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アビゲイルは一緒に転生する事がまるで決定事項であるかのように振る舞った。
いつもの事ではあるが、キルケゴールは許容できない事をうやむやに許可する事は決してない。
つまり、彼も彼女を連れて行く事を快く思っていたのである。
さて、そうなれば次の世界でどのように二人は落ち合うのだろう。
次の世界には人類が70億人も居る、たった二人がその中で出会うのである、偶然に出会う事は決して無いと言っても良い。
二人が邂逅するためには綿密な申し合わせが必要だった。
人口70億の世界。
これまでとは比べ物にならないくらい巨大なコミュニティである。
と言っても、200近い国家が存在し人類はそれぞれの国家に散らばって暮らしている。
裕福な国、貧困にあえぐ国、独裁国家、傀儡国家、様々な国が存在している。
転生する国家も慎重に選ぶ必要があるだろう。
長く平和が維持されており、経済的に潤って国民の民度が高い国。
貧すれば鈍すではないが貧困な国家は国民の倫理観も低い傾向にある。
できれば、先進国と呼ばれる国でイデオロギーが進化しており民主制が確立している国が良い。
特筆すべきは、この世界では魔物は神話や物語の世界にしか存在しないことだ。
魔法も表面的には存在していない、その代わりと言っては何であるが、科学が発達しており魔法で達成できる事の殆どを科学の力で代替している。
キルケゴールが次の世にこの世界のこの時期を選んだのには理由がある。
彼はこの世の謎を解き明かす事が自分の使命だと思っている。
何度も転生を繰り返しながら、一つ一つ謎を解き明かして来た。
今世で彼はエーテル理論の確立に取り組んできた、それは、アビゲイルと言う助手を得て今世中には完成する見込みである。
次の研究を何にするか、そんな事を考えながら異世界探索を行っていたある日、彼はこの世界を見つけた。
この世界ではエーテル理論は相対性理論の誕生に合わせて否定され忘れ去られていた。
それに台頭したのは相対性理論や量子理論が基礎となる11次元M理論、通称ひも理論である。
天体を構成する第5元素エーテル。
彼の生まれ育った世界ではその理論が否定される事なく論理的矛盾や不都合な事例を一つ一つ理論修正しながら育てられていった。
エーテルは主に神学の分野で研究されていたが、それは発想の初期において宗教的な意味合いが強く、天界を構成する物質と信じられていた事に由来する。
キルケゴールの目論見は新世界のひも理論でエーテル理論を強化する事である。
新世界で定義されているエーテルは非常に幼く、否定され、忘れ去られても仕方がないものであった。
その一方でひも理論は新世界の物理学の花形といっても良いほど隆盛を極めている。
キルケゴールの知識の増強にはもってこいの学問である。
そのためには新世界でも研究を行いやすい国を選ばなければならない。
新世界第1の国家はアメリカ合衆国と呼ばれていた。
第2位の国家を経済においても、軍事力においても圧倒しており、第2位の国家、中華人民共和国が世界の覇権を狙う事を隠しもしていない現状においても、アメリカ合衆国の抑止力は群を抜いている。
当初キルケゴールはこの国への転生を計画していた。
経済力、軍事力、国民の民度、研究機関の充実、どれを取っても申し分ないように思われたのだ、ただ一つ気になる事は、この国は移民が多いと言う事であった。
否、もともと移民で建国された国であるからそれも当然の事なのであるが、建国当時の民族が転生予定時期では人口的に少数派になってしまっていると言う点である。
イノベーティブな発想、学問に対する積極性などは民族の特性に負うところが大きい。
決して差別主義的な事を言うつもりはないが、歴史を省みると、数々のイノベーションを成し遂げてきたのは、アメリカ合衆国建国の立役者であった欧州人である事は疑いないのである。
キルケゴールは新世界の民族を地域ごとに調査してみた。
それぞれ得意な分野は異なるが、どの民族も非常に優れている。
そうでなければこれほど混沌とした国際関係にはならないだろう。
キルケゴールは転位先の候補を地域と時期および民族で整理し候補を絞り込む事にした。
時期については、目標であるひも理論がすでに生まれていることが必須条件であった。
そして21世紀の次の四つの地域にまで絞り込んだ。
アメリカ合衆国アングロサクソン、欧州ゲルマン民族、イスラエルユダヤ民族、日本ヤマト民族の4箇所である。
さらに候補を絞り込む。
まず、イスラエルは選択肢から削除した。
この国のユダヤ人は金銭感覚にすぐれ、科学技術についても造詣が深い、しかし、残念な事に21世紀のこの地域は国際紛争が絶えず危険が多すぎると思われたからである。
