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ギリシャ神話 サタン一族編
妹キャロリーナ
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ヘラはアトラに一ヶ月は滞在するつもりで母に付き合った。
母の心残りが無くなるようにできる限り母と過ごした。
時にはアビゲイルの姿で、また、時にはヘラの姿で母と過ごす事でアビゲイルは死んでしまったのではないと分かってもらう事に努めた。
意外だったのは、アビーとは大分、歳の離れている末娘のキャロリーナが母とアビゲイルの外出に頻繁に付いて来た事だった。
年が離れているせいもあってキャロリーナとはあまり会話をした事がない。
彼女が上級学校に入学する頃にはアビゲイルの名は世界中に鳴り響いており、実家に居る事が少なくなったため、アビゲイルとキャロリーナの接点も少なくなっていた。
「アビーお姉ちゃん、お願いがあるの。」
彼女が面と向かってアビゲイルに話しかけてきたのは、これが初めてではないだろうか?
「どうしたの、畏まって?」
「帰るまでの間、私にエーテルの使い方を教えて欲しいの。」
帰るまでの間と言ってもあと10日もない。
そんな短期間に何を教える事ができると言うのだ。
いくらアビゲイルが大賢者に匹敵するエーテル使いであるからと言って、そんな短期間に何某か伝える事が出来ると思っているのだろうか?
実はある条件下では可能なのだ。
その条件とは『全くエーテル操作の経験を持たない人間にエーテルマスター上級者が指導する場合』である。
エーテルビリーブに到達した人間に上位のエーテルマスターが指導する場合は、普通の大学レベルの教育となんら変わりはない。
しかし、エーテル未経験者をエーテルビリーブに到達させるために上位のエーテルマスターが手を貸すと、時として絶大な効果が得られる事があるのだ、これを『松果体誘導法』と言う。
エーテル制御の基本はエーテル・ビリーブだが、エーテルマスターになるまでの実に30%をこのエーテル・ビリーブ到達に費やすのだ。
エーテルマスターを志すものがマスターの称号を得るまでに平均50年を必要とする、つまり、通常15年かけてビリーブの域に到達するのだ。
アビゲイルは生まれながらにエーテルマトリクスが見えていたため、初級学校の2年の時にはビリーブに到達していたがこれは極めて異例な事なのである。
通常はエーテル・ビリーブに到達してからエーテルマトリクスの視覚化を会得するが、アビゲイルの場合は真逆なのだ。
つまり、エーテルマトリクスが見えるか見えないか、これがエーテルビリーブを短期間に習得できるか否かの鍵となるのである。
アビゲイルは姉としてキャロリーナの願いを叶えてやりたかったが、この子は今17歳、『松果体誘導法』が使えるギリギリの年齢だ。
「なぜ、もっと早くに言ってくれなかったの?」
アビゲイルは今からでは難しいと言う事を匂わして質問した。
「来年、エーテルマスター養成学校(MATS)へ進学したいの。」
とキャロリーナ。
「なっ! あそこは、・・・・」
MATSへの進学など不可能だ。
「MATSは学業成績が良ければ入れると言うものではないの、ある程度素質が認められないと入れないわ。」
アビゲイルは今のキャロリーナでは無理だと言う事を遠回しに諭した。
「私、お姉ちゃんの妹なんだから頑張れば入れるんじゃ無いの?」
この才能は遺伝しない、どう言って無理だと諭せばいいものか。
「なんで、いきなりMATSへ進学したいと思うようになったの?」
キャロリーナは動機については頑に答えようとしなかった。
『駄目元でやってみるしか無いか?
あくまで本人の努力次第だと釘を刺しておく必要はあるけど。』
アビゲイルはこれまで疎遠だったキャロリーナに対するお詫びもかねて出来るだけの事はしてやろうと思った。
「分かったわ、どれだけ力になれるか分からないけど、やって見ましょうか?
でも、私にできるのはきっかけを与えるだけよ。
後はあなたの努力次第よ。」
・・・・・
訓練初日
・・・・・
あくる日の午後2時、キャロリーナは約束通りアビゲイルの部屋を訪問した。
キャロリーナ自体は試験休暇で時間は十分あったが、アビゲイルが母を優先してスケジュールを組んだからだ。
息を整えてドアをノックする。
「お入りなさい」
入室すると部屋の中ではアビゲイルではなくヘラが待っていた。
キャロリーナの緊張は極限まで高まる。
「楽にしなさい、私が居て驚いたでしょ? 」
ロングソファに座るよう勧めながらヘラが口を開いた。
キャロリーナがソファに座ると、ヘラはその隣に腰をおろした。
「さて、今日から1週間、毎日4時間程度の訓練を行うわ。あまり気張らずにね、そんなに難しいことはしないから。」
そう言ってヘラはキャロリーナの肩を抱くように手を廻した。
キャロリーナは盗み見するようにヘラの顔を見上げた、お姉ちゃんより綺麗だ。
そう思った次の瞬間凍り付いた。
ヘラの瞳の虹彩が琥珀色に輝き視線を外す事が出来ない。
体が金縛りにあったように動かなくなる。
突然、視界が切り替わった。
見た事もない色彩の異形の物体が浮遊し混沌が空間を支配している。
全てのものが繋がった一つの物体のようにも見えるが、それぞれが単体で存在しているようにも見える。
『エーテルは個にして全、全にして個』
何処からか声が聞こえて来た。
『その言葉が生まれて来たのは、今、あなたが見ている景色が元になっているの』
お姉ちゃんの声のようにも思えるが、ヘラと言う人の声にも思える。
『ここは何処?』
キャロリーナはその声に向かって尋ねた。
『私の部屋よ。あなたは今私の部屋を別の事象平面を切り取って見ているの。
目の前にあるのはソファであったりテーブルであったり私の顔であったりするのよ。』
意味不明な単語が飛び出し理解できないまでも、見れば目の前に何かが蠢いている。
『怖がらないで良く見てごらんなさい、目の前にあるのはあなたの日常なの。
事象の平面を切り替えるとこんなに違って見えてしまう。』
「『事象の平面』って?」
『MATSに入学できたら多分そこで習うと思うけど、簡単に言うと多次元世界の何処を切り出して見るかと言う事よ。
通常人間は物理フィールドの出来事を2次元に切り出して見ているの。
でも多次元世界にあるのは物理フィールドだけじゃない。
電磁フィールドもあれば、重力フィールドもあるの。
そして、今見ているのが、その大元になるエーテルフィールドよ。」
キャロリーナの理解力を遥かに超えるヘラの解説ではあったが、キャロリーナは嬉しかった。彼女には理解できないと言う事を分かった上で真剣に真実を教えてくれている。
『もっと、早く相談すればよかった。』
キャロリーナがそう考えた途端。
『そうね、もうちょっと早く相談してくれたらもっと楽だったわね。』
「えっ? 私何も言ってないわ。」
とキャロリーナ
『あなたと私はいまエーテルリンクで繋がっているの、考えることは全て共有されるのよ。』
『さぁ、今度は少しエーテルマスターらしい景色を見せてあげるわ。』
視界がまた切り替わった。
今度は応接セットのソファやテーブルが見える。
見えてはいるんだが、それがオーロラの帯のように遥か彼方まで伸びており何処を切り取っても応接セットなのである。
反対側に意識を向けると、やはり遥か彼方まで尾を引いている。
『今見ているのは、物理フィールドに時間軸を足した景色よ。
過去から未来に向かって途切れる事なく延びているわね。』
キャロリーナは何となくこの映像が何なのかが分かるような気がした。
『これが、タイムラインと言うものなのかしら?』
『正解! よく分かったわね。
優れたエーテル使いはここから過去を検証する事が出来るわ。
この世界で犯罪が少ないのはエーテルマスターが事件の過去の検証が出来るからなの。』
『未来も分かるの?』
『未来の予測は過去の検証よりちょっと複雑ね。
例えば、明日雨が降ると分かっていたらあなたは傘を持って外出するわね?
