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ギリシャ神話編
座礁
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豪華客船バラシオンはイタリア半島のサンマリノ沖に差し掛かっていた。
アンドロメダの船室ではマスカラムがアンドロメダの髪に櫛を通していた。
ガネットはベッドメイクに忙しく働いている。
「アンドロメダ様、最近ペルセウス殿の船室へいらっしゃる事が多いようですが、何をなさっているのですか?」
「実は私の顔を彫り込んだカメオのペンダントを作ってもらっているの。ペルセウスの芸術センスは半端じゃないわよ。あなた達も肖像画を描いてもらったらどうかしら?」
『肖像画はともかく、ペンダントをどうするのだろう? 自分の顔が彫られたペンダントを自分で持つかしら?』マスカラムの疑問は尤もである。
「そのペンダントをご自分の首に掛けるのですか?」
と思わず疑問を口にしてしまう。
「いいえ、私はペルセウスのペンダントを持つのよ。」
アンドロメダは特に気負った様子もなく答える。
「えっ、えー?」
マスカラムと側で聞いていたガネットが申し合わせたように同じ叫び声で驚く。
「あっ! ごっ、誤解しないで。これはヘラ様のご命令でお互いの連絡手段として用意する物なのよ。」
「ヘラ様? 夜会の次の夜に女神ヘラと会ったと言うのは本当なのですね?」
アンドロメダは何処まで喋っていいのかあの日の通信終了間際に聞いていた。
別に秘密にする必要はない、オリュンポスの出現がこの世界に知られてしまった以上、隠していても無意味だ。
そのように言われている。
「直接会った訳ではないの。ペルセウス達は不思議な肖像画を持っていて、その肖像画に向かって話しかけるとヘラ様の顔が現れるのよ。私とペルセウス、そしてヘシオドスの三人でヘラ様と話をしたわ。」
「女神ヘラが私たちの味方についてくれるのですか?」
ガネットが嬉しそうに聞き返す。
「そう言う訳じゃないわ、ヘラ様はあくまでもペルセウス達の加護神。私たちを手伝ってくれるのはペルセウスよ。」
「同じじゃないんですか?」
マスカラムには違いがよく分からず問いかける。
「同じじゃないわ、もしもよ、彼らを犠牲にしないと私たちが助からない状況になったとしたら、ヘラ様は間違いなく彼らを優先し私たちを見捨てるわ。」
「そんな! 神様なんだから両方とも助けてくれるんじゃ?」
「神と言えども限界はあるの。そう言えばペルセウスはゼウスは至高神で12神には含まれないと言っていたわ。おそらく至高神ゼウスならそれが可能かもしれないわね。」
その時、船室がグラッと揺れた。
「何?」
マスカラムが窓から外を覗くが辺りは暗闇が広がっていて何が起きたのかよく分からない。
「船長のところに行ってくるわ。」
アンドロメダは状況を確かめるために艦橋に向かった。
マスカラムとガネットの二人もアンドロメダを追って飛び出す。
ペルセウスも部屋を出て来た。
四人はほぼ同時にバラシオンの艦橋に到着した。
「船長一体何があったのです?」
アンドロメダはローレンスに問いかけた。
「船が暗礁に乗り上げてしまったようです。」
とローレンスは首を傾げながら答える。
「変なのです。ここはアドリア海のど真ん中、暗礁などあるはずがないのですが。」
「船長、島が見えます」
マストトップの監視員から伝声管を通じて報告が入る。
「島だと? こんな所に島などある筈がない。どうなっているんだ?」
ローレンスがありえない事態に困惑して独り言ちた。
「アンドロメダ様、暗くて状況がつかめません。明日、日が登ってから調査隊を組織して周辺を調査したいと思います。配下の者に警戒を強めさせますので、御心配なさらずに今夜はごゆっくりお休みください。」
ローレンスはペルセウスが傍にいると言うのに主従関係を隠そうともせずアンドロメダに進言した。
「よろしくお願いします。」
アンドロメダはここで騒いでも仕方がない事をよく理解しておりローレンスの言う通り船室に戻ることにした。
一方ペルセウスはローレンスに向かって。
「何か俺に手伝えることはないか? 警戒を強化するなら、手勢は多い方がいいだろう?」
「ペルセウス殿、あなたの船室はアンドロメダ様の向かいです。あなたが向かいの部屋にいるだけで安心できますのでどうか船室にお戻りください。」
そう言われてしまえば、ペルセウスには否応も無い、おとなしく船室に戻った。
あくる日、乗客の一部は甲板に出て突然現れた島を眺めていた。
アンドロメダの船室は島の反対側だったため、マスカラムとガネットを引き連れ甲板に出ていた。