次にアメリカ合衆国を候補から外した。
経済力、軍事力、科学技術力など、どれを取っても超一流で条件としては最高であったが、21世紀の頃からマイノリティと呼ばれる他民族の台頭が著しく、それに対して欧州系市民が好戦的になって来ていると思われたからである。
欧州人は元は非常に好戦的かつ残酷である、しかし、それを補って余りある論理的頭脳、芸術的センス、イノベーティブな思考を持っており、それ故新世界の当時における先進国は日本を除いてすべてこの欧州人が起源となっている。
残るは欧州と日本であるが、両者は甲乙つけがたく、決定は保留となっていた。
アビゲイルの言う美人が見かけの派手さであると言うのなら軍杯は間違いなく欧州人に上る。
日本人はほぼ全員が黒髪、黒目で、どちらかと言えば地味な見かけをしている。
「欧州人は、アビゲイル、君とよく似た容姿をしているよ。」
「へー、なら欧州のどこかで決まりね。」
「私は見かけなどどうでも良い。新たな研究を誰にも邪魔される事なく続けられればそれで良いよ。」
「その場合、日本の方が良いというの?」
「それが、何とも言えんのだ。欧州にも優れた研究機関があるし、もともと科学の体系を作り上げたのは欧州人の功績が大きい。」
「念のために転生先のタイムラインを分析したのだが、歴史上のその時期だけを見れば、明らかに覇権は欧州人に有った。にも拘らず、その時期の前後1000年間は日本だけがアイデンティティを維持し続けていることが分かったのだよ。」
「私が日本という国に注目したのは、転生するその時期の100年ほど前まで日本は科学技術とは全く縁のない社会を作り上げていたんだが、欧州やアメリカ合衆国の圧力を受けて国際的な舞台に立たねばならなくなった時、驚くべき事にたった数十年で欧米列強国と肩を並べるまでに力をつける事に成功したのだ。」
「ふーん。つまり、潜在能力はすごいという事?」
「そうかも知れんし、単に模倣力が優れているだけなのかも知れん。」
「なら、科学の発祥地である欧州の方が良いんじゃない?」
「そうなんだが。・・・ 」
「一体、なにをそんなに気にしているの? パッと決めちゃえばいいじゃない。」
「ただの勘なのだが、日本の方が研究には向いているように感じるのだよ。あの国は議院内閣制という政治体制で国を運営しているのだが、それとは別に一種の家長のような家系を元首に戴いていると言う珍しい国なんだよ。単一民族で何千年も国を運営してきたと言うのに、明治維新には短期間で欧米列強に対抗できるように自らを改革した。にも拘らず基本的なアイデンティティは維持し続けている。こんな事が出来る国を私は見た事がない。何か、得体のしれない力を感じるんだ。」
「あなたの思入れはわかったわ。日本がいいのね? 私は反対しないわ何処までもあなたについていくわよ。」
「それなんだが、驚かないで聞いてくれ。一つの案として聞いてくれればいい。承諾するかどうかは君次第だ」
「なっ、なによ賢まって。連れて行かないなんて答えは絶対受け入れないからね。」
アビゲイルは少したじろいだ、一緒に行くかどうかはキルケゴール次第なのだ。
訓練の成果もあって誕生したばかりの生命を見つけ出す事も、その生命に自分のエーテルマトリクスを転写する事も出来るようにはなったが、肝心な次元転位と転生はキルケゴールにしか出来ない。
「そうじゃない。君には欧州の何処かに転生してもらいたい。私は日本に転生する。互いに両者の文化を吸収すれば、邂逅した時に新世界の仕組みに対する理解が深まると思うんだ。」
「えっと、それでどうやって落ち合うの?」
「なに、簡単な事さ、エーテルリンクで念話すれば良い。覚醒さえすれば、それは簡単な事だろ?」
「エーテルリンクは相手のマトリクスのポータルが必要だわ。それはどうするの? 転生後のあなたのエーテルマトリクスは今と同じなの?」
「ポータルのパターンを事前にマトリクスに書き込んでおく。転生時にその部分だけは書き直されないようにすれば見失う事はないと思うよ。」
「分かったわ、そのパターンは消されないようにエーテルマトリクスの何箇所かに書き込むようにするわ。 それで安全性はより高くなる。」
彼らがポータルと呼んでいるそれは、相手を識別するいわばIDのようなものだ。
エーテルの海の中からそれを見つけ出すことができれば、エーテルマトリクス同士を接続し意思を共有することができる。
IDであるだけに、一意のものでなければならないが、姿形は自由に作製できる。エーテルマトリクスが人体に実体化した時にホクロ、あざ、入れ墨として刻印されることが多い。
