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ギリシャ神話 サタン一族編
旅の続き
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ベネチアに到着して三日目ペルセウスとヘシオドスは二日後にボルドーに旅立つ予定を立てた。
ボルドーまではまだ旅程の半分以上を残しており、アルプスの山越えも控えている、冬が来るまでには山越えを終えていたかった。
アンドロメダ一行とは今晩お別れの晩餐会を開きたいとの連絡があり快く承諾した。
晩餐会は午後7時から始まるのだが、ペルセウス達には5時ごろジタン商会本店まで来て欲しいとアンドロメダから連絡がありペルセウスとヘシオドスの二人は言われた通り5時にジタン商会に到着した。
店内に入ると正面に受付カウンターがあり、周囲は絨毯で敷き詰められていた。
商店と言うからには商品が棚などに飾られているのかと想像していたが、そう言ったものは一切なく、所々に来客に応対する応接セットだけが置かれている。
応接セットは豪華で背の低いテーブルとそれを挟むように柔らかいクッションで出来た椅子が置かれていた。
ペルセウス一行はカウンターに向かった。
「私たちはヘシオドスとペルセウス、今日5時にここに来るように言われたのだが。」
カウンターに立った男に声をかけた。
「ペルセウス様とヘシオドス様ですね。お待ちしておりました。」
「ピーター、アンドロメダ様にご両名が到着した事をお伝えしてください。」
「クリス、ご両名を第1応接室へご案内してください。」
男はテキパキと側に控えていた従業員に指示を出した。
「ペルセウス様、ヘシオドス様、こちらのクリスがご案内します。」
「どうぞこちらへ。」
クリスが促した。
二人は一階の第一応接室という所に案内された。
応接室に入るとアンドロメダ、マスカラム、ガネットが既に部屋で待っていた。
従業員のピーターが「失礼します」と言って退出する。
「お二人ともようこそ、出発準備の邪魔にならなかった?」
アンドロメダが二人に挨拶する。
「出発は明後日だから問題ないよ。」
ヘシオドスが答える。
部屋にはアンドロメダ達の他に、壮年の小柄な男とその部下らしい女性二人がいた。
「実はあなた達に服をプレゼントしようと思って、少し早めに来てもらったのよ。」
「こちらの方はテーラーのニーノ・カボットさん。大体のサイズは用意したんだけど手直しが必要かもしれないからお呼びしたの。」
ペルセウスは男性用のキトンをまとい腰にベルトを締め、ヘラから譲り受けたアキレスの防具を身につけている。
晩餐会に戦闘服姿では、やはりしっくりこないし、参加者によっては失礼を感じる人も出てくるだろう。
そう思い、アンドロメダは晩餐会が始まる前にペルセウスに着替えてもらいたいと考えていた。
ヘシオドスは見方によってはこのままでも問題ないようだがやはり新調してやりたい。
ヘシオドスはアンドロメダにとって、なんと言うか、憎めないお爺ちゃんと言った感があるのだ。
衣服を新調してくれると言っても、ペルセウスもヘシオドスもその辺りには無頓着で暑さ、寒さを凌げればそれで良いと言った程度の興味しか持ち合わせていない。
応接室はペルセウス、ヘシオドス対アンドロメダ、マスカラム、ガネットの戦場と化した。
ああでもない、こうでもない、と各自が自分の趣味を押し付けるものだから、一時間経ってもどれが良いか決まらない。
ペルセウスは正直うんざりして来ていた。
そんな折、ふと、ニーノ・カボットが持ってきた衣装釣りの片隅に鎖帷子がいくつか吊ってあるのに目が止まった。
「ニーノさん、この鎖帷子はどんな時に着るものなんです?」
ペルセウスはニーノに尋ねた。
「これはコットと言う簡易的な防具でして、例えば王族や高官が公の場に出る時に、アサシンなどの襲撃に備えてキトンやチェニックの下に着るものなんです。」
自分もそうだが、むしろヘシオドスに打って付けの防具ではないか、ペルセウスは即断した。
