6 / 83
はじまり
訓練
しおりを挟む
まだ、彼女を連れて行くと決めたわけではないがとりあえず転生に必要なスキルを訓練し、彼女が首尾よく転生できるかどうかを見極めてからでも遅くはない。
キルケゴールは自分にそう言い聞かせてアビゲイルに「賢者の秘法」を伝授した。
「まず、何処へ転生するかは前もって魔法陣に記録しておく。自分自身で転生先を指定する方法もあるが、一歩間違えればとんでもない世界に跳んでしまう事もあるのだ。そこでは人そのものが存在しないと言う事もあり得る。そうなった場合その世界から逃れられなくなる可能性もあるのだ。」
「お前にエーテルについて講義する事は博士に新入生が講義するようなものだから省略するが、エーテルマトリクス自体は魔法陣に記録する事は出来ない、そんな小さな情報ではない事はおまえ自身が十分承知している事だろう。」
「だから、転生先で自分でエーテルマトリクスの転写を行う必要がある。その対象を何処にするかを見極める事が極めて重要だ。」
キルケゴールは大博士であるアビゲイルに向かって、まるで学生に対するように講義を続けた。
十分に理解しないまま「賢者の秘法」を使うと、取り返しのつかない事になる。
その大部分はキルケゴールが行うにしても、エーテルマトリクスのターゲットの選定と転写は本人が行わなければならないのである。
転生の対象は生後一週間以内の赤子に限る。
この制約を課したのはキルケゴール本人である。
実際、対象となる人物が何歳であろうともエーテルマトリクスを転写する事は可能である。しかし、その場合しばらくの間2つの人格が同時存在する事になる。
他者から見れば乖離性人格障害を疑っても仕方がない異常な行動をするのである。
それに、すでに人格が形成されている人間に強引に入り込むのであるから、倫理的な問題も生じてくる。
時間が経てばキルケゴールやアビゲイルのように魂の何たるかを理解している者が結局は元の魂を吸収してしまい一つの人格に融合してしまうため、はたから見れば体を乗っ取ってしまったように見えるのである。
事実は少し異なる。
元あった魂は消失してしまうのではなく新たな魂と融合するので元の魂にとっては自分自身は何の変化もないように感じるのである。
しかも、普通の人間には想像も出来ないほどのギフトを得る事が出来るのだ。
特にキルケゴールと融合した魂は神にも等しい力を得る事が出来る。
彼の『大賢者』の異名は伊達ではない、エーテルインデックスの変換を通じて、側から見れば魔法のような事をいとも簡単にやってのける事が出来るようになるのである。
アビゲイルとて同じである。
彼女はエーテル研究の大家でありエーテルマスターの称号を持つ。
エーテルマスターについてはいずれ解説する機会もあるかもしれないが、簡単に言えば、世界の凡ゆる事象をエーテルインデックス変換により制御する能力を持つ者の事である。
話が逸れたが、なぜ転生の対象を生後一週間以内の赤子に限るのか。
これはあくまでもキルケゴールの倫理観に基づくものである。
まだ人格が形成されていない人間に転生することにより、その人間はギフトを受け取る幸運以外の影響がない上に人格は転生者のそれと全く同じになると彼は考えたのである。
このような事をアビゲイルに事細かに説明していく過程でいつものようにアビゲイルから質問が飛び出してくる。
「生後一週間の赤ん坊が成人の知識と感性も持つようになるのね? そんなの、私に耐えられるかしら。だってそうでしょう?。いい大人がオムツを替えてもらったり、聞きたくもない子守唄を聞かせられるのよ?」
「嫌なら、一定の期間眠っておればよい。時が来たら目覚めるように細工して自分自身は眠りにつくのだ。」
「なるほど、時が来たら覚醒するのね?」
そう納得したように答えたアビゲイルであるが、ある事に気付いて首をかしげる。
「ちょっと待って? それって、すでに人格形成された人間に転生するのと、何が違うの?」
正論である。人格とは親の気質を受け継ぐ先天的なそれと、成長過程で醸成される後天的なそれがあるが、人格が人格として現れるまでの間眠っているのなら人格形成後の人間に転生するのとなんら違いがない事になる。
「確かに、その人間の人格が成長してしまってから魂の上書きを行う事と変わりがないように思えるかもしれないが、私はそうではないと考えている。人間の人格は先天的な人格をベースに経験により醸成されるのだ。 つまり、ベースとなる先天的人格によって経験による人格は変化する。私が憂慮しているのは親から引き継いだ先天的人格のまま成長した後天的人格の上書きが果たして倫理的に問題ないのかという事なのだ。」
「生後一週間以内というのは言葉のあやであり要は先天的人格を転生者のそれに上書きすると言う事なのだ。」
キルケゴールはかつて葛藤し苦悩した末に至った結論を滔々と解説した。
「それだって、倫理的に問題が無いとは言えないんじゃ無いの?」
アビゲイルは容赦なく質問を返す。
「矛盾するかもしれ無いが、先天的人格は後天的人格に影響される。それが私の結論だ。従ってすでに出来上がってしまった人格に手を加える事は倫理的に忌避感を覚えるが、先天的なそれを書き換える事は、まだその人格が形成されてい無いと言う点において倫理的抜け道があると考えたのだ。」
「うーん。言っている事はなんとなく分かる気がするけど、私はそんなに悩まなくてもいい問題だと思うのよね。自我が目覚める前の事だもの、少々の変更は許されるわ。」
アビゲイルに掛かっては一刀両断である。
「そんな事より私はやっぱり美人に転生したいわ。あなたもかっこいい男に転生してよね。」
「うー」
「大博士」、「世界の至宝」と呼ばれる女性のこれが正体である。
キルケゴールは自分にそう言い聞かせてアビゲイルに「賢者の秘法」を伝授した。
「まず、何処へ転生するかは前もって魔法陣に記録しておく。自分自身で転生先を指定する方法もあるが、一歩間違えればとんでもない世界に跳んでしまう事もあるのだ。そこでは人そのものが存在しないと言う事もあり得る。そうなった場合その世界から逃れられなくなる可能性もあるのだ。」
「お前にエーテルについて講義する事は博士に新入生が講義するようなものだから省略するが、エーテルマトリクス自体は魔法陣に記録する事は出来ない、そんな小さな情報ではない事はおまえ自身が十分承知している事だろう。」
