エーテルマスター

黄昏

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ギリシャ神話編

ペルセウスの才能

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彼を調べなければ。
アビゲイルはこの世界にも魔人に対抗できる人間がいるという可能性に気がついた。
もし魔人に対抗できるほどエーテルマトリクスの制御に長けた人間を育成することができれば、彼ら魔人族を滅ぼす必要は無くなるかもしれない。
ペルセウスの存在はアビゲイルに希望を与えた。
その席ではヘラは特にペルセウスの力に感銘を受けたと言う様子を見せなかった。
他の魔人達が彼に注意を払うのを極力避けたかったのである。
彼女はすぐさま、ワインの試飲を友人達に勧めた。
「ささ。みんな飲んでみて。私が注ぐわ、ヘシオドス、蛇口をつけてくれる?」
ヘシオドスが樽の側面に蛇口をつけるが早いか、ヘラは用意してあったワイングラスにワインを注いでみんなに振る舞った。
「どう? 美味しいでしょう? ヘルメス、このワインを年に2度この人達に運んでもらいたいと思ってるのだけど、大丈夫かしら?」
「お金の管理はみんな、あなたがやってるんでしょ?」
「確かに美味いな。だが、そう簡単に金は出せん。ただ美味しいと言うだけで、ワイン代と3ヶ月分の旅費を出せと言ってるんだぞ。 何か、我々にも実入りがないと散財以外の何物でも無くなる。」
「相変わらず、厳しいな。僕なら一発でOK出すけどね。どう思う? アテナ」とアポロ。
「そうねぇ。このワインなら少々高いお金を出してもいいと思うけど。財政を預かっているのはヘルメスだしね。財務大臣さんの言うことには逆らえないわ。」
『どうも、戦況は芳しくないな。』ヘシオドスは会話の内容からどうもヘラに分が悪いなと思案する。
そこで、この地へ来てから、考えていたことを提案してみることにした。
「あのー、よろしいでしょうか?」
みんなの視線が一斉にヘシオドスに向いた。
「そんなに、かしこまらなくてもいいわよ。 なあに?」アフロディーテが優しく答える。
「この地方にはオリーブが豊富に群生しておりましてね。オリーブオイルはフランスでは大変重宝がられてるんでさ。そこで、オリーブを分けていただければ、ボルドーワインをお安く分けられると思うんでさ。それに俺たちは旅をしながら商売しますんで、旅費を助けて下さるんはありがてえんですが、全額助けてもらう必要は無いと思うんでさ。」
「おー、君はなんと商才に長けているんだ。」ヘルメスは珍しく嬉しそうにヘシオドスを見る。
「そう言うことなら、細かいことを詰めようではないか。そうだ! 明日にでも私の家に来てくれ、夕飯をご馳走するぞ。」
ヘシオドスの提案にヘルメスは上機嫌になり、話はトントン拍子に進んで行った。
ヘラはペルセウスと密かに会うにはどうすれば良いか、考えあぐねていた。
何とかペルセウスを側に置けるように出来ないだろうか? 
ヘシオドスとペルセウスは親子のようにいつも一緒だ。
ペルセウスだけ召しかかえるのは無理かもしれない。
かと言って、ワインとオリーブの商談が始まり、二人は確実に旅に出てしまう。
それまでに何とかしなければ。
『とにかく、彼の能力をもう少し見てみたい。』
その夜、ヘラは部屋を抜け出し、ヘシオドスとペルセウスが泊まっている宿に向かった。
宿の店主はフードを深く被っているヘラに怪訝な顔をしたが、少しフードを上げヘシオドスとペルセウスに会いたいと告げると、全てを察したように部屋番号を教えてくれた。
驚くことはない。彼の目には彼女は港の娼婦のように映っていたのだから。
二人の部屋の前で、フードを取りコンコンとノックする。
ガチャ、ドアの鍵が開く音がし、ヘシオドスがドアを引き開ける。
「ヘラ様! こんな夜中にいったい?」
「ちょっと、ペルセウスに用があって来たのよ。中に入れてくれる?」
ヘシオドスはドアを全開にしヘラを引き入れる。
「ペルセウス、ヘラ様がお前に用があるんだとよ。」
「えっ? へっ、ヘラ様が?」
ペルセウスは自分のベッドに腰掛け、小さな画板に向かって何やら絵を描いていた。
1日の仕事が終わり一息つくと何時もならそのまま寝てしまうのだが、昨日印象的な事があったのでそれを絵に描いておこうと思ったのだろう。
慌てて描きかけのキャンバスを部屋の隅に追いやり部屋を出る。
「こちらにお座りくだせい。今、お茶を入れてまいります。」ヘシオドスが最上級のもてなしをした。
「そう、長居はしないのでお構いなく。お気持ちだけいただいておきますわ。」
「ペルセウス、あなたに聞きたいことがあって来たのです。こちらに来ていただけますか? 私の前に座ってちょうだい。」
「あっしは席を外しましょうか?」ヘシオドスは空気を読んで退出を申し出た。
「そうね。、、、あっ、ちょっと待って、あなたも知っておいた方がいいかも知れないわ。よかったら、そこに居てちょうだい。」
ペルセウスは言われた通りヘラの前に椅子を持って来ていた。
顔は紅潮し体はガチガチに固まっている。
それでも必死でヘラの言う通りに座る。
「今日、あなたが持って来たワインの樽だけどどのぐらいのワインが入るの?」
「あれはワインジョッキ1000杯の樽です。のでワイングラスで2000杯は入ります。」
「重さにして250kg程ね。」
「あなた、何故あんな重いものを片手で軽々持てるの?」
「わかりません、小さい頃から馬鹿力だけは自慢でして、ヘシオドスは俺は役に立つと言って俺を引き取ってくれたんです。」
『答えになってないけど、分からないと言うのが答えね』
「重いものを持ち上げる時、どんな感じがする?」
「どんな感じって言うと。よく分かんねぇですけど、皆んなが重い、重いと言う奴を俺が持とうとすると、大して重く感じねーんです。」
「どんなものも自分が持ったら重くなくなる。 そう考えてる?」
「そうなんです、そんな感じです!」ペルセウスは自分の感覚をうまく表現できなかったのに、ヘラがまるで知っているように言い当てたので、嬉しそうにそう答えた。
『事、物の重さに関しては、エーテルビリーブに到達しているようね。』
アビゲイルは自身のエーテル理論を当てはめ、ペルセウスの能力を評価した。
人がエーテルビリーブに到達するのは並大抵のことではないのである。
どれほど、『自分は信じている』と自分に言い聞かせても一点の曇りもなく信じることは人にとってかなり困難な事だからだ。
『次の段階を試してみよう』アビゲイルは持って来たろうそくをペルセウスの前に差し出す。
「このろうそくに、自分が触ったら火がつくと思って触ってみて。」
ペルセウスはヘラが何を言っているのか良く分からないまま、ろうそくは自分が触ったら火がつく? と考えて触ってみた。
何も起こらない。
「疑問に思ってはダメ、重いものを持ち上げる時の事を思い出して、重さをろうそくの火に変えてやってみて。」
『あっ、そう言う事か。』ペルセウスはヘラの言っている事がなんとなくわかった気がした。
そして、もう一度ろうそくに触る。
と、ろうそくから黄色い炎が立ち上がり、二人の影が部屋の壁でゆらゆらと揺れる。
ガタッ。
それを見ていたヘシオドスがあまりの驚きに椅子から転げ落ちた。
「ヘラ様。これはどう言うことです?」
「見た通りよ。この子は魔法が使える。」
「おらぁこの子じゃないです! もう32で立派な大人です!」
声を荒げる所はそこじゃ無いような気もするが。
「それじゃ。私は何歳だと思う? もう、200歳を超えてるのよ。私から見れば、あなたは生まれたばかりの子供よ。ごめんなさいね、私はあなたの思いびとにはなれない。私には魂で繋がった人がいるの。」
そうは言ったが、アビゲイル自身はペルセウスと同い年である。
ヘラの肉体年齢は212歳。
魔人族は長命で成長も遅いが惜しむらくは魔人族は自己進化できない。
鳥は空を飛べるように生まれてくるが一生それ以上の能力を持つ事が出来ないのと同じである。
「想いびとって、おらぁそんなつもりじゃ。 だども。。。」ペルセウスはヘラのその一言で心のそこから何かを主張しようとするものが湧き出てくるのを感じた。
それがなんなのか? 今はその時ではない。心の声が聞こえる。
「でも、あなたの師にはなれるわ。どう? その力、育ててみたいと思わない?」
ヘシオドスは思った。
『これは、ペルセウスにとって出世を約束する大チャンスかもしれない』とは言え、彼を預けて一人旅に出るのは、彼にとって簡単には許容できない事であった。
『どうすりゃ良いんだ?』
「師になれるって。こいつをあなた様に預けろって事ですかい?」ヘシオドスはヘラに少し不満げに尋ねた。
「それが出来れば、私がこんな夜中にお忍びで来たりしないわ。」

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