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【4】お誘い・準備・新たな友人。
しおりを挟む「あ、お疲れ様です!軍曹!」
「あぁ。お疲れ二等」
我が世の春を体現したかのような部下。そんな部下の様子を好ましく思ってしまう自分、その両方にほんのり苦笑を零す。
恋人関係になってから二週間ほど経った。
部下との関係については、第七部署のトップである直属の上司、セブンス曹長に告げてある。
告白の夜以来、部下はずっと浮ついていて、周囲を不審がらせているからだ。
報告しない訳にはいかない。
部下は同僚達に何があったか訊かれても「すごく良い事があった」とだけ答えていて、頑なに口を割ろうとしない。こちらに気を使ってくれているのだ。
やがて皆諦めて、最近では気にしないように流している。
私も他の者に部下との関係を訪ねられたら適当に誤魔化すつもりでいるが、今のところ誰にも問われていない。
何、普段通りに過ごしていれば良いのだ。
別に後ろめたい事では無い・・ただ・・知られ揶揄されるのが照れくさいだけだ。
自身の恋愛事情をからかわれたことが無いので・・少し不安なのもある・・が・・
自分のデスクに着き、チラリと部下に視線を向けると直ぐに気づいて〈にこっ〉と嬉し気な笑顔を返される。
うん。部下の笑顔を見ただけで全部上手く行くような安心感に包まれるから不思議だ。
ーではやるか!—
湧いてきたやる気に後押しされ、さっさと仕事を片付けるべく書類をデスクに積んだ。
「今度の休みに外出?」
「はい。この前お話しした茶葉の店がカフェを併設したようでして、軽食の評判も良いらしいです。なので・・あの、一緒に行きませんか?」
こちらの仕事が片付くのを、雑用をしながら待っていてくれた部下が照れくさそうに誘ってきた。
一緒に外出・・良いではないか!とても心躍る誘いだ。約束もしていたしな、ちょっと工夫が必要だが・・
断る理由は無い。
「いいぞ?一緒に行こう」
にこりと笑みを浮かべながら答えると、部下は「本当ですか?!やったぁ!!」と飛び跳ねそうな勢いで喜びを顕わにし、こちらの両手を取ってぶんぶんと上下に振った。
「俺、嬉しいです軍曹!!当日楽しみにしてますねっ!!」
「あぁ、私も楽しみにしているよ二等。ただ、お互い身元が割れないように気を付けようか」
「はいっ!わかりました!!」
元気良く返事をした部下は、手を離すと「それでは、今日はこれで失礼します!」と風のように部屋を飛び出して行った。
その後ろ姿を見送り、事務室に一人になると少し寂しさを覚える。
そう・・<寂しい>だ。これには自分でも驚いた。
告白を受けて以降、魔力が安定したので魔力循環はしなくなったのだが・・あの心地よい熱を共有出来ない事で、何とも寂しく、縋りたくなるような渇望が生まれた。
物足りない。
とても物足りないのだ。
告白を受け、恋人同士となったのは良いのだが、以前までの関係と概ね変わりが無い。
いや、寧ろ魔力循環が無くなったので接触する機会は減ったのではなかろうか?
気持ちの上では距離が縮まったのに、身体の距離は遠くなったように思う。
先程のように手を握ったりすることはあっても、抱きしめ合うことは無い。
自分は、もう少し触れ合いたいのだが・・
―これでは欲求不満だな―と苦笑して、帰り支度を始めた。
次の日。友人に誘われたので仕事が終わると医務室に寄った。
魔力が安定した事と合わせて、恋人同士になったことは伝えてあったので他に話すことも無いと思っていたのだが・・紅茶を片手にいつの間にか欲求不満について吐露していた。
「それじゃあ、部下くんとなんの進展もないの?」
「あぁ。魔力循環が無くなったら触れるタイミングが分からなくなってな・・私の方からこう・・誘うのも・・ちょっと・・」
「そうよね。女性から誘うって、難しいわよね・・」
「そうなんだ。二等には、はしたないと思われたくない・・・いや、欲求不満ははしたないか・・」
年下の恋人に、はしたない欲求を募らせている・・冷静に考えると、とんだ変態ではないか!
