だったのに・・最上級の回復薬を使用した?
そして覚える違和感。
「・・再生?いや、魔力の動きが・・違う」
恋人の魔力の動きが、普通ではない。
通常、回復薬により治癒される時は傷に魔力が集束、回復薬の効果を助ける働きをする。
だが恋人の場合は、傷つき失われた物が直接魔力から変換され補われていように視えた。
その動きは、最近とても馴染み深いもので・・
—俺の、治り方と—
「これ、は・・俺と同じ?・・あ?・・あれ?え?あれ?」
―あぁ。あぁ、、まさか、そんな・・―
思い至った可能性を、感情が拒絶する。
駄目だ。それは絶対に駄目だ。決して許されない罪だ。
—考えないように、願わないようにしていたのにっ!!—
この身が変じて、確定した未来から目を逸らし続けていた。
自分は〈吸血鬼〉の〈真祖〉となった。
肉体は強靭になり、寿命は人の一生を何度も見届けられる程、終わりが見えなくなったのを直感的に理解していた。
いつか、必ず訪れる愛しい人との別れに。
離れ離れになった後の長い孤独に、絶望しないよう見て見ぬふりをしていた。
覚醒で得た〈使い魔契約〉を行えば、あるいは共に長い時を過ごせるかもしれない。
だが、それは自分の我が儘だ。
利己的な感情に任せて、行ってはいけないものだ。
どころか、提案するのすら憚られる。
―なのにっ!―
目の前の現象に、自分の身勝手さを突き付けられて空虚な絶望が溢れる。
無意識の願望が作用したのか?
愛しい人を、大切にすると決めた唯一の人を温かな日向から、汚泥にまみれた闇へと引きずり込んだのか?
最悪だ。あってはならない事だ。それなのに・・
ずっと一緒に居られる可能性に・・
一瞬でも歓喜した自分に、深く絶望した。
「――ソルシオ二等っ!!」
呼ばれて、身体が跳ねる。
ぐちゃどろな感情に飲み込まれ、周りが見えなくなっていた自分を引き戻したのは、体と心に刻み込まれていた条件反射だった。
開いていても、何も映していなかった目の焦点が合って、あやふやだった感覚が全部戻って来る。
周囲の状況も認識出来るようになり、目の前の恋人に視線を合わせた。
ぱちりと一つ瞬きをしたところで、両頬を摑まれ引き寄せられる。
「落ち着け、二等」
「ぐん・・そう・・」
「大丈夫。大丈夫だ。何も心配は無い」
淡く微笑み、安心させるように言う恋人に、たどたどしく反論しようとした。
「・・でも、軍曹・・俺の・・俺、は。俺が・・俺がっ!!」
感情ばかりが先走って、意味をなさない言葉を紡ぐ唇を乱暴に塞がれる。
驚き、目を見開いて固まっていると、口内に舌が侵入してきた。
拙くも、どうにかして刺激を与えようと、短い舌が動く。
一生懸命に奥の方へと触れようとしてくる熱が、嬉しくて、切なくて・・愛しくて。
気が付けば自分から舌を絡めていた。
ざらつく舌の表面をなぞり、気持ちが良いであろう箇所を一つ一つ、丁寧に撫でる。
伝わって来る恋人の感情が華やいだのを感じ取って、乱れていた自分の感情も共鳴するように落ち着きを取り戻した。
それから僅かの間、貪るように夢中で口付ける。
やがて熱を分け合うような行為を、後ろ髪を引かれながらもなんとか終えて、閉じていた目を開いた。
「・・落ち着いたか?」と問われ「はい」と素直に答える。
うん。もう、大丈夫。大丈夫だ。
その後で腕輪が壊れたのに気付いたけど、今は気にしている余裕もないので後で義父に知らせる事にした。
変身で自分の身形を整えたら直ぐにスミスさんがやって来て、血に濡れた恋人と部屋を手早く【洗浄】して、お茶の支度を整えてくれた。
いつも後始末をさせてしまうのが本当に申し訳なく、退出の際に合わせて頭を下げて礼を伝える。
また二人きりになって、恋人が隣に座ってきたけれど・・
こんな自分が触れると、彼女に何か良くないモノが侵食していくような気がして、少し身を引いた。
けれど、その隙間は直後にぴったりと寄り添われ、埋められてしまう。
伝わる熱が心地よくて、離れ難くて・・
結局、触れて来た手を振り払うことも出来ずにされるがままにした。
「・・・エトラさんは、知っていたんです・・よね」
「・・あぁ。本当は、婚約披露宴を終えてから話すつもりで居たんだが・・」
「・・・・今、聞きます。聞かせてください」
「・・わかった・・」
そうして、恋人の身に何が起こったのか、詳しい話に耳を傾けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次話まで、また少し間が開くかと思います。
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