雨が降ると分からなかったら傘を持って出ないかもしれない。
未来を予測する事で未来を変えてしまうの。
これを『事象の不確定性』と呼んでいるわ。
これもMATSで教えてくれるはずだから、今日はこの景色を元に別のことを勉強しましょう。』
ヘラはエーテルマスターが好んで詠唱する言葉の意味をまずキャロリーナに教えようとしていた。
『エーテルは個にして全、全にして個、無であり無限、無限であり無。』
『個にして全、全にして個 は最初の映像で理解できたわね?
次は無と無限の関係よ。』
キャロリーナは理解できたとは思ってなかったが、確かにエーテルフィールドでは全てがつながっているように見えた。
『キャル、今見えている・・・ そうね、応接テーブルにしようかしら。
この応接テーブルの今と1秒後の中間の映像を想像してみて頂戴。』
『えっと。よく分かりません。』
キャロリーナは素直に降参した。
『今と1秒後の中間にある0.5秒後のテーブルの姿を想像して見るの。
今見ているタイムラインからテーブルの映像だけを頭の中で切り出すのよ。』
『できました。』
『そうしたら、今と切り出した0.5秒後の中間のテーブルを切り出して頂戴。』
『0.25秒後ということですね。 ・・・ できました。』
『そしたら、それをどんどん繰り返して行って頂戴、もうこれ以上中間を取り出せないと言う所まで。』
キャロリーナは言われた通り想像で切り出したテーブルの映像と今の映像の間の映像をさらに切り出していった。
やがて、
『先生、何処まで言っても終わりません。』
『私のことは、お姉ちゃんかアビーと呼んで頂戴。
でも、これで分かったと思うけど、私たちが無または0と呼んでいる何かには行き着く事ができないの。
人はそれを極値と言ってごまかしているけど、物理的に見ると無は無限の彼方にあって手に届くものではないの。』
『今度は未来に目を向けてみましょう。
今から1秒後の未来のテーブルの映像を想像し、その映像の2倍の2秒後の未来の映像を想像し、さらにその倍の未来の映像を想像し、どんどん遠い未来の映像を想像してみましょう。
これも、いつまで経っても終わらないことはすぐ分かるわね?』
『はい』
『さぁ、総仕上げよ。
今想像した遥か未来までの映像は何枚ぐらいになったかしら?
その映像の全てを、さっき想像した限りなく今に近い映像との間に挿入することはできるかしら?
時間という概念を無視して挿入してみて頂戴。
できる?』
キャロリーナは無限にある映像を今に最も近い映像の間に想像の中で挿入してみた。
全部入る。
『出来ました。想像した未来のテーブルの映像の全部が今からちょっと後の映像の間に入れる事が出来ました。』
キャロリーナが嬉しそうに答えた。
『がんばったね。よく出来たわ。
エーテルは無であり無限、無限であり無、と言う言葉の意味は今あなたが擬似体験したことを意味しているの。』
『エーテルは個にして全、全にして個、無であり無限、無限であり無。』
キャロリーナはこの詠唱はエーテルマスターが単にカッコづけで言っているだけと思っていたが、実はこんなに深い意味があったことに感動していた。
『今日はここまでにしましょうか。』
ヘラがそう言うと視界が通常のものに切り替わった。
ヘラがキャロリーナの肩を抱き抱え、キャロリーナはそれに身を委ねてヘラの肩に頭を乗せていた。
慌てて、居住まいを正すキャロリーナ。
「あら、残念。」
ヘラがキャロリーナが離れたことを残念そうに呟いた。
「あの、せん・・、お姉ちゃん、これが訓練になるの?」
キャロリーナは今日経験したことに感動していたことは事実であるが、所詮はヘラに見せてもらった映像でしかない。
自力であの世界が見れるようになるのだろうか?
「あなたに伝えたいことの半分は今日伝えたわ。
あとの半分を明日あなたにレクチャーしたら私の伝えたい事はもう無い。」
「それじゃ、明日で終わりって事?」
キャロリーナは心配そうに尋ねた。
「机上の理論に関しては終わりと言うことよ。
明日から私が帰るまでミッチリ訓練するわよ。」
・・・・・
訓練2日目
・・・・・
午前中は母とアビゲイルに付いて街を散策する。
母もアビゲイルも嫌がる様子もなくむしろキャロリーナの同行を歓迎しているようであった。
大富豪リンドバーグ家の人間は滅多にダウンタウンを散策する事はない。
アビゲイルだけでなく母のオリビアも頻繁にゴシップの主役となりこの町ではその顔を知らない者は少ない。
それだけに、気安くダウンタウンに足を運ぶ事が出来ないのである。
ここ数日は母との思い出を作るために、そう言った煩わしさを横に置いてショッピングや観劇を楽しんだ。
ショッピングモール内にある小さなカフェで3人がその日の買い物の品評会をしていた時である。
有名税とでも言おうか彼女たちを遠巻きに眺めている集団が何組かいる。
アビゲイルにとっては何時もの事なのでさして気にもならないが、キャロリーナは少し緊張しているようだ。
その集団の一つから一人の青年が意を決したように3人のテーブルに近づいて来た。
青年が3人のテーブルの前に立った時、なぜかキャロリーナが顔を背けて窓の外を眺めているような仕草をした。
青年が口を開く。
「あの! アビゲイル・リンドバーグ博士でらっしゃいますね?」
「そうだけど、あなたは?」
「俺・・ 私はアレキサンダー・サマセットと申します。
上級学校の6年です。
今年MATSの入学試験に合格し来年度からエーテルマスターを目指します。
ご迷惑でなければ、握手をして頂けないでしょうか? それと、このノートにサインをいただければ。・・・」
「このノートはMATSの専用ノートね、待ちきれなくて買っちゃったとか?」
アビゲイルは揶揄うようにサマセット青年に語りかけた。
「おっおっ、お恥ずかしいところを。」
「いいえ、その気持ちを枯れさせる事なく学校をがんばってね。」
そう言いながら、アビゲイルはノートの裏表紙にサインし、サマセット青年に手渡した。
そして、右手を差し出す。
「ありがとうございます。一生大事にします。」
そう言ってノートを小脇に抱え、差し出された手に自分の手を添えた。
その時、窓の外を見ていたキャロリーナが二人に振り返った。
サマセット青年とキャロリーナの目が合う。
「ご機嫌よう、先輩。」
キャロリーナがサマセット青年に挨拶する。
「キャ、キャロリーナ。 君だったのか?」
アビゲイルの手を離しながらキャロリーナに答える。
「あら、私もリンドバーグよ気がつかない方がおかしいんじゃなくて?」
少し機嫌を損ねたようにサマセット青年に話しかける。
『あら、あらあらあらあら』
これはオリビア。
「二人は知り合いだったの?」
アビゲイルが二人に聞いた。
「生徒会で一緒なの。」
キャロリーナが答える。
「そうなの? アレキサンダーだったらアレクね。
アレク、ここにお座りなさいな。」
アビゲイルは窓側に席をずらし、サマセット青年に座るよう誘う。
アレクは一瞬躊躇したが、大博士と席を共に出来るチャンスなど滅多にない、意を決して誘われた場所に腰を下ろした。