何という事だ・・自分は変態だった・・
気づいてしまった事実に気分が落ち込む。視線をカップに注いでいると、友人が「それは違うわ」と否定した。
「あのねエトラ。好きな人に触れたい、触れられたいって思うのは普通の事なのよ?」
「そうなのか!?」
「そうよ~。スキンシップの密度なんかは皆それぞれ違うと思うけどね。一般的には普通の事よ~」
なんと。自分が思い悩んでいた事は悩みでは無かったらしい。目から鱗とはこの事か。
「では、今度一緒に外出する時に切っ掛けがあれば・・触れ合えるだろうか?」
「ふつーに〈抱きしめて〉って伝えたらいいじゃない・・ってエトラ。部下くんと出掛ける予定があるの?」
「そうだが、やはりタイミングが・・うん?あぁ、そうなんだ!昨日誘われた。茶葉の店とそのカフェにな」
「あ~はいはい、知ってるわそのカフェ!最近オープンして盛況らしいわね・・因みに、何着ていくの?」
「?普通に私服だが・・」
「どんな?」
「シャツにスラックス」
「・・・・・二人で出かけるのよね?」
「そうだが・・・何か問題が—」
「在りまくりよっ!どこにパンツスタイルでデートに行く女子が居ますか!」
思いもよらないところで叱られ、思わず「ここに居る」と答えそうになったがギロリと睨まれて言葉を飲み込んだ。
「それにあなた達、一応お忍びで行くのでしょう?普段とかけ離れた服装じゃないと知り合いに気づかれるわよ?」
「そ、そうか?だが、スカートなんぞ持っていないぞ?」
「そこは任せて!服飾関係に強い友達が居るから、紹介してあげる!—で?いつなのよデートは」
「五日後だが」
「・・・今すぐ、その友達の店に行くわよ」
「今からか?もう店が閉まる時間では・・」
「おばかさん!そんな事言ってる場合!?デートに間に合わなくなるでしょうが!今すぐ行くのっ!」
「ほらほらっ!」と急き立てられ慌ただしく支度を整えて友人と二人、夜の街へ飛び出した。
友人と服飾関係の店が集まる一角に立つ。
目の前の店には大きな看板が掲げられており[輝く鱗]と書かれていた。
今までたいして服に興味が無く、自分で買い物した事も無かったのでこの場に居るのが酷く場違いな気がしてくる・・
入店を躊躇っていると「ほら、入るわよ」と促され、先に入店した友人に付いて恐る恐る店内に足を踏み入れた。
カロロン・・とドアベルが鳴り、背後でドアが閉まる。
店内を華やかに彩る服の波に目を瞬いていると奥の方から男性店員がやって来た。
「いらっしゃいませ。ようこそ〈輝く鱗〉へ。本日は何をお探しでしょうか?」
「友人の服を誂えに来たの。オーナーはいらっしゃる?セラスが来たと伝えてくれるかしら?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
すっとお辞儀をした店員はまた奥へ下がって行く。
その立ち振る舞いはとても洗練されていて、見ていて気持ちが良いほどだった。
店員の所作に感心していると、友人に「予算はどうする?」と聞かれる。
「給料の使い道が無くてな・・それなりにあるから、いくらでも構わんぞ?」
「そうなの?じゃあ遠慮なく選べるわね!」
「・・着るのは私だぞ?」
「そうよ?自分で着なくても、服を選ぶのは楽しいわ!」
「そんなものか?・・それならまぁ、お願いする」
「まっかせて~」
うきうきと羽を揺らす友人にそこはかとない不安を覚えて「ほどほどに頼む」と釘を刺したが、聞いていたかどうか定かではない。
そんな会話をしていると、先ほどの男性店員がオーナーであろう蛇人の女性を伴って戻って来た。
「お待たせ致しました。この店のオーナーの〈アオイ〉でございます。セラスと初めてのお客様。ようこそ〈輝く鱗〉へ」
こちらもまた大変美しい所作の方だった。
すらりと長い手足を惜しみなく晒しているのに、卑猥さは感じない。
気品漂う佇まいで顔と手足の鱗を煌めかせている。
が・・その声は想像よりも大分低い。どうやら女性ではなく男性・・ここのオーナーは所謂〈オネェ〉だったようだ。
「遅くにごめんね~。紹介するわ!エトラ、彼女は〈アオイ〉。この店のオーナー兼デザイナーで私の友人!アオイ、こちらは〈エトラ〉。軍校からの同期で私の友人よ~」