「あれが例の島ね。周囲は殆どが断崖絶壁のようね、その内側に森林が形成されている。つまり最近、海底から隆起した火山島では無いと言うことね。海図に無いと言うことはあり得ないわ。」
アンドロメダは王家の出、高度な教育を受けているだけあって的確な分析であった。
しかし、その分析はこの島の謎を一層深めただけであったとも言える。
「島ごと何処かから移って来たような。不自然な島だわ。」
アンドロメダは侍女達に向かって言ったつもりであった。
「そうなのか? 俺には普通の島に見えるが。」
ペルセウスが背後から話しかける。
「ペルセウス」
振り返りながらアンドロメダが答える。
後ろに控えていたのはペルセウスだけでなく、ヘシオドス、バルハヌ、ムルカンとキマイラ事件のメンバーであった。
「暗礁に乗り上げたため、船底に穴が開いたそうです。この船は船底を分割して一部に穴が開いても浮いていられる構造ですので、とりあえず問題はありませんが、穴の修理を行うために少なくとも二日はここに足止めされるそうです。」
バルハヌがローレンスに状況を聞いた内容を伝えた。
「その間に上陸班を編成してあの島を調査するそうです。私も参加するつもりです。」
とバルハヌ。
「俺も参加してもいいだろうか?」ペルセウスはバルハヌに聞いてみた。
「そうだな、見たところただの無人島のようだが海図に乗っていないと言うのが不気味なところだ。あんたが一緒に来てくれたら心強いよ。」
そんな会話をしていた時に、調査隊が島の周りを一周して帰って来た。
調査隊にはキマイラ事件の残りの一人アディスが参加していた。
調査用のカッター船をバラシオンに横付けし甲板に上がってくる。
「団長、島の反対側に上陸可能な砂浜があります。
その背後になだらかな丘が広がっておりそこにピバークできそうです。」
「危険な生物は生息していそうか?」とバルハヌ。
「周辺から見たろころ、それらしい動きは有りませんでしたが、周辺の森林は予想以上に深いと思われます。ですので生息している生物については正確にはわかりませんでした。」
「分かった。ローレンスが上陸班を組むぞ、我々も参加する。全員戦闘準備を整え10分後にここに集合。」
「はっ!」ムルカンとアディスが短く返事をし客室へ戻って行く。
「アンドロメダ様、マスカラムとガネットと一緒にこの船にお残りください。ペルセウス、一緒に来てくれたら有難い。10分後にここに来てくれ。」
「心得た。」
一同は解散し10分後に集合する事となった。
アンドロメダの船室ではマスカラムがアンドロメダの髪に櫛を通していた。
ガネットはベッドメイクに忙しく働いている。
「アンドロメダ様、最近ペルセウス殿の船室へいらっしゃる事が多いようですが、何をなさっているのですか?」
「実は私の顔を彫り込んだカメオのペンダントを作ってもらっているの。ペルセウスの芸術センスは半端じゃないわよ。あなた達も肖像画を描いてもらったらどうかしら?」
『肖像画はともかく、ペンダントをどうするのだろう? 自分の顔が彫られたペンダントを自分で持つかしら?』マスカラムの疑問は尤もである。
「そのペンダントをご自分の首に掛けるのですか?」
と思わず疑問を口にしてしまう。
「いいえ、私はペルセウスのペンダントを持つのよ。」
アンドロメダは特に気負った様子もなく答える。
「えっ、えー?」
マスカラムと側で聞いていたガネットが申し合わせたように同じ叫び声で驚く。
「あっ! ごっ、誤解しないで。これはヘラ様のご命令でお互いの連絡手段として用意する物なのよ。」
「ヘラ様? 夜会の次の夜に女神ヘラと会ったと言うのは本当なのですね?」
アンドロメダは何処まで喋っていいのかあの日の通信終了間際に聞いていた。
別に秘密にする必要はない、オリュンポスの出現がこの世界に知られてしまった以上、隠していても無意味だ。
そのように言われている。
「直接会った訳ではないの。ペルセウス達は不思議な肖像画を持っていて、その肖像画に向かって話しかけるとヘラ様の顔が現れるのよ。私とペルセウス、そしてヘシオドスの三人でヘラ様と話をしたわ。」
「女神ヘラが私たちの味方についてくれるのですか?」
ガネットが嬉しそうに聞き返す。
「そう言う訳じゃないわ、ヘラ様はあくまでもペルセウス達の加護神。私たちを手伝ってくれるのはペルセウスよ。」
「同じじゃないんですか?」
マスカラムには違いがよく分からず問いかける。
「同じじゃないわ、もしもよ、彼らを犠牲にしないと私たちが助からない状況になったとしたら、ヘラ様は間違いなく彼らを優先し私たちを見捨てるわ。」
「そんな! 神様なんだから両方とも助けてくれるんじゃ?」