キャロリーナはアビゲイルを睨み付けている。
「アレク、あなたはなぜMATSを志願したの?」
アビゲイルはなるべくキャロリーナを刺激しないような質問をアレクにした。
「最初はただの憧れだったんです。
魔法使いのように空を飛び、エスパーのように物を操り、聖者のように怪我を癒す。
憧れとは自分には無理だと言う気持ちの裏返しです。
自分がその道に進むことなど考えてもいませんでした。
でも、ある時リンドバーグ先生の『無と無限の同一性とエーテルインデックスの役割』と言う論文を読んで自分が大きな誤解をしていたことに気が付いたんです。
エーテルマスターは空を飛んだり物を動かしたりする為に成るんじゃなく、万物の真理を読み解くために成るんだと気がついたんです。
エーテルの制御はできなくても万物の真理を追求することなら僕が挑戦しても良いんじゃないかっと思ったんです。」
アレクは目の前にエーテルマスターの最高峰が居るからだろうか、興奮気味に一気に自分の気持ちを吐露した。
「よく、そのことに気がついたわね。」
アビゲイルは最大限の賛辞を送った。
「エーテルコントロールは真理追求の副産物でしかないわ。
そのことに気が付いただけでもあなたはMATSに入学する資格があると思うわ。」
キャロリーナはアレクの話す事を静かに聞いていて、何か思う事が有ったのだろうか、アビゲイルを潤んだ瞳で見つめていた。
その後、取り止めもない話題で話は続いた。
アビゲイルはキャロリーナの気持ちを慮り、ともすればオリビアがその方向に導こうとするのを、巧妙にその方向に話が行かないよう話題を選んでいった。
『なぜ、キャロリーナがいきなりMATSに入学したいなどと言い出したのか、理由が分かったわ』
アビゲイルにとっては明明白白であった。
午後2時、アビゲイルとキャロリーナはアビゲイルの部屋に居た。
今日もヘラの姿で訓練するつもりだったが、午前中の出来事があったので急遽アビゲイルの姿で話をしてあげた方が良いだろうと考えたのだ。
「さあ、今日は後半の講義よ。」
アビゲイルが開始を宣言する。
「アビーお姉ちゃん、まだ、講義続けてくれるの?」
キャロリーナが思いつめたように問いかける。
「なぜ、そう思うの?」
「彼の動機に比べたら、私なんて全然覚悟が違うもの。
お姉ちゃん分かってるんでしょ?
私がなんでMATSに入学したいと言い出したのか。」
「そうね、分かってるわ。それじゃ、この訓練止める?」
キャロリーナはアビゲイルのこの返事を聞いて俯いてしまった。
微かに肩が揺れている。
「キャル」
アビゲイルは昨日ヘラがしたようにキャロリーナの肩を抱いて優しく話しかけた。
「アレクって立派な考えを持っている子ね。
あなたが好きになるのはよく分かるわ。」
やっぱりバレてたと思ったのかキャロリーナの肩が硬直する。
「とことんやりなさい。
彼は今、自分の可能性に夢中になっていて、あなたの気持ちには気が付いていないかもしれないわ。
でも、全然脈がないという訳でもないみたいよ。
エーテルマスターの私が太鼓判を押してあげる。
そのためにもMATSに入学しないとね。」
「ほんと?」
「私の言う事を疑うの?
私は大博士の称号を持つエーテルマスター、アビゲイル・リンドバーグよ。」
・・・・・
「それじゃ、良いわね? 始めるわよ。」
「うん」
キャロリーナの視界がエーテルフィールドのそれに切り替わった。
『今日、アレクが私の論文を読んだって言った事覚えてる?』
『うん、《無と無限の同一性とエーテルインデックスの役割》と言う題名だったと思う。』
『無と無限の同一性については昨日、身を持って分かったと思うけど、どう?』
『うん、よく分かった。タイムラインだけでなく、物理フィールドや電磁フィールドも同じなんだね。』
『それじゃ、今日は今見ているエーテルフィールドのテーブルやソファをはっきりと区別できるようにしましょう。』
アビゲイルは少し間をおいて続けた、
『昨日、「事象の平面」について簡単に説明したけど、覚えてる?』
『うん、私たちのような普通の人は物理フィールドの二次元平面を見ているって言うことね。学校の科学の人体の所で習ったよ。』
『それなら話は早いわ、エーテル使いとして訓練を重ねると「第3の目」が開くの。
生理学的に言うと、視覚回路に松果体が加えられ、この松果体が網膜の情報を各フィールドの情報に変換できるようになるのよ。
良く、三つ目の神様の絵や銅像があるのは、この第3の目を表現している物だと言う説もあるわ。実際におでこに目ができる訳では無いんだけどね。』
『この、「第3の目」はもう一つのとってもすごい機能があるの。
普通の人は二つの目から「事象の平面」で2つの映像を切り出して脳内で3次元の景色として処理しているのだけど、これに第3の目が加わったらどうなると思う?』
アビゲイルはキャロリーナの答えを待つ事なく説明を続けた。
『見ている映像に別のフィールドの映像をもう一枚加えて脳内で処理できるようになるのよ。
どのフィールドの映像にするかはその人の意思で切り替える事ができるの。
例えば、今見ているエーテルフィールドに物理フィールドの映像を一枚付け足して見ると、こんな風に景色が変わるわ。』
アビゲイルがそう言うと、視界が切り替わった。
混沌としていたエーテルフィールドの映像に物理フィールドの映像が重ね合わされる。
すると、どれがテーブルでどれがソファーなのかはっきりと区別できるようになった。
『あっ、アビーお姉ちゃんの部屋が見えるようになったわ。』
キャロリーナは混沌とした映像がはっきりとアビゲイルの部屋である事が分かり、その事を姉に伝えた。
『これで、準備完了よ。
「エーテルは個にして全、全にして個、無であり無限、無限であり無。
現世はすべからくエーテルの存在形態。人は自我を持つエーテルの一形態なり。」
このエーテルマスターの基本詠唱の後半の意味を今から説明していくわ。』
『「現世はすべからくエーテルの存在形態」の所はエーテルフィールドを見ていると一目瞭然よね、分かる?』
『えぇ。個にして全、全にして個の別表現みたい。』
『えらいわ、その通りよ。なら、人もその一部であることはわかるわね?』
『はい、でもわざわざ「自我を持つエーテルの一形態」と言っている意味が良く分かりません。』
キャロリーナは大分慣れてきたのか自分が疑問に思った事をハッキリとイメージするようになってきた。
『いい質問だわ。今から視界を普通の物理フィールドに戻すわよ。』
視界が元に戻った。
「それじゃキャル、テーブルの上に置いている彫像を右から左へ動かして頂戴。」
テーブルの上にヘラの立ち姿を模した高さ10cmほどの彫像が置かれていた。
キャロリーナはアビゲイルの意図が分からないまま彫像を掴んで左の方に置き直した。
「この彫像、アビーお姉ちゃんだね。 どうしたの?」
「母さんが作らせたそうよ。今の私の姿を忘れないようにだって。」
「お姉ちゃん、本当に戻っちゃうの?」