あるいは彫像や絵画をポータルとし通信にのみ利用する事もある。
いつもの事ではあるが、キルケゴールは許容できない事をうやむやに許可する事は決してない。
つまり、彼も彼女を連れて行く事を快く思っていたのである。
さて、そうなれば次の世界でどのように二人は落ち合うのだろう。
次の世界には人類が70億人も居る、たった二人がその中で出会うのである、偶然に出会う事は決して無いと言っても良い。
二人が邂逅するためには綿密な申し合わせが必要だった。
人口70億の世界。
これまでとは比べ物にならないくらい巨大なコミュニティである。
と言っても、200近い国家が存在し人類はそれぞれの国家に散らばって暮らしている。
裕福な国、貧困にあえぐ国、独裁国家、傀儡国家、様々な国が存在している。
転生する国家も慎重に選ぶ必要があるだろう。
長く平和が維持されており、経済的に潤って国民の民度が高い国。
貧すれば鈍すではないが貧困な国家は国民の倫理観も低い傾向にある。
できれば、先進国と呼ばれる国でイデオロギーが進化しており民主制が確立している国が良い。
特筆すべきは、この世界では魔物は神話や物語の世界にしか存在しないことだ。
魔法も表面的には存在していない、その代わりと言っては何であるが、科学が発達しており魔法で達成できる事の殆どを科学の力で代替している。
キルケゴールが次の世にこの世界のこの時期を選んだのには理由がある。
彼はこの世の謎を解き明かす事が自分の使命だと思っている。
何度も転生を繰り返しながら、一つ一つ謎を解き明かして来た。
今世で彼はエーテル理論の確立に取り組んできた、それは、アビゲイルと言う助手を得て今世中には完成する見込みである。
次の研究を何にするか、そんな事を考えながら異世界探索を行っていたある日、彼はこの世界を見つけた。
この世界ではエーテル理論は相対性理論の誕生に合わせて否定され忘れ去られていた。
それに台頭したのは相対性理論や量子理論が基礎となる11次元M理論、通称ひも理論である。
天体を構成する第5元素エーテル。
彼の生まれ育った世界ではその理論が否定される事なく論理的矛盾や不都合な事例を一つ一つ理論修正しながら育てられていった。
エーテルは主に神学の分野で研究されていたが、それは発想の初期において宗教的な意味合いが強く、天界を構成する物質と信じられていた事に由来する。
キルケゴールの目論見は新世界のひも理論でエーテル理論を強化する事である。
新世界で定義されているエーテルは非常に幼く、否定され、忘れ去られても仕方がないものであった。
その一方でひも理論は新世界の物理学の花形といっても良いほど隆盛を極めている。
キルケゴールの知識の増強にはもってこいの学問である。
そのためには新世界でも研究を行いやすい国を選ばなければならない。
新世界第1の国家はアメリカ合衆国と呼ばれていた。
第2位の国家を経済においても、軍事力においても圧倒しており、第2位の国家、中華人民共和国が世界の覇権を狙う事を隠しもしていない現状においても、アメリカ合衆国の抑止力は群を抜いている。
当初キルケゴールはこの国への転生を計画していた。
経済力、軍事力、国民の民度、研究機関の充実、どれを取っても申し分ないように思われたのだ、ただ一つ気になる事は、この国は移民が多いと言う事であった。
否、もともと移民で建国された国であるからそれも当然の事なのであるが、建国当時の民族が転生予定時期では人口的に少数派になってしまっていると言う点である。
イノベーティブな発想、学問に対する積極性などは民族の特性に負うところが大きい。
決して差別主義的な事を言うつもりはないが、歴史を省みると、数々のイノベーションを成し遂げてきたのは、アメリカ合衆国建国の立役者であった欧州人である事は疑いないのである。
キルケゴールは新世界の民族を地域ごとに調査してみた。
それぞれ得意な分野は異なるが、どの民族も非常に優れている。
そうでなければこれほど混沌とした国際関係にはならないだろう。
キルケゴールは転位先の候補を地域と時期および民族で整理し候補を絞り込む事にした。
時期については、目標であるひも理論がすでに生まれていることが必須条件であった。
そして21世紀の次の四つの地域にまで絞り込んだ。
アメリカ合衆国アングロサクソン、欧州ゲルマン民族、イスラエルユダヤ民族、日本ヤマト民族の4箇所である。
さらに候補を絞り込む。
まず、イスラエルは選択肢から削除した。
この国のユダヤ人は金銭感覚にすぐれ、科学技術についても造詣が深い、しかし、残念な事に21世紀のこの地域は国際紛争が絶えず危険が多すぎると思われたからである。
次にアメリカ合衆国を候補から外した。