「俺は、このコットをまず下に装着したい。それにキトンを合わせられないか?」
ペルセウスはそう宣言した。
「ですが、それは重いですよ? 王族の方は立っているだけですからそれを着込んでも良いですが、日常動き回るには重すぎると思いますよ。」
「俺もヘシオドスも旅の行商人、少々重くても平気さ。これを俺とヘシオドスに見繕ってくれないか?」
ヘシオドスは自分の名前が出たので最初は驚いたが、荷馬車を軽くするのと同じ方法で軽くすればいいんだと思いたちペルセウスに賛同した。
「儂だって、若いもんには負けん、それに馬車の上で手綱を持ってるだけだしな。」
そういってペルセウスを後押しした。
「それでしたら、これなんかどうでしょう?」
ニーノはVネックのTシャツのようなコットを取り出してペルセウスの肩にあてがった。
「ちょっと着てみる。」
ペルセウスはキトンを脱ぎニーノの差し出したコットを被るように着た。
上半身だけとは言え、彼の裸体を見た女性陣の反応はと言うと。・・・ まぁ、ここでは関係ないので話を進めるとしよう。
「なんだか、チクチクするな。鎖の輪の接続部にバリが残っている。」
ペルセウスが不満を口にする。
「はい、そのコットに合わせて普通は木綿製の下着を着ます。それがこちらです、各コットに合わせて裁断されています。」
ニーノはペルセウスに専用の下着を渡した。
ペルセウスはもう一度着直す。
「うん、これならいい。 これにする。 ヘシオドスにも見繕ってやってくれ。」
両人のコットが決まったら、それに合わせてキトンを選ぶのが大分捗った。
ベースがあると、次を決め安いものである。
ペルセウスのキトンは今時の流行りらしく細身の裁断がされていた。
一方ヘシオドスのキトンはゆったりとした裁断で胸元を交差して帯で止めるようになっていた。
キトンの下のコットが合わせた胸元から覗き、女性陣に大変人気だった。
ペルセウスはキトンの上から着るチェニックも新調してもらった。
チェニックと言うよりもマントに近く、右から体を包むように巻きつけ左肩で止める。
留め具は翡翠である。
時刻はすでに6時半を過ぎていた。
そろそろ晩餐会の用意をしなければならない。
アンドロメダ達は二人をそこに残し、退室していった。
第一応接室で待つこと30分従業員のビーターが迎えに来た。
ピーターについて最上階の迎賓室と書かれた部屋の前に立つ。
ビーターがドアをノックし、
「ヘシオドス様とペルセウス様をお連れしました。」
と要件を伝えた。
ドアノブがカチャと乾いた音を立て中からドアを開けられる。
会長秘書のバネッサ・テスタロッサがドアノブを握ったまま「どうぞ、お入りください」と声をかけた。
二人は迎賓室へ入った。
部屋の中はさほど広くはなかったが置かれている調度品などは応接室のそれとは比較にならない豪華なものばかりであった。
部屋の中央には会食用のテーブルが、テーブルの上には等間隔に燭台が、燭台の間隙には左右対称に高価な陶器の皿とスプーン、フォークなどが置かれていた。
テーブルの左側にアンドロメダ、バルハヌ、ムルカン、アディスが立っていた。
テーブルの右側には空席が二つに続いて、会った事の無い男とローレンス・カサノバが立ち、テーブルの一番奥にはジタン商会会長と思われる人物がやはり立っていた。
会長秘書のバネッサが二人をテーブル右の上座まで導く。
二人は少し臆してしまったがここまで来たら逃げようが無い、観念して案内されるがままにバネッサの後に続いた。
二人がテーブルに向かう途中で、ジタン商会会長と思われる男と初見の男が素早くその道を塞ぎ、二人に挨拶してきた。
「ようこそ、おいで下さいました、私はジタン商会会長のノートン・スライマンと申します。そして、この男が当店の店長ウィリアム・ホーンです。どうかお見知りおきを」
「こちらにお座り下さい」
挨拶が終わった頃を見計らってバネッサが二人をいざなう。
ピーターがペルセウスの、クレアがヘシオドスの椅子を引いて待ち構えていた。
「どうぞお座り下さい。」
スライマンが二人に着席を促し、自分も席に座った。
それを合図に全員が着座する。
