エーテルマスター

黄昏

文字の大きさ
上 下
16 / 83
ギリシャ神話編

オリュンポス建設

しおりを挟む
彼らが転移した場所は現在のギリシャのテッサリア地方の丘陵であった。
その地域には標高3000メートルほどのその地域では最高峰と思われる山がそびえていた。
あの山の頂上に拠点を設けよう。
アビゲイルからしたら首を傾げたくなるような場所に彼らは自分たちの居城を作ろうと言い出した。
『習慣の違いだろうから、ここは異を唱えるのは控えるべきね。』
アビゲイルは内心そううそぶいた。
オリンポスの山頂を13の区画に分割しそれぞれに神殿を建立こんりゅうする。
それを実現するのに魔法は必須であったが、どこかで人間が襲われたという噂は聞かなかった。
『どうやって魂を調達しているのかしら?』
ハデスは天寿を全うして、あるいは事故で、あるいは病気でこの世を去った全ての魂が集まる冥界を支配するものであった。
「どうやってあの大きな石を持ち上げているの?」
ヘラことアビゲイルは記憶喪失を装い魔法に関わる質問をハデスの仲間たちに投じた。
主にアレスが相手の場合が多いが、アテナ、アポロ、アフロディーテなど誰もが快く質問に答えてくれる。
「重力を制御するんだ。風を使う人もいるけど、重力制御の方が洗練されてるよね。これが使える人は限られているんだ。第5元素エーテルの素地が必要なんだ。」
「その素地というのがあったら誰でもそんな力を持てるの?」
「そうだね、でも発動には人間の魂が必要なんだ。それは火、水、風、土のどの元素の魔法でも同じだね。」
「に、人間の魂だなんて、恐ろしい。あの建物一つ立てるのに何人の人を殺すの?」
ヘラは神殿の敷地の北西部にある区画に建設中の仮設住宅を指して質問した。
「あははは! 人を殺したりしないよサタン一族じゃあるまいし。用済みの魂が冥界に使い切れないほどあるからね。僕たちはそれを拾ってきて使うんだ。母さん本当にまだ何も思い出せないの? でも、今の母さんの方が好きだけどね。」
「昔の母さんはどうだったの?」
「ごめん、余計なこと言っちゃったね。昔の母さんはゼウス父さんの事ばっかりで僕やエリスにあまり構ってくれなかったんだよ。」
「そんなにゼウスと言う人の事を?」
「あはは、自分の旦那さんのことを、ゼウスと言う人、とはね。」
話をすればするほど、彼らは人と変わりがない事が分かって来る。
『こんな人たちを滅ぼしてしまったのか?』
誤解とはいえ、彼らにとってはキルケゴールこそが悪の権化だったに違いない。
アビゲイルは免罪符を求めてさらに質問を続ける。
「サタン一族は人を殺すの?」
「彼らは、新鮮な魂ほど魔法の威力が増すと言うんだよ。魂に古いも新しいもないのにね? 僕たちが使っているのは、厳密には魂じゃなく魄(ハク)と言うんだって。サタン一族は魂しか使わないんだ。それで、人をさらったり、殺したりする。大賢者が僕たちを滅しようとしたのも、多分サタンのせいだ。」
「大賢者を恨んでる?」
「そうだね。恨んでる。でも敵わないという事も知っているよ。あの強さは反則だと思うよ。出会ったら、逃げ出すしかない。」
立場が違うとは言え、キルケゴールが人に恨まれているという事がアビゲイルにとってはこの上なく悲しい事であった。
彼は正義と同意だと思っていたが、魔人族から見たらいわれのない罪で殺しにくる災厄なのだ。
アビゲイルはこの後どう動くべきなのか分からなくなっていた。
彼らは、このままでも人に害をなす事はない。
だが、どうもまだ引っかかるところがある。
アレスは「用済みの魂」と言った。「用済み」とはどういう意味だろう。
立て続けに質問すると怪しまれるから、この疑問は少し時を置いてから解消する事にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...