「そうね、今はあっちの世界の人間だからね。」
「でも今回みたいに帰ってくる事ができるんなら、また来れるよね?」
「あまり、誘惑しないで頂戴。わたしはこの世界と決別する覚悟で『賢者の秘法』を発動したんだから。
もう、この世界の人間じゃない、あまり干渉しては良くないと思うのよ。」
「さぁ、この話はこれでお終い。 今は勉強の時間よ。」
「あなた今、その彫像を右から左に動かすときに、何か意識を集中しないといけないような事はあった?」
「えっ? 像を動かしただけなんで、そんなたいそうな事は。」
「そーだよねー。でも、なんで何の意識もしないで彫像を動かす事が出来たの?」
「それは、手で掴んで動かしたから。」
「それじゃ、あなたの手はなんで意識せず動かせるの?」
「それは・・・えーっと、そう言う風に出来てるから?」
「正解! 人は物理フィールドでは自分の手足を制御する方法を最初から知って生まれてくるの。もちろん、赤ちゃんの時から徐々に上手くなるんだけどね。」
キャロリーナは姉が何を伝えたいのか、イマイチ、理解出来ないまま次の説明を待った。
「もう一度エーテルフィールドに視界を切り替えるわよ。」
予備動作もなく、視界がエーテルフィールドに切り替わった。
『良く見ていなさい、私が彫像を左から右に移動させるわ。特に私の手に注意して見ていてね。』
そう言ってアビゲイルはヘラの彫像を左から右に動かした。
キャロリーナは言われた通りアビゲイルの腕に注意を向けていたのだが、アビゲイルの腕は動いている様子がない。
その代わりアビゲイルと彫像が何か一つの物のように見えた。
『あなたは、エーテルフィールドを初めて見た時、一つ一つが独立しているようにも見えるし全部が繋がっているようにも見えると言っていたわね。
今、私の体と彫像が一体化しているように見えなかった?』
『はい、そんな風に見えました。』
『さっき、あなたは手を使って彫像を動かしたわね。
今、私は自分の体の一部としてあの彫像を動かしたの。
この意味がわかるかしら?』
『えっと、ひょっとして、エーテルフィールドでは個が全だから、どんな物も自分の体の一部とも言えるとか?』
『ご名答! 大した洞察力だわ。
そうなの、人は自我をもつエーテルの存在形態であり、エーテルの一部なの。
だから意識を向けた先は自分の一部だとも言えるのよ。
そして、ここからが大切な所なんだけど、人は自分の一部と認識したエーテルの部位をすべて意思通り制御できるの。
これをエーテルコントロールと呼んでいるわ。
そして、エーテルコントロールが真実であると確信できる事をエーテルビリーブと言うの。」
キャロリーナはこの世界を統べるエーテルマスターの到達点をたった2日でレクチャーされたことになる。
二人の視界は通常の物理フィールドに戻っていた。
「さぁ、これでエーテルマスターとはどう言う物なのか一気にあなたに教える事が出来たと思うわ。
何か、分からないことはある?」
「エーテルって、まるで人のために作られているみたい。」
質問ではないが、キャロリーナが意味深い事を口にした。
「そう見える? それは真実かもしれないわよ。
エーテルに限らずこの世界は全て人の意識が作り上げているのかもしれない。
でも今のところそれを検証できた人はいないわね。
ひょっとしたらアレクが将来その謎を明らかにするかもしれないわね。」
アビゲイルがアレキサンダー・サマセット青年の名を出すと、途端にキャロリーナの顔に赤みがさす。
「やめてよ、アビーお姉ちゃん。
それでなくても、自分の下心が恥ずかしくて仕方がないんだから。」
「下心、上等!
どんどん下心で動きなさい。
私だって、下心満杯で大賢者追っかけ回していたんだから。」
「え? アビーお姉ちゃん、大賢者様の事が好きだったの?
あんなお爺ちゃんが?」
『おっと、藪蛇。』
「私はね、キャル。
大賢者様がいなかったら、7歳かそこらで多分発狂するか死ぬかしていたわ。
私が持って生まれた能力は、昨日からあなたに見せているエーテルフィールドをそのまま見る事ができる力だったの。
見る物全てがあんなものだったわ、それでも生まれた時からそうだったから、世界はああ言う物だと思い込んでいたわ。
7歳になって初めて家族以外の人たちに出会って分かったの、私がこの世界では異端だと言う事を。
孤独感、恥辱、悲哀、嫌悪、悪意、あらゆる負の感情が私の中で芽生え始めていた。
それまでは母がなんとか私を現実に繋ぎ止めていてくれた。
でも初級学校で多くの普通の子供たちに出会って、とうとう、限界が来てしまった。
母以外の誰の言葉も悪意に満ち私を貶める物だと感じていたわ。
そんな時、大賢者様が私を慟哭の世界から連れ戻してくれたの。
私が見ている世界を、物理フィールドのそれに切り替える手段を教えてくれた。
世界が一変したわ。
だから、フリートウッド・マーリン・キルケゴールは私の中で特別な存在となった。
歳なんか関係ないわ、あの人こそ私と魂を分かち合う存在だと思うようになったの。」
「だから、お母さんが止めても、大賢者様について行ったのね?」
「そうよ、あなたがMATSに入学したいと思う気持ちと同じなのよ。」
キャロリーナは紅潮した顔に潤んだ瞳をたたえてアビゲイルの話を聞いていた。
「私、頑張る! 絶対にMATSに受かってアレクの所に行くわ。」
素直に自分の心を吐露したキャロリーナではあったが、その後に不安そうに俯き、
「でも、私、自分の力でエーテルフィールドを見ていた訳じゃない。
全部お姉ちゃんの力でしょ? 本当にMATSに合格できるようになれるのかな。」
「大丈夫よ、いまやっている訓練は『松果体誘導法』と言って特別な訓練方法なの。
エーテルマスターの上級者が生徒にエーテルリンクを貼って生徒の視覚経路に干渉し続けると、その生徒の松果体が活性化して『第3の目』の回路が生成されるの。
個人差があるのでいつ開眼するかは分からないけど、あなたの『第3の目』が開くまで、この世界に止まってあげてもいいわ。』
「えっ? でも大賢者様のところへ早く帰りたいんじゃないの?」
「時空転移を成し遂げた人間にとって時間は無意味よ。
キリがないのでけじめとして帰る時期を決めていたけど。
他ならぬ貴方のためだもの、少しぐらい帰るのが遅れても大丈夫よ。」
母の心残りが無くなるようにできる限り母と過ごした。
時にはアビゲイルの姿で、また、時にはヘラの姿で母と過ごす事でアビゲイルは死んでしまったのではないと分かってもらう事に努めた。
意外だったのは、アビーとは大分、歳の離れている末娘のキャロリーナが母とアビゲイルの外出に頻繁に付いて来た事だった。
年が離れているせいもあってキャロリーナとはあまり会話をした事がない。
彼女が上級学校に入学する頃にはアビゲイルの名は世界中に鳴り響いており、実家に居る事が少なくなったため、アビゲイルとキャロリーナの接点も少なくなっていた。
「アビーお姉ちゃん、お願いがあるの。」
彼女が面と向かってアビゲイルに話しかけてきたのは、これが初めてではないだろうか?
