最強の勇者は、死にたがり

真白 悟

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魔王は友との約束を果たしたい

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 僕は1人、ヴィーゼ橋に立つ。
 最初は2人で訪れ、この前は3人で訪れた場所だ。考えてみれば1人で訪れるのは初めてかもしれない。魔物の多さ故に管理はきちんと行き届いておらず、国というものが崩壊してからというもの異国民も入りたい放題になっているというのに、冒険者や商人以外が入ってくることすらなかった魔境の地を僕は今日、出て行く。
 未練がないかと問われるとそうでもない。
「でも、僕が守りたかった人たちは、もう自らの手で国を守っていける。魔王という存在は無用の産物だ」
 僕があの国を帰る場所とすることで、他国からは魔王の国だなんて揶揄される可能性だってある。そうならないように、部外者にならなければ、国に未来はないだろう。
 それに、魔王になって使える魔力が増えたからとはいえ、他の魔王達に絶対に勝てるという見込みがあるわけでもない。――だからこそ今、未練を断ち切る。

「別に碌なこともなかったし……戦いばかりの日々だった」
 考えてもみれば、子供の頃から王国騎士団で訓練を重ね、王にそそのかされて魔王を倒した後も反乱軍として戦場に身を置き、革命がなった後ですら僕はずっと戦場にいた。国内にいた魔王達がすべていなくなるぐらいには長い間、戦ってきたのだ。もういいだろう。
 もう、この国にいる必要はない。
 止めていた足を再び動かす。ここから外に出るのは実に2度目のことだ。1度目は、橋の向こうに広がる膨大な高原の中にある魔王を滅ぼし、国外との貿易網を取り戻すためだった。だがそれは王のついた嘘だった。
 魔王城と呼ばれた場所にあったのは、小さな街……それもほとんどが廃墟で、人と呼ばれる存在はほとんどがいなかった。生活感はそのままに、まるで野党にでも襲われたかのような有様で金目のものは何もない。ただ、血に染まったベッド、壁にとんだ血しぶきの後、それに最近になって誰かに造られたであろう真新しい墓だけが目立った。
 あとから知ったことだが、そこは隣国との貿易拠点だったらしい。
 そこをヴァルトヴィーゼの兵士たちが滅ぼしたのだ。

 ◇

 王国によって隠されてきた真実をニケの口から聞かされた時には驚いたものだ。
 外の国々では、現世界人の魔王は重宝され、戦略兵器として各国が保有する最大戦力とされてきて、代々受け継がれてゆく力だった。ニケもその1人で、先代魔王の娘であり隣国の『勝利の女神』と呼ばれた軍竜と商人の間に生まれた娘だった。
 母はニケを生んですぐに死に、父は貿易拠点の長であったが故に惨殺された。
 3歳だったニケは、すぐに報復することを願い出るが、ニケの国の王はそれを断固拒否した。
 ニケは王に対しる不信感を募らせ3歳の時に国を飛び出し、父の故郷であった貿易拠点に1人で暮らし始めた。ニケはそこで父の日記帳を見つけ、真実をすべて知り1人で報復することをやめた。僕たちとであったのは、その10数年後だ。僕たちの国の国王はニケの力を手に入れるべく、勇者としての血を引き、なおかつ現世界人である僕に魔王の力を継承させるために魔王討伐を命じたのだ。王は神から『世界を終わらせるなければならない』という神託を受けており、それを実行する第1段階として魔王である幼い娘の村を滅ぼして、自分自身を囮にすることでニケをけしかけて僕に倒させることを第2段階とした。僕に事実を知らせずに、全てを終わらせたかったのだろう。
 しかし、ニケはそのことを知っていた。知っていたうえで、僕に魔王としての力を譲渡し、真実をすべて話した。
 ニケは世界から魔王の力をすべて消し去るべきだと考えた父の考えに同意して、それを娘である自らの手で実行することに決めたのだ。そして初めて会った僕のことを信じて、その願いを僕に託すことに決めたらしい。

――魔王をすべて消し去るというのは、ニケとの、友との約束だ。そのうえで、世界を異常にさせる神を殺すともう1人の友と約束した。
 僕は約束を果たすために旅に出る。
 だから、もう2度とこの場所に戻ってくることはないだろう。どれだけの人に生きることを望まれたとしても、僕自身が生きたいと望んだとしても、僕は魔王だ。生き残ることは許されない。すべてを終われたのち、神との盟約から解放され、僕自身も消えなけばならないのだから。
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