「はじめまして。エトラ・ホークだ。セラスにはいつも助けてもらっている」
挨拶しながら右手を差し出すと、そっと握り返された。
「わたくしも、セラスとは友人として良い関係を築かせてもらっているの・・セラスの友人ならば、わたくしもホーク様とお友達になりたいわ・・どうかしら?」
「もちろんだ。名前もエトラと呼んでくれ」
「まぁ!うれしいわ!ではわたくしもアオイと呼んでくださいな」
笑顔が素敵な御仁だ。滲み出る気品と相まって、つい視線が吸い寄せられる。
良い雰囲気で挨拶が済んだところで、セラスが来店の目的を告げた。
「アオイ~。デートの衣装を上から下まで一揃い誂えるとしたらどのくらいで仕上がるかしら~?この子ったら、五日後にデートがあるのに、シャツとスラックスで行くつもりだって言うのよ~?」
「あらあら!エトラ!デートはきちんと可愛くして行きましょうね?彼氏ちゃんがガッカリしますわよ?」
二人の勢いに押されながら「そ、そういう物か?」と疑問を口にすれば二人揃って「「そうなの(ですわ)!!」」と返された。
「だ、だが私はもうすぐ30になる軍人だぞ?可愛いというのは方向が違いすぎやしないか?」
「エ~ト~ラ~?女はね。幾つになっても可愛くていいの!もちろん、服装は人それぞれ似合うものが違うけどね・・あなたは十分可愛くなれると思うわよ?それに、今回大事なのは知り合いに気づかれたくないって事でしょ?なら可愛い姿なら普段のイメージとは全く違ってて好都合じゃない!」
そう捲し立て、嬉し気に頬を染める友人に『それもそうか』と納得させられていると、新しい友人も会話に加わる。
「あら?お忍びデートですの?それはわくわくしますわね~」
「まだ周囲に知られるのが恥ずかしいんですって!良いじゃないのよ年下彼氏。自慢すれば良いのに~」
「あらあらあら!年下の彼氏ちゃん!良いですわ~滾りますわ~!これは選び甲斐がありますわね!」
「では早速、合わせて行きましょうか!」と案内されるまま店内をぐるぐると歩き、服を合わせて行く。
元々が気の合う友人同士の二人だ。「これは?」「それなら色はこちらで・・」「じゃあ、こっちはこれね」といった感じで次々と服をあてられ・・・口を挟む暇が無い。
まぁ、自分は服装に疎いので助かるが・・気分は案山子だ。
空気の様に気配の薄い男性店員が、自分たちの後ろから渡された服を腕にかけて持ち、付いて歩く。
その服が一揃いどころか、抱えた店員の顔が見えない量になり『一体何着あるのだ?』と不安になったころ、やっと選び終わったらしい。
「はい、じゃあ後は実際着てみてから決めましょうか~」
「そうですわね。今回は当日まで五日と、あまり時間がありませんから、セミオーダーになりますわ。でも、エトラは素敵なスタイルをしてらっしゃるから・・出来ればオーダーメイドで誂えたかったですわね・・」
「わかるわ~。勿体ないわよね・・」
と、とても残念そうなその様子につい「じゃあ、今度また買いに来た時はお願いするよ」と伝えたところ「絶対ですわよ!」と食いつかれた。嬉しそうで何よりだ。
「では、フィッティングルームへ行きますわよ!わたくしや店員だと気まずいでしょうから、セラス手伝って頂いても?」
「はいはーい!任せなさい!行くわよエトラ!こっちよ!」
「わかったから、引っ張るなセラス!」
ぐいぐいと腕を引かれ、誘導されたのは全員が入っても閉塞感を感じない程の広めの個室だった。大きな姿見があり、ソファが壁際に置かれている。
靴を履き替える為の小さめの椅子がある一角には、着替え用のカーテンが天井から吊り下げられていた。
「はい、エトラ!まずはこの服から着てみて!」
「わかった」
楽しそうな友人につられて、自分も何だか楽しくなりながら服を合わせて行く。
選んだ服を着て、カーテンを開いて姿見の前に立つ。
その場でゆっくりと回ってみるように言われ、その通りにしたが選んだ二人からは「惜しいけど違う」といった意見が出た。
そして次々と服を変え、同じように着て見せる。
でもそれが五度目ともなると流石に疲れて来た。