「どうしたの、畏まって?」
「帰るまでの間、私にエーテルの使い方を教えて欲しいの。」
帰るまでの間と言ってもあと10日もない。
そんな短期間に何を教える事ができると言うのだ。
いくらアビゲイルが大賢者に匹敵するエーテル使いであるからと言って、そんな短期間に何某か伝える事が出来ると思っているのだろうか?
実はある条件下では可能なのだ。
その条件とは『全くエーテル操作の経験を持たない人間にエーテルマスター上級者が指導する場合』である。
エーテルビリーブに到達した人間に上位のエーテルマスターが指導する場合は、普通の大学レベルの教育となんら変わりはない。
しかし、エーテル未経験者をエーテルビリーブに到達させるために上位のエーテルマスターが手を貸すと、時として絶大な効果が得られる事があるのだ、これを『松果体誘導法』と言う。
エーテル制御の基本はエーテル・ビリーブだが、エーテルマスターになるまでの実に30%をこのエーテル・ビリーブ到達に費やすのだ。
エーテルマスターを志すものがマスターの称号を得るまでに平均50年を必要とする、つまり、通常15年かけてビリーブの域に到達するのだ。
アビゲイルは生まれながらにエーテルマトリクスが見えていたため、初級学校の2年の時にはビリーブに到達していたがこれは極めて異例な事なのである。
通常はエーテル・ビリーブに到達してからエーテルマトリクスの視覚化を会得するが、アビゲイルの場合は真逆なのだ。
つまり、エーテルマトリクスが見えるか見えないか、これがエーテルビリーブを短期間に習得できるか否かの鍵となるのである。
アビゲイルは姉としてキャロリーナの願いを叶えてやりたかったが、この子は今17歳、『松果体誘導法』が使えるギリギリの年齢だ。
「なぜ、もっと早くに言ってくれなかったの?」
アビゲイルは今からでは難しいと言う事を匂わして質問した。
「来年、エーテルマスター養成学校(MATS)へ進学したいの。」
とキャロリーナ。
「なっ! あそこは、・・・・」
MATSへの進学など不可能だ。
「MATSは学業成績が良ければ入れると言うものではないの、ある程度素質が認められないと入れないわ。」
アビゲイルは今のキャロリーナでは無理だと言う事を遠回しに諭した。
「私、お姉ちゃんの妹なんだから頑張れば入れるんじゃ無いの?」
この才能は遺伝しない、どう言って無理だと諭せばいいものか。
「なんで、いきなりMATSへ進学したいと思うようになったの?」
キャロリーナは動機については頑に答えようとしなかった。
『駄目元でやってみるしか無いか?
あくまで本人の努力次第だと釘を刺しておく必要はあるけど。』
アビゲイルはこれまで疎遠だったキャロリーナに対するお詫びもかねて出来るだけの事はしてやろうと思った。
「分かったわ、どれだけ力になれるか分からないけど、やって見ましょうか?
でも、私にできるのはきっかけを与えるだけよ。
後はあなたの努力次第よ。」
・・・・・
訓練初日
・・・・・
あくる日の午後2時、キャロリーナは約束通りアビゲイルの部屋を訪問した。
キャロリーナ自体は試験休暇で時間は十分あったが、アビゲイルが母を優先してスケジュールを組んだからだ。
息を整えてドアをノックする。
「お入りなさい」
入室すると部屋の中ではアビゲイルではなくヘラが待っていた。
キャロリーナの緊張は極限まで高まる。
「楽にしなさい、私が居て驚いたでしょ? 」
ロングソファに座るよう勧めながらヘラが口を開いた。
キャロリーナがソファに座ると、ヘラはその隣に腰をおろした。
「さて、今日から1週間、毎日4時間程度の訓練を行うわ。あまり気張らずにね、そんなに難しいことはしないから。」
そう言ってヘラはキャロリーナの肩を抱くように手を廻した。
キャロリーナは盗み見するようにヘラの顔を見上げた、お姉ちゃんより綺麗だ。
そう思った次の瞬間凍り付いた。
ヘラの瞳の虹彩が琥珀色に輝き視線を外す事が出来ない。
体が金縛りにあったように動かなくなる。
突然、視界が切り替わった。
見た事もない色彩の異形の物体が浮遊し混沌が空間を支配している。
全てのものが繋がった一つの物体のようにも見えるが、それぞれが単体で存在しているようにも見える。
『エーテルは個にして全、全にして個』
何処からか声が聞こえて来た。
『その言葉が生まれて来たのは、今、あなたが見ている景色が元になっているの』
お姉ちゃんの声のようにも思えるが、ヘラと言う人の声にも思える。
『ここは何処?』
キャロリーナはその声に向かって尋ねた。
『私の部屋よ。あなたは今私の部屋を別の事象平面を切り取って見ているの。
目の前にあるのはソファであったりテーブルであったり私の顔であったりするのよ。』
意味不明な単語が飛び出し理解できないまでも、見れば目の前に何かが蠢いている。
『怖がらないで良く見てごらんなさい、目の前にあるのはあなたの日常なの。
事象の平面を切り替えるとこんなに違って見えてしまう。』
「『事象の平面』って?」
『MATSに入学できたら多分そこで習うと思うけど、簡単に言うと多次元世界の何処を切り出して見るかと言う事よ。
通常人間は物理フィールドの出来事を2次元に切り出して見ているの。
でも多次元世界にあるのは物理フィールドだけじゃない。
電磁フィールドもあれば、重力フィールドもあるの。
そして、今見ているのが、その大元になるエーテルフィールドよ。」
キャロリーナの理解力を遥かに超えるヘラの解説ではあったが、キャロリーナは嬉しかった。彼女には理解できないと言う事を分かった上で真剣に真実を教えてくれている。
『もっと、早く相談すればよかった。』
キャロリーナがそう考えた途端。
『そうね、もうちょっと早く相談してくれたらもっと楽だったわね。』
「えっ? 私何も言ってないわ。」
とキャロリーナ
『あなたと私はいまエーテルリンクで繋がっているの、考えることは全て共有されるのよ。』
『さぁ、今度は少しエーテルマスターらしい景色を見せてあげるわ。』
視界がまた切り替わった。
今度は応接セットのソファやテーブルが見える。
見えてはいるんだが、それがオーロラの帯のように遥か彼方まで伸びており何処を切り取っても応接セットなのである。
反対側に意識を向けると、やはり遥か彼方まで尾を引いている。
『今見ているのは、物理フィールドに時間軸を足した景色よ。
過去から未来に向かって途切れる事なく延びているわね。』
キャロリーナは何となくこの映像が何なのかが分かるような気がした。
『これが、タイムラインと言うものなのかしら?』
『正解! よく分かったわね。
優れたエーテル使いはここから過去を検証する事が出来るわ。
この世界で犯罪が少ないのはエーテルマスターが事件の過去の検証が出来るからなの。』
『未来も分かるの?』
『未来の予測は過去の検証よりちょっと複雑ね。
例えば、明日雨が降ると分かっていたらあなたは傘を持って外出するわね?
