エーテルマスター

黄昏

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ギリシャ神話編

この世界の人類のために

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『アビー、落ち着くのよ。あなたは大博士の称号を持つエーテルマスター。この程度のことで狼狽うろたえていてどうするの。それこそゴーシュに笑われるわ。』
強がりを言って自分を鼓舞する、今はそれしか出来なかった。
アビゲイルは現状をより分析するためハデスとアレスの会話に注意を向けた。
「お前たちは息災なのか?」
「はい。全員がここから1キロメートルほど先の平地にキャンプを張っています。水、食料とも問題ありません。」
アレスはかしこまって答えた。
「ただ、一つ奇妙なことがあるのです。太陽が東の空にあるのです。総攻撃から3時間も経っていないのに。」
「ふむ。あれは次元転移だったか。」
ハデスはヘラを抱き上げた時に現れた漆黒の空間を思い出して言った。
「まぁ良い。ヘブンズガーデンを破壊することが出来なかった以上元の世界に戻っても追い詰められて滅びてしまうだけだ。幸運なことに我が軍の全員が同じ世界に転移したとすればこの世界でやり直すことも良いかもしれぬな。」
「母を・・・」
アレスの意識はひたすら母に向けられていた。ハデスの言った事の30%も理解していなかっただろう。
「あぁ。さっきはすまなかった。ヘラを誰にも触らせたくなかった。お前はヘラの息子だったな。」
これが王者の器というものか、ハデスは自らの慟哭どうこくを脇に押しやり、同朋のために平静を装った。
「彼女を連れて、皆の元へ戻ろう。アレス。彼女を頼む」
「はい!叔父上」
アレスはつい普段の呼び方に戻ってしまったがハデスはそれを咎める事をしなかった。
アビゲイルは迷っていた。彼らに付いていくべきか、この場に留まるべきか。
彼らがリロケートを使うと、次に見つけ出すことが難しくなる。
『1キロメートルほど先の平地と言っていたわね。いま余計なことをするとハデスに気付かれてしまうかもしれない』
アビゲイルはヘラにシグナルを付与することを躊躇ためらった。
相手はハデスである、敗軍の将とはいえ魔王には違いない、ほんの僅かなエーテルの動きを感知されてしまうかもしれない。
戦えば、互角以上に戦う自信はあるが、これまでの会話を聞いていてアビゲイルは何か違和感を感じた。
噂されているほど好戦的でも傲慢でもないように思えたのである。
『彼らが去ってから、キャンプを探せばいいわ。1キロメートル程度の範囲ならさほど時間はかからないでしょう。』
『でも、場合によっては彼ら全てを滅ぼさなければ。』
この世界に魔法は無いと言われていた。
世界にエーテルが充満しているところを見ると魔法が無いわけではなく、人々がそれを忘れ去っているのだろうと思われた。
何が原因かまだはっきりしないが、私たちの秘法発動と彼らの一斉攻撃が偶然重なり、彼らも一緒に次元転移してしまったらしい。
こんな世界に彼らを残して行ったら人類は瞬く間に滅ぼされてしまう。
それどころか魔法の顕現に必要な魂を確保するため家畜のように人間を扱うだろう。
『まず、何人ぐらいいるのか。それからね。』
あと、依り代を得て人型に戻らなければならない。
『このままでは戦うこともままならないわ。キルケゴールの赤子の制約にも従ってもいられない。ことは緊急を要するわ。ゴーシュを探すのはその後よ』
アビゲイルは可能な限り早く転生と覚醒を終えようと考えた。
人のエーテルマトリクスをスキャンして候補を探す。

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