経済力、軍事力、科学技術力など、どれを取っても超一流で条件としては最高であったが、21世紀の頃からマイノリティと呼ばれる他民族の台頭が著しく、それに対して欧州系市民が好戦的になって来ていると思われたからである。
欧州人は元は非常に好戦的かつ残酷である、しかし、それを補って余りある論理的頭脳、芸術的センス、イノベーティブな思考を持っており、それ故新世界の当時における先進国は日本を除いてすべてこの欧州人が起源となっている。
残るは欧州と日本であるが、両者は甲乙つけがたく、決定は保留となっていた。
アビゲイルの言う美人が見かけの派手さであると言うのなら軍杯は間違いなく欧州人に上る。
日本人はほぼ全員が黒髪、黒目で、どちらかと言えば地味な見かけをしている。
「欧州人は、アビゲイル、君とよく似た容姿をしているよ。」
「へー、なら欧州のどこかで決まりね。」
「私は見かけなどどうでも良い。新たな研究を誰にも邪魔される事なく続けられればそれで良いよ。」
「その場合、日本の方が良いというの?」
「それが、何とも言えんのだ。欧州にも優れた研究機関があるし、もともと科学の体系を作り上げたのは欧州人の功績が大きい。」
「念のために転生先のタイムラインを分析したのだが、歴史上のその時期だけを見れば、明らかに覇権は欧州人に有った。にも拘らず、その時期の前後1000年間は日本だけがアイデンティティを維持し続けていることが分かったのだよ。」
「私が日本という国に注目したのは、転生するその時期の100年ほど前まで日本は科学技術とは全く縁のない社会を作り上げていたんだが、欧州やアメリカ合衆国の圧力を受けて国際的な舞台に立たねばならなくなった時、驚くべき事にたった数十年で欧米列強国と肩を並べるまでに力をつける事に成功したのだ。」
「ふーん。つまり、潜在能力はすごいという事?」
「そうかも知れんし、単に模倣力が優れているだけなのかも知れん。」
「なら、科学の発祥地である欧州の方が良いんじゃない?」
「そうなんだが。・・・ 」
「一体、なにをそんなに気にしているの? パッと決めちゃえばいいじゃない。」
「ただの勘なのだが、日本の方が研究には向いているように感じるのだよ。あの国は議院内閣制という政治体制で国を運営しているのだが、それとは別に一種の家長のような家系を元首に戴いていると言う珍しい国なんだよ。単一民族で何千年も国を運営してきたと言うのに、明治維新には短期間で欧米列強に対抗できるように自らを改革した。にも拘らず基本的なアイデンティティは維持し続けている。こんな事が出来る国を私は見た事がない。何か、得体のしれない力を感じるんだ。」
「あなたの思入れはわかったわ。日本がいいのね? 私は反対しないわ何処までもあなたについていくわよ。」
「それなんだが、驚かないで聞いてくれ。一つの案として聞いてくれればいい。承諾するかどうかは君次第だ」
「なっ、なによ賢まって。連れて行かないなんて答えは絶対受け入れないからね。」
アビゲイルは少したじろいだ、一緒に行くかどうかはキルケゴール次第なのだ。
訓練の成果もあって誕生したばかりの生命を見つけ出す事も、その生命に自分のエーテルマトリクスを転写する事も出来るようにはなったが、肝心な次元転位と転生はキルケゴールにしか出来ない。
「そうじゃない。君には欧州の何処かに転生してもらいたい。私は日本に転生する。互いに両者の文化を吸収すれば、邂逅した時に新世界の仕組みに対する理解が深まると思うんだ。」
「えっと、それでどうやって落ち合うの?」
「なに、簡単な事さ、エーテルリンクで念話すれば良い。覚醒さえすれば、それは簡単な事だろ?」
「エーテルリンクは相手のマトリクスのポータルが必要だわ。それはどうするの? 転生後のあなたのエーテルマトリクスは今と同じなの?」
「ポータルのパターンを事前にマトリクスに書き込んでおく。転生時にその部分だけは書き直されないようにすれば見失う事はないと思うよ。」
「分かったわ、そのパターンは消されないようにエーテルマトリクスの何箇所かに書き込むようにするわ。 それで安全性はより高くなる。」
彼らがポータルと呼んでいるそれは、相手を識別するいわばIDのようなものだ。
エーテルの海の中からそれを見つけ出すことができれば、エーテルマトリクス同士を接続し意思を共有することができる。
IDであるだけに、一意のものでなければならないが、姿形は自由に作製できる。エーテルマトリクスが人体に実体化した時にホクロ、あざ、入れ墨として刻印されることが多い。
あるいは彫像や絵画をポータルとし通信にのみ利用する事もある。
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