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はじまり
リインカネーション
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生命の情報の劣化はまず弾性が失われる事から始まっていた。
インスピレーションや思考速度のような弾力性が徐々に失われるのである。
ゴーシュは研究のために多くの書物を何度も読み返さなければならなかった。
不死の研究がおよそ50年で成し遂げられたのに対し、新たな可能性に関してはその6倍近い時間を必要としたのもそのような事が背景にあったためである。
問題はもう一つあった。
生命情報を上書きすると、その年齢以後に取得した知識が引き出せない事が明らかになったのだ。
海馬の構造が生命情報記録時のそれに戻ってしまう事が原因のようであった。
知識そのものは脳内に残っているのだがそれを引き出す海馬の機能が若返ってしまうのである。
そのため、ゴーシュは可能な限り若返りは回避した。
若返りを実施する時はそれまでの研究内容を可能な限り記録し、関連する書籍を用意した。 多くの書物を何度も読み返したのは単に脳の弾性が劣化したためだけではなかったのである。
これは明らかに他のエレメントと異なる現象である。
ゴーシュがその事をもっと掘り下げて研究を重ねていれば「賢者の秘法」はもっと早く完成しただろう。
だが、ゴーシュは不老不死の技術を選択肢から削除した。
もっとも、研究などに興味はなくひたすら生き続けたい者たちにとっては、この「賢者の石」は垂涎の宝となったことはいうまでもない。
ゴーシュは自分の研究を隠蔽する事にそれほど興味を示さなかったので「賢者の石」の噂は世界中に流れた。
ゴーシュが取り組んだのはリインカネーション、すなわち生まれ変わりである。
単に生まれ変わるだけでなく、その時点での記憶を新たな生命に転写する。
若々しい弾力のあるエレメントにそれまでの知識を海馬の情報と共に上書きする事である。この方法ならば海馬の若返りを気にする必要もない。
言わば、新たな生命に魂を移し替えるのである。
しかし、この方法は倫理的な問題を内在していた。
新たな魂を転写するとして、元からあった魂はどこへ行ってしまうのか?
当初、ゴーシュはこの倫理的罪悪感に押し潰されそうになった。
最終的には「リインカネーションの対象は生後一週間以内の赤子に限る」という制約を設けることで、なんとか自分との折り合いをつけることにした。
こうして「賢者の秘法」は完成した。
ゴーシュは自らの生命情報を新たな生命に転写することで生まれ変わりを成し遂げ、その後6回の転生を繰り返して現在に至っている。
生後一週間以内の赤子に転生する事の不便さも多々存在するのだが、その事についてはアビゲイルのリインカネーション事前訓練で明らかになろう。
インスピレーションや思考速度のような弾力性が徐々に失われるのである。
ゴーシュは研究のために多くの書物を何度も読み返さなければならなかった。
不死の研究がおよそ50年で成し遂げられたのに対し、新たな可能性に関してはその6倍近い時間を必要としたのもそのような事が背景にあったためである。
問題はもう一つあった。
生命情報を上書きすると、その年齢以後に取得した知識が引き出せない事が明らかになったのだ。
海馬の構造が生命情報記録時のそれに戻ってしまう事が原因のようであった。
知識そのものは脳内に残っているのだがそれを引き出す海馬の機能が若返ってしまうのである。
そのため、ゴーシュは可能な限り若返りは回避した。
若返りを実施する時はそれまでの研究内容を可能な限り記録し、関連する書籍を用意した。 多くの書物を何度も読み返したのは単に脳の弾性が劣化したためだけではなかったのである。
これは明らかに他のエレメントと異なる現象である。
ゴーシュがその事をもっと掘り下げて研究を重ねていれば「賢者の秘法」はもっと早く完成しただろう。
だが、ゴーシュは不老不死の技術を選択肢から削除した。
もっとも、研究などに興味はなくひたすら生き続けたい者たちにとっては、この「賢者の石」は垂涎の宝となったことはいうまでもない。
ゴーシュは自分の研究を隠蔽する事にそれほど興味を示さなかったので「賢者の石」の噂は世界中に流れた。
ゴーシュが取り組んだのはリインカネーション、すなわち生まれ変わりである。
単に生まれ変わるだけでなく、その時点での記憶を新たな生命に転写する。
若々しい弾力のあるエレメントにそれまでの知識を海馬の情報と共に上書きする事である。この方法ならば海馬の若返りを気にする必要もない。
言わば、新たな生命に魂を移し替えるのである。
しかし、この方法は倫理的な問題を内在していた。
新たな魂を転写するとして、元からあった魂はどこへ行ってしまうのか?
当初、ゴーシュはこの倫理的罪悪感に押し潰されそうになった。
最終的には「リインカネーションの対象は生後一週間以内の赤子に限る」という制約を設けることで、なんとか自分との折り合いをつけることにした。
こうして「賢者の秘法」は完成した。
ゴーシュは自らの生命情報を新たな生命に転写することで生まれ変わりを成し遂げ、その後6回の転生を繰り返して現在に至っている。
生後一週間以内の赤子に転生する事の不便さも多々存在するのだが、その事についてはアビゲイルのリインカネーション事前訓練で明らかになろう。
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