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黄昏

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ギリシャ神話編

復讐する魔人

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ダイモーンは人間に擬態して人里に来ていた。
例の二人を探すためである。
名前はわからないが、身体的特徴は覚えている。
見ればそれと分かるだろう。
彼は人が多く出入りする国境の食堂「湖畔」に顔を出していた。
目的の人間はいないようだ。
手がかりを探して二人が話していたトリュフについて衆人に聞いて回った。
「姉ちゃん、ちょっと噂でトリュフというキノコを商売にしている行商人がいると聞いたんだが、知らねえか?」
「トリュフですか? うちでもたまに匂い付けに使いますけど殆どはアルスランという行商人が扱ってますね。もう西へ出発してしまったんでここにはいませんよ」
「この辺でトリュフを採取してアルスランっていう行商人に売りつけた者はいないか?」
「うーん。この辺でトリュフが採れるって聞いた事がないんでちょっと分かんないわねぇ。でもお客さん、なんでそんな事聞くんですか?」
「いや、俺も金儲けがしたくて、トリュフは実入りがいいって聞いたもんでね。」
「それなら、何でも屋のトッドとロイに聞いたらいいかもね? あの人たちトリュフの事、話してましたよ。」
「そのトッドとロイは今何処にいるか分かるかい?」
「日中はあちこち飛び回ってるからねぇ。でも日が落ちる頃、必ずこの店で一杯やってくよ。」
「あぁ、そうなんだ。ありがとう、これは礼だ。」
ダイモーンは旅人から盗んだ銀貨を一枚彼女に渡した。
「へー、気前がいいね。また何かあったら、なんでも聞いておくれ。」
その日の夕暮れ、ダイモーンは再び「湖畔」を訪れていた。
エールとつまみを注文し奥の二人席の店内を見渡せる椅子に座っていた。
トッドとロイが1日の仕事を終えて「湖畔」に足を踏み入れて来た。
『あの二人だ、間違いない。さて、どうしてやろうか』
『簡単に殺してしまっては俺の気が収まらん。俺が味わった恐怖に勝るとも劣らない恐怖を与えてやる。』
やがて、二人は晩酌を終え、ご機嫌な様子で「湖畔」を後にした。
ダイモーンは怪しまれないよう間を置いて「湖畔」を出た。
千鳥足で家路に付く二人。
この町が拠点なので目を瞑っていても家まで帰り付く事ができる。
はずであった。
二人は酔いが冷めるに従い、いつもと様子が違うと感じ始めていた。
「おい、ここ行き止まりだったかなぁ?」ロイがトッドに問いかける。
「さっきの曲がり角で間違っちまったかな? 戻るしかないな。」とトッド。
二人は振り返って歩き始める。
「あれ、こんなに草の多い道歩いてたか?」
「石畳も無くなってるぞ、こりゃ獣道みてーだ」
ダイモーンがどのような方法で彼らをそこへ導いたのか、そこは二人がダイモーンを埋めた場所だった。
「おい、ここはあの変な化け物を埋めた場所じゃねえか?」
「バカ言え、あそこは湖の反対側だぞ」
あたりはもう暗くなっていた。
月明かりが照らし出したのは堆く盛り上がったその場所であった。
ダイモーンが地中に埋められているその場所。
二人はやっと事態を理解した。
「まずいぞ、あいつ生きてたんじゃないか? 俺たちに復讐しようとしてるのかもしれねえ。」
ロイがかなり的確な推測をした。
「バカ言え、あれでどうやって生きてたって言うんだ。」
「と、とにかく。こっから逃げるんだ!」
二人は記憶を頼りに湖に向かって走り出した。
トッドの足に何かが絡みついた。
繰り出す足が徐々に重くなる。
まるで泥の中を歩いているようだ。
夢の中で必死に歩いているのに一向に前に進めない、あの感覚。
トッドは歩くのをやめた。
「ちくしょう。なんなんだ一体」
足に何が絡み付いているのか確かめようと、足下を見る。
そこには地面から木の枝とも芽とも付かない細長い触手が蠢き出ていた。
『これは? 木の根か?』
木の根の髭だと思われるその触手はトッドの足を包み込もうとまとわりついていた。