「お招きはありがたいのですが、我々は旅の行商人、このような席での会食などしたこともありません。、ましてや食事のマナーなど知る由もない田舎者です。失礼があったらどうかご容赦いただきたい。」
ペルセウスは初めに会長にそう言って伏線を張っておこうとした。
もっともペルセウスであるペルセウスはそうであってもキルケゴールであるペルセウスはこの程度の会食は何度も経験している、この伏線はヘシオドスの為だった。
「心配は無用ですじゃ、儂も元は一介の戦士、こんな席で食事をする柄ではござらん。
本来なら姫王女にこの席に座っていただくべきなのじゃが姫様がジタン商会ビル内ではトップは儂だと申しましてな。」
スライマンは続けた。
「なーに、堅苦しいのは最初だけじゃ、その後は無礼講で行かしてもらいますじゃ。」
宴もたけなわになった頃、ペルセウスはスライマンに聞いた。
「この場では、アンドロメダが王女である事を隠しもしないんですね。」
「この場にいる者たちは皆あの事件のあった時に命を賭して姫をお守りした連中なんじゃ。だから、裏切る者など只の一人もおらん。」
スライマンは得意げに話した。
「ペルセウス殿は姫様の力になると誓って下さったそうじゃのう。ケーペウス王に代わってお礼を申しますぞ。」
「これから、どう動くおつもりですか?」
ペルセウスは力を貸すとは言ったものの国同士の争いに介入する事になるのかと内心不安になってこの様な質問をした。
現タイムライン上にキルケゴールとアビゲイルが居る以上、少々タイムラインに介入しても別に気にしなかったが、さすがに、彼の本来の目的であるM理論がこの世界の遠い未来で誕生しなくなってしまえば、別の世界に転生せざるを得なくなる。
言い換えれば、この世界に義理立てる理由が無くなってしまう。
もちろん、ヘシオドスが天寿全うするまでは止まるつもりで居るが。
目的がM理論の研究、スライマンやアンドロメダが抱えている問題に比べたら『明日の宿題』程度の些細な事の様に感じるが、キルケゴールの中の優先順位はM理論なのである。
この点で言えば、彼はかなり理不尽で冷酷な考えを持っていた。
「アクスムについてはご存知じゃな、姫様の故郷じゃ。
この国は紅海を挟んで西と東に別れておるんじゃが東が大変な混乱状態に陥っておるんじゃ。
インキュバス知事が領有権を放棄した為アッシリアが軍隊を送ってきておる。
それも、東が無政府状態になってしまったが故なんじゃが、これは逆に言えば好機でもある。
東アクスムに正統政府を置けば臣民は必ずついてきてくれる。
故に、儂は東へ帰ろうと考えておる。」
それを横で聞いていたアンドロメダは驚いてスライマンに告げた。
「東アクスムに正統政府を作るですって?
危険だわ、あの地域は北にムスリム、東にサラセン、南にイエメンがある。
昔と違いムスリムもサラセンと同じ様に敵意をむき出しにしている現状では敵に囲まれているにも同じよ。」
アンドロメダは東が如何に危険かをスライマンに告げる。
「それに紅海を挟んで西の本国にはインキュバスが恐怖政治を敷いている。」
アンドロメダは四面楚歌だとスライマンに強く反対した。
「火中に栗を拾う、危険を避けていては成功は覚束ないと思います。
私は賛成です、ご同行させて頂いて宜しいでしょうか?」
バルハヌがスライマンに同意し同行したいと申し出る。
「バルハヌ!」
アンドロメダが驚いた様にバルハヌを責める。
「お嬢、このままではアクスムはサラセンに吸収されてしまう。
今のうちに手を打たないと、手遅れになります。
お嬢はここに残ってください。
いずれアクスムの元首として帰郷していただきたい。」
バルハヌの決意は硬そうであった。
「部下を危険に晒しておいて自分だけ安全な場所にいる元首を誰が認めてくれるんですか?
あなた達が行くと言うのなら私も当然付いて行きます。」
アンドロメダは元首としては正論を言っているが、自分が足手まといになると言う事には気が付いていない様である。
「「なりません」」
奇しくも、スライマンとバルハヌの声が一致した。
「お嬢、何のために、ここまでやってきたのですか?
スライマンと合流し、あなたが旗印となってこの地に同胞を集め、来たる日に備えるためではありませんか。
お嬢にはお嬢の、私には私の務めがあるのです。」
「あなたもスライマンも東へ行ってしまったら、後に残った私にどうやって同胞を集めろと言うのですか?」
アンドロメダが涙目で訴える。
「何を言うのです、あなたがここに居ると言うだけで、私たち二人がどんな手立てを講じるよりも効果的なのですぞ。」
スライマンが言う。
話は平行線をたどった。
「アンドロメダ王女を連れて行けば、東アクスムに戦力を集積させることもできるんじゃないか?」
ペルセウスは静かに割って入った。
バルハヌとスライマンはまさかと言う顔でペルセウスを見た。
アンドロメダはペルセウスが彼女の気持ちを汲んでくれたのが嬉しかったのか、破顔して彼を見た。
「お主は姫様の力になると言っておきながら、姫様を戦場にやると言うのか?」
スライマンは怒気を荒げてペルセウスに詰め寄った。
「確かに俺はアンドロメダに手を貸すと誓った。俺が誓ったのだから、アンドロメダが危機に陥ることはありえない。」
何と言う豪胆な一言だったか。
自分が守る以上、危険な目にあうことは決してないと豪語したのである。
以前のペルセウスであったら決して口にしなかっただろう、だが今は「神に最も近づいた人類」のギフトを得たペルセウスなのである。
彼が間違いを起こしたのは過去に1度だけ、彼の実験室の小さなステージを強化しなかった事だけである。
「お主のこれまでの活躍を見ていた俺としては、その言葉は決して大げさではないと思う。
しかし、お主は近々ボルドーへ旅立つのではなかったか? 我々と一緒に来てくれるのか?」
バルハヌはこれまでのペルセウスの活躍からスライマンほど怒気を荒げてはいなかった。
「いや、予定通りボルドーへ旅立つ。だが、アンドロメダの庇護も行う。」
ペルセウスは言い放った。
「そんな、都合のいいことを言いおって!」
スライマンはとうとう癇癪を爆発させた。
「では、見せてやろう。 アンドロメダ、例のペンダントは身につけているか?」
ペルセウスはアンドロメダに通信用ペンダントを身につけているか聞いた。
実を言うと、ペルセウスはアンドロメダにポータルIDをすでに刻印しておりペンダントなど必要ないのだが、辻褄を合わせるためペンダントを引き合いに出したのだ。
「はい、肌身離さず。」
とアンドロメダ。
「それなら、今から俺はこの部屋を出るので、その後、ペンダントで俺を呼んでくれ。」
アンドロメダは何をしようとしているのか合点がいったので即座に返事をした。
「えぇ、分かったわ」
ペルセウスが部屋を出てから、数秒。
「それでは、皆さん、いいですね。 ペルセウスを呼びます。」
アンドロメダはペンダントを握って芝居がかった様子でペルセウスを呼ぶ。
「ペルセウス来て!」
と、その瞬間アンドロメダの前に薄い霞が立ち上がり、それがやがてペルセウスに実体化した。
ヘシオドスとアンドロメダとその侍女達を除く全員が驚愕の声を上げる。
「なっ、なんと!!」
「分かってもらえたか? たとえ何百キロと離れていようとも、そのペンダントがあれば俺は瞬時にアンドロメダの所へ駆けつけることができる。」
「これは、女神ヘラ様のご加護か?」
ローレンスが畏まって聞いた。
「そうよ、私はヘラ様が目の前でこのペンダントに魔法をかけるのを見たわ。」
アンドロメダが自慢げに言う。
ローレンスの後ろでバネッサが彼の左腕を強く掴む。
彼女は目を大きく見開き先日ローレンスの邸宅のリビングで話したことを思い出していた。
『魔法は存在する。神の力、超能力、異能、なんと呼ぶかはどうでも良いが間違いなくそう言う力は存在する。』
ウィリアム・ホーンは事の重大さに慄き、あの方に相談しなければと考えていた。
「ペルセウス殿、王妃のお持ちのペンダントと同じものをあなたもお持ちなのですか?」
ホーンは可能な限りペンダントに関する情報を得ておこうと考えた。
「そうだ、私も同じものを持っている。」
それぞれの顔が彫ってあると言うことは重要ではないので黙っていた。
「声を出して呼ばないと呼び出せないのでしょうか?」
ホーンはさらに質問する。
「いや、頭の中で考えるだけで呼び出せる」
「ただし、身につけていないと呼び出せない。」
ペルセウスはこの男、いやに深く質問してくる、と一瞬ではあるが訝しんだ。
「こう言うわけだから、アンドロメダの好きにさせてやってほしい。安全は俺が請け負う。」
目の前で、奇跡を見せつけられたら否応もない。
一同はアンドロメダを旗頭に東アクスムに正統政府を樹立する計画に変更した。
ボルドーまではまだ旅程の半分以上を残しており、アルプスの山越えも控えている、冬が来るまでには山越えを終えていたかった。
アンドロメダ一行とは今晩お別れの晩餐会を開きたいとの連絡があり快く承諾した。
晩餐会は午後7時から始まるのだが、ペルセウス達には5時ごろジタン商会本店まで来て欲しいとアンドロメダから連絡がありペルセウスとヘシオドスの二人は言われた通り5時にジタン商会に到着した。
店内に入ると正面に受付カウンターがあり、周囲は絨毯で敷き詰められていた。
商店と言うからには商品が棚などに飾られているのかと想像していたが、そう言ったものは一切なく、所々に来客に応対する応接セットだけが置かれている。
応接セットは豪華で背の低いテーブルとそれを挟むように柔らかいクッションで出来た椅子が置かれていた。
ペルセウス一行はカウンターに向かった。
「私たちはヘシオドスとペルセウス、今日5時にここに来るように言われたのだが。」
カウンターに立った男に声をかけた。
「ペルセウス様とヘシオドス様ですね。お待ちしておりました。」
「ピーター、アンドロメダ様にご両名が到着した事をお伝えしてください。」
「クリス、ご両名を第1応接室へご案内してください。」
男はテキパキと側に控えていた従業員に指示を出した。
「ペルセウス様、ヘシオドス様、こちらのクリスがご案内します。」
「どうぞこちらへ。」
クリスが促した。
二人は一階の第一応接室という所に案内された。
応接室に入るとアンドロメダ、マスカラム、ガネットが既に部屋で待っていた。
従業員のピーターが「失礼します」と言って退出する。
「お二人ともようこそ、出発準備の邪魔にならなかった?」
アンドロメダが二人に挨拶する。
「出発は明後日だから問題ないよ。」
ヘシオドスが答える。
部屋にはアンドロメダ達の他に、壮年の小柄な男とその部下らしい女性二人がいた。
「実はあなた達に服をプレゼントしようと思って、少し早めに来てもらったのよ。」
「こちらの方はテーラーのニーノ・カボットさん。大体のサイズは用意したんだけど手直しが必要かもしれないからお呼びしたの。」
ペルセウスは男性用のキトンをまとい腰にベルトを締め、ヘラから譲り受けたアキレスの防具を身につけている。
晩餐会に戦闘服姿では、やはりしっくりこないし、参加者によっては失礼を感じる人も出てくるだろう。
そう思い、アンドロメダは晩餐会が始まる前にペルセウスに着替えてもらいたいと考えていた。
ヘシオドスは見方によってはこのままでも問題ないようだがやはり新調してやりたい。
ヘシオドスはアンドロメダにとって、なんと言うか、憎めないお爺ちゃんと言った感があるのだ。
衣服を新調してくれると言っても、ペルセウスもヘシオドスもその辺りには無頓着で暑さ、寒さを凌げればそれで良いと言った程度の興味しか持ち合わせていない。
応接室はペルセウス、ヘシオドス対アンドロメダ、マスカラム、ガネットの戦場と化した。
ああでもない、こうでもない、と各自が自分の趣味を押し付けるものだから、一時間経ってもどれが良いか決まらない。
ペルセウスは正直うんざりして来ていた。
そんな折、ふと、ニーノ・カボットが持ってきた衣装釣りの片隅に鎖帷子がいくつか吊ってあるのに目が止まった。
「ニーノさん、この鎖帷子はどんな時に着るものなんです?」
ペルセウスはニーノに尋ねた。
「これはコットと言う簡易的な防具でして、例えば王族や高官が公の場に出る時に、アサシンなどの襲撃に備えてキトンやチェニックの下に着るものなんです。」
自分もそうだが、むしろヘシオドスに打って付けの防具ではないか、ペルセウスは即断した。
