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黄昏

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ギリシャ神話編

人に非ざる者の生活

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ヘラことアビゲイルはその地位のためか、仮説住居を丸々一軒充てがわれた。
3人の侍女が彼女に仕える。
アレスはハデスの腹心として、中央の仮設司令塔に住んでいた。
エリスはアビゲイルの仮設住居の一室に引っ越して来ている。
「お母様、湯浴みの準備ができましたわ。私もお手伝いします。」
「アギー、ロシェ、タレイア! お願いね。」
3人の侍女はそれぞれ、アグライアー、エウプロシュネー、タレイアという名前であったが、エリスがそれでは呼びにくいと、勝手に名前をつけてしまっていた。
この種族の貴族は起きてすぐに湯浴みをする。
もちろん、高貴な身分の者しか湯浴みまではしない。
殆どの者たちは川面で髪をすすぐ程度である。
仮設とはいえ大理石で作られた浴槽がそこに有った。
ヘラことアビゲイルは浴槽の側でアギーに衣服を剥ぎ取られ、ロシェに手をとられて湯船に導かれた。
静かに湯に体を沈める。
湯温はそれ程高くはない。
タレイアがオリーブの草を湯に浸し肌を刺激しないようゆっくりとヘラの体をこする。
エリスと言えばヘラの髪を解き注意深くかしている。
ヘラ自身はされるがまま何もしない。
「これで良いわ、お母様。とっても綺麗!。 私もお母様みたいになれればいいのに。」
「ありがとう、エリス。あなたは今でもとっても綺麗よ。」
「えへへ。 さぁ、どうぞ」
ロシェがヘラの手をとり、湯船から出ることを促した。
されるがままに湯船を出ると、すかさず、アギーが衣を体に被せる。
「さぁ。こちらへ。」エリスが今日の衣装が吊ってある被服スペースに誘う。
移動しながらアギーとタレイアがヘラの体を乾いたタオルで乾かしている。
被服スペースには白から黒まで、様々な色の衣服が吊られていた。 
デザインは何れも殆ど同じである。
キトンと呼ばれるその衣服は淡い色を基調とした一枚布で構成されていた。
その上端を折り返して体に巻きつけ両肩を留める。
さらに腰に帯を締める場合もある。
生地は何だろうか? 軽くて薄いそれは光をやすやすと通し、見る方向によっては体の線が露わになる。
アビゲイルは最初抵抗があったが、全員がその格好なのである。やがて、特に気することは無くなった。
仮説住居には食堂も用意されていた。
それ程広くはなく、夫婦が対面に座り、子供達が左右に3人づつ座るテーブルが置かれている。
これが、この種族の平均的家族構成なのであろう。
朝食の頃になると、アレスが司令塔から尋ねてくる。
ヘラと一緒に朝食を摂るのが目的なのは明らかである。
記憶喪失を装ってヘラとして復活したアビゲイルであるが、この兄妹のはしゃぎようを見るに、ヘラは生前それほど良い母親ではなかったようである。
みんな、彼女の地位を考えて生前のヘラについて語ることは一切ない。
よほど心象の悪い女性だったのだろうか? まぁ、しかし、彼女が変わってほしいと誰もが望んでいたことは、今のヘラに対する態度からわかる。
アビゲイルはこのまま生活してもう少し彼らの文化的特徴を調べることにした。
『滅ぼしてしまうかどうか、もう少し様子を見ましょう。』
実際のところ、彼女にはそれが出来ないだろう事に気がついてはいた。
「お早うございます母上」とアレス
「お早うアレス」
「お兄様、また来たのね、今まで朝ご飯はずっと司令塔で摂っていたくせに。」
「エリス」優しく注意し、「アレス、そこにお座りなさいな」
「さぁ、頂きましょうか」
この世界では、食前の祈りのような習慣はないようだった。
アレスもエリスも「頂きます!」と元気よく唱えた。
アギー、ロシェ、タレイアの3人が食事を乗せたトレーを各自の前に置いていった。
主食はフルーツが中心のようで、小麦粉を練って焼いたパンのようなもので物足りなさを補う。
飲み物はワインのようである。
『朝っぱらからワインとはねぇ』
「神殿の建設はどう? アレス」
「順調に進んでいます。尤も、基礎づくりの段階ですけど。」
「この世界の冥界は魂が豊富なんです。魄もそれに比例してたくさん見つかります。」
「あなたは、以前、用済みの魂と言ったわね。用済みっていうのはどう言う意味なのかしら。」
「再生する意思のない魂のことです。魂から自我が無くなった魄も同じ。これらの魂はその後消滅してしまうんです。どうして自我がなくなるのかよくわからないけど。」
「意思のある魂は消滅しないの?」
「そう言うことでしょうね? 僕もよくは分からないんです。」
おそらく、転生しない魂のことを言っているのだろう。
だが、転生する魂はその前に生前の記憶を無くしてしまう。
その状態の魂と魄はどう違うのだろうか。
「お母様!今日はお祭りがあるのよ、知ってらした? 私たちの町はまだ出来上がっていないけど、こう言う時だからこそ、楽しくやろうって、広場に屋台のお店が出るそうよ。あとで、行って見ましょうよ。」
エリスは私とアレスが難しい話を始めると、必ず、こんな風に話に割り込んでくる。
「屋台のお店?」
「えぇ。ふもとの町から人間が来てくれるの。私たちのこと神様って言ってるのよ。」
この地に降り立ってまだ1ヶ月ほどしか経っていないと言うのに、もう麓の人間とそのような交流を始めているのか。
「そうね。面白そうね。行って見ようかしら。」
「なっ。なら、私もお伴します! 母上!」
「私が案内するから、アレスは引っ込んでて!」
母上争奪戦が始まる。

「ヘラ様」
「? 何?」
「私たち3人もお伴してよろしいでしょうか? 私たちは侍女兼護衛としてお仕えしております。たとえ相手が人間であっても、そのような場所に出かけるのであれば、お供させていただきたいのですが。」
「護衛ねぇ。」
ヘラは考え込むふりをする。
「でも、みんなで行った方がきっと楽しいわ。一緒に行きましょう。」
アグライアー、エウプロシュネー、タレイアの3人はヘラがヘラであった時からの付き人である。
その3人がヘラの変わり様に一番喜んでいたことは内緒である。

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