トッドが強く引っ張ると簡単に千切れてしまう。
トッドは足を必死で振りその触手を取り去ろうとする。
しかし、その触手は次から次へと地面から湧き出てちぎっても、ちぎっても足から取り去る事は出来なかっった。
やがて触手はトッドの膝の辺りまで這い上がりトッドはたまらずその場に仰向けに倒れる。と、すかさず触手がトッドの首、顔、肩に絡み付く。
トッドは起き上がろうとするが首や頭を地面に押し付けられていては流石に力だけで起き上がる事は出来なかった。
「ロイ! 助けてくれ!」
ロイはすでにトッドの5メートルほど前を走っていたがトッドの声を聞いて振り返った。
「トッド! 何やってる!」
「こいつを何とかしてくれ」
ロイはナイフを抜きながらトッドに駆け寄った、まとわりついている細長い触手をナイフで切り裂く。
やはり、簡単に切り裂く事が出来た。
しかし10本切り裂けば、20本絡み付いてくる。
ナイフと触手の攻防が続く中、徐々に触手が侵攻し最後には勝利を収めた。
トッドは仰向けのまま、ロイはトッドの前で片方の膝を地面ついた状態で拘束されていた。
「久しぶりだな。お二人さん」そこにダイモーンが現れ二人の目に入る位置に立つ。
『やっぱり』ロイは自分の予感が当たった事を知った。
二人がした事は謝って許してもらえるレベルの物ではない。
それが分かっていても尚命乞いをした。
「助けてくれ、あの時は悪かった。でもそうやって生きてるんだから、あんたにとっては大した事ないんだろ?」
「お願いだ、何でも言うことを聞く。だから、助けてくれ。この変なものとってくれよ」
二人は媚びるようにダイモーンに言葉をかける。
「何でも言うこと聞くのか? ふーん、どうしようかなぁ?」
『こいつ、案外チョロい。うまく丸め込めれば。』とロイ。
「おう。二人とも役に立つぜ、俺たちをあんたの下僕にしてくれ。見た所、あんた悪魔かなんかだろ? 人をさらったり、騙したりするのは俺たちも得意なんだよ。」
決めてかかっている。
ダイモーンは二人の縛を解きながら言う。
「お前たち、名前は何と言う。」
「俺は、ロイ。こっちで寝てるのはトッド。助かりやした。」
「俺の事はご主人様と呼べ。」
「早速、指令を下す。まずトッド、お前は実験台になれ。」
そう言って、自分の尻尾をトッドに向かって鞭のように振るう。
一瞬のことだった。ダイモーンは二人を下僕にする気など毛頭無い。
如何にしてこいつらに恐怖を味あわせてやろうか? 
考えているのはそれだけだ。
ダイモーンの思惑は尻尾を介して相手に猛毒を注入することだった。
この毒は相手の動きを麻痺させ脳だけには影響しない。
麻痺した体は徐々に緑色に変色し腐乱死体のように体中が浮腫むくんでくる。
もちろん、その時まで激痛が被害者を襲う。
脳だけは覚醒させておき自分の体が徐々に死んでいくのを見せるのだ。
ロイは再び樹に括り付け拘束している。
ロイにトッドが苦しみながら死んでいくのを見せるためだ。
「ちくしょう。だましたな?」
トッドの断末魔の悲鳴を聞きながら、ロイが叫んだ。
トッドと言えば、恐ろしい激痛に襲われながらも頭だけははっきりしており、自分の運命を最後まで見せつけられることになる。
「何を言ってる。何でも言うことを聞くと言ったではないか。」
ダイモーンは結果に満足しながら言った。
ただ一つ予定外の事は尻尾が蛇のように鱗にまみれ先端が蛇の頭に変化しトッドに噛み付いて毒を注入した事だった。ダイモーンは少し首をかしげる。
『まあ、良い。結果は同じだし、こっちの方がグロテスクで威嚇効果が高い。』
さて、次はロイだ。『俺の味わった恐怖はこんなもんではなかった。』どうやったら、その時の恐怖に匹敵するものをこいつに与えられるだろうか? 
ダイモーンは考えあぐねたが良いアイデアが浮かばない。
とりあえず、ロイを括り付けたまま一眠りする事にした。
「待ってろよ。次はお前だ」
そう言ってその場を去る。
なぜか、強烈な睡魔が襲ってくる。
『後は明日だ』ダイモーンは近くの木の幹に寄りかかり目を瞑った。

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