見ると、男性店員が脱いだ服を合わせた状態にセットして丁寧にソファに広げている。
『こんなに着たのか』とそれを見てますますゲンナリしていると、アオイから質問が飛んできた。
「ねぇ、エトラ。彼氏ちゃんの事聞いていいかしら?髪の色とか目の色。背格好や・・種族とか」
「あぁ、構わない。彼の髪は白。瞳はヘーゼルで・・身長は私より少しだけ高いと思う。そんなに差はないな・・体格は軍人にしては普通で、筋肉量はそう多くないが全体のバランスは良い。手足は割と長いと思う・・種族は吸血鬼だ」
「なるほど・・セラス。彼氏ちゃんはどんな雰囲気の方なの?あなたの意見も知りたいわ」
「エトラにぞっこん。可愛い子犬系」
質問に間髪入れずに返された言葉に動揺してしまい、ぶっ!と拭き出してしまった。
「なっ?!セッ・・セラス!変な事言うな!驚いたではないか!」
「何よ~。本当の事しか言ってないわよ?エトラも『子犬みたいだ』と思ったことくらいあるでしょ?」
そう問われ、二等を思い浮かべるが・・強烈な印象として残っているのは夜会で見た煌めく紅い瞳や薄い唇。夜の医務室で月光に輝く白髪などで・・
「いや、ないな。例えるなら白狼のほうがしっくりくる・・なんだ?」
にやにや笑う有翼人の友人と、微笑ましそうに目元を緩める蛇人の友人。
二人の様子に首を傾げると、目の前なのに内緒話をするようにコソコソと話し出す。
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「ふふ。ごめんなさい、おふざけが過ぎましたわ。許してくださる?」
「ごめんね~エトラ」
「ん。謝罪を受けよう。大丈夫だ、気にしていない」
実際、怒ってはいない。ただ照れと恥ずかしさでどうすれば良いか分からなくなるのだ・・慣れだとは思うが。
まだこういった事に不慣れな私に、二人は「今後は気を付ける」と気遣ってくれた。
良い友人達だ。
仲直りをして、衣装選びを再開する。
「衣装の選択方法の一つに〈パートナーの色彩に合わせる〉というのがありますわ。これは愛情表現の一つでもあるの。デートにはピッタリだと思うのだけど・・どうかしら?」
「良いじゃない!良いじゃない!?それで行きましょう~!なら、衣装はこれとこれを合わせて~靴はこの色のショートブーツ!それから目元が隠れるレース付きのミニハット!で、どうかしら?」
「良いと思いますけど、まずは着て頂かないと・・さぁエトラ!お願いしますわね」
「わかった」と頷きながらセラスが選んだ服をカーテンの裏で着付けてもらう。
結果。デートに着ていく服はその衣装に決まったのだった。
△ ▽ △ ▽
自分にまさかの春が来た!
信じられない事に告白が受け入れられ、上司と恋人関係にっ!
嬉しすぎてあの日はどうやって自室に戻ったのか記憶が定かではない。
そのまま眠らず夜を明かし、翌日職場で徹夜に気づいた上司に叱られてしまった。
寝たら全部夢だったことになりそうで・・怖かったのだ。それに一晩の徹夜くらい何の影響もない。これでも吸血鬼の端くれだからね!
そんな自分を心配して「ばかもの」と叱る上司。視線が合う度に向けられる、以前には無かったほころぶような微笑みに癒され、安心する。
大丈夫、夢じゃなかった。
浮かれすぎて周りの人達には不審がられたけど・・
上司は俺たちの関係を秘密にしておいて欲しいみたいだから、訊かれても理由は伏せた。
上司から許可が出たら堂々と自慢しよう!
そしてデートへの誘いも頷いてくれた!
嬉しくて嬉しくて、飛んで帰って直ぐに服を選び始めた。
今の季節は春から夏へと移り変わる時期で、素材は軽くなり色は華やかになる。
服を選ぶのも楽しい時期だ。自分のセンスが物凄く良い!とまでは言わないけど、自分で選んだ好みの服に身を包むのは心が弾む。
さて、当日の天気に振り回されないように幾つか候補を絞るとしよう。
晴天の場合は・・黒の色眼鏡とそれに吊る日よけのレース・・色は金茶。
生成り色の半袖シャツに、丈が長めな萌黄色の燕尾ベスト。
下は無難に焦げ茶にするかな・・靴も同系の茶色で行こう。
後はベルトとループタイ・・うん。良いんじゃないかな?