「だから、転生先で自分でエーテルマトリクスの転写を行う必要がある。その対象を何処にするかを見極める事が極めて重要だ。」
キルケゴールは大博士であるアビゲイルに向かって、まるで学生に対するように講義を続けた。
十分に理解しないまま「賢者の秘法」を使うと、取り返しのつかない事になる。
その大部分はキルケゴールが行うにしても、エーテルマトリクスのターゲットの選定と転写は本人が行わなければならないのである。
転生の対象は生後一週間以内の赤子に限る。
この制約を課したのはキルケゴール本人である。
実際、対象となる人物が何歳であろうともエーテルマトリクスを転写する事は可能である。しかし、その場合しばらくの間2つの人格が同時存在する事になる。
他者から見れば乖離性人格障害を疑っても仕方がない異常な行動をするのである。
それに、すでに人格が形成されている人間に強引に入り込むのであるから、倫理的な問題も生じてくる。
時間が経てばキルケゴールやアビゲイルのように魂の何たるかを理解している者が結局は元の魂を吸収してしまい一つの人格に融合してしまうため、はたから見れば体を乗っ取ってしまったように見えるのである。
事実は少し異なる。
元あった魂は消失してしまうのではなく新たな魂と融合するので元の魂にとっては自分自身は何の変化もないように感じるのである。
しかも、普通の人間には想像も出来ないほどのギフトを得る事が出来るのだ。
特にキルケゴールと融合した魂は神にも等しい力を得る事が出来る。
彼の『大賢者』の異名は伊達ではない、エーテルインデックスの変換を通じて、側から見れば魔法のような事をいとも簡単にやってのける事が出来るようになるのである。
アビゲイルとて同じである。
彼女はエーテル研究の大家でありエーテルマスターの称号を持つ。
エーテルマスターについてはいずれ解説する機会もあるかもしれないが、簡単に言えば、世界の凡ゆる事象をエーテルインデックス変換により制御する能力を持つ者の事である。
話が逸れたが、なぜ転生の対象を生後一週間以内の赤子に限るのか。
これはあくまでもキルケゴールの倫理観に基づくものである。
まだ人格が形成されていない人間に転生することにより、その人間はギフトを受け取る幸運以外の影響がない上に人格は転生者のそれと全く同じになると彼は考えたのである。
このような事をアビゲイルに事細かに説明していく過程でいつものようにアビゲイルから質問が飛び出してくる。
「生後一週間の赤ん坊が成人の知識と感性も持つようになるのね? そんなの、私に耐えられるかしら。だってそうでしょう?。いい大人がオムツを替えてもらったり、聞きたくもない子守唄を聞かせられるのよ?」
「嫌なら、一定の期間眠っておればよい。時が来たら目覚めるように細工して自分自身は眠りにつくのだ。」
「なるほど、時が来たら覚醒するのね?」
そう納得したように答えたアビゲイルであるが、ある事に気付いて首をかしげる。
「ちょっと待って? それって、すでに人格形成された人間に転生するのと、何が違うの?」
正論である。人格とは親の気質を受け継ぐ先天的なそれと、成長過程で醸成される後天的なそれがあるが、人格が人格として現れるまでの間眠っているのなら人格形成後の人間に転生するのとなんら違いがない事になる。
「確かに、その人間の人格が成長してしまってから魂の上書きを行う事と変わりがないように思えるかもしれないが、私はそうではないと考えている。人間の人格は先天的な人格をベースに経験により醸成されるのだ。 つまり、ベースとなる先天的人格によって経験による人格は変化する。私が憂慮しているのは親から引き継いだ先天的人格のまま成長した後天的人格の上書きが果たして倫理的に問題ないのかという事なのだ。」
「生後一週間以内というのは言葉のあやであり要は先天的人格を転生者のそれに上書きすると言う事なのだ。」
キルケゴールはかつて葛藤し苦悩した末に至った結論を滔々と解説した。
「それだって、倫理的に問題が無いとは言えないんじゃ無いの?」
アビゲイルは容赦なく質問を返す。
「矛盾するかもしれ無いが、先天的人格は後天的人格に影響される。それが私の結論だ。従ってすでに出来上がってしまった人格に手を加える事は倫理的に忌避感を覚えるが、先天的なそれを書き換える事は、まだその人格が形成されてい無いと言う点において倫理的抜け道があると考えたのだ。」
「うーん。言っている事はなんとなく分かる気がするけど、私はそんなに悩まなくてもいい問題だと思うのよね。自我が目覚める前の事だもの、少々の変更は許されるわ。」
アビゲイルに掛かっては一刀両断である。
「そんな事より私はやっぱり美人に転生したいわ。あなたもかっこいい男に転生してよね。」
「うー」
「大博士」、「世界の至宝」と呼ばれる女性のこれが正体である。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~
丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月
働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。
いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震!
悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。
対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。
・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。
もう少しマシな奴いませんかね?
あっ、出てきた。
男前ですね・・・落ち着いてください。
あっ、やっぱり神様なのね。
転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。
ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。
不定期更新
誤字脱字
理解不能
読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる