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黄昏

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ギリシャ神話編

ワインの縁

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何やらいい匂いが漂ってきた。
「この匂いは何。いい匂い」まず、エリスが口にする。
「この匂いは、海鮮料理ですね。 えび、たこ、貝の匂いが混ざっています。」とアギー。
「おそらく、パエリアかと。この地方の名物料理です。」
「みんなで、頂きましょうよ」とヘラ。
「パエリアは立ったままでは食べにくい料理です。テーブルのある店を探さないと。」ロシェが指摘した。
「その心配はないみたいだ。ほら、あの店を見てごらん。パエリアをガーデンテーブルで食べるようになっている。」
「あそこから漂ってきた匂いね。」
「みんなで食べましょうよ。」
6人掛けのテーブルを依頼した。
綺麗に区画整理した庭に丸いテーブルが置かれておりそこに6脚の椅子が周囲を囲っている。
まず、ヘラが座りその左隣にエリスが右隣にアレスが鎮座した。
アギー、ロシェ、タレイアの3人と言えば、ヘラの真後ろで立ち尽くしている。
「あなた達何やってるの?」ヘラが尋ねる。
「我等3名はヘラ様の護衛。このような場合は攻撃されやすい後方に立つのが護衛のセオリーとなっております。」
「バカなこと言ってないで、そこに座りなさい。」
「誰が、襲ってくるというの?」
「今日はみんなで楽しもうと出てきたのよ。あなた達が座ってくれなきゃ、全然楽しくないじゃない。」
3人は顔を見合わせ、しぶしぶ顔で開いている席に座った。
実は、内心かなり喜んでいた。
「注文の種類は一種類みたいだね、海鮮ミックスパエリアだそうだ。まぁ、これ1つあれば十分だとは思うよ。」とアレス。
「飲み物は?」エリスが尋ねる。
「そういえば、品書きに飲み物が載ってないな?」
「ちょっと君、飲み物は置いてないのかい?」アレスが近くのウェイターに尋ねた。
「はい、通常はこちらで飲み物をご用意するのですが。今日は周囲にワイン、エール、ジュースなどの店舗が出ておりますので、お客様に自由に選択していただけるよう、当店では置かないことにしたのです。 いつ、席を立っても構いませんので、ご自由に屋台を散策なさってください。」
「なるほど、面白い趣向だ。気に入ったよ。」
「と、言う事らしいので、飲み物を見に行きましょう。」
「私、エールがいい」エリスが言う。
「まだ早いんじゃないか? ワインかジュースにしておきなよ。」
「なんで、ワインは良くてエールはダメなの? どっちもアルコールじゃない。」
「でも、苦いよ」
『やっぱり、兄妹。意見をよく違える。』アビゲイルは自分の兄妹の事を思い出して、苦笑いする。
その時、ヘシオドスとペルセウスの大声が聞こえてきた。
「一杯銀貨1枚のワインですって。理由は、飲めばわかるって言ってるわ。」
「銀貨1枚ってワインにしては高いの?」と金銭感覚のない事を吐露する質問を投げる。
「ヘラ様、通常ワイン一杯は大銅貨1枚、高くても大銅貨5枚です。あれは、最高級ワインの2倍の値段をふっかけています。」とアギー。
「へー、どんな味なんでしょう? 飲んでみたいわ。私はあれにする。」ヘラはすっくと立ち上がり、ヘシオドスの店に歩き出す。
3人の侍女達は慌てて後に続く。
ヘラは突然立ち止まり振り返る。
「アギー、銀貨何枚か貸してくれない?」庶民的な事を言う皇后様であった。
ヘラと3人の侍女が近づいてきた時、ヘシオドスとペルセウスはその美しさに目を奪われ、客寄せのため開けていた大口もそのままに固まってしまっていた。
「あの、ワインを頂きたいんですが」ヘラがペルセウスに向かって言葉をかけると、スイッチが突然入ったかのように
「ボルドーがワインで美味いぶどう酒より美味いです。」
何を言っているのかサッパリわからないその返答にタレイアが怒気を荒げてペルセウスを威嚇する。
「我があるじを愚弄するか。場合によっては容赦せぬぞ!」
「待ってくだせー、こいつこちらのお方があんまり綺麗なんで、まいがあっちまってんです。どうか許してやってくだせー」
ヘシオドスが必死に懇願する。
その時、やっとペルセウスが我に返る。
「申し訳ごぜーません。俺は田舎もんで高貴なお方に口聞いたことなんてなかったもんで、それに、こんな美しいお方がこの世におったもんかと思ってしまって、何喋っていいかわかんなくなってしまったんだ。。。です」
「プッ」ロシュが思わず吹き出す。
「自分の言葉で普通に喋ったらいいのよ。何もとって食われたりしないわ。」
ヘラは別に怒った様子もなく、ペルセウスに話しかける。
「ところで、あなた達の販売しているワインはとっても美味しいの? この子に聞いたら普通の高級なワインの2倍はする値段で売っているそうね。」
ヘラはアギーをさしながら、二人に問いかけた。
「へー、試し飲みできるようにこちらの小さなジョッキに注いでみてくだせー」
ヘシオドスも意味は通じるものの話し方がちょっとおかしい。
ヘラは小さなワインジョッキを手にし樽の蛇口から少しだけ注ぎそれを口に含んだ。
「ろろろろろろ」
口の中で空気を混ぜるように転がす。
「爽やかなアタック、一般的な甘口ね。シルクの舌触り、無理のない酸味、チャーミングなフレーバー。余韻が少し弱いわね。」
「うん。確かにいいワインね。とっても美味しいわ。」
「これを6杯、あそこに見えるテーブルに運んでちょうだい。あっ、温度は何度に調整している?」
「へー、ここは高い場所なんで、いつもより温度が低くなりやすので、こんな風に樽の周りに獣の毛皮を巻いておりやす。だいたい15度ぐらいかと思いやす。」
「いい、心掛けだわ。あなた、名前はなんというの」
普段、あまり人とのつながりを持とうとしないヘラが、名前を聞くのはかなり異例のことであった。
「あっしはヘシオドスともうしやす。そんでこっちがペルセウスでやす。」
「このワインはあなた達が作っているの?」
「いんや、あっしらは運んでいるだけで、このワインを作ったのは、ここから北にあるフランスちゅうところのボルドー地方でバッカスという爺さんが作っておりやす。」
「運んでいるだけにしては、ワインの扱いが丁寧ね?」
「へー、あっしらはワイン専門の行商人でやすから、いっつも勉強しておりやす。」
「そうなの。・・・・」
「ねぇアレス、あら?アレスは?」
「アレス様はエリス様を連れてエールの店に行っております。」
「ヘシオドスさん。この祭りが終わったらお二人で私のところに尋ねてきてくれないかしら。」
「そ、それはよござんすが、いったい?」
「あなたのワインを定期的に我が家に納品して欲しいのよ。その、ボルドーというところは遠いの?」
「へぇ。往復だいたい3ヶ月かかりやす。」
「なら、その交通費も私達が出すわ。どうかしら? 」
「それはもう、願っても無いことでして。」
「詳しいことは、我が家に来ていただいてからにしましょう。今はこの美味しいワインを早く頂きたいわ」

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