雨天の時は・・気温が下がるかもしれないから、長袖で・・でも生地は軽くて涼しいのにしよう。
わくわくしながら服を選び、デートに思いを馳せる。
あぁ・・上司はどのような姿を見せてくれるのだろう・・とても、とても楽しみだ!
そしてやって参りました。デート当日!!
空は殆ど雲のない青空で絶好のデート日和でっす!
もうね。デートが決まってから今日までそわそわしっぱなしで、周囲には不審を通り越して心配されたね。心の病を。
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脳内で誰にするでもなく弁明したところで、上司の家に着いた。
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辻馬車を帰すと、門番に取次を頼む。直ぐに案内の執事が出迎えてくれた。
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「あ、ありがとうございます」
あの時お世話になった執事だと気づいて、先導されながら緊張気味に声を掛ける。
「先の夜会では大変ご迷惑をお掛けしました。色々と助けて頂いて、ありがとうございます」
「わたくしはこの家の執事です。仕事をしたまでですので、そうお気になさらず・・・着きました、こちらのお部屋です。――お嬢様、お客様をお連れしました」
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「失礼します」と執事がドアを開けたその先には・・・・女神が居た。
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そのビスチェから広がる、少し厚めの生地が覆うのはブラウスと同色のフレアスカート。
正面は開いているので、スカートの白が目に眩しい感謝します。
裾はレースと刺繡で飾られて、上司の美しさに華を添えているすばらしい。
チョコレートブラウンのショートブーツは先が丸みを帯びていて可愛らしい。
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薄く化粧を施された上司の美しさは、晒された口元だけでも十分すぎるほどの衝撃を自分に与えた・・
顔半分隠れているのにこの衝撃て・・直視したら俺は死ぬんじゃなかろうか?
「二等、よく来てくれたな!時間通りだ。家の者が馬車を出すからこのまま出られるぞ?早速行こうではないか・・・・どうかしたか?」
上司の私服姿に見惚れていると、訝し気に声を掛けられハッとなって居住まいを正した。
すぐに愛しい人のところまで足早に近づき、その手を取ると静かに告げる。
「きれいです軍曹・・・とても、とても素敵です」
その言葉に今度は上司がぴきりと固まる。
自分は握った手を優しく持ち上げ、腰を屈めて口元を覆う日よけ越しにそっと口づけた。
△ ▽ △ ▽
普段着飾ることをしないので、デートの支度は実家に頼ることにした。
前日に服を受け取りに行き試着すると、友人となったオーナーに褒められて少々照れる。
正直、自分では似合っているかどうか自信がないのだが、友人たちが選んでくれた衣装だ。胸を張って行こう。
他にもオーナーから「わたくしからのプレゼントよ!」と箱を受け取った。
使う事があるかも知れないからとデートに持っていくように助言を受ける。
首を捻りながらも頷き、持っていく事を約束した。
実家に着付けを頼むと連絡を入れれば「前日から泊りがけで来なさい」と母と姉から返事が来た。
夜会以降顔を出していなかったのもあって—たまには家族とゆっくり話すのも良いな—と思い、了承する。
購入した衣装を持って実家に行くと「めかし込むなんて珍しい、デートか?」と冗談交じりに聞かれ、家族にならば言っておかねばというのもあり「そうだ」と答えれば夕食もそこそこに根掘り葉掘り色々聞かれた・・
夜会での事は伏せて「職場の部下に告白され、それを受けた」と話すと予想とは違う反応が返って来た。
母と姉は黄色い声を上げて手を取り合って喜び、兄はハンカチを取り出し鼻をかむ勢いで泣いている。
父は朗らかに微笑みながら繰り返し頷くばかり・・でもその目元には光るものがあった。
どうやら自分が思っていた以上に、そういう相手がいない事を心配されていたようだ。
