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はじまり
訓練
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まだ、彼女を連れて行くと決めたわけではないがとりあえず転生に必要なスキルを訓練し、彼女が首尾よく転生できるかどうかを見極めてからでも遅くはない。
キルケゴールは自分にそう言い聞かせてアビゲイルに「賢者の秘法」を伝授した。
「まず、何処へ転生するかは前もって魔法陣に記録しておく。自分自身で転生先を指定する方法もあるが、一歩間違えればとんでもない世界に跳んでしまう事もあるのだ。そこでは人そのものが存在しないと言う事もあり得る。そうなった場合その世界から逃れられなくなる可能性もあるのだ。」
「お前にエーテルについて講義する事は博士に新入生が講義するようなものだから省略するが、エーテルマトリクス自体は魔法陣に記録する事は出来ない、そんな小さな情報ではない事はおまえ自身が十分承知している事だろう。」
「だから、転生先で自分でエーテルマトリクスの転写を行う必要がある。その対象を何処にするかを見極める事が極めて重要だ。」
キルケゴールは大博士であるアビゲイルに向かって、まるで学生に対するように講義を続けた。
十分に理解しないまま「賢者の秘法」を使うと、取り返しのつかない事になる。
その大部分はキルケゴールが行うにしても、エーテルマトリクスのターゲットの選定と転写は本人が行わなければならないのである。
転生の対象は生後一週間以内の赤子に限る。
この制約を課したのはキルケゴール本人である。
実際、対象となる人物が何歳であろうともエーテルマトリクスを転写する事は可能である。しかし、その場合しばらくの間2つの人格が同時存在する事になる。
他者から見れば乖離性人格障害を疑っても仕方がない異常な行動をするのである。
それに、すでに人格が形成されている人間に強引に入り込むのであるから、倫理的な問題も生じてくる。
時間が経てばキルケゴールやアビゲイルのように魂の何たるかを理解している者が結局は元の魂を吸収してしまい一つの人格に融合してしまうため、はたから見れば体を乗っ取ってしまったように見えるのである。
事実は少し異なる。
元あった魂は消失してしまうのではなく新たな魂と融合するので元の魂にとっては自分自身は何の変化もないように感じるのである。
しかも、普通の人間には想像も出来ないほどのギフトを得る事が出来るのだ。
特にキルケゴールと融合した魂は神にも等しい力を得る事が出来る。
彼の『大賢者』の異名は伊達ではない、エーテルインデックスの変換を通じて、側から見れば魔法のような事をいとも簡単にやってのける事が出来るようになるのである。
アビゲイルとて同じである。
彼女はエーテル研究の大家でありエーテルマスターの称号を持つ。
エーテルマスターについてはいずれ解説する機会もあるかもしれないが、簡単に言えば、世界の凡ゆる事象をエーテルインデックス変換により制御する能力を持つ者の事である。
話が逸れたが、なぜ転生の対象を生後一週間以内の赤子に限るのか。
これはあくまでもキルケゴールの倫理観に基づくものである。
まだ人格が形成されていない人間に転生することにより、その人間はギフトを受け取る幸運以外の影響がない上に人格は転生者のそれと全く同じになると彼は考えたのである。
このような事をアビゲイルに事細かに説明していく過程でいつものようにアビゲイルから質問が飛び出してくる。
「生後一週間の赤ん坊が成人の知識と感性も持つようになるのね? そんなの、私に耐えられるかしら。だってそうでしょう?。いい大人がオムツを替えてもらったり、聞きたくもない子守唄を聞かせられるのよ?」
「嫌なら、一定の期間眠っておればよい。時が来たら目覚めるように細工して自分自身は眠りにつくのだ。」
「なるほど、時が来たら覚醒するのね?」
そう納得したように答えたアビゲイルであるが、ある事に気付いて首をかしげる。
「ちょっと待って? それって、すでに人格形成された人間に転生するのと、何が違うの?」
正論である。人格とは親の気質を受け継ぐ先天的なそれと、成長過程で醸成される後天的なそれがあるが、人格が人格として現れるまでの間眠っているのなら人格形成後の人間に転生するのとなんら違いがない事になる。
「確かに、その人間の人格が成長してしまってから魂の上書きを行う事と変わりがないように思えるかもしれないが、私はそうではないと考えている。人間の人格は先天的な人格をベースに経験により醸成されるのだ。 つまり、ベースとなる先天的人格によって経験による人格は変化する。私が憂慮しているのは親から引き継いだ先天的人格のまま成長した後天的人格の上書きが果たして倫理的に問題ないのかという事なのだ。」
「生後一週間以内というのは言葉のあやであり要は先天的人格を転生者のそれに上書きすると言う事なのだ。」
キルケゴールはかつて葛藤し苦悩した末に至った結論を滔々と解説した。
「それだって、倫理的に問題が無いとは言えないんじゃ無いの?」
アビゲイルは容赦なく質問を返す。
「矛盾するかもしれ無いが、先天的人格は後天的人格に影響される。それが私の結論だ。従ってすでに出来上がってしまった人格に手を加える事は倫理的に忌避感を覚えるが、先天的なそれを書き換える事は、まだその人格が形成されてい無いと言う点において倫理的抜け道があると考えたのだ。」
「うーん。言っている事はなんとなく分かる気がするけど、私はそんなに悩まなくてもいい問題だと思うのよね。自我が目覚める前の事だもの、少々の変更は許されるわ。」
アビゲイルに掛かっては一刀両断である。
「そんな事より私はやっぱり美人に転生したいわ。あなたもかっこいい男に転生してよね。」
「うー」
「大博士」、「世界の至宝」と呼ばれる女性のこれが正体である。
キルケゴールは自分にそう言い聞かせてアビゲイルに「賢者の秘法」を伝授した。
「まず、何処へ転生するかは前もって魔法陣に記録しておく。自分自身で転生先を指定する方法もあるが、一歩間違えればとんでもない世界に跳んでしまう事もあるのだ。そこでは人そのものが存在しないと言う事もあり得る。そうなった場合その世界から逃れられなくなる可能性もあるのだ。」
「お前にエーテルについて講義する事は博士に新入生が講義するようなものだから省略するが、エーテルマトリクス自体は魔法陣に記録する事は出来ない、そんな小さな情報ではない事はおまえ自身が十分承知している事だろう。」
「だから、転生先で自分でエーテルマトリクスの転写を行う必要がある。その対象を何処にするかを見極める事が極めて重要だ。」
キルケゴールは大博士であるアビゲイルに向かって、まるで学生に対するように講義を続けた。
十分に理解しないまま「賢者の秘法」を使うと、取り返しのつかない事になる。
その大部分はキルケゴールが行うにしても、エーテルマトリクスのターゲットの選定と転写は本人が行わなければならないのである。
転生の対象は生後一週間以内の赤子に限る。
この制約を課したのはキルケゴール本人である。
実際、対象となる人物が何歳であろうともエーテルマトリクスを転写する事は可能である。しかし、その場合しばらくの間2つの人格が同時存在する事になる。
他者から見れば乖離性人格障害を疑っても仕方がない異常な行動をするのである。
それに、すでに人格が形成されている人間に強引に入り込むのであるから、倫理的な問題も生じてくる。
時間が経てばキルケゴールやアビゲイルのように魂の何たるかを理解している者が結局は元の魂を吸収してしまい一つの人格に融合してしまうため、はたから見れば体を乗っ取ってしまったように見えるのである。
事実は少し異なる。
元あった魂は消失してしまうのではなく新たな魂と融合するので元の魂にとっては自分自身は何の変化もないように感じるのである。
しかも、普通の人間には想像も出来ないほどのギフトを得る事が出来るのだ。
特にキルケゴールと融合した魂は神にも等しい力を得る事が出来る。
彼の『大賢者』の異名は伊達ではない、エーテルインデックスの変換を通じて、側から見れば魔法のような事をいとも簡単にやってのける事が出来るようになるのである。
アビゲイルとて同じである。
彼女はエーテル研究の大家でありエーテルマスターの称号を持つ。
エーテルマスターについてはいずれ解説する機会もあるかもしれないが、簡単に言えば、世界の凡ゆる事象をエーテルインデックス変換により制御する能力を持つ者の事である。
話が逸れたが、なぜ転生の対象を生後一週間以内の赤子に限るのか。
これはあくまでもキルケゴールの倫理観に基づくものである。
まだ人格が形成されていない人間に転生することにより、その人間はギフトを受け取る幸運以外の影響がない上に人格は転生者のそれと全く同じになると彼は考えたのである。
このような事をアビゲイルに事細かに説明していく過程でいつものようにアビゲイルから質問が飛び出してくる。
「生後一週間の赤ん坊が成人の知識と感性も持つようになるのね? そんなの、私に耐えられるかしら。だってそうでしょう?。いい大人がオムツを替えてもらったり、聞きたくもない子守唄を聞かせられるのよ?」
「嫌なら、一定の期間眠っておればよい。時が来たら目覚めるように細工して自分自身は眠りにつくのだ。」
「なるほど、時が来たら覚醒するのね?」
そう納得したように答えたアビゲイルであるが、ある事に気付いて首をかしげる。
「ちょっと待って? それって、すでに人格形成された人間に転生するのと、何が違うの?」
正論である。人格とは親の気質を受け継ぐ先天的なそれと、成長過程で醸成される後天的なそれがあるが、人格が人格として現れるまでの間眠っているのなら人格形成後の人間に転生するのとなんら違いがない事になる。
「確かに、その人間の人格が成長してしまってから魂の上書きを行う事と変わりがないように思えるかもしれないが、私はそうではないと考えている。人間の人格は先天的な人格をベースに経験により醸成されるのだ。 つまり、ベースとなる先天的人格によって経験による人格は変化する。私が憂慮しているのは親から引き継いだ先天的人格のまま成長した後天的人格の上書きが果たして倫理的に問題ないのかという事なのだ。」
「生後一週間以内というのは言葉のあやであり要は先天的人格を転生者のそれに上書きすると言う事なのだ。」
キルケゴールはかつて葛藤し苦悩した末に至った結論を滔々と解説した。
「それだって、倫理的に問題が無いとは言えないんじゃ無いの?」
アビゲイルは容赦なく質問を返す。
「矛盾するかもしれ無いが、先天的人格は後天的人格に影響される。それが私の結論だ。従ってすでに出来上がってしまった人格に手を加える事は倫理的に忌避感を覚えるが、先天的なそれを書き換える事は、まだその人格が形成されてい無いと言う点において倫理的抜け道があると考えたのだ。」
「うーん。言っている事はなんとなく分かる気がするけど、私はそんなに悩まなくてもいい問題だと思うのよね。自我が目覚める前の事だもの、少々の変更は許されるわ。」
アビゲイルに掛かっては一刀両断である。
「そんな事より私はやっぱり美人に転生したいわ。あなたもかっこいい男に転生してよね。」
「うー」
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