雨が降ると分からなかったら傘を持って出ないかもしれない。
未来を予測する事で未来を変えてしまうの。
これを『事象の不確定性』と呼んでいるわ。
これもMATSで教えてくれるはずだから、今日はこの景色を元に別のことを勉強しましょう。』
ヘラはエーテルマスターが好んで詠唱する言葉の意味をまずキャロリーナに教えようとしていた。
『エーテルは個にして全、全にして個、無であり無限、無限であり無。』
『個にして全、全にして個 は最初の映像で理解できたわね?
次は無と無限の関係よ。』
キャロリーナは理解できたとは思ってなかったが、確かにエーテルフィールドでは全てがつながっているように見えた。
『キャル、今見えている・・・ そうね、応接テーブルにしようかしら。
この応接テーブルの今と1秒後の中間の映像を想像してみて頂戴。』
『えっと。よく分かりません。』
キャロリーナは素直に降参した。
『今と1秒後の中間にある0.5秒後のテーブルの姿を想像して見るの。
今見ているタイムラインからテーブルの映像だけを頭の中で切り出すのよ。』
『できました。』
『そうしたら、今と切り出した0.5秒後の中間のテーブルを切り出して頂戴。』
『0.25秒後ということですね。 ・・・ できました。』
『そしたら、それをどんどん繰り返して行って頂戴、もうこれ以上中間を取り出せないと言う所まで。』
キャロリーナは言われた通り想像で切り出したテーブルの映像と今の映像の間の映像をさらに切り出していった。
やがて、
『先生、何処まで言っても終わりません。』
『私のことは、お姉ちゃんかアビーと呼んで頂戴。
でも、これで分かったと思うけど、私たちが無または0と呼んでいる何かには行き着く事ができないの。
人はそれを極値と言ってごまかしているけど、物理的に見ると無は無限の彼方にあって手に届くものではないの。』
『今度は未来に目を向けてみましょう。
今から1秒後の未来のテーブルの映像を想像し、その映像の2倍の2秒後の未来の映像を想像し、さらにその倍の未来の映像を想像し、どんどん遠い未来の映像を想像してみましょう。
これも、いつまで経っても終わらないことはすぐ分かるわね?』
『はい』
『さぁ、総仕上げよ。
今想像した遥か未来までの映像は何枚ぐらいになったかしら?
その映像の全てを、さっき想像した限りなく今に近い映像との間に挿入することはできるかしら?
時間という概念を無視して挿入してみて頂戴。
できる?』
キャロリーナは無限にある映像を今に最も近い映像の間に想像の中で挿入してみた。
全部入る。
『出来ました。想像した未来のテーブルの映像の全部が今からちょっと後の映像の間に入れる事が出来ました。』
キャロリーナが嬉しそうに答えた。
『がんばったね。よく出来たわ。
エーテルは無であり無限、無限であり無、と言う言葉の意味は今あなたが擬似体験したことを意味しているの。』
『エーテルは個にして全、全にして個、無であり無限、無限であり無。』
キャロリーナはこの詠唱はエーテルマスターが単にカッコづけで言っているだけと思っていたが、実はこんなに深い意味があったことに感動していた。
『今日はここまでにしましょうか。』
ヘラがそう言うと視界が通常のものに切り替わった。
ヘラがキャロリーナの肩を抱き抱え、キャロリーナはそれに身を委ねてヘラの肩に頭を乗せていた。
慌てて、居住まいを正すキャロリーナ。
「あら、残念。」
ヘラがキャロリーナが離れたことを残念そうに呟いた。
「あの、せん・・、お姉ちゃん、これが訓練になるの?」
キャロリーナは今日経験したことに感動していたことは事実であるが、所詮はヘラに見せてもらった映像でしかない。
自力であの世界が見れるようになるのだろうか?
「あなたに伝えたいことの半分は今日伝えたわ。
あとの半分を明日あなたにレクチャーしたら私の伝えたい事はもう無い。」
「それじゃ、明日で終わりって事?」
キャロリーナは心配そうに尋ねた。
「机上の理論に関しては終わりと言うことよ。
明日から私が帰るまでミッチリ訓練するわよ。」
・・・・・
訓練2日目
・・・・・
午前中は母とアビゲイルに付いて街を散策する。
母もアビゲイルも嫌がる様子もなくむしろキャロリーナの同行を歓迎しているようであった。
大富豪リンドバーグ家の人間は滅多にダウンタウンを散策する事はない。
アビゲイルだけでなく母のオリビアも頻繁にゴシップの主役となりこの町ではその顔を知らない者は少ない。
それだけに、気安くダウンタウンに足を運ぶ事が出来ないのである。
ここ数日は母との思い出を作るために、そう言った煩わしさを横に置いてショッピングや観劇を楽しんだ。
ショッピングモール内にある小さなカフェで3人がその日の買い物の品評会をしていた時である。
有名税とでも言おうか彼女たちを遠巻きに眺めている集団が何組かいる。
アビゲイルにとっては何時もの事なのでさして気にもならないが、キャロリーナは少し緊張しているようだ。
その集団の一つから一人の青年が意を決したように3人のテーブルに近づいて来た。
青年が3人のテーブルの前に立った時、なぜかキャロリーナが顔を背けて窓の外を眺めているような仕草をした。
青年が口を開く。
「あの! アビゲイル・リンドバーグ博士でらっしゃいますね?」
「そうだけど、あなたは?」
「俺・・ 私はアレキサンダー・サマセットと申します。
上級学校の6年です。
今年MATSの入学試験に合格し来年度からエーテルマスターを目指します。
ご迷惑でなければ、握手をして頂けないでしょうか? それと、このノートにサインをいただければ。・・・」
「このノートはMATSの専用ノートね、待ちきれなくて買っちゃったとか?」
アビゲイルは揶揄うようにサマセット青年に語りかけた。
「おっおっ、お恥ずかしいところを。」
「いいえ、その気持ちを枯れさせる事なく学校をがんばってね。」
そう言いながら、アビゲイルはノートの裏表紙にサインし、サマセット青年に手渡した。
そして、右手を差し出す。
「ありがとうございます。一生大事にします。」
そう言ってノートを小脇に抱え、差し出された手に自分の手を添えた。
その時、窓の外を見ていたキャロリーナが二人に振り返った。
サマセット青年とキャロリーナの目が合う。
「ご機嫌よう、先輩。」
キャロリーナがサマセット青年に挨拶する。
「キャ、キャロリーナ。 君だったのか?」
アビゲイルの手を離しながらキャロリーナに答える。
「あら、私もリンドバーグよ気がつかない方がおかしいんじゃなくて?」
少し機嫌を損ねたようにサマセット青年に話しかける。
『あら、あらあらあらあら』
これはオリビア。
「二人は知り合いだったの?」
アビゲイルが二人に聞いた。
「生徒会で一緒なの。」
キャロリーナが答える。
「そうなの? アレキサンダーだったらアレクね。
アレク、ここにお座りなさいな。」
アビゲイルは窓側に席をずらし、サマセット青年に座るよう誘う。
アレクは一瞬躊躇したが、大博士と席を共に出来るチャンスなど滅多にない、意を決して誘われた場所に腰を下ろした。
キャロリーナはアビゲイルを睨み付けている。
「アレク、あなたはなぜMATSを志願したの?」
アビゲイルはなるべくキャロリーナを刺激しないような質問をアレクにした。
「最初はただの憧れだったんです。
魔法使いのように空を飛び、エスパーのように物を操り、聖者のように怪我を癒す。
憧れとは自分には無理だと言う気持ちの裏返しです。
自分がその道に進むことなど考えてもいませんでした。
でも、ある時リンドバーグ先生の『無と無限の同一性とエーテルインデックスの役割』と言う論文を読んで自分が大きな誤解をしていたことに気が付いたんです。
エーテルマスターは空を飛んだり物を動かしたりする為に成るんじゃなく、万物の真理を読み解くために成るんだと気がついたんです。
エーテルの制御はできなくても万物の真理を追求することなら僕が挑戦しても良いんじゃないかっと思ったんです。」
アレクは目の前にエーテルマスターの最高峰が居るからだろうか、興奮気味に一気に自分の気持ちを吐露した。
「よく、そのことに気がついたわね。」
アビゲイルは最大限の賛辞を送った。
「エーテルコントロールは真理追求の副産物でしかないわ。
そのことに気が付いただけでもあなたはMATSに入学する資格があると思うわ。」
キャロリーナはアレクの話す事を静かに聞いていて、何か思う事が有ったのだろうか、アビゲイルを潤んだ瞳で見つめていた。
その後、取り止めもない話題で話は続いた。
アビゲイルはキャロリーナの気持ちを慮り、ともすればオリビアがその方向に導こうとするのを、巧妙にその方向に話が行かないよう話題を選んでいった。
『なぜ、キャロリーナがいきなりMATSに入学したいなどと言い出したのか、理由が分かったわ』
アビゲイルにとっては明明白白であった。
午後2時、アビゲイルとキャロリーナはアビゲイルの部屋に居た。
今日もヘラの姿で訓練するつもりだったが、午前中の出来事があったので急遽アビゲイルの姿で話をしてあげた方が良いだろうと考えたのだ。
「さあ、今日は後半の講義よ。」
アビゲイルが開始を宣言する。
「アビーお姉ちゃん、まだ、講義続けてくれるの?」
キャロリーナが思いつめたように問いかける。
「なぜ、そう思うの?」
「彼の動機に比べたら、私なんて全然覚悟が違うもの。
お姉ちゃん分かってるんでしょ?
私がなんでMATSに入学したいと言い出したのか。」
「そうね、分かってるわ。それじゃ、この訓練止める?」
キャロリーナはアビゲイルのこの返事を聞いて俯いてしまった。
微かに肩が揺れている。
「キャル」
アビゲイルは昨日ヘラがしたようにキャロリーナの肩を抱いて優しく話しかけた。
「アレクって立派な考えを持っている子ね。
あなたが好きになるのはよく分かるわ。」
やっぱりバレてたと思ったのかキャロリーナの肩が硬直する。
「とことんやりなさい。
彼は今、自分の可能性に夢中になっていて、あなたの気持ちには気が付いていないかもしれないわ。
でも、全然脈がないという訳でもないみたいよ。
エーテルマスターの私が太鼓判を押してあげる。
そのためにもMATSに入学しないとね。」
「ほんと?」
「私の言う事を疑うの?
私は大博士の称号を持つエーテルマスター、アビゲイル・リンドバーグよ。」
・・・・・
「それじゃ、良いわね? 始めるわよ。」
「うん」
キャロリーナの視界がエーテルフィールドのそれに切り替わった。
『今日、アレクが私の論文を読んだって言った事覚えてる?』
『うん、《無と無限の同一性とエーテルインデックスの役割》と言う題名だったと思う。』
『無と無限の同一性については昨日、身を持って分かったと思うけど、どう?』
『うん、よく分かった。タイムラインだけでなく、物理フィールドや電磁フィールドも同じなんだね。』
『それじゃ、今日は今見ているエーテルフィールドのテーブルやソファをはっきりと区別できるようにしましょう。』
アビゲイルは少し間をおいて続けた、
『昨日、「事象の平面」について簡単に説明したけど、覚えてる?』
『うん、私たちのような普通の人は物理フィールドの二次元平面を見ているって言うことね。学校の科学の人体の所で習ったよ。』
『それなら話は早いわ、エーテル使いとして訓練を重ねると「第3の目」が開くの。
生理学的に言うと、視覚回路に松果体が加えられ、この松果体が網膜の情報を各フィールドの情報に変換できるようになるのよ。
良く、三つ目の神様の絵や銅像があるのは、この第3の目を表現している物だと言う説もあるわ。実際におでこに目ができる訳では無いんだけどね。』
『この、「第3の目」はもう一つのとってもすごい機能があるの。
普通の人は二つの目から「事象の平面」で2つの映像を切り出して脳内で3次元の景色として処理しているのだけど、これに第3の目が加わったらどうなると思う?』
アビゲイルはキャロリーナの答えを待つ事なく説明を続けた。
『見ている映像に別のフィールドの映像をもう一枚加えて脳内で処理できるようになるのよ。
どのフィールドの映像にするかはその人の意思で切り替える事ができるの。
例えば、今見ているエーテルフィールドに物理フィールドの映像を一枚付け足して見ると、こんな風に景色が変わるわ。』
アビゲイルがそう言うと、視界が切り替わった。
混沌としていたエーテルフィールドの映像に物理フィールドの映像が重ね合わされる。
すると、どれがテーブルでどれがソファーなのかはっきりと区別できるようになった。
『あっ、アビーお姉ちゃんの部屋が見えるようになったわ。』
キャロリーナは混沌とした映像がはっきりとアビゲイルの部屋である事が分かり、その事を姉に伝えた。
『これで、準備完了よ。
「エーテルは個にして全、全にして個、無であり無限、無限であり無。
現世はすべからくエーテルの存在形態。人は自我を持つエーテルの一形態なり。」
このエーテルマスターの基本詠唱の後半の意味を今から説明していくわ。』
『「現世はすべからくエーテルの存在形態」の所はエーテルフィールドを見ていると一目瞭然よね、分かる?』
『えぇ。個にして全、全にして個の別表現みたい。』
『えらいわ、その通りよ。なら、人もその一部であることはわかるわね?』
『はい、でもわざわざ「自我を持つエーテルの一形態」と言っている意味が良く分かりません。』
キャロリーナは大分慣れてきたのか自分が疑問に思った事をハッキリとイメージするようになってきた。
『いい質問だわ。今から視界を普通の物理フィールドに戻すわよ。』
視界が元に戻った。
「それじゃキャル、テーブルの上に置いている彫像を右から左へ動かして頂戴。」
テーブルの上にヘラの立ち姿を模した高さ10cmほどの彫像が置かれていた。
キャロリーナはアビゲイルの意図が分からないまま彫像を掴んで左の方に置き直した。
「この彫像、アビーお姉ちゃんだね。 どうしたの?」
「母さんが作らせたそうよ。今の私の姿を忘れないようにだって。」
「お姉ちゃん、本当に戻っちゃうの?」
「そうね、今はあっちの世界の人間だからね。」
「でも今回みたいに帰ってくる事ができるんなら、また来れるよね?」
「あまり、誘惑しないで頂戴。わたしはこの世界と決別する覚悟で『賢者の秘法』を発動したんだから。
もう、この世界の人間じゃない、あまり干渉しては良くないと思うのよ。」
「さぁ、この話はこれでお終い。 今は勉強の時間よ。」
「あなた今、その彫像を右から左に動かすときに、何か意識を集中しないといけないような事はあった?」
「えっ? 像を動かしただけなんで、そんなたいそうな事は。」
「そーだよねー。でも、なんで何の意識もしないで彫像を動かす事が出来たの?」
「それは、手で掴んで動かしたから。」
「それじゃ、あなたの手はなんで意識せず動かせるの?」
「それは・・・えーっと、そう言う風に出来てるから?」
「正解! 人は物理フィールドでは自分の手足を制御する方法を最初から知って生まれてくるの。もちろん、赤ちゃんの時から徐々に上手くなるんだけどね。」
キャロリーナは姉が何を伝えたいのか、イマイチ、理解出来ないまま次の説明を待った。
「もう一度エーテルフィールドに視界を切り替えるわよ。」
予備動作もなく、視界がエーテルフィールドに切り替わった。
『良く見ていなさい、私が彫像を左から右に移動させるわ。特に私の手に注意して見ていてね。』
そう言ってアビゲイルはヘラの彫像を左から右に動かした。
キャロリーナは言われた通りアビゲイルの腕に注意を向けていたのだが、アビゲイルの腕は動いている様子がない。
その代わりアビゲイルと彫像が何か一つの物のように見えた。
『あなたは、エーテルフィールドを初めて見た時、一つ一つが独立しているようにも見えるし全部が繋がっているようにも見えると言っていたわね。
今、私の体と彫像が一体化しているように見えなかった?』
『はい、そんな風に見えました。』
『さっき、あなたは手を使って彫像を動かしたわね。
今、私は自分の体の一部としてあの彫像を動かしたの。
この意味がわかるかしら?』
『えっと、ひょっとして、エーテルフィールドでは個が全だから、どんな物も自分の体の一部とも言えるとか?』
『ご名答! 大した洞察力だわ。
そうなの、人は自我をもつエーテルの存在形態であり、エーテルの一部なの。
だから意識を向けた先は自分の一部だとも言えるのよ。
そして、ここからが大切な所なんだけど、人は自分の一部と認識したエーテルの部位をすべて意思通り制御できるの。
これをエーテルコントロールと呼んでいるわ。
そして、エーテルコントロールが真実であると確信できる事をエーテルビリーブと言うの。」
キャロリーナはこの世界を統べるエーテルマスターの到達点をたった2日でレクチャーされたことになる。
二人の視界は通常の物理フィールドに戻っていた。
「さぁ、これでエーテルマスターとはどう言う物なのか一気にあなたに教える事が出来たと思うわ。
何か、分からないことはある?」
「エーテルって、まるで人のために作られているみたい。」
質問ではないが、キャロリーナが意味深い事を口にした。
「そう見える? それは真実かもしれないわよ。
エーテルに限らずこの世界は全て人の意識が作り上げているのかもしれない。
でも今のところそれを検証できた人はいないわね。
ひょっとしたらアレクが将来その謎を明らかにするかもしれないわね。」
アビゲイルがアレキサンダー・サマセット青年の名を出すと、途端にキャロリーナの顔に赤みがさす。
「やめてよ、アビーお姉ちゃん。
それでなくても、自分の下心が恥ずかしくて仕方がないんだから。」
「下心、上等!
どんどん下心で動きなさい。
私だって、下心満杯で大賢者追っかけ回していたんだから。」
「え? アビーお姉ちゃん、大賢者様の事が好きだったの?
あんなお爺ちゃんが?」
『おっと、藪蛇。』
「私はね、キャル。
大賢者様がいなかったら、7歳かそこらで多分発狂するか死ぬかしていたわ。
私が持って生まれた能力は、昨日からあなたに見せているエーテルフィールドをそのまま見る事ができる力だったの。
見る物全てがあんなものだったわ、それでも生まれた時からそうだったから、世界はああ言う物だと思い込んでいたわ。
7歳になって初めて家族以外の人たちに出会って分かったの、私がこの世界では異端だと言う事を。
孤独感、恥辱、悲哀、嫌悪、悪意、あらゆる負の感情が私の中で芽生え始めていた。
それまでは母がなんとか私を現実に繋ぎ止めていてくれた。
でも初級学校で多くの普通の子供たちに出会って、とうとう、限界が来てしまった。
母以外の誰の言葉も悪意に満ち私を貶める物だと感じていたわ。
そんな時、大賢者様が私を慟哭の世界から連れ戻してくれたの。
私が見ている世界を、物理フィールドのそれに切り替える手段を教えてくれた。
世界が一変したわ。
だから、フリートウッド・マーリン・キルケゴールは私の中で特別な存在となった。
歳なんか関係ないわ、あの人こそ私と魂を分かち合う存在だと思うようになったの。」
「だから、お母さんが止めても、大賢者様について行ったのね?」
「そうよ、あなたがMATSに入学したいと思う気持ちと同じなのよ。」
キャロリーナは紅潮した顔に潤んだ瞳をたたえてアビゲイルの話を聞いていた。
「私、頑張る! 絶対にMATSに受かってアレクの所に行くわ。」
素直に自分の心を吐露したキャロリーナではあったが、その後に不安そうに俯き、
「でも、私、自分の力でエーテルフィールドを見ていた訳じゃない。
全部お姉ちゃんの力でしょ? 本当にMATSに合格できるようになれるのかな。」
「大丈夫よ、いまやっている訓練は『松果体誘導法』と言って特別な訓練方法なの。
エーテルマスターの上級者が生徒にエーテルリンクを貼って生徒の視覚経路に干渉し続けると、その生徒の松果体が活性化して『第3の目』の回路が生成されるの。
個人差があるのでいつ開眼するかは分からないけど、あなたの『第3の目』が開くまで、この世界に止まってあげてもいいわ。』
「えっ? でも大賢者様のところへ早く帰りたいんじゃないの?」
「時空転移を成し遂げた人間にとって時間は無意味よ。
キリがないのでけじめとして帰る時期を決めていたけど。
他ならぬ貴方のためだもの、少しぐらい帰るのが遅れても大丈夫よ。」
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