「俺は、このコットをまず下に装着したい。それにキトンを合わせられないか?」
ペルセウスはそう宣言した。
「ですが、それは重いですよ? 王族の方は立っているだけですからそれを着込んでも良いですが、日常動き回るには重すぎると思いますよ。」
「俺もヘシオドスも旅の行商人、少々重くても平気さ。これを俺とヘシオドスに見繕ってくれないか?」
ヘシオドスは自分の名前が出たので最初は驚いたが、荷馬車を軽くするのと同じ方法で軽くすればいいんだと思いたちペルセウスに賛同した。
「儂だって、若いもんには負けん、それに馬車の上で手綱を持ってるだけだしな。」
そういってペルセウスを後押しした。
「それでしたら、これなんかどうでしょう?」
ニーノはVネックのTシャツのようなコットを取り出してペルセウスの肩にあてがった。
「ちょっと着てみる。」
ペルセウスはキトンを脱ぎニーノの差し出したコットを被るように着た。
上半身だけとは言え、彼の裸体を見た女性陣の反応はと言うと。・・・ まぁ、ここでは関係ないので話を進めるとしよう。
「なんだか、チクチクするな。鎖の輪の接続部にバリが残っている。」
ペルセウスが不満を口にする。
「はい、そのコットに合わせて普通は木綿製の下着を着ます。それがこちらです、各コットに合わせて裁断されています。」
ニーノはペルセウスに専用の下着を渡した。
ペルセウスはもう一度着直す。
「うん、これならいい。 これにする。 ヘシオドスにも見繕ってやってくれ。」
両人のコットが決まったら、それに合わせてキトンを選ぶのが大分捗った。
ベースがあると、次を決め安いものである。
ペルセウスのキトンは今時の流行りらしく細身の裁断がされていた。
一方ヘシオドスのキトンはゆったりとした裁断で胸元を交差して帯で止めるようになっていた。
キトンの下のコットが合わせた胸元から覗き、女性陣に大変人気だった。
ペルセウスはキトンの上から着るチェニックも新調してもらった。
チェニックと言うよりもマントに近く、右から体を包むように巻きつけ左肩で止める。
留め具は翡翠である。
時刻はすでに6時半を過ぎていた。
そろそろ晩餐会の用意をしなければならない。
アンドロメダ達は二人をそこに残し、退室していった。
第一応接室で待つこと30分従業員のビーターが迎えに来た。
ピーターについて最上階の迎賓室と書かれた部屋の前に立つ。
ビーターがドアをノックし、
「ヘシオドス様とペルセウス様をお連れしました。」
と要件を伝えた。
ドアノブがカチャと乾いた音を立て中からドアを開けられる。
会長秘書のバネッサ・テスタロッサがドアノブを握ったまま「どうぞ、お入りください」と声をかけた。
二人は迎賓室へ入った。
部屋の中はさほど広くはなかったが置かれている調度品などは応接室のそれとは比較にならない豪華なものばかりであった。
部屋の中央には会食用のテーブルが、テーブルの上には等間隔に燭台が、燭台の間隙には左右対称に高価な陶器の皿とスプーン、フォークなどが置かれていた。
テーブルの左側にアンドロメダ、バルハヌ、ムルカン、アディスが立っていた。
テーブルの右側には空席が二つに続いて、会った事の無い男とローレンス・カサノバが立ち、テーブルの一番奥にはジタン商会会長と思われる人物がやはり立っていた。
会長秘書のバネッサが二人をテーブル右の上座まで導く。
二人は少し臆してしまったがここまで来たら逃げようが無い、観念して案内されるがままにバネッサの後に続いた。
二人がテーブルに向かう途中で、ジタン商会会長と思われる男と初見の男が素早くその道を塞ぎ、二人に挨拶してきた。
「ようこそ、おいで下さいました、私はジタン商会会長のノートン・スライマンと申します。そして、この男が当店の店長ウィリアム・ホーンです。どうかお見知りおきを」
「こちらにお座り下さい」
挨拶が終わった頃を見計らってバネッサが二人をいざなう。
ピーターがペルセウスの、クレアがヘシオドスの椅子を引いて待ち構えていた。
「どうぞお座り下さい。」
スライマンが二人に着席を促し、自分も席に座った。
それを合図に全員が着座する。
「お招きはありがたいのですが、我々は旅の行商人、このような席での会食などしたこともありません。、ましてや食事のマナーなど知る由もない田舎者です。失礼があったらどうかご容赦いただきたい。」
ペルセウスは初めに会長にそう言って伏線を張っておこうとした。
もっともペルセウスであるペルセウスはそうであってもキルケゴールであるペルセウスはこの程度の会食は何度も経験している、この伏線はヘシオドスの為だった。
「心配は無用ですじゃ、儂も元は一介の戦士、こんな席で食事をする柄ではござらん。
本来なら姫王女にこの席に座っていただくべきなのじゃが姫様がジタン商会ビル内ではトップは儂だと申しましてな。」
スライマンは続けた。
「なーに、堅苦しいのは最初だけじゃ、その後は無礼講で行かしてもらいますじゃ。」
宴もたけなわになった頃、ペルセウスはスライマンに聞いた。
「この場では、アンドロメダが王女である事を隠しもしないんですね。」
「この場にいる者たちは皆あの事件のあった時に命を賭して姫をお守りした連中なんじゃ。だから、裏切る者など只の一人もおらん。」
スライマンは得意げに話した。
「ペルセウス殿は姫様の力になると誓って下さったそうじゃのう。ケーペウス王に代わってお礼を申しますぞ。」
「これから、どう動くおつもりですか?」
ペルセウスは力を貸すとは言ったものの国同士の争いに介入する事になるのかと内心不安になってこの様な質問をした。
現タイムライン上にキルケゴールとアビゲイルが居る以上、少々タイムラインに介入しても別に気にしなかったが、さすがに、彼の本来の目的であるM理論がこの世界の遠い未来で誕生しなくなってしまえば、別の世界に転生せざるを得なくなる。
言い換えれば、この世界に義理立てる理由が無くなってしまう。
もちろん、ヘシオドスが天寿全うするまでは止まるつもりで居るが。
目的がM理論の研究、スライマンやアンドロメダが抱えている問題に比べたら『明日の宿題』程度の些細な事の様に感じるが、キルケゴールの中の優先順位はM理論なのである。
この点で言えば、彼はかなり理不尽で冷酷な考えを持っていた。
「アクスムについてはご存知じゃな、姫様の故郷じゃ。
この国は紅海を挟んで西と東に別れておるんじゃが東が大変な混乱状態に陥っておるんじゃ。
インキュバス知事が領有権を放棄した為アッシリアが軍隊を送ってきておる。
それも、東が無政府状態になってしまったが故なんじゃが、これは逆に言えば好機でもある。
東アクスムに正統政府を置けば臣民は必ずついてきてくれる。
故に、儂は東へ帰ろうと考えておる。」
それを横で聞いていたアンドロメダは驚いてスライマンに告げた。
「東アクスムに正統政府を作るですって?
危険だわ、あの地域は北にムスリム、東にサラセン、南にイエメンがある。
昔と違いムスリムもサラセンと同じ様に敵意をむき出しにしている現状では敵に囲まれているにも同じよ。」
アンドロメダは東が如何に危険かをスライマンに告げる。
「それに紅海を挟んで西の本国にはインキュバスが恐怖政治を敷いている。」
アンドロメダは四面楚歌だとスライマンに強く反対した。
「火中に栗を拾う、危険を避けていては成功は覚束ないと思います。
私は賛成です、ご同行させて頂いて宜しいでしょうか?」
バルハヌがスライマンに同意し同行したいと申し出る。
「バルハヌ!」
アンドロメダが驚いた様にバルハヌを責める。
「お嬢、このままではアクスムはサラセンに吸収されてしまう。
今のうちに手を打たないと、手遅れになります。
お嬢はここに残ってください。
いずれアクスムの元首として帰郷していただきたい。」
バルハヌの決意は硬そうであった。
「部下を危険に晒しておいて自分だけ安全な場所にいる元首を誰が認めてくれるんですか?
あなた達が行くと言うのなら私も当然付いて行きます。」
アンドロメダは元首としては正論を言っているが、自分が足手まといになると言う事には気が付いていない様である。
「「なりません」」
奇しくも、スライマンとバルハヌの声が一致した。
「お嬢、何のために、ここまでやってきたのですか?
スライマンと合流し、あなたが旗印となってこの地に同胞を集め、来たる日に備えるためではありませんか。
お嬢にはお嬢の、私には私の務めがあるのです。」
「あなたもスライマンも東へ行ってしまったら、後に残った私にどうやって同胞を集めろと言うのですか?」
アンドロメダが涙目で訴える。
「何を言うのです、あなたがここに居ると言うだけで、私たち二人がどんな手立てを講じるよりも効果的なのですぞ。」
スライマンが言う。
話は平行線をたどった。
「アンドロメダ王女を連れて行けば、東アクスムに戦力を集積させることもできるんじゃないか?」
ペルセウスは静かに割って入った。
バルハヌとスライマンはまさかと言う顔でペルセウスを見た。
アンドロメダはペルセウスが彼女の気持ちを汲んでくれたのが嬉しかったのか、破顔して彼を見た。
「お主は姫様の力になると言っておきながら、姫様を戦場にやると言うのか?」
スライマンは怒気を荒げてペルセウスに詰め寄った。
「確かに俺はアンドロメダに手を貸すと誓った。俺が誓ったのだから、アンドロメダが危機に陥ることはありえない。」
何と言う豪胆な一言だったか。
自分が守る以上、危険な目にあうことは決してないと豪語したのである。
以前のペルセウスであったら決して口にしなかっただろう、だが今は「神に最も近づいた人類」のギフトを得たペルセウスなのである。
彼が間違いを起こしたのは過去に1度だけ、彼の実験室の小さなステージを強化しなかった事だけである。
「お主のこれまでの活躍を見ていた俺としては、その言葉は決して大げさではないと思う。
しかし、お主は近々ボルドーへ旅立つのではなかったか? 我々と一緒に来てくれるのか?」
バルハヌはこれまでのペルセウスの活躍からスライマンほど怒気を荒げてはいなかった。
「いや、予定通りボルドーへ旅立つ。だが、アンドロメダの庇護も行う。」
ペルセウスは言い放った。
「そんな、都合のいいことを言いおって!」
スライマンはとうとう癇癪を爆発させた。
「では、見せてやろう。 アンドロメダ、例のペンダントは身につけているか?」
ペルセウスはアンドロメダに通信用ペンダントを身につけているか聞いた。
実を言うと、ペルセウスはアンドロメダにポータルIDをすでに刻印しておりペンダントなど必要ないのだが、辻褄を合わせるためペンダントを引き合いに出したのだ。
「はい、肌身離さず。」
とアンドロメダ。
「それなら、今から俺はこの部屋を出るので、その後、ペンダントで俺を呼んでくれ。」
アンドロメダは何をしようとしているのか合点がいったので即座に返事をした。
「えぇ、分かったわ」
ペルセウスが部屋を出てから、数秒。
「それでは、皆さん、いいですね。 ペルセウスを呼びます。」
アンドロメダはペンダントを握って芝居がかった様子でペルセウスを呼ぶ。
「ペルセウス来て!」
と、その瞬間アンドロメダの前に薄い霞が立ち上がり、それがやがてペルセウスに実体化した。
ヘシオドスとアンドロメダとその侍女達を除く全員が驚愕の声を上げる。
「なっ、なんと!!」
「分かってもらえたか? たとえ何百キロと離れていようとも、そのペンダントがあれば俺は瞬時にアンドロメダの所へ駆けつけることができる。」
「これは、女神ヘラ様のご加護か?」
ローレンスが畏まって聞いた。
「そうよ、私はヘラ様が目の前でこのペンダントに魔法をかけるのを見たわ。」
アンドロメダが自慢げに言う。
ローレンスの後ろでバネッサが彼の左腕を強く掴む。
彼女は目を大きく見開き先日ローレンスの邸宅のリビングで話したことを思い出していた。
『魔法は存在する。神の力、超能力、異能、なんと呼ぶかはどうでも良いが間違いなくそう言う力は存在する。』
ウィリアム・ホーンは事の重大さに慄き、あの方に相談しなければと考えていた。
「ペルセウス殿、王妃のお持ちのペンダントと同じものをあなたもお持ちなのですか?」
ホーンは可能な限りペンダントに関する情報を得ておこうと考えた。
「そうだ、私も同じものを持っている。」
それぞれの顔が彫ってあると言うことは重要ではないので黙っていた。
「声を出して呼ばないと呼び出せないのでしょうか?」
ホーンはさらに質問する。
「いや、頭の中で考えるだけで呼び出せる」
「ただし、身につけていないと呼び出せない。」
ペルセウスはこの男、いやに深く質問してくる、と一瞬ではあるが訝しんだ。
「こう言うわけだから、アンドロメダの好きにさせてやってほしい。安全は俺が請け負う。」
目の前で、奇跡を見せつけられたら否応もない。
一同はアンドロメダを旗頭に東アクスムに正統政府を樹立する計画に変更した。
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