その心配を自分に悟らせず、自由にさせてくれた家族には改めて感謝の思いが沸き上がる。
しかし感動もそこまで。
そういう事ならば!と、話を切り上げた母と姉の指示により集まった使用人に囲まれると、よく分からない内に風呂場に放り込まれた。
訓練や戦闘などで負った傷は魔法で【治癒】されるので、きれいに治り傷跡は殆どないのだが、髪や爪の手入れの杜撰さを責められ身の置き場がない。
良い相手が出来たのですから!とこれからはもう少し丁寧に手入れをする事を約束させられ、次は香油によるマッサージ。
水分を取ったらすぐに就寝。怒涛の全身お手入れ攻撃に心身共に疲弊したのか寝床に入ると直ぐに意識が落ちた。
翌朝、迎えは昼過ぎなのに早い時間に起こされる。
のんびりできるかと思っていたが、気合の入った使用人たちの圧に思い違いを正された。
お茶と軽い軽食の後に湯に浸かり、全身を解された後で全身に香油を塗り込まれる。
その時に香りの強くない物をお願いした。
自分の匂いでお茶の香りを邪魔したくないからな。
淡い柑橘系の香油で、気分もさっぱりだ。
風呂から上がれば、ゆったりした部屋着で爪を磨かれ化粧を施し髪を結う。
それからやっと着付けだ。
普段着用している軍服とは違い、体のラインが出るように正面と背面をぎゅっと絞られているので少々窮屈。
食事をするので、苦しくない程度にしてもらったが使用人たちは〈あと二センチは絞れるのに〉という顔をしていた。
支度が終わり、全身を鏡で見ると、いつもの自分とはかけ離れた姿がそこにはあった。
よし、これならば知人に目撃されても気づかれまい。
自分を丁寧に磨き上げた使用人たちは、出来栄えに満足そうにしている。
久々に着飾らせられたので、楽しかったのもあるだろう。
これからは頼ることも増えると思うので、また次楽しんでくれ。
だから今日はもう終いだ・・終わりっ!装飾は髪留めとイヤリングだけで十分だ!
指輪もネックレスもブローチも無し!重いのは好みではないと言ったろう!
にじり寄る使用人たちを落ち着かせるのに苦労した。
出掛ける前なのに、何故自分は疲れているのだ・・・
軽めの昼食を取って暫くすると、待ち望んだ迎えが来たようだ。
執事のスミスが私の待つ部屋へと案内してくれたようで、ドアの外から声を掛けられる。
「入ってくれ」と返事をすると、執事に続いて部下が現れた。
おぉ。部下もきちんと人目を意識した衣装になっている。
髪を撫で上げ額を出しているのでいつもと雰囲気が違う上、色眼鏡と口元を覆う布で人相が分かりづらい。
身形は全体的に淡い色合いを組み合わせていて、それが良く似合っていた。
「早速行こう」と声を掛けたが、反応が鈍い。具合でも悪いのだろうか?まさかまた徹夜したのではあるまいな?
視線を胡乱気に眇めようとした時、背筋を伸ばした部下はツカツカと近づいて来て手を取った。
「きれいです軍曹・・・とても、とても素敵です」
突然の誉め言葉に驚き、硬直する。
と、その隙に手の甲にキスを落とされた。
布越しとはいえ、生地が薄いのだろう・・しっかりと唇の感触が伝わり、恥ずかしさに赤面する。
人前なのにそんな行動をされ、妙な焦りを感じているのに、更には上目遣いで視線を寄越すという追撃を放つ部下。
見上げた瞳は淡いブラウン。でも光が入ると、そこがグリーンに変わりまた新たな印象を与えて来る・・ヘーゼル特有の色合い。
—素敵だ—
上目遣いの部下に見惚れる。
心臓が感情にようやく追いついて、ドッドッドッと激しく鼓動を始めると、部下も姿勢を正した。
「では軍曹、参りましょうか?」
そう言って、キスした手を肘に誘導して掴ませると、外の馬車までエスコートしてくれた。
途中、見送りに出て来た母と姉にその姿を見られてしまったが・・
色眼鏡と布で表情を隠しているのに、満面の笑みであろう事が全身から伝わって来て—まぁいいか—という気にさせられた。
いよいよ、初デートが始まる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
R指定なシーンまで行かなかった・・・早くえちちな場面を書きたいです・・
お読みいただき、ありがとうございました。
次回こそはえちちが入る予定です。
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