「神と言えども限界はあるの。そう言えばペルセウスはゼウスは至高神で12神には含まれないと言っていたわ。おそらく至高神ゼウスならそれが可能かもしれないわね。」
その時、船室がグラッと揺れた。
「何?」
マスカラムが窓から外を覗くが辺りは暗闇が広がっていて何が起きたのかよく分からない。
「船長のところに行ってくるわ。」
アンドロメダは状況を確かめるために艦橋に向かった。
マスカラムとガネットの二人もアンドロメダを追って飛び出す。
ペルセウスも部屋を出て来た。
四人はほぼ同時にバラシオンの艦橋に到着した。
「船長一体何があったのです?」
アンドロメダはローレンスに問いかけた。
「船が暗礁に乗り上げてしまったようです。」
とローレンスは首を傾げながら答える。
「変なのです。ここはアドリア海のど真ん中、暗礁などあるはずがないのですが。」
「船長、島が見えます」
マストトップの監視員から伝声管を通じて報告が入る。
「島だと? こんな所に島などある筈がない。どうなっているんだ?」
ローレンスがありえない事態に困惑して独り言ちた。
「アンドロメダ様、暗くて状況がつかめません。明日、日が登ってから調査隊を組織して周辺を調査したいと思います。配下の者に警戒を強めさせますので、御心配なさらずに今夜はごゆっくりお休みください。」
ローレンスはペルセウスが傍にいると言うのに主従関係を隠そうともせずアンドロメダに進言した。
「よろしくお願いします。」
アンドロメダはここで騒いでも仕方がない事をよく理解しておりローレンスの言う通り船室に戻ることにした。
一方ペルセウスはローレンスに向かって。
「何か俺に手伝えることはないか? 警戒を強化するなら、手勢は多い方がいいだろう?」
「ペルセウス殿、あなたの船室はアンドロメダ様の向かいです。あなたが向かいの部屋にいるだけで安心できますのでどうか船室にお戻りください。」
そう言われてしまえば、ペルセウスには否応も無い、おとなしく船室に戻った。
あくる日、乗客の一部は甲板に出て突然現れた島を眺めていた。
アンドロメダの船室は島の反対側だったため、マスカラムとガネットを引き連れ甲板に出ていた。
「あれが例の島ね。周囲は殆どが断崖絶壁のようね、その内側に森林が形成されている。つまり最近、海底から隆起した火山島では無いと言うことね。海図に無いと言うことはあり得ないわ。」
アンドロメダは王家の出、高度な教育を受けているだけあって的確な分析であった。
しかし、その分析はこの島の謎を一層深めただけであったとも言える。
「島ごと何処かから移って来たような。不自然な島だわ。」
アンドロメダは侍女達に向かって言ったつもりであった。
「そうなのか? 俺には普通の島に見えるが。」
ペルセウスが背後から話しかける。
「ペルセウス」
振り返りながらアンドロメダが答える。
後ろに控えていたのはペルセウスだけでなく、ヘシオドス、バルハヌ、ムルカンとキマイラ事件のメンバーであった。
「暗礁に乗り上げたため、船底に穴が開いたそうです。この船は船底を分割して一部に穴が開いても浮いていられる構造ですので、とりあえず問題はありませんが、穴の修理を行うために少なくとも二日はここに足止めされるそうです。」
バルハヌがローレンスに状況を聞いた内容を伝えた。
「その間に上陸班を編成してあの島を調査するそうです。私も参加するつもりです。」
とバルハヌ。
「俺も参加してもいいだろうか?」ペルセウスはバルハヌに聞いてみた。
「そうだな、見たところただの無人島のようだが海図に乗っていないと言うのが不気味なところだ。あんたが一緒に来てくれたら心強いよ。」
そんな会話をしていた時に、調査隊が島の周りを一周して帰って来た。
調査隊にはキマイラ事件の残りの一人アディスが参加していた。
調査用のカッター船をバラシオンに横付けし甲板に上がってくる。
「団長、島の反対側に上陸可能な砂浜があります。
その背後になだらかな丘が広がっておりそこにピバークできそうです。」
「危険な生物は生息していそうか?」とバルハヌ。
「周辺から見たろころ、それらしい動きは有りませんでしたが、周辺の森林は予想以上に深いと思われます。ですので生息している生物については正確にはわかりませんでした。」
「分かった。ローレンスが上陸班を組むぞ、我々も参加する。全員戦闘準備を整え10分後にここに集合。」
「はっ!」ムルカンとアディスが短く返事をし客室へ戻って行く。
「アンドロメダ様、マスカラムとガネットと一緒にこの船にお残りください。ペルセウス、一緒に来てくれたら有難い。10分後にここに来てくれ